2010年8月1日

グノシエンヌなトルコ石 34

車は、電車の線路沿いの国道を走っているようです。
私に自動車の道の土地勘はぜんぜんありませんが、たぶんこのへんは私の通う女子高のあたりだと思います。

車の中で、やよい先生と私は、やよい先生の個人的なお話をしていました。
やよい先生がレズビアンになった理由は、私が中二のときに詳しく聞いていました。
かんたんに言えば、もっと若いときに男の人にひどいことをされたからなのですが、これは誰にも言わないという約束で聞いたお話なのでここには書けません。
車の中で話していたのは、その頃は男の人全体をすごく憎んでいたのだけれど、ミーチャンさんと過ごすようになって、そんなことどうでもよくなってきて、男の人全体を憎むのはやめた、というお話です。
「もちろん、好きになんか絶対なれないけどね」
そう言って、やよい先生は笑いました。

もうそろそろバレエ教室のあるターミナル駅じゃないかなあ?
と思っていると、やよい先生がハンドルを切り、とあるファミリーレストランの駐車場に入りました。
時計は2時ちょっと過ぎでした。

やよい先生と私は、ファッショングラスをかけ直し、やよい先生は大きなトートバッグを肩にかけ、私は手ぶらで車を降りました。
お店に入ると、やよい先生は慣れた感じで、L字型になった店内の一番奥のほうへずんずん歩いていきます。
お客さんはまばらで、全部で4組くらい?
接客の人たちは、みんな女性のようです。

「こっちに座ってね」
やよい先生が肩にかけていたトートバッグから赤いバスタオルを出して、生尻じか座り用に渡されました。
「このファミレス、ちょっと変わっているでしょう?」
一番奥壁際の四人がけの席に座ってから、やよい先生が聞いてきます。
そう言われてあたりを見回すと、なるほど。

まず、それぞれの席が、向かい合わせの四人がけか六人がけで1セットのベンチシートになったボックスみたいになっています。
そして、ベンチの背もたれがとても高いので、隣のボックスに人がいるのかいないのか、立ち上がらないと見えません。
私たちが座った突き当たりの席は、脇が通路になっていて、その向こう側の席は背もたれをこちら側に向けたボックスになって並んでいるので、私たちの席からは誰の姿も見えません。
逆に言うと、私たちの席は他の席に座っている誰からも見えない、ということです。

「一つネックなのは、突き当たりのこの裏が女子トイレ、ってことなのよね」
「だからときどき女性がその通路を歩いて来て、この裏のトイレに消えていくの」
「男子トイレは、ずっと向こうの反対側、喫煙席の裏。ヘンなつくりよね」
やよい先生がそう笑ったとき、ショートカットで背も小さくスレンダーで、あどけない感じのウエイトレスさんが注文を聞きにきました。
ニッコリとやよい先生に会釈しています。

「あたしはクラブハウスサンドとドリンクバー。なお子は?」
何も考えていなかったので、ちょっとあわてました。
「えーと、チーズケーキとアイスティーを・・・」
「アイスティーならドリンクバーよ。じゃあドリンクバー二つとクラブハウスサンドとチーズケーキね」
「かしこまりました。ありがとうございます」
小柄なウエイトレスさんがまたニッコリ笑って、去っていきました。
「今の子ともなじみだから、安心して」
やよい先生は、ときどき謎なことを言います。
「あたしがドリンク取って来てあげる。アイスティーでいいのね?」
「はい」
やよい先生は、スタスタと入口のほうに歩いて行ってしまいました。

この状況だと・・・
私はここでもおっぱいを出すことになりそうです。
出すだけですむのでしょうか?
ワクワクどきどきが止まりません。

やよい先生がアイスティを持ってきてくれて、しばらくするとさっきのウエイトレスさんが、チーズケーキとクラブハウスサンドを持ってきてくれました。
「ごゆっくりどうぞ」
小柄なウエイトレスさんがまたニッコリ笑います。

「さてと。じゃあちょっと練習しておこっか?」
運ばれてきたサンドイッチに手をつけず、やよい先生が言います。
今は、やよい先生が女子トイレ側、私が反対側に向かい合って座っています。
「なお子はなるべく、そっちの壁際に座ってね。メガネははずしなさい」
そう言いながら、やよい先生は通路側ギリギリに座りなおしました。
私たちの位置は対角線上斜めになりました。
「ここで何やるか、もうわかってるとは思うけど、また、なお子の恥ずかしい写真を撮るのね」
「それで、おっぱいとか出しているとき、あたしがこのメガネをはずしたら、すぐにしまいなさい。なるべくさりげなく」
「つまり、誰かがこっちに来そうになったら、あたしがメガネはずすから、あなたはがんばって見られないように努力するってこと。ユーシー?」

「それじゃあ、やってみるわよ。前のボタンはずして」
私は5つ全部はずしてから、ウエストのリボンを少し緩めました。
「左のおっぱいを出しなさい」
私は、肩はずらさず、前の布だけ開いて左おっぱいを露出しました。
やよい先生がケータイを構えて、カシャっと写します。
そのまましばらく無言の時間が過ぎました。
やがておもむろに、やよい先生がファッショングラスをはずして、紙ナプキンで拭き始めました。
私はあわてて前をかきあわせて押さえながら、アイスティのストローを口に含んでそっぽを向きました。
小柄なウエイトレスさんが通路をツカツカと見回りに来て、またニッコリ笑いかけながら、引き返して行きました。

「まあ、そんなものね。どう?」
「すっごくドキドキしました。スリルあって楽しいです」
「おっけーね。じゃあ、とりあえず食べちゃいましょう」
私は、胸ボタンを下から2つだけはめてから、チーズケーキを食べ始めました。
昨日のプレイ中の他愛もないお話をしながら、やよい先生もサンドイッチを食べ終わり、さて、となったとき、
「こんにちわあー!」
と大きな声がしました。

「あらー、意外と早かったわねえ」
と、やよい先生。
え?誰?

ふわっとした長めなポニーテールに、私たちと同じデザインの薄いブルーが入ったファッショングラス。
おっぱいの裾野ギリギリな白のタンクトップの上に、ひらひらした薄物のピンクの長袖ブラウスをひっかけてウエストで軽く縛っています。
胸がすごく大きいです。
下は、ゆったりめの濃い茶色のショートパンツを細いエナメルのベルトで止めています。
私ややよい先生よりかちょっと小柄なグラマーでセクシーな感じの人です。

その女の子は、遠慮なく私の隣に座りました。
「誰?って顔してるー。ひどーい。もう忘れちゃったのー?」
その人懐っこい顔としゃべり方に覚えがありました。
「・・・ひょっとして・・・ピザ屋さんのお姉さん?」
「よかったー、覚えててくれたあー」
私のホッペにブチューっとキスをします。
いつの間にか傍らに来ていた、小柄でスレンダーなウエイトレスさんが笑いながら見ています。
「えーと、アタシもチーズケーキとドリンクバーね」

「あらためて紹介するわね。元あたしの隣人で、今はロックバンドのヴォーカリストとしてメジャーデビュー寸前のピザ屋のお姉さんこと高林真由美さん」
やよい先生がおどけて紹介してくれます。

「もりしたなお子です。やよいせ、あ、百合草先生のバレエの生徒です。ピザ屋さんの制服のときとぜんぜん印象が違ってたので・・・髪型も昨日はツインテールだったし・・・すぐに思い出せなくてごめんなさい。高林さん」
私はペコリと頭を下げました。

「アタシ、バンドでの芸名はユマなんだー。真由美だからユマ。子猫ちゃんもユマって呼んで。あとこれうちのバンドのインディーズで出したCD。メジャーからは9月末に出る予定だから、買ってねー」
ユマさんはよく通る大きな声でよくしゃべります。

「ユマは、それでなくても声でかいんだから、ちょっと抑えてね。テンション高すぎ」
やよい先生が苦笑いしています。
「だって、子猫ちゃんにこんなにすぐまた逢えるなんて思ってなかったからー。先生からメールもらって、キャッホーって叫んじゃったよー」
「それで先生聞いてよー。昨夜早めにバイトふけてお家帰ったらさー、ダーリンったらレコーディング押してて帰れないだってー。アタシ、ムラムラの絶頂だよーっ」
そう言ったとき、小柄でスレンダーなウエイトレスさんが、お待たせしましたー、と言いながら、チーズケーキを笑顔で差し出しました。
ユマさんは、さすがにまずいと思ったのか自分で口を押さえてマズイって顔になります。
それがとってもかわいいんです。

「あっ。アタシ、ドリンクバー行ってくるー。子猫ちゃんはアイスティーね。先生は?」
「冷たいグリーンティがいいわ」
「おっけー、グリーンデイねー、よろこんでー」
ユマさんが謎なことを言って、跳ねるようにドリンクバーに向かいました。

「テンション高い人ですねー。でもなんだかかわいらしい」
と私。
「うん。ちゃんと空気が読めるいい子よ。なお子なら絶対仲良くなれるわ」
やよい先生は、なんだかとても嬉しそうです。


グノシエンヌなトルコ石 35

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