2016年7月24日

オートクチュールのはずなのに 52

 舞台袖までリンコさまが付き添ってくださいました。
 カーテンの陰から垣間見える会場が明るいことに、まずびっくり。
 
 さっきモニターで見たステージ、お姉さまがお話しされていたときは、薄暗い中にライトで照らし出されていたのに。
 今はステージ上もお客様がいらっしゃるフロアも、このビル階下のショッピングモール並に会場全体、電気が煌々と照っています。

「ず、ずいぶん明るいのですね?」
 思わず小声でリンコさまに尋ねてしまいました。

「うん。今はアイテムの前説だからね。お客様も配られた資料をご覧になっているから」
「このショーは、お客様にアイテムを実際に肉眼で見て検討していただく説明会的な位置づけだから。でもまあ演出で、たまに暗くなったりもするよ」
 リンコさまのご説明でなんとなく納得ですが、私としてはもっと暗いほうが気が楽なのに。

 この明るさでこのワンピース、ということは、両脇からおっぱいが覗けちゃいそうな乳首ツンの薄物一枚で、ショッピングモールを歩くのと同じこと。
 さらに、ここにいるお客様がたすべての視線を私だけに惹きつけて、ということになります。
 さっき楽屋で全裸が隠せた安堵感で頼もしく思えたエスニックワンピが急に頼りなく思えてきました。

「・・・ということで、準備が整ったようなので、そろそろショーに移りたいと思います」
 私たちから見てステージの向こう端。
 仲良く肩を並べて司会をされている、ドレス姿の綾音さまとスーツ姿の雅さま。

「それではアイテムナンバー1番・・・」
 雅さまが告げると、BGMがインド音楽っぽいエスニックな曲に変わりました。
 小気味よい太鼓の音に絡まるシタールの音色が、かなり大きめに響き始めます。
 そのあいだに綾音さまがリンコさまにアイコンタクトされ、リンコさまがジェスチャーでオーケーサイン。

「それでは、じっくりお愉しみください」
 雅さまのお声と同時にリンコさまが私の背中を軽く叩きました。
「ほら、お仕事開始。行っといで」
「は、はいっ」

 視線を前方一点に定め、軽くアゴを引いて背筋を伸ばすこと。
 足を前に出すのではなく、腰から前に出る感じ。
 体重を左右交互にかけ、かかっている方の脚の膝を絶対に曲げない。
 両内腿が擦れるくらい前後に交差しながら、踵にはできるだけ体重をかけない。
 肩の力を抜いて、両腕は自然に振る。

 ステージの真ん中へと歩くあいだ、やよい先生から教わったモデルウォークの要点を必死でおさらいしました。
 視線はまっすぐに定めていましたが、どこにも焦点を合わせないよう、敢えて周りを見ないように努めました。
 それでもぼんやりと、会場の状況はわかりました。

 ステージ中央から会場奥へとつづくレッドカーペットを挟んだ両側に、たくさんの方々が着席されているのがわかります。
 昨日並べられたお客様用の長テーブル席すべてが埋まり、更にその外側までテーブルと椅子が増えているみたい。
 50人くらいっておっしゃっていたけれど、なんだかもっといらっしゃる感じ。
 その視線のすべてが自分に注がれているのを肌で感じていました。

 ステージ中央の階段を下り、お客様が並ぶフロアに降ります。
 ここからは、赤い絨毯を一直線。
 お姉さまからのアドバイスに従って、一歩踏み出すごとに歩数を数えながら進みます。
 お客様を意識しちゃうと途端にパニクりそうなので、視界を極力ぼんやりさせたまま、前へと歩くことだけに集中しました。

 それでもやっぱり明るすぎるせいか、場内の雰囲気がわかります。
 私の両脇1メートルくらいの至近距離からジーっと私の姿を目で追ってくる目、目、目。
 ノースリーブの脇からきっと、横おっぱいが覗けているのだろうな・・・
 腕を振りながらテーブルをひとつひとつ通過するたびに、心臓のドキドキが高まっていきました。

 48、49.50・・・
 51歩めで、ランウェイの先端に到達。
 ふぅ、と一息ついた途端、場内の明かりがすべて消え、真っ暗になりました。

「おおっ」
 お客様の小さなどよめきが合図だったかのように、頭上前方から一筋のスポットライトが私めがけて飛びかかってきました。
 暗闇の中ですでに回れ右をしていた私は、真正面から眩し過ぎるライトを全身に浴びました。

「おおぉーっ!」
 さっきとは比べものにならないくらいの大きなどよめきが会場全体に広がりました。

「なお、本日のモデルを務めますのは、今回がショーモデルデビュー、期待のニューフェイス、夕張小夜です。皆様、盛大な拍手をお願いします」
 綾音さまのアナウンスにつづいて沸き起こる割れんばかりの拍手。
 ライトにひるんで少しのあいだ立ち尽くしていた私は、その拍手に促されるように、今度はステージへ向かって歩き始めました。

 1、2,3・・・
 私を中心にして直径2メートルくらいを照らし出しつつついてくるライトのおかげで、赤い絨毯を踏み外す心配はありません。
 場内のお客様がたは、まだ少しザワザワされていますが、会場が暗くなったおかげで私は幾分気が楽になりました。
 視線をステージに合わせてまっすぐ前を向き、モデルウォークを崩さないように慎重に歩きます。
 11、12、13・・・

 15まで数えたときに、ふっと場内に薄明かりが差しました。
 今まで真っ暗だったステージ向かって右側上の大きなディスプレイスクリーンが点灯したようでした。
 会議室によくあるホワイトボードよりやや大きめのスクリーン中央に、私の姿が映っていました。

 カメラはステージ上から向けられているようで、だんだん近づいてくる私のバストアップが、ほぼ正面から映し出されていました。
 そして驚いたことに・・・

 着ているはずのワンピースの布地が完全に透け切っていました。
 茶とグリーンのエスニック模様を身に纏っていたはずなのに、そのお洋服が忽然とどこかへ消え失せてしまったかのように、強い光にハレーション気味な白っぽい肌色の肉体だけがクッキリ映し出されています。
 
 シースルーなんていう生半可なものではなく、まるで最初からワンピースなんて着ていなかったかのよう。
 足を踏み出すたびにプルンプルン揺れるおっぱいの弾みも、布地に擦れてなおも尖ろうとしている硬そうな乳首のピンク色までハッキリとスクリーン上に曝け出されていました。

 ど、どういうこと???
 今、お客様から私は、こんなふうに見えているの?
 少し視線を落として自分の胸のあたりを見てみますが、確かにエスニック模様のワンピースをちゃんと着ていました。
 頭の中が真っ白になりました。

 スポットライトが当たった後、どんな状態になってもあわてちゃだめよ・・・
 出の前のリンコさまのお言葉の意味がわかりました。
 お言いつけ通り、ポーカーフェースに努めながら歩きつづけます。
 視界の右端に見えるスクリーンの中の自分の姿が気になって仕方ありません。

 歩むに連れてカメラがゆっくりと引いていき、スクリーン上には私の全身が真正面から映りました。
 どう見たって何も着ていない状態。
 両脚の付け根まで鮮やかに剥き出しです。
 全裸の女性が歩いているようにしか見えません。
 光の中の私の肉眼では、確かに布地が全身をちゃんと覆っているにも関わらずです。

 私今、ここにいらっしゃるお客様全員に全裸姿をご披露しちゃっているんだ・・・
 恥辱と愉悦が入り混じったような、何とも言えないマゾ的高揚感が背筋を駆け上ったとき、不意にスクリーンが消えました。
 最後に映っていた私の白っぽい裸身の全身像が残像となって、脳裏に刻み込まれました。
 同時にスポットライトが後方からに切り替わりました。

 私は、いつの間にかステージ手前までたどり着いていました。
 あとは階段を上がり、ステージ中央でポーズして楽屋に戻るだけ。
 一刻も早く楽屋に逃げ込みたい・・・
 でも、お姉さまのイベントをぶち壊しにすることは、絶対出来ません。

 動揺を悟られないよう、一歩一歩踏みしめるように階段を上がります。
 背後から私を照らし出すライトの中、お客様がたには、全裸の女が階段を上がる丸い剥き出しのお尻が見えていることでしょう。

 ステージに戻ったら正面を向き、数秒ほど何かポーズを決めなければなりません。
 ライトの中だとこのワンピは透けている、と、わかってしまった私にとって、ここでお客様に向き直る、という振る舞いは、自ら望んでもう一度みなさまに私の全裸正面姿をご披露する、という露出狂らしいヘンタイ行為以外の何物でもありません。
 スクリーンも消え、暗闇のステージ上に私だけが浮かび上がる中、ゾクゾクしながら思い切ってお客様に向き直りました。

 何かポーズ・・・
 向き直った途端、会場のすべての視線が私に集中したのが闇の中でもわかりました。
 右手を脇腹に当ててちょっと気取る感じ、ってリンコさまはおっしゃっていたっけ・・・
 思い出して右手を挙げようとしたら、自然と左手もついてきてしまいました。

 あぁん、どうしよう!
 と思う間もなく両手は脇腹を超え頭近くまで挙がり、両足は休めの位置。
 気がつくと自然に、両手を後頭部で組んだ、例のポーズになっていました。

 そのまま5秒ほど数えるあいだ、ステージ近くからフラッシュが二度三度、光りました。
 そこで場内の灯りが点き、最初のときのような明る過ぎる状態に戻って、割れんばかりの拍手。
 私はポーズを解き、そそくさと楽屋へ向かいました。

「うん。上出来上出来。最初とは思えないくらい落ち着いていたじゃん」
 楽屋へのドア前で見守ってくださっていたらしいリンコさまのバスタオルに出迎えられ、楽屋に入りました。

「お疲れさまー」
 ほのかさま、しほりさま、里美さまが口々にねぎらってくださり、鏡前に連れて行かれました。

「今の感じでいければ問題無いね。ただ、ウォーキングはもう少しゆっくりめがいいかな」
「ポーカーフェース、さまになってたよ。シースルーになってもぜんぜん動じない感じで、よかった」
「最後のポーズもナオコ、いや夕張さんらしかったね。決めポーズは全部あれでいいよ」
「やっぱりけっこう汗かいているのね。興奮しちゃった?拭いてあげる」

 どなたがどれをおっしゃっているのかわからないほど、頭の中が混乱しきっていました。
 今起こったことが現実だとは思えないほど。
 鏡に映っているのが自分なのかもわからなくらい、ボーッと放心状態でした。

 そんな私から手早くワンピースを脱がせ裸にし、次のアイテムを着せてくださるリンコさま。
 同じような生地で、今度はピチピチパツパツ、ボディコンシャスなエスニック柄マキシ丈かぶりワンピースを、もちろん素肌に直で。
 
 長袖でからだのラインがクッキリ浮き出ています。
 スタンドカラーがチャイナドレス風というかアオザイっぽいというか。
 スリットは膝くらいまでで、ちよっと歩きづらそう。
 何をどう感じたらいいのか、思考がぜんぜん定まらない頭で、そんなことを考えていました。
 
「この生地はね、うちと、とあるバイオ研究所との共同開発なの。暗いところで強い光が当たると本当に綺麗に透けるんだ」
 リンコさまが私の着付けを直しながら嬉しそうに教えてくださいました。
 しほりさまは、私の顔にくっつくくらいお顔を寄せて、アイラインを修正してくださっています。

「おお、小夜っちがボディコン着ると、やっぱかなりエロいね。とくにバスト周りが」

 リンコさまのお言葉で自分の胸元に目を遣ると、柔らかい生地が私のおっぱいそのままの形に撓み、肉感的に包み込んでいました。
 もちろん、ふたつの頂点は露骨過ぎるほど生地を派手に押し上げています。
 うわ、いやらしい・・・
 自分で思わず目をそむけちゃうほどの生々しさ。

「はい、スタンバイしてください」
 羞じらいを感じる暇もないほどのあわだたしさで、美里さまからのご指令。
 リンコさまに手を引かれ舞台袖でキューを待ちます。

「このアイテムもさっきのと同じ段取りね。ランウェイ端で暗転するから」
「さっき言ったみたいに、ウォーキングを少しゆっくりめに、音楽のリズムにノッた感じで。アイテムとその優秀な透け具合をじっくり見ていただかなくちゃ」
「このアイテムが終わったら、長めな着替え時間でちょい休憩取れるから、がんばって」

 そんなふうに教えてくださっているあいだに、早くも綾音さまからのゴーサイン。
 最初みたいな明るさに戻ったステージに、ボディラインクッキリのボディコン姿で立ちました。
 BGMは、オリエンタルなメロディのアフタービートが効いたミディアムテンポに変わりました。

 頭の中は、相変わらずしっちゃかめっちゃかなのですが、人前に出る気分はかなり落ち着いてきていました。
 たぶん、先ほどのステージ去り際にいただいた盛大な拍手が、効いたのだと思います。
 あ、私、みなさまから歓迎されている・・・
 それは、生まれて初めて味わった、と言っていいほど、とても気持ちの良いものでした。

 最初のアイテムの暗転の後、スポットライトを浴びた私は、自分では予想もしていなかった全裸姿を、お客様すべてに視られてしまいました。
 暗転してライトが当たった直後に起きたどよめきの意味を、スクリーンに映った自分の姿で知りました。
 そして、最後にステージでもう一度お客様と向かい合い、マゾの服従ポーズをご披露したときにいただいた大拍手。

 それを浴びて私は、お客様がたが私の味方だ、と思えたのでした。
 こんなヘンタイなのにみなさまが私に注目され、私の裸を視たがっていらっしゃる、ということが、とても嬉しかったのです。
 心の中の私のマゾ性=恥ずかしい姿を視られるという恥辱の悦び、が拍手という心強い援軍を得て、臆病な理性と常識を片隅に追い遣りつつありました。

 ボディコンおっぱいが露骨に揺れるのも構わずランウェイを一歩一歩踏みしめながら、お客様がたを見渡せる余裕が出来ていました。
 ざっと数えただけでも、確実に60名以上はいらっしゃるでしょう。
 お若そうなかたからご年配まで、色とりどりに着飾ったご婦人たちが私の動きを目で追っていました。

 ときどき見知ったお顔がいらっしゃるのにも気づきました。
 あそこにアンジェラさまと小野寺さま。
 こっちにはシーナさまと純さま、それに桜子さまも。
 カメラやビデオを構えているのはスタンディングキャット社の男性陣。

 お姉さまのお姿が見つからないな、と思ったとき、ランウェイの端まで来ていました。
 両手を後頭部に添えてポーズを取った瞬間、暗転。
 すかさずスポットライトの洗礼。
「おおっ!」
 どよめく会場。

 ポーズのまま回れ右。
 ポーズを解いて歩き始めます。
 まだスクリーンが映らないので、自分がお客様からどんなふうに見えているのかわかりません。

 今度のはボディコンだから、さっきよりいっそう生々しい全裸姿になっているのだろうな。
 そんな恥ずべかしい姿を、お久しぶりなアンジェラさまや純さまに視られているんだ。
 どうか私だってバレませんように・・・

 今のこんな状況を愉しむ余裕まで出てきたのか、そんなことをワクワク考えながら、さっきよりゆっくりめにランウェイを進んでいると、さっきと同じような位置で、パッとスクリーンが輝き出しました。
 そこに映しだされた自分の姿・・・

 今度は最初から全身が映っていました。
 でも、予想したような全裸姿ではありませんでした。

 首周りまで隠れたチャイナドレス、アオザイ風のボディコンマキシワンピのシルエット。
 そのバスト周りと下腹部周りだけが綺麗に透けていて、その他の部分はちゃんと隠れているんです。
 普通はひと様にお見せしてはいけない部分だけを誇示するように、あからさまにそこだけ、鮮やかに露出しているんです。

 真っ暗な中に浮かび上がる、一見、着衣姿の私。
 シルエットのコントラストで点々と白く浮き上がった私の顔と両手両足、そしておっぱいと股間。
 そんなにソコを見せたくて仕方ないの?って言いたくなっちゃうくらい、あまりにヘンタイな半裸着衣。
 予想を超えるふしだら過ぎる自分の姿に、被虐感と背徳感がギューっと凝縮され、それらが淫らな欲求へと姿を変えて下腹部をキュンキュン疼かせました。

 先ほどみつけたアンジェラさまたちの真横を通り過ぎました。
 これってやっぱり後ろから見たら、おっぱい裏の背中とお尻の部分だけ透けているのだろうな・・・
 喩えようの無い恥ずかしさがマゾマンコの奥を潤ませてきます。

 階段を上がってステージ上へ、スクリーンも消え、スポットライトが闇の中、私だけを照らし出します。
 楽屋に捌ける前に、この破廉恥過ぎる衣装にお似合いの、一番私らしいポーズをみなさまにご覧いただかなくてはなりません。

 クルッと回転してお客様がたと向き合います。
 ゆっくりと両手を後頭部へ。
 自分が今、みなさまからどんな格好に見えているのかを想像すると、羞恥にプルプル震えだしちゃいそうなほど。

 みなさま、どうぞじっくり、ヘンタイドマゾな私の恥さらしな姿をご覧くださいませ・・・
 心の中でお願いしながら、マゾマンコをみなさまに突き出すように少し弓反りになった服従ポーズで、ゆっくり5つ数えました。

 下腹部の透けた部分にじっと目を凝らしていたお客様がおられたなら、少しだけ開いた陰唇のほとりから零れ出た生温くも淫らな液体が左脚の内腿を伝って一筋、ツツツーッと滑り落ちていくのが見えたことでしょう。


オートクチュールのはずなのに 53


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