2015年12月27日

オートクチュールのはずなのに 30

「着けてあげる」
 リンコさまがスルスルっと近寄ってきて、私の背後に立ちました。
「ちょっと上向いててくれる?」
「あ、はい」
 首筋を伸ばすように顎を前に突き出していると、喉にヒヤッと冷たいものが触れました。

「はふぅん・・・」
 その瞬間、からだ中にゾワゾワっと不穏な電流が走り、思わずヘンな声を洩らしてしまいました。
「ひんやりした?スベスベのレザー使っているからね。どう?キツクない?」
「あ、はい。大丈夫です」
 首の後ろをコソコソさわるリンコさまの指にうっとりしそうになるのを、ここはオフィスで今はお仕事中なのだから、と自分に言い聞かせて戒めました。

「なるほど。こうして見ると、チョーカーっていうのも悪くはないわね」
 リンコさまからチョーカーを着けられる私を、じーっと見つめていた早乙女部長さまが、感心したようにおっしゃいました。

「着けると何て言うか、その子が従順そうに見えてくる。何でも思い通りになりそうな。着ける子の雰囲気にもよるのでしょうけれど」
 部長さまの視線が私の全身にもう一度、素早く走りました。

「生意気そうな子が着けていたら、それはそれで征服感みたいなものを感じるかもね。確かにオタク受けは良さそうだわ」
 部長さまの傍らに戻ったリンコさまも、そのお言葉にウンウンと真剣に頷いていらっしゃいます。

「一応、上着も着てみましょう」
 部長さまに促され、テーブルの上の上着を手に取りました。
 これも思っていたよりペラペラ。
 ほのかさまが着ているブレザーとデザインや色使いは同じですが、布地が違うみたい。
「着終わったら、ふたり並んでみて」
 部長さまのお声で、ほのかさまが私に近づいてきました。

「これにあと、ソックスとシューズ、よね?」
 ほのかさまと並んで直立不動の私の前に、早乙女部長さま、リンコさま、ミサさまが立ちはだかるように並び、私たちをジロジロ見つめていました。
「はい。Aタイプは白のハイソ、Bタイプは三つ折です。靴はどちらもブラウンのローファー」
 リンコさまが何かの書類をめくりながら、部長さまの質問にテキパキお答えされています。

 ほのかさまとこうして並んでみると、あらためて私の穿いているスカートの短かさが際立ちました。
 私より少し背の高いほのかさまのスカートの裾と私のとを較べると、身長差を差し引いても10センチ以上の差がありました。
 股下0センチ、クロッチ部分ギリギリ丈の頼りないペラペラなスカート。
 少し背伸びしただけでも覗いてしまうその部分が今、どんな状況になっているのか、気が気ではありませんでした。

 朝からいろいろと発情していた私ですから、この試着を始める前からすでに、たとえばもしも真下からスカートの中を覗かれたらわかる範囲には確実に、銀色ショーツに黒い濡れジミを作っているはずでした。
 問題は、その後でした。
 このお着替えを始めてからも、何度も奥の潤みを感じていました。
 溢れ出したおシルは確実に前へ後ろへ、ショーツの布への侵食を広げているはずです。
 おそらく正面から見ても、クロッチ部分の先端が黒ずんでいるのがわかるほどには。

 だけど今のところ、みなさまからそういうご指摘はありません。
 知ってか知らずか・・・
 たとえ気づいていたとしても、事が事ですからご指摘を憚られているのかもしれませんが。

 チョーカーを嵌められてマゾ性へ大きく傾きがちになっている私は、みなさまにそんな姿を気づかれ呆れられることを欲していましたが、辛うじて残っている理性の部分では、この試着が一刻も早く終わり、普段の服装に戻れることを願っていました。

「おーけー。ここは狭いから、ちょっと広いところへ行きましょう」
 リンコさまとあれこれ打ち合わせをされていた部長さまがおっしゃるなり、スタスタ歩き始めました。
 ぞろぞろと後につづく私たち。
 会議室のドアを出て、オフィスのメインフロアのデスクやロッカーが置いていない、窓際の広めなスペースに誘導されました。
 ロールカーテン全開の大きな素通し窓からは、抜けるような青空。

「窓を背にして、ふたり並んで立ってくれる、あ、もう少し間隔を空けたほうがいいわ」
 五月らしい晴天の明るい陽射しが差し込む大きな窓を背に、ほのかさまと私が2メートル位の間隔を空けて並びました。
 窓は、私の膝よりも低い位置から始まっていますから、お尻ギリギリのスカート直下から剥き出しな私の生足が、ガラスを挟んでお外へ丸見えとなっていることでしょう。
 もっとも、地上数百メートルの高さですから、見上げて目を凝らさなければわからないでしょうが。

 お近くのデスクに寄りかかるように、私たちの前で並んだお三方。
 部長さまを真ん中に、私の側にリンコさま、ほのかさまの側にミサさま。
 これから何を始める気なのだろう・・・
 怖いような待ち遠しいような、ヘンな胸騒ぎを感じていました。

「ここであなたたちに、いろいろ動いてもらいたいの。ほら、アイドルって、かなり激しいダンスをしながら歌うから、それ風なダンスっぽい動きをね」
 部長さまが私とほのかさまを交互に見ながらおっしゃいました。
 ウンウンとうなずくほのかさま。
 つられてうなずく私でしたが、心の中は大騒ぎ。

 こんな、少し背伸びしただけでも下着が出てしまう衣装でダンスなんてしたら・・・
 ひるがえるスカート、丸出しのショーツ、一目瞭然な銀色と黒のグラデーションを描く恥ずかし過ぎるシミ・・・
 そんな光景が即座に頭に浮かび、あきらめにも似た陶酔感に襲われます。
 視られちゃう・・・
 心の中の大部分が、もはやマゾ色に染まっていました。

「それではまず手始めに、その場で軽くジャンプしてみてくれる?ぴょんぴょんぴょん、って感じで」
 部長さまは、普通におっしゃっているのでしょうが、私の耳にはエスなかたからの冷たいご命令口調に変換されていました。

「はい」
 ほのかさまがお返事と共に、ぴょんぴょんと軽やかにジャンプし始めました。
 ミニスカートが微妙にひるがえり、ブレザーの中でバストが波打っているのがわかりました。
 うわっ!可愛い!
 ジャンプに合わせて髪の毛がフワフワ揺れて、跳び方もいかにも女の子っぽい可憐さで、本当のアイドルさんみたい。

 しばし見惚れていると強い視線を感じ、部長さまが私をじっと見ているのに気づきました。
 私もあわてて、ほのかさまに合わせて跳ね始めました。

 思っていた通りでした。
 膝を軽く曲げて跳び上がると同時に、ペラペラの頼りないスカートが風を受け、おへそのところらへんまでフワリと舞い上がりました。
 当然のことながらショーツ丸出し。
 2度3度、ジャンプするたびに、面白いくらい大げさにスカートがはためきます。
 着地すると、腿の付け根辺りに辛うじて布の感触が戻ります。

 そしてついに、自分の目で確認出来てしまいました。
 銀色ショーツの正面下部、クロッチ部分で言うとほぼ全体、銀色の布地が濡れて黒く変色しているのを。
 私が、こんな恥ずかしいことをさせられながらもはしたなく感じて、淫らに濡れてしまっている決定的な証拠。
 私がマゾであることの証。
 目前に並んだ六つの瞳に、バッチリ視られている・・・・

 パンパン!
「はい、いいわ。ありがとう。どこか動きづらいところとか、あった?肩や袖が窮屈とか」
 私たちの動きを真剣に見つめていた部長さまが手を叩き、尋ねてきました。
「いえ、これといって・・・」
 ほのかさまが即答。
 内心ドキドキな私も顔を上下にコクコクうなずきました。

「今度は、ジャンプすると同時に両腕を上に挙げてくれる?こんな感じで」
 部長さま自ら、上半身だけでお手本を示してくださいました。
 パチン!
 小気味の良い拍手の音が響きました
 それはなんだか、コンサートの最後で両手を頭の上に挙げて、アンコール!ってやっているような動きでした。

「こうですか?」
 ほのかさまがすかさず、その場でやってみせてくださいました。
 ぴょんと跳び上がりながら水平に開いた両腕を左右から上げていき、ジャンプの頂点のときに頭上で拍手をパチンッ。
「そうそう。うまいわ」
 部長さまが満足そうに微笑みました。

「それと、森下さんは上着、取ってくれる?」
 突然、部長さまがおっしゃいました。
「えっと、はい?」
「Bタイプはステージ用で、ブレザーは最初の数曲で脱いじゃうのよ。ステージの大部分はインナーだけで踊ることになるから」
 あくまで真面目なお顔でご説明くださる部長さま。
「あ、はい。そういうことでしたら、わかりました」

 薄っぺらなブレザーを脱ぐと、ノースリーブのボディコンビスチェ風。
 大胆に開いた胸元からおっぱいの谷間が、ハーフカップのブラジャーの布まで見えそうなほど、これ見よがしに露出していました。
 両腕は腋まで丸出し、おっぱいの谷間丸出し、おへそ丸出し、両脚も付け根まで丸出し。
 それが今の自分の格好でした。
 そして私は、みなさまの前でそんな格好になることを、心地良く感じ始めていました。

「それではやってみて。いい?はいっ!ワンツー、ワンツー」
 部長さまの手拍子と号令に合わせて、ほのかさまと一緒に跳び始めました。
 跳ねるたびに丸見えになるショーツ。
 薄い布越しのバストも露骨なほど上下に跳ねています。

 更に、両腕を大きく動かしていると、上半身に貼り付いていたインナーの布がどんどん肌をせり上がって行くのがわかりました。
 おへそ上だった丈がウエストをせり上がり、お腹丸出しになって、遂にはアンダーバストのすぐ下あたりまでたくし上がってしまいました。
 
 まるでスポーツブラをしているみたいな見た目。
 伸縮性のあるピッタリ布地なので、一度せり上がってしまうとそこで留まったまま、自然には直りません。
 その分、胸元の布がたるみ、私の視界には、余裕の出来た隙間からハーフカップブラの浅めな布地まで丸見えになっていました。

 さすがにこれは直したほうがいいだろう、と思い、いったん動きを止めようとしたら、すかさず部長さまから鋭いお声。
「直しちゃだめっ!そのままでもう少しつづけて!」
 真剣な目で睨まれました。
「はいっ!」
 あわててほのかさまの動きに合わせました。

「おーけー。ちょっと止まって。森下さんはインナー直していいわ」
 部長さまのお言葉に、すばやく布地を引っ張って、お腹を隠す私。
 部長さまは何かコソコソ、リンコさまとご相談。

「今度は上半身の動きはさっきと同じ。ただし、ジャンプじゃなくて、拍手のタイミングで脚を左右交互に蹴り上げて見せて。いくわよ。はいっ、ワンツー、ワンツー」
 少し戸惑ったようなご様子だったほのかさまが、部長さまのリズムに乗って唐突にからだを動かし始めました。
「こんな感じでいいですか?」
 ほのかさまが再び、率先してお手本を見せてくださいました。
 
 拍手のタイミングでラインダンスのように右、左と交互に蹴り上がるしなやかなおみ足、ひるがえるスカート。
 真正面に陣取るお三方には、そのたびにほのかさまの純白ショーツが露になっていることでしょう。
 
 絶望的なのに、なぜだか甘美な被虐感が全身をつらぬき、私もいつしかほのかさまの動きに合わせていました。
 たちまちせり上がるインナー。
 全開になる両腿の付け根。

「うん、いい感じよ。もう少しテンポを上げてみましょう。ワンツーワンツー」
 部長さまの手拍子に合わせて、若干遠慮がちに脚を上げる私。
「森下さんはバレエ経験者でしょう?もっと高く脚を上げられるのじゃない?」
 手拍子を打ちながら部長さまが叱責するようにおっしゃいました。
 その目は真剣に私たちの動きを追っています。
「は、はいっ!」
 それにお応えするべく、もう、なるようになれ、という気持ちで、グランバットマンのように高く右脚を蹴り上げました。

 もはや絶対、完全に気づかれている。
 こんな短かい、スカートの役も果たしていないような布を腰に巻き、盛んに脚を高く振り上げている私。
 丸出しとなっているはずの銀色ショーツの布地に隠された、女性の女性たる部分。
 その部分を中心として外へと広がっているはずの黒い濡れジミ。
 こんなに至近距離で、これだけ高く脚を振り上げていれば、その異変に気がつかない人がいるはずがありません。

 それでも、部長さまもリンコさまもミサさまも、そのことについては何もおっしゃらず、真剣な表情で私たちの即興ラインダンスを凝視しつづけていらっしゃいました。
 ときどき何かメモを取り、私たちの前に回ったり後ろに回ったりしながら。
 私が脚を振り上げるたびに、そのシミは今もジワジワ広がっているはずなのに。

 両脚を激しく動かしているせいで、フルバックなショーツの後ろ側も、お尻の割れスジに沿って布地が集まってきてしまい、食い込むようなTバック状態になっていました。
 お尻の皮膚に当たる空気の感触が増えたせいで、それがわかりました。
 もちろん、前も食い込んできているはずです。
 結果、シミの範囲も広がって・・・
 そこまで考えたとき、ストップがかかりました。

「Bタイプのインナーは少しフィットさせ過ぎたかしら?」
「そうですね。でも、たくし上がりは、妙にエロティックで、見方によってはクライアントの要望に沿っているとも言えますよ」
「それはそうなのだけれど・・・確かもう少しルーズなタイプも作ったわよね?」
「その場合、襟ぐりや腋の余裕の調整が難しそうですね。隙間からポロリ問題が」
「Aタイプのほうは、問題無さそうね。スカートのひるがえり方もそこそこだし」
「重めにつくりましたから。あの程度のチラリなら、メディアでも許容範囲かと・・・」
「ミスリードさせたいなら、両タイプ共Tバック着用が必須のようね・・・」

 私たちに休憩を命じた部長さまは、リンコさまにミサさまも加わって、何やら真剣にディスカッションされています。
 私は急な運動で乱れた呼吸を整えるため、窓と窓のあいだの柱に背中を預けてうなだれていました。
 そこへ、こちらも少し息を切らせた感じのほのかさまが、お声をかけてくださいました。

「こんな衣装を着て歌って踊らなきゃならないなんて、アイドルさんて、意外と大変な職業なのね」
 顔を上げると、ほんのり火照ったような、ほのかさまの可憐な笑顔。
 私の顔を嬉しそうに覗き込んできます。
「あ、はい。私もそう思います・・・」
「わたしは、この衣装、すごく恥ずかしいわ。こんな超ミニ、私生活では絶対に穿かないもの」
 おっしゃってから私の下半身にチラッと視線を投げるほのかさま。

「でも直子さんが着ると、セクシーですっごくいい。やっぱり若いっていいな。肌もプルンプルンでうらやましい。プロポーションだって抜群だし」
 インナーのせり上がりで丸見えになっているまま直しそびれていたお腹を中心に、ほのかさまからの熱い視線を素肌に感じ、モジモジするばかり。
「そ、そんなこと・・・ほのかさんのほうがずーっとお綺麗ですし・・・」
「ここに入ってからいろんな衣装を着せられたけれど、今日のはかなりキワドイ部類。直子さん、よくがんばったわ」
 ほのかさまがニッコリと微笑み、イタズラっぽくウインクまでしてくださいました。

「それに直子さんて、お若いわりにずいぶんイロっぽい表情されるのね。隣で踊っているとき、横目でチラチラ見ながら見惚れちゃった」
「そ、そんな・・・」
「ううん。すごくいじらしいお顔だったわよ。なんだかギュッと抱きしめたくなっちゃうような」
 憧れのほのかさまのお言葉に何てお答えすればいかわからず、ただドギマギするだけの私。
「ねえ?ちょっとお腹、さわっていい?」
「えっと、あの・・・」

 そんな会話に、部長さまが不意に割り込んできました。
「はいっ、おつかれさま。Aタイプのほうには、大きな問題は無いみたい。たまほのはそのまま、休んでいていいわ」
 ほのかさまへ向いて、おやさしくおっしゃる部長さま。

「Bタイプのほうは、もう少し見てみたいの。悪いけれど、森下さんはもう少しつきあってください」
 部長さまがいつもの業務命令と同じ口調でおっしゃいました。
「は、はい・・・」
「上をこっちに着替えてくれる?」
 今着ているのと同じようなインナーを差し出されました。

「今のよりルーズフィットなサイズ。これに着替えてもう一度踊ってみて」
 私の顔を真正面から見つめて、無表情でおっしゃる部長さま。
「わかりました」
 その手から衣装を受け取り、部長さまの端正なお顔を見つめてうなずきました。
 部長さまの形の良い唇が、つづけて確かにこう動きました。
「今度はブラも取ってください」

「えっ!?」
 着替えようとインナーのジッパーに伸ばしかけていた指が宙ぶらりんに止まりました。
「ブラって、ブラジャー、も、ですか?」
「そう。ユニットの中に何人かノーブラを売りにする子もいる、っていう話なのよ。だからそっちの具合も見ておきたいの」
「は、はい・・・」
 突然の羞恥責め的なご命令に、とりあえずそう答える以外の言葉が出てきませんでした。


オートクチュールのはずなのに 31


0 件のコメント:

コメントを投稿