2017年4月23日

三人のミストレス 04


「あっ、いいなー。チーフと直子、ペアルックみたい」
 ミサさまとおしゃべりされていたリンコさまが私たちを見て、冷やかすようにおっしゃいました。

 足元はおそろいのスニーカー、ボトムはジーンズ、お姉さまはカットソーの上に薄手のシックなブルゾンを羽織ってらっしゃいましたから、ちょっと見では確かにペアルックぽくも見えるでしょう。
 でも実態は大違いでした。

 お姉さまは、大人カジュアルなジーンズにシックなカットソーとブルゾンを合わせたインフォーマルかつエレガントな装い。
 私のは、股上が浅すぎるスキニージーンズにからだのライン丸わかりのチュニック、プラス乳首隠しのボレロ、しかもNPNBというアブノーマルかつエロ過ぎる装い。
 何と言っても、私の首に赤い首輪が巻き付けられていることが、ふたりの違いを決定的に顕わしているはずです。

「直子のジーンズ、イベントのときの・・・」
 ミサさまがリンコさまに向けて、ボソッとつぶやかれました。

 途端にみなさまの視線が私の下腹部に集中してきます。
 チュニックの薄い布に覆われた内側の様子を、みなさまご想像されているのでしょう。
 その不躾な視線だけで私はもう・・・

「ちょっとそこで一回転してみて」
 綾音さまが、いつものお仕事でのご命令口調でおっしゃいました。
「あ、はい」
 バレエのターンの要領でゆっくり一回転。
 ボレロの布地が風を切って浮き、乳房がプルンと揺れました。

「からだのラインがずいぶんとクッキリ浮き出る布質ね」
「隠れているとは言え、生尻の形そのものが布地に直に響いていてエロティック」
「これは、直子じゃなければ着こなせないコーデよね」

 普段のミーティング中みたく、口々にご感想をつぶやかれるみなさま。
 それらを聞いて、ご満足気にうなずかれるお姉さま。

「うん、とても似合っていてよ直子。さ、みんな揃ったことだし、そろそろ向かいましょうか」
 綾音さまがご自分のお席から立ち上がり、みなさまを見渡しました。

「そうだね。早めに着いても、もう用意は出来ていると思うし。さーこママ、久々にワタシに会えるって張り切っていたから」
 雅さまがご冗談ぽく応えられました。

「スタッフみんなでの飲み会も、すっごい久しぶりよね。あたしも明日はオフだし、今日はとことん呑むぞー」
 お姉さまがおどけた調子でおっしゃって、みなさまガヤガヤとお席を離れゾロゾロと玄関へ。
 リンコさまがオフィスの戸締まりをされ、全員フロアに出ました。

 先頭をお姉さまと綾音さま。
 そのすぐ後ろを雅さまとほのかさまが仲睦まじく肩を寄せ合ってつづきます。
 リンコさま、ミサさま、里美さま、そして私とひとかたまりで、その後を追う形になりました。
 
 一歩踏み出すたびに、薄布一枚だけにくるまれたブラをしていないおっぱいがプルンプルン弾んで、尖った乳首がボレロの裏地に擦れます。
 そのたびに、自分が今しているはしたない服装を思い知らされ、マゾ性がぐんぐん高まってしまう私。

 フロアにまったく人影は無く、このフロアの退社時刻のピークは去ったようでした。
「ねえねえ、ちょっとそのニット、めくってみせてよ」
 イタズラっ子なお顔をされたリンコさまが、歩きながらちょっかいをかけてきました。

「えーっ、ここでですか?」
 エレベーターホールへ向かう道すがら、別の会社のドアの前を通り過ぎたところでした。
「大丈夫、今このフロアにはうちらしかいないじゃない」
 おっしゃりながら右腕を私の下半身に伸ばしてくるリンコさま。

「あ、いえ、わかりました。自分でめくりますから」
 その右腕を腰を引いて避けつつ、ちょっと後ずさる私。

 歩きながらチュニック両脇の布を指でつまみ、おずおずと引き上げました。
「おおっ、あらためてこういう場所で見ると、めちゃくちゃエロいね、このジーンズ」
 リンコさまのはしゃぐお声にミサさまもご感想をポツリ。
「直子が穿くから許せる仕様。もしもヘアがもじゃもじゃだったら下品になり過ぎる」

 フロアに煌々と灯る照明を浴びて、私の無毛な恥丘がツヤツヤと露になっていました。
「お尻もほとんど生々しく出ちゃってる。ほんと、えっちなジーパンだこと。いったい誰がデザインしたのかしら」
 私の後ろを歩く里美さまが、リンコさまに向けてからかうようにおっしゃいました。

 チュニックは伸縮性のあるぴったりフィットのニット生地ゆえ、一度ずり上げると裾が腰で留まったまま、指を離しても自然に元に戻ってはくれません。
「あの、もう直していいですか?」
 そろそろエレベーターホールへとつづく曲がり角です。
 エレベーター前でどなたか別の会社の人が待っているかもしれないと思い、リンコさまに裾を戻すお許しを乞いました。

「だーめ。せっかくなんだから、せめてエレベーターまで、名も知らぬ某天才パタンナーがパターンを引いた傑作エロジーンズの出来栄えを堪能させて」
 リンコさまからおどけた口調でダメ出しされ、恥丘とお尻ほぼ丸出しのままエレベーターホールのほうへと曲がりました。

 前を行くお姉さまと綾音さまに、雅さまとほのかさまが追いつかれ、4人で愉しげに談笑されているお背中が見えます。
 そのお背中の更に奥のほうへと目を凝らすと・・・

 よかった、エレベーター前にも誰もいないみたい。
 ホッとしていると、ずっと私の左横を歩かれていたミサさまからお声がかかりました。

「そのニットって、ベアトップなんだ?」
「えっ、そうなの?」
 すかさずリンコさまが反応され、私のボレロの前布をペラっとめくりました。
 白っぽいベージュの薄布ニットに包まれた私の右おっぱいが覗きました。

「ああ、確かにチューブトップ。ノーブラなの丸わかり、ということは、ニットをズルっと下に引っ張ったらおっぱいポロリじゃん」
 愉しそうに私の顔を覗き込むリンコさま。
 社外の人がフロアに居ないのをいいことに、今にもそうされるのではないかとビクビクの私。

「さすがチーフのコーデよね、用意周到サービス満点じゃない?」
 リンコさまは、そうおっしゃっただけで行動には移されませんでした。

 チーフ、というお言葉が聞こえたのでしょう、前を歩かれていたお姉さまが振り返りました。
 恥丘剥き出しローライズで歩かされている私を見てニヤッと笑っただけで、すぐにみなさまとの会話に戻られました。

 そうこうするうちにエレベーターホールに到着。
 私はまだ、傑作ローライズエロジーンズのギリギリっぷりを、世間様に知らしめる格好のままにされています。
 私を取り囲むようにエレベーターを待つスタッフのみなさまが、時折気がついたように、剥き出しのお尻や恥丘に視線を走らせてきます。

「エレベーター乗ってもこのままでいけるかな?」
「監視カメラが付いているからヤバイんじゃない?管理室のおじさんたちに見られちゃうでしょ?」
「でも、カメラって上からだから、下半身はよくわからないんじゃない?まがりなりにも両脚にジーンズは穿いているわけだし」

 わざと聞こえるようにおっしゃっているのが丸わかりな、リンコさまたちの愉しげに無責任なおしゃべり。
 お姉さまに、助けて、と縋りたいのですが、お姉さまは綾音さまとの会話に夢中。

 ピンポーン。
 エレベーター到着の電子音が鳴り、私は裾を直すことを許されないまま、開きつつあるエレベーターのドアのほうへ、仕方なく一歩踏み出しました。

 そのとき、後ろから引っ張られるような感覚がして、スルスルっとチュニックの裾が直されました。
 振り向くとほのかさまのおやさしい笑顔。
 そのまま背中を押されるようにエレベーターに乗り込みました。

 乗った途端にギクッと冷や汗。
 エレベーター内に、すでにおふたりの先客さまがいらっしゃったのでした。

 おそらく私たちより上の階のオフィスのかたたちなのでしょう。
 私とそう年令が変わらなそうなOLさんとスーツ姿の30代くらいの男性。
 私たちが入って行くと、操作パネルのほうにおふたりで移動しながら小さく会釈してくださいました。

 ほのかさまは、エレベーター内に先客がおられることに目ざとく気づかれ、素早く私の裾を直してくださったようでした。
 あらためてほのかさまのほうを見ると、私と目が合ったほのかさまは、ニッコリ笑われウンウンよかったね、という感じで2回うなずかれました。

 もしもあのままの格好でエレベーターに入っていたら・・・
 裾が戻る前の私は、あまりにインパクトの強すぎる姿でしたから、先客のカップルさんも唖然とされたことでしょう。

 こういう下世話な出来事は、広まるのが早いのが世の常。
 カップルさんの所属する会社で噂になり、やがてビル中に・・・
 あのビルのエレベーターに下半身露出女が出没するらしい・・・
 私たちが乗ってきた階もわかっていますから、まずお姉さまの会社が特定され、すぐに私も特定されて・・・
 
 現実的でネガティヴな妄想がどんどん膨らみました。
 ほのかさまの咄嗟の機転にひたすら感謝するしかありません。

 エレベーターは、数階ごとに止まっては幾人かのビジネスパーソンをお乗せして降りていきます。
 いつの間にか20数人乗りのエレベーターがほぼ満員となっていました。
 
 私が立っているのは、箱中央の大きな鏡の前。
 たくさんの人影と一緒に、自分の全身が曇りひとつない鏡面に映し出されていました。
 否応無しに今の自分の服装と向き合わされる形でした。

 チュニックの裾さえきちんとしていれば、ボレロもちゃんとバストを隠してくれているし、ありふれたごく普通の格好、いえ、むしろオシャレと言ってもいいコーディネート。
 赤い首輪さえ、コーデの一部としてキッチュなアクセントになっているはず・・・
 そう思い込もうとしましたが、私の内面がそれをせせら笑っていました。

 何言ってるの?
 あなたは、その薄い布の下はノーパンノーブラで、おまけにマゾドレイの証である首輪まで巻かれているのよ。
 これから連れて行かれるお店で何をされるのかゾクゾクして、シーンズの股まで湿らせちゃってるクセに。
 よくもまあ、そんな澄ました顔をしていられるものよね。

 まわりのみなさまが一様に、ビジネスパーソンらしいカッチリとした服装をされている中で、私の首を飾る赤い首輪はあきらかに異質でした。
 こんなにたくさん人が乗っているのに、エレベーター内は終始無言。
 乗り込んでいるみなさま、とくに男性の方々の目が、チラチラと私の首輪を盗み見されているのが、鏡越しにはっきり見て取れました。

 ピンポーン。
 私的にはすごく遅く感じたエレベーターでしたが、実際には多分、乗り込んで一分ちょっとくらいで1階へ到着しました。

 扉が開くなり耳に飛び込んでくる喧騒。
 週末の午後6時過ぎ。
 お買物のお客様とアフター5の人波とが重なる、建物内に人が一番多い時間帯かもしれません。

「まだちょっと時間が早いから、ウインドウショッピングでもしながら、のんびり行きましょうか」
 なるべく人がいないところを歩きたいと思っている私の気持ちを、絶対ご存知なはずなお姉さまからのイジワル過ぎる一声。

 隣接するショッピングモールへとゾロゾロ移動するみなさまに、黙ってついていくしかない私。
 もちろんショッピングモールには、老若男女、たくさんの人たちが賑やかに行き交っていました。

「やっぱり首輪って人目を惹くんだね。直子、エレベーターでジロジロ見られてた」
「見るからに犬用って感じだもんね。アクセって言うよりプレイ用って感じで」

「SM好きのオトコなら大悦びしちゃうんだろうねー。おっ、マゾ女発見、みたいな」
「直子の首輪見ながら、オレならこう責める、とか妄想逞しくしちゃって」

「SMプレイだと思われたとしたら、アタシらが虐めてる側って見られちゃうよね」
「まあ、実質そうなんだけれど、なんか心外だな。直子が望んでいることをしてあげているだけだもの」

「あとほら、罰ゲームって思われたりも。最近えげつない罰ゲームさせる飲み会とかOLのあいだでも流行っているんだって」
「だったらもっとエロっぽい格好させてもよかったかもね。リードも付けちゃったり」

 リンコさまたちのわざとらしいお言葉責めを、聞こえないふりの私。
 この首輪もファッションアクセのひとつとして着けているんです、と傍から見えるように、お澄まし顔のモデルウォークを心がけて歩きます。
 ただ、これまでのあれこれで私の理性は、滾るマゾの血に胸中深く押し流されつつありました。

 お店でショッピングを楽しまれる人たち、最寄り駅へと家路を急ぐ人たち。
 すれ違うたびに、無数の好奇の視線が自分に注がれているように感じていました。

 首輪でマゾと看過され、不自然なボレロやチュニックのシルエットで露出狂と断定され・・・
 今私が、自分でこの裾をめくってしまったら、この平穏なモール内はどんな騒ぎになっちゃうのだろう・・・
 そんな不埒な妄想が浮かび、あわてて打ち消します。

 不意に横に並んでこられた里美さまにお声をかけられました。
「こないだの耽美研の子たちね、学校が夏休みに入る前にもう一回来るって」
「えっ?」

 すぐにはおっしゃることの意味が掴めなかった私。
 耽美研?・・・あ、ショールームの!
 やっと意味がわかり、カーッとからだが火照りました。

 先月、うちのネットショップのお得意様向けショールームで、私の痴態の限りを目撃された女子大生のお客様お三かた。
 そのかたたちがまた、私に会いたいということなのでしょう。

「学校でこないだのこと話したら興味あるっていう人がけっこういて、今度は6、7人になっちゃうかもだけれどいいですか?って聞かれたの」
「もちろんわたしの答えはイエス。ただし、ひとり何かしらひとつ買っていってね、って条件は付けたけれどね」
 イタズラっぽく微笑まれる里美さま。

「彼女たちが候補に挙げてきた日付の内のひとつがちょうど、こないだ言っていたスパンキングマシーンの試作品納入予定日の一日後だったのよ」
「マシンが納入されたら、動作テストで直子を呼ばなきゃな、と思っていたからグッドタイミング」

「彼女たちも直子に何かして欲しいことがあるみたいだけれど、ついでにみんなの前でマシンにお仕置きされているところも見てもらえるのよ、嬉しいでしょ?」
 里美さまのお話に、リンコさまとミサさまも聞き耳を立てているご様子。

「倉島さんて子、覚えてる?」
「はい。お三かたの中で一番ご熱心だった、確か小説を書かれているとかいう・・・」

「そう。彼女が直子にぞっこんなんだって。あの辛そうに歪む切なげな顔が忘れられないって」
「えっ?」

 倉島さまというかたには、お三かたの中でも一番エムっぽい雰囲気を感じていました。
 ロープでの自縛実演見学をご所望された言い出しっぺのかたとお聞きしていましたし、セルフボンデージのタイマープレイも一番やりたがっていらしたし。
 
 私を虐めたことで、エスに目覚めちゃったのかな?
 意外な気持ちで里美さまにお尋ねしました。

「つまり、倉島さまが、私を辱めることに一番積極的になっておられる、と?」
「ううん。逆。彼女、直子が虐められているのを見て、本来持っていたマゾ性に拍車がかかちゃったらしいの」
 ご愉快そうにおっしゃる里美さま。

「彼女、あの日の直子を思い出しては、同じような責めで自虐して、毎日自分を慰めているみたいよ。お仲間にも手伝ってもらって、お尻虐めてもらったり」
「大学でも、かなりキワドイ露出プレイとか愉しんでいるみたい。彼女の下のヘアは、ヨーコさんがノリノリで全部剃っちゃったんだって」

「耽美研自体がどんどんエロい百合サークルになってきちゃったらしいわ。彼女の学内露出プレイを目撃した人が何人か、新入部員になったり」
「こないだのメールにも、あの日の直子さんは本当に綺麗だった、自分もそうなりたい、って。あなた、彼女に理想のマゾ女として崇拝されちゃっているのよ」
 からかうような里美さまのお言葉。

「だから次のショールームは、直子と一緒に倉島さんも虐められちゃうことになるんじゃないかな。良かったじゃない?直子にマゾ弟子第一号が出来たのよ」
 
 思いがけないお話でした。
 自分と同じ性癖の人と、一緒に辱められる・・・
 それはまだ体験したことの無い、新しいシチュエーションでした。

 あられもない格好で拘束された私と倉島さま。
 そのふたりを容赦なく陵辱してくる幾人もの手やお道具・・・
 その中には必ず、お姉さまもいて欲しい、と切実に思いました。
 お姉さまと一緒に、新しい体験を分かち合いたい、と。
 
「へー。それ面白そう。アタシらも参加したーい」
 横からお口を挟んでくるリンコさま、そのお隣でうなずくミサさま。

「それは上の人次第ね。この話、まだ早乙女部長には通していないから」
「ということは、お姉さま、あ、いえ、チーフもまだご存じないのですか?」
 気になったことが、すんなり口から出ていました。

「うん。でもそれは気にしなくていいんじゃないかな。あの人が、そんな面白そうなことにノーって言うわけないもの」
 
 里美さまがイタズラっぽくおっしゃったとき、ちょうどモールの出口ドアをくぐり、建物からお外へ出ました。





2017年4月16日

三人のミストレス 03


 今年の春、入社前にお姉さまに誘われてオフィスでやった、面接ごっこ、のことを思い出していました。
 あのときも私は、全裸でこの女子トイレに放置されたのだったっけ。

 でも、あのときは土曜日の夜更けで、同じフロアにまったくひとけが無い状態でしたから、放置されてもずいぶん気が楽でした。
 そのあとも全裸のままフロアに出され、オフィス前の廊下で全裸オナニーまでさせられるくらい、ひとけが無かったのですから。

 だけど今日は平日で、今はちょうど一般的なオフィスの退社時刻です。
 お姉さまは、女子トイレを使う人は、このフロアにはほとんどいないみたい、とおっしゃっていましたが、ご来客様とか、万が一ということがあります。

 もし、そうなってしまったら・・・
 限界へと近づきつつある大腸への苦痛に、破滅を予感させる被虐が加わり、全身が小刻みに震えてきます。
「あぁうぅ・・・お姉さまぁ・・・」
 思わず懇願の呻きが洩れてしまった、そのとき・・・

 カタッ。
 おトイレ入口のほうから、小さく物音が聞こえました。
 ドキン!
 私の全身が大げさに震えました。

 お姉さま?
 全身を耳にして聞こえてくる音に集中します。

 ヒュー、バタン。
 扉が開いて閉じる音。
 カツン、カツン。
 ヒールが床を叩く音・・・

 えっ!?ヒール?
 今日のお姉さまはジーンズだから、確かスニーカーを履いていらっしゃったはず。
 ま、まさか・・・
 あ、でも、夜のパーティのためにオフィスで着替えていらっしゃったのかも・・・

 そこまで考えたとき、怪訝そうなくぐもった女性のお声が聞こえました。
「うわっ!」
 おそらく私が個室から突き出している剥き出しのお尻に気づき、たじろがれたのでしょう。

 その低いお声に聞き覚えはありません。
 万事休す。
 頭の中が真っ白になりました。

 しばしの沈黙の後、カツンカツンとヒールの音がこちらに近づいてきました。
 私は便器の前の床タイルを舐めるように突っ伏して、お尻だけ突き上げている姿勢なので、近づいてくる人を見ることが出来ません。
 だけど気配で、おそらくその人はお姉さまではないと感じました。

 ああ、もう私はこれで終わり・・・
 女子トイレに素っ裸の変質者がいた、ということで、ビルの管理室に通報され、ケーサツに通報され・・・
 ビル中、街中の噂となり、お姉さまの会社からも追放され、両親にも報告されて・・・
 羞恥と屈辱と激しい便意とが絶望という名のもとに収束し、目尻に涙が溢れてきました。

 カツン。
 私のお尻のすぐそばで止まった足音。
 ピシャン!
 すぐに右の尻たぶに痛みを感じました。
「あぅっ!」
 想定外突然の打擲に思わず声が出てしまいました。

 ピシャン!バチン!バッチン!
 それからその人は、矢継ぎ早に私のお尻をスパンキングし始めました。
「あ、いやっ、うっ、あうっ・・・」

 突然始まったお仕置きに便意と恐怖が一時的に引っ込み、身悶えし始めてしまう私。
 皮膚と皮膚がぶつかり合う、拍手のような小気味よい音が、女子トイレ内に響きます。
 どうやらその人は、素手で私のお尻を叩いているみたい。

 床にひれ伏した顔を捻じ曲げて、私のお尻を打擲している人を見ようとします。
 でも視界にかろうじて入るのは、その人が履いているベージュのハイヒールと華奢な足首だけ。
 その足首を見て、その人がお姉さまではないことは、確定しました。

 その人は、私のお尻を打つたびに低く小さなお声で、何事かつぶやかれていました。
「このヘンタイオンナ・・・ロシュツキョウ・・・インランマゾ・・・ベンジョオンナ・・・」
 罵られるたびに私のマゾ性がわななきます。

 同時にひとつの光明が見えてきました。
 この人がこうして私をいたぶっているということは、こういう性癖にご理解のあるかたなのかもしれない。
 現に今もこうして、どこかに通報するでもなく、私を虐めてくださっている。
 その代わり、私が言いなりになるべきご主人様が、またおひとり、増えてしまうことになるでしょうけれど・・・

「あーあ、直子、こちらのかたにみつかっちゃったんだ?」
 不意にすぐそばで、お姉さまの愉しそうなお声が聞こえました。
「あっ、お姉さまぁ?」
 そのお声が耳に届いた途端、全身の緊張がふっと解けました。

「ごめんなさいね、みっともないものお見せしちゃって。これ、うちの社の性的おもちゃなの。インランマゾペット」
「ちょっとお仕置きで、ここにまっ裸で浣腸放置していたんですの」
 お姉さまが、私のお尻を叩いてくださった人に弁明されているようです。

「ああ、そうなんですか。トイレに入ったら肛門に栓した裸のお尻が転がっていて、びっくりしちゃいましたよー。おほほほ」
 シナを作ったような気取ったような、聞き覚えのないお若めなお声がお応えされました。

「それで直子、ちゃんと漏らさず我慢してた?」
「は、はいぃ・・・」
「もちろんマゾマンコ弄ったりしてないわよね?」
「は、はいぃぃ」
「あ、でもこちらのかたにお尻はたいていただいたのでしょ?ちゃんと御礼は言ったの?」
「あ、いえぇ・・・」

「だめじゃない!」
 ピッシャン!
 お言葉と同時に強烈な一撃が左尻たぶをヒット!

「あ、ありがとうございますぅ・・・直子のお尻を虐めてくださって、ありがとうございましたぁぁ・・・」
 床にほっぺたを押し付けながら、ハアハア喘ぎながら御礼の言葉を叫びました。

「あん、そ、それで、お姉さまぁ?」
「何?」
「わ、私、もうげ、限界ですぅぅ・・・お、お腹がや、破れちゃいそう・・・」

 お姉さまのご登場でホッとすると同時に、猛烈な勢いで便意が膨らんでいました。
 アナルプラグが無かったら、すでに無残に垂れ流してしまっていたでしょうほどに。
「もう、だ、出して、出してもいいですか?」
 お腹から下肢までが別の生き物のようにフルフル震え始めています。

「仕方ないわね。見物の人も居ることだし、直子の浅ましい姿をじっくり視ていただきなさい」
 心底ご愉快そうなお姉さまのお声。
 ああ、そうでした。
 今このおトイレにいるのは、お姉さまだけではないのでした。

 私がこれまで、大きいほうの排泄姿を目前でご披露したのはお三かただけ。
 やよい先生とシーナさま、それにお姉さま。
 どなたともそれぞれ、かなり深いおつきあいをさせていただいた上での痴態でした。

 でも今は、どこのどなたとも知らないかたにまで視られてしまう・・・
 女として、なんて恥ずかしく、おぞまし過ぎる屈辱。
 
 そんなことを考えるのですが、事態は切羽詰まっていました。
 お腹の内側を捩るように、液体がグルグル蠢いていました。
 一刻も早く、このお腹の苦痛を解放したい・・・

 なまじ知っている人に視られるより、今日この場だけのご縁の人のほうが気が楽かも。
 お姉さまがいることだし、この人のことはお姉さまがなんとかしてくださるはず。
 そう思うことにして、急いで床に両手をついて立ち上がりました。

 間髪を入れず便座に腰掛け、前に向けた視線でお姉さまのお姿を探します。
 開いたドアからお顔を覗かせる、白衣を羽織ったお姉さま。
 そのお隣には・・・

「あっ!」
 びっくりし過ぎて思わず口を大きく開けたまま固まってしまいました。
「里美さま・・・だったのですか?」
「あれ?なんだ直子、気づいてなかったの?知らない人だと思ってたんだ?」
 お姉さまが嬉しそうにおっしゃいました。

「あたしがちょうどトイレから出たら、里美とバッタリ会ってさ、直子をトイレに裸で放置しているから、からかっていいよ、って頼んだのよ。里美だってバレないように・・・」
 お姉さまが可笑しそうにご説明くださいますが、私はそれどころではありませんでした。
 
 お姉さまのお言葉を遮るように懇願しました。
「あう、お姉さまっ、出ます、出しますぅ、出していいですかぁぁ」
 便意が限界まで迫り、もはや一刻の猶予もありませんでした。

「いいわよ。自分でプラグ抜いて、思う存分出しちゃいなさい。里美も視てるわよ」
 お言葉が終わらないうちに右手がお尻に伸びていました。
 アナルプラグの持ち手に指をかけるのももどかしく、引き抜きます。

 絶望的な破裂音、止まらない水しぶき、ただよい始める淫臭。
 薄い笑みを浮かべてこちらを凝視されている里美さまと目が合ったとき、とてつもない羞恥と屈辱が全身を駆け巡りました。

「いやーっ、視ないでぇ、だめぇーっ!」
 心の底からの恥ずかしさに思わず、マゾドレイらしからぬ言葉を叫んでいました。
 両方の目から、大粒の涙がポロポロこぼれました。
 
 それでも鳴り止まない恥辱の水音。
 私の顔と下半身を交互に見遣り、ニヤッと笑われる里美さま。
 ゾクリ・・・
 しゃくりあげながらも、得も言われぬ甘美な痺れが下半身に広がりました。

 やがて水音が落ち着き、おトイレ内に静寂が訪れました。
 すべてを吐き出した私は、小さくイッてもしまったみたい。
 便座に腰掛けたまま、ぐったりうなだれていました。

「あークサいクサい。ほら直子、早く流しちゃいなさい」
 咎めるお声に顔を上げると、お顔をしかめたお姉さまがお鼻をつままれる仕草をされていました。
 カーッと火照った私は、あわてておトイレのお水を流しました。

「ビデで綺麗に洗って、お尻とプラグもね。オフィスに戻って出かける準備するわよ」
 お姉さまがバスタオルを差し出してくださり、私は急いでお尻シャワーのスイッチを押しました。
 お尻とマゾマンコを満遍なく洗ってから立ち上がり、バスタオルで全身の汗ともども丁寧に拭います。

 パウダールームまで全裸で連れて行かれ、絞ったタオルでもう一度全身を拭いた後、白衣を羽織りました。
 鏡に映った白衣の白に、赤い首輪がいっそう目立っています。
 私の名残で茶褐色に汚れたアナルプラグも丁寧に水洗いして、白衣のポケットに。

「直子、本当にわたしだってわからなかったの?」
 里美さまがイタズラっぽく尋ねてきました。
「はい。お声が違っているような気がして・・・」
「そりゃあ、わたしもバレないようにわざと声音変えていたからね。でも、それにしてはスパンキングしたとき、ずいぶんと嬉しそうだったじゃない?」
 
 そこで意味ありげに区切りを入れた里美さま。
 私の顔を覗き込んでイジワル声でつづけました。

「直子って、虐めてくれるなら誰でも受け入れちゃうんじゃない?」
「いえ、そんなことは・・・」
「そうね。確かにそういうとこあるわよ、この子」
 私の弁明を遮ってお姉さまがおっしゃいました。

「そこが直子とアソンで面白いところでもあるし、心配なところでもあるのよ」
 お姉さまがおっしゃりながら、私がキチンと留めた白衣のボタン4つのうち、胸元だけ残して全部外してしまいました。

「まあ、あたしを困らせるようなことを直子はしない、って信じているから。あたしの目の届く範囲なら、誰に嬲られてもあたしは気にしないわ、むしろ嬉しいかな」
 おやさしいような冷たいような、お姉さまのお言葉に、私はフクザツ。

「そうだ。わたしもおトイレしたかったんだ。すっかり忘れちゃった」
 あわてて個室に駆け込んだ里美さまがお出になるのを待って、三人で連れ立って女子トイレを後にしました。

 フロアに出た途端、遠くからお話し声。
 6時前の退社ピーク時間ですから普通のことなのですが、私はドッキン。
 
 廊下のずっと奥のオフィスから、ご中年ぽい男性社員さん3名が連れ立って出てくるのが見えました。
 お姉さまと里美さまの陰に隠れるように、白衣の合わせをギュッと握ってついていく私。
 男性3名は、エレベーターのほうへ曲がるまでずっと、こちらを凝視したまま歩いていました。
 お姉さまと里美さまが容姿端麗妙齢美人さんですから、無理もないことではあるのですが。
 
 こんなふうに第三者が普通に過ごしている日常的な風景に身を置くと、今さっきまで女子トイレでしていた行為のアブノーマルさが際立ち、私の白衣の下が全裸なことや、ボタンをひとつしか留めていないことが、凄く破廉恥なことなんだと、あらためて思い知ります。

 オフィスに入ると、みなさますっかり着替えもメイクも終えて、お出かけの準備万端。
 メインルームの思い思いの場所で雑談されていました。

「あー。サトミンお帰りー。ついでに直子もお帰りー。ずいぶん長いおトイレだったねー」
 すかさずリンコさまがからかうようにお声をかけてきました。

「ああ、ごめんごめん。もうすぐ6時か。ちょっと待っててね。急いで直子を着替えさせるから」
 お姉さまがおっしゃるなり私の白衣を剥ぎ取り、全員の前で真っ裸。

「うひゃー。直ちゃんのお尻、真っ赤っかに腫れ上がってるー。またチーフにお仕置きされちゃったんだぁー」
 雅さまの冷やかすお声につづいた、みなさまの、あはは、という笑い声を背に受けつつ、お姉さまに右手を引かれ、社長室に連れ込まれました。

「今日のパーティはある意味、直子も主役なのだから、スペシャルコーデを用意したのよ。さ、おめかししましょう」
 お部屋に入るなりクロゼットに向かったお姉さまが、次々にお洋服を出されます。

「まずボトムは、これね」
 イベントショーのときに穿いた、ウルトラ超ローライズのスリムジーンズでした。
 
 あの、ほとんど股上が無く、フロントは恥丘丸出しで性器のスジ覗き始めから、バックはお尻の穴がギリギリ隠れるくらいだけしか覆ってくれない、例えて言うなら、腿までのストッキングをそのまま右左縫い付けて、股上として幅数センチの腰周りをくっつけた、という感じのジーンズ。

「あの、下着は、無しで、ですか?」
 このジーンズでショーツを穿いても、九割方ショーツが露出しちゃうでしょうけれど。

「もちろんよ。穿いたってパンツ丸見えになっちゃうじゃない、みっともない。ノーパン、直穿き」
 やっぱり。

「安心して。それで土手とお尻見せびらかして街を歩きなさい、なんて言うほど、あたしも鬼じゃないから」
 愉快そうにおっしゃったお姉さまが次に取り出したのは、柔らかそうな白っぽいベージュの布。
 広げて見るとボディコンシャスなチュニックのようです。

「それをかぶれば、下半身は腿の真ん中、膝上20センチくらいまでは覆われるはずよ」
 広げた形を見ると袖が無い・・・ノースリーブ?
 あれ?襟口がゴムですぼまっている・・・

「えっと、これも、ノーブラで、ですよね?」
「あたりまえよ。それ、チューブトップだもん。直子の体型にピッタリのはずよ」
 チューブトップなら、ブラ紐が出ちゃうのは確かに無粋です。

「今日の直子は、珍しく下着を着けたがるのね?何?みんなで外にお出かけだから恥ずかしがっているの?」
 からかうようにおっしゃるお姉さま。

「下着を着けたって、どうせ直子はすぐ脱がされちゃうじゃない?我が社であなたは、そういう身分なのだから」
 蔑むような冷たいお言葉で締め括られました。

 おずおずとチュニックをかぶってみます。
 バストの膨らみ始めで留まった布地は、確かに両腿の半分くらいまでを覆ってくれました。
 
 ウエストから下は幾分余裕がありますが、両腋からおへそくらいまではピッチピチ。
 私のおっぱいが、まさしく同じ形の曲線を描く薄い布地でくるまれました。
 もちろん尖ったバストトップもこれ見よがしに。

「お、お姉さま?」
 着ても着なくても同じみたいな、卑猥なカーブを見せる自分の胸元に目を遣りながら、お姉さまに縋り声。
「うわー、いやらしい。おっぱいの形まんま、出ちゃってるわね」
 嬉しそうなお声が弾んでいます。

「まあ、それで外歩いても、一応服は着ているのだからハンザイにはならないでしょう」
「ええーっ!?」
「ただ、オトコたちの目は釘付けでしょうね。女性からは絶対、露出狂のヘンタイ淫乱女って思われるでしょうし」
 おっしゃりながらもう一枚、何か衣装を出してきました。

「でも、うちの会社の品位を疑われちゃうのもアレだから、これを上に羽織っていいわよ。まだ外、明るいしね」
 差し出されたのはジャケットらしきフォルムでした。
 でも、あれ?

 長袖で若草色の薄い生地、フォルムは普通の前合わせブレザーなのですが、丈が異様に短かいのです。
 おへそのはるか上、アンダーバストギリギリくらいの丈。
 つまり、一般に言うボレロ。

 大急ぎで着てみると前合わせのボタンは無く、普通のブレザーをVゾーンの途中からちょん切ったような形。
 それでもボレロの前布がちょうどおっぱいにかかり、乳首の尖りも危ういながら覆ってくれました。
 背中で言うと、上部三分の一程度を覆う丈。

 最後にお姉さまとお揃いの濃紺のスリッポンスニーカーを履かせていただき、モデルポーズで立つように命じられました。
「うん。なかなかいいわ。これで外に出ても公序良俗に反する部分はまったく見えていないわよね」
 私の姿をまじまじと視て、ご満悦なご様子のお姉さま。

 お姉さまはご満悦でしょうが、着ている私はかなり心許ありません。
 薄い布一枚めくれば、恥丘丸出しジーンズの下半身。
 ボレロが風にはためいたら形ごと露わになる、薄布一枚だけの上半身。
 そんな姿でこれからオフィスを出て、パーティ会場のお店まで街中を歩いて行くのです。

「直子にピッタリのコーデよね。これならパーティ始まって誰かに、おっぱい見せて、って言われればチューブトップをペロンて下ろせばいいし、マンコ見せて、って言われたら、裾をサッとめくるだけだもの」
 お姉さまってば、今夜のパーティで私にいったい何をさせる気なのでしょう。

「絵理奈さんもしほりさんも、今日、すっごい愉しみにしているそうよ。さあ、早く行きましょう。あ、あと、これ持って」
 すでにデスクの上にご用意されていた、中身の膨らんだ小さめトートバッグを私に持たせたお姉さま。
 
 それからご自分のバッグと私のバッグをお持ちになり、私の右手を引いてみなさまの待つメインルームへと連れ出しました。


三人のミストレス 04