2011年6月26日

しーちゃんのこと 15

私が参加している文芸部は、三年生が4人、二年生が3人、一年生が4人という小じんまりな規模の部活動でした。
先輩がたはみんな、おっとりした感じのやさしくてキレイなかたばかりで、部会のときはお菓子とか持ち寄って、まったりと好きな小説や作家さんのお話をする、みたいなのんびりホンワカした雰囲気でした。
でも、去年作った機関誌を見せてもらったら、人気アニメの主人公を借りた二次創作のBLもので、かなりアブナイ描写のあるお話があったり、すごく意味シンな言葉が並ぶ詩が掲載されていたりして、意外とムッツリさんの集まりなのかもしれないな、なんて思いました。
私も人のことは言えないですけど。

文化祭で頒布する機関誌では、私は、見開き2ページ分を埋めるノルマをいただきました。
エッセイでも、小説でも、詩でも、マンガでもイラストでも何でもいい、って言われて、かえって迷ってしまいました。
最初は、夏休みに行ったヨーロッパ旅行の紀行文を書いてみようかと思い、考えがまとまらないまま書き始めたのですが、一通り書き終えて読み返したら、なんだか小学生が書いた遠足の感想文みたいになっていて、ひどく落ち込みました。
そこでウンウン唸りながら構想を練って、今度は、私の大好きなビートルズがアルバムジャケットにして有名になった横断歩道を歩いたときのお話に絞って、自分が好きな曲やそれにまつわる思い出とかとからめて書いてみたら、なんとなくエッセイっぽい感じになりました。

部会のたびに、先輩がたからアドバイスをもらい文章を改め、なんとか締め切りまでに間に合わせることが出来ました。
とくに、去年まで部長だった麻倉さんという三年生の先輩が、絵に描いたようなお嬢様、っていう感じのかたで、いつもたおやかな笑顔で適切なアドバイスをくれて、本当に助かりました。
気恥ずかしかったらペンネームを使っても良い、ということでしたが、自分でもかなりうまく書けたと思ったので、本名で掲載することにしました。

そんなこんなで晴天の空の下、文化祭が始まりました。
一日目はクラスのお教室で、しーちゃんとお揃いの淡いグリーンのエプロンを制服の上にかけ、ヤキソバを焼きまくりました。
お役目の合間にしーちゃんや中川さんたちと他のクラスの展示を見たり、校庭に並んだ屋台で買い食いしたりして文化祭の雰囲気を満喫しました。
さすがに由緒ある学校の文化祭だけあって、外来のお客様もたくさんお見えになっていて、プラカードを掲げた着ぐるみのパンダさんやカエルさんが校庭を右往左往し、小さな子供たちが駆けずり回る人混みの中、ナンパらしく声をかけてくる他校の男の人たちのお誘いを丁重にお断りしつつ、いつもの学校とはまったく違う非日常的な空間を楽しみました。

文化祭初日は午後六時で終了となり、久しぶりにしーちゃんと二人で帰りました。
「さすがに高校の文化祭はスケールが違うヨネー。お化け屋敷も凝ってたし、クイズ大会も楽しかったー」
「ヤキソバも好評で、明日は材料足りなくなりそうだって」
「今日はちょこっとしか部のほうには顔出せなかったから、明日はしっかりお手伝いしなきゃナー」
しーちゃんも私もすっかりコーフンしていました。

「そうそう、なおちゃん。明日、そうだなー、1時から2時くらいの間に美術室に来てネ。なおちゃんにぜひ、見せたいものがあるんだ」
「へー。何?何?」
「それは言っちゃったらツマンナイから内緒だヨー。それにうちの先輩たちもなおちゃんに会いたがってるヨ」
「え?なんで?」
「だってなおちゃん、痴漢を捕まえた我が校の英雄だもん。ワタシの親友です、って先輩たちにいっぱいイバっちゃった」
しーちゃんがニコニコ顔で私の手を取りました。
「だから絶対、来て、ネ?」
「うん」
わたしもしーちゃんの手を握り返しながら返事しました。
「明日は演劇もあるし、友田さんのステージもあるし、楽しみだネー」

次の日は、世間的には休日の日でしたが、朝早くから学校に行き、クラスのお教室に顔を出してから部室に向かいました。
午前中いっぱいは図書室で、バザーのお手伝いや来訪されたお客様のお相手をしました。
愛ちゃんとあべちん、ユッコちゃん、そして曽根っちとカレシの人も、みんな別々にでしたが、遊びに来てくれました。
曽根っちとカレシの人は、ラブラブ真っ只中っていう感じですっごくシアワセそうでした。

午後になって自由時間をもらった私は、美術室に足を向けました。
美術室の扉は、西洋のお城みたいな雰囲気に綺麗に飾られていました。
正面に流麗なレタリング文字で、
『●●女子高校名物!!喫茶 紅百合の城 美術部』
って描いてあります。

その下に、CAUTION!、として、
『男性のみでのご入城は、固くお断りいたします。カップルさんなら可!』
って、ポップな書体の但し書きが貼ってありました。

入口の荘厳な感じと、名物!!っていう俗っぽい単語とのギャップが可笑しくてクスクス笑いながらドアを開けました。
「いらっしゃませぇぇ~~」
複数の女の子たちの無理矢理揃えたような華やいだ声に迎えられました。

室内は、少し薄暗い感じで、真っ白なクロスをかけたテーブルが数卓置かれ、それぞれにLEDの青い光が灯っています。
窓や壁には、ステージの緞帳のようなエンジ色の光沢のある布が何枚も垂れ下がり、その間に展示品の絵画や彫刻がまるで美術館のように、下から白い光を当てられて飾ってありました。
天井の蛍光灯も隠されて、代わりにシャンデリア風の照明や豆電球が吊るしてありました。
ゆるやかにたなびいているモーツアルトのピアノ曲。

何よりも驚いたのは、美術部員らしい人たちの衣装。
ざっと見回してお客様らしい人たちが10数人、今日は休日ですから思い思いの私服を着て、テーブルでお茶を楽しんだり、展示物を熱心に見たりしています。
全員女の子ばかり。
そのお相手をされているのが美術部員のかたたちだと思うのですが、そのかたたちの衣装がスゴイんです。

本格的なフレンチメイド服の人、ベルバラみたいな中世風衣装の人、タカラヅカ風男装の麗人、ピンクのナース服、裾が大きく広がったお姫様ドレス、人気アニメのセーラー服コスプレ・・・
ドアを閉めるのも忘れてしばしたたずんでしまいました。

「あっ、なおちゃん!来てくれたんだっ!」
私が入口で呆然としていると、奥から声がかかり、黒地に青のフリフリがキュートなゴスロリドレスを身にまとったニーソックスの女の子が、私のほうに駆けてきました。
「しーちゃんっ?」
「えへへー。前になおちゃんのお母さまにいただいたこのドレス、人前で初めて着ちゃった。どう?似合う?」
「うん。すっごくカワイイ。へーー。すっごく似合ってる!」
私の母は、以前からしーちゃんには絶対、ゴスロリが似合うと主張していて、私たちがこの高校に入学が決まったとき、お祝いにって、3人ではるばる都心までお買い物に出かけ、母が見立ててプレゼントしたものでした。
買ったその日に、私と母の前では着て見せてもらったのですが、学校の美術室でその姿を再び見るとは、思ってもいませんでした。

「しのぶさん、大きな声をお出しになって、はしたないわよ?」
艶やかな白のローブデコルテにレースのショールを纏ったスタイルの良い女性が、優雅な足取りで私たちのところへ近づいてきました。
「ごめんなさい。オガワお姉さま。ワタシ、ついはしゃいでしまって・・・」
しーちゃんもお芝居っぽく返しています。
「こちらがアナタのご学友のモリシタさまなのね。しのぶさん、ワタクシにぜひご紹介してくれませんこと?」
オガワお姉さま、と呼ばれた女性が私を見つめてニコッと笑います。
「レディたち、何をそこでコソコソやっているんだい?」
盛大にお芝居がかった声を出しながら近づいてきたのは、タカラヅカ風男装の麗人の人でした。
「あ、トリゴエお姉さま。ちょうどいいところへいらしたワ。こちらが先日お話していたモリシタさんですの」
しーちゃんは、半分吹き出しながらも、お芝居っぽく返しています。

しーちゃんが私の耳に唇を近づけてささやきます。
「ごめんネ。この空間は上流貴族の社交パーティっていう設定なのネ。だからああいうお上品ぶったしゃべり方が義務づけられてるの。テキトーに合わせといて、マリみてみたいな感じで」

私の耳からお顔を離したしーちゃんが先輩がたのほうへ向いて言いました。
「みなさん、ご紹介します。こちら、ワタシの親友のモリシタナオコさん。モリシタさん、こちら、二年生のオガワサトミお姉さま」
オガワさんが一歩前に出て、レースの手袋をした右手を差し出してきます。
「おウワサはかねがね、おうかがいしていましたわ。小川です。お会いできて光栄だわ」
私もオガワさんの手を軽く握り、
「こちらこそ、お会いできて光栄です。よろしくお願いします」
その場の雰囲気に合わせるつもりで、バレエの演技が終わったときにやるレヴェランス、片脚を軽く後ろに引いて、もう一方の脚の膝を曲げるお辞儀の動作、をスカートの布をちょこっとつまんで軽い感じで付け加えると、みなさんのお顔が、おぉっ!っていうふうになりました。

「こちらは、三年生のトリゴエキヨミお姉さま」
男装の麗人の人です。
S字を横にしたようなお鼻の下のおヒゲは、墨か何かで肌に直接描いているようです。
「アナタは勇敢な女性だとしのぶさんから聞いています。それにノリもいいようだ。はははは」
トリゴエさんがお芝居笑いをして、私の右手を強く握ってきました。
私はまたご挨拶してレヴェランス。

「そしてこちらが二年生のニノミヤクリスティーナお姉さま」
いつの間にか、しーちゃんの右横にもう一人女性が立っていました。
私より5センチくらい身長が高くて、ふうわりした柔らかそうな髪を両肩に垂らした瞳の大きなキレイな女性。
この人が・・・

お顔から視線を落としていくと、ニノミヤさんは、男物らしい大きめの白い長袖ワイシャツを腕まくりして着ていました。
胸元のボタンが3つはずれていて、その下に大きめに開いた襟ぐりの白い肌と水着と思われるグリーンの布地が見えます。
ザックリしたシャツのシルエットのため、バストはあまり目立ちませんが、充分に大きそう。
シャツの裾が膝上10センチくらいまでを隠して、その下からスラっとした白い生脚が見えています。
足元は、黒い皮のショートブーツ。
すっごくセクシー。

「はじめまして。二宮です。おウワサはしのぶさんからいろいろうかがっていますわ。今日、お話出来るのをとても楽しみにしておりましたのよ」
鈴を転がしたような、という形容詞がまさにピッタリくる、可愛らしいお声でそう言われ、なんだかドギマギしてしまいました。
「森下直子です。今日はお招きいただいてありがとうございます」
ニノミヤさんの右手をしっかり握って、レヴェランスも一番丁寧に決めました。

「はじめましてではないよ、クリス。モリシタさまは、春にしのぶさんと一度ここに来ている。そのときキミもお会いしたはずさ。ボクは憶えているよ」
「まあ、立ち話もあれだから・・・おお、ちょうどあそこのテーブルが空いている。あちらでゆっくりとお話しようではないか」
男装のトリゴエさんが相変わらず芝居ッ気たっぷりな調子でみんなを促し、お部屋奥の大きな丸いテーブルに向かいました。
ニノミヤさんが私の椅子を引いてくれて、5人でまあるくなって腰掛けました。

「今日は、モリシタさまがいらっしゃると聞いていたので、特別に用意させたものがあるの。どうぞ召し上がって」
オガワさんがそう言ってから、近くに居たナース服の人に何か言うと、美味しそうな苺のミルフィーユと紅茶がテーブルに運ばれてきました。

おしゃべりは、私が痴漢を捕まえたときのことが中心でした。
おしゃべりの間、お芝居口調を崩さなかったのはトリゴエさんだけで、他の人たちは、普通の口調に戻って興味シンシンでいろいろ聞かれました。
おしゃべりしている間も、ナース服の人やメイド服の人、ベルバラの人などが入れ替わり立ち代りご挨拶に現われ、トリゴエさんやオガワさん、しーちゃんが誰かに呼ばれて途中で席を立つと、すかさず他の人がやって来て座ってまた質問されたりと、かなり忙しくしゃべらされました。

でも、美術部の人たちはみんなノリが良くて、それでいてどこかしらお上品な感じで、みんな仲が良さそうで、私はすっごく好印象を持ちました。


しーちゃんのこと 16

2011年6月25日

しーちゃんのこと 14

駅員さんが数人やって来て、一番偉いッぽい人が、駅の事務室に行こう、と痴漢の人に言っているようでしたが、痴漢の人は頑なに拒否しているようでした。
痴漢の人は、今は、体格のいい駅員さん二人に両脇からガッチリと腕をとられていました。
その間に別の駅員さんから、私とカップルさんが事情を詳しく聞かれました。

やがてホームに制服姿のケーサツの人が三人現われ、二人が痴漢の人の腕をしっかり掴み、駅前の交番にみんなで移動しました。
私がいつも使っている改札口とは反対側の改札口前にある交番でした。
愛ちゃんもついてきてくれました。
「なおちゃんのお家に電話して、お母さまにも伝えておいたから。すぐ行くって」
「ありがとう」
本当に愛ちゃんは、頼りになります。
「愛ちゃん、ごめんね。陸上の番組、始まっちゃう」
「いいよいいいよそんなの。ケーサツ終わるまで、なおちゃんと一緒にいてあげるから」
私はまた、涙腺が緩んできてしまい、困りました。

交番では、痴漢の人は奥のお部屋に連れて行かれ、私とカップルさんは、婦警さんからもう一度事情を聞かれました。
愛ちゃんは、心配そうに寄り添っていてくれて、ずーっと私の手を握っていてくれました。
サラリーマンさんは、たとえ裁判になっても目撃者としていつでも証言する、っておっしゃってくださいました。

婦警さんは、私のスカートのさわられていたとこらへんにテープみたいのを貼って、布地の繊維を採取していました。
痴漢の人の指先、爪とかから同じ繊維の破片みたいのが出れば、ほぼ100パーセント有罪なんだそうです。
そうしている間に父と母が車でやって来ました。
父は、珍しく早く帰ってきていたそうで、カップルさんに何度も何度もお礼を言っていました。
両親の顔を見て心底ホッとして、だいぶ気持ちが落ち着いてきました。

カップルさんは、沿線にある同じ会社にお勤めしているそうなのですが、同僚さんたちには内緒でおつきあいしているので、
「今日の騒ぎを同僚の誰かに見られていたら、ちょっとヤバイかもしれないなー」
「でも、そろそろ結婚するつもりだから、バレたらバレたで、それがきっかけになるわよ」
なんて、笑っていました。
なんだかすっごくさわやかな、仲睦まじいカップルさんでした。
ちなみにOLさんのほうが3つ年上なんだそうです。

私は、男性もヘンな人ばっかりじゃなくて、このサラリーマンさんみたいにちゃんとした、カッコイイ人もいるんだな、なんて、ちょっとだけ男性全体を見直したりもしました。

ケーサツの取調べが終わって、カップルさんたちに何度もお礼を言って連絡先を交換してから車に乗り、愛ちゃんをお家まで送って、愛ちゃんのご両親にご挨拶とお礼をして、9時ちょっと前に我が家に戻りました。

痴漢されたことは、すっごくショックでトラウマが甦っちゃうんじゃないか、ってビクビクしていたのですが、今回の痴漢事件は、あんまり後を引きませんでした。
たぶん、みんながすっごく私の行動を褒めてくれたから。

両親からは、怖がらずによくやったと褒められて、愛ちゃんが連絡してくれたらしい、やよい先生からもその夜にお家にお電話をいただいて、盛大に褒められました。
「あたしの言ったこと、ちゃんと憶えていてくれて、実行したんだね」
って言ってくれたときは、嬉しくて泣きそうになりました。

うちの学校の生徒の誰かが、ちょうどあの現場に居合わせていたらしく、翌日の学校でも、うちの生徒が痴漢を捕まえたらしい、と早くもウワサになっていました。
そのときは、その捕まえた生徒が誰だかはまだわからないままで、私もその話題になると、誰なんだろうねー、なんてとぼけていました。
自分から言い出すのがなんだか恥ずかしかったんです。

その日の放課後、担任の先生に呼ばれて、職員室で簡単に事情を聞かれました。
一応ケーサツから学校にも連絡が来たみたいでした。
その後、図書室当番をした帰り道、しーちゃんにだけはお話しました。
しーちゃんもすごく褒めてくれて、私は、なんだか恥ずかしいのでみんなには内緒にしてくれるように頼んでおいたのですが、月曜日の朝、担任の先生があっさりバラしてしまい、クラスのみんなが休み時間に私の席のところに来て、口々に褒めてくれました。

実際に捕まえたのは私ではなく、あのステキなサラリーマンさんなのだけれど・・・

そして、このお話には思わぬオチがつきました。

後日、母がケーサツの人から聞いたところによると、捕まった痴漢の人は、ずっと黙秘をしていたらしいのですが、持っていたカバンを調べたら、どうやら望遠レンズや赤外線レンズで盗撮したらしい、どこかの民家やマンションでの女性の入浴姿や着替えの写真が何枚か見つかったのだそうです。
その後、私のスカートの布地の繊維成分が痴漢の人の爪から検出され、私への痴漢行為も確定しました。
余罪がありそうなので家宅捜索したところ、自分で盗撮したらしいビデオや写真がパソコンとかから大量にみつかったらしいです。
痴漢行為を書きとめた日記みたいのもあったみたい。
盗撮していたのは、全部あの鉄道の沿線のお家やマンションで、そういったことの常習犯だったみたいです。

そしてなんと、この痴漢の人は、私が通っている高校の3つ先の駅にある偏差値高めで進学校として有名な男子高の化学の先生だったのでした。
沿線周辺ではかなりの話題になって、地元の新聞にも結構大きく記事が載ったほどでした。
もちろん、新聞に私の名前は出なかったのですが、少なくとも私のクラスでは、私がその被害者っていうことはすでに知られていました。

記事が出て、一週間くらい後になって、しーちゃんがしーちゃんのお姉さん、うちの学校の生徒会長さん、から教えてもらったお話です。
その男子高のある生徒もその日、たまたま現場に居合わせていて、その男子高でも翌日、化学教師の誰々があの女子高の生徒を痴漢して現行犯で捕まった、っていうニュースが大々的に広まりました。
いつの間にかそのお話にどんどん尾ひれが付いて、その女子生徒が教師の手をグイッとひねり上げて駅員に突き出した、とか、ひねられて教師の右腕の関節がはずれた、なんていう大げさなお話にまでなり、あの女子高つえー、こえー、ってことになって、その男子高生徒と合コンを予定していた、うちの高校の先輩たちに何件も、合コンキャンセルの連絡が相次いだらしいです。
あと、その化学教師は、ネチネチ陰険で粘着質な性格だったらしく、その男子高の生徒からの評判もあまり良くなかったとか。

確かに、その新聞記事が出てからしばらくは、休み時間に知らない先輩たちが私のクラスを訪れて、痴漢捕まえたのってどの子?ってヒソヒソ聞いていたみたいです。
私は、そんな大げさなお話になっているなんてぜんぜん知らず、注目されるのがひたすら恥ずかしくて、ひたすら気づかないフリをしていたのですが・・・
そんな感じで、私は校内で、ちょっとした有名人になってしまっていました。

9月末の中間テストが終わると、その後は体育祭、遠足、文化祭とビッグイベントがつづき、学校内全体が活気づいていました。
とくにこの学校の文化祭は、二日間に渡って大々的に行なわれ、合唱や演劇など毎年趣向を凝らした演目が近隣の一般の人たちにも評判が良く、外来のお客様も多数訪れる地域の一大イベントになっていました。
普段は女子ばかりの学内に、身内以外の男性がたくさん訪れてくる唯一の機会でしたから、慢性のカレシ欲しい病にかかっている大多数の女の子たちがソワソワ盛り上がって、学校全体のテンションが日に日に上がっていくのがわかりました。

私たちのクラスでは、クラスのお教室でヤキソバ喫茶をやることになりました。
お教室内では火が扱えないので、ホットプレートを持ち寄ってヤキソバを作り、ついでにコーヒーや紅茶も出す、ということで、私としーちゃんは、一日目の調理係になりました。

私が所属している文芸部では、機関誌の発行と、図書室で古本のバザーをやります。
中川さんと山科さんがいる演劇部は、講堂のステージで三年の先輩が脚本を書いたオリジナルの演劇をやるのですが、中川さんたち一年生は全員裏方さんで、まだステージには立てないそうです。
軽音部に入った友田さんは、3人組のロックバンドを組んで最終日のステージで2曲歌うそうです。
しーちゃんの美術部は、美術室に部員全員の作品を飾り、喫茶室をやりながらCGで作った絵ハガキなども売るそうです。

文化祭が近づくに連れ、私もクラスのお友達も、毎日部室に顔を出す生活に変わっていきました。
放課後は、クラスでの文化祭準備をしてから、それぞれが所属する部室に向かい、遅くまで部での準備に励むという忙しい日々がつづき、しーちゃんと一緒にまったり下校出来ない日々が何日もつづきました。


しーちゃんのこと 15

2011年6月19日

しーちゃんのこと 13

二学期が始まって少し経ったある木曜日の夜のこと。
バレエ教室のレッスンを終えた私は、愛ちゃんと一緒に帰宅するために駅に向かっていました。
二人、別々の高校の制服姿でした。

「あべちん、はっきりお断りしたみたいだよ」
「へー」
「相手の男、逆ギレ気味だったらしいけど、今後もしヘンなことしたら、あんたの恥ずかしいメール全部、プリントアウトして学校の掲示板に貼り出すからね、って言ってやったら、死ね!ブス!って子供みたいな捨て台詞吐き捨てて、駆け出してったって。なんだかねー」
愛ちゃんが苦笑いを浮かべて教えてくれました。

お教室の発表会が近いため、その準備をお手伝いしていたので、いつもの時間より一時間くらい遅くなって、ターミナル駅に着いたときは7時を少し回っていました。
母にはあらかじめ言っておいたので、門限的な問題はないのですが、別の問題が起こっていました。
駅が大混雑。
2時間くらい前に沿線で人身事故があったらしく、運転再開された直後のようです。
「すごいねー」
「こんな混雑、珍しいねー。乗れんのかなー?」
「ちょっとどっかで時間潰してく?」
「あ、でもあたし今日、8時から絶対見たい番組があったんだ。陸上の大会の総集編」
「そっかー。じゃあ乗っちゃおうか?」

ホームもギッシリ。
こんなに混んでると痴漢とか出そうだから、女性専用車両まで行こうということになったのですが、ホームを進むのもままなりません。
それでも人をかき分け進んでいるうちに、電車がホームに到着しました。
ギッシリ満員状態で、どう見たってこれ以上、乗り込むことは出来そうにありません。
でも、電車のドアが開くと、思った以上にたくさんの人が降りてきました。
ターミナル駅なので、乗り換えのお客さんが多いのでしょう。
ゾロゾロ降りる人の波が途切れると、今度はホームから電車の入口へザザザーッと人が流れ込みます。
人波に押され、私たちも近くのドアに吸い込まれるように飲み込まれてしまいました。
女性専用車両まであと2両というところでした。
愛ちゃんもいるから大丈夫、と思っていたら、いつの間にか隣にいたはずの愛ちゃんの姿が見えなくなっていました。

私は、電車の連結部分のドア横の壁にからだを押し付けられていました。
左手で持っているスクールバッグが壁と自分のからだの腰の辺りの間に挟まれてクッションみたくなっています。
何も持っていない右手は、とりあえず壁にべたっとつきました。
私の左右横は、同じような姿勢の中年サラリーマン。
左肩あたりの背後からぎゅうぎゅう押され、右肩のあたりにかろうじて少し空間がありました。
首を右にひねって見ると、見えるのは誰かの肩や背中ばかり、ドアの窓からの景色さえ見えず、いわんや愛ちゃんの姿をや。
私の右後ろには、OLさんらしいグレイのスーツ姿の女性の背中が見えました。

私が乗り込んだのは、通勤通学時間だけ走っている快速でした。
バレエ教室のあるターミナル駅を出ると、途中駅を二つとばして私の降りる駅まで止まらずに行きます。
こんな混雑ですから、いちいち駅に止まるより一気に走ってくれたほうが時間も短かく済んで助かるかな。
これは、ある意味ラッキー?
そんなことを考えていたら、電車が動き始めました。

電車が揺れるたびに、背後からぎゅうっと押されて、からだが壁に押し付けられます。
さっきから私のお尻、臀部左側に何かがピタッと押し付けられていました。
誰かのカバンか太腿かな?
最初はそう思っていたのですが、そのうち、その押し付けられたものがサワサワと動き始めました。
撫ぜるように、軽く掴むみたいに。
手のひら・・・

痴漢!
一瞬、パニックになりました。
そのスカート越しにお尻を這い回る手の感触は、間違っても気持ちいいなんて種類のものではなく、ゾワゾワと悪寒が何べんも背筋を駆け上ります。
トラウマになっている、あの日の感触にそっくり。
私は、一生懸命腰を引いて、その手から逃れようとしますが、その手はぴったりとお尻に貼り付いて、ますます大胆に動いてきます。
怖い。
助けて。

そのとき唐突に、私がトラウマを受けた後、バレエ教室のやよい先生にご相談したとき、言われた言葉を思い出しました。

「そこでその男に何の負い目も背負わさずに逃がしちゃうと、次また絶対どこかで同じことするのよ、そのバカが」
「それで、また別の女の子がひどい目にあっちゃう可能性が生まれるワケ」
「そのときに大騒ぎになれば、たとえそいつが捕まらなくても、騒ぎになったっていう記憶がそのバカの頭にも残るから、ちょっとはそいつも反省するかもしれないし、次の犯行を躊躇するかもしれないでしょ?」
「もし、万が一、また同じようなことが起きたら、絶対泣き寝入りしないでね。他の女性のためにもね。なおちゃんならできるでしょ?」

逃げちゃだめ。
やよい先生とのお約束、守らなきゃ。

痴漢の対処法は、やよい先生がバレエの合間に教えてくれていました。
大声をあげる。
足を思い切り踏んづける。
さわっている腕を掴まえてひねるようにしながら高く上げる。

足を踏んづけようにも、自分の足もほとんど動かせない状態ですし、私の後ろにある足が痴漢の足とは限りません。
迷っているうちに、お尻を這い回る手は、お尻のワレメのあたりをスリスリし始めました。
まだ電車が走り始めて2分くらい。
次の駅に着くまであと4~5分間もこのままの状態でいるのは耐えられません。

なんとか首を曲げて、左肩越しにいるであろう痴漢の顔を見てやろうと思うのですが、左肩を強く押されていて首が曲げられません。
仕方ないので、反対側の右後方に首をひねりました。

グレイスーツのOLさんの背中肩越しに、OLさんより20センチくらい背の高い、紺のスーツ姿の若いサラリーマンさんが視線を下に落として、こちらを向いていました。
髪をちょっと茶色っぽく染めていて、けっこうヤンチャそうなイケメンさんでした。
OLさんの左手が脇からそのサラリーマンさんの背中に回っていて、OLさんがサラリーマンさんにもたれるように立っているので、二人は恋人同士、カップルさんなのかもしれません。

そのサラリーマンさんがフッとお顔を上げて、私と目が合いました。
サラリーマンさんが私の目をじっと見て、声には出さず、
「ち・か・ん・?」
ていう形に、問い質すようにゆっくり口を動かして、少しだけ首を横に傾けます。
私は、その人の目を見ながら小さくうなずきました。
背の高いあのサラリーマンさんからは、私がさわられているお尻のあたりがきっと見えているのでしょう。
そこに貼りついた手は、今度はスカートの布地をつまんで、ソロリソロリとまくりあげようとしていました。

もうがまんできませんでした。
サラリーマンさんと目があったことで、勇気も湧いてきました。
首を正面に戻して、左手を掴んでいたバッグから離しました。
バッグは私のからだと電車の壁に挟まれているので、下に落ちることはありませんでした。

やめてくださいっ!って大声で叫ぶと同時に、痴漢の腕を掴もう。
そう決めました。

お尻側のスカートの布がスルスルと上に持ち上がっていくのがわかりました。
もう猶予は、ありません。
痴漢の手が中に侵入してきたりなんかしたら・・・

一回深く息を吸って、
「やめてくだいっ!」
ありったけの声をはりあげたとき、
「こいつ、痴漢ですっ!」
後方からも男性の大きな声が聞きこえてきました。
あのサラリーマンさんが、誰かの手首を掴んで高く上に上げていました。
その瞬間、私のスカートも強く引っぱられるようにまくり上げられちゃったみたいでした。

気がつくと、こんなギュウギュウの満員電車のどこにそんな余裕があったのか、私たちのまわりだけ20センチくらいずつの空間が空いていました。
その空間の中にいるのは、私とサラリーマンさんとOLさんのカップルと痴漢の犯人。
サラリーマンさんは素早く痴漢の人を背後から両腕をとって羽交い絞めにしていました。
痴漢の犯人は、白髪まじりで中背、痩せ型の、一見品の良さそうな中年の男性でした。
着ている麻っぽいスーツがちょっとくたびれている感じもしました。

「何するんだっ!冤罪だっ!」
痴漢の人が大声を出して足をジタバタさせています。
「アナタ、お尻さわれてたのよね?」
グレイスーツのOLさんが聞いてきます。
「は、はいっ!」
私は上ずった声をあげて、大きくうなずきました。
「おまえがこの女の子のお尻さわってたの、俺は見てたんだよっ!」
サラリーマンさんが暴れる痴漢を恫喝するように、大声を出します。
「こんなに混んでんだ。もしさわったとしたって不可抗力だ!」
痴漢の人も負けてはいません。
「不可抗力でスカートつまんでまくったりするかい、ボケッ!いい年こいて、恥を知れ!」

まわりの乗客たちが、ある人は驚いたように、ある人は好奇の目で、私たちをジロジロ眺めてきます。
やあねえー、とか、だせーなー、とかヒソヒソ声も聞こえてきます。
みんなに注目されて、すごく恥ずかしいのですが、それ以上にコーフンしていました。
もちろん性的な意味ではなく、何て言うか、正義感的に。

「次の駅でケーサツに突き出すから、覚悟しとけっ!」
サラリーマンさんがもう一度吠えたとき、電車が減速を始めました。
「アナタも一緒に降りてね、面倒だけど」
OLさんがやさしく言ってくれます。
「は、はい。ありがとうございます」
OLさんは、お化粧がちょっと濃い目でしたが、キャリアウーマンぽいお仕事が出来そーな感じのキレイな人でした。

駅のホームに降りると、OLさんが走って駅員さんを呼びに行き、サラリーマンさんは痴漢の人を羽交い絞めにしたまま私と二人で立っていました。
痴漢の人は、観念したのか不貞腐れたのか、大人しくなっていました
ホームに居た人たちが、何事か?みたいな感じで遠巻きに眺めてきます。
愛ちゃんがどこからか駆け寄ってきました。
「痴漢?こいつ?うわー、災難だったねー」
心配そうに私の肩を抱いて、羽交い絞めされている痴漢の人を睨みつけてくれます。
「うん。でも、この人が捕まえてくれたの・・・」
私は、愛ちゃんのお顔を見て、一気に緊張が緩んだみたいで、目頭がジンジン熱くなってきてしまいました。


しーちゃんのこと 14

2011年6月18日

しーちゃんのこと 12

放課後の美術室で強制的にヌードモデルをさせられる妄想、がすっかり気に入ってしまった私は、6月のムラムラ期はずっと、その妄想ばかりで遊んでいました。
妄想の中の美術部先輩がたは、回を重ねるごとにどんどんどんどんイジワルになっていきました。
とんでもなくえっちなポーズを無理矢理とらされたり、写生も兼ねて、と校庭の人目につかない木陰に裸のまま連れ出されたり・・・

ニノミヤ先輩たちとのその後について、しーちゃんからの続報はありませんでした。
あの後、もう一度6人でヌードクロッキー会をやったのか?
すっごく気になっていたのですが、しーちゃんから言ってこない以上、そんなことを唐突に私から聞くのもなんだかいやらしいかな、って思い、聞けないでいました。

そうこうしているうちに学期末のテストが近づき、それが終わるともう、高校生になって最初の夏休みが間近になっていました。

あと数日で夏休みというある日の放課後。
いつものようにしーちゃんと下校しようと一緒にお教室のドアを出たところで、背後から誰かに声をかけられました。
「アナタたち、本当に仲良しなんだねー。いつも一緒じゃん?」
同じクラスの浅野さんでした。

浅野さんとは、ほとんどお話したことはありませんでした。
浅野さんは、中間テストが終わった後、突然、綺麗なウェーブの長い髪を明るめな茶色に染めてきて、クラス中を驚かせた人でした。
先生からは、少し注意を受けたみたいでしたが、テストの成績は優秀だったらしく、それ以上のお咎めはなかったみたい。
学校のバッグの他にブランドのロゴが入った大きなバッグをいつも持ってきていました。

学校には内緒でこっそり雑誌の読者モデルをやっていて、あのバッグには着替えが入っていて、放課後にどこかで私服に着替えて繁華街に遊びに行っている・・・
そんなウワサもある、うちの学校にしては珍しい、遊んでいる系、派手め系の超美人さんでした。
でも、別に怖い雰囲気ではなくて、言葉遣いはちょっと上からっぽいけれど、どちらかと言うと気さくな感じの人でした。
もう一人、同じような感じの本多さんという、これまた美人さんなクラスメイトとよく一緒に行動していました。

「ヒマだったらでいいんだけどさ・・・」
浅野さんが私としーちゃんの顔を交互に見ながら、長い睫をパチパチさせます。
「アナタたち、合コン参加する気、ない?」
思いがけない提案に、私としーちゃんは顔を見合わせます。
「先輩に頼まれちゃってさー。あたしたち、今度の土曜日、夏休み初日ね、ちょっと大規模な合コン企画してんだけど、なるべくカワイイ子、集めてくれって言われちゃってんのよー」
「アナタたちくらいなら、男どもも喜ぶだろーなー、って思ってさ。ちなみに相手は大学生と、社会人でも一流どころ」

男ども、って言われたときに、私は反射的にドキッとしてしまい、たぶんおそらく、一瞬、露骨にイヤな顔をしたんだと思います。

私の右隣に立っていたしーちゃんが左手を伸ばしてきて、私の右腕にスッと絡め、しっかり腕を組んできました。
それからニッコリと浅野さんに微笑みかけて、
「お誘いは嬉しいんだけど、ワタシたち、こういう関係だから、ワタシたちが参加しても男の人たち、しらけちゃうと思うヨー。ネ?」
もう一度ニッコリ浅野さんに笑いかけてから、同意を求めるように今度は私に目を合わせてきました。

「あ、そうだったの?」
浅野さんの大きな瞳がいっそう大きく見開いて、呆気にとられたようなお顔になりましたが、すぐにキレイな笑みに戻りました。
「アナタたち、ガチ百合なんだー?それじゃあしょうがないねー。他あたるかー」
浅野さんは、拍子抜けするほどあっさりとあきらめてくれたみたいです。
そして、また私としーちゃんの顔を交互に見て、長い睫をパチパチさせました。
「アナタたち、イイ感じなんだけど、男に興味ないんじゃーしょうがないねー。お幸せにねー」
浅野さんは、すっごくキレイな微笑を私たちに投げかけてから、右手をヒラヒラ振り、本当にモデルさんみたいな優雅な足取りで、玄関ホールのほうへ去って行きました。

「しーちゃん、あんなこと言っちゃって、いいの?」
浅野さんを見送って、私たちもゆっくりと廊下を歩き始めました。
腕は組んだままでした。
「なおちゃんがなんだか、本当にイヤそうだったからサー、助けなきゃ、と思って咄嗟に言っちゃった」
しーちゃんが照れたみたいにニッって笑います。
「それに、ワタシたちが仲良しなのは本当のことだし」
「しーちゃん、ありがとう」
私は、すっごく嬉しくなって、心を込めて言いました。

「合コン、ってなんだかめんどくさそーだよネー。男がみんなギラギラしてそーで」
しーちゃんがイタズラっぽく笑いながら、私の顔を探るように覗き込んできます。
「それにしてもなおちゃんて、本当に男の人、苦手そうだよネー?」
「うん・・・」
しーちゃんになら、理由、話しちゃってもいいかな・・・
ちょうどそのとき、玄関ホールの靴脱ぎのところに着いてしまったので、どちらからとも無く組んでいた腕をほどき、靴を履き替えました。
しーちゃんは、それ以上、なんで?とか、一切聞いてきませんでした。

「最近、美術部は、どう?」
駅に向かう道で、さりげなくしーちゃんに聞いてみます。
「うん。コンピューターグラフィックがすごーく便利で面白くって、ワタシもずいぶん使いこなせるようになったヨ。夏休みになったらペンタブっていうパソコンにつなぐペンも買うんだ。そしたらマンガもパソコンで描けるんだヨ」
しーちゃんは、とても楽しそうにパソコンでのお絵かきの方法を詳しくお話してくれました。
しーちゃんにCGを教えてくれているのは、確かニノミヤ先輩だったはず・・・

「それって、ニノミヤ先輩が教えてくれてるんでしょ?」
お話の区切りを待って、思い切って聞いてみました。
「うん。ニノミヤ先輩は教え方が上手でネー・・・」
それからしばらく、ニノミヤ先輩は優しくっていい人だ、っていうお話になりましたが、ヌードクロッキー会のその後やニノミヤ先輩の露出症の話題は出てきませんでした。

しーちゃんが遭遇したニノミヤ先輩の一件は、先輩たちが新入生のしーちゃんをからかうために仕組んだ、一回きりの手の込んだオトナなイタズラだったのかもしれません。
私は、もっとえっちっぽい進展を期待していた分のがっかりした気持ち半分と、なぜだかホッとしている気持ちも半分の複雑な気分で、本当に楽しそうに説明してくれるしーちゃんのお話を黙って聞いていました。

その年の夏休みは、8月の頭から二週間、家族でヨーロッパに旅行に行くことになっていました。
私にとっては、初めての海外旅行です。
母の大学の頃のお友達がイギリスとドイツにいるので、その人たちのお世話になりつつ、ヨーロッパ一帯をのんびりと観光することになっていました。
家族で、と言っても、普通だったら父はそんなに休暇が取れないはずなのですが、タイミング良く、と言うより無理矢理、私たちのスケジュールに合わせてフランスへの出張を入れて、二週間のうち10日くらいは、一緒に行動できるようになりました。
それと、父の妹さんの涼子さんとその旦那さま、私が中二のときのトラウマ事件のときにワインを飲ませてくれた、まあるい体型のテレビ局のディレクターさん、も同じ時期にイギリスに居るので、何日か合流する予定でした。

初めての海外旅行にワクワクな私は、その準備で洋服やら何やらのお買い物をしたり、後顧の憂い無く遊び倒すために夏休みの宿題、さすがに進学校だけあって膨大な量でした、を片付けたりで、夏休み前半から、しーちゃんやクラスのお友達とは、ほとんど遊べない状態がつづきました。

二週間のヨーロッパ旅行を満喫した私は、山ほど買ってきたお土産を渡す、という名目で、久しぶりに中学校時代のお友達を我が家に呼んでお泊り会をすることにしました。
夏休みも残すところあと10日となった蒸し暑い日に、愛ちゃん、曽根っち、ユッコちゃん、あべちん、そしてしーちゃんの5人が我が家に勢揃いしました。

愛ちゃんとは、バレエ教室のたびに会っていたので、お互いの近況は知っていました。
愛ちゃんは、高校でもやっぱり陸上部に入って、今は走り高跳びの記録更新に夢中なんだそうです。
夏の間も練習に忙しかったらしく、キレイな小麦色に日焼けしていました。

ユッコちゃんは、名門水泳部に入って毎日プール三昧。
ピッチリしたタンクトップの隙間からところどころ覗く、競泳水着の形の白い肌がセクシーでした。
胸も少し大きくなったみたい。

曽根っちは、中三のときにおつきあいを始めた一つ年上のカレシと順調に交際をつづけているみたいです。
あべちんからえっち関係のことを聞かれて、言葉を濁していましたが、口ぶりからするともうヤっちゃったみたいでした。
言葉の端々に、そんなことは、たいしたことじゃない、みたいな余裕が滲み出ていました。

しーちゃんも元気そうでした。
「ワタシ、あさってから美術部の合宿で湖畔のペンションに行くんだ。二泊三日だって。テニスもできるらしいヨ」
「へー。しーちゃんの口からテニスなんて、なんだかビックリ」
ユッコちゃんが感心したように言いました。
「しーちゃん、高校行ってから、前より明るくなったよねー?」
あべちんも驚いていました。

「あべちんはねー、夏休み前に2年の先輩から告られて、つきあい始めたんだよー」
愛ちゃんがクスクス笑いながら暴露します。
愛ちゃんとあべちんは同じ公立高校に進んで、クラスは別々でしたが、あべちんが告られた日に愛ちゃんの家を訪ねて来て、聞かされたそうです。
私は、夏休み中はバレエ教室もお休みして愛ちゃんとも会っていなかったので、そのお話は初耳でした。

「でもねー。結局タイプじゃなかったんだよねー」
当のあべちんは、浮かない顔をしています。
「始めは、初めてのことだからワクワクしてたんだけどさー・・・」
「何て言うか、チャラくってさー。顔はまあまあなんだけど、やることなすことガキっぽくて、薄っぺらくて」
夏休み中に3回ほどデートしたのだそうですが、話題はテレビのバラエティ番組の受け売りばっかだし、選ぶ映画はミーハー丸出しだし、カラオケでは裏声で女性歌手の歌ばかり歌うし。
「それで、何かとわたしにさわりたがるんだよねー。3度目のデートの別れ際に無理矢理キスしてこようとするから、突き飛ばして、それ以降連絡とってない」
「何て言うか、結局おまえ、ヤりたいだけ違うんか?って感じでさ。あーやだ!」
あべちんが憤懣やるかたない、って様子でつづけます。
「そしたら、今度はやたらメール送ってきてさ。それがまたキザっぽいキモい文面なんだ。似合わねーよって言ってやりたいけど一切返事してない」
「新学期に学校行って会ったら、はっきりお断りすることに決めました」
あべちんは、らしからぬ真面目な調子でしめくくりました。

そんな感じで久しぶりのワイワイガヤガヤ、楽しい夜通しのおしゃべりでした。
一見、中学校のときとまったく変わらない私たちでしたが、やっぱりそれぞれ少しずつ、オトナへの階段を登っているんだなあ、なんて感じていました。


しーちゃんのこと 13

2011年6月12日

しーちゃんのこと 11

制服を着終えた私は、ベッド脇の姿見の前に立って目をつぶり、4月にしーちゃんと一緒に訪れた夕方の美術室の様子を思い出します。
木造のシックな雰囲気と油絵の具の香り、大きな窓からのやわらかい夕陽としんとした静寂。

私は、美術室のフロアの中央にソファーを背にして立っていました。
私の目前には、美術部の先輩がたが7人。
今ボンヤリと思い出せるのは、4月に行ったとき、説明をしてくれた髪の長い落ち着いた感じのキレイな先輩のお顔だけなので、私の妄想の中の先輩がたは、みんなその人に雰囲気の似た、オトナな感じの人たちでした。
少し迷ったのですが、しーちゃんは参加していないことにしました。
先輩がたはみなさん、思い思いの場所で椅子に座ってスケッチブックを開き、私に注目しています。

「これは美術部のしきたりなんだから。あなたも観念して、さっさと裸になりなさい」
先輩の一人が、決めつけるような厳しい口調で言いました。
しーちゃんのお話とは違って、私の妄想の中の美術部部員の先輩がたは、みんなかなりイジワルそうでした。
「で、でも・・・」
「デモもストもないのっ!決まりなんだから、従ってもらわなくちゃ。グズグズしてると、顧問の先生が来ちゃうわよっ!」
別の先輩がからかうように言います。
実際の美術部の顧問の先生は、妙齢のキレイな女性の先生でしたが、私の妄想の中では、毛深くてマッチョな男の先生、っていうことになっていました。

「わ、わかりました」
私は観念して、まずベストを取りました。
私の敏感な乳首は、すでに盛大に反応していて、白いブラウスの薄い布地をこれ見よがしに隆起させています。
それをなるべく隠すように胸に手をやり、ネクタイをスルスルっと抜きました。
先輩がたの視線が、射抜くように私の上半身に注がれています。
両腕でブラウスの突起がバレないように隠しつつ、震える手で一番上から、ブラウスのボタンを一つずつはずしていきます。
姿見に、そんな私の姿が映っています。

ブラウスのボタンを3つ目まではずしたとき、
「あらーっ。アナタ、ノーブラだったのー?」
先輩の一人から驚いたような声がかかりました。
私はビクッとして、ボタンをはずす手が止まってしまいます。
「うわー、大胆ねー」
「いくらベストで乳首のポッチを隠せるからって、そんな姿でいつも授業受けてたんだー」
「この子、ひょっとしたらかなりのヘンタイさん、かもよー?」
先輩がたがドッと沸きます。

「ほら、早くブラウス取っちゃいなさいっ!」
強い口調で促されて、私のブラウスはボタンが全部はずれ、全開になりました。
「もたもたしてないで、脱いで脱いで」
ブラウスの袖を両手から抜くと同時に、両腕を胸の前で交差しておっぱいを隠します。
「何やってんの?隠しちゃだめでしょ!気をつけっ!」
一番偉いっぽい先輩に睨まれながら言われて、私は両腕を両脇にピッタリくっつけ、直立不動になりました。
「見て見て、両方の乳首がビンビンに尖って、上向いてる」
「見られてるだけで、感じちゃってるのよー」
「なんだか誘ってるみたいな、いやらしい形のおっぱい」
「ちょっとさわっただけで、アンアン悶えだしそうねー。スケベそーな子」
てんでに好き勝手なことを言われても、その恥辱に黙って耐えることしか私には出来ません。

「ねえねえ、この子ノーブラだったじゃん?だとすると、ひょっとして・・・」
「あるかもあるかもー、この子だったらやってそー」
「本当にそうだったら、正真正銘ヘンタイ決定だねー」
先輩がたがわざとこちらに聞こえるように、興味シンシンで騒いでいます。
そして、私は実際、その通りなんです。

「それじゃあアナタ、スカート取る前にそのソファーに座って、ソックスから脱ぎなさい」
リーダー格の先輩に言われて、私はベッドの縁に腰掛けました。
「もうちょっと両脚を開いてっ!まず右の腿を高く上げて、右のソックスから」
上半身を屈めて、なるべく脚を上げないようにしてソックスを脱ごうと思っていた私だったのですが、それは先手を打たれて、早々と禁じられてしまいました。
仕方が無いので言われた通り、右の腿をソックスに手が届く位置まで高く上げます。
当然、スカートの布地も一緒に持ち上がり、両腿の付け根のあたりが露になります。
先輩がたの視線が一斉にソコに突き刺さります。
鏡にもハッキリと、だらしなく開いた濡れているピンクの中身が映りました。
私は出来るだけ手早くソックスを脱ぎ、右足を大急ぎで床に下ろしました。

「やっぱり・・・」
「やっぱり!」
「やっぱりねー」
ヒソヒソ声にかぶせるようなご命令の声。
「はい。次は左のソックスっ!」

私は、同じように左太腿を素早く上げて、ソックスを脱ぎました。
「やっぱりだったねー」
「マン毛、うすぅー」
「この子、本当にノーパン、ノーブラで授業受けてたんだー」
「とんだインラン女ねー」
「信じられなーいっ!」
「はい。ドヘンタイ決定っ!」
先輩たちの表情がどんどん険しくなっていくのがわかりました。

「じゃあ立って、さっさとスカート取って。取ったら隠さないで、気をつけっ!」
リーダー格の先輩の声も一層冷たくなって、ヘンタイ淫乱女を見る軽蔑しきった目つきで睨んできました。
私は、スカートのホックをはずしてその場に落とすと、気をつけの姿勢で姿見の前に立ちました。

「ほらほら、脱いだ服はちゃんと片付けなきゃ。だらしないわねー。さっさとやって!」
その声に弾かれるように、私は先輩がたに裸のお尻を突き出し、脱ぎ散らかした制服を拾い集め、ハンガーに掛けてからまた気をつけの姿勢に戻りました。

「それじゃあ、今日は初めてだから、ゴヤの裸のマヤのポーズをやってもらうわね。アナタ、美術部に入るくらいだから、もちろんご存知よね?」
「は、はいっ!」
私は、両手を組んで自分の後頭部にあてるように上に上げてから、ベッドの足側のほうに重ねて置いたお布団に背中をもたれかけ、両脚はピッタリ閉じたまま枕側に伸ばして寝そべりました。
姿見には私の下半身が映っています。

「そう。それでいいんだけど、アナタの場合は、それじゃあツマンナイわね」
リーダー格の先輩が私のほうに近づいてきました。
「右膝を曲げなさい」
「えっ?」
「右膝よ、右膝。お箸持つほうの側の膝」
言いながら私の右太腿がピシャリと手のひらではたかれました。
「あんっ!」
その痛みに呼応して、伸ばしていた右脚の膝を立てます。
「もっと深く曲げてっ!同じように左膝も」
「は、はい」
ベッドの上で、上半身は腹筋運動の途中、下半身は体育座りのような格好になっています。
「両膝を立てたら、左脚だけそのままソファーにつくように横に倒しなさい」
「えーっ?!」
「エーもビーもシーもないのっ!いちいちうるさいわねぇ!さっさと言われた通りにするっ!」
今度は左腿をバチンとはたかれて、私はおずおずと膝を曲げた形の左脚全体を横に倒していきます。
倒れるにつれて両腿の間のスジが徐々に割れていき、左脚がベッドにつく頃には、パックリと割れて濡れそぼった中身が丸見えになっていました。

「こ、こんな姿をスケッチするんですかあ?」
「何言ってるの?嬉しいクセに。たとえアナタが否定しても、そんなになってるソコ見たら、一目瞭然じゃない。あんまり感じすぎてソファー汚さないでよねっ!」
確かに、私の開いたアソコからは、溢れ出した蜜がトロリと内腿をつたい、ベッドのシーツまで糸を引いていました。

「部員のみなさん。今年の文化祭では、今日のモリシタナオコさんの裸婦画を画集にして、裏でこっそり売り捌く予定です。みなさんはりきって克明に描くように」
リーダー格の先輩が嬉しそうに言って、先輩がたがそれぞれ真剣に、私のあられもない姿を凝視しながら描き始めました。

「ちょっとォ、ユラユラしないでくれる?」
「モデルがフラフラ動いたらうまく描けないじゃない!」
「部長!この子のお下品なアヘ顔、なんとかなりません?創作意欲がそがれますぅ!」
「よだれまで垂らしちゃって、ヘンタイ女はどうしようもないわねっ!」
股間を大きく広げたまま、部員のみなさんに疼く裸体を晒している私は、そのあまりの恥ずかしさにジンジンジンジン感じてしまい、全身はプルプル小刻みに震え、火照ったからだ全体からジワジワと汗が滲み出ていました。
姿見には、そんな私の欲情しきった全裸姿が映っていました。

「やれやれ。見せて見られてコーフンしちゃうタイプだから、こうなっちゃうと収まりつきそうも無いわねえ」
部長と呼ばれたリーダー格の先輩が、心底呆れたみたいに見下しきった声で言いながら、私に近づいてきました。
片手に絵筆を持っています。
「いっそのこと、一度イかせちゃおうか?そうすればグッタリして、フラフラ動くこともなくなるんじゃない?」
そう言って、手にした絵筆で私の全開の左腋をサワッと撫ぜました。
「ひゃんっ!」
絵筆が肌の上を移動して、尖りきった左の乳首をチョコチョ撫ぜ回します。
「ああん、いやん、あふーんっ」
「ちょっと!アナタ、何ていう声出してるの?ここがどこだかわかる?神聖なる美術室なの。よくそんな発情しきった牝猫みたいな声、出せるわねっ!」
部長さんは、言葉とは裏腹に、筆先を右の乳首や脇腹、おへその下あたりまで縦横無尽に動かしてきます。
「あん、ああーんっ」
「いやん、だめ、だめーん」
「うーん、あっあっーんっ!」
私は、からだをクネクネ踊らせて、筆先の愛撫に身悶えています。

部長さんが操る筆先が、私の陰毛を下へ滑り、割れ始めの寸前でピタリと止まりました。
「アナタ、オナニーしたことあるわよね?ううん、こんなにいやらしいからだしてて、ない、なんて言わせないわ」
「あたしは、アナタのこんな汗まみれの汚いからだをさわるのはイヤなの。だからアナタ自分で自分を慰めて、さっさとイキなさい」
「ほら、この絵筆貸してあげるから。アナタが夜な夜なやってるみたいに、部員みんなの目の前で思う存分イキなさい」
「ただし、下品な喘ぎ声はなるべく慎んでちょうだいね。大きな声出すと先生がたがやってくるかもしれないから。みつかったら、あたしたちは厳重注意程度で済むだろうけど、素っ裸でオナニーしてたアナタは、間違いなく退学になるわね」
部長さんは、私のアソコのまわりを焦らすようにコソコソと筆で嬲りながら、蔑んだ目に嘲笑を浮かべています。

「ほら、さっさとやって。時間は15分。終わったら今度はフラフラしないで、ちゃんとモデルやるのよ!」
もう一度左腿をピシャリとはたかれて、二本の絵筆を投げつけるように渡されました。

私は、姿見に全身が映るようにベッドの上にお尻をつき、両膝を立てて大きくM字に開きました。
次から次に溢れ出てくる蜜でビチャビチャになったピンク色の奥が丸見えです。
右手には絵筆を二本。
私の目前には、美術部員の先輩がた7人が、私のアソコに熱い視線をぶつけてきます。

太い絵筆の毛先で、尖った乳首をくすぐります。
「あんっ、あはーん」
細い絵筆の毛先で、プックリ露呈しているツヤツヤのクリトリスをツンツンつっつきます。
「ふんっ、うふーんっ!」
二本の筆の間に乳首を挟んで、思い切りひねります。
「あっつううううぅぅ!」
二本の筆の柄を突っ込んで、アソコを大きくこじ開けます。
「いやーーんっーーーううっーん」
とうとうがまんできなくなって、右手の指二本をアソコに挿し込み、グルグルかき回し始めました。

「やだ。あの子の乳首あんなに伸びるのー?」
「痛くないのかしら。あ、そうか、痛いのがいいんだ。さすがヘンタイ」
「うわっ、オマンコの中がヒクヒク波打ってる」
「あの嬉しそうな顔は何?淫乱そのものって感じぃ」
「なんか小さな声で、見て見て見てもっと見て、って言ってるわよ?女の露出狂も本当にいるんだねー。やだー」
「今度クリスとレズらせてみよっかー?」
「あ、背中がのけぞった!そろそろイクみたいよ!」

頭の中にこだまする先輩がたの罵声が、私をどんどん高みに導きます。
アソコに潜らせた指が激しく内部を蹂躙し、親指の爪がクリトリスを引っ掻き回します。
「ぃぃぃーぅぅんーーんぅぅ、いいーーーんふぅぅーっ!!!」
やがてアソコの粘膜が盛大にどよめいて、頭の中が真っ白になりました。


しーちゃんのこと 12

2011年6月11日

しーちゃんのこと 10

ドキッ!
私は、しーちゃんの無邪気な言葉に内心、大いに動揺していました。
美術室で、みんなの前で全裸になっちゃうような人と私が、似ているって・・・

「でも、実際におしゃべりしてみたら、外見や顔は、そんなに似てなかったけどネ。背なんか、なおちゃんよりもっと高いし」
「でも、なんて言うのかなー、物腰?たたずまい?ちょっとした仕草?みたいのが、なおちゃんぽいかナー、って、あらためて思ったけど」
しーちゃんは、あくまで無邪気に言葉をつづけます。
お話を聞いた限り、ニノミヤ先輩っていう人は、確かに私と似た性癖、と言うか、嗜好を持っているみたいです。
しーちゃんには、そういうのがなんとなくな雰囲気でわかっちゃうのかなあ?
しーちゃんのお顔を上目遣いで盗み見ながら、なんだかすごくドキドキしてきてしまいました。

「ソファーとかを元通りにしたら、ニノミヤ先輩もやっと服を着始めたのネ」
しーちゃんがお話を、唐突に再開しました。
「ワタシ、ニノミヤ先輩が服を着るのを、突っ立ってボーッと見ていたの、それこそ放心状態で」
「そしたら三年の先輩がポンてワタシの肩たたいて、どうだった?って」
「びっくりしたでしょ?って聞くからワタシ、はい、とても、って」
「でもなんだかヒミツめいててワクワクもしない?とかいろいろ聞いてくるのを、ワタシ、ただ黙って首を縦にウンウン振って、うなずくだけだったヨ」

「ニノミヤ先輩がソファーに腰掛けてソックス履いてるのをまだボーッと眺めてたら、三年の先輩が、明日は課題勉強会だから、遅れないようにね、って、もう一度肩をたたかれたの」
「これは、今日はもうあなたは帰りなさい、っていう意味だな、と思って、空気読んで、ワタシはお先に失礼したのネ」
「ワタシがいなくなってから、きっと5人で、今のワタシの反応とかを話題にして盛り上がるんだろうなあ、なんてちょっと思ったけど、ワタシもかなり動揺していたし、気持ちを落ち着かせたくて、早く一人になりたかったから・・・」
しーちゃんは、コップのお水をゴクッと一口飲んで、じっと私を見つめてきました。

「お家に帰って、自分の部屋で、さっき部室でニノミヤ先輩がしたことを思い出していたら、なんだか無性に不安になってきちゃったのネ」
「ニノミヤ先輩は、別にイヤイヤやってるようでも、脅されてやらされてるようでもなかったから、イジメ、みたいなことではないんだと思うんだけど・・・」
「むしろ、裸を見られるのが嬉しい、みたいな雰囲気さえ、ワタシには感じられたんだけどサ・・・」
私の胸が、またドキンと波打ちます。

「もしも、もしもさあ、美術部にはそういう伝統って言うか、しきたりみたいのがあって、部員はみんな、一度は裸婦のモデルをやらなきゃいけない、みたいなルールがあったりしたら、ワタシ、イヤだなー、って思ってサ」
「みんなの前で一人だけ裸になるなんて、ワタシ絶対出来ないから・・・」
「すんごく不安になってきちゃって、そういうのがもしあるんだったら、美術部やめよう、とまで思い込んじゃってサ・・・」
しーちゃんが自嘲っぽく小さく笑いました。

「それで今日、勉強会の後に先輩にこっそり聞いてみたのネ」
「勉強会早めに終わったから、昨日その場にいた先輩、三年のトリゴエ先輩と二年のオガワ先輩を捕まえて、廊下の隅でヒソヒソと」
「トリゴエ先輩とオガワ先輩は、いっつも一緒にいるのネ。すんごく仲いい感じ」
「先輩たち、ワタシがせっかくヒソヒソと話してるのに、聞いた途端に盛大に笑い転げちゃってたヨ」
「美術部にそんなしきたりなんて全然無いし、もちろんニノミヤ先輩へのイジメとかでもなくって、あれはニノミヤ先輩がしたくってしてること、なんだって」
「でも、先輩たちがときどきそういうことをしてるのを知っているのは、ニノミヤ先輩を含めた昨日の5人の先輩たちと、昨日初参加のワタシだけだから、絶対他の部員には言わないように、って固く口止めされたヨ。とくに他の新入部員には絶対に、だってサ」
「ワタシ、ヒミツの悪い仲間に選ばれちゃったみたいだヨ?」
しーちゃんが嬉しそうに笑いました。

「なんでも、去年の部の合宿のとき、その5人グループで一緒にお風呂に入ったんだって。で、ニノミヤ先輩の裸がとてもキレイだったから、冗談半分本気半分でヌードモデルやってよ、って、当時二年生のトリゴエ先輩が熱心に口説いたら、その夜、合宿してたホテルのお部屋で、モジモジ恥ずかしがりながらも、脱いでモデルしてくれたんだって」
「合宿の部屋割もその5人だったから、その後もずっと、その5人だけがヒミツを共有してるんだって」

「ワタシが、ニノミヤ先輩、恥ずかしそうなのはもちろんなんだけど、何て言うか、嬉しそうな感じでもありましたよネ?って聞いたのネ」
「そしたらオガワ先輩が、しのぶちゃんでも気づいてたんだ、ってクスクス笑って、クリスはね・・・」
「あ、クリスっていうのはニノミヤ先輩の名前ネ。正確にはクリスティーナだかクリスティーヌだか。お父さんがイギリスだかフランス人だかで、ハーフなんだって」
「でもそんなにそれっぽい顔ではないんだけど。あ、もちろん、すんごく綺麗な顔であることは間違いないヨ」

「それで、オガワ先輩が、クリスはね、露出症なんだよ。って。裸とか恥ずかしい格好を誰かに見られることが気持ちいいんだって」
「オガワ先輩とニノミヤ先輩は、同じ中学出身の幼馴染なのネ。それで、ニノミヤ先輩はちっちゃい頃からその傾向があったんだって」
「近所の子供たちとお医者さんごっこするときも決まって患者さん役だったし、小学校や中学校のときも、女子だけのお泊り会で王様ゲームとか、負けたら脱ぐのを賭けたゲームしたりして、みんなでクリスをよく裸にしてたんだ。って、オガワ先輩が言ってた」
「そのたんびにクリスったら、恥ずかしいくせになんだか嬉しそうなのよねー。それがまた可愛くってさー。って」
「クリスは、もちろんナイスプロポーションだから、それを見せびらかしたい、っていうナルシスも少し混じってるんだろうけど、それだけじゃないんだろうねー。あれ、絶対ビンビン感じちゃってると思う。なんだかちょっぴりうらやましいから、こっちもなんだかウズウズしちゃって、なおさらイジワルしたくなっちゃうんだよねー・・・って、オガワ先輩がしみじみ言ってた」

「ワタシは、恥ずかしいのは、やっぱり恥ずかしいだけで、気持ちいい、っていうのがよくわかんないんだけど、世の中にはそういう人もいるんだネ?」
しーちゃんが当惑したような、私に同意を求めるような、ビミョーなお顔をして私を見つめてきます。

今にして思えば、このときはチャンスでした。
「実は、私もニノミヤ先輩のその気持ちがわかるの。私にもそういう傾向があるの。しーちゃんに私の裸を見て欲しいの」
って、勇気を出して言えたら、私としーちゃんのお話も、また違った展開になっていたのかもしれません。

でも、その頃もまだ、私はしーちゃんに自分の性癖について、チラッともお話していませんでしたし、オナニーしていることさえもヒミツでした。
しーちゃんと仲良くなればなるほど、しーちゃんが時折見せてくれる性的なことに対する無垢な純粋さや無邪気さと、私がひた隠しにしている、すでに身につけてしまったヘンタイ性や歪んだ妄想癖とのギャップが絶望的に見えて、しーちゃんに対して、安易な性的アプローチがとれない理由となっていました。

さらに、放課後の美術室で全裸を晒すニノミヤ先輩のお話を聞いて、私の妄想回路が今やフル回転、緊急のムラムラモードに突入していました。
しーちゃんとどうこう、っていうのより、早くお家に帰って、今のお話を元に、自分なりの妄想展開で思いっきりオナニーしたい、っていう欲求が私の頭の中を埋め尽くしていました。

「露出症っていう趣味嗜好の人がいる、っていうのは私も何かで読んだことがあるよ・・・」
あたりさわりのない答えでごまかしました。
「ふーん。見ているワタシがすんごくドキドキしちゃうんだから、見せているほうは、ものすごーくコーフンしちゃうんだろうナー」
しーちゃんは、あくまで無邪気に夢見る目つきです。
「そんな話をしてたんで、今日は教室に戻るの、ちょっと遅れちゃったんだヨ。でも、なおちゃんに話せてなんだかスッキリした。部活、これからいろいろ楽しくなりそうだナー」
言いながら、しーちゃんが何気なく自分の腕時計を見て、ギョッとしたお顔になりました。
「もう、こんな時間だヨ。夕飯に遅れたら叱られちゃうヨー」
夢中でお話していて、ずいぶん時間が経っちゃったようです。
バタバタとあわただしく喫茶室を出て、駅前の交差点のところでお別れしました。
「バイバーイ。来週また、学校でネー」

夕食を終えて入浴も済ませ、バスタオル一枚のまま身繕いを終えた私は、ベッドの前に姿見を移動しました。
パソコンで裸のマハを検索し、そのポーズを頭の中に焼き付けます。
学校で使っている絵画用具セットの中から、絵筆を2本、太いのと細いのを取り出して枕元に置きました。
それから、バスタオルを取って裸になると、下着は着けず、素肌の上にじかに、高校の制服、ブラウスとスカートとネクタイとベストとソックスをいそいそ身に着けました。
おっと、お部屋の鍵も閉めておかなくちゃ。


しーちゃんのこと 11

2011年6月6日

しーちゃんのこと 09

毎週金曜日は、しーちゃんは美術部で勉強会の日、私は文芸部図書室受付当番の日だったので、部活が終わった後、クラスのお教室に戻って待ち合わせて、一緒に下校していました。
しーちゃんはその日、いつもより15分くらい遅れてクラスのお教室に現われました。

電車に乗って地元の駅に着くまでは、いつもの他愛も無いおしゃべりをしていたのですが、駅を出たとき、
「ちょっとお茶していこうヨ?」
って、意味あり気にしーちゃんに誘われて、駅ビルの地下の喫茶室に入りました。

「昨日サ、なおちゃんバレエだったから放課後ツマンナイし、部活に顔を出したのネ」
ウエイトレスさんが二人分の紅茶を置いて立ち去ったのを見届けてから、しーちゃんが話したくってしょうがなかった、っていうお顔で、内緒話をするみたいなヒソヒソ声で切り出しました。

「昨日は自由参加の日だから、美術室には二年の先輩3人と三年の先輩2人だけがいて、ワタシはコンピューターグラフィックを練習しようと思っていたのネ」
「先輩たちは、その日は絵とかは描いてなくて、ソファーや椅子に座って、ただおしゃべりしてたみたいだったの」
「その一週間くらい前にコンピューターを教えてくれた二年生の先輩、ニノミヤ先輩っていうんだけど、その先輩もいたからラッキーって思って、その先輩の隣に座ったのネ」
「でも、みんなまったりおしゃべりしてるから、コンピューター起動するのもKYかなと思って、しばらく一緒におしゃべりしていたのネ」
しーちゃんは、ずーっと声をひそめたまま、思わせぶりにつづけます。

「おしゃべりが一段落したとき、三年生の先輩の一人が、今日はしのぶちゃんも来たから、あ、ワタシ先輩たちからしのぶちゃんって呼ばれてるのネ」
しーちゃんが少し照れたお顔をしました。
「今日はしのぶちゃんも来たから、久しぶりにクロッキー、やろうか?って言い出したのネ」
「クロッキーっていうのは、人とか人形とかモデルを見ながら、スケッチを短時間でやるやつ。線画みたいな感じで単色で、濃淡で質感出したり、っていうスケッチ」
「ちなみに、時間かけてやるのは、デッサン、ネ」
「そう言ったとき、その三年の先輩がニノミヤ先輩のほうを見て、ニッって笑ったような気がしたの。ワタシの隣のニノミヤ先輩もなんだかモジモジし始めて」
しーちゃんがティカップに唇をつけて、またソーサーに戻しました。

「先輩たちが座っていたソファーから立って、そのソファーをフロアの中央に運んだり、ドアの鍵を閉めたりカーテン引いたりし始めたのネ。ワタシ、何が始まるのか、と思ったヨ」
「しのぶちゃん、スケッチブック持ってきた?って聞かれたから、いえ、今日はCGやろうかと思っていたんで・・・って言いながらニノミヤ先輩のほう向いたら、ニノミヤ先輩は席を立って、ソファーのほうに行ってた」
「二年の先輩が、じゃあこれあげる。入部記念に特別よ。ってロッカーから真新しいクロッキー帳を出してきて、笑顔で手渡してくれた。あとエンピツも」
「ロッカーのほうに行ってたワタシがそれらをもらって、元の場所のほうへ戻ろうと振り返ったら・・・」
そこでしーちゃんが言葉を止め、私の顔をまじまじと見つめてきました。
私もしーちゃんを見つめ返します。

「振り返ったら、ソファーの前でニノミヤ先輩がスルスルって、制服、脱ぎ始めてたの」
「えーーっ!」
私は、思わず大きめの声を出しながら前屈みになっていた背中を起こしてしまい、あわてて口を手で押さえ、また背中を丸めてテーブル越しにしーちゃんと見つめ合います。

「ベスト取って、ネクタイ抜いて、ブラウス脱いで、ブラジャー取って、上履き脱いで、ソックスも脱いで、スカート脱いで、パンツも脱いで、一糸まとわぬオールヌード・・・蛍光灯全開ですんごーく明るい夕方の美術室でだヨ」
「ニノミヤ先輩、けっこうサバサバ脱いでるようだったんだけど、顔を見るとやっぱりすごーく恥ずかしそうなのネ。頬が薄っすら赤くなっちゃって、でも脱いだ服を裸のまま丁寧にたたんだりして、余裕があるような、やっぱり恥ずかしがっているような・・・」

「ニノミヤ先輩が脱いでいる間、他の先輩たちは腕組みとかしてじーーーっとそれを見てるの。服を脱いでいくのを」
「こっちにお尻を向けて服をたたんでたニノミヤ先輩がたたみ終わったらしくこっちを向いて、ポーズをつけるみたいに私たちの前にスクッと立ったの。右手でバストを隠して、左手をアソコの前に置いて・・・ほら、ヴィーナスの誕生、みたいなポーズ」

「それが、すごーーーーーっくキレイなの!」
「ニノミヤ先輩、スタイルすんごくいいの。バストはそんな大きくないけど形が良くって、ウエストはキュッってくびれてて、キレイな髪が裸の肩にフワリと垂れて・・・」
「肌も滑らかそうな、白いとかそういうんじゃなくて、本当の肌色って言うか、薄桃色みたいな感じで、ツヤがあって」
しーちゃんが私を見つめてきます。

「三年の先輩が大きなクッションを2つ持ってきて、今日はしのぶちゃん初めてだから、基本っていうことでマヤで行こうか、なんて言いながらクッションをソファーの上と下に置いたのネ」
「そしたらニノミヤ先輩、裸のままソファーの下のクッションにお尻ついて、背中をもう一個のクッションの上に乗せて、両腕を枕にするように上にあげて、両腋の下全開で・・・」
「なおちゃん、裸のマヤっていう絵知ってるでしょ?スペイン語読みだとマハだったっけかナ。ググッたらすぐ出てくるヨ。その絵のポーズでソファーにもたれたの」

「しのぶちゃんは、このへんで描いてって、椅子を置かれたのがニノミヤ先輩の下半身の前あたりでサ。2メートルくらいの距離があるんだけど、ニノミヤ先輩、頬や首筋がピンク色に上気して、目も少し潤んでるみたいで・・・」
「じゃあ、15分ね。あの時計で4時25分まで。クロッキー、スタート!って三年の先輩が言って、みんな真剣に描き始めたの」
「ワタシも描き始めたヨ。昔、絵画教室でクロッキーやってたから慣れてたし」

「でもネ・・・」
しーちゃんがまた、ティーカップに手を伸ばしました。
私は、お話に引き込まれてしまい、動くこともできません。

「ワタシの位置からだと、ニノミヤ先輩のアソコが至近距離でモロ、なのネ。ニノミヤ先輩の毛、アソコのネ、も薄くてチョロチョロなの。左膝を少し曲げ気味にしてたから。あの、なんて言うか、スジまで丸見えなのネ」
「ニノミヤ先輩の頬はさっきより上気しているし、恥ずかしいんだろうナーって思ったら、ワタシも恥ずかしくなってきて・・・」
お話している、しーちゃんの頬もピンクに上気していました。

「描きながらずーっとドキドキしっぱなしで、思うようにエンピツが動かなくて・・・」
「それで、ときどきニノミヤ先輩がワタシのほうにかすかな目線をくれるのネ。それで目が合うと、本当にかすかに、笑いかけてくれてるような気がして、それでドキドキがゾクゾクッていう感じになっちゃって・・・」
「それで結局、15分で輪郭くらいしか描けなかったヨ」
しーちゃんが、ここまででお話一段落、みたいな感じで背中を起こしました。
私もつられて背中を起こします。

しばらく無言で見つめ合ってから、またしーちゃんが身を乗り出しました。
すかさず私もつづきます。

「先輩たちがワタシのクロッキー帳取り上げてサ、なーんだ、まだぜんぜん描けてないじゃなーい、なんて、からかうように言ってくるのネ。たぶん本当にワタシ、からかわれているんだと思うんだけどネ」
「それで、その輪にニノミヤ先輩も裸のまんま加わってるの。笑顔浮かべて、ワタシの背後でキレイなバスト、プルプル揺らして・・・」
「三年の先輩が、しのぶちゃんのがぜんぜん未完成だから、今度またこの6人が集まったら、つづきをやりまーす。って宣言して、そのクロッキー大会は終わったんだけどネ」

「それでネ、みんなでソファーとか片付け始めたんだけど、ニノミヤ先輩ったら、なかなか服着ないの。裸のまんまソファー運んだリ、他の先輩とおしゃべりしたり」
「ワタシのところにも来て、CGはまた今度、教えてあげるわね、なんて恥ずかしそうな笑顔で言われて」
「ワタシ、思わず言っちゃった。先輩のハダカ、すごーくキレイですね、って。だって本当にキレイだと思ったから」
「そしたら、アリガト、次が楽しみね、だって。なんだかとっても嬉し恥ずかし、って感じだった・・・」

「・・・ねえ、なおちゃん、どう思う?」

どう思う、って聞かれても・・・
私の頭の中は、しーちゃんのショーゲキの報告に大混乱していました。

まず、まだ普通に生徒たちがいる学校の一室で、正当な理由で全裸になって、みんなに裸を見てもらえる部活動がある、っていうのがショーゲキでした。
美術部ならば確かに、裸婦画っていうのは一つの芸術のジャンルですから、そのモデルを一生徒がやっても問題は無いのかもしれません。
でも、鍵をかけているところをみると、やっぱり先生たちには内緒のアソビなのかしら?
その裸を他の人たちがちゃんと真剣にスケッチしている、っていうのも、芸術家としては当然なのでしょうが、事情を知らない人から見ると、なかなかにシュールでエロい光景に思えます。
写真部とかでも、やってたりして・・・

女子校だから、っていうも大きいのかな、とも思いました。
私たちのクラスでも、6月になってムシ暑くなってきたので、授業中にネクタイを緩めて、胸元のボタンも3つくらい開けて、ブラをチラチラ見せながらアチーーとか言っている豪快なクラスメイトが何人かいました。
先生もそれに関して、とくに注意とかしないんです。
休み時間にスカートをバサバサやって涼を取り、可愛いショーツを見せびらかせている、たぶん本人にそんなつもりはないのでしょうが、人がいたり、体育の着替えのとき、あっけらかんとおっぱい丸出しで普通のブラからスポーツブラに着替える人がいたり。

男性の目が無い、女性同士なら別に下着を見られようが裸を見られようが恥ずかしくない、っていう油断と安心感は、やっぱり女子校だと強いんだと思います。

でも、今しーちゃんから聞いたニノミヤ先輩のお話は、それだけでは説明できないショーゲキでした。
絶対、ニノミヤ先輩は、みんなの前で裸になることを楽しんでいるはずです。
すっごく恥ずかしいのに、楽しんでいるはずです。
そして私はそれを、心底うらやましいと思っていました。

「どう、って言われても・・・」
私は、慎重に言葉を選んで答えようとしましたが、うまく言葉がみつかりません。
仕方が無いので、ごまかすようにしーちゃんに聞きました。
「そのニノミヤ先輩っていう人は、どんな感じの人なの?」
「うんとネー、オトナっぽい感じで、背が高くて、髪は肩くらいまでのサラサラで顔が小さくて、プロポーション抜群で・・・」
「そうだっ!前に言わなかったっけ?憶えてない?春になおちゃんと部活見学行ったとき、ワタシが、なおちゃんにどことなく雰囲気が似てる人がいたネー、って言ったでしょ?あの人だヨ」


しーちゃんのこと 10

2011年6月5日

しーちゃんのこと 08

「ねえねえ、なおちゃん、中川さん。もう部活決めた?」
入学式から二週間ほどたったある日のお昼休み、しーちゃんが私の席まで来て、聞いてきました。
私は、お隣の席の中川ありささんとおしゃべりをしていました。

中川さんとは、すでにすっかり仲良しになっていました。
背は小さめだけど元気一杯で、いつもニコニコしている人なつっこい中川さんは、お話しているだけでこちらにも元気がもらえるようなポジティブまっすぐな女の子でした。
「あたしは、演劇部に決めたんだ」
中川さんがしーちゃんに答えます。
しーちゃんと中川さんもすでに仲良しさんになっていました。

「わたしは、軽音部に入ってバンド組むつもり」
しーちゃんの後ろからこちらへやって来たのは、しーちゃんのお隣の席の友田有希さん。
背が高くてストレートのロングヘアーでからだの発育もいい、なんだかカッコイイ感じの女の子です。
しーちゃんとアニソンのお話で盛り上がり、たちまち意気投合したんだそうです。
そして、ステキな偶然もあるもので、中川さんと友田さんは、同じ中学出身なお友達同士でした。

「アタシもまだ決めてないんだよねー」
会話に混ざってきたのは、私の後ろの席の山科洋子さん。
なんだか色っぽい感じのウルフカットでスレンダーな美人さん。
私とは違うバレエ教室に通っているそうで、もちろんバレエのお話がきっかけでお友達になれました。

私たちのクラスには、派手に髪を染めていたり、極端に短かいスカートを穿いてくるような、いわゆるギャルっぽい人は一人もいなくて、なんだかみんないい人っぽい、おだやかな感じの女の子ばかりでした。
この学校の制服のデザインだと、短かいスカートは絶対合わないのは誰の目にも明らかなので、そうい人は最初からこの学校に来ないのでしょうけど。
さすが、まわりからお嬢様学校、と思われているだけあって、なんとなくお上品というか、マイペースな感じの人ばかりみたい。
私には、とても居心地のいい雰囲気でした。

そんなクラスで早くもお友達になれた3人としーちゃんとで、しばらく部活のことについておしゃべりしました。
「ワタシ、美術部にするかマンガ研究会にするか、迷ってるんだよネー」
しーちゃんが言うには、マン研は、すでに部員がいっぱいいて活気がある感じなんだけれど、なんだかみんな理屈っぽそうな雰囲気がしたんだそうです。
それに較べて美術部は、先輩がたがみんな落ち着いた感じで、人数も少なくて、逆に言うとちょっと暗い感じ。
「お姉ちゃんに聞いたら、私には美術部のほうが合っている、ってニヤニヤしながら言うんだよネー。どういう意味なんだろう?」
しーちゃんのお姉さんは、三年生に進級して、生徒会会長になっていました。
BL大好きな、フジョシな生徒会長さん、です。

「森下さんは、バレエ習ってるんだから、新体操部とかダンス部とか、いいんじゃない?」
山科さんが聞いてきます。
「うーん・・・そう言う山科さんは、そういうところへ入るつもりなの?」
「アタシは、体育会系はパスかなあ・・・バレエ教室で充分て言うか・・・部活になっちゃうとしんどそうだし、教えてくれる先生によって指導も違いそうだし」
「そうでしょ?私も同じ気持ちなの。だから文芸部に入ろうかなあって思ってる」
「うちは全員、何かしら部活に入らなきゃいけない決まりだからねえ。アタシも演劇部にでも入ろうかなあ・・・」
「あ、それいいよ。あたしと一緒に演劇やろう。山科さんなら舞台栄えしそー。男装の麗人とか」
「何それ?アタシのおっぱいが男子並、って言いたいの?」
「いやいやいや、そーじゃなくてー」
中川さんが嬉しそうに山科さんの手を引っぱりました。

「なおちゃんは、中学のとき、ずーっと図書委員だったんだヨ。すっごくたくさん本読んでるの」
しーちゃんがみんなに説明しています。
しーちゃんも、一対一じゃなくても普通にみんなの会話に混ざるように努力しているようでした。

この高校には、図書委員っていう制度は無くて、図書室の運営や管理をしているのは文芸部なのだそうです。
入学した次の日に訪れた図書室はとても立派で、まだ読んでいない本がたくさんあったので、高校でもまた図書委員に立候補しようと思っていたのですが、そのことを聞いたので、文芸部しか考えられなくなっていました。
部活見学で再度訪れて説明を聞いたら、読むだけではなく、小説やエッセイを執筆して機関誌の発行とかもするようで、小学校の頃から一応日記みたいなものを書いていた私は、ますます興味を惹かれました。
ちゃんとした文章の作法とかも勉強できそうだし。

「なおちゃんがエッセイ書いたら、ワタシがイラスト付けてあげるヨ」
しーちゃんがニッって笑いかけてくれます。
そんな感じでお昼休みの間中、ガヤガヤとおしゃべりしました。

「ねえ、なおちゃん。ワタシ、もう一回美術部見学に行くから、なおちゃん、つきあってくれない?」
その日の放課後、しーちゃんと一緒に帰ろうとしたとき、しーちゃんが言いました。
「いいよ」
私は、軽い気持ちで引き受けて、二人で3階の美術室を訪れました。

3階校舎のはずれにある美術室は、普段並んでいる椅子や机がきれいに片付けられ、広いフロアにイーゼルが7台、みんな思い思いの方向に向けられて立っていて、その前で7人の部員さんたちが、真剣な面持ちでキャンバスに絵筆を滑らせていました。
「あっ、いらっしゃい。えーっと確か藤原さん、だったっけ?どう?決心はついた?」
先輩らしき一人がキャンバスから顔を上げて、こちらに声をかけてきました。
髪の長い、落ち着いた感じのオトナっぽいキレイな人でした。
「あっ、はいっ。まあだいたいは・・・」
しーちゃんが緊張した声で答えています。
「そちらは?」
「あっ、彼女はワタシのお友達で、彼女は文芸部に入る予定なので、付き添いです」
「そう。ゆっくりしていってね」
その人が私を見つめて、ニッコリ笑ってくれました。
「今日は、自由参加の日だから、今描いているのはみんな好き好きの自由な個人作品なの。部全体での課題勉強会は水曜日と金曜日だけ。その他の日は来ても来なくてもいいし、自由参加の日は、こうして自分の作品を描いててもいいし、そこのソファーでおしゃべりしててもいいわ。結構ラクな部活よ」
しーちゃんのほうを向いてそれだけ言うと、その人はまた顔をキャンバスに向けて、自分の作品に戻りました。

私としーちゃんは、なるべく迷惑にならないようにそーっと歩いて、それぞれの絵を描いている先輩がたの背後に回り、それぞれの作品を見せていただきました。
私たちが近寄っていくと、みんなお顔をこちらに向けて、ニコっと会釈してくれます。
私には、絵の上手下手はまったくわかりませんが、みなさん上手いように思えました。

木目の綺麗な壁で囲まれたシックな感じの美術室には、油絵の具の香りがただよい、レースのカーテンがひかれた西側の窓から春の夕方の陽射しがやわらかく射し込み、しんと静まりかえった中に時折サラサラと絵筆が滑る音・・・
みんな耳にイヤフォンをしているということは、思い思いに好きな音楽を聴きながら、絵を描いているのでしょう。
7人の先輩がたは、みんな真剣で、オトナな感じで、カッコイイと思いました。

「コンピューターでの絵の描き方も教えてくれるって言うし、美術部に決めちゃおうかナ」
見学を終えて、しーちゃんと帰宅する道すがら、しーちゃんがウキウキした感じで言いました。
しーちゃんも高校進学のお祝いにパソコンを買ってもらったそうです。
「先輩たちみんな、カッコイイ感じだったね。決めちゃえば?」
「中に一人、すごーく雰囲気のある、オトナっぽい感じの人、いたでしょ?」
「えーっと、みんなオトナっぽく見えたけど・・・」
「一番背が高くて、抽象画を描いていた人。あのひと雰囲気がどことなくなおちゃんに似てたヨ」
「へー。どの人だろう?」
私は、全然覚えていませんでした。

結局、私は文芸部、しーちゃんは美術部、中川さんと山科さんは演劇部、友田さんは軽音部に入部しました。

部活とバレエ教室以外の日は早めに帰宅してパソコンのお勉強をし、そうしている間に初めての中間試験を迎え、という具合に4月と5月があわただしく過ぎていきました。

5月の連休までには、パソコンのだいたいの操作を覚えた私は、連休初日にいよいよインターネットのえっちサイトデビューを果たしました。
最初に訪れたのは、相原さんのお家で見せてもらったえっちな告白サイト。
サイトの名前を覚えていたので、検索エンジンで検索するとすぐ見つかり、貪るように思う存分読み耽りました。
その後は、画像探しの旅です。
いろいろ検索して、いきなり無修正の男の人のアレ画像が出てきて、あわててパソコンの電源コード抜いちゃうようなこともありましたが、夜な夜なのえっちなネットサーフィンは、私の妄想オナニーの頼もしいオカズ元になっていました。

そんなこんなで迎えた6月初旬の金曜日。
しーちゃんと二人で帰宅する途中に立ち寄った喫茶店で、しーちゃんからスゴイお話を聞かされました。


しーちゃんのこと 09

2011年6月4日

しーちゃんのこと 07

高校へ進むのを機会に、心に決めていたことがありました。
念願だった女子校にも進めたことだし、今までの自分の性格を少し意識して変えてみよう、と。
なるべく明るくふるまうようにして、積極的に知らない人とも接するようにして、たくさんお友達を作って、たくさん楽しいことが出来るといいな、と。

もちろん中学での三年間でも、楽しいことはたくさんありました。
でも、入学時にこの地域に転居してきた関係で、知っている人がクラスに一人もいなかったこともあり、なんとなく人間関係全般で受け身な立場に慣れてしまい、愛ちゃんたちと仲良くなった後でも、なんだかいつも、みんなに引っぱってもらっているような感じをずーっとひきずっていました。
それに加えて、中二の夏休みに受けたトラウマ・・・
自分の内向きがちな性格とも相まって、中学での三年間は、自分から何かをする、ということがほとんど無かった気がしていました。
それを変えたいと思ったんです。

今度進む高校は、いろんな地域から生徒が集まりますから、みんな最初は知らない同士です。
今までの私を知っている人は、たぶんしーちゃんだけ。
それまでの人間関係が一度リセットされる進学は、自分の内向きがちなキャラを変える絶好のチャンスだと思ったんです。

卒業式の後で私はしーちゃんに、そんな自分の決意を告げました。
「それ、わかる気がする。ワタシもなおちゃんと同じようなことを考えてたヨ。ワタシももう少し社交的にならなきゃナー、って」
しーちゃんがニッコリ賛同してくれました。
「それに、新しい学校でまったくみんな知らない人ばっかだったら、やっぱりちょっと身構えちゃうけど、なおちゃんも一緒だしネ。もしも同じクラスになれなくても、同じ学内ならいつでも会えるし」
「ワタシもいろいろと、高校デビューしちゃうつもりだヨ」
しーちゃんも、まだ見ぬ女子高生活にすっごくワクワクしているようでした。
「でもやっぱり、なおちゃんと一緒のクラスになれるといいナー」
それは、私も同じ気持ちでした。

私が住んでいる町の最寄りの駅からターミナル駅を超えて5つめの駅に、その女子高校はありました。
初めての電車通学です。
入学式の朝、車で送ると言ってくれる母の申し出を断って、しーちゃんと駅で待ち合わせ、一緒に学校に向かいました。
朝の電車は混むし、痴漢とかのことも聞いていたので、女性専用車両に乗り込みました。
想像していたより全然、電車内は混んでいなくて、これなら別に無理して女性専用車両に乗らなくてもいいみたい。

私としーちゃんは、もちろん同じデザインの制服を着ています。
濃いめのグレーのブレザーに同じ色の膝丈スカート。
ブレザーの下には、ブレザーと同じ色で、ショルダーラインの幅が広く、両脇が大きく開いた、ちょうど和服の裃みたいなデザインのベスト。
その下には、白のブラウスに紺色のネクタイ。
全体的に直線の多いシャープなデザインで、なんだかオトナっぽくって、私は一目でこの制服をすっごく気に入っていました。
この制服が着たかった、っていうのもこの学校を選んだ大きな要因でした。
ショートヘアのしーちゃんが着ると、西洋の美少年お坊ちゃまみたいで、それはそれですっごく似合っていました。

校舎は、駅を出てから商店街、住宅街を10分くらい歩いて、周囲に田園風景が広がり始めるのどかな一角にありました。
昭和の戦争のずっと前からあったというその女子高は、さすがに時代を感じさせる厳かな雰囲気の校門とクラシカルながら立派な校舎。
受験のときは、ちらほらと雪が舞っていた畑沿いの道も、今日は、両脇に植えてある何本もの桜の木に、キレイなピンクの花びらが満開でした。

校門をくぐり、クラス分けが載っているプリントを受付でもらいました。
「やったヨー、なおちゃん!おんなじクラスだヨ!」
しーちゃんが大きな声をあげて私に飛びついてきました。
「よかったー。しーちゃん、また一年、よろしくねー」
私もすっごく嬉しくて、しーちゃんと抱き合って喜びました。

一年A組。
入学式を終え、クラスのお教室に入ると、私たちはとりあえず出席番号順に並んで着席させられました。
一クラス32名、全員女子。
なんだかホッとしてしまいます。

順番に短かく自己紹介をしていきました。
もしも知っている顔が誰もいない一人ぼっちの状態でしたらドキドキの瞬間ですが、私の3つ前の席にしーちゃんがいると思うと、ずいぶん気がラクになって、スラスラと自己紹介できました。
イイ感じです。
この調子でお隣の人にも声をかけてみようか・・・
担任となった30代くらいの女性の先生のお話が終わって解散になったとき、そう考えて右隣に顔を向けたら、
「森下直子さん、だったっけ?あたし、ナカガワアリサ、よろしくね?」
その人のほうから声をかけてきました。
肩くらいまでの髪を真ん中で分けて、左右を短くおさげにした人なつっこそうなカワイイお顔がニコニコ私を見つめていました。
「あ、はいっ。こちらこそよろしくですっ!」
私も精一杯明るい笑顔でごあいさつしました。
ナカガワさんは、なおいっそうやさしげな笑みになって、右手を小さく左右に振りながら、ご自分のお友達らしい人のところへゆっくりと歩いていきました。

早速お友達が出来そうです。
しーちゃんとも一緒のクラスになれたし、今のところ最高な滑り出し。
そんなふうに、私の高校生活が始まりました。

高校進学と前後して、我が家にも大きな変化がいくつかありました。

一つは、ハウスキーパーの篠原さん親娘が、我が家の二階で同居することになったこと。
それまで篠原さんが住んでいたマンションが更新になるのを機に、いっそのこと住み込みで働いたら?、という父の提案でした。
これ以上ご迷惑はかけられない、と篠原さんはずいぶんご遠慮されたそうですが、篠原さんのことをすっごく気に入っている母がモーレツに説得したようです。
家賃がもったいないし、我が家の二階には使っていないお部屋がいくつもあるし、私の受験も終わるし、ともちゃんも大きくなったし・・・
それまで、篠原さんが来られない日には、日中をずっと一人で過ごしていて、大いにヒマをもてあましていたらしい母の熱心な説得に篠原さんも恐縮しつつもうなずいてくれて、四月の中旬にお引越ししてきました。

もちろん私も大歓迎です。
篠原さんは、優しくて優雅でキレイで大好きですし、小学校二年生になったともちゃんは、私にとても懐いてくれていて、ちっちゃいからだでニコニコしてて本当に可愛らしくて、ずっと長い間、妹が欲しかった私は大喜び。
これからいつでも、お家に帰るとともちゃんがいて、一緒に遊んだり、お風呂に入ったりできるんだ、と思うと知らず知らず、顔がほころんでしまいます。

我が家の二階の改装は、私の受験が終わった2月下旬から始まっていました。
一階に、篠原さん宅専用の玄関を設けて、我が家の玄関を通らなくても篠原さん宅に入れるようにして、二階のお部屋も、篠原さんのほうからは、棟つづきの私のお部屋のほうには来れないようにすることになっていました。
「親しき仲にも礼儀あり、でしょ?篠原さんたちが気兼ねなくくつろげるように、お仕事以外のプライベートでは、お互いのプライバシーが完全に守れるようにしましょう」
という母の提案でした。
そのため、二階にもお風呂場やキッチンを増設したり、篠原さん宅用玄関からつづく階段を新たに加えたり、と大々的な改装工事となって、完成が予定より一週間ほど遅れてしまいました。

私がちょっぴり不安だったのは、お部屋でオナニーするときの声・・・
今までは、二階には誰もいなかったけれど、これからは篠原さん親娘がお部屋一つと壁を挟んだ向こう側にいつもいることになります。
もちろん今までも声はなるべく押し殺すようにしていたので、あまり気にすることもないとは思うのですが・・・

もう一つの変化は、パソコン一式と携帯電話を買ってもらったこと。
とくにパソコンは、中三のとき、相原さんのお家でさわらせてもらって以来、欲しいなあ、と思っていたものなので、すっごく嬉しかった。

高校の入学式が迫った日曜日の昼下がり。
めずらしく父と二人で、車でおでかけしました。
画面が大きめのノートタイプのパソコンとプリンター、その他を父が選んでくれて、お家に戻ると、設置も全部父がやってくれました。
「ほれ。これで一応インターネットの接続もプリンターも全部動くから。あとはこの本をよく読んで、自分で覚えなさい。なあに、直子ならすぐに使いこなせるようになるさ」
言いながら父は、分厚い本を3冊、私に手渡してくれました。
「タイピングの基本とワープロと表計算、それくらいをまず覚えればいいから」
父はなんだか嬉しそうに笑うと、私の肩を軽くポンッて叩いてお部屋から出て行きました。

パソコンを使いこなせるようになれば、あの日相原さんのお部屋で見たえっちなホームページとかも自由に見ることができる・・・
私は、早速その夜から、熱心にパソコン操作のお勉強を始めました。


しーちゃんのこと 08