2011年10月30日

ピアノにまつわるエトセトラ 09

 6時ちょっと過ぎにゆうこ先生にインターフォンで呼ばれ、お隣のお部屋に戻ると、美味しそうないい匂いがお部屋中に充満していました。

「一人暮らしをしていると、凝ったお料理とか、めんどくさくてなかなか作らなくなっちゃうから、ね?」
 
 ニットの上にライトブルーのエプロンを掛けたゆうこ先生が、ダイニングテーブルにお料理を並べながら、私に語りかけてきます。

「これでも昔は、お料理教室にも通っていたことあるの。その頃習ったのを久しぶりに試したくなっちゃって」
「今日のテーマは、フランス一般家庭のおもてなしっぽいお夕食、って感じかな。ポトフは昨日仕込んで、じっくり煮込んであるから」
 
 お部屋には小さく、ラヴェルのピアノ曲集が流れていました。

 テーブルの上に、ポトフとラタトゥイユ、それに切ったフランスパンやチーズやサラダなどが並べられました。

「お夕食には少し時間的に早いけれど、ゆっくり食べながらおしゃべりしましょ」
 
 正方形のテーブルの向かい側に座ったゆうこ先生が、当然のようにシャンパンのグラスを私に手渡して注いでくれました。

「カンパーイ!」
 
 チンッ!

 お料理は、どれもとても美味しくて、私にしてはけっこうたくさん食べたと思います。
 おしゃべりも、ピアノのこと、音楽のこと、文化祭のこと、お友達のことなどなど、尽きることなくつづきました。
 それでもお料理があらかたなくなって、ゆうこ先生のグラスの中身が白ワインに変わった頃、束の間の沈黙が訪れました。

 そろそろ切り出さなきゃ・・・
 もう7時過ぎ。
 お迎えが来るまで2時間くらいしか残っていません。
 
 何て切り出せばいいのかはわかりませんが、とにかくそっちのほうに話題を持っていかなくちゃ。
 こういうときは、率直なほうがいいよね?
 私は、ありったけの勇気を振り絞りました。

「あのぅ…先生が以前、私のお家に…」
「直子ちゃんこの間、男の人はなんだか怖い気がするって…」
 
 私とゆうこ先生が同時に口を開いて、お互いの言葉がかぶってしまいました。
 あれ?
 これってなんだか、デジャヴ。

「あ、ごめんなさい。直子ちゃんからどうぞ。なあに?」

「あ、いえ、いいんです。先生からお先におっしゃってください」

「そう?じゃあ、わたしから…」

「直子ちゃん、男の人が苦手ってこないだ言っていたでしょ?だったら女の子でなら、誰か好きな人、いるのかな?って聞きたかったの」

「えっ?えっと…」

「あ、ううん。別に深いイミはないから、無理して答えなくてもいいのよ」
 
 ゆうこ先生は、緩い笑みをうかべたまま頬杖をついて、私をじーっと見つめていました。

「えっと…以前はいたのですけれど、その人は同じ部活の先輩とおつきあいを始めちゃって…って、えっ?」

 言った自分が驚いてしまいました。
 なんでこんなにスラスラと、正直に答えちゃったんだろう。
 言ってから、自分の言ったことの意味に気づいて、途端にドキドキしてきてしまいました。

「ふーん。それは残念だったわねー」
 
 ゆうこ先生は、私の動揺に気づいているのかいないのか、普通の感じで会話をつづけてきます。

「フられちゃったんだ?かわいそうに。それじゃあ今は、パートナーの人とかいないんだ?」

「は、はい…」

「片想い中の人、とかは?」

「…」
 
 それは、目の前のゆうこ先生、あなたです…
 言ってしまおうか?

「だったらやっぱり、アレは独り遊びなのかな?」
 
 独り言みたいにポツンとつぶやいたゆうこ先生。

「えっ?アレってなんですか?」
 
 ゆうこ先生の謎な一言、独り遊び、という言葉に私の心がひっかかり、ザワザワし始めました。

「うーんとね。ちょっと言いづらいのだけれど、この間のレッスンのとき、直子ちゃん、Vネックのワンピース着ていたじゃない?可愛らしいやつ」

「はい、先週のレッスンですね…」

「あのとき、わたし、直子ちゃんの後ろに立って弾いている手元を見ていたら、たまに直子ちゃんのワンピースの胸元が浮いて、隙間が出来るのね。それでピンクのブラが見えたりして」

「…」
 
 私は、瞬きも忘れてゆうこ先生の唇を凝視していました。
 心がいっそう、激しくざわめいています。

「それで、胸元の白い肌に、縄で縛った痕みたいのがあったような気がしたの、あと、何かに挟まれたような痣もいくつか」

「…」

「だから、ひょっとして直子ちゃんも、そういう独り遊び、しているのかなー、って思ったり思わなかったり…」

「せっ!先生っ!」
 
 バレてた!?
 
 私は、全身の血がすごい勢いで駆け巡るのを感じていました。
 恥ずかしさと、なぜだか怒りみたいな感情と、あと、パニックになったときみたいな思考停止がないまぜになって、思わず大きな音を立てて席から立ち上がり、ゆうこ先生をにらみつけていました。

「あ、ごめんごめん。言い方が少しストレート過ぎたよね?まあ落ち着いて、ね?直子ちゃん」
 
 ゆうこ先生はたおやかな微笑を浮かべ、両手のひらを下に向けて小さく振って私に、座って、のジェスチャー。

「つまり、わたしも同類なの。だから、肌に残ったその痕がロープとか麻縄で縛ったから、ってわかるし、たぶんあの痣は、洗濯バサミとかクリップとかでしょ?」
 
 私にはまだ、ゆうこ先生の言葉が届いていません。
 ゆうこ先生は相変わらず余裕の表情で、私をじっと見つめていました。

「だから、さっきわたし、直子ちゃんも、って言ったじゃない?」

 しばしの沈黙。
 
 ゆうこ先生が今おっしゃった言葉の意味することが、ようやく正しく私の脳に伝わり始め、私はヘナヘナと椅子にお尻を落としました。
 今、ゆうこ先生、わたしも同類、っておっしゃった?
 
 ゆうこ先生も、ロープや洗濯バサミで遊んでいる、ってカミングアウトされた?
 事の次第を、私の脳がやっと正常に理解しました。
 ワナワナしていた私の胸が、またたくまにドキドキワクワクに変わっていきました。

 これは、予想、いえ期待していた以上の大きな一歩です。
 ゆうこ先生と私は同じ、ってゆうこ先生も認めてくださったのです。

「何も心配しなくていいわよ、直子ちゃん。素子さんには絶対内緒って、約束するから」
 
 ゆうこ先生がイタズラっぽく笑って、私にパチンとウインクをくれました。

 それからしばらくは、私の独演会でした。
 相原さんとのことやしーちゃんとのこと。
 そして、しーちゃんとクリスさんのことを、大体正直に、全部お話しました。
 言葉が堰を切ったように、止まりませんでした。

 相原さんが図書室で裸になっていたことや、その後の顛末。
 しーちゃんとクリスさんのなれそめや恥ずかしいご命令遊びのこと。
 そういうことを体験したりお話を聞いて、コーフンしちゃったりうらやましいと感じてムラムラしてしまう私のこと。
 恥ずかしいことやみじめな状況を妄想して、独り遊びをしてしまう自分のこと。

 でも、トラウマの原因と、やよい先生とのことについては、全部隠しておきました。
 自分でも理由はわからないのですが、なぜだかまだ、そうしておいたほうがいいような気がしたんです。

「だからきっと、私はヘンタイなんです…」
「それで、そんな自分が無性にイヤになるときがあって、そうするともっともっと自分を虐めたくなって…」
「強く縛ってしまったり、いっぱい痛い思いをしてみたり…」
「そんなことをくりかえしてばかりで…」
「そんな私はやっぱり、ヘンタイなんです…」

 告白をしながら私は、例えようも無いほどの恥ずかしさと同時に、ずーっと胸に隠していた秘密をやっと解放出来た、ある種の爽快感も感じていました。

「ふーん、なるほどねー。直子ちゃんにも意外と、いろいろあったのね」
 
 ずーっと、時折相槌を打つくらいで、黙って真剣に私の告白を聞いてくれていたゆうこ先生は、うつむいて少し涙ぐんでるみたいになってしまった私に、テーブル越しに両手を伸ばしてきました。
 
 私も両腕を伸ばし、テーブルの中央でお互いの両手をやんわり握り合いました。
 まっすぐに顔を上げて、相変わらずたおやかな笑みを浮かべているゆうこ先生と見つめ合います。

「でもね、直子ちゃんは、自分をイヤになる必要なんか、ぜんぜん無いのよ」
 
 ゆうこ先生のやさしいお声。

「性癖なんて、人様に迷惑を掛けない限りとやかく言われるようなものではないし、普通、って言われている人と多少異なっていたとしても、それってその人の個性だから、ね?」
「それに…」
 
 そこでいったん言葉を区切って、ゆうこ先生は握り合っていた両手をやさしく解き、そのままご自分の胸の前で交差して、ご自分を抱くような仕草をされました。
 そして、私をまっすぐ見つめて、真剣なお顔でこうおっしゃいました。

「わたしは、直子ちゃんより、もっともっと、数十倍、ヘンタイだから…」


ピアノにまつわるエトセトラ 10

2011年10月29日

ピアノにまつわるエトセトラ 08

 ゆうこ先生のお住まいは、私が通う高校の最寄り駅を通り越して、やよい先生が住んでいた町の最寄り駅の一つ先、私の家の最寄り駅から数えると、各駅停車で8つ先の駅にありました。
 
 お約束は、午後の2時。
 その駅の南口改札を出たところにお迎えに来てくれる、ということになっていました。
 お天気は、少し肌寒いけれどよく晴れた、清々しい感じの月曜日でした。

 改札口を出て、駅前に広がるロータリーを見渡したとき、思い出しました。
 ここって、私が、とあるえっちな遊びをしたいがために、薬屋さんであるものを手に入れたくて降り立ったことがある駅だ。
 
 あれからもう一年近くになるのかな?
 あのときのドキドキ感が鮮やかによみがえり、唐突にその場で顔を赤らめてしまいました。

「お待たせしちゃったかなー?」
 
 うつむいていた顔を上げると、目の前にゆうこ先生がいました。
 丈が腿くらいまであるモヘアっぽい真っ白なタートルネックニットに、脚に貼り付いちゃってるような ピタっとしたウォッシュアウトのスリムジーンズと黒のロングブーツ。
 ちっちゃくて四角いレンズの紫色のサングラス。
 
「うわー。先生、カッコイイ!」
 
 いかにも、音楽をやっている人、的なそのいでたちに思わず声を上げると、ゆうこ先生は、はにかむように小さく照れ笑いしました。

「5分くらい歩くことになるけど、直子ちゃんにうちまでの道を覚えてもらおうと思って、車じゃなくて歩きで来たの。これから何回も通ってもらうのだから」
 
 ゆうこ先生と肩を並べて歩き始めました。
 あの薬屋さんの脇の路地に入るとき、レジにいた店員のおばさまのお顔に、なんとなく見覚えがあって、また一人で無駄にドキドキしてしまいました。

「文化祭は楽しかった?」
「先生のお仕事は、終わったのですか?」
 
 そんな会話をしながらブラブラ歩いて行きました。
 平日の午後なので行き交う人はまばら。
 それも奥様風かお年寄りばかり。
 町中にのんびりしたムードがただよっていました。

 あまり大きくない商店街を抜けると、いかにもベッドタウンという住宅街が延々とつづいていました。

「このお弁当屋さんを右ね」
「この公園の脇を左」
 
 目印になる場所を一々教えてもらいながら、とあるマンションの前に出ました。

「ここよ」

 ごく普通な7階建て中規模マンション。
 外装やエントランスを見ると、まだ新しいっぽい。
 ワンフロア2世帯くらいかな?
 
 ゆうこ先生がエントランスキーを押し、私たちはエレベーターで7階まで上がりました。
 7階のエレベーターホールから見えるドアは二つ。
 ゆうこ先生は、向かって左側のドアを鍵で開けました。

 中は広めな1DKで、12帖くらいのダイニングが綺麗に整頓されていました。
 カーテンやマットはパステルカラーで、カラフルな可愛らしいぽい感じ。
 ちょっと意外。

「そのソファーに座って、少し休んでて」
 
 ゆうこ先生が指差した淡いモスグリーンの柔らかそうなソファーに浅く腰を掛けて、私はお部屋をキョロキョロ見渡しました。
 ほどなく、ゆうこ先生がケーキとお紅茶のセットをトレイに乗せて登場。
 ソファーの前のガラステーブルに置いて、私の隣に腰掛けました。

「散らかっててごめんね。これでも一応お掃除はしたのだけれど」

「いいえ。すっごく可愛い感じのお部屋で、ちょっと意外でしたけれど、ステキです」

「あら。直子ちゃんのわたしのイメージって、どんななの?」

「うーん。音楽やっていらっしゃるから、クールっぽいっていうか、もう少しモノトーン的なイメージというか・・・」

「ふーん。そうなんだ」

「でも、このお部屋もイイ感じです。なんだかホッとしちゃうみたいな、安らいじゃう感じ?」

 ゆうこ先生と私は、20センチくらいの間隔を空けて隣り合って座り、美味しいケーキをいただきながら、来るときにしていたお話のつづきやら他愛も無いお話を小一時間くらいして、まったりした時間を過ごしました。
 
 でも、ピアノはどこにあるのだろう?
 奥にもう一部屋あるみたいだから、そこかな?
 そんなこともボンヤリと考えながら、お隣に座っているゆうこ先生のおなじみなパフュームの香りを、心地良く感じていました。

「さあてと」
 
 お話が一段落して、ゆうこ先生が立ち上がりました。

「まずはレッスンをしちゃいましょう。今3時ちょい前だから、5時くらいまでみっちり出来るわね」
 
 立ち上がったゆうこ先生は、お部屋の隅のサイドボードみたいなところでガサゴソやった後、私のほうを見て手招きしました。
 私も自分の荷物を掴んであわてて立ち上がり、ゆうこ先生に近づきます。
 
 奥のお部屋にいくのかな?と思っていると、ゆうこ先生は、いくつかの荷物を手に持ち、玄関のほうに歩き始めました。
 あれ?

「ピアノは、別の場所にあるのですか?」
 
 玄関で今度はかかとの低いサンダルを履いているゆうこ先生に聞いてみます。

「うん、そうなの。ちょっとめんどくさいけれど、ガマンしてね、遠くはないから」
 
 私もあわてて履いて来たローファーをつっかけて、ゆうこ先生の背中につづきました。

 エレベーターホールに出たゆうこ先生は、エレベーターの前を素通りして、エレベータから向かって右側のほうのドアの鍵穴に鍵を差し込んでいます。

「あ。お隣のお部屋がレッスンルームなんですか?」

「あたりー。アコースティックピアノ弾くとなると、防音とかしっかりしないといけないからね。このマンション自体楽器可なのだけれど、しっかり防音されているお部屋にしたくって、特別に手をかけたの」
 
 玄関を入ると靴脱ぎスペースの向こうにもう一枚、分厚そうな鉄製の扉が付いていました。

「こっちのお部屋は靴脱がなくて、土足でおーけーだから」
 
 ゆうこ先生にそう言われて、土足のまま、ゆうこ先生が開けてくれた重そうなドアの向こう側を覗き込みました。

 こっちのお部屋はまさに、音楽やっている人、のお部屋でした。
 奥のお部屋までぶち抜きにして、バルコニーまで見える広い長方形のスペース。
 
 えんじ色のカーペットが敷き詰められて、アップライトのアコースティックピアノと何台かのキーボード、それにマイクスタンドが整然と並んで、奥のほうにはゆったり座れそうな黒いソファーとテーブルのセット。
 パソコンとオーディオセットを合わせたみたいな、なんだかフクザツそうな機械のセットからコードが何本も延びています。
 
 本来キッチンだったところだけに生活感が感じられるくらい。
 そこに置かれた冷蔵庫も家庭用のじゃなくて、古いアメリカ映画の居酒屋さんにありそうなアンティークで洒落たデザイン。
 行ったことはないけれど、音楽の録音スタジオって、きっとこんな感じなのだろうなあ、って思わせるお部屋でした。

「こっちの部屋は、完全な仕事場。わたし、かなりルーズだから仕事とプライベートをきっちり分けないと、無駄にウダウダしちゃうの。だからやむなく二部屋に分けているんだ。こっちがこんなだから、向こうの部屋は、あんな感じの癒し系になっちゃうのね」

「はい。このお部屋を見れば、あっちのお部屋があんな感じだったの、なんだかすごくわかる気がします。ゆうこ先生ってカッコイイです!」
 
 私は、お世辞じゃなくて本当に感激していました。
 ゆうこ先生、本当にステキなお仕事の出来るオトナの女性なんだなー、って。

 ゆうこ先生は、やさしく丁寧にアコピの鍵盤のタッチの出し方や足元のペダルの使い方を、手取り足取り教えてくれました。
 
 なんだかいつもよりピッタリからだを寄せてきて、私の背中にモヘアのフワフワ越しのやわらかい胸のふくらみが頻繁に当たってきました。
 ゆうこ先生に後ろから抱かれているみたい。
 ゆうこ先生のお話声も、背後から私の耳元に息を吹きかけるみたいに、くすぐったくささやいいてくれます。
 
 私は、フンワリ幸せな気持ちになって、途切れそうになる集中力をなんとかなだめて、真剣にレッスンを受けました。
 今まで習った曲を一通りアコピで弾いてみて、その日のレッスンは終わりました。

「ねえ先生?レッスンの最後に、先生の一番お好きな曲を、このピアノで弾いてみてくれませんか?」
 
 私のリクエストにゆうこ先生は、ラヴェルの亡き王女のためのパヴァーヌ、を、からだ全体を揺らして情感たっぷりに披露してくれました。
 ピアノを弾いているゆうこ先生の姿のカッコよさといったら…
 私の大好きな旋律とも相俟って、今まで聴いた中で一番ステキなパヴァーヌでした。

「今5時ね。わたし、向こうの部屋でお夕食の準備を始めるから、直子ちゃんはもう少し、この部屋でおさらいをしていてね。準備出来たら、あそこのインターフォン鳴らすから、あっちの部屋に戻ってきて。こっちの電気とか鍵はそのままでいいから」

「あ、私もお手伝いしますよ?」

「いいからいいから。言ったでしょ?今日は直子ちゃんにご馳走する、って」
 
 ゆうこ先生がニッコリ笑って、私の髪の毛をやさしく撫でてから、ゆっくりとお部屋を出ていきました。

 一人残された私は、もう一度今までのおさらいを弾いてみました。
 弾きながらも、この感じならお夕食のとき、ゆうこ先生に思い切ってあの夏の日の水着のこと、聞けるかもしれないな、なんて考えていました。

 ゆうこ先生は、本当にステキです。
 私は、ゆうこ先生とキスをしたい、って真剣に思っていました。
 ゆうこ先生のことを何から何まで知りたい、って思いました。

 ピアノに集中出来なくなって席を立ち、窓際のカーテンを開けて見知らぬ町を見下ろしました。
 お外はすっかり薄暗くなって、家々の灯りがポツンポツンとお星様のように眼下に広がり、とても綺麗でした。
 
 それからソファーに座り込んで、ワンピースの裾から右手を入れ、ショーツのある部分に触れてみました。
 すでに、薄っすらと湿っています。
 ゆうこ先生の胸のふくらみの感触を背中が思い出します。

 今日は夜の9時前頃に、母が車で迎えに来てくれることになっていました。
 お夕食の時間を含めてあと約3時間くらい。
 そのあいだに、私とゆうこ先生の関係を、もう一歩踏み出さなきゃ。
 でも、あの夏の日の水着のこと、何て切り出せばいいのだろう?


ピアノにまつわるエトセトラ 09

2011年10月23日

ピアノにまつわるエトセトラ 07

 ちなみに今回は、ヌードクロッキー遊びに誘いこめそうな新入部員がなかなかみつからず、2年つづけてクリスさんていうのも新鮮味が無いので、文化祭での秘密の展示品は無しになりそうだったとか。
 
 でも、夏休みの合宿のときに例年通りいろいろ盛り上がった末、モデルをやってもいい、っていう1年生が現われて、その人の裸婦画がクリスさんたちを中心にめでたく例年通り創作され、展示作品のどれかの裏側に隠されているそうです。
 
 ただし、その1年生が、部員以外の人には絶対見せたくない、って涙ながらに言い張ったので、残念ながら私には見せてもらえませんでした。

「ごめんなさいね、森下さん。この子は本当に恥ずかしがり屋さんで」
 
 小川先輩のお隣に座っている内気そうな可愛い女の子がうつむいてモジモジしていました。

「いいえ。お気になさらないで、でも、ちょっぴり残念だけれど」
 
 私は、お芝居っぽい感じで少しイジワルに笑って答えましたが、内心では、うつむいている彼女の恥ずかしさに同調してドキドキしていました。
 
 自分の裸の絵を見られる、っていうことは、もちろんすっごく恥ずかしいことですが、自分からすすんで裸婦画のモデルになって、みんなに裸の姿を見てもらった、ということを、見ず知らずの私に知られたことにも、同じくらいの恥ずかしさを感じているのではないでしょうか。
 
 自分はそういう性癖を持つ女だ、って公言しちゃったみたいで。

 小川先輩たちは、その1年生の子のヌードについて、なんだか初々しくて甘酸っぱい裸だった、とか、熟しきっていないところがかえってエロティック、とか、彼女の前でワザとみたいにあれこれ論評していました。
 
 彼女は、ずっとうつむいたっきり。
 すっごく恥ずかしいのだろうなあ。
 私だったら、それだけで濡れてしまいそう。

 彼女も、今うつむきながら濡れているのかな?
 席を立たないでガマンしているところを見ると、恥ずかしさの中にやっぱり気持ち良さも感じているのだろうな。
 
 ツインテールに結んた彼女の髪の分け目を見つめながら、なんだか彼女がいじらしくって、なぜだか逆にもっとイジワルしてみたいような気持ちにもなっていました。
 でも、もちろんそんなことはせず、話題もあちこちに飛んで、楽しいおしゃべり時間が過ぎていきました。
 
 今現在、美術部内の公認百合カップルは6組。
 部員は総勢16名だそうで、残りの4人も美術部外にパートナーがいるそうです。
 つまり、百合率100%!

 帰り際、しーちゃんとクリスさんがドアまで見送ってくれました。

「はい、これ。なおちゃんにあげる。ワタシたちの処女作」
 
 しーちゃんがそう言って、同人本みたいな一色刷りの薄い本を2冊、私にくれました。

「ワタシとクリスとでストーリーを考えて、絵も分担して描いたんだヨ。ワタシとクリスはネ、チームになってマンガを描いていくことにしたの。ほら、未来から来た青いネコ型ロボットのマンガ描いた人たちみたいに」
「一冊は二次もの。一冊は18禁。高校生だけど18禁」
 
 しーちゃんがケラケラ笑いながら本をペラペラめくりました。
 ちらっと見えた中身は、なんだかすごくえっちそう。

「高校生だから、今はコピー本しか作れないし、即売会とかにも出れないけど、いずれ同人活動とかしていくつもりなんだ。二人で」
 
 しーちゃんとクリスさんが目を合わせて、ニッって笑い合いました。

「ペンネームはネ、姉妹白百合。姉妹って書いてスールって読むんだヨ」
「それで、スール白百合デビュー作の美術部員以外の栄えある読者第一号は、なおちゃんに決定しましたー」

「うわー。ありがとう。しーちゃん、クリスさん」

 お礼を言って、いったんお教室に戻ろうと思ったのですが、どうしてもガマン出来ずにもう一度振り向き、聞きたくてしょうがなかったことを聞いてしまいました。
 
「ねえ、しーちゃん?美術部って、毎年必ず、ヌードモデルになってもいい、っていう部員さんが一人くらいは、いるの?」

「えっ?」
 
 しーちゃんとクリスさんは、一瞬、この人何を言っているのかわからない、っていう面持ちでお互いにお顔を見合わせていました。
 少しして、クリスさんが私の顔をじっと見つめて、言葉を選ぶようにゆっくりとお話し始めました。

「そうねえ。深く考えたこと無かったけれど、先輩方のお話だと、毎年一人か二人くらいは、裸婦画のモデルをされた部員がいたみたいね」
「ほら、女子高だから女同士だし、自分のからだに自信があって、見てもらいたい、って思う人もいるだろうし」
「わたしみたいに、恥ずかしいことをするのが好き、っていう変わった趣味の人間もいるし」
 
 クリスさんたら、あっけらかんとご自分の性癖を開示されました。

「それに美術部は、昔から百合属性の強い部だから、そういうのにおおらかになりやすいんじゃないかな」
 
 クリスさんがしーちゃんを見て、クスリと笑いました。

「これは、わたしだけの個人的な意見なのだけれど・・・」
 
 クリスさんが今度は私をじっと見つめてきます。

「人前で裸になりたい、とか、異性よりも同性と仲良くしたい、とか、そういう、何て言うか、普通とは少し異なった嗜好を持っている人たちって、無意識のうちになんとなく、惹かれ合ってしまうものなのじゃないかしら」
「惹かれ合って、集まって、そういう人たちが居心地のいい場所が出来た、それが我が校の美術部なんじゃないかな、って」
 
 クリスさんがしーちゃんを見つめてしーちゃんがうなずき、それから私に視線を移して、ニッコリ笑いました。

「そ、そうかもしれませんね…」
 
 私は、クリスさんのお言葉に、大いに納得していました。
 その反面、すっごく動揺もしていました。
 クリスさんの視線が私を見透かしているのが、はっきりわかりました。
 クリスさんは実際に言葉にはされませんでしたが、その視線が私に問いかけていました。

 わかっていてよ、森下さん。
 あなたもわたしたちのお仲間っていうことは。

 読んだら感想を教えるね、ってしーちゃんに告げてクリスさんにお辞儀をして、なんだか逃げるみたいにその場を離れました。

 お家に帰ってお風呂の後に、しーちゃんたちのマンガを読み始めました。
 
 一冊目は人気アニメの二次創作。
 ヒロインと敵対する組織のツンデレ女子が、いがみ合いながらもいつしか惹かれ合っていく、っていう百合展開のラブコメ。
 絵は丁寧でキレイだし、ストーリーもセリフも気が利いていて、そのへんの同人誌よりぜんぜんいい感じでした。
 
 しーちゃんたち、スゴイなー。
 純粋に感心しました。

 二冊目は18禁。
 こちらはオリジナルストーリーで、すっごくえっちでした。
 お話の大筋は、以前しーちゃんから聞かされていた、クリスさんに対するえっちなご命令。
 
 授業中にショーツを脱ぎなさい、とか、ノーパンで体育の授業を受けなさい、とかを主人公が実行していく、というものでした。
 でも、しーちゃんたちと大きく違うのは、マンガでは、それがいわゆるイジメの一環として行なわれていること。
 その上、クラスメイトや先生までもがみんなえっちでイジワル。

 だから、授業中こっそりショーツを脱いでいると、隣の席の子にみつかって、ヘンタイってなじられた挙句、スカートを脱がされてショーツを膝までずり下げた格好で、黒板の前に出て問題を解かされ、罰として丸裸で廊下に晒し者にされてしまいます。
 
 体育の時間にノーパンでマット運動をしていたら、ジャージのゴムが切れて足元まで一気に下がり、下半身丸裸で開脚前転をさせられてしまいます。
 最後は、跳び箱の上に丸裸で仰向けに縛り付けられて、アソコにオモチャを挿れられたまま放置されていました。

 そんなお話が、デッサンのしっかりした可愛らしくて色っぽいキャラクターとリアルな構図、緻密な筆致で背景まで丁寧に描かれていました。
 
 舞台はどう見ても、この学校そのものでした。
 虐められるほうの女の子はクリスさんに、苛めるほうはしーちゃんにそこはかとなく似ている感じで、乳首が勃っていく様子やアソコの中までもが克明に描かれていました。

 そして、絵と同じくらい良かったのが、虐める側の人たちのセリフでした。
 虐められているほうの子の羞恥心や被虐心を徹底的に煽り立てる、侮蔑や憐憫、罵倒のセリフで埋め尽くされていました。

 クリスさんて、こんなことをされたくて、こんなことを言われたいんだ…
 しーちゃんも、こんなにいやらしいお話を考えられるようになったんだ…
 しーちゃんたちは、このマンガを二人で描きながらも、欲情を抑えきれずに何回も抱き合ったんだろうなあ…

 私は、そのえっち描写の迫力に圧倒されていました。
 そして、しーちゃんとクリスさんの関係を、心の底からうらやましいと思いました。
 何度か読み返すうちに結局ガマン出来ず、文化祭で疲れたからだなのにもかかわらず、マンガと指だけで激しく2回イってしまいました。

 しーちゃんたちのマンガのコーフンがようやく落ち着いて、ベッドに仰向けになって目をつぶりました。
 
 私だって…
 
 明日目が覚めたらいよいよ、ゆうこ先生のお家で二人きりです。
 いきなりは無理でしょうけれど、一歩だけでも踏み出したいな。
 頭の中に、クリスさんが別れ際におっしゃったことが、グルグル渦巻いていました。

 普通とは少し違った嗜好を持っている人たちって、無意識のうちになんとなく、惹かれ合ってしまうものなのじゃないかしら…

 あの遠い夏の日、私に舞い降りた直感。
 オオヌキさんと私は似ている…
 それが明日、少しでも確かめられたら、いいな。


ピアノにまつわるエトセトラ 08

2011年10月22日

ピアノにまつわるエトセトラ 06

 その週の金曜日は、10月最後のピアノレッスンでした。
 レッスンが終わって、私のお部屋でしばし雑談。
 
 その頃には、ゆうこ先生ともかなり打ち解けて仲良くなれて、いろんなお話を和気藹々としていました。
 私の部活のこととか、お友達のこととか、ゆうこ先生の学生時代のお話とか、最近のお仕事のお話とか。
 
 母ももう、私のお部屋でのレッスンには同席しないようになっていて、キッチンで篠原さんと一緒に、美味しいお夕食を作るのに張り切っているはずです。
 ゆうこ先生と二人きりのレッスンタイム。
 
 それでも私は、ゆうこ先生にえっち関係のご質問、とくに、遠い夏の日の水着をめぐる謎、については、出来ないままでいました。
 それを言い出しちゃうと、ゆうこ先生との楽しい関係のバランスが崩れてしまうような気がして、どうにも言い出せないままでいました。

 レッスンのとき、ゆうこ先生は私の背後に立ち、ときどき私の背中に覆いかぶさるようにからだをくっつけてきて、私の運指の間違いやタッチのミスをやさしく正してくれます。
 
 背中に感じるゆうこ先生のやわらかい胸。
 両手に触れるゆうこ先生のしなやかな指。
 鼻腔をくすぐるゆうこ先生のパフュームの甘い香り。

 鍵盤に集中していた緊張感がフッと緩み、何とも言えない気持ち良さを感じながら、急に胸がドキドキし始めます。

「ほら、こうしたほうが弾きやすいでしょ?」
 
 私の手の甲に、ご自分の手のひらを重ねて運指を教えてくれた後、私の顔を覗き込むように見つめてニコッと笑いかけてくださるゆうこ先生。
 私は、その笑顔を見るたびに、振り向いて正面から、ゆうこ先生を思いっきり抱きしめて、胸に顔を埋めたい衝動に駆られ、抑え込むのが大変でした。

「来週のレッスンのことなのだけれど…」
「それでですね、私、来週は…」

 私の部活のお話が一区切りして、会話が途切れて一呼吸置いた後、私とゆうこ先生が同時に口を開いて、お互いの言葉がかぶってしまいました。

「あ、ごめんなさい。直子ちゃんからどうぞ。なあに?」

「あ、いえ、いいんです。先生からお先におっしゃってください」

「そう?じゃあ、わたしから・・・」

「直子ちゃん、予想以上に上達が早いから、そろそろ次のステップに移ろうと思うのね」
「デジタルピアノとアコースティックピアノは、やっぱり鍵盤のタッチが違うから、打鍵の強弱による音の響かせ方とか、あと、足元のペダルの使い方なんかも、そろそろ知って、慣れておいたほうがいいと思うの」

「試験のとき、デジピかアコピかは、たぶん半々くらいだと思うけど、アコピに当たったときにまごつかないように」
「それに、幼稚園もきっと、アップライトのアコピのところが多いと思うし」
「だから、これからは月に一、二回くらい、わたしの家に来てアコピでのレッスンもしたらどうかな?なんて考えているの」

 ゆうこ先生のお宅におじゃましてのレッスン!
 それは、願ってもない嬉しいお誘いでした。
 
 母たちに気兼ねすることなく、ゆうこ先生と二人きりで親密に、何時間か一緒に過ごせるんです。
 考えただけでどんどん胸が高鳴ってきます。

「どう?」

「もちろん、お願いします!先生さえご迷惑でなかったら」
 
 小首をかしげて私を見つめるゆうこ先生に、私は即答しました。

「でも…」
 
 答えてから、さっき私が言おうと思っていたことを思い出して、盛り上がったテンションが一気に降下しました。

「さっき、私が先生に言おうと思っていたことなのですけれど、来週は、文化祭の前日なので、準備とかで夕方まで忙しいと思うのでレッスンお休みにしてもらいたい、って…」

「あら、そうだったの。文化祭かあ、懐かしいなあ」
 
 ゆうこ先生が遠くを見るような目で宙を見つめました。

「それなら、再来週の金曜日にしましょう。そうか。あそこの女子高、文化祭なんだ」

「はい」

「直子ちゃんたちは何をやるの?」

「クラスではクレープ屋さん。文芸部では毎年恒例の機関紙作りとバザー、です」

「へー。楽しそうね。わたしも高校の頃の文化祭では、毎年体育館のステージで演奏していたわ。高校の頃は、いわゆるハードロック」

「えっ、そうなんですか?先生がハードロック!?見たかったなー」

「たぶんビデオが残ってるから、うちに来たら見せてあげる。直子ちゃんビックリするよ。すんごいステージ衣装だから」
 
 ゆうこ先生が、うふふ、って笑いました。

「先生もよかったら来てくださいよ、うちの文化祭。ご案内しますよ?」

「そうねえ。近くだから行きたいのはやまやまなのだけれど、仕事の一つの締め切りが迫っているからなー。行けるかどうか、って感じだから、お約束は出来ないの」

  ゆうこ先生が残念そうに言って、私はがっかり。

「あの高校にはね、私の昔からの友達が今、先生やっているのよ。美術の先生」

「へー。そうなんですか」

「だから何度か、文化祭に遊びに行ったことはあるの。けっこう人が集まるのよね?」

「はい。なんかお祭りみたいで、すっごく楽しいです」

「だって直子ちゃん、文化祭って、お祭りよ?」

「あ、そっかー」
 
 二人でアハハと笑いました。

「そうだっ!先生!文化祭の翌日、月曜日は学校お休みなんですよ。だから金曜日のレッスンを月曜日にする、っていうのはどうでしょう?」
 
 私は、我ながら名案を思いついた、って、またテンションが上がってきました。

「それはかまわないけれど・・・でも直子ちゃん、お祭りの翌日で疲れていない?」

「ううん。ゆうこ先生に会えるなら、疲れなんてぜんぜん感じません!」

「それはそれは。嬉しいお言葉をありがとう。レッスンは月四回ってお約束だったから、一回飛ばすのは心苦しかったけれど、それならお約束もクリア出来そうね」

「あ、でも先生、お仕事の締め切りが…」

「それは大丈夫。そういうことならなんとか、早々に仕上げちゃうから、直子ちゃんのために」

「ねえ、直子ちゃん。どうせなら早い時間から、わたしのお家に来ない?その日」

「いいんですか?」

「うん。わたし、レッスンのたびに直子ちゃんちでご馳走になりっぱなしだから、その日は直子ちゃんにご馳走してあげる。それに、直子ちゃんとは、もっとゆっくりたくさん、おしゃべりしてみたいから」
 
 ゆうこ先生が私をじっと見つめてから、お花が咲く瞬間みたいな綺麗な笑顔を私にくれました。

 ピンポーン。
 そのとき、お夕食の準備が出来たという、母からのコールが私のお部屋に届きました。

「それじゃあ直子ちゃん、月曜日のこと、もとこさんにはわたしからご説明するから、ね?」
 
 ゆうこ先生がゆっくり立ち上がり、私に一つ、パチンとウインクをくれました。
 あっ、そうそう。
 もとこさん、っていうのは素子って書いて、私の母の名前です。

 文化祭二日目に、私はまた、しーちゃんがいる、名物!!喫茶 白百合の城 美術部、に、ご招待されていました。

 今回のコンセプトは、砂漠の民と王室のハーレムパーティ、だそうで、お部屋のあちこちにエジプトというか中近東あたりというか、ピラミッドやスフィンクスやラクダさんっぽいオブジェが飾られ、全体にゴールドと赤とベージュなキラキラした雰囲気のお部屋になっていました。
 
 部員の人たちは、みんなお鼻の下からをシースルーのシルクみたいなペラペラな一枚の布で覆い、目のまわりのお化粧が派手め。
 
 服装も、ビキニまではいかないセパレートの水着にツヤツヤなガウンを羽織っている人や、金の紙で作ったらしい王冠やアクセサリーで飾り立てた人、ギリシャの哲学者みたく白いカーテンをからだに巻きつけただけみたいな人など、全体的に昨年よりキンキラ&セクシーな感じになっていました。

「ねえ、しーちゃん。去年より、みなさんのお肌の露出度が上がっていない?」
 
 大きめな男物のストライプなワイシャツに黒いスカーフ、薄茶色のスカートに大きめの黒縁メガネとヒール、っていう、この空間ではかなり地味めな、でも見ようによっては、インディジョーンズとかに出て来そうなインテリ歴史研究家、みたいなたたずまいのしーちゃんに尋ねました。

「去年まで風紀を細かくチェックされていた高齢の先生が退任されたからネ。今年は少し羽目が外せるんだヨ。井上先生のおっけーももらってるし」
「その代わり、今年はカップルさんでも先生でも男子禁制入室不可。完全無欠な女の園なんだヨ」
 
 しーちゃんが笑いながら説明してくれました。

「それから、これはインディージョーンズじゃないヨ。ハムナプトラのエヴリンのイメージ、ネ?」
「それで、こちらがアナクスナムーンっ!」

 長い髪を左右に分けて前に垂らし、おっぱいのふくらみは髪に隠れていますが、その下はビキニの水着でしょう。
 黒い布地が髪の隙間から少し覗いています。
 まっすぐで真っ白なお腹におへそがちょこん。
 
 下半身はさすがにビキニはまずいのか、黒いパンストに黒いハイレグな短パン。
 スラッと伸びた足がすっごくセクシー。
 目元パッチリでキラキラ光るメイクを施した端正なお顔は、まさに砂漠のお姫さまなクリスさんが、ニッコリ微笑んでくれました。

「ごきげんよう。お久しぶりね、森下さん」

「あっ、ごきげんよう、えっと、クリスさん、じゃなくて二宮先輩」
 
 クリスさんの艶やかなお姿にボーッと見蕩れていた私は、声をかけられて盛大にアタフタしてしまいました。

「あら、ごきげんよう森下さん。お変わりなくて?」
 
 クレオパトラ風おかっぱソバージュに金の飾りを付けて、衣装も胸元が大胆に開いたエナメルっぽいテカテカなボディコン姿の村上先輩や、金ぴかアクセサリーを山ほど身に着けて、一歩歩くたびにジャラジャラ音がしそうな小川先輩にお声をかけられて、しばらくおしゃべりタイムに花が咲きました。
 
 そんな格好をしていても、口調は基本、マリみてなのがなんだかミョーに微笑ましいです。

 そのうちに、卒業された鳥越先輩と落合先輩もお顔を見せ、他にも去年知り合った先輩がたや、しーちゃんと仲がいい同級生や後輩の人たちも入り乱れて、楽しい時間が過ぎていきました。


ピアノにまつわるエトセトラ 07

2011年10月16日

ピアノにまつわるエトセトラ 05

 そんな恥ずかしすぎる映像課題を提出してから約一週間後。
 学校から帰ると、やよい先生からパソコンにメールが届いていました。
 
 きっと、提出した映像についてのご感想が書かれているのだろうな、なんて書いてあるんだろう? やよい先生、イジワルなこと書いてるだろうな、読むの恥ずかしいな…
 なんて考えながら、ドキドキする胸を押さえてメールを開きました。

 そこには意味不明なアルファベットと数字の羅列。
 それだけ。
 他に、説明だとかご挨拶文さえも書かれていませんでした。
 ???
 私は、考え込んでしまいました。

 お夕食やお風呂の間も、ずっとその謎なメールについて考えていました。
 やよい先生にメールか電話で聞いちゃおうか。
 お風呂から上がって、自分のお部屋で髪の毛をお手入れしながら少しイライラしていました。
 
 つまり、あれはきっと何かのパスワードなんだよね?
 やよい先生から、何かパスワードが必要なもの、もらっていたっけ?
 パスワード、パスワード…パスワード!

 不意に、思い出しました。
 やよい先生がお引越しされてすぐの頃、最初の課題をいただいたときに送ってこられた、アダルトビデオのえっちな映像が満載な数枚のDVDと一緒に入っていた1本のUSBメモリ。
 
 そのUSBメモリにはあの夏の日、やよい先生とのプレイ中にケータイやデジカメでたくさん撮られた私の写真が入っているのだけれど、日が経ってあらためて見返すと、私がショックを受けそうな刺激が強すぎる、恥ずかしすぎる写真ばっかりなので、もうちょっと課題が進んで私のヘンタイ度が上がったらパスワードを教えてくれる、ということになっていました。
 
 そのときに、お勉強机の鍵がかかる引き出しの奥にしまいこんで以来、今の今まですっかり忘れてしまっていました。

 私が提出したオナニーショーの映像を見て、やよい先生は私のヘンタイ度が上がった、と判断されたのでしょうか。
 それはそれでなんとなく、嬉しいような、情けないような…
 フクザツな心境。

 いずれにせよやよい先生は、あの日の自分の写真を見てみなさい、とご命令されているわけです。
 あの日やったさまざまな行為は、もちろん今でも鮮明に憶えていますし、どのプレイで写真を撮られたかも、だいたい憶えていました。
 
 そんなプレイの数々を、久しぶりに引き出しから発掘されたUSBメモリを握りしめながら、まるで昨日のことのように思い出していました。
 あんな場面、あんないやらしいことをした、今より少しだけ若い私自身の画像が、この中に入っている…
 もはや見る前から、心臓がドキドキ高鳴り、顔は赤面、からだはみるみる紅潮していました。

 絶対に平常心で見つづけることなんて出来るはずないので、最初からそれなりの準備をすることにしました。
 
 着ているものは全部脱ぎ、椅子の上にはバスタオルを敷きました。
 やよい先生からいただいたえっちなお道具が詰まったバッグも傍らに置きました。
 それからお部屋のドアの鍵をかけ、全裸でパソコンに向かい、USBメモリを差し込んで教えていただいたパスワードを慎重に打ち込みました。

 naokoの後に日付らしい数字が加えられたフォルダが現われ、恐る恐る開くと、画像を表わすアイコンがぎっしり詰まっていました。
 画像ファイルは、5桁の通し番号で整理されているみたい。
 お部屋の電気を暗くして、手動のスライドショーモードに設定しました。

 最初の2枚は、ポラロイド写真のスキャン画像。
 これらは、私も一度見ていますから、そんなに衝撃度は強くありません。
 でも、自分のいやらしい姿が強烈に恥ずかしいことには変わりありませんが…
 やよい先生に差し上げた2枚以外のポラロイド写真は、私が持っていて、一度見たきり厳重に封をしてヒミツの隠し場所に保管しています。

 3枚目からはすべて初見の写真。
 最初の写真は、ピザの配達バイトさんだったユマさんに、やよい先生のお家の玄関先で、裸で椅子に縛り付けられた私がイタズラされている写真でした。
 真横から撮られたその写真の中で、ニヤッと笑ったユマさんの右手が私の股間に伸び、私の顔はなんとも気持ち良さそうに歪んでいました。
 少しアングルを変えながら7枚ほど、撮られていました。

 それらの写真を見ながら、私はもう、いてもたってもいられなくなっていました。
 あれから約3ヶ月。
 時折甘酸っぱい記憶とともに思い出す、誰も知らないやよい先生たちとの秘め事…
 のはずだったのに、現実にその日の証拠が、記録が、鮮明に残っているのです。
 もちろん、私も同意の上で撮っていただいた写真でした。
 
 でも…

 この後ユマさんが去ってから次の日の夕方自宅に帰るまで、やよい先生とどんなことをしたのか、私は全部憶えています。
 だからこの後、どんな写真が出てくるのかも、予想出来ます。
 
 それらを見るのは、すっごく怖くて、逃げ出したいくらい恥ずかしいことでした。
 自分主演のハードSM写真集なんです。
 でも一方で、私の両手は私の意思とは無関係に、こそこそと自分のからだをまさぐり始めていました。

 時折目をそむけたり、急に立ち上がってお部屋をうろうろしたり、写真の自分があまりにも恥ずかしすぎる罰として肌を洗濯バサミで噛ませたりしながらも、スライドショーの、次の写真へ、をクリックすることが止められませんでした。

 素肌にエプロン一枚で、食器を片付けている私。
 全裸でトイレに四つん這いになって、お尻にお浣腸器を挿されている私。
 おっぱいのところだけ切り取られたタンクトップ姿で、泣きべそかいている私。
 
 机に這いつくばって、お尻を真っ赤に腫らしている私。
 お尻の穴を自分で拡げて、タンポンを突っ込まれている私。
 コブつきロープをまたいで、裸の下半身を擦りつけている私。
 仰向けのカエルさんみたいな格好で、アソコをまあるく拡げる器具をつけられた私…

「いやっ、いやっ、いやん・・・」
 
 ちっちゃな声でつぶやきながら、私の左手の指が3本、アソコの中でクチュクチュ啼いています。

 車の助手席でお洋服をめくって、おっぱいとアソコがあらわな私。
 神社の境内で、自らお洋服の裾をめくってノーパンの下半身を晒している私。
 おっぱいとお尻を出したまま駐車場を歩く私。
 
 ファミレスの座席で、おっぱいを露出する私とユマさん。
 車の後部座席で、全裸で絡み合う私とユマさん。
 通っている高校の裏門で、露出狂変質者の人みたいにレインコートの前をはだける私。
 学校裏の農道を全裸で屈んで、お尻を突き出して歩く私とユマさん…

 最後は、私と、やよい先生、ユマさん、シーナさんとのそれぞれのツーショットでした。
 写真は全部で200枚以上ありました。
 私は、それらの写真をくりかえしくりかえし見ながら、いつしか本格的に自虐オナニーを始めていました。

 こんな写真たちが現存する、ということ自体が、マゾな私の被虐心を煽り立てる責めのお道具でした。
 写真の一枚一枚が、ヒュン、という、鞭が空気を切り裂くような音をたてて、私の被虐心を打ちつけてきました。

 私は、なんてはしたない女。
 こんな写真を平気で撮らせちゃう女。
 日本中の女子高校生の中で、こんなにもいやらしい写真を撮られている人なんて、いないはず。
 
 私は、本当にいやらしいヘンタイマゾ女。
 気持ち良くなるためなら、どんなに恥ずかしくて屈辱的な責めも、悦んで受ける女。
 一生、普通の人間には戻れないんだ。
 だから私はどんどん、自分を虐めて、苦しまなければいけないけないんだ。

 そんな自分への侮蔑の言葉を自分に投げつけながら、私の両手は自分のからだを虐めつづけました。
 
 スライドショーが4周くらいした頃、私のからだはフラフラとお勉強机から離れ、ベッドの上に四つん這いになっていました。
 頭の中では、今見た自分主演のヘンタイ画像スライドショーと、約一週間前に見た自分のオナニーショーの映像とがごちゃまぜになって、延々と再生されていました。

 いつの間にか、からだ中にたくさんの洗濯バサミがぶら下がり、おっぱいを麻縄でキツク縛り、猿轡をして、股縄をアソコに食い込ませて、ローターを挿れて、オモチャの手錠をかけて、何度も何度も何度も何度も、イきました。
 
 イってもイっても、からだの奥底の発情が収まることは無いんじゃないか、と思うほど、からだへの快楽を貪欲に欲していました。

 真夜中一時前、イき疲れてウトウトしていたらしい意識が、からだにしつこくまとわりついている疼痛の刺激にハッとして目覚め、やっと我に帰りました。
 
 お部屋のどこかに飛んでいってしまったオモチャの手錠の鍵を焦りながらやっとみつけて手錠をはずし、びっくりするほどたくさんからだに付いている洗濯バサミを、顔をしかめながら一つ一つはずし、めちゃくちゃに結んでしまったロープを苦労して解きました。
 後片付けをしてからバスルームに下りて、こっそりシャワーを浴びました。

 バスルームの鏡の中には、肌に食い込んだロープ痕や洗濯バサミが噛んだ赤い痕が全身に残る、無残な、でも見方を変えれば艶かしい、私のからだがありました。
 
 あーあ…
 またやらかしちゃった。
 きっと2、3日、痕が消えないな…
 今は冬服だからたぶん隠せるけれど、明日、明後日、体育の授業は無かったけか…
 急激に眠くなってきた頭で、そんなことを考えながらシャワーを手早く浴びました。

 お部屋に戻ると、パソコンは点けっ放しでした。
 naokoフォルダからは、やよい先生たちとの健全な写真だけをパソコンに移し、念のためUSBメモリを開くためのパスワードを変えてから、机の引き出しに再びしまいました。

 やよい先生と私のツーショット写真の、ニッコリ微笑むやよい先生のお顔をじっと見つめていたら、なんだかすっごくせつない気持ちになってしまいました。
 今すぐに、やよい先生に、ユマさんに、シーナさんに会いたいと思いました。
 会って、ギュッと抱きしめて欲しいと思いました。

 いけない。
 ウルウルしてきちゃった。
 涙が零れ落ちてしまわないうちに、あわててパソコンを終了して、裸のままベッドに潜り込みました。


ピアノにまつわるエトセトラ 06

2011年10月15日

ピアノにまつわるエトセトラ 04

 鏡に映った、あまりに屈辱的かつ破廉恥な自分の姿。
 私は、食い入るように自分のアソコの中を凝視したまま、赤いロープの縄手錠を両手首にかけました。
 
 両手首の間をつなぐロープは、約15センチ。
 私の両手の自由度は、その範囲に限定されてしまいました。
 膝を折ったままロープで一つにくくられた左右の脚を目いっぱい真横に広げて背中を後ろにそらし、赤いリングを鏡に突き出すようにしゃがみました。

 足元に置いてあるお道具は三つ。
 やよい先生からいただいた子猫ちゃんのマッサージ器と、先っちょがギザギザのアイストング、そしてバターナイフ。
 バーカウンターでのオナニーショーという設定なので、氷つかみはうってつけだな、って思ったのです。

 ブーーーン…
 右手で持った子猫ちゃんのマッサージ器のスイッチをいきなり強に入れ、まずは乳首を洗濯バサミもろともいたぶります。

「んぅあーっ」
 
 子猫ちゃんからの震動でカタカタカタと鳴きながら、木製洗濯バサミが私の左乳首に噛み付いたまま細かく震え出します。

「いいーーっ!」
 
 子猫ちゃんと同じバイブレーションで乳首が小刻みに揺れて、その震動が左おっぱい全体をプルプル揺らします。
 疼痛と快感が入り混じった気持ちいい波が、左おっぱいを中心として水面に波紋が広がるように、全身に伝わっていきます。

「うぅーーっ」
 
 15センチ幅の自由で右手首からつながれた左手は、疼く下半身には届くことが出来ず、もどかしげに右おっぱいを下乳のほうから鷲づかみ、その頂点に取り付いた洗濯バサミをブラブラ乱暴に揺らしています。

「ああーんっ、そんなにしたら、乳首がちぎれちゃいますうぅーんっ!」
 
 妄想に入り込んで、思わず声が出てしまいました。

 すっかり欲情しきっている私の両手は、おっぱい虐めもそこそこに、すぐにでも、卑猥な中身を晒け出している赤いリングの中央部分を陵辱したくて仕方ありません。
 子猫ちゃんを左手に持ち替え、右手でデジカメの延長シャッターを操作して録画を開始しました。

 右手に持ったバターナイフで、楕円形に広げられた私のアソコの外周をなぞるように撫ぜ回します。
 金属のヒンヤリした感触がしたのは最初だけ、すぐに火照る粘膜の熱が伝わって、バターナイフ全体が生温かくなっていました。

「あーんっ!やよいせんせえ、許してくださいぃ」
 
 実際に大きく声に出しながら、バターナイフですくったヌルヌル透明なおシルを両方の内腿にペタペタ、パンにバターを塗るように何度も擦りつけます。
 両内腿がみるみるヌルヌルのベタベタ。

「あーっ!恥ずかしいですぅ~、やよいせんせえぇ、こんな格好、見ないでぇーーーっ」
 
 言ってることとは正反対。
 にじり寄るように鏡に下半身を突き出し、アソコが鏡により大きく映るように腰全体を近づけました。
 
 金属のスベスベにヌルヌルが加わったバターナイフが文字通り滑るように、強制的にくぱぁって広げられたアソコの粘膜を、飽きもせず執拗に撫ぜ回しつづけます。
 ただし、一番敏感な部分はワザとはずして。

 左手に持っている子猫ちゃんの頭は、ずーっとお尻の穴の上でブルブル震えつづけています。
 お尻の穴がムズムズうごめいているのが自分でわかります。

「やよいせんせぇー、お許しくださいぃーっ、見ないでくださいーっ~」
 
 ギュッと目を閉じた私の瞼の裏には、薄暗い地下室のような一室のカウンターの上で、今と同じ行為をしている自分の姿と、それをいやらしい目つきでニヤニヤ見守る、たくさんのお客さまたちの姿が見えていました。

「ほら、あの子ったらラビアまで、派手にヒクヒク動いてるわよ?」
「ビラビラだけじゃないわよ。中のピンクの粘膜全体がスケベそうにウネウネうごめいてるわ」
「あんなにオマンコおっぴろげちゃって、恥ずかしくないのかしらねえ?」
「恥ずかしい格好を見られるのが気持ちいいんだってさ。どうしようもないどヘンタイ女なのよ」
 
 私を蔑む声、声、声…
 見物客の後ろのほうで、呆気に取られたように見入るゆうこ先生のお顔も見えました。

 どんどん昂ぶっていく自分のからだ。
 確かあのデジカメは、あまり長い時間、動画は撮れなかったはず。
 快感の高まりに合わせて、さくっと最終段階に進むことにしました。

「あーーーーっ!!」
 
 左手の子猫ちゃんを蟻の門渡り越しに滑らせ、広げられた穴の奥深くまで無造作にヌプッと挿し込みました。
 子猫ちゃんの頭のリボンの尖った部分がヌルヌルな膣壁をひっかきました。

「あっ、いやんっ!」
 
 アソコから、広げられた穴と同じ形の水冠のように、薄っすら白濁した粘液がヌルリと溢れ零れました。

「うううーーーっ!!」
 
 震動が粘膜を絶え間なく震わせ、子猫ちゃんのいびつな頭が中でゆっくりと回転し、騒ぐ粘膜が陶酔ををからだ全体に送ってきます。

「いいいーーーっ!!」
 
 埋め込まれた子猫ちゃんの持ち手部分が2センチぐらいだけ外に覗いて、その先端が小さな円を描いて震えています。
 右手にアイストングを握りました。

「そろそろフィニッシュね?よい旅を」
 
 妄想の中のやよい先生が、アイストングをカチカチ言わせてニヤリと笑いました。

「この先っちょのギザギザで、なお子のド淫乱の元凶、はしたないおマメをひねり潰してあげるわ」
 
 アイストングの開いたはさみの先端が、私のプックリ膨らんだクリトリスを挟むようにあてがわれました。

「いやーっ、それだけはお許しくださいぃ、やよいせんせぇー、なんでもしますから、なんでもしますからぁ~」
 
 私の右手に握られたアイストングのギザギザばさみが、徐々にクリトリスの表皮に迫ってきました。

「いやいやいやーーっ!!」

 チクン。
 尖った金属が左右から、クリトリスの皮膚にちょこっと触れた感触。
 途端にビクンッと大きく背中がのけぞり、腰も大きく浮いて鏡にくっつくほどアソコを突き上げてしまいます。

「あああーーーーっ!!」
 
 すぐにガクンと腰が落ちると同時に、アイストングのギザギザが今度はより強く、クリトリスの表皮に食い込みました。

「ひいいいいぃーーーーーっ!!」
 
 再びのけぞる背中、浮かぶ腰。
 それでもアイストングの切っ先はクリトリスを離さず、噛み付いたまま引っぱったり揺さぶったり。  
 そのたびに腰全体が上下に激しく動いてしまいます。

「ああ、いいっ!もっと!もっと!もっとつよくぅーーっ!!」

 性器の四ヶ所に噛みついて、穴が閉じないように皮膚を引っぱりつづけている洗濯バサミの疼痛。
 穴の奥深くまで潜り込んで、アソコをグニグニ震わせている子猫ちゃんの震動。
 
 そして、一番敏感な場所の皮膚に食い込んで離れない、金属のギザギザがくれる強烈な刺激。
 それらが紡ぎ出す快感が束になって私を蹂躙し、私のからだが空高く放り上げられました。
 頭の中は真っ白け。

「い、いやんっ、い、くぅ、いくいくぅぅぅ、むうぅんんーーっ!!!」
 
 腰全体をビクンビクン震わせて、たてつづけに3回イキました。

 その日の夜10時過ぎ。
 やっと決心して、録画した映像を見てみました。

 アソコの毛を剃る映像を撮ったとき、画面いっぱいに映し出された自分のアソコをパソコンのモニターで見返して、あまりの恥ずかしさにショックを受けたので、今回のは確認せずに送ってしまうつもりでした。
 
 自分がイクところが映っている映像を見るなんて、あまりに恥ずかしすぎる…
 それもとても正気とは思えない、屈辱的な器具をアソコに取り付けてのヘンタイオナニー…
 撮影を終えて後片付けをした直後は、そう思っていました。

 お夕食を終えてお風呂に入って、胸と太腿に薄っすらと残るロープの痕を見たとき、さっき自分が行なった行為をまざまざと思い出しました。
 そして、ゾクッと感じて勃ち始める自分の乳首を見て、やっぱり見ておかなくちゃ、ってなぜだか強く思いました。
 
 私は、マゾのヘンタイ女でいやらしいことが大好きなんだから、自分のありのままの姿を受け入れなくちゃいけないんだ。
 恥ずかしい自分の姿を見ることまでが、やよい先生の課題なのだから、って自分に言い聞かせました。
 早速妄想が湧き、やよい先生に無理矢理さっき撮影した映像を見せられる、というシチュエーションに自分を放り込みました。

 映像は、約7分間、撮れていました。
 お部屋を真っ暗にして、パジャマでお勉強机の前の椅子に座り、パソコンの画面を固唾を呑んで見守りました。
 赤いリングで押し広げられた自分の性器がモニターに映し出された途端、反射的に顔をそむけてしまいました。
 
 鮮やかなピンクが誘うようにうごめいている、なんていう卑猥な性器。
 目をそらしているうちに、ヘッドフォンから自分のせつない喘ぎ声が聞こえてきました。
 いやーーっ!
 恥ずかしいぃーっ!

 ほらっ!目をそらしちゃだめじゃないっ!
 ちゃんと自分のどうしようもないどスケベさを直視なさい!
 やよい先生の声が聞こえました。

 何度もくりかえし見てしまいました。
 知らず知らずに右手がショーツの中に潜り込み、性懲りも無く再び丸々と勃起したクリトリスを懸命に擦っていました。
 
 左手は、パジャマの上からノーブラのおっぱいを激しく揉みしだいていました。
 洗濯バサミに噛みつかれて痛そうな自分の乳首に欲情し、無理矢理押し広げられたアソコに欲情し、自分のはしたない喘ぎ声に欲情していました。

 映像が終わったらまた最初から。
 最初に感じた恥ずかしさは嘘みたいに消えて、その映像がくれる迫力に魅入られたみたいに、瞳を凝らしてモニターの中の自分の行為を見つめていました。
 
 最初の数十秒間だけ顔も映っていましたが、コーフンしてくるにつれて上半身がのけぞって鏡の枠をはみ出し、最後のほうは激しく揺れるおっぱいから、のたうつアソコまでの映像になっていました。
 イク寸前に激しく上下する自分の腰つきは、まるで獣でした。
 
 スゴイ…
 私って、こんななんだ…
 感じている自分の表情も、どうせなら見たかったかな…
 そんなことを思いながら、止まらない右手で私はまた、気持ち良くイかされてしまいました。

 はあ、はあ、はあ…
 せっかくお風呂に入ったのに、また汗びっしょりになっちゃった…


ピアノにまつわるエトセトラ 05

2011年10月9日

ピアノにまつわるエトセトラ 03

 やよい先生からの課題、ミーチャンさん作の輪っかに洗濯バサミをいくつかぶら下げた装置をアソコに付けてオナニーしているところを自画録りしなさい、をデジタルカメラの動画モードで提出してから約一週間後、私は、思いがけないプレゼントを受け取りました。
 
 私自身、記憶の片隅に置き忘れたまま、忘れ去りそうだったあの夏の日の証拠品。
 それは、あまりにもあからさまな、恥辱にまみれた被虐と羞恥の結晶でした。

 輪っかに洗濯バサミの課題自体も、かなり恥ずかしくて屈辱的な体験でした。
 夏に経験したやよい先生とのプレイの中でも、強烈な印象が残っているミーチャンさん作の悪魔のオモチャ。
 
 それは、靴下とか小さな下着類を干すときに使う、丸いリングに洗濯バサミがいくつもぶら下がっている洗濯物干しを、二まわりくらい小さくして吊るす部分を省いた形状の器具でした。

 今回、送ってきてくれたそれは少し改良されていて、リングは直径20センチくらいの赤いプラスティック。
 やよい先生が使ったのは、そこに普通のプラステイック洗濯バサミが6つ、等間隔にまあるくぶら下がっていましたが、今回のは洗濯バサミが4つ。
 
 リングの右側と左側に、時計の文字盤で言うと2時、4時、8時、10時の位置に短かいゴムで左右対称にぶら下がっていました。
 洗濯バサミ自体もよくあるやつではなく、金属製で、挟む部分の面積が広く、その部分には柔らかめな滑り止めゴムが貼ってありました。

 送られてきた荷物の底にこの器具をみつけた瞬間、私のアソコがヌルンと緩みました。
 そして、これを付けてオナニーしているところを自画録りせよ、というメール課題を読み、もういてもたってもいられないほどからだが疼いてしまいました。
 
 この器具を付けると、アソコの穴がパックリ開かれたまま固定されてしまい、恥ずかしい部分の何もかも、奥の奥までが見事に晒されてしまうのです。
 そんな姿を自分で録画して、やよい先生と、必然的に一緒に見るであろうミーチャンさんに提出しなければいけないのです。
 これ以上の恥ずかしい課題があるでしょうか。

 録画までするとなると準備もいろいろ必要ですし、時間もかかりそう。
 ゆっくり誰にも邪魔されない日に行ないたいと思いました。
 幸い、このところ毎週土曜日の午後は、お家に誰もいない時間を過ごすことが出来ていました。
 
 母は彫金のお教室、篠原さん親娘も、ともちゃんがスイミングスクールに通い始めたので、午後の1時から6時くらいまでは、いつも私一人でお留守番状態でした。
 迷わず、その週の土曜日に決行することにしました。

 土曜日の午後1時半、母たちを送り出して一息ついた後、私は自分のお部屋に閉じこもりました。
 見事な秋晴れの日で、雲ひとつ無く晴れ渡った清々しい午後でした。
 
 課題をいただいた日から、ヒマさえあれば実行の段取りを考えていましたから、やることは全部シミュレーション出来ていました。
 前の日にピアノレッスンでゆうこ先生にお会いしてもいたので、ムラムラのテンションはどんどん上がっていました。

 お部屋に入って、窓という窓のカーテンを全開にしました。
 秋晴れのやわらかい陽射しがお部屋中に入り込み、いっそう明るくなりました。
 私よりも背の高い、一番大きい窓際の1メートルくらい手前にレジャーシートを敷き、防水クッションカバーを付けたクッションを2つ置きました。
 
 この防水カバーは、100円ショップと隣接したペットショップで買うともなしにワンちゃんの首輪や引き綱を見ていたとき、偶然みつけたペット用のものでした。
 少しお高かったけれど思わず買ってしまいました。
 私のえっちなおシルやよだれを、ちゃんとクッションまで染み込まないようにはじいてくれていて、重宝していました。

 それから愛用の姿見を、窓からの光が反射したり逆光にならないような位置に置き、鏡の中がキレイに映せて、なおかつ鏡にデジタルカメラが映り込まないように工夫してセットしました。
 モニター部分が外に開く形式のカメラだったので、意外とすんなり出来ました。
 
 デジタルカメラを固定するのは、前の日に母から借りた三脚。
 ゆうこ先生とレッスンしている写真を撮りたいから、と言って、シャッターの延長コードとともに昨日から借り受けていました。

 テストの意味でその場にしゃがみ、穿いていたスカートをまくってショーツの三角部分を鏡に映しつつ、カメラの角度を微調節しました。
 カメラを動画モードにして、シャッターの延長スイッチを押してみます。
 
 M字開脚のまま、ゆっくりショーツをずり下げていきました。
 三週間くらい前の剃毛課題でツルツルにした私の土手に、ポツポツと密度薄く新しいヘアが芽吹き始めているのが、姿見の鏡に映っています。
 土手を指で撫ぜると、かすかにチクチクするくらい。
 遠目ならまだまだぜんぜんパイパンです。

 延長シャッターを操作して録画を切ってから、ショーツを両膝に引っ掛けたまま立ち上がり、今録画した動画を確認してみます。
 位置はバッチリ、明るさもおっけー。
 
 デジカメの小さなモニターの中に、自らの手でショーツを下ろしていく私の下半身がガサゴソという臨場感溢れる衣擦れの音とともに、鮮明に記録されていました。
 鼻から下部分くらいからしゃがみ込んだ全身がキレイに録れています。
 裸になればおっぱいはもろに映るでしょうし、もう少し身を屈めれば顔全体も映っちゃいそう。
 
 自分主演のはしたない動画を見ながら、どんどんムラムラが昂ぶってきていました。
 着ていたものをすべて、そそくさと脱ぎ捨てました。

 今日の妄想は、榊ゆかりシリーズの最新作。

 今年の1月から書きつづけている榊ゆかりシリーズの妄想執筆オナニーのことは、以前、やよい先生とのお電話中、何かの拍子でポツリと洩らしてしまい、すごく興味を持たれて、そのお話をスグ送ってくるようにご命令されました。
 自信作を何篇かメールで送ったら、すっごく褒められて、今後も何かお話を書くたびに送るようにご命令されました。
 
 そして、やよい先生は、百合草やよい、の本名で、榊ゆかりシリーズへのご出演を快諾してくださいました。
 ついで、と言っては失礼ですが、ミーチャンさんからも、水野美衣子、の本名でドM隷女としてぜひ出演させて欲しい、って頼まれていました。

 百合草やよいさま経営のレズビアンバーで働くことになったゆかりは、カウンターの中でやよいさまがお召しになっていたお気に入りの真っ白なドレスに、誤まって赤ワインを盛大にこぼしてしまうというヘマをしてしまいました。
 やよいさまのドレスは大層お高く、やよいさまは怒り心頭で、どう謝っても許してもらえませんし、すぐに弁償するなんて絶対無理。
 
 そこで、ドSのやよいさまは、ご自分のご趣味と実益を兼ねて、弁償代を稼ぐために常連さんをたくさん呼んで、秘密のショーを見せることを企画しました。
 そのショーとは、ビアンでSなお客さまばかりで満員のバーカウンター上でゆかりが全裸になり、やよいさまに謝りながらの自虐オナニーをご覧いただく、というものでした。
 お客さまにすべてを見ていただくために、あの輪っか器具でアソコを大きく広げた格好での公開オナニーショー。

 裸になった私は、まず自分のおっぱいを、大好きな上下からロープで絞り込む形にキツク縛りました。
 日頃の練習の成果もあり、この頃の私はかなりスムースに麻縄を扱えるようになっていました。
 
 この後もいろいろしなければならないので、二の腕ごとは縛れませんが、二つのおっぱいが無残に歪んで乳首がピンと飛び出すように、ロープのブラジャーみたいな形に縛り上げました。

「ああんっ!」
 
 疼くからだがどんどん敏感になってきて、知らず知らずにえっちな声が洩れ始めます。

 おっぱいの次は両脚。
 鏡前のクッションの上にしゃがみ込み、まず左脚から、折りたたんだ膝が戻れないように、太腿の上からロープを脛に回して左脚を一くくりに縛り上げました。
 右脚も同様にすると、両脚とも膝でUの字にたたまれた形になり、もはや立ち上がることは出来ません。
 
 お尻をついて座り、両膝を左右に180度広げると、アソコのスジも左右に分かれて、くぱぁと口を開けます。
 でも、今日はこの口を、器具で更に押し広げなければならないのです。

 その前にいつものアクセサリー。
ロープに絞られて肌全体をひきつらせた可哀相なおっぱいの頂点で、ツンと飛び出して存在を誇示している、いやらしい乳首。
 その充血してコリコリになったスケベな突起に、木製の洗濯バサミを噛みつかせます。

「うっ!つぅーっ!」
 
 少し前までは、こんな痛みには絶対耐えられないと思っていた激痛が、最近では陶酔するほどの快感に変わっていました。

「いっ!つぅぅんっ!」
 
 右、左と噛みつかせ、さらに両手で左右の洗濯バサミの柄を乱暴に揺らします。

「あーーんっ!」
 
 乳首が上へ下へひっぱられ、ちぎれそうな感覚とおっぱい全体にジワジワ広がる疼痛。

「うっふうぅーんっ!」
 
 痛いはずなのに、なぜだか悦びに満ちた、誰かに甘えるようなため息が洩れてしまいます。

 ひとしきり乳首を虐めたら、いよいよ悪魔のオモチャの出番です。
 鏡の前で両膝を大きく開きました。
 アソコの中は、これからされる恥辱な仕打ちの期待に打ち震え、ビショビショのヌルヌル大洪水でした。

 早くもビチャビチャに濡れてしまった右手の指先で、赤いリングに結び付けられた洗濯バサミの一つを掴みました。
 つづいて、私のアソコの割れスジの向かって右上部分、穴に近い土手部分のヌルヌルな皮膚を左指先で引っぱるように一つまみし、つまんだ皮膚を右手の洗濯バサミに噛みつかせました。

「あぁーんっ!」
 
 鈍い疼痛とともに、敏感になっているアソコ周辺を甘美な刺激が襲います。
 つづいて、さっきの洗濯バサミとは180度反対側の洗濯バサミを、穴の左下部分へ。

「いやんっ!」
 
 鏡に映った私のアソコは、普通に膝を開いていたときとは大違い、露骨に2ヶ所の皮膚を引っぱられて、いびつな形に変形し、穴の面積も広がっていました。
 アソコのまわり2ヶ所から鈍い疼痛を受けている私の穴は、しきりに粘膜をよじらせて、もっともっととせがんでいるよう。
 ヌルヌルなよだれがお尻の穴のほうへしきりに垂れていき、私の両手の指先は、すでにフニャフニャふやけ始めていました。

「んんーっ!」
 
 左上部分を洗濯バサミに噛ませると、穴の上半分が大きく半楕円形に広がりました。
 ピンク色にテラテラ光るクリトリスが肥大して完全に露出。
 それを隠していた鞘は不自然に左右から引っぱられて皮が痛々しく引きつっています。

「いやーっ!」
 
 右下部分が噛まれたとき、私の穴はラグビーボールが太ったみたいな見事な楕円形にパックリと口を開けていました。
 大陰唇と小陰唇が肉襞もろとも均等に引っぱられて左右にそれぞれキレイな曲線模様を描き、その中央でヌラヌラ濡れそぼった鮮やかなピンク色が幾層も重なった、見るからに卑猥な穴が奥へ奥へと誘うようにヌメヌメ蠢いています。

 その穴の頂上に冠のように飾られた、プックリとしてツヤツヤ輝く快楽の象徴たる肉の核。
 穴の中は、濡れそぼっているのにすごく熱そうで、目をこらせば漂う湯気さえ見えてきそうでした。
 その穴の少し下には、惑星に対する衛星のような縮尺で、小じんまりとヒクついているお尻の穴。

 それらのすべてが私の目の前の鏡に、隠すところなく鮮明に映っていました。
 まるで、みんなここをもっとよーく見てっ!って注目を集めたいがために施されたような、キレイな赤色の輪っかに縁取られて。


ピアノにまつわるエトセトラ 04

2011年10月8日

ピアノにまつわるエトセトラ 02

 母は、もうとっくにフラのお教室には行かなくなっていましたが、あのときの3人、ミサコさんとタチバナさん、そして大貫さんとはずっと親しくおつきあいしているみたいでした。
 ミサコさんのご紹介で彫金を習い始めたり、4人で温泉旅行に出かけたり、いろいろしているようです。
 我が家に遊びに来たことも何度かあったみたいなのですが、私が学校に行っていたり外出中だったりで、大貫さんにお会いするのは、中2の夏休み以来でした。

 お約束の時間の少し前に、大貫さんが我が家にやって来ました。
 豊かな黒髪に軽くウエーブがかかった他は、あの頃とまったく変わらない、いえ、よりいっそうお美しくなられていました。
 
 シンプルだけれど肌触りの良さそうな真っ白いブラウスに、ツヤツヤした布質のベージュのロングスカートとジャケットを合わせた大貫さんの姿は、どこのご令嬢?って思うくらいお上品でお綺麗でした。

「直子さん、お久しぶりね」
 
 リビングでジャケットを脱ぎ、ソファーに優雅に腰掛けた大貫さんがニコッと笑いかけてきました。

「ご指導、よろしくお願いします!」
 
 ペコリとお辞儀を返した私は、その後上げた視線がどうしても、白いブラウス越しの大貫さんのバストに向いてしまいます。
 セクシーな形にカーブを描くブラウスの布。
 
 脳裏に浮かぶのは、あの夏の日に見た極小ビキニから盛大にはみ出していた形の良い、たわわなおっぱい。
 私は、あわてて脳内の画像を消し、お愛想笑いみたいにぎこちなく笑い返しました。

「私からもよろしくお願いするわね、ゆうこさん。直子をビシビシ鍛えちゃって」
 
 母が紅茶を煎れながら、茶化すみたいに私と大貫さんを見比べてニヤニヤしています。

「ううん。わたしも直子ちゃんにぜひもう一度会いたいと思っていたから、お話をいただいて、嬉しくなっちゃた。仲良くやっていきましょうね、直子ちゃん?」
 
 大貫さんが蕩けるような妖艶な笑顔を私に向けてくれました。
 私は、文字通り見蕩れてしまいます。
 こんなに綺麗でオトナな雰囲気の美人さんと、これから週一回は必ず会えるんだ。
 その上、この美人さんには、絶対に私と相通じるえっちな秘密があるはず…
 心がどんどんワクワクドキドキしてきました。

 少しの間、3人でお茶を飲みつつ世間話でまったりした後、私のお部屋に移動してピアノレッスンが始まりました。
 母も傍らで見学しています。

「幼稚園の先生になるためのピアノなら、バイエルがだいたい弾けて、簡単な楽譜が初見で弾けるっていうレベルまでもっていけばいいだけだから、直子ちゃんならすぐに体得出来るわよ」
「短期間でラフマニノフやリストを弾きこなしたい、なんて言われたら、わたしも考え込んじゃうけれど、ね?」
 
 まず最初に、私の指がどのくらい今動くのかを見た大貫さんが、やさしく言ってくれました。
 その後、大貫さんがバイエルの一番最初から順番に何曲か模範演奏してくれました。
 その演奏を聴いて、小学生の頃習った曲をどんどん思い出してきて、私も、なんとかなりそうだな、っていう自信というか、希望みたいなものを持つことが出来ました。

「直子ちゃんは、楽譜の読み方のルールもちゃんと覚えているみたいだし、意外と早く習得出来そうね」
「あとは、10本の指がちゃんと動くように日頃から訓練を積み重ねていけばいいだけ」
 
 最初のレッスンが終わった後、大貫さんはステキな笑顔で私の両手を取って、励ましてくれました。
 大貫さんの白くて長くて細くて綺麗な指。
 その感触にやっぱり、あの夏の日のことを思い出してしまい、ドキドキしてしまう私。
 お夕食を一緒に食べた後、母が車で大貫さんをご自宅へ送っているお留守番の間、私は自分のお部屋で大急ぎで久しぶりの思い出しオナニーをしてしまいました。

 大貫さんは、毎週金曜日の夕方に来てくれることになりました。
 夕方から1、2時間、集中してレッスンして、お夕食を食べて、それから母を交えてまったり世間話をして、たまには母とお酒を飲んで泊まっていかれることもありました。
 
 私は、大貫さんと会えることがすっごく楽しみになっていました。
 大貫さんは、やさしくて、優雅で、気さくで、いつしか私は親愛を込めて、ゆうこ先生、と呼ぶようになっていました。

 季節は秋が深まる頃でしたから、ゆうこ先生は毎週、長めのワンピースにフワフワのカーディガンとか、ゆったりしたジャケットにサブリナパンツとか、シックでエレガント系な服装で、ライトブルーな可愛らしい形の車に乗って我が家を訪れました。
 そのファッションがまたすっごく似合っていて、私は会うたびに見蕩れていました。
 
 レッスンも5回を数える頃になると、私もゆうこ先生みたいにオトナな雰囲気の女性になりたいなあ、っていう、まさに憧れの存在に変わっていました。
 私のもう一人の憧れ、やよい先生が動の魅力ならば、ゆうこ先生には静の魅力を感じていました。

 もちろん、ピアノの練習も一生懸命やりましたが、ゆうこ先生に一番聞いてみたいことは、ピアノに関することではありませんでした。
 
 あの夏の日に、なぜあんな水着を着せられていたのか。
 どうして、あんなに恥ずかしがっていながら、それでも着つづけていたのか。
 ゆうこ先生は、ああいう格好をすることが好きなのか。
 まだまだ他にもいろいろ。
 私との共通項を確認したくて仕方ありませんでした。

 でも、ゆうこ先生とお話しするときは、たいてい母も傍らにいましたから、そんなえっち系な質問は出来るはずもありませんでした。
 それでも、母とゆうこ先生の他愛も無いおしゃべりを注意深く聞いていると、段々とゆうこ先生の私生活がわかってきました。

 ゆうこ先生は、普段はゲームやアニメやドラマなどのBGMを作曲するお仕事をされていること。
 そのお仕事は、今はあまり本格的にはやっていなくて、気が向いたときにやる程度なこと。
 有名な歌手のライヴやレコーディングにも、たまにキーボードで参加することがあること。
 そういうときは、ほとんどご自宅に戻れない生活になること。
 
 私の他にもう一人、ピアノを教えている生徒がいること。
 別れた旦那さまは、まったく音楽とは無関係なお仕事の人で、離婚の原因は旦那さまのたび重なる浮気だったこと。
 お金はけっこう貯まっているので、あまりお仕事をしなくても暮らせること。

 母とゆうこ先生がお酒を飲んでいて、ゆうこ先生が少しだらしなくなっているとき、カレシが欲しいって思わないの?って聞かれたことがありました。
 私は、母がいるのがちょっと気になりましたが、思い切って言ってしまいました。

「私、男の人ってなんだか怖い気がするんです…」
 
 母は、あはは、と笑ってから、

「うん。高校女子は、そのくらい臆病でちょうどいいのだよ」
 
 ってニコニコしながら私の頭を撫でてくれました。
 ゆうこ先生も便乗して手を伸ばしてきて、私の髪を撫でながら、

「うんうん。わたしももう男はこりごり。今は直子ちゃんみたいな可愛い女の子と一緒にいるのが一番楽しい」
 
 しみじみした感じでおっしゃいました。

 それを聞いて照れ笑いを浮かべるだけの私でしたが、内心ではズキンドキンと胸が激しく高鳴っていました。
 ゆうこ先生と私、ひょっとするとうまくいくかもしれない。
 理由も無くそんな予感が芽生えていました。

 その頃の私は、いつもとは少し違う種類のムラムラを抱えていました。
 一人で闇雲にいやらしいことをして欲求を満たす、という今までのやりかたでは解消されない厄介なムラムラ。
 
 それは、誰かにからだをさわってもらいたい、誰かに抱きしめられたい、誰かをさわりたい、誰かを抱きしめたい、っていう欲求でした。
 自分で自分を慰めるのではなく、誰かを気持ち良くして、誰かに気持ち良くしてもらう快楽。
 
 それは、約3ヶ月前にやよい先生から教え込まれてしまった、贅沢な快感でした。

 今までに私のからだの隅々までさわって気持ち良くしてくれたのは、中3のときの相原さんとこの間のやよい先生、そしてユマさんの3人だけ。
 涼しさが深まる季節のせいもあるのでしょうが、最近はオナニーしていると頻繁に、その3人からの感触を思い出していました。
 
 つまり俗に言う、人肌恋しい季節、なのかな。
 誰かと裸で抱き合ってぬくもりを感じて、思う存分お互いの肌を貪り合いたい、っていう気持ちが日に日に高まっていました。

 やよい先生が東京に行ってしまい、そういう遊びが出来るお相手の心当たりはユマさんだけでした。
 実際、何度かユマさんに連絡をとってもみたのですが、メジャーデビューCDが出たばっかりのユマさんは、すっごくお忙しい日々を送っているらしく、地方にツアーに出ていたり、レコーディングで缶詰になっていたりで、いつもゴメンネのメールにキスマークの写メを添えた返信が返ってくるばかりで、デートのお約束は延び延びになっていました。

 やよい先生からは、お約束どおり定期的に課題が送られてきていました。
 自分でパイパンに剃毛する過程をビデオ撮影して送りなさい、とか、ミーチャンさん作の輪っかに洗濯バサミをいくつかぶら下げた、アソコの穴をまあるく広げて固定する装置が送られてきて、これを装着してオナニーしているところを自画録りしなさい、などの刺激的な課題も、やっているときは大コーフンしているのですが、それでも頭の片隅に、人肌への願望、が燻りつづけていました。

 そんなせいもあってか、自虐的なオナニーをしていると、いつもよりたくさん洗濯バサミをつけたり、ロープを肌にきつく食い込ませたりと、自分虐めの度合いが増してしまう傾向になっていました。

 そんなときに親しくおつきあい出来るようになった、妖艶なオトナの美女、ゆうこ先生。
 おそらく私と共通する恥ずかしい性癖をお持ちのはずな、ゆうこ先生。
 私のゆうこ先生へのえっちな想いは、日に日に募るばかりでした。


ピアノにまつわるエトセトラ 03

2011年10月2日

ピアノにまつわるエトセトラ 01

 高校2年生の二学期が始まって衣替えも近づく頃、私はピアノを習い始めました。
 私の将来の希望、幼稚園の先生になるためには必須だと知り、必要に迫られての選択でした。
 幸い、母の友人にピアノがすごく上手いかたがいて、そのかたが週一くらいのペースで個人レッスンをしてくださるということになりました。

 私は、小学校3年生までピアノを習っていました。
 きっかけは幼稚園のとき。
 幼稚園の建物に隣接して、とある音楽教室があり、母の意向で幼稚園入園と同時にそちらにもお世話になることになりました。
 
 その音楽教室は、今にして思えばけっこう本格的なもので、若めのご夫婦が経営されていて、幼稚園児から大人の人まで、いろいろな楽器のレッスンを手広く幅広くご指導されていました。
 私がずっと教わっていた先生は、そのご夫婦の奥さまのほうで、きよみ先生と呼んでいました。
 長いストレートヘアを真ん中分けにして、いつもキレイなリボンで長いポニーテールに結んだ、丸ぽちゃでえくぼがステキな気さくな感じの女性でした。

 幼稚園のときのレッスンは、幼稚園でやるおゆうぎの延長のようなもの。
 カスタネットやトライアングルを手に持って鳴らしながら、音楽に合わせてヒョコヒョコ踊るような感じのものだったと思います。
 幼稚園がキリスト教系だったので、聖歌のようなお歌の合唱もよくしていました。
 
   母によると、音楽教室での私がすごく楽しそうだったので、幼稚園を卒園しても、その音楽教室にはそのまま籍を置くことにしました。
 小学校1年生になると週に一回、学校が終わった後に母と一緒にその音楽教室に通って、ハモニカやリコーダーのレッスンを受けました。

 クラシックの名曲をかけて、それを聞いて感想を言い合う、みたいなレッスンもありました。
 私は、たとえばプロコフィエフのピーターと狼、とか、ケテルビーのペルシャの市場にて、みたいな楽しげな雰囲気の曲だとニコニコしてご機嫌で、ドヴォルザークの新世界より、とか、ショパンのノクターン、みたいな哀愁を帯びたメロディを聴くとしょんぼりしてしまうような、非常にわかりやすい子供だった、と母が笑いながら話してくれたことがありました。
 
 ドヴォルザークのユーモレスクが大好きで、前半の軽快で優雅なメロディのところでは、すっごく嬉しそうにしてるのに、真ん中へんの暗めなメロディになると途端に泣き出しそうな顔になって、また最初のメロディに戻るとニコニコし始めるのが面白くて、何度もくりかえし聞かせたものよ、って笑いながら懐かしそうに語る母。
 確かに私、今でもユーモレスクを聞くと同じ反応をしてしまいます。
 さすがに今は、そんなにわかりやすく顔には出さないけれど。

 小学2年になると、本格的な楽譜の読み書きと、何か一つ、習う楽器を決めることになりました。
 確か、ピアノ、電子オルガン、ヴァイオリン、フルートが選べたと思います。
 電子オルガンを担当していたのは、きよみ先生の妹さんで、発表会のときの模範演奏が素晴らしくって、まるでオーケストラみたいでした。
 
 すごいなー、と思った反面、見ていると両手両足がめまぐるしくも忙しく動いていて、難しそうだなー、とも思いました。
 かなり迷って、たぶんピアノが弾けるようになれば、あとは足を練習すれば電子オルガンも弾けるのじゃないかな、なんて甘い考えに達し、きよみ先生が教えてくれるピアノにすることにしました。

 母がなぜだか当時、ピアノの音も出せるシンセサイザーを持っていたので、それをアンプに繋げてリビングに据え付け、練習しました。
 楽器の調整は全部、父がやってくれました。
 小学3年の年度末に転校するまで、バイエルの半分くらいまでは進んだと思います。

 転校してしばらく経つと、まったく鍵盤にはさわらなくなってしまい、いつの間にかシンセサイザーも片付けられてしまいましたが、音楽を聞くのは大好きでした。
 もともと父が洋楽好きで、当時の父のお部屋には、今ではめったにお目にかかれない大きなLPレコードやCDがたくさんあって、父のお部屋に遊びに行くと必ず何か音楽が流れていました。
 ビートルズやカーペンターズ、アバやマイケルジャクソンさん…
 それに、そういうのよりもっとギターがギュワーンとうるさいロックな音楽。
 父のお部屋には、真っ黒な平べったいひょうたんみたいな形をしたエレキギターも置いてあって、ときどき爪弾いていた姿もはっきり憶えています。

 母は、クラシックと日本の女性シンガーの曲が好きみたいで、母のお部屋にもそれなりにCDがたくさん並んでいました。
 私が最初に、母にねだって買ってもらったCDは、パフィだったかな。
 母が好きでよく聞いていたスパイスガールズも、プロモーションビデオをテレビで見て、この外国人のお姉さんたち、なんてカッコいいんだろう!って思ったのを憶えています。

 そんな感じの音楽遍歴な私の8年ぶりのピアノレッスン復帰に、森下家は大騒ぎでした。
 母は、アップライトのアコースティックピアノを買う気マンマンだったのですが、定期的な調律の問題や、生音によるご近所迷惑、大学生になったら私が家を出てしまうかもしれない、っていうことも鑑みて、鍵盤がアコースティックピアノのタッチに近くて、夜でもヘッドフォンで練習出来るエレクトリックピアノにしよう、という父の提案が採用されました。
 
 父が妙に生き生きとして、いろいろなカタログや雑誌を集めて検討した結果、日本の老舗メーカーの、ピアノだけでも音色が10個以上もある88鍵の細長いエレピが私のお部屋にやってきました。

 9月中旬の日曜日、お昼過ぎ。
 私のお部屋に親子3人と篠原さん親娘が勢ぞろいして、エレピとアンプを繋げる父の配線が終わるのを待っていました。
 こんな風に勢ぞろいしてガヤガヤするのも久しぶり。
 なんだか心がウキウキしています。

 ピアノの音が出るようになって、早速、父がつっかえつっかえでしたがジョンレノンさんのイマジンを小さな声で弾き歌いしてくれました。

「けっこう忘れてないもんだねー」
 
 弾き終わった後、父が照れ笑いしながら母に席を譲ります。

「もうずいぶん弾いていないから、なんだかドキドキするわー」
 
 なんて言いながら、母もジョーサンプルさんのメロディーズオブラヴを、何箇所かヘンなところもありましたが弾ききりました。

「うわー、すごい!パパもママもなんで楽譜も見ないで弾けるの?」
 
 私は、真剣に驚いていました。
 両親がこうして楽器を弾くところなんて、ずいぶん見ていなかったから。

「ママは大学生のとき、文化祭の野外ステージでこの曲のソロを取ったんだよ」
 
 父が懐かしそうに教えてくれました。

「家にピアノが来るっていうんで、こっそりお友達の家で二、三回練習しておいたのだけどね」
 
 母が白状しました。

 篠原さんちの小学3年生、ともちゃんもずっとピアノを習っていて、もうとっくにバイエルは終わっているそう。
 ともちゃんは、小さなからだでエレピの前にチョコンと座り、ベートーベンのエリーゼのために、を見事に弾いてくれました。
 
 大トリは篠原さん。

「私もフルートばっかりで、ピアノはほとんどさわっていないのだけれど…」
 
 そう言いつつ、ショパンの別れの曲を難なく弾きこなす篠原さん。

「なんだー、みんなピアノが弾けるんじゃない?なんだかズルイーっ!」
 
 私が今、ささっと弾けそうなのって、ネコふんじゃったとチョップスティックスくらい?
 それさえも弾き通せるか、自信はありません。

「篠原さんのお家にもピアノがあったんだ?早く言ってくれたら良かったのにぃ」
 
 なんとなく篠原さんに文句を言ってしまう私。

「ええ…こんなに立派なのじゃないけれど智子のために…」
 
 篠原さんがなんだかすまなそう。

「だってなおちゃん、ともちゃんがピアノの練習している音が聞こえてきても、今までは何の反応もしなかったじゃない?」
 
 母が篠原さんに助け舟を出しました。

「こんなにみんなが弾けるんなら、みんなに教えてもらえばすぐ、上手くなれるかなー?」
 
 篠原さんに申し訳なくなって、その場をごまかそうと愛想をふる私。

「だめよ。わたしたちはみんな昔習ったまま我流になっちゃっているから、ちゃんと筋道たてて教えてくれる先生につかないと」
 
 母がその場をまとめて、うんうんとうなずくみんな。

「でも、わたしは今習っている最中だから、ときどき一緒に練習しよ?」
 
 ともちゃんが私に抱きついて笑いかけてくれました。

「うん。一緒にがんばろうね」
 
 ともちゃんと手を取り合って、私は俄然、ヤル気が出て来ました。

 そして9月三週目の金曜日。
 早めに学校から帰宅した私は、リビングで母と二人、ピアノのレッスンをしてくださる先生をお迎えするべく、ワクワクしながらお待ちしていました。
 先生のお名前は、大貫木綿子さん。

 そう。
 約3年前、私が中学2年で、トラウマもまだ受けていなかった夏休みのある日。
 母の主催で自宅のお庭で開かれたガーデンパーティに、紐みたいなキワドイ水着でめちゃくちゃ恥ずかしがりながら参加されていた、あのオオヌキさんでした。


ピアノにまつわるエトセトラ 02

2011年10月1日

氷の雫で濡らされて 20

シャワーをゆっくり丁寧に浴びて、からだ中の汗やいろんな液体を洗い流してサッパリしました。
白いバスタオル一枚巻いてリビングに戻ると、いい匂いがしていました。
隣接したダイニングのテーブルの上に、美味しそうなお料理がたくさん並んでいました。

シーナさまのおススメで、シーナさまに買っていただいたグリーンのボートネックのチュニックを素肌にかぶり、リビングのソファーに腰掛けて髪をドライヤーで乾かしました。
胸元の布地が2箇所、控えめに浮き出ていてちょっぴり気恥ずかしい。
そうしている間にシーナさまは、お料理をレンジで温めたり、スープをコンロで炙ったり、イチゴを洗ったりキウイを剥いたり、とテキパキお夕食の準備を進めていました。

「いただきまーす」
グラスに注いだビールで乾杯した後、お夕食が始まりました。
4人掛けのテーブルの長いほうの一辺に、シーナさまと隣り合わせに並んで座りました。
BGMはドビュッシーのピアノ曲。
「いろんな種類が食べたくて、たくさんを少量づつ買ってみたの。だから見た目より、そんなに量的には多くないわ」
シーナさまがトマト系のパスタをお皿に取ってくれながら言いました。

テーブルの上には、色とりどりのいろんなお惣菜が、どれも湯気をたてて並んでいます。
シーナさまは、その小柄なからだに似合わず、モリモリと美味しそうにフォークを小さなお口に運んでいました。
私も今まで使った体力の分、正しくお腹が空いていたので、テーブルのあちこちへフォークを伸ばしてモグモグ食べました。

お食事の間中、シーナさまとたくさんおしゃべりしました。
えっち系な話題ではなくて、フツーのおしゃべり。
主にシーナさまが話題を振って、私が答える感じ。
学校ではどんな科目を専攻してるのか、とか、普段はどこで何を食べているのか、とか、お友達はどんな子たちか、とか、東京に来てからどこへ遊びに行ったか、とか。
まるで、昔からのお友達と喫茶店でおしゃべりしているときみたいに、和気藹々と楽しい時間が流れました。
ちなみに、シーナさまが一番好きな食べ物は、以前地元で働いていたファミレスのエビマカロニグラタンだそうです。

「あらら。もうこんな時間!?」
テーブルの上のお料理もあらかた空になってホッと一息ついた頃、壁に掛かかったまあるい時計に目をやったシーナさまが声をあげました。
8時半を少し過ぎていました。

「あんまり居心地が良くて油断しちゃったわ。そろそろ行かないと」
シーナさまが席を立ち、ご自分のバッグのところへ行って何やら点検をし始めました。
確か9時のお約束、って聞いていました。
「だいじょうぶですか?間に合いますか?」
私も席を立ち、意味も無くアタフタしてしまいます。

「うん。それはだいじょうぶ。後片付けのお手伝い、出来なくてごめんなさいね。散らかすだけ散らかしちゃって・・・」
「いえいえ。そんなの私一人でラクショーですから。それより、長々とお引止めしちゃって、美味しいお夕食までご馳走になっちゃって」
オタオタしながらシーナさまの傍に駆け寄った私の言葉を聞いているのかいないのか、シーナさまは、パチンとバッグを閉じて肩に提げてから立ち上がり、私のほうに向きました。

「今日使った鎖とか道具は、みんなキレイに拭いてからこのカートの中に入れたから。このカートは当分、直子さんちに預けておくわ。そのほうがわたしも次来るときラクだし」
「もちろん中身は自由に使っていいわよ。自分で工夫して、セルフボンデージの拘束アイスタイマー遊び、やってみるといいわ」
シーナさまがニッと笑いかけてくれます。
「直子さんの学校もそろそろ夏休みでしょ?わたしも時間作って必ず近いうちにまた、遊びに来るから。そのときはもっとダイタンでいやらしい遊び、しましょーね」
「はいっ!私も楽しみに待ってます!」

期待に満ち溢れた目を爛々と輝かせた私の答えを聞いたシーナさまは、ニコッと微笑んでからテーブルのほうへ戻り、テーブルの上のアイスペールに右手を突っ込み、大きめの氷を一かけら掴んで戻って来ました。

「んー」
シーナさまがその氷をお口に咥えて私のほうにお顔を突き出しました。
「えっ?」
不意をつかれてキョトンとしている私を見て、シーナさまは咥えていた氷をいったん指でつまんではずし、じれったそうなお顔で私を見ました。
「ほら、早くしてっ!」
言ってから、もう一度氷を咥え直します。
「あ。はいっ!」

いささか情緒に欠けてしまった鈍い私。
気を取り直して、ドキドキしながらシーナさまの咥えた氷に唇を近づけていきました。
今度は二人とも、目は開けたまま。
シーナさまと私の視線が至近距離で交わります。
両腕は、お互いの背中にまわり、互いにギュッと自分のほうへ抱き寄せています。
氷の雫がポタリと垂れて、私とシーナさまの胸元を小さく濡らします。
見つめ合ったまま、互いの唇が重なりました。
2秒、3秒、4秒・・・
7秒間、じっと唇を合わせた後、シーナさまのほうからからだを引きました。
私の口の中に、冷たい氷が残りました。

「それじゃあ、またね。ごきげんよう。鍵は全部、閉めていくからねー」
背中を向けたまま右手だけ上げてヒラヒラさせて、シーナさまがリビングのドアの向こうに消えました。
「ほひへんほー」
口一杯の氷を頬張ったまま、私も大きな声でご挨拶。
玄関まで見送ったほうがいいのかな、とも思ったのですが、なんとなくこのまま、シーナさまの唇の感触の余韻に浸っていたい気分でした。
その場にボーッと立ち尽くしたまま、玄関のドアが閉じるバタンという音を聞きました。

「やっぱり一つだけ、謎が残っているよねー」
流しでお皿やグラスを洗いながら、独り言をつぶやいてしまいました。
シャワーを浴びている最中に、ふっと湧いた疑問でした。
お食事のときにシーナさまに聞いてみようと思っていたのですが、あまりにおしゃべりが楽しくて、聞きそびれてしまいました。

その謎とは・・・
いったんお外に出たシーナさまが、どうしてもう一度私のお部屋に戻ってこれたのか?

前にちょこっとご説明した通り、私のお部屋に来るためには、エレベーターの解除キーを私に申請しなければなりません。
4階にエレベーターを止めるためには、マンションのエントランスでエントランスキーで操作するか、部屋番号を押して私へ連絡して、こちらで操作するかしなければならないのです。
たぶんシーナさまは、私がやよい先生にお渡しした私のお部屋の玄関の鍵は、やよい先生から借りてきていたと思います。
でも、その鍵ではエレベーターは操作出来ませんし、エントランスキーの暗証番号は、私の母以外には、誰にも、やよい先生にもお教えしていませんでした。
それなのにシーナさまは、一度外出され、エレベーターの解除キー申請無しでまた戻ってこられました。

まさかシーナさま、一時間以上の間、蒸し暑い4階のドアの外で待っていたとか?
いえいえ、だってシーナさま、その間にお洋服着替えていらしたし、鞭とか一部の私物は持って帰られたみたいだし、それはありえません。
ていうことは、???・・・

いくら考えても納得のいく結論が出なかった謎の答えは、その夜10時頃にかかってきたやよい先生からの電話で氷解しました。

「なんだかずいぶん盛り上がったみたいね?シーナったら、あの子にしては珍しく大コーフンしてたわよ?」
やよい先生のお声にかぶさって、なんだかガヤガヤ猥雑とした雰囲気が感じられます。
お店からみたい。

「ん?そう。ようやくお店の客足が落ち着いて常連さんばっかになったから、他の子に任せて一息ついて休憩中」
「それよりシーナ、なおちゃんのことずいぶん気に入っちゃったみたいだよ?普段のあの子の趣味とはぜんぜん違うのに」
「えっ?シーナ、言ってないの?ま、わざわざ言わないか。シーナはね、フケ専なの。百合的に言うとウバ専?」
「あはは。なおちゃん、わかんないよねー。つまり、自分より年上の女性を苛めるのが大好きなのよ、シーナは。それも親子ほど年上などっかの有名会社の社長夫人とか、お嬢様育ちのゴージャス系なご婦人とか」
「そういうおばさまがたに、あの子、妙に気に入られちゃうんだよねー。あ、おばさまって言っても、それなりの容姿のキレイでお上品系な女性でないとダメなんだけど」

「そういう人たちには独自のネットワークがあるみたいでね。あと、普段きらびやかに着飾って、ある種、傲慢に振舞っているご婦人方って、意外とマゾ性が強い人が多いみたいなんだよね。ほら、そういう人の配偶者ってお金持ちだから外にもいっぱい女囲ってるじゃない?」
「あんまり構ってもらえないから若い男と浮気でもしたいけれど、バレるとややこしいし自分の生活も危うくなる。その点、女性とならいくらでもごまかし効くし、って、どんどんプレイに嵌まっていくみたい」
「で、そんなお金持ちおばさまのネットワークで、シーナは超人気アイドルなの。シーナ自身も年上苛めが大好きだから、お互いハッピー」
「たまに、おばさまたちが連れて来たM男も苛めてるんだって。男の場合は、絶対に素手ではさわらない、さわらせないで徹底的に泣くまでやる、って言ってた」
やよい先生が愉快そうに笑いました。

「そんなシーナがなおちゃんとのこと、すっごく嬉しそうに言ってきたからさ、あたし、さすがなおちゃん、て見直しちゃった」
「だから、今夜のことは許してあげてね。相手のおばさま、シーナのある意味パトロンだから」
「そのおばさま、なおちゃんのマンションの一番上に住んでいるんだよ」
シーナさまが、そのうち説明する、って言葉を濁していた事情を、やよい先生があっさり暴露してしまいました。

なるほど。
それならエレベーターの謎も、なんとなく解けた気がします。
同じマンション内の行き来なら、なんとでもなりそう。
きっと非常階段を使ったんだ。

「一番上の階は、ペントハウス風になっててね、お部屋部分はその分ちょっと狭いけれど、塀も高くめぐらされてるからまわりから見えないし、庭でキワドイ水着とか素っ裸でも日光浴が出来たりするんだ。今度一緒におジャマしよっか?」
「そのおばさまもそこに住んでいるわけじゃなくて、週に2回くらい、シーナと遊びにやって来る程度。もちろんおばさまの持ち物よ。それで普段はシーナが一人で住んでるんだ」
「そのおばさまとは、あたしも何度か会って、もう気心が知れてるから心配いらないよ。なおちゃんも絶対知ってる有名大会社の社長夫人」
「おばさまは40ちょいくらいの、見るからにお上品な感じの美人さんなんだけど、ドMでねえ。いやらしいカラダつきなんだ・・・」
やよい先生は、お酒が入っているのか少しお下品になっているみたいです。

ご機嫌いいみたいで普段より饒舌なやよい先生は、ずっとしゃべりっぱなし。
私は、一々驚きながらそのお話に耳を傾けていました。

わかったことは、シーナさまがおばさま好きなこと。
私が住んでいるマンションの一番上の階に住んでいること。
そのお部屋の持ち主は、お金持ちでお上品な美人さんのドMで、シーナさまのパトロンさんなこと。
シーナさまがお手伝いしているという、やよい先生のお仕事のことを聞くと、それだけはまたいずれ、とお話をはぐらかされてしまいました。

「だから、これからシーナとなおちゃんは、もう勝手に遊んでいいからね。シーナなら信頼出来るから、あたしも安心してなおちゃんを任せられる」
長くなっちゃったから、そろそろ電話切らなきゃ、ってなった後、やよい先生がポツンと言いました。
なんだか、やよい先生から突き放されたみたいで、一気に悲しい気持ちになりました。
「あ、でも、あたしはあたしでまた、なおちゃんちに行くからね。せっかくなおちゃん、東京に来たんだもの、たくさん苛めなきゃもったいない」
私の沈みかかった気持ちに気づいて持ち上げるみたいに、やよい先生が明るく言ってくれました。
途端に晴れ上がる私の気持ち。
単純だなー。

電話が切れた後、私はしばらくボーッとしていました。
今日のお昼過ぎから今までのことが、あれこれいろいろ頭に浮かんでは消えていきました。
なんだかすっごくたくさんのことが起こって、脳が処理しきれていない感じ。
からだの奥からジーンとしてきて、どんどん眠気が高まっていました。
あれだけたくさんイったからだは、さすがにまだまだグッタリ疲れているみたいです。
今頃シーナさまは、4階分離れた頭上のお部屋で、美人なおばさまを苛めているのかな?
そんなことをふっと考えて、あわてて頭をブンブン振りました。
考えても仕方の無いことは、考えないほうがいいですよね。

とにかく私は、シーナさまというステキなパートナーにめぐり会えたんです。
それも、すっごく身近に住んでいて、会おうと思えばいつでも会えるパートナー。
その上、やよい先生も、まだまだ私と遊んでくれそう。
眠いながらも、気持ちがどんどんワクワクしてきました。

今年の夏は、いつもに増して楽しく過ごせそうです。
まずは明日、シーナさまにメールを入れて、次にお会いする日を相談しよう。
明日が早く来るように、今夜はまだ早いけど、ゆっくり休もう。

冷蔵庫から取り出したロックアイスのかけらを一つ、口いっぱいに頬張りました。
シーナさまの唇の感触が鮮やかによみがえりました。
電気を全部消してチュニックを脱ぎ、裸でベッドに潜り込みました。
仰向けになって目を閉じて、唇をチュッと闇に突き出しました。

おやすみなさい、シーナさま。


独り暮らしと私 01 へ