2011年5月7日

しーちゃんのこと 02

各自持ってきたお菓子とトランプの大貧民で盛り上がりながら、いろんなことをたくさんおしゃべりしました。

進路のお話もしました。
愛ちゃんとあべちんは、沿線近場にある公立高校、ユッコちゃんは、スポーツが盛んで水泳部が強い私立高校、曽根っちは、とある私立大学の付属高校に進学するつもりだそうです。
私は、なかなか決められずにいろいろ迷っていたのですが、夏休みの間によく考えて、沿線にある私立の女子高校に進むことに決めていました。
この高校は、この土地に古くからある歴史のある学校で、お勉強のレベルもけっこう上のほうな進学校。
私の学力だとギリギリのラインでしたが、他に良い候補がみつからないので、がんばって挑戦してみることにしました。

私がそれを告げると、
「あっ、ワタシもそこ、受ける予定」
しーちゃんが場に最後のカードを出して大富豪を維持しつつ、嬉しそうに言いました。
「でも、ワタシの頭じゃたぶん、受かんないだろうけどネー」
しーちゃんが私の顔を見て、はにかむように笑いました。
しーちゃんは、そこを含めて3つ、女子高ばかりを受験するそうです。

そんな感じでワイワイガヤガヤ楽しく時間が過ぎていきます。
「じゃあ、そろそろラスト三回勝負にしよっかー」
曽根っちが時計を見て場を仕切ります。
「最後の最後に大貧民だった人は、罰ゲームね。何にしよっかなー?」
「明日の自由行動のとき、みんなにアイスおごる」
「お風呂でみんなの背中を流す」
「くすぐりの刑とか」
みんな口々にいろんなことを好きに言い合っています。

「じゃあ、今現在大貧民のあべちんに決めてもらおう」
愛ちゃんの提案です。
「うーんとねえ・・・今まで誰にも教えていないヒミツを一つ、告白する、っていうのはどう?」
「いいね、いいねー」
「賛成!」
「わたし、なお姫のヒミツ、すっごく聞きたーいしぃ」
そういうことになりました。
って、私は何を告白したらいいのかな?・・・
一気にドキドキしてきてしまいました。

結局、私はなんとか平民を維持して、最後の最後に大貧民になってしまったのは曽根っちでした。
「こういうのって、たいてい言い出しっぺがなっちゃうんだよねー」
ユッコちゃんがニヤニヤしながら曽根っちの背中を軽くポンポンと叩きました。

トランプやお菓子を片付けて、並べて敷いたお布団の中央にみんなで顔を寄せてうつ伏せに寝そべりました。
「それではお待たせしました、ナカソネスミレさんの告白ターイムッ!」
言いながらあべちんが立ち上がり、お部屋の電気を薄暗くしました。

みんなの視線が曽根っちに集中する中、曽根っちは、しばらくためらってるみたいに目を伏せていましたが、やがて覚悟を決めて小さく口を開きました。
「アタシねえ、この夏休みの間に、カレシができちゃったんだ・・・」
「ええーーーーーーーっ!」
つぶやくような曽根っちの声をかき消して、私たちの驚愕の声が大きくお部屋に響きました。
「うそうそ、うそーっ!」
「え、どこでどこでどこでみつけたの?」
「誰?誰?誰?」
「うちの学校の人?何才?何才?」
私も含めてみんな一斉にワイワイと、曽根っちにいろんな質問を投げつけていました。

「あなたたちっ!明日も早いんだから早く寝なさいよっ?!」
突然、お部屋の扉がガラッと開いて、他のクラスの担任な女性の先生に厳しい声で注意されました。
各お部屋を見回っているのでしょう。
「は、はーい」
「ごめんなさーい」
「おやすみなさーい」
先生が扉をピシャリと閉めて出て行くと、みんなで耳をすませ、廊下から立ち去った頃合を見計らって、またボソボソとおしゃべりを始めました。

曽根っちのお話をまとめると、
そのカレシは、曽根っちのお姉さんの高校の頃のお友達の弟さんで、現在高校一年生、演劇部に入っているそうです。
お姉さんがまだこっちにいた頃にも二、三度顔を合わせたことがあって、その頃から曽根っちはその人のことをカッコイイな、と少し思ってて、この夏休みにお姉さんが帰ってきていたとき、お姉さんたちの同窓地元グループ数名でサッカーの試合を観に行くのについていったら、その人も来ていて、向こうからアプローチされて意気投合したんだそうです。

「顔はまあまあイケメン。でもそれよりもとっても優しい感じなとこが気に入っちゃった」
曽根っちがテレテレになって惚気ています。
私、つい最近にもこんなお話、たっぷり聞かされたっけなー・・・
シアワセそうな曽根っちのお顔を見て、私はデジャブを感じていました。

「それで、アタシたち、もうキスもすませちゃったんだ・・・」
薄暗がりでもわかるほど真っ赤に頬を染めた曽根っちのバクダン発言。
「おおぉーーーーっ!」
声を殺した低いどよめきがお部屋に響きます。
「胸もさわれちゃったし・・・」
「うわぁーーーーっ!」
「どんな感じだった?」
「気持ち良かった?」
「まさか、もっと先まで?」
あべちんも愛ちゃんもユッコちゃんも、興味シンシンで矢継ぎ早に質問を投げつけていました。

私たちのグループが、こんなに具体的に男の子との恋愛に関してお話ししているのは、そのときが初めてでした。
私は、曖昧な笑顔を浮かべてみんなのおしゃべりを聞きつつも、ビミョーな居心地の悪さを感じていました。
こういうお話は早く終わって欲しい、みたいな・・・

シアワセ一杯な曽根っちのお顔から視線をそらすと、隣にはしーちゃんのお顔がありました。
しーちゃんは、ときどき、うんうん、ていうように小さくうなずきながら、ニコニコ顔で曽根っちのお惚気を聞いていました。
だけど、そんなしーちゃんのお顔が、なぜだか私にはちょっぴり寂しそうに見えました。

「お風呂で見た曽根っちの裸、立派にオトナだったもんねー」
曽根っちの驚きの告白が終わって、みんなそれぞれ自分のお布団に潜り込んでから、暗闇の中であべちんがポツンと言いました。
「やっぱり曽根っちが一番最初にオトナになりそうだねー」
「直子の胸もキレイだったじゃん、ピンクの乳首がツンとしててオトナみたいな色っぽさだった」
ユッコちゃんが言います。
「ううん、ユッコちゃんや愛ちゃんみたくスポーツで鍛えたしなやかなからだのほうが断然カッコイイよ」
私は、お布団の中で恥ずかしくなりながら、精一杯抗議します。
「なおちゃんだってバレエしてるし。なおちゃんにその気なくても男子がほっとかないって。曽根っちの次はなおちゃんかなー、カレシできるの」
愛ちゃんが悪気の無い声でニヤニヤ冷やかしてきます。
「わたしも高校生になったらカッコイイカレシ、作らなきゃなー」
あべちんの夢見るような声。

「でも、高校進んでも、カレシが出来ても、社会人になっても、一年に何回かはみんなで集まって遊ぼうよ、ね?」
ユッコちゃんがお話をまとめるみたいに提案します。
「うん」
「もちろん」
「うん」
「あたしたちの友情は、何があってもずーっと変わらないから」
と、愛ちゃん。
「そのときまでに、みんなに自慢できる、超イケメンなカレシ捕まえるぞーっ!」
曽根っちのお話に一番影響を受けちゃったのは、あべちんのようでした。

翌日は、朝早くからさまざまな名所旧跡を観光しました。
前の夜のお話なんて無かったみたいに、みんなあえて何も蒸し返さず、ワイワイキャーキャーと無邪気に楽しくはしゃぎまわって、非日常な旅行気分を満喫しました。

あっ、一回だけ話題になってたっけ。
曽根っちが真剣にアクセサリーのお土産を選んでいたとき。
「あー、熱い、熱い」
って冷やかしていたのはあべちんでした。

夕方にホテルに戻り、大広間でまたお夕食。
食べ終わった後の後片付け当番に、出席番号の抽選で私としーちゃんが当たってしまいました。
「ありゃー。お気の毒さまー」
曽根っちが同情してくれます。
食べ終わったたくさんのお膳を仲居さんの指示で調理場まで運んでいくお仕事です。
「30分くらいはかかると思うから、みんな先に温泉、入っちゃってていいよ」
お部屋に戻る愛ちゃんたちにそう告げて、しーちゃんと二人、担当の先生のところに駆けつけました。

「あらあら、嬢ちゃんたち、わざわざありがとなぁー」
お膳を持って調理場に行くと、恰幅のいい中年のおばさまがニコニコしながら受け取ってくれて、西のアクセントでそんな言葉をかけてくれました。
そのはんなりした物言いに、ほっこり温かい気持ちになりました。


しーちゃんのこと 03

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