2010年10月24日

トラウマと私 12

夏休みの残り数日を、煮え切らない悶々とした気持ちと、生理で重くだるくなったからだとで過ごしました。

母や父の前では、なるべく沈んだ素振りを出さないようにしていましたが、お部屋で一人になると、どうしてもあのときのことを考え始めてしまいます。
考え始めると、ちょっと疑問に思う点とか、調べてみたいことがいくつか出てきました。
もちろん、できることなら、きれいさっぱり忘れてしまいたい記憶でした。
瞼に焼きついたように離れないあのおぞましい場面を、なんとか思い出さないように、頭のずーっと隅に追いやろうと努力しました。
でも、一度湧いてしまった疑問や、私の五感に残る感触の真相は、調べずにはいられないものでした。

愛ちゃんたちから、遊びのお誘い電話もあったのですが、生理で体調が良くないから、と母にお断りしてもらいました。

二学期の始業式の日も、まだ生理は終わっていませんでした。
私は、沈んだ気持ちで学校へ行き、帰りの時間になるのをひたすら待ちました。
どこかに寄って遊んで行こう、って誘ってくれる愛ちゃんたちに、ちょっと家庭の事情があって、と嘘をついて、まっすぐに町の図書館に飛び込みました。
翌日の放課後も・・・次の日も。

木曜日は、愛ちゃんと一緒にバレエ教室に行きました。
「なおちゃん、夏休み明けてから、なんだか元気ないみたいねえ」
愛ちゃんが聞いてきてくれます。
「何か悩み事?」
「うーん、そういうワケじゃないのだけれど・・・私、今アレだから・・・ちょっと、ね」
生理は2日前に終わっていました。
「それに、夏休みの終わりに、大好きだったおじいさまが亡くなってしまって、それもちょっとね」
大好きだった、ていうのは嘘です。
「ふーん、そうなんだ・・・」
愛ちゃんも一緒に沈んだ顔になってくれます。

私は、愛ちゃんになら、全部しゃべってしまってもいいかな、とも思っていました。
でも・・・
しゃべったからと言って、どうなるワケでもないし、かえって愛ちゃんを心配させてしまいそうだし・・・

バレエのレッスンにも、やっぱりあまり身が入りませんでした。

金曜日になると、クラスのお友達も心なしか、なんだかよそよそしい感じになっているように思えました。
今の私、陰気だもの・・・
あまり近づきたくないと私でも思うでしょう。
その日の放課後も一人で図書館に行きました。

週末に自分のお部屋で一人、今まで図書館で調べた成果と、私が悶々と考えていた仮説について、真剣に検討してみました。

まず、あのとき私のからだをヌルヌル、ベトベトにしていた液体の正体です。
私は、からだに射精されてしまったのでしょうか?
精液についていろいろ調べました。
図解が付いているページは、その図を他の本で隠しながら、文字だけを追いました。
今の私は、たとえ簡略な図だとしても、アレの形を見たくありませんでした。

精液は、白濁、または薄黄色気味の粘り気のある液体で、栗の花のような匂いがする、ということでした。
あのとき私のお腹を汚していた液体は、ヌルヌルはしていましたが、ネバネバまではしていなかった気がします。
色は、辺りが真っ暗だったのでよくわかりませんが、電気を点けてから見たときは、透明でした。
でも、精液は時間が経つと透明になる、とも書いてありました。
すると、あれは一回射精されて、時間が経ったものなのでしょうか?

同じページに、射精の前に分泌される、カウパー氏腺液、とういうのも出ていました。
こっちは無色透明無臭で、糸を引くほどヌルヌルしていると書いてありました。
いわゆる、感じたとき、にまず出てくる液だそうで、女性の愛液と同じようなものなのかな?
私は、こっちのほうがアヤシイと思いました。

白濁した液、という字面を見て、自分のえっちなお汁のことも思い出しました。
オナニーを何度かして、慣れ始めた頃、少し長めに熱心にアソコを指でクチュクチュしていると、透明だった液がだんだん白く濁ることがありました。
そのときも最初はずいぶんびっくりして、まさかヘンな病気?とか思って、すぐに図書館で調べました。
他のなんとかっていう液が混じって白濁することもあるが異常ではない、と書いてあって安心したものでした。

次に匂いです。
あのとき鼻についたイヤな臭いの正体は?
精液の匂いは、栗の花の匂いに似ている、と書いてありましたが、私は、栗の花がどんな匂いなのかを知りません。
花が咲くのは6月上旬頃だそうなので、嗅ぎにいくこともできませんでした。
カルキの匂い、と書いてある本もありました。
カルキの匂いっていうと、プールの消毒液の匂いのはずです。
あのとき、そんなケミカルな匂いは感じませんでした。
もっと、生々しい、ツンとくる、なんていうか獣じみた臭いでした。

いろいろ調べると、わきが、っていうのがありました。
いわゆる、腋の下の臭い、の強いやつみたいです。
そう言われれば、そんな感じでした。
体育の時間、汗びっしょりの男子から漂ってくる臭いをもっと強烈にした、みたいな。
これが男性の匂いなのでしょうか?
男性にも体臭が強い人と弱い人がいるようですが・・・

私が眠っている間、からだをさわられていたのは確実のようです。
あのイヤな夢の中ででの感触は、リアルすぎました。
Tシャツをめくられても、ショーツを下ろされても気がつかなかったくらいですから、さわられててもしばらくは、気がつかないくらい深く眠っていたのでしょう。
やっぱりワインのせいなのかな?
お酒はもう飲まないほうがいいな、と思いました。

さわられるだけならまだしも、ひょっとすると舐められたりもしていたかもしれません。
あのとき、私の上半身を覆っていたヌルヌルの液体は、よだれっぽくも感じました。

結局、確かなことは何一つわからないのですが、一応こういう結論にしました。
あの日、私のからだを汚した液体は、私の汗と、知らない男の汗と、よだれと、カウパー氏腺液、で、射精はされなかった。
根拠は、精液の臭いを感じなかったことと、男のアレが勃っていたこと。
ひょっとしたら舐められはしたかもしれない・・・

ここまで考える間も、私は、何度も悪寒でからだをゾクゾク震わせていました。

もしも、もう少し目が覚めるのが遅かったら、私はどうなっていたんだろう・・・
そう考えた瞬間、からだをゾクゾクゾクーっと強烈な寒気が襲いました。

男性のモノは、みんなあんなにすごいのか?という疑問もありました。
本には、日本人成年男子の平均は、勃起時13~15センチとありました。
定規を見ると、これでもけっこうな長さです。
そして私が見たのは、そんなものじゃありませんでした。
それに太さも・・・

でも、この疑問は、これ以上真剣には、考えられませんでした。
本気でズキズキと頭が痛くなってきてしまうんです。

最後の疑問は、あの男の正体でした。
と言っても、あの日あの場所にいた男性の中で私が知っているのは、父とワインのおじさまだけなので、わかるはずはないのですが、後になって考えていたら一つだけ、引っかかることがあるのに気がつきました。

母は、ワインに酔った私をお部屋まで連れて行った後、ドアに鍵をかけずに戻ったのか?
普通に考えると、母の性格から言って、鍵はかけていくと思います。
私物のバッグとかも置いてありましたし、母が戻ってきたときも私が鍵をかけていたことに関しては、何も言いませんでしたし。
鍵がかかっていたとすると、あの日、私の寝ているお部屋に入って来れるのは、かなり限られた人だけになるはずです。
すなわち、あのお屋敷に住んでいる身内の人、もしくは使用人の人・・・
その中で、体格が良くて筋肉質で毛深くて体臭がキツイ男性、がいたら、その人は限りなくクロです。
その男が一言だけ発した声は、意外と若い声に聞こえました。
これでかなり絞り込めるかもしれません。

母がうっかり鍵をかけないで戻ったのなら、この仮説はまったく無意味になります。
父と母に聞いてみようか・・・
しばらく真剣に悩みました。

お部屋の中をウロウロ歩きながらさんざん迷った挙句、やっぱり、やめておくことに決めました。
犯人がわかったところで今さら、起こったことが無かったことになるわけでもないし・・・
いずれにしても、父の実家にはもう二度と行かない、と心に決めました。

一通りの結論を一応出したので、ほんのすこーしだけ気持ちが落ち着きました。
そして、この出来事を体験したおかげで、苦手なものがずいぶん増えてしまったことがわかりました。

まず、毛深い男性、がダメになりました。
木曜日に愛ちゃんとバレエ教室に行ったときも、電車の中で吊革に掴まっている男の人の半袖の腕にどうしても目が行ってしまいました。
それで、もじゃもじゃと毛深い人がいると、それだけで背筋がゾワゾワっときてしまいました。

同じように、男の人の体臭にも過敏になりました。
あのときと同じような臭いがちょっとでもすると、逃げ出したくなってしまいます。

筋肉質の男性にもあまり近寄りたくありません。

雷様は、以前から苦手でしたが、輪をかけてダメになりました。
とくに稲妻は、条件反射であの場面を呼び起こしてしまいます。

もちろん、男性のアレに関しては、無条件でパスです。
この先二度と見たくない、と思いました。

一番深刻な被害に気づいたのは、土曜日の夜中でした。

私、オナニーができなくなっていました。


トラウマと私 13

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