2014年11月30日

就職祝いは柘榴石 10

「直子さんの場合はね、最低限ここを縛っておけば、それだけで何倍も感じやすくなっちゃうのよ」
 シーナさまが手馴れたご様子で私の胸元に、二つ折りにした麻縄をあてがいました。

「まずは、バストの膨らみ始めのところらへんでひとまわりさせて、それからロープの折り返しにもう片方の端を通すでしょ」
「そしたら、折り返し部分を背中にまわして、ギュッと絞るの」
「はぁうっ!」
 麻縄が肌に食い込んでくる、その痺れるような感覚に、思わず歓喜の声が出てしまいます。

「それから今度は、アンダーのほうへロープをまわして・・・」
 シーナさまの麻縄が、私の下乳に潜り込みます。
「あふぅん!」
「このときね、上下のロープで乳房を挟んで絞り出すように、きつめに縛るのがコツね」
「この子のおっぱいってほら、ちょっぴり垂れ気味じゃない?だからアンダーの裏側に潜り込ませるようにロープを入れて、上下に挟むように絞り出すの」
 余った麻縄が手際良く背中で結ばれます。

「ほら、見てよ、この乳首」
 シーナさまがニヤニヤ笑いで、私の乳首を指さします。
「ただでさえ存在感あるのが直子さんの乳首なのだけれど、こうすると、ロープで皮膚が引き攣って突っ張りながら背伸びしちゃって、痛々しいくらい尖っちゃっているでしょう?」
「思わず指で弾きたくなっちゃうわよね?この硬そうなもの。こうなっちゃったらもう、すっごくビンカンだから、息を吹きかけただけでも悶えちゃうはずよ、この子は」

 お姉さまが、私の恥ずかしいほど尖立したその部分を、食い入るように見つめてきます。
 そしておもむろに、右のそれに、フーッと息を吹きかけました
「ぁふぅん!」
 ゾクゾクッと快感が背筋を駆け上がり、同時にお腹がグルグルッと鳴りました。
 あわてて下腹を引き締めます。
「ほらね?」
 シーナさまがしたり顔で、愉快そうに笑いました。

「本当は、後ろ手にさせて二の腕ごと縛ったほうが捗るのだけれど、直子さんには、これからまだまだやってもらうことがあるから。まだ腕は自由にしておいてあげる」
 シーナさまがお姉さまに、残った麻縄を手渡しました。

「おっぱいだけでも、縛りかたはいろいろあるの。ブラみたく八の字にしたり、首から十字にかけたりね」
「独特の結びかたがたくさんあるから、それを先に覚えるといいわ。実生活でも活用できるし。あ、でも、エミリーは服飾だから、その辺は得意分野かもね」
「まあ、直子さんなら、自分でもいろいろ縛ること出来るひとだし、プレイのためだけだったら、エミリーが無理してロープにこだわる必要も無い気もするかな」
 お姉さまは、うんうんうなずいて、シーナさまのお話に真剣に聞き入っています。

「直子さんて、縛られかた云々よりも、何かしら拘束されること、が最優先ぽいのよね。だから手錠とか首輪だけでも、されただけであっさり乱れちゃうの」
「ただ、やっぱりきっちり縛ってあげると、本当にいい顔するわよ、この子。うっとりした顔して恍惚状態。縄酔いの気持ち良さ、誰かさんたちに教え込まされちゃったから」
「だから、菱縄縛りとか亀甲縛りくらいは、覚えて損は無いと思うわ」
 ずっとお姉さまに語りかけていたシーナさまが、チラッと私を見ました。

「そう言えば直子さん?あなた以前、ミーチャンからセルフボンデージレッスンのDVD、もらったのよね?」
「あ、はい・・・」
 まだ地元にいる頃、自縛の練習用にと、やよい先生がミイコさまをモデルにしてわざわざ作ってくださったものです。
 その映像で私もずいぶん、ロープの扱いかたが上手になりました。
「それ、あとでエミリーに貸してあげて。あれはとてもわかりやすいもの。エミリーならすぐ出来るようになるはずよ」
「ぁ、は、はい・・・」

 上ずった声でそうお答えしたものの、私はそれどころではありませんでした。
 緊急事態が差し迫っていました。
 お腹の中がひっきりなしにグルグル蠢き、中のモヤモヤしたものたちが、お外へ出たいと、しきりに私に訴えかけていました。
 棒枷で広げられているためにピッタリとは閉じられない膝立ちの両腿を出来る限り内股にして、お尻の穴を必死にすぼめてがまんしています。

「あ、あのぅ、今、わ、私、すぅごく、お腹が、痛いのですけれど・・・」
 お話がひと段落して、黙って私を見下ろしているおふたりに上目遣いで、すがるようにお願いします。
「もう、で、出ちゃいそうなんですぅ・・・」

 これから私の、もっとも動物的でお下品な姿を、おふたりに至近距離でご披露しなければならない・・・
 屈辱の瞬間を目前にして覚悟を決めると、恥辱と被虐がないまぜになった不思議な陶酔がありました。
 
「あら、もうとっくに5分、過ぎていたわね」
 腕時計をチラッと見たシーナさまが、その場にしゃがみ、私に目線を合わせてきました。
「もうそろそろ限界?」
「はい・・・」
「そう。だったら早く、そこに四つん這いになりなさい」

 ついに来た・・・
 絶望的なお言葉に、私はゆっくり上半身を前方へ倒し始めます。
「四つん這いになって、犬みたく大急ぎにトイレへ駆け込んで、思う存分出してきなさい」
 ???
 一瞬、お言葉の意味することがわかりませんでした。

「えっ!?えっと・・・」
「ほら、早く行かなくていいの?ここで漏らしちゃ嫌よ」
「い、いいんですか?」
「だって直子さん、からだ健康そうだし、今だったらきっと、それなりのしっかりしたものがたくさん出てくるでしょう?」
「そんなのをここにぶちまけられても お掃除だの臭いだの後始末だの、めんどくさいことになりそうだもの」
「とりあえずスッキリ出して、出し終わったらまたここに戻ってくること。いい?」
「は、はい・・・」
 イタズラが成功したときの子供のようなお顔で、シーナさまがニッと笑いました。

「エミリーは、ついていきたっかたらついていってもいいわよ」
 シーナさまに促され、私同様キョトンとしたお顔だったお姉さまが、ハッと我に返りました。
「あっ、え?あたしもいいですよ。ほら、直子、さっさと行ってきなさい。間に合わなくなるわよ?」
 お姉さまのお言葉が合図だったかのように、私のお腹の中が再び盛大に騒ぎ始め、お返事もそこそこ、バスルームの隣にあるおトイレへ四つん這いで駆け込みました。

 危機一髪!
 便座に腰を下ろすのと同時でした。
 シーナさまの予想どおり、かなりしっかりとしたものが私の予想以上に出て行きました。
 一通りの行為を終えて洗浄した後も、しばし呆然と佇んでしまいました。
 お下品な姿をおふたりに視られてしまうことを回避した安堵と、果たせなかった陶酔へのちょっぴりな後悔。
 でも、トイレ内に漂う、自分が今したことの残り香に気づき、そんな後悔はすぐかき消されました。

 気が抜けたような四つん這いでバスルームに戻ると、お姉さまとシーナさまは、バスタブの縁に腰掛けて何やら楽しげに談笑中でした。

「あ、おかえりー。どう?スッキリした?」
 私に気がついたシーナさまが明るくお声をかけてくださいます。
「はい、おかげさまで・・・」
 四つん這いのままでいるべきか、膝立ちの服従ポーズになるべきか迷いながら、四つん這いでお答えしました。

「すごい音してたわね?ここまで聞こえたわよ?」
 イジワル顔なシーナさまの蔑んだお声。
「ご、ごめんなさいぃ」
 恥辱感が一気にぶりかえし、四つん這いの身をさらにちぢこませて土下座のような私。
 尖った乳首が濡れたタイルを擦りました。

「さてと。さあ、ここからが本番よ」
 シーナさまが立ち上がり、私の首輪のリードをお姉さまに握らせました。
「直子さんは、四つん這いで待機していてね。あ、お尻はあっちの排水口に向けて」
 シャワーをぬるま湯にして床を流しているシーナさまのご命令で、私は方向転換、入口に顔を向け、お尻を奥に向けました。
 一体、これから何をされるつもりなのだろう?

 シャワーを止めたシーナさま。
 バスルーム内がジンワリと湿気を帯びて、ほの温かくなっています。
 大きな鏡も綺麗に洗い流され、私たちの姿がクッキリ映っています。
 シーナさまがタオルに包まれた何かを持って、私の傍らに立っているお姉さまに近づいてきました。

「今日からこれが、エミリーと直子さん専用の相棒ね」
 シーナさまがタオルを開き、目の前に現われたのは、ガラス製のお浣腸器でした。
「正真正銘の新品で煮沸消毒も済ませてあるから安心して。実物見ると、けっこう禍々しいでしょ?これも、わたしからふたりへのプレゼント」
 シーナさまが笑いながら、私の鼻先にそれを突き出してきました。

 以前、ご近所のお薬屋さんにお浣腸薬を買いにいったとき、そのお店のおばさまに見せていただいたことがありました。
 でも目の前にあるのは、それより少し小さい感じ。

「実物って、ずいぶん大きいんですね?」
 傍で覗き込まれていたお姉さまが、驚いたようにつぶやかれました。

「そう?これは標準的な50ミリリットルサイズ。大きいのだと100とか200とか。逆に小さいのだと30ミリのもあるわね」
「えっちビデオとかでは、見た目優先で大きなの使っているけれど、100ミリのは女性の手だと扱いづらいのよ、大き過ぎて」
「逆に30ミリだと小さくて、お医者さんごっこしているみたいだし」
「このくらいなら、見た目的にも、SMプレイで浣腸している、って思えるでしょ?」
 最後はクスクス笑いまじりで、シーナさまがご説明してくださいました。

「あのぅ、私、また、お浣腸されちゃうのですか?」
 たまらずお口を挟んじゃう私。
「そうよ。まさかわたしやエミリーがするわけないじゃない。今日のテーマは、あなたのアナル開発なのよ?」
 シーナさまの心底バカにしたようなツッコミ。
「さっきのは、プレイのための事前準備。これからするのは、直子さんにみじめな気持ちを味わってもらうためのSMプレイよ」
 シーナさまのあっけらかんとしたイジメ宣言に、マゾ心がズキンと疼きました。

「大丈夫。今度はぬるま湯しか入れないから。さっきのでたぶん、あらかた出ちゃっているはずだから、今度はもう水しか出ないはずよ」
「ただまあ、音とか臭いとかがどうなるかは、何とも言えないけれどね。でも、そういうのがいいのでしょう?直子さんはヘンタイドマゾなのだから」
 シーナさまのイジワルなご説明で、私の被虐メーターがグングン上昇していきます。

 ぬるま湯浣腸。
 ガラスのお浣腸器を見せてくれた薬屋さんのおばさまが、今度来たときやってあげる、とおっしゃってくれて、私も行く気満々だったのですが、いつしか機会を逸し、それきりになっていました。

 これから私は、それを体験するみたいです。
 それも、大好きなお姉さまの目の前で。
 顔を上げてお姉さまのほうを見ると、お姉さまと目が合い、意味ありげなウインクをくださいました。
 その瞳は、好奇心で爛々と輝いていらっしゃいました。

「考えてみたら、直子さんのエネマプレイを目の当たりにするのって、わたし、初めてなのよね」
 シーナさまがお姉さまに語りかけました。
「ご存知の通り、アナル開発禁止令が出ていたから。百合さまから」
「ね?わたし、ほとんど直子さんのお尻は、虐めなかったわよね?」
 今度は私に向けられたご質問。
「あ、えっと、そうですね。少なくともお浣腸姿は、お見せしていないと思います・・・」

「わたしは、直子さんがときどきひとりでこっそり、浣腸愉しんでいるのは知っていたわよ。だって、使用済み容器がバスルームに転がっていたことがあったもの」
 え!?私、そんな無用心なこと、していたんだ・・・
 みるみるからだが熱くなり、火照った頬でうつむきます。

「だけど百合さまには、初お泊りの日、ヴァージン破られた翌朝に浣腸されて、タンポンまで突っ込まれたのよね?高校二年で」
 シーナさまの悪意に満ちたからかい口調に、私は、お姉さまに申し訳なくて、消え入りたい気分で身をちぢこませました。
「ね?この子、素養があるのよ。これからはおふたりで、せいぜい存分に愉しむがいいわ」
 シーナさまのお言葉がお姉さまへ向き、お姉さまがフクザツそうなお顔をされました。

「だけど最後の最後に、直子さんのエネマプレイに立ち会えて、本当に良かったわ」
 少し間を置いて、しみじみとした口調でそうおっしゃってから、シーナさまがお姉さまをじっと見つめました。

「直子さんのお相手が、エミリー、あなたで本当に良かった。もしそうじゃなくて、わたしの知らない人だったら、わたし、いつか直子さんを拉致して、今までがまんしていたプレイのあれこれ、やっちゃうつもりだったから」
 最後のほうは冗談ぽい感じでしたが、しみじみとした雰囲気のままおっしゃいました。
「これからも仲良くしましょうね。いろいろと」
 一転してイタズラっぽく笑うシーナさまに、お姉さまも戸惑いつつもニッコリ返しました。

「さ、それじゃあ始めましょう。エミリーはこれ持って」
 シーナさまがお姉さまにガラスの浣腸器を渡しました。
「直子さんは、お尻突き出して、迎え入れる準備をしていてね」
 ご命令通り、四つん這いの腕を折りたたみ、腕を床に着けて上体を下げ、代わりにお尻を高く突き上げます。
 緊縛されたおっぱいがタイルの床に、べったり押し付けられました。

「それで、これを吸い上げて」
 床に這い蹲るような形の私の顔の前に、水らしき液体がなみなみと注がれたガラス製のボウルが置かれました。
「これはあらかじめ作っておいたぬるま湯。害はまったく無いから安心して。先端を浸して、そのピストンを上に引き上げて」
 私の見ている前で、シリンダーにぬるま湯がグングン吸い上げられていきます。
 これが全部、私のお腹の中へ入っていくんだ・・・
「最初だから、100ミリで様子を見ましょう。つまり、この浣腸器2回分」
 えーっ、2回も!?

「よくビデオや小説で2リットルとか3リットルとか言うけれど、そんなの危ないからね。腸は水を吸収するから、下手すると水中毒とかあるから」
「要は、排泄する恥ずかしい姿を愉しむためのプレイなのだから、がまん出来ないギリギリ分量だけ入れればいいの。うちのメス犬は、1リットルくらい入るけれどね」
 
 シーナさまが楽しそうに解説してくださいますが、私の目はお姉さまの持つガラス浣腸器に釘付けで、ドキドキが止まりません。
 あの冷たそうなガラスの先端が私のお尻の穴に突き挿さり、ピストンで無理矢理ぬるま湯を注入されて、それから・・・
 麻縄で絞り出された両乳首が痛いほど尖って、両腿の裂け目の粘膜がヌルヌル疼いています。

「水が入ると、けっこう重いですね?」
 ぬるま湯を注入し終えたガラス浣腸器を危なっかしく両手で持ったお姉さまが、シーナさまに尋ねました。
「でしょ?女性が扱うならそのくらいが限度よね?100ミリだと、水がその倍だもの」
「それに、このくらいならひとり遊びでも重宝するはずよ。その先っちょにホースを付ければ、ひとりでも不自由なく注入できるはず。専用ホースも一緒に持ってきてあげたから」

「これで直子さんも、気軽にひとりエネマプレイが愉しめるわね?」
 シーナさまがからかうように私の顔を覗き込みました。
「いいえ。そうはさせません」
 
 突然、お姉さまのきっぱりとした冷たいお声が、私の頭上から降ってきました。
 見上げると、お姉さまが真剣なお顔で、まっすぐに私を見つめていました。
 そして、その視線がシーナさまへと移りました。

「あたしは今後、直子の性生活の一切をあたしがコントロールしようと思っています。だってこの子、放っておくとどんどんエスカレートしそうだから」
「オナニーもあたしに断らずにするのは禁止って、言い渡してあります。これからは一緒にいる機会も増えると思うので、直子の性欲は、あたしが満足させてあげるつもりです」
「でも、やっぱり手に余ることがあったらまたご相談させていただきたいと思っていますので、そのときはシーナさんも、協力してくださいね?」

 右手に持ったガラス浣腸器を肩の高さくらいまで上げてニッコリ笑いかけるお姉さまに、今度はシーナさまがフクザツそうなお顔をされていました。


就職祝いは柘榴石 11


2014年11月24日

彼女がくれた片想い 01

 彼女に興味を持ったきっかけは、学校のトイレでの、ある出来事だった。

 俗に五月病と呼ばれる症状が発生しやすいとされる若葉の頃。
 昼休みの後、次の講義まで丸々一限分時間が空いていた私は、次の講義が行われる教室のフロアまで移動した。
 そして、その時間帯に講義が行われていない空き教室のひとつに忍び込み、読書をしていた。
 小さめなその教室内にも廊下にも人影はまるで無く、しんと静まり返って快適だった。
 しばらく読書に集中し、あと20分くらいで次の講義、という頃、微かな尿意を覚え、講義前にトイレをすませてしまうことにした。

 開け放したままの出入り口ドアに一番近い席に座っていた私は、読みかけの本に栞をはさみ、立ち上がった。
 愛用のバッグを肩に提げ、引いた椅子は戻さずに廊下へ出た。
 用を足したらここに戻り、もう少しだけ読書をするつもりだった。
 使用されていない教室は、出入り口ドアを開け放したままにしておくことが学校の規則となっているので、ドアもそのまま。
 そのドアのほぼ真向かいがトイレの入口ドアだった。

 女子トイレ、女子大なので校内のほとんどのトイレが女子トイレなのだが、には誰の姿も無く、5つ並んだ個室のうち一番奥の個室だけドアが閉ざされていた。
 使用中の個室から一番離れた、出入口ドアに最も近い個室にこもり、腰を下ろした。
 微かな尿意は、なかなか実体化せず、なかなか出てこない。
 だけど、次の講義終了まで持ち越すのは気持ち悪いので、気長に待つことにした。
 さっきまで読んでいた本があと数ページで終わることを思い出し、下着を下ろしたままその本を広げて読み始めた。

 そのとき。
「んぅふぅっ・・・」
 誰かが入っているのであろう一番奥の個室のほうから、くぐもった、押し殺したような声が微かに聞こえた気がした。
 きっと難産なのだろう、お疲れさま。
 たいして気にも留めず、再び活字に視線を落とした、

 すると再び。
「ぁふうぅ・・・」
 さっきより明確に、せつなげな吐息が聞こえてきた。
「んふぅぅぅっ・・・」

 排泄行為に伴うそれとは明らかに異なる、ある種の息遣い。
 この手の鼻にかかった呻き声には心当たりがふたつある。
 意図を持って押し殺しているにも関わらず、喉の奥から漏れてしまう、妙に艶っぽい扇情的な吐息。

 ひとつは、何かしら悲しいことでもあって、個室で人知れず涙に暮れている、その押し殺した嗚咽。
 もうひとつは、こっそりと何か性的な行為で高揚している、そのひそやかな愉悦。

 そこまで考えたとき、自分の排尿が始まった。
 静まり返った個室にチョロチョロという水音が響き、案の定、数秒で出尽くした。
 洗浄して下着を上げ、いざ流そうとしたとき、ふと考えた。
 ここで勢い良く水を流せば、奥にこもっている彼女は、数十秒前に漏らした呻き声を誰かに聞かれたことに気づくだろう。
 そして、それは彼女にとって、とても恥ずかしいことなのではないか、と。

 だがすぐに、そんな気遣いは何の意味も無い、という結論に達した。
 私には、奥の個室の彼女が、その中で泣いていようが、あるいは自分を慰めていようが、まったく関係の無いこと。
 彼女だって、私がさっさと出て行ってしまえば、安心することだろう。
 私がすべきことは、何も無かったようにここを出て空き教室に戻り、あと数ページの本を読み終えてしまうことだ。

 普通に大きな音をたてて水を流し、普通に個室のドアを開けた。
 あれから一度も声は聞こえてこない。
 手を洗いながら奥の個室を見ると、相変わらずぴったりと閉ざされたままだった。

 廊下へと出るとき、私と入れ違いにひとりの学生がトイレに駆け込んでいった。
 可哀相に、奥の個室の彼女、誰にも邪魔されずゆっくりひとりになりたくて個室にこもったのだろうに。
 切羽詰っているふうな学生の後姿を見送ってそんなふうに思ったとき、ふと小さな好奇心が湧き出てきた。

 携帯を見ると、次の講義まであと約10分。
 そろそろ現在進行形の講義終了チャイムが鳴る頃だ。
 そのあいだに奥の個室の彼女が出てくるか、待ってみようか。
 あんな艶っぽい呻き声を出す彼女が、どんな顔をしているのか、見てみるのも面白いかも。
 行かなければならない教室は、このフロアの一番端で、ものの数秒でたどり着ける。

 ひとまず空き教室に戻り、元いた席に座って本を開いた。
 この席からなら、少し首を右斜め後ろに捻って窺えば、背後にある開け放しの出入り口ドアから、トイレ入口ドアの閉開は確認出来る。
 なんだか探偵みたいだな、なんて考えたとき、講義終了のチャイムが鳴った。

 休み時間となり、廊下が騒がしくなっていた。
 教室移動の人たちが廊下や階段を行き来し、いくつかの教室を出たり入ったり。
 高めなトーンの嬌声がざわざわとフロア内を満たしている。
 幸いこの小さめな教室は、次の講義でも使われないらしく、誰も入ってこない。

 読書しているフリをしながら、トイレの入口ドアを監視しつづけた。
 そのあいだ、私と入れ違いになった学生も含めて5人の学生がトイレに入り、それぞれ数分の間を置いて全員出てきていた。
 服装を全部憶えて確認していたので、間違いは無い。
 奥の個室は、まだ閉じたままなのだろうか。
 そうであるなら、彼女がいつ個室に入ったのかは知らないが、少なくとも20分近くは、奥の個室にこもっていることになる。

 講義の時間が迫り、どうしようか迷った。
 すでに廊下に人はまばら、隣の教室からは、女子集団独特の華やかながらやや品に欠ける喧騒が聞こえていた。
 奥の個室の彼女は、次の講義も出ないつもりなのだろうか。
 考えていたら講義開始のチャイムが鳴り始めた。
 今なら廊下を走ればぎりぎり間に合う。
 どうしよう。

 結局私は、チャイムが鳴り終わり、フロアに再び静寂が戻った後も、トイレの入口ドアを見つめていた。
 単位集めの滑り止めで取った選択科目だし、ま、いいか、と自分を納得させた。
 それよりも、20分以上トイレにこもったままの彼女のほうが気にかかった。
 ひょっとして急な病気か何かで苦しんでいて、動けないのではないだろうか。
 そんな嫌な予感も生まれていた。

 私が受けるはずの講義が始まってから、早くも5分近く経った。
 奥の個室の彼女は、一体何をしているのだろう。
 もう一度トイレに入って、思い切って声をかけてみようか。
 もはや完全にからだをトイレの入口ドアに向けて睨みつつ逡巡していると、そのドアがゆっくりと内側に動き始めた。
 あわてて背を向け、読書をしているフリをする。

 うつむきながらも首を少し右に曲げて横目で観察していると、トイレのドアは、じれったくなるようなスピードで内側に開いていった。
 開き切る寸前、唐突にドアの陰から、マンガなら絶対に、ひょい、という擬音が添えられる感じで、首から上の小さな顔が空間に現われ、その顔が不安そうに廊下の左右をきょろきょろ見回した。
 それはまるで、安っぽいテレビドラマにありがちな、不審者、の行動そのもので、私は思わず苦笑いしてしまった。
 同時に、その顔を見て驚いた。
 その不審者は、廊下に人影ひとつも無いことに安心したようで、素早く廊下に躍り出た。

 シンプルな茶系のブレザーにえんじ色の膝丈チェックスカート。
 白いフリルブラウスと三つ折ソックス、そして焦げ茶のタッセルローファー。
 この、いまだに女子高生のようなファッションに身を包んだふんわりミディヘアーの彼女に、私は見覚えがあった。

 廊下に出てからの彼女の行動は素早かった。
 空き教室の開けっ放しのドアから、私の背中が見えたのだろう、一瞬ギョッとしたように立ち止まってからガクンとうつむいて、ささっと階段の方向へ消えた。
 彼女が視界から消えると私も素早く立ち上がり、出入り口ドアの陰から彼女の姿を目で追った。
 彼女の背中は、無人の廊下を小走りに校舎突き当たりの階段方向へと小さくなり、そのまま右に折れて階段を下りていく。
 そこまで見送ってから廊下に出て、再びトイレの入口ドアを開いた。

 5つある個室は、すべてドアが内側へと開いている。
 すなわち、ここには私ひとりきり。
 まっすぐに一番奥の個室へ向かう。

 別におかしなところは無い。
 床にも便器にも汚れは無く、いたって普通。
 ここで何が行われていたのかを教えてくれるような形跡は、何も残っていなかった。
 ただ、微かにフローラル系パフュームの残り香が漂っているような気がした。

 講義をひとつ無駄にしてしまった自分の行動に苦笑しながら空き教室に戻り、最後の数ページとなった小説に没頭することにした。


彼女がくれた片想い 02

2014年11月16日

就職祝いは柘榴石 09

 ゴージャスなブルーベルベットの上に横たわっていたのは、2種類の、数珠、のような形状の一見ブレスレットぽいオブジェでした。
 ひとつは、直径1センチから2センチくらいのえんじ色の珠が徐々に大きくなるように連らなった、全長20センチくらいのもの。
 もうひとつは、直径1センチから最大4センチくらいの珠が凸凹ランダムに連らなっている、やっぱり全長20センチくらいのもの。
 えんじ色の珠は、どれもツヤツヤピカピカ、壮麗に輝いています。

「うわー、綺麗!」
 思わずつぶやいてしまいました。
「でしょ?ガーネット、和名だと柘榴石のカーバンクルよ。石も仕上げも質が良いから、本来ならこのままブレスとか、大きいのはカットして指輪やペンダントトップにするべき宝石なのだけれどね」
 シーナさまが意味ありげに微笑みました。

「それで直子さん、これが何だかわかる?」
「えっ?」
 シーナさまに尋ねられ、あらためてその数珠っぽいものをじっくり見つめました。
 宝石、っておっしゃったから、きっと何かアクセサリーの一種なのかな?

 どちらの数珠にも、片方の先端に直径3センチくらいのゴールドのリングが付いています。
 指とか何かにひっかけて、ぶら下げるためなのでしょうか?
 でも、そんなアクセ、聞いたこともない。
 何だかわかる?と尋ねるくらいですから、見た目どおりの数珠やブレスレットではないでしょう。
 ひとつのほうは、珠の大きさもバラバラだし・・・

 そこまで考えたとき唐突に、以前ネットで見たことのある、とあるえっちな画像が頭の中に浮かびました。
 裸の四つん這いで、お尻から数珠状のものを尻尾のように垂らしていた女性の画像。
「あっ!」
 私が声をあげると、シーナさまが嬉しそうにニッと唇の両端を上げました。
「さすがヘンタイ直子さん。お気づきになったようね」
 
 シーナさまが、まっすぐなほうの数珠状のものを手に取り、私の目の前にダランとぶら下げました。
 珠と珠とのあいだは、ぴっちりと詰められていないようで隙間が出来、珠をつないでいる糸の全長だと25センチくらいあるみたい。

「これはね、俗に言う、アナルビーズ、として作らせたの。つまり、この綺麗なカーバンクルが直子さんのお尻の穴を出たり入ったりする、ってわけ」
 シーナさまは、数珠、いえ、いささか高級過ぎる柘榴石で作ったアナルビーズを私の目の前でブラブラ揺らしながら、ニンマリと笑いました。

「直子さんは初心者だから、最初はこの一番小さな珠から始めて、開発されてきたら、こっちの大きな凸凹で存分に愉しむといいわ」
 もう一方の、珠の大きさランダムなアナルビーズも手に取り、ブラブラさせるシーナさま。
 開発、というお言葉に被虐心がズキュンと震えてしまいます。
 私、お尻の穴を、開発、されちゃうんだ・・・
 いたたまれない恥ずかしさに、真っ赤になってうつむきました。

「あら、ずいぶんと嬉しそうじゃない?もちろん、実際に開発するのはエミリーの役目。今日のわたしは、そのとっかかりのコーチ役」
「エミリーもね、直子さんのアナル開発にはとっても興味がおありのようよ。このあいだお会いしたとき、お話がはずんちゃったものね?」
「はい。あたし、その手のプレイは今まであまりやったことがないので、ワクワクしています」
 お姉さまがアナルビーズと私の顔を交互に見つつ、切れ長な瞳を煌々と輝かせています。

「これ、現地でも評判な、腕利きのジュエリー職人にわざわざ作ってもらったのよ。さっきも言ったように、最初はうちのメス犬用に、ピンクサファイアで」
「こっちの珠がランダムなやつをね。あいつ用のは、全体にもうひと回り珠が大きいけれどね」
「その職人、わたしのデザイン画見て、いったいこれは何なんだ?って怪訝そうな顔をしていたわ」
 思い出し笑いのシーナさま。

「それがあまりにも出来が良くて加工賃も妥当だったから、直子さん用のも作ることにしたの。でも、直子さん、初心者だから小さいのから二種類作らなきゃならないし、それだと、ピンクサファイアでは石のお値段張り過ぎるでしょ?ちょうどそのアトリエに程度のいい大きな柘榴石の原石の塊があったから、それから削り出してもらったの」
「ストリングスもまず切れることの無い高品質ナイロンテグスだし、このリングは18金だし、お尻の穴に挿れて遊ぶにしては、あまりにも贅沢すぎる一品よ?」
 シーナさまがからかうようにおっしゃり、その高級アナルビーズを私の鼻先でブラブラ揺らしました。

「現地でずっとガイドしてくれた子がすっごく興味持っちゃって、何に使うんだ?アクセサリーなのか?って、ずっとうるさかったのよ」
「だから、現地を離れる前の夜のパーティの席で、こっそり彼女にだけ教えてあげたの。うちで飼っているセックススレイブのアヌスに突っ込んで愉しむんだ、って」
「彼女、一瞬ギョッとした顔してから、大声で笑い出したわ。大受け。ひとしきり笑い転げて、やっぱりニッポンジンは、アブノーマルなヘンタイばっかりだ、って半ば感心、半ば呆れの、目に涙溜めた笑顔で言われちゃった」

「デザイン画、そのアトリエにおいてきちゃったから、ひょっとしたら今頃、現地の日本人向けお土産のラインナップに加わっているかもしれないわね、これ。安めの石を加工して」
 お姉さまとシーナさまがお顔を合わせて、しばらくクスクス笑っていました。

「そんなわけで、これから直子さんのアナル開発を始めるのだけれど、直子さん?最近、お通じのほうはどう?」
 シーナさまに突然お通じ状況を尋ねられ、ビクンとわななく私。
 アナル開発、という淫らでヘンタイ過ぎる語感が、私のマゾ性を刺激し過ぎて、全身が疼いて疼いてたまりません。

「あの、え、えっと、ふ、ふつう、です・・・」
「今日は?」
「あ、はい、午前中に一度、ふつうに・・・」
「そう。一度出した後は、何食べた?」
「え、えっと、お昼にバナナ一本とヨーグルトを食べて、夕方にお姉さまとお逢いして、サラダとパスタとピザをご馳走になって、それから今、アイスクリーム・・・」
「ふーん。今11時前か。一応もう一度出しておいたほうが無難なようね。直子さんも、あまりエレガントでないのは、お好きではないでしょう?」
 イタズラっぽい口調のシーナさま。
「あ、はい・・・」
 エレガントに虐められたいなら、まず、エレガントとは対極な自分の姿を、おふたりにご披露しなければならないようです。

「おっけー。やっぱり一度出しておきましょう。エミリー、直子さんをバスルームに連れて行って。わたしもすぐに行くから」
 シーナさまが私の首輪から垂れている鎖リードの先端をお姉さまの右手に握らせて立ち上がり、おひとりでサンルームのほうへスタスタ歩いていかれました。
 シーナさまのお言葉が何を意味しているのかわかった私は、これから訪れるであろうみじめ過ぎる恥辱にグングン昂ぶりながら、無言でお姉さまのお顔を、すがるように見つめました。

「さ、直子?行くわよ?」
 お姉さまが立ち上がり、私も立ち上がり、お姉さまがクイッとリードを引っ張ったのを合図に、私は腰を沈めて床に四つん這いになりました。
 お姉さまのTバックのカッコイイお尻を見上げつつ、棒枷で抉じ開けられた丸出しの股間とお尻をフラフラ上下させて、フローリングの床をワンちゃんのように進みます。
 鎖を引かれて膝を交互に動かすたびに、粘膜が擦れて溢れ出したおツユが腿を滑り落ちるのがわかりました。

 バスルームの横開きな扉をお姉さまが開き、そのままスタスタと中へ入りました。
 私の両手のひらと両膝に触れる感触が、フローリングから濡れたタイルに変わります。
 先ほどお姉さまがシャワーされたので、バスルームの中はまだほんのり温かく、ソープ類の良い香りがして、全体に湿っていました。
 大きめの鏡は全体に曇っていて、私たちの姿もぼんやりぼやけて映っています。

「これからあたしは、ここで直子の排泄姿を見せられる、っていうことよね?」
 お姉さまが振り返り、四つん這いの私を見下ろして静かにおっしゃいました。
「出逢ってから3度目、つきあい始めて2回目でのそんな姿、って、どう考えたってアブノーマルよね?」
 お姉さまは、普通に世間話するような口調で、私に尋ねてきます。
「さ、さあ?・・・」
 何てお答えすればいいのかわからず、ボーっとお姉さまを見上げる私。
「まあ、初対面でオナニー姿、このあいだはオシッコ姿視ちゃったのだから、妥当なのかな?あたしたちみたいな仲なら」
 ニコッと微笑まれたその瞳は、好奇心で爛々と輝いていました。

「ねえ、直子はどう?あたしにそういう姿視られちゃうのって、嬉しいの?それとも恥ずかしい?」
「恥ずかしいです!すっごく恥ずかしいです!お見せしたくないですぅ!」
 被虐に全身を震わせて、泣きそうな顔でお姉さまを見上げました。
「本当?直子は、そういう姿を視て欲しくてたまらない種類の人間のくせに」
 お姉さまがイジワルにおっしゃり、リードをクイッと引っ張りました。

「あうっ!本当ですぅ。お姉さま、どうか私がみっともない姿を、お下品な姿をお見せしても、どうか嫌いにならないでください。お願いしますぅ」
 お姉さまからのお言葉責めに、私のマゾ心は狂喜乱舞、心の底から恥辱のヒロイン役に酔い痴れていました。

「シーナさんたちには、何回くらい視られたことあるのよ?」
 お姉さまの口調が一転して冷ややかに変わりました。
 ドキンとした私も、急にオドオドしてしまいます。
「あ、えっと、お浣腸姿は、やよい、いえ百合草先生に2回・・・オシッコ姿だと3回か4回か、えっと5回か・・・」
「へー。そんなに視られちゃっているんだ?はしたない子ねえ」
 お姉さまの心底軽蔑したようなお声。

「そんなに視られているなんて、嬉しいからとしか思えないわ。やっぱり直子は、排泄姿を見せつけてオマンコ濡らしちゃうようなヘンタイ娘なんじゃない!」
「シーナさんたちには負けられないから、今日はあたしもじっくり視させてもらうわ!何もかもっ!」
「あうぅぅ!」
 リードをグイグイ引っ張られ、私の顎は天井に向いています。

「それに、これから直子のお尻と肛門は、あたしだけのものになるのだからね?無闇にあたし以外に視せたり弄らせたりしたら、あたしたちのスール関係は即、解消するから。いい?わかった?」
 思い切り冷たい口調で投げつけられ、お尻をバチンと叩かれました。
「ひぃっ!はいぃっ!直子はお姉さまだけのものですぅぅ・・・」
 四つん這いのまま、お姉さまをすがるように見上げると、お姉さまが裸足の右足を私の目の前に突き出してきました。
 私はその濡れた親指を口に含み、じゅるじゅるしゃぶりました。

「あらあらー、仲がおよろしいことで」
 シーナさまが何か荷物を片手にバスルームに現われ、お姉さまがササッと右足を引っ込めました。
「お待たせー。さあ、さくさくやっちゃいましょう。とりあえずまず、エミリーにはこれね」
 シーナさまがお姉さまに何か手渡しました。
 お姉さまの手に乗っているのは、果実の形をしたおなじみのお浣腸薬と、薄でのゴム手袋。
「一応その手袋着けて、直子さんに浣腸してあげて」
 シーナさまがお姉さまにご指示されました。
 いよいよ、と思った私の心臓はドッキドキ。

「浣腸プレイならエミリーもしたことあるんだったわよね?お尻の穴ほぐして突き挿すだけだから。ローションが必要だったら直子さんの愛液を肛門になすりつければいいわ。直子さんって、本当、ローション要らずで捗るのよね」
 おっしゃりながら、シャワーをひねって床を流し始めるシーナさま。
 私の両手と両膝がみるみるぬるま湯に浸ります。

 お姉さまは私の背後に回り、突き出しているお尻の穴をゴム手袋のひんやりした指が撫ぜ始めました。
 さわられるたびに、穴の円周のヒダヒダがヒクヒク動いてしまうのが、自分でわかります。

「あふぅん・・・」
「あら、直子さん、もう気分出しているの?いくらでも悶えていいわよ、今は」
 シーナさまのからかい口調で、お姉さまの指遣いがより激しくなりました。
「あうっ!んんんぅー」
 穴を広げるように、皮膚が引っ張られたり撓まされたり。
 穴周辺を激しく揉みしだかれ、甘えるような声が出てしまう私。

「やっぱり直子さん、根っからのヘンタイだけあって、そこの感度も超敏感みたいね」
 シーナさまの蔑んだ口調が私の耳を心地よくくすぐりました。

「いくわよ直子。肛門の力を抜きなさい」
「あ、はいぃ」
 お姉さまのご命令に従って下半身の力を抜いたと同時に、お浣腸容器の先端がプスリと突き刺さる感触がありました。
 
 シーナさまは、バスルームの鏡にもシャワーをかけ、曇りを完全に消していました。
 大きな鏡には、全裸四つん這いでお尻を高く突き上げた私と、エナメルボンデージ姿でお浣腸容器を私のお尻に突き立てているお姉さまのお姿、そして、片手に持ったハンディビデオカメラを私のお尻に向けているシーナさまのお姿が、鮮明に映し出されていました。

「あうううっ・・・」
 お尻の穴から内部に、冷たい液体が侵入してくる感触がしばらくつづき、やがて肛門に挿さっていたものが抜かれたのがわかりました。

「終わったようね。これから5分間、直子さんは、何があってもがまんすること。膝立ちになりなさい」
 シーナさまにうながされ、上半身を起こします。
「直子さんがギブアップするまでのあいだに、さっきエミリーが言ってたロープの扱い方をちょっと説明しておくわ」

 ビデオカメラをお姉さまに渡し、シーナさまが愛用の麻縄を一束つかみ、膝立ちになった私の前に立たれました。
 シーナさまがロープを手にして目前にいらっしゃると、何も言われなくても反射的に、私の両手は後頭部で組まれ、マゾの服従ポーズになってしまうのです。


就職祝いは柘榴石 10


2014年11月2日

就職祝いは柘榴石 08

 お姉さまは、私の両手首と両足首を繋いでいるジョイントをそれぞれ外してくださり、まず両腕が自由になりました。
 それから、私のアソコの目前にしゃがみ込み、ラビアにとりついている悪魔のオモチャを取り外し始めました。
 
 噛みついたクリップのねじが緩むたびに、ラビアに血流が戻りズキンと痛みます。
 クリップが全部はずされ、オレンジ色のリングが取り除かれて、私のアソコはようやく唇を閉じることが出来ました。
 棒枷は、外していただけませんでした。

「直子の柏餅、まだちょっと半開き状態ね」
 お姉さまがからかうみたいに笑い、手に持った悪魔のオモチャを私の顔の前で揺らします。
 リングやクリップに着いていた私のおツユの雫が、私の顔に数滴、降りかかりました。

「リビングのテーブルにアイス用意するから、行きましょう。飲み物のグラスを適当に借りるわよ」
 シーナさまは、勝手知ったる他人の家、という感じでスタスタとリビングのほうへ消えていきます。

「わかりました。ほら、直子、立てる?」
 差し伸べられたお姉さまの右手にすがりつき、仰向けの上半身を起こしました。
 それから両足を踏ん張って、ヨロヨロ立ち上がります。
 腰全体が重いのにフワフワもしているみたいで、ヘンな感じ。
 立ち上がると今度は、上半身のほうが重く感じてフラフラとよろけてしまいました。

 自由になった両手で髪をかき上げると、顔中汗びっしょり。
 不自由だったとき気になっていた部分、おっぱいや乳首やアソコやお尻を、実際に手で触れて、無事を確かめます。
 
 お尻がまだ少しヒリヒリしている以外は、異常無し。
 乳首もおマメも敏感なまま。
 ただし、全身が汗やいろんな体液でヌルヌルでした。

「あの、お姉さま?私もちょっとシャワーを浴びてこようかと思うのですが・・・」
 立ち上がってからの私の振る舞いを、傍らでずっと無言で眺めているお姉さまに、おずおずとお願いしました。
「ああ、確かにからだ中ベトベトね。でもいいわよ、浴びなくて。どうせ休憩の後、またすぐ同じ状態になっちゃうのだから」
 お姉さまに、取り付く島も無い口調で却下されました。

「このタオルで軽く拭いとけばいいわ」
 私の頭部分の下敷きになっていたバスタオルを手渡してくだいました。
「それにあたし、匂いフェチのケもあってね。直子がヌルヌルになったときに鼻をくすぐる、なんて言うか、だらしのない臭い?も意外と好きなのよ」
 お姉さまがイタズラっぽく笑い、私の手からバスタオルを取り上げてお顔を埋めました。

「さあ、行きましょう、シーナさんがお待ちかねよ」
 お姉さまに左手を引っ張られ、私はツツッと前につんのめります。
 両足に棒枷を施されたままの私は、ズルズル摺り足のロボット歩行しか出来ないのです。

「ねえねえ、早く来ないと、アイス溶けちゃうわよ?どうせふたりでイチャイチャしているんでしょ?まったく!つきあい始めのカップルは、サカリのついた猫と一緒なんだから・・・」
 待ちかねたらしいシーナさまが、サンルームに戻っていらっしゃいました。
 摺り足ロボット歩行でちまちま進み始めた直後でした。

「何しているの?足に棒枷着けているドレイが、立って歩こうなんてナマイキよ?」
 シーナさまったら、私の姿を見た途端、愉しそうな罵声です。
「ちょっとそのまま待ってて」
 
 シーナさまは、床に散らばっているお道具の中から、何かを拾い上げ、私に近づいてきました。
 手にされているのは細い鎖。
 私の赤い首輪の正面のリングに鎖の端のジョイントをカチリと繋ぎ、もう片方の端をお姉さまに握らせました。

「ほら、直子さんは四つん這いになって、エミリーはそのリードを引っ張って。それが飼い主とドレイの正しい関係よ」
「わかったらさくさく、リビングに集合しなさい」
 それだけ言い渡すと、再びスタスタ、リビングのほうへ戻られました。

「なるほどね。直子?」
「あ、はい」
 お姉さまの問いかけに、その場でしゃがみ込んで両手を床に着けました。
 お姉さまがグイッと鎖を引っ張ると、私は四つん這いで歩き始めます。
 右手、右膝、左手、左膝と順番に出せば、摺り足より断然早いのは確かです。

 四つん這いになると、突き上げている腰と、棒枷によって無理矢理開かれている無防備な股間への羞恥心が増大します。
 室内のあちこちにある鏡やガラスに、お姉さまに鎖で引かれて四つん這いで歩く、自分のみじめな全裸姿が映ります。
 住み慣れた自分の部屋なのに、私、どうしてこんな格好をしているのだろう?
 左右に切れよく揺れるお姉さまのかっこいいヒップを見上げながら、私の被虐心がみるみる満たされていきました。

 リビングに着くと、L字ソファーの前のテーブルにアイスクリームと飲み物がセッティングされていました。
 シーナさまはすでに腰掛けられています。
「やっと来たわね。ほら座って座って。直子さんも、今は休憩だから立ち上がっていいわよ」
 飲み物は、シャンパンらしきボトルとスポーツドリンクのペットボトル。
 アイスクリームは、何やら高級そうなカップアイス。

 お姉さまがL字のもう一方の奥へ、私はそのお隣に、棒枷の足で苦労して腰掛けました。
「このアイス、なぜだかけっこうシャンパンに合うのよ。さ、とりあえず乾杯しましょう」
 シーナさま自ら、それぞれの細いシャンパングラスに注いで、かんぱーい!チーンッ!
 私は死ぬほど喉が渇いていたので、一気にゴクゴク飲み干してしまいました。

「ああ、やっぱりね。直子さんたちはきっと死ぬほど喉が渇いていると思ったから、もう一本冷やしてあるの」
「あ、でも直子さんは、それだけにしておいたほうがいいわ。この後も大変だから。あとはこのスポーツドリンクを好きなだけお飲みなさい」
 私のグラスにスポーツドリンクを注いでくださりながら、シーナさまが愉しそうにおっしゃいました。

 そのアイスクリームは、フルーツの果肉やチーズクリームとかも詰まっているようで、濃厚なのにさわやかで、すっごく美味しかった。
 まだ充分に固いアイスをスプーンで突っつきつつ、スポーツドリンクを何杯もゴクゴク飲んで、おふたりのお話に耳を傾けました。

「それにしてもエミリー、見事なご主人さまっぷりじゃない?充分よ。わたしが教えることなんて、もう無さそう」
「いえいえ、まだぜんぜん自信が無くて。だからこの後、シーナさんにいろいろご教示いただこうと思っています」

「部屋に入って、直子さんの姿を一目見たとき、やるなー、って思ったわよ。この子のマゾ心を的確に突いた拘束具合だったもの」
「あたしなりにけっこう考えたんですよ。直子に悦んで欲しくて」
「おおお、いいわねー、お熱いこと!」
 シーナさまにおどけてひやかされ、お姉さまと私が盛大に照れます。

「やっぱりロープの使い方はマスターしたいな、って思っています。直子が好きそうだし。あとは責めの加減がまだまだわからなくて」
「それは、場数をこなせばだんだんわかってくるはず。直子さんは、かなりハードにしてもネを上げないし」

「そうそう、鞭って、愉しいですね。ふるっているうちにどんどん興奮しちゃって、止まらなくなりそうでした」
「それを愉しめるのなら、もう立派なエスよ。素質充分」
「最初は、打たれてどんどん赤くなるお尻が痛々しくて、可哀想に思えていたのに、だんだんと、もっと赤くしてやるっ、てなっちゃう」
「わかるわかる。その上、直子さんて、ゾクゾクするほどいい声あげるでしょ?あの声聞くと、もっと啼かせてやるっ、てなるわよね?」

「あの鞭はお高いのですか?すごくしっかりとした造りですよね?」
「ああ、わかる?あれはかなりいいものよ。バラ鞭も乗馬鞭も職人手造りの一点もの。もともと直子さんのために用意したものだから、これからも自由に使っていいわよ」
「本当にいいのですか?」
「うん。エミリーにあげる。わたしからのお祝いと思って。あとで名前も入れてあげるわ」
「うわー。ありがとうございます」
 私も一緒にお辞儀をします。

「そう言えば、直子のオモチャ箱を見て思ったのですけれど、口枷類、ボールギャグとかは、まったくありませんでしたね?」
「ああ、気がついた?わたしはあまり、その手は好きではないのよ。エミリーは、そういうの、してみたいほうなの?」
「あ、いえ、あたしはイキ顔フェチですから、相手の顔面を故意にいじくるのは好きではないです。口枷とかマスクとか」
「へー。そのへんでもわたしたち、気が合うようね。直子さんもその手は好きじゃないみたいよ。せいぜい手ぬぐいで猿轡とか、舌を洗濯バサミで挟むくらいでしょ?許容範囲」
 突然私に問いかけられて、はいっ!と、あわてて答えます。

「あたしが見たいのは、可愛い顔が苦痛や快感で淫らに歪む様子なので、顔は絶対見えていなきゃだめだし、声も、ボールギャグとかで塞ぐのではなくて、がまんさせるほうが好みです」
「うん。わたしも同じ感じ」
「欧米のボンデージものとか見ていると、絶対すぐに、ボールギャグとか口枷をかましますよね?縛りものはどれも。その上、ひどいのになると目隠しやら全頭マスクまで」
「うんうん。でも、あちらの人は、ヨガリ声も大きいから、口塞いでおかないとうるさくて仕方ないのかもしれないわよ?、ビデオの収録だと」
 シーナさまが笑いながらの相槌。

「せっかく綺麗なモデルさん使っているのに、真っ先に顔崩してどうする!? ってあたしなんか思っちゃいますけれど」
「欧米のエスエムは、ドミネーションアンドサブミッション、支配と服従だから、口答えの自由なんて真っ先に封じたいのかもしれないわね」
「もったいないなー、って、いつも思います」
「まあ、あちらだと、それが、正統派ボンデージ、っていう風潮があるみたいだからね。とくにラバーコスチューム系フェチにとっては、肉体すべてを覆って無機質になること、が最上らしいし」
「ああ、なるほどねー」

「このあいだ他の人と似たような話題をしたときに出たのだけれど、鼻フック、ってあるじゃない?鼻の穴に引っ掛けて豚鼻にしちゃうやつ」
「はい、わかります」
「あれってオトコの発想だよねー、って話になって」
「あれもあたしは、嫌いです。あんなの、何が愉しいんだろ?」

「女同士であれをすると、相手の顔を醜くしてやりたい、っていう、やる側の願望が露骨に見てとれちゃうから、責めている側が一回り小さく見えちゃう。嫉妬?コンプレックス?みたいな。それか、愛の無いエスエム、ただのイジメプレイ。単純に醜くなった相手を嘲笑するっていう」
「日本のエスエムは、一部を除いてイジメっぽいのがはびこっていますからね。愛のある責め、が一番見受けられる日本のフィクションて、たぶん女性作家が書いたボーイズラブの世界なんじゃないかな?薦められたのをいくつか読んだだけだけれど」

「まあ、でも、知り合いには、けっこう美人なのに、あの手のプレイを好むマゾ女もいるから、一概には言えないけれどね」
「へー」
「それが言うには、こんなに醜くされた顔を世間様に見られて恥ずかしい、っていう美人ゆえの自虐の愉悦らしいけれどね。ある意味高慢」
「ふーん。そういうのもあるのですね」
「わたしも、どうでもいい相手なら、全身拘束してボールギャグに鼻フックで鏡の前に放置プレイ、ってラクでいいな」
 シーナさまとお姉さまが、あはは、と笑いました。

「ところで直子さんは、エミリーの会社にお世話になること、決めたの?」
「えっ?あっ、えっと・・・」
 シーナさまとお姉さまのエスエム談義に、真剣に聞き入っていた私は、突然の話題転換に面食らってしまいました。

「一応勧誘して、資料渡して、返事は後日、ということになっています」
 お姉さまが代わって答えてくださいました。
「ふーん。直子さんは、迷っているの?」
 私をじっと見つめて、シーナさまが尋ねます。
「あ、いえいえ。ぜんぜん迷ってないです。お話を伺ったときから、お世話になることに決めていました」
 本心をありのままに、焦り気味早口でお答えしました。

「そう。よかった。エミリーの会社なら、わたしもたまに出入りしているし、わたしと直子さんとは、まだまだ友情を深められるというわけね」
「シーナさんには、海外のアパレルの動向や生地の買いつけなんかで、何かとお世話になっているのよ。このあいだもインドネシアからすっごくいい生地をひいてもらって」
「ああ、あれね。どんなドレスになるのか、楽しみだわ」
 お姉さまとシーナさまが仲睦まじく微笑み合います。
 そっか、おふたりには、そんな接点もあったんだ。

「だったらこれは、就職祝い、として渡せるわね。わたしから直子さんへの手切れ金かな?」
 冗談めかして笑いながら、シーナさまがネックレスケースのような大きめな紫のビロードの平たい宝石箱を取り出し、テーブルの上に置きました。

「最初に、上のメス犬用に、わたしのデザイン画を渡して現地の職人に作らせたの。そしたらその出来栄えがすごくいいから、ふと思って、直子さん用のもついでに作ってもらったの。冬に南アジアを巡ったときのお土産よ」
 シーナさまが天井に顎をしゃくりながらおっしゃっいました。
 メス犬というのは、このマンションの階上に住んでいらっしゃるお金持ちなマゾおばさまで、シーナさまのパトロンさん兼ドレイさん兼恋人さんです。

「ただ、これ作っても、わたしが直子さんにこれを使う機会は来ないとも思っていたのよ。百合様との約束があるから」
「でも、直子さんにちゃんとした恋人が出来る気配も無いし、わたしも使ってみたくてウズウズしてきて、百合様には内緒でこっそり使っちゃおうか、って考えていた矢先だったから、エミリー、あなた超ラッキーよ」

「それで、直子さんが選んだパートナーがエミリーだったおかげで、百合様との約束は破らずに、わたしもその場に立ち会えるというわけ。世の中って意外と上手くできているものね」
「うちのメス犬に使った感じだと、かなり具合いいみたいよ?ヒーヒー啼いて悦んでいたわ」
「でも直子さんの場合は、未知との遭遇だからねー。どうなるのかしら?」

 シーナさまの一方的な思わせぶりで謎だらけのご説明に、私とお姉さまの目は、ビロードの宝石箱に釘付けです。
 いったい何が入っているの?
 私たちふたりのワクワクな様子にご満悦な笑みを浮かべたシーナさまが、おもむろにケースの金具をパチリと外しました。


就職祝いは柘榴石 09