2010年10月30日

トラウマと私 14

月曜日の朝。
少し寝坊してしまい、始業時間ぎりぎりにクラスの教室に入りました。
ものすごく投げやりな気持ちのままでした。

私のからだからは、相変わらず陰気オーラが漂っているので、休み時間になっても誰も話しかけてきませんでした。
昼休みのチャイムが鳴った途端、愛ちゃんたちのグループ全員が揃って席を立って、どこかに行ってしまいました。
私は、それを見ても何も感じませんでした。
早くお家に帰ってベッドに横になりたいな、なんて考えながら、自分の席で頬杖ついてボーっとしていました。

6時限目が終わって、そそくさと帰り支度をしていると、愛ちゃんたちが私の席のまわりに集まってきました。
私といつも遊んでくれる仲良しグループのメンバーは、愛ちゃんの他に4人います。

ユッコちゃんは、背が少し小さいけれど運動神経バツグンの明るいスポーツ少女。
運動会では愛ちゃんと二人で大活躍なクラスの人気者。

曽根っちは、背が高くて大人っぽい雰囲気で一番オマセさんかもしれませんが、私たちと一緒だと独特のボケでみんなを笑わせる三枚目役。

あべちんは、J-ポップ好きでおしゃべり好きな快活な女の子で、曽根っちのツッコミ役。
私を姫と呼んだ張本人のイタズラ好きで、私の胸やお尻によくタッチしてきます。

しーちゃんは、大人しめ控えめな美少女さんで、コミックやアニメが大好きで、絵を描くのもうまくて、テレビでエアチェックしたアニメDVDをみんなによく貸してくれます。

「なお姫、ごめんっ!」
まだ座っている私の正面に立ったあべちんが、両手を自分の胸の前で合わせて、私を拝むような格好で大げさに頭を下げてきます。
「えっ?」
私は、びっくりして顔を上げ、あべちんを見ました。
あべちんは、本当にすまなそうにからだを屈めて謝っています。
「わたしがヘンなウワサ流しちゃったから・・・なお姫に迷惑かけちゃって・・・」
私には、なんのことやら、さっぱりわかりません。
「はい?」
私は、私を取り囲むように立っている5人の顔を見回しながら、疑問符全開で首をかしげます。
「あべちん、ちゃんと説明してあげないと、直子、なにがなんだかわからないよ」
ユッコちゃんがじれったそうにあべちんに言いました。

「夏休みの最後の日に、わたしが必死こいてたまった宿題してたらさ、兄キがわたしの部屋に入ってきたの・・・」
あべちんが話始めました。
あべちんには、一つ上のカッコイイお兄さんがいて、サッカー部のキャプテンを務めていることも聞いていました。
「それで、おまえのクラスに森下っていう女子、いる?って突然聞くのよ」
「わたしはもちろん、いるよ、って答えた」
「そしたら兄キ、なんだか聞き辛そうに、その子、その、なんだ、あんまりカワイくないのか?なんて聞いてくるのよ」
「私、頭来ちゃって、なおちゃんは、姫って呼ばれるくらい可愛いし、おっとりしてて、育ちいい感じで、勉強も出来て、ちょっと天然ぽいとこもあるけど、誰に聞いても可愛いって即答するくらい可愛いらしい女の子だ、って言ってやったのよ」
私は、面と向かってそんなことを言われて恥ずかしくなって、うつむいてしまいます。

「で、なんでそんなこと聞くのか、って兄キを問い詰めたの」
「そしたら、兄キが言うには、その2、3日前に学校でやってるサッカー部の練習に顔出したんだって・・・」
「3年生は夏休み前までで引退だから、練習はできないんだけどね。ヒマだったから差し入れのアイス買って、ちょこっとからかいに行ったんだって」
「で、休憩のときにアイス食べながら、2年生の部員たちとおしゃべりしてたら、後輩の一人が、ウチダ先輩ってスゴイんですねえ、って言い始めたんだって」
ウチダ?
なんだか憶えのあるような、ないような名前・・・

「なんでも、そのウチダってやつも、夏休みの真ん中頃に下級生の練習見に来たんだって。なんとかって友達と一緒に」
「それでそのとき、夏休み中に2年生の女子から告られたんだけど、好みじゃないからフってやった、って自慢げに話していったんだって」
「ウチダとその友達っていうのは、結局3年間サッカー部にいてもレギュラー取れなくて、そもそも女子にもてそうだからサッカー部にいただけ、みたいないいかげんな奴ららしいんで、後輩たちも話半分で聞いてたらしいけど」
あべちんは、そこでいったん言葉を止めました。

「それでね・・・」
あべちんは、言い辛そうにまた話始めます。
「その、ウチダがフった女子の名前が森下だ、って兄キが言うのよ・・・」
「そ、それは・・・」
私は、思わず大きな声が出てしまいます。
すかさず愛ちゃんが私の肩にやさしく手を置いて、わかってるから、って言うみたいに私を見つめながら二度三度、大きくうなずいてくれました。
私は、話の先を促すようにあべちんを見つめます。

「わたしだって、まさかあ、と思ったわよ。なお姫が誰か男子に告る姿なんて、想像もつかないし・・・」
「その話聞いちゃったから、夏休みの宿題どころじゃなくなっちゃって、おかげで先週は先生たちに叱られて、追加の宿題までもらって散々だったわ・・・」
あべちんが私を見てほんの小さく笑いました。

「でもね、夏休み終わって学校に来たら、なお姫は確かになんだか落ち込んでるみたいだし、わたしたちとはロクにおしゃべりもしないでスグ帰っちゃうし・・・」
「夏休みも後半は、なお姫、わたしたちと全然遊んでなかったじゃない?」
「・・・ひょっとしたら本当なのかも、って思えてきちゃったのね。今考えれば、さっさと直接なお姫に聞けば良かったんだけどさ」
「それで、曽根っちやしーちゃんにもしゃべっちゃたのよ」
「2年の他のクラスじゃけっこうウワサになってるみたいでさ、わざわざうちのクラスまでなお姫の顔、見に来た奴らもいたみたい」
それでなんだかみんなよそよそしいような、居心地悪い感じがしてたのか・・・
「うちのクラスには、幸か不幸かサッカー部に入ってる男子がいないのよねえ。いたらそいつにもう一度確かめたんだけど・・・だから、余計になお姫には聞き辛くって」

「で、それをユッコと愛子に初めてしゃべったのが金曜日の放課後。愛子が木曜日にバレエ教室一緒に行ってたから、何か知ってるかなあと思って・・・」
「そしたら愛子、すごい剣幕で怒り始めちゃってさあ・・・」
「だって、あたし、その場にいたんだもんっ!」
愛ちゃんが待ってましたとばかりに、話し始めます。

「あのガキっぽい手紙の文面も覚えてるし、なおちゃんがあいつに手紙つき返したのに、あいつ受け取らなくて、封筒が地面にヒラヒラ落ちてったのも全部見てたもんっ!」
「だいたい自分から呼び出しといて、遅刻してくるって、なんなの?何様のつもりよっ!それで今度は、自分からフったなんて言いふらして・・・ぜーったい許せないっ!」
愛ちゃんはどんどんコーフンしています。
あべちんが、まあまあ、と愛ちゃんの背中をさすりながら、話を戻します。
「愛子に聞いたら、なお姫が沈んでいるのは、アレだったのと、おじいさまが亡くなったせいだって教えてくれて、わたし、そのウチダってやつがどうにも許せなくなっちゃってさあ」

「それで、土曜日にあべちんの家にみんなで集まって、どうしてやろうか、って話し合ったのよ」
ユッコちゃんが言いました。
「あべちんのお兄さんも交えてね。それで・・・ね」
曽根っちが愉快そうにニヤっと笑いました。


トラウマと私 15

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