2011年6月5日

しーちゃんのこと 08

「ねえねえ、なおちゃん、中川さん。もう部活決めた?」
入学式から二週間ほどたったある日のお昼休み、しーちゃんが私の席まで来て、聞いてきました。
私は、お隣の席の中川ありささんとおしゃべりをしていました。

中川さんとは、すでにすっかり仲良しになっていました。
背は小さめだけど元気一杯で、いつもニコニコしている人なつっこい中川さんは、お話しているだけでこちらにも元気がもらえるようなポジティブまっすぐな女の子でした。
「あたしは、演劇部に決めたんだ」
中川さんがしーちゃんに答えます。
しーちゃんと中川さんもすでに仲良しさんになっていました。

「わたしは、軽音部に入ってバンド組むつもり」
しーちゃんの後ろからこちらへやって来たのは、しーちゃんのお隣の席の友田有希さん。
背が高くてストレートのロングヘアーでからだの発育もいい、なんだかカッコイイ感じの女の子です。
しーちゃんとアニソンのお話で盛り上がり、たちまち意気投合したんだそうです。
そして、ステキな偶然もあるもので、中川さんと友田さんは、同じ中学出身なお友達同士でした。

「アタシもまだ決めてないんだよねー」
会話に混ざってきたのは、私の後ろの席の山科洋子さん。
なんだか色っぽい感じのウルフカットでスレンダーな美人さん。
私とは違うバレエ教室に通っているそうで、もちろんバレエのお話がきっかけでお友達になれました。

私たちのクラスには、派手に髪を染めていたり、極端に短かいスカートを穿いてくるような、いわゆるギャルっぽい人は一人もいなくて、なんだかみんないい人っぽい、おだやかな感じの女の子ばかりでした。
この学校の制服のデザインだと、短かいスカートは絶対合わないのは誰の目にも明らかなので、そうい人は最初からこの学校に来ないのでしょうけど。
さすが、まわりからお嬢様学校、と思われているだけあって、なんとなくお上品というか、マイペースな感じの人ばかりみたい。
私には、とても居心地のいい雰囲気でした。

そんなクラスで早くもお友達になれた3人としーちゃんとで、しばらく部活のことについておしゃべりしました。
「ワタシ、美術部にするかマンガ研究会にするか、迷ってるんだよネー」
しーちゃんが言うには、マン研は、すでに部員がいっぱいいて活気がある感じなんだけれど、なんだかみんな理屈っぽそうな雰囲気がしたんだそうです。
それに較べて美術部は、先輩がたがみんな落ち着いた感じで、人数も少なくて、逆に言うとちょっと暗い感じ。
「お姉ちゃんに聞いたら、私には美術部のほうが合っている、ってニヤニヤしながら言うんだよネー。どういう意味なんだろう?」
しーちゃんのお姉さんは、三年生に進級して、生徒会会長になっていました。
BL大好きな、フジョシな生徒会長さん、です。

「森下さんは、バレエ習ってるんだから、新体操部とかダンス部とか、いいんじゃない?」
山科さんが聞いてきます。
「うーん・・・そう言う山科さんは、そういうところへ入るつもりなの?」
「アタシは、体育会系はパスかなあ・・・バレエ教室で充分て言うか・・・部活になっちゃうとしんどそうだし、教えてくれる先生によって指導も違いそうだし」
「そうでしょ?私も同じ気持ちなの。だから文芸部に入ろうかなあって思ってる」
「うちは全員、何かしら部活に入らなきゃいけない決まりだからねえ。アタシも演劇部にでも入ろうかなあ・・・」
「あ、それいいよ。あたしと一緒に演劇やろう。山科さんなら舞台栄えしそー。男装の麗人とか」
「何それ?アタシのおっぱいが男子並、って言いたいの?」
「いやいやいや、そーじゃなくてー」
中川さんが嬉しそうに山科さんの手を引っぱりました。

「なおちゃんは、中学のとき、ずーっと図書委員だったんだヨ。すっごくたくさん本読んでるの」
しーちゃんがみんなに説明しています。
しーちゃんも、一対一じゃなくても普通にみんなの会話に混ざるように努力しているようでした。

この高校には、図書委員っていう制度は無くて、図書室の運営や管理をしているのは文芸部なのだそうです。
入学した次の日に訪れた図書室はとても立派で、まだ読んでいない本がたくさんあったので、高校でもまた図書委員に立候補しようと思っていたのですが、そのことを聞いたので、文芸部しか考えられなくなっていました。
部活見学で再度訪れて説明を聞いたら、読むだけではなく、小説やエッセイを執筆して機関誌の発行とかもするようで、小学校の頃から一応日記みたいなものを書いていた私は、ますます興味を惹かれました。
ちゃんとした文章の作法とかも勉強できそうだし。

「なおちゃんがエッセイ書いたら、ワタシがイラスト付けてあげるヨ」
しーちゃんがニッって笑いかけてくれます。
そんな感じでお昼休みの間中、ガヤガヤとおしゃべりしました。

「ねえ、なおちゃん。ワタシ、もう一回美術部見学に行くから、なおちゃん、つきあってくれない?」
その日の放課後、しーちゃんと一緒に帰ろうとしたとき、しーちゃんが言いました。
「いいよ」
私は、軽い気持ちで引き受けて、二人で3階の美術室を訪れました。

3階校舎のはずれにある美術室は、普段並んでいる椅子や机がきれいに片付けられ、広いフロアにイーゼルが7台、みんな思い思いの方向に向けられて立っていて、その前で7人の部員さんたちが、真剣な面持ちでキャンバスに絵筆を滑らせていました。
「あっ、いらっしゃい。えーっと確か藤原さん、だったっけ?どう?決心はついた?」
先輩らしき一人がキャンバスから顔を上げて、こちらに声をかけてきました。
髪の長い、落ち着いた感じのオトナっぽいキレイな人でした。
「あっ、はいっ。まあだいたいは・・・」
しーちゃんが緊張した声で答えています。
「そちらは?」
「あっ、彼女はワタシのお友達で、彼女は文芸部に入る予定なので、付き添いです」
「そう。ゆっくりしていってね」
その人が私を見つめて、ニッコリ笑ってくれました。
「今日は、自由参加の日だから、今描いているのはみんな好き好きの自由な個人作品なの。部全体での課題勉強会は水曜日と金曜日だけ。その他の日は来ても来なくてもいいし、自由参加の日は、こうして自分の作品を描いててもいいし、そこのソファーでおしゃべりしててもいいわ。結構ラクな部活よ」
しーちゃんのほうを向いてそれだけ言うと、その人はまた顔をキャンバスに向けて、自分の作品に戻りました。

私としーちゃんは、なるべく迷惑にならないようにそーっと歩いて、それぞれの絵を描いている先輩がたの背後に回り、それぞれの作品を見せていただきました。
私たちが近寄っていくと、みんなお顔をこちらに向けて、ニコっと会釈してくれます。
私には、絵の上手下手はまったくわかりませんが、みなさん上手いように思えました。

木目の綺麗な壁で囲まれたシックな感じの美術室には、油絵の具の香りがただよい、レースのカーテンがひかれた西側の窓から春の夕方の陽射しがやわらかく射し込み、しんと静まりかえった中に時折サラサラと絵筆が滑る音・・・
みんな耳にイヤフォンをしているということは、思い思いに好きな音楽を聴きながら、絵を描いているのでしょう。
7人の先輩がたは、みんな真剣で、オトナな感じで、カッコイイと思いました。

「コンピューターでの絵の描き方も教えてくれるって言うし、美術部に決めちゃおうかナ」
見学を終えて、しーちゃんと帰宅する道すがら、しーちゃんがウキウキした感じで言いました。
しーちゃんも高校進学のお祝いにパソコンを買ってもらったそうです。
「先輩たちみんな、カッコイイ感じだったね。決めちゃえば?」
「中に一人、すごーく雰囲気のある、オトナっぽい感じの人、いたでしょ?」
「えーっと、みんなオトナっぽく見えたけど・・・」
「一番背が高くて、抽象画を描いていた人。あのひと雰囲気がどことなくなおちゃんに似てたヨ」
「へー。どの人だろう?」
私は、全然覚えていませんでした。

結局、私は文芸部、しーちゃんは美術部、中川さんと山科さんは演劇部、友田さんは軽音部に入部しました。

部活とバレエ教室以外の日は早めに帰宅してパソコンのお勉強をし、そうしている間に初めての中間試験を迎え、という具合に4月と5月があわただしく過ぎていきました。

5月の連休までには、パソコンのだいたいの操作を覚えた私は、連休初日にいよいよインターネットのえっちサイトデビューを果たしました。
最初に訪れたのは、相原さんのお家で見せてもらったえっちな告白サイト。
サイトの名前を覚えていたので、検索エンジンで検索するとすぐ見つかり、貪るように思う存分読み耽りました。
その後は、画像探しの旅です。
いろいろ検索して、いきなり無修正の男の人のアレ画像が出てきて、あわててパソコンの電源コード抜いちゃうようなこともありましたが、夜な夜なのえっちなネットサーフィンは、私の妄想オナニーの頼もしいオカズ元になっていました。

そんなこんなで迎えた6月初旬の金曜日。
しーちゃんと二人で帰宅する途中に立ち寄った喫茶店で、しーちゃんからスゴイお話を聞かされました。


しーちゃんのこと 09

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