2015年4月12日

面接ごっこは窓際で 09

 天井照明に煌々と照らし出されたオフィスビルの無機質なフロアを、お姉さまのお背中を追って歩き始めました。
 
 一歩踏み出すたびに、内腿のあいだを空気が直にスーッと撫ぜてきます。
 どうしてもうつむきがちになってしまう自分の視界で、今現在自分が置かれている状況が否応無しに思い知らされます。
 オフィスを出てここまで来るとき、あんなに頼りなく感じた一枚のバスタオルでさえ、有ると無いとでは大違いでした。

 だって今の私は、全身の素肌を一切隠せない、すべてを剥き出しにした生まれたままの姿。
 いいえ、もっと悪いことに、率先して隠さなければならない部位を目立たせるかのように飾り立てた、破廉恥極まる姿でした。

 左右のおっぱい先端に大きなチャームをぶら下げ、性器も粘膜部分を左右に押し開くようにクリップで留め、更に一番敏感な肉の芽をテグスで絞って露出させて。
 首から下げた細いチェーンがそれらをすべて繋いでいます。
 青いバケツを持った私の右手が小刻みに震えているのは、その中になみなみと満たされたお水の重さのせいだけではありませんでした。

「ここが給湯室。モップとかバケツは入ってすぐ右側の扉の用具入れだから」
 おトイレから出てすぐにある扉の前で、お姉さまが教えてくださいましたが、私の心は羞恥だけに満たされて上の空。

「普段見慣れたオフィスの廊下を、そんなふうに素っ裸の女の子が歩いているのを見るのって、なんだかシュールで不思議な感じ」
 あと少しでオフィスの入口、というところでお姉さまが振り返り、私のからだをまじまじと見つめながらおっしゃいました。
「ありえないっていう意味で非現実ぽいて言うか、見方を変えれば、ある種のアートっぽい感じさえするわね」
「これはぜひ、写真に残しておかなくちゃ。そこでちょっと待ってて。カメラ取って来る」
 
 お姉さまがオフィスへのドアを開けようとしてふと動きが止まり、もう一度振り返りました。
「そうだ。そのあいだ直子は、そこでバケツぶら下げて立っている、っていうのはどう?」
 オフィスのドアの少し右側、天井照明の真下の一際明るく照らし出された一画を指さされました。
「ほら、昔の子供向けマンガとかによくあるじゃない。学校でイタズラっ子が先生に叱られて、反省するまで廊下で立ってなさい!なんて。立たされ坊主」
 愉しそうに微笑むお姉さま。

「失敗したな。もう一個バケツ持って来るんだった。ああいうシーンはたいがい両手にバケツ持っているものよね?片手が手ぶらじゃサマにならないもの」
「給湯室戻って取ってくるのもめんどくさいし、まあいいや。そっちの手にはこれを持ってなさい」
 使用済みタオルを詰め込んだビニールのショッパーの持ち手を、左手に握らされました。

「森下直子さん、先生が戻るまで、そこでじっくり反省なさい!」
 お芝居っぽく言い捨ててオフィスのドアを開け、モップだけ持ってスタスタと中へ消えたお姉さま。
 ドアがバタンと閉じられました。

 しんと静まり返ったフロアに、ひとりぼっちで取り残されました。
 これはつまり、放置プレイ?
 壁を背にして右手には重いバケツ、左手には軽いショッパーをぶら下げ、休め、の足幅で立ち尽くします。

 うつむくと自分の尖った乳首と、剥き出しの股間へと消えていく三本の細いチェーンが目に飛び込んできます。
 私、なんでこんなところで、裸になっているのだろう?
 ここに来てから何度も思った被虐感溢れるそんな疑問が心をマゾ色一色に染め上げ、胸を締めつけるような恥辱感に全身が昂ぶります。

 先ほどお姉さまは、今このフロアにはあたしたちしかいない、って断言されていたけれど、それでもやっぱりここは、有名なオフィスビルのパブリックなスペースなのです。
 誰でも、ではないでしょうが、少なくともこの階のフロアにオフィスを構えている他の会社の方々やビル管理の警備員のかたなら、自由に出入り出来るはずです。
 それに、お姉さまの会社のスタッフのみなさまだって、急なご用事でいらっしゃるかもしれません。
 もし、万が一、私がこんな姿で立たされているのを、お姉さま以外のかたに目撃されてしまったら・・・
 私のこれからの人生は、どうなってしまうのでしょう。

 イジワルなお姉さまは、なかなか戻ってきてくれません。
 オフィスに入られて、もう4、5分経っているはずです。
 カメラを取ってくるだけのことに、こんなに時間がかかるワケありません。
 絶対ワザとです。

 心細さが募り、頭の中で勝手に始まった妄想の中では、エレベーターホールのほうからカツカツとヒールの音が近づいていました。
 誰か来る!誰かが来ちゃう!
 私のこんな、恥ずかしい性癖丸出しの姿を見られちゃう!
 その人がお姉さま以上にイジワルだったら、私はこの姿を写真に撮られ、それをネタに一生脅されて言いなりにならなければいけないんだ・・・

 近づいて来る人を、さっきのトイレでの妄想でご登場いただいたおばさまにするか、来てすぐに写真を見せていただいたお姉さまのお仲間の美貌デザイナー、早乙女部長さまにするか決めかねていたら、オフィスのドアがバタンと開きました。

「お待たせ。って、直子、また妄想に耽ってたわね?見事なマゾ顔になってる」
 右手に持った小さなデジタルカメラで私を正面から、パシャッとシャッターを切るお姉さま。

「今度はどんな妄想をしていたの?」
 お姉さまが角度を変えて何度もシャッターを切りながら、尋ねてきます。
「あの、えっと、エレベータホールのほうから足音が近づいて来る、ていう」
 立たされ坊主の姿勢のまま、顔だけお姉さまに向けてお答えします。
「へー。また例の薬局のお水おばさん?」
「あ、はい・・・」
 まだ配役は決めかねていましたが、早乙女部長さまのことを言うとややこしくなりそうなので、そうお答えしました。

「それで、その後直子はどうなっちゃうの?」
 ひっきりなしにシャッターを切りながらのお姉さまのお尋ね。
「えと、まだそこまで進んではいなかったのですが、たぶん、写真を撮られて、それを元に脅されて・・・」
「なるほど。そのおばさんの慰み者になっちゃうわけね?」

「いいわ。わかった。だったらあたしが、そのおばさんの役、やってあげる。バケツ下ろしていいわよ。ショッパーもね」
「あ、はい」
 膝だけ曲げてバケツとショッパーを床に下ろし、空いた両手は自然と後頭部へ。
「いい心がけ。マゾ女の鏡ね」
 おっしゃりながらお姉さまは、ショッパーの中をガサゴソされています。

「ここに来て四つん這いになりなさい」
 ショッパーの物色を終えたお姉さまが、ご自分の足元を指さしておっしゃいました。
「は、はい・・・」
 おずおずとお姉さまに近づき、両膝を床に落としてから両手も床に着き、お姉さまを見上げました。
「ううん。膝は着いちゃだめ。両手両足の四つん這い。お尻を高く突き上げて、両脚は開き気味に、お尻の穴まで丸出しになるようにね」
「は、はい・・・」

 両膝を浮かせ、足の裏を床に着くと腰の位置が上がり、自然とお尻を上に突き出すような格好になりました。
 徒競走のクラウチングスタート二段階目みたいな格好。
 乳首のチャームが床に垂直に垂れ下がり、重力で乳首を下へと引っ張ってきます。
「おーけー。お尻をこっちに向けて。いくわよ?」
 方向転換をすると、目の前には誰もいない廊下が広がり、突き出したお尻はお姉さまの眼下です。

「ほら、取ってきなさい!」
 ご命令と同時に、背後から何か黒いものが私の頭上をヒラヒラと超え、数メートル先にパサッと落ちました。
「直子の大好きな、お姉さまの汚れたパンツよ。はら、早く取ってきなさい」
 突き上げたお尻の右側の尻たぶをピシャリと叩かれました。
「はぅっ。はいぃっ」

 冷たいリノリュームを腰高の四つん這いでペタペタ進み始めます。
 まるで床を雑巾がけしているような格好です。
 乳首のチャームがブラブラ大げさに揺れています。
「うわー。凄い眺め。肛門も具も丸見えよ。おまけにおツユまでポタポタ滴らせちゃって」
 背後でカメラを構えているのであろうお姉さまのからかい声が、私の昂ぶりを煽ります。
 シャッターを切るカシャカシャと言う音が、喩えようの無い屈辱感となってマゾの炎に油を注いできます。

 目標にたどりつきました。
 目の前に転がっているのは紛れも無く、先ほどお姉さまがおトイレでお脱ぎ捨てになった黒いショーツでした。
 両サイドを軽く縛って丸めてあり、私の目前に、一目で湿っているとわかるクロッチ部分が表になって転がっていました。

「もちろん手なんて使ってはだめよ。口に咥えて持ってらっしゃい。ドエムな直子らしくサカったメス犬みたいにね」
 四つん這いのまま床に転がったショーツをじっと見つめている私に、お姉さまの嘲るようなお声が浴びせられました。
 躊躇無く丸めたショーツの真ん中を咥えました。
 じんわりと口腔に広がる、大好きなお姉さまのしょっぱ苦いようなジュースのお味。
 咥えたまま急いで方向転換すると、視線の先がカメラのレンズとぶつかりました。
「うん。いい表情だわ。さあ、さっさと戻ってらっしゃい」

 お姉さまに促され、来た道を戻ります。
 リノリュームの床には水滴が、ポツンポツンと元居た場所までつづいていました。
「こんな場所で、四つん這いの裸でパンツを咥えた女の子、なんて写真は滅多に撮れるもんじゃないわよね?」
 そんなことをおっしゃいながら、お姉さまが容赦なくシャッターのシャワーを浴びせてきました。

「はい、良く出来ました」
 お姉さまの傍らまで戻り、咥えてきたショーツを口からもぎ取られると、お姉さまが私の頭を撫ぜ撫ぜしてくださいました。
「いい写真が撮れたわ。確かにこんな恥ずかしすぎる写真撮られたら、もうその相手の慰み者になるしか生きていく道は無いわよね」
 愉快そうなお姉さまがショーツを再びショッパーに放り込み、まだ四つん這いの私を見下ろします。

「だけどあたしは優しいから、あなたにご褒美を上げるわ。呆れちゃうほどのヘンタイぶりを披露してくれた森下直子さんにね」
 お姉さまがニッと笑って、いったんお言葉を切りました。

「ここでオナニーしていいわよ」
「えっ!?」
「ここでイきなさい、って言ったの」
「えっと・・・いいのですか?」
「だって、直子の顔見たら、もう行き着くとこまで行かないと収まりつかない淫乱マゾ顔だもの。だったらいっそここでやってもらうのも面白いから」
 お姉さまがカメラを構えました。

「モップも雑巾もあるから、汚したって拭けばいいだけだし、この環境だと新鮮でしょ?」
「このビルが出来てどのくらい経つのかは知らないけれど、オフィスフロアの廊下で素っ裸でオナニーした女なんて、今までたぶんいないでしょうね」
「直子がその第一号になるの。ギネスものよ。そしてあたしはそれを記録に残す立会人」
 冗談とも本気ともつかないお姉さまのお声に、私は未だおっしゃる意味の真意がよく飲み込めていません。

「ただし、念のために声は極力抑えてよね。あ、そうじゃなくて、喘ぎ声は一切禁止。口を真一文字に結んで、歯を食いしばって、がまんしながらイキなさい」
「そういうときのほうが直子、いい顔するもの。試着室のとき、あたしそれですごく興奮したし」
「まあ、この状況なら、少し弄ればあっさりすぐにイっちゃうだろうから。さあ、始めて」
 カメラを構え直すお姉さま。
「ほら、早く!」

 お姉さまの促すお声に、さっきから自分のからだを弄りたくて仕方なかった右手が床を離れ、知らず知らず下半身に伸び始めます。
「四つん這いのままじゃだめよ!顔がよく見えないもの。こっち向いてしゃがんじゃいなさい」
 お姉さまからのダメ出しにビクンとして、右手が引っ込みました。

 あらためて、野球のキャッチャーさんみたいな姿勢にしゃがみました。
「いいわね。オマンコも適度に開いて何もかも丸見えで。その姿勢をキープして自分を慰めなさい。ただし声は絶対出さずに、ね」

 再び右手を股間に伸ばし、腫れ上がったクリトリスに指の腹を当てました。
「んふぅう」
 ぎゅっとつぐんだ唇から脱出できなかった熱い吐息が、仕方なく鼻のほうへと活路を見出したようです。
「くふうぅぅ」

 クリットに触れると同時に理性のたががはずれ、親指と人差し指でクリットをつまみながら残りの指は膣口へと、ジュブッと挿し込まれました。
 左手はおっぱいを揉みながら乳首を潰し、下半身へとつづくチェーンを引っ張ります。
 理性は失くしてもお姉さまからのお言いつけは絶対なので、悦びの声を一生懸命押し殺していると、そのぶん眉間のシワが深くなり、目尻に涙が浮かんできます。
「んふぅぅーっ!ん、ん、ん、ん、んーっ」

 ジュブジュブ音をたてる股間の真下の床に、ポタポタポタポタ、白濁したおツユの水溜りが広がっていきます。
「いい顔よ。そう、イキなさい、イッちゃいなさい」
 カシャカシャというシャッター音に混じって、お姉さまも押し殺したお声で、私の昂ぶりを応援してくださいます。
「んぐっ!んぅ、ぅぅぅ、んぬぅぅぅーーーっ!」
 ふんふん囀る鼻息がどんどん早くなってきます。
「んんんんんんーーーーっ、いぃぃぃぃっ!!!」

 床にペタンと裸のお尻を着いて、その周辺は粘液の水溜り。
 お姉さまの予言どおり、始めて数分で、あっさり強烈にイってしまいました。
 自分の意志とは関係なく、時折腰がヒクヒク痙攣しています。

「気がすんだ?」
「はぁ、はぁい・・・」
「よかった。声もずいぶんがまんして、偉かったわ。最後は、いいい、とか言っちゃってたけれど」
 笑いながら手を差し伸べてくださるお姉さま。
「さあ、いい写真もたくさん撮れたし、帰る支度をしましょう。そろそろ日付が変わりそうよ」
 お姉さまの手に縋って立ち上がり、よろよろとオフィスに入りました。

「さっき直子を廊下に放置していたときに、あらかた掃除しちゃったから、もうほとんどやることは無いの」
 社長室、すなわちお姉さまのお部屋に戻ると、私が汚した床もテーブルも、キレイに拭き取られていました。
「直子はバケツの水でその雑巾を濡らしてゆすいで、もう一度テーブルを拭いといてくれる?あたしはそのあいだに、廊下をモップで拭いてくる」
「あ、はい」

 お姉さまがお部屋を出ていき、私はお言いつけ通り、窓際のテーブルを丹念に拭き掃除しました。
 全身に纏っていたムラムラがさっきの廊下でのオナニーで一掃され、なんだか身軽になったようでした。
 ショッパーからおトイレで使ったタオルを引っ張り出してからだを拭いていると、お姉さまがお戻りになりました。

「とうとう日付が変わっちゃったわね。おはよう直子。今日は日曜日よ」
 お姉さまが苦笑いを浮かべ、ご自分のデスクらしき場所の、このお部屋で一番立派な椅子に、背もたれに背中を預けるようにドスンと腰掛けられました。

「もうここまで来ちゃったら、もう少しくらい遅くなっても同じよね。コンベンションは夕方からだから、昼頃までは眠れるし、新幹線で寝たっていいし」
 独り言みたいなお姉さまのつぶやき。
「だからここは、自分の欲求に素直になっていいと思うの。ねえ、直子もそう思わない?」
 急に尋ねられ、きょとんとする私。
「あの、えっと、そうですね・・・」

「そうよね?よし、決めた。直子、こっち来て」
 お姉さまが座ったまま手招き。
「は、はい」
 きょとんとしたままお姉さまの傍らに近づきました。

「あたしもだいぶ直子のスケベさに毒されちゃったみたい。自分のオフィスを初めてノーパンでうろうろして、直子の廊下オナニーを見て、また疼いちゃったみたいなのよ」
「ほんの数時間前に直子にスッキリさせてもらったばかりなのにね」
 自嘲気味な笑顔の後、お姉さまの瞳がトロンと蕩けました。
 
 お姉さまの両手が動いた、と思ったらタイトスカートの裾に指がかかり、そのまま自らその裾をたくし上げました。
 今はノーパンのお姉さまですから、白い下腹部とかっこよく揃えられたお姉さまのヘアが露になりました。

「舐めて、直子。今度は舐めてあたしを気持ち良くして」
 椅子の背もたれにそっくり返るように身を沈めるお姉さま。
 そのぶん下半身を前に突き出すような格好になり、緩く開いた両腿のあいだが濡れて光っているのまでわかりました。

「はい。お姉さま、よろこんで!」
 お姉さまの太腿のあいだにひざまずき、喜び勇んで顔を股間に埋めます。
 お姉さまの香り、お姉さまのお味、お姉さまのぬめり。

 ピチャピチャピチャ
「あん、そう、そこよ・・・」
 ピチャピチャピチャ
「そう、もっともっと、奥までぇ・・・」
 ピチャピチャピチャ
「そこそこそこ、もっと、もっとぉぉ・・・」
 ピチャピチャピチャ
「いいっ、いいっ、いいいーーっ!」
「あーーーーーーーーっ!!!」

 先ほどよりもたくさん濡れていたお姉さまは、私の廊下オナニーと同じように、ほんの数分で全身を震わせながら歓喜のお歌を高らかに謳いあげられました。

 しばらく背もたれに身を任せ、ぐったり横たわっていたお姉さまが、やがてむっくり起き上がりました。
「ああ気持ち良かった。直子って本当に上手よね、指も舌も。シーナさんが手放したくない気持ちもわかる気がするわ」
 スカートの裾を直して、立ち上がりました。
「これでスッキリ。帰ったらグッスリ眠れそうよ。ありがとね、直子」

「さあ、掃除用具を戻して、とっとと帰りましょう!」
 デスクに置いてあったバーキンを手に取り、ロッカーからスーツジャケットを取り出すお姉さま。
「直子は悪いけれどバケツとショッパー持ってね。お洗濯もお願いね。私物はある?忘れ物しないようにね」
 テキパキとご指示くださり、モップを手に取り、スタスタとお部屋を後にするお姉さま。

 えっと、着てきたショートジャケットとハンドバッグは応接のお部屋に置いたきりだったっけ?・・・
 そこまで考えたとき、もっと根本的な問題が残っていることに気がつきました。

「ちょ、ちょっと待ってくださいお姉さま!」
 あわててお部屋を飛び出し、のんきにカーテンや戸締りの確認をされていたお姉さまに詰め寄りました。
「あら、どしたの?はい、これが直子の上着とバッグね。これでもう忘れ物はない?」
 明らかに気がついているクセに、確信的にとぼけていらっしゃるお姉さま。
 目と唇が愉しそうに笑っています。

「わ、私に、こんな姿のまま何も着ないで帰れ、という、ご、ご命令なのですか?」
 自分で言った被虐的な科白に、性懲りも無くズキンと疼いてしまう自分のからだがうらめしい。
「そうねえ。直子が着てきたニットワンピはもうこのバッグにしまっちゃったし。そうなるかしらねえ」
 あくまでもイジワルなお姉さま。

「そのジャケットがあるじゃない。それを羽織れば、おっぱいだけは隠せるのじゃなくて?」
 確かにその通り。
 丈がウエストにも届かないこんなジャケットでは、おっぱいだけしか隠せません。
 下半身丸出しです。

「それにここからは、まずオフィスを出て、エレベーターに乗るでしょう?エレベーターは地下の駐車場まで直通だし、駐車場まで行っちゃえばあたしの車に乗るだけ。車に乗っちゃえば下半身は外から見えないわ」
「車に乗るまでに誰かに会う可能性は無いわよね?問題になるのは、エレベーターホールとエレベーターと、たぶん駐車場にもある監視カメラ」
「でも直子って、目立つヘアが無いツルツルパイパンだし、肌も白くてハリもあるから、ジャケット羽織っていれば下半身はベージュのレギンスとかスパッツ穿いているようにも見えなくはないんじゃないかしら。遠目なら」

「あと考えられる危険は、エレベーターに他の階から誰か乗って来ちゃったとき。そうなったら完全にアウトだわねえ。それと、直子が車を降りて、自分の部屋に入るまで。こっちはあたしの知ったことではないけれど、マンション入り口までは責任持って送ってあげるつもりよ」
「けっこうリスク低いと思わない?どう?やってみたくなってきたでしょう?露出狂ヘンタイマゾの森下直子さん?」
 私をからかうのが愉しくて仕方ないご様子のお姉さまは、饒舌です。

 私は、そんなお姉さまを半泣きのジト目でじっと見つめていました。
 どうかお許しください、という気持ちと、お姉さまと一緒なら、そんな大冒険も案外すんなり果たせそうという好奇心が小さく鬩ぎ合っていました。
 だけどやっぱり、ここから自分の家まで、ずっと下半身丸出しで帰る、という行為は無謀過ぎる、という臆病風が気持ちの大半を占めていました。

「そんな辛そうな目で見られると、直子の場合、ますます虐めたくなっちゃうけれど、あたしも無駄にそんな社会的にリスキー過ぎることを命令するほどバカな経営者じゃないわ」
「直子はうちの大切な社員だし、あたしのかわいいスールでもあるのだもの」
 お姉さまが私の顔を覗き込んで、ニコッと笑ってくださいました。
 あ、いえ、ニヤッだったかもしれません。

「さっきそのロッカーでいいものみつけたのよ。去年の秋もののサンプルなのだけれど」
「直子はこれを着て帰りなさい。もちろんチェーンは着けたままで」
 お姉さまが壁際のロッカーから何か取り出しました。
 

面接ごっこは窓際で 10


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