2015年9月6日

オートクチュールのはずなのに 18

 緑色のカーテンをきっちり閉めて、ドキドキを鎮めるために深呼吸をひとつ。
 側面の壁に貼ってあった操作説明に目を通すと、さっきの機械とは違う種類でした。
 でも、撮り方自体は大体同じで一安心
 先にウェットティッシュでショーツと股間を拭ってしまおう、とベンチ状の椅子に腰掛けたとき、大問題に気がつきました。

 このブース、さっきのブースに比べて目隠しカーテンの丈が異様に短かいのです。
 腰掛けると下半身、腰から下部分がすべてカーテンの下にきてしまい、お外からまったく隠せていません。
 あわてて立ち上がり確認してみたら、まっすぐ立った状態でカーテンの裾が私の太腿付け根の少し下くらいでした。
 腰掛けて股間を弄っていたら、その様子は途切れたカーテン下の空間から、行き交う人たちに剥き出しの太腿ごと丸見えとなることでしょう。
 
 さっきのブースは確か、膝のあたりまであったのに。
 かなり動揺してしまいました。
 どうしよう・・・?
 
 いつまでこうしていても仕方が無いので、立ったままミニワンピースの裾をめくり、ウェットティッシュをショーツの股間にあてがいました。
「はぅん」
 ひんやりとしたティッシュ越しに、乳液みたくヌルンとした液体が滴らんばかりに、布地を湿らせているのがわかりました。
 ティッシュを何度か折り直して丁寧に拭うと、ウェットティッシュ全体がベトベトになりました。

 渡されたウェットティッシュは、あと三枚ありました。
 お姉さまがこれだけの枚数をくださった、ということは、それだけ丁寧にキレイにしてきなさい、という意味なのでしょう。
 ショーツの裏側、あとやっぱり膣内も、拭っておかないと。

 だけど、ショーツの裏側を拭うには、いったんショーツをずり下げなければなりません。
 まっすぐ立っていても腿の付け根辺りまでしか隠してくれないカーテンですから、ここでショーツを下げたりしたら、その一連の動作がお外から丸わかりになってしまう上、拭いているあいだ中、下着を中途半端にずり下げた生足を、行き交う人たちにご披露しっぱなし状態になっちゃうはずでした。

 私はそれを、お姉さまからのご命令と受け取りました。
 お姉さまは、ここのカーテンがこんなに短かいことを知った上で、私にそういう辱めを受けることを望んでいらっしゃる、と。
 そして、お姉さまの言いなりドレイである私には、従う以外の選択肢はないのです。
 覚悟を決めました。

 カメラのほうを向いてまっすぐに立ち、ミニワンピの裾に潜らせた両手でショーツのゴムをつまみました。
 私、これから、こんな場所で下着を脱ごうとしている・・・
 そう思った途端に、辺りの雑踏と喧騒のボリュームが盛大に上がった気がしました。

 ひっきりなしに行き交う靴音、人々のざわめき、電車の到着を告げるアナウンス・・・
 ごくありきたりの正常な日常生活の中で、ひとり、異常なことをしようとしている私。
 見知らぬ人がいつ気づいてもおかしくない、下半身までカーテンが届かないブースの中、自ら下着を下ろして性器を露出しようとしているヘンタイ。

 そんな恥ずかしい姿、絶対誰にも視せたくないのに、なんでこんなに昂ぶっているのだろう?
 視られたくない気持ち以上に、視られてしまうことを期待している、もうひとりの自分がいました。
 被虐のジレンマで張り裂けそうな自分の心に焦れたみたいに、両手が勝手に動き始めていました。

 ショーツを裏返すみたく縁から丸め、ゆっくり腿のほうへとずり下げます。
 まずは太腿の中間くらいまで。
 ショーツが股間を離れるにつれ、股間とショーツの裏地との空間を、か細い糸が何本も引いては切れました。
 ずり下げられて丸まった銀色ショーツの布地は、左右の太腿を束ねて縛る一本の黒い縄のよう。
 その黒い縄はもちろん、途切れたカーテンの下から、お外に丸見えとなっていることでしょう。

 上半身を少し屈め、二枚目のウェットティッシュでショーツの裏地を拭います。
 左手をショーツに添えてクロッチ部分を広げ、右手のティッシュを裏地に押し付けました。
 ヌルヌルの感触で、すぐに二枚目も満遍なくベトベト。
 それをベンチ端に置いた使用済み一枚目の上に重ね、三枚目に手を伸ばしました。

 この三枚目のウェットティッシュは、自分の性器、いえ、直子のはしたない剥き出しマゾマンコを直に拭うためのもの。
 そう考えたら、被虐のジレンマが昂ぶり側にグラリと傾き、これから自分がすべきことが決まりました。
 マゾならマゾらしく。
 こんな場所で剥き出し性器を弄ろうとしているヘンタイ女は、それにふさわしい格好にならなければいけないのです。

 立ったまま、ミニワンピースのボタンを上から外し始めます。
 おっぱい写真を撮るだけならおへそくらいまで外せばいいのですが、全部外します。
 そのほうが私らしいから、そのほうがお姉さまに悦んでいただけるはずだから。

 ボタンをひとつ外すごとに、割れた前立ての隙間から覗く肌の比率が増えていきます。
 おへその下まで外し終えると、残ったボタンはふたつだけ。
 それらも外してしまえば、すでにショーツは下ろされているので、私のふしだらな剥き出しマゾマンコがブースの中で、文字通り剥き出しになってしまうのです。

 今までにも、駅や学校の公衆トイレやブティックの試着室など、公共の場のかりそめの密室で人知れず裸になり、その被虐的、背徳的な状況をひとりこっそり愉しんだことが何度もありました。
 でも、この証明写真ブース内は、それらの経験を軽く凌駕するほどの、危う過ぎるスリルに満ち溢れていました。
 
 現実世界とヘンタイな私を隔てるには、あまりに短かく薄っぺら過ぎるヘナヘナなカーテン。
 そんな頼りないカーテンのすぐ向こうを、ひっきりなしに行き交う大勢の人たち。
 今だって、誰かちょこっとこちらに目を遣れば、写真ブースの中でなぜだか下着を下ろしている女性がいる、ということは一目瞭然でしょう。
 スリルがもたらす興奮は、理性と呼ばれるブレーキをまるっきりの役立たずにして、今や完全に、視て欲しい、の側にシフトした私に、更にもっとヘンタイなことをさせようとしていました。

 今の私がこれほど大胆になれるのは、ひとえにお姉さまが傍らにいてくださるおかげでした。
 独り遊びでオドオドビクビクしていたときとは違い、お姉さまから見守られているという安心感に、どっぷり甘えている私。
 だからこそ、お姉さまの前では自分の性癖に忠実になって、そのことでお姉さまにも愉しんでいただきたい、という使命感をも感じていました。

 ボタンをすっかり外し終えると前立てがハラリと左右に割れ、銀色のブラジャーから下腹部、そして布に覆われていない無毛の恥丘までもが、ワンピース布地の隙間から細い長方形にさらけ出されていました。
 躊躇せず、袖から両腕も抜き、脱ぎ去ったネイビーブルーの布地をベンチ状の椅子右端に置きました。
 これですっかり下着姿。
 と言ってもショーツはすでに腿まで下ろしていますし、ブラジャーだってこの後すぐ、本来の役目を放棄させられる運命なのです。

 立ったままブラジャーのハーフカップに手を掛けます。
 そのままおっぱい全体をブラジャーから引き剥がすみたいに、カップをお腹側にずり下げました。
 ブルンと揺れながら姿を現わすぽってり下乳と、自分で見ても痛々しいほどに尖りきって宙を突く乳首たち。
 ブラジャー左右の肩ストラップに挟まれ、カップの縁で上のほうへと持ち上げられ、全体が窮屈そうに中央付近へ寄せ集められたおっぱいは、谷間クッキリ、ボリュームアップ、いつもより肉感的で卑猥な感じ。
 そのままからだを前屈させ、ショーツも膝のところまで更にずり下げました。

 これが私の望んだ、私らしい姿。
 下着は上下ともちゃんと着けているのに、隠すべきところは一箇所も隠せていない、ある意味全裸より浅ましい、ヘンタイ露出狂女の脱げかけ半裸姿。
 正面の鏡におへそを中心とした白い肌が、艶かしく映っています。
 
 その画像を見ながら腰をゆっくりと落とし、再びベンチ状の椅子に腰掛けました。
 裸のお尻に椅子がひんやり。
 おそらくお外には、何にも覆われていない肌色の腰部分が、カーテンの下から覘いていると思います。
 もちろん、膝まで下ろした紐状ショーツも。

 背筋を伸ばしてまっすぐ座り、あらためて正面の鏡と向き合いました。
 そこには、赤い首輪を嵌められて不自然な形におっぱいを露出した、見るからに発情しきった淫ら顔マゾ女の悩ましげな表情が映っていました。

「・・・必要な証明写真の種類をお選びください」
 料金の投入口にお金を入れると突然、甲高くチャイムが鳴り、かなり大きな女性のお声が!
 えっ!?何これ?しゃべるの!?
 さっきのブースはしゃべらなかったので、ちょっとしたパニック。
 て言うか、そんなに大きなお声を出されたら、お外からも注目されちゃいそう。
 女性のお声で急に現実に引き戻され、同時に今自分がしていることのとんでもなさ、こんなところでほぼ全裸になっている現実を、あらためて思い知りました。

 俄然不安になって、カーテンの下から見えているお外に視線を走らせると、ブースのすぐ近くに見覚えのある細くしなやかなジーンズのおみ足。
 そう、お姉さまが見守ってくださっているから大丈夫。
 その周辺に他の足元は一切見えなかったので、かなり安心しました。

 と同時に股間のローターが激しく震動し始めました。
「んふぅーっ!」
 きっとお外にいらっしゃるお姉さまにも女性のお声が聞こえ、私が写真を撮り始めることを知り、イタズラを仕掛けてきたのでしょう。
 
 別の見方をすれば、お姉さまが私にイタズラ出来るくらい、今のところブースは注目されていない、とも考えられます。
 もしも、ブースの中で誰かが裸になっている、って何人かに気づかれて周囲がヒソヒソしていたら、お姉さまにもイタズラ出来る余裕なんてないでしょうから。
 その考えは、私をずいぶんホッとさせてくれました。

 操作方法を教えてくださる女性のお声に従って操作をしているあいだ中、お外から注目されやしないかと気が気ではありませんでしたが、それでも考えていたことは、実行に移しました。
 写真を撮られるあいだ、顔は正面を向けたまま、左手のウェットティッシュでずっと股間を拭っていたのです。

 腫れ上がった肉芽にティッシュが触れるたびに、眉間にいやらしくシワが寄りました。
 強く押し付けたティッシュ越しにもわかるほど、股間全体が熱くなっていました。
 ローターは相変わらず、中で激しく震えています。
 お姉さまったら、そんなふうにローターを震わせていたら、せっかくティッシュで拭っている意味が無いですよ?
 
 ああん、このまま指を潜り込ませて、クリトリスをつまんで、最後までイっちゃいたい・・・
 さすがにそこまでは出来ませんでしたが、ティッシュを押さえる指がモゾモゾ動いてしまうのを、止める事も出来ませんでした。

 鏡の中の自分の顔が、自分でも恥ずかしくなるほど淫らに歪んでいました。
 からだ中が疼き悶え、大興奮していました。
 拭っても拭ってもジワジワ溢れ出てくる粘性の液体。
 そんなさ中、パシャン、とシャッターが切れたらしい音が聞こえました。

「ありがとうございました。写真は外の取り出し口から出ます」
 女性のお声と同時にローターも止まり、達し切れなかった私はガクンとうなだれます。
 あぁんっ、また生殺し・・・
 股間を押さえていたティッシュは前の二枚以上にグッショリ濡れそぼっていました。

 ブースに入って撮影まで、時間にすれば、ほんの5、6分のことだったのでしょうが、私には小一時間もかかったように思えるくらい、グッタリ疲れていました。
 でも、あまりお姉さまをお待たせしてはいけない。
 すぐに気持ちを切り替えました。

 よろよろと立ち上がり、膝のショーツをモゾモソずり上げます。
 ショーツのクロッチはまだ湿っていて、そこに新しいシミが更に広がっていくのがわかりました。
 ミニワンピースを羽織り、下から順にボタンを留めていきます。
 お言いつけ通りブラジャーは直さず、おっぱいを飛び出させたまま。

 ここに入ってきたときと同じように、上から三番目の胸元ボタンまでを、きっちり留めました。
 そのときより、バスト全体の位置がせり上がっている感じ。
 アンダーをカップで持ち上げられていつもより高い位置になった乳首が、胸元に貼りついた布地をポッチリ浮き上がらせ、ひと目でノーブラと分かる状態となりました。
 ボタンふたつ外れた状態のVゾーンからは、盛り上がったおっぱいの谷間が不自然なくらいクッキリ覗いています。
 こんなふしだらな格好で、今度は街中をお散歩するんだ・・・
 どうしても目が行ってしまうほど自分の胸元で派手に目立っている恥ずかしい突起にクラクラしながら、ゆっくりとカーテンを開きました。

「・・・お待たせしました、お姉さま」
 お姉さまは、私と目が合うとニッと笑い、私の眼前に今撮ったばかりの写真を突きつけてきました。
 そこには、半開きの目と唇で、なんとも悩ましく顔を歪ませたおっぱい丸出し女のバストアップが、同じ構図で四枚写っていました。

「ずいぶんと大胆なことしていたわね?まさか中でワンピまでさっくり脱いじゃうとは、思ってもいなかったわ」
 写真をつかもうと思わず伸ばした私の右手をヒラリとかわすお姉さま。
 置いてきぼりになったその右手をご自身の左手で捕まえると、引っ張るみたいにホームのほうへとスタスタ歩き始めました。
 
 電車が出て行ったすぐ後のようで、ホームにはけっこうな人波が右へ左へと行き交っていました。
 お姉さまはずっと無言。
 人混みに紛れてしばらくしてから、ようやくお姉さまが歩調を緩めました。

「カーテンの下から直子の生足、丸見えだったわよ?もちろん下げたパンティまで」
 階段をゆっくり上りながら私にヒソヒソ耳打ちしてくるお姉さま、
「座ったときは裸の腰まで見えていたし、見ているこっちのほうがハラハラしちゃったわよ」
 階段を上りきると10メートルくらい先に改札が見え、その向こうは都会らしい駅ビル地下っぽいたたずまいでした。

「歩きながらブースの中をチラチラ見ていく人もいたから、けっこうな人数の人がブースの中の生足とパンティには気がついていたみたい」
「でも、普通の人は立ち止まらないからね。そのまま通り過ぎるだけなのだけれど」
「ひとりだけ、中年のリーサラっぽいオジサンが、一度通り過ぎたのにわざわざ戻ってきたのよ。直子が座って撮影が始まった直後だったな」
「あたしがブース前に陣取って、次の順番待ちで並んでいるようなフリをしていたから、近づいては来れなかったみたい」

「それでそのオジサン、ブースが見える対面の壁にもたれてケータイを弄り始めたの。頻繁に視線をこちらに投げながら、まるで張り込みの刑事みたいに」
 人混みをすり抜けながら、お姉さまがヒソヒソしてきます。
「ブースに注目しているのは丸わかりだったから、ちょっとヤバイかなと思って、直子が出てきたらすぐ逃げることにしたの。見るからにスケベそうな顔していたから、そのオジサン」
 お姉さまが呆れたようなお声でそこまで教えてくださったとき、改札口にたどりつきました。

 いったん互いの手を解き、改札を抜けました。
 そのまま通行の邪魔にならない壁際までふたりで退避。
 お姉さまと向かい合いました。

「それにしても、直子もいい度胸よね。カーテンが短かいの、わかっていてやったのでしょう?」
「・・・はい」
「どうだった?あんなところで裸になったご感想は?」
「それは・・・」
「この写真見れば一目瞭然よね。いやらしい顔しちゃって」
「・・・」
 お姉さまが再び私に写真を突きつけ、その向こうからじっと私を見つめてきます。

「命令どおり、ブラはずり下げたままのようね?」
 お姉さまの視線が私のバストを凝視。
「はい・・・」
「そんなに露骨にワンピの前を尖らせていたら、街中の人たちに、わたしはノーブラです、って宣言して歩くようなものよ?それでもいいの?」
「あの、えっと、はい・・・」
「そうよね、直子はそういうので悦ぶマゾ女だものね?」
「・・・はい」

「剥き出しマゾマンコはちゃんと拭いた?」
 お姉さまの視線が更に下がりました。
「はい・・・」
「知ってて聞いたのよ。直子がマゾマンコ弄りながら写真撮られてるとこ、外から丸わかりだったもの」
「・・・あれは、ただ拭いていただけです・・・」
「ふーん。どうだか」
 お姉さまの蔑むようなお声。

「それで、キレイになったの?」
「えっと、それは・・・」
「でしょうね。相変わらずクロッチがグショグショだもの。あとからあとから滲み出る愛液に追いつかなかったのでしょう?」
「はい・・・そうです」

「あたしもそう思って、いっそ一度イってしまったほうがいいのかなとも考えてさ」
「・・・」
「せっかくローターで助けてあげたのに、イケなかったんだ?」
「・・・はい」
「それはご愁傷様。でも、あたしの経験上、イキたくて仕方ない状態の直子ほど、面白いオモチャはないのよ。これからのお散歩がますます愉しみになったわ」
 そうおっしゃって、愉快そうに微笑むイジワルお姉さま。

「使用済みのウェットティッシュは、どうしたの?」
「あ!いけない!椅子の上に置きっぱなしでした」
 すっかり忘れていました。
「あーあ。次に使う人はいい迷惑ね。うっかり触らなければいいけれど」
 ドロドロヌルヌルのティッシュの感触を思い出し、ひとり強烈に赤面してしまう私。

「あ、でも、さっきの張り込みオジサンが戦利品としてとっくに回収していったかもしれないわね。今夜のオカズに」
「オジサンの脳裏には座った直子の艶かしい裸の腰のラインが焼きついているはずだからね。きっといろいろ捗るはずよ」
 お姉さまがお下品に冷やかしてから唇を寄せてきて、私の耳にフッと熱い息を吹き込みました。
「ぁぁんっ!」

「おーけー。では行きましょう。この周辺は繁華街も近いし、今までよりずっとたくさんの人たちに、そのいやらしい姿を視てもらえるはずよ」
「でもその前に、あたしにいつまでバッグを持たせておく気?」
「ご、ごめんなさい、お姉さま」
 あわてて左手を差し出しました。

「バッグは直子の係って最初に伝えておいたのだから、さっさと気を利かせなさい」
 おっしゃりながらご自分の左肩からビニールトートの提げ手を抜き、私に渡す前に中を何やらガサゴソされました。
「さ、これでいいわ。どちらを表に向けても、直子の好きにしていいわよ」

 渡されたバッグには、絶望的な仕掛けが施されていました。
 片面に麻縄や鎖、洗濯バサミや銀色ディルドなど、私を虐める不健全なお道具たちが、薄いブルーのビニール越しに透けて見えているのは相変わらずでした。
 もう片面の、今まではまっ白いバスタオルのタオル地だけが見えていて健全だったほうに、今さっき撮影された私の淫ら顔証明写真が表向きで見えていました。

 ハガキ大の紙に四分割で、同じ構図の写真が四枚。
 ビニールとバスタオルのあいだに挟まれ、バッグ側面のほぼ中央部分に配置されたそのカラー写真は、真っ白なタオル地の中、青色を背にした肌色ばかりの写真が唯一のアクセントとなり、否が応でも目を惹き、かなり鮮やかに目立ちました。
 その写真を見て、それから、そのバッグを持っている人物に目を遣れば、写真の中でいやらしく顔を歪めているおっぱい丸出し女と、バッグの持ち主が同一人物だとすぐにわかってしまうことでしょう。
 
 更にご丁寧に、その前に撮影した顔を半分隠したおっぱい丸出し写真は、バッグのマチ部分、もちろんここも透明です、に移動され、正面または背後から、いつでも丸見え状態となっていました。

 自分のおっぱい丸出し喘ぎ顔ヌード写真をさらしながら街を歩くか、それとも、見る人が見ればピンときちゃう、自分を虐める破廉恥なお道具を持ち歩いていることを誇示しながら街を歩くか・・・
 どちらもあまりに恥ずかし過ぎる恥辱の選択。

 迷った末に、私は前者を選びました。
 理由は、今さっきお姉さまが敢えてそうされたのだから、つまりはそれがお姉さまのお望みだと思うから。
 それにそっちのほうが、より露出狂マゾらしいとも思ったから。
 写真の側を表に向けてバッグを提げた私を見て、お姉さまが嬉しそうに、ふふん、と笑い、私の右手をつかみました。

 お姉さまと手をつないで駅ビルっぽい通路の人波をかき分けていきます。
 改札のすぐそばが大型量販店の入口であることもあり、ひっきりなしに人とすれ違います。
 からだに感じる視線の数も、今までとは桁違いに増えていました。
 それは、今の私のいでたちに、通りすがりの人の視線を惹いてしまうような箇所が増えていることとも、無関係ではないのでしょう。

 今までもさんざん注目されてきた赤い首輪。
 少し視線を下げると、Vゾーンから覗いている盛り上がった胸の谷間。
 布地を押し上げている乳首の突起。
 もっと下げると、割れた裾からチラチラ覗く黒いクロッチ。
 おっぱい丸出し女の写真が透けて見えているビニールトート。
 少し数えただけでもこれだけあります。

 更に、お姉さまが人目を惹く超美人さんであること、女同士で手を繋いでいること、私の顔が汗ばんではしたなく上気していること、などなど。
 ありふれた街の喧騒の中で、私とお姉さまがいる空間だけが浮きまくり、目立ちまくっていることを痛切に感じていました。
 そして、その不躾な好奇の視線を受けることが妙に心地良く、全身が敏感にチクチク疼きまくってしまっているのも事実でした。

 そんな視線をすれ違う人たちからビンビン感じつつ、階段を上りきり地上に出ました。
「あら、駅ひとつぶんで、外がずいぶん暗くなっちゃってる」
 お姉さまが驚いたようにお空を見上げました。
「まだ午後3時過ぎなのにこの空の暗さは、やっぱり天気予報ってたいしたものなのね。間違いなくひと雨くるわ」
 お姉さまがなぜだかとても嬉しそうに、そうおっしゃいました。


オートクチュールのはずなのに 19


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