2017年8月6日

夏休み自由研究観察会 02

「当日は、ミサさま、あ、いえ、美咲センパイも凛子センパイのお家に来られるのですか?」
 自分のスケベなおツユと若干のおシオで汚してしまった床を全裸で雑巾がけしながら、ふと気になって、開発ルームに戻られようとされていたミサさまのお背中にお尋ねしました。

「ボクはガキンチョ苦手だからパス。その日は一日部屋に篭って、パソコンとにらめっこしているつもり」
 立ち止まって振り向かれたミサさまが、小さな笑みを浮かべておっしゃいました。

「撮り溜めた直子のビデオの編集もしなくちゃだし。こないだの絵理奈のパーティで撮った映像も手つかずだから。チーフに、早く見せて、って、せっつかれてるんだ」
 サラっと怖いことをおっしゃるミサさま。
 その後に、ニッと謎のような微笑を付け加えられ、社長室から出て行かれました。

 そして当日。
 朝から太陽ギンギラギンな思いっきりの猛暑日でした。

 待ち合わせは、オフィスのあるビル群の麓にあるホテル入口付近に午後一時。
 もっとも暑い盛りと言ってもいい時間帯でしたが、夏休み中の日曜日でもあるので周辺は大賑わい。
 陽射しの当たらない柱の陰に立ち、キャペリンハットの広いツバ越しに、通りを行き交う人たちの中から凛子センパイのお姿を探します。

 その日の私の服装は、ギャザー少なめ大人しめな白の前開きシャツブラウスと、淡いグレーの膝丈チュールスカート。
 凛子センパイが、教育実習で小学校に来た女子大生先生、とおっしゃっていたので、そのイメージでコーディネートしてみました。

 足元は、暑いのでソックス無しの素足に少しヒール高めなリボンミュール。
 首には細めな白のエナメルチョーカー、頭に白のキャペリンハット、お財布や鍵を入れた肩掛けポシェットと、全体に夏らしく白っぽくまとめてみました。

 下着類はお約束通り、金曜日に凛子センパイが手渡してくださいました。
 白無地の3/4カップブラと綿100ノーマルショーツのセット。
 学生の頃、それも中学生の頃によく身に着けていたような記憶のある、いたってありふれて健全な女子用下着たち。

 身に着けたとき、こんなにしっかり胸周りと腰周りを下着で覆ったのって何年ぶりだろう?なんて、懐かしい着心地に感動してしまいました。
 ただし、さすがは凛子センパイ、ショーツのクロッチの二重補強してある布部分は、見事に剥がされ薄くなっていましたが。

 そんな姿でキョロキョロ周りを見渡していると1時きっかり、目の前の通りにちっちゃめな四角いピンク色の車が停まりました。
 ドアが開いて降り立った、鮮やかなグリーン地に外国の有名なアニメキャラのお顔を大きくあしらったビッグTシャツ姿の凛子さま。
 舗道のほうを見渡すようにしているのを見て、あわてて駆け寄りました。

「おお、いたいた。今日はあっちーねえ。さ、乗って乗って」
「凛子さ、あ、いえ、センパイって、お車、持ってらしたのですね?」
「うん。チーフみたいに凄いのじゃなくて、軽だけどね」
 助手席のドアを開けてくださり、乗り込みます。

「待ち合わせはホテルの前っておっしゃられたので、てっきりタクシーで行かれるおつもりなんだな、って思い込んでいました。それか地下鉄か」
「コスプレ趣味ってさ、意外と大きな荷物運ぶこと多いんよ。布の買い出しとかコスプレ会場とかにさ。だから無理して二年前に買っちゃった」
 スーッと滑り出したお車は、ビルをグルっと一周りして大きな通りに出ました。

「それにしても直子、気合入ってるじゃん。高原のお嬢様帽子までかぶっちゃって。すごく似合ってる」
「あ、いえ、センパイが、清楚風お淑やか、っておっしゃったので、考えてそれなりに・・・」
「うん、どっからどう見ても充分清楚な良家のご令嬢よ。それ見たらユタカのヤツ、大喜びしちゃいそう」
 お車はすぐに大通りを外れ、住宅街の細い道に入りました。

「だからくれぐれも、ヘンタイマゾな素振りは見せないでよね。アタシ、自分の甥っ子を思春期前からそんなものに目覚めさせたくないから」
「今日の直子は、煩悩に迷う子羊たちを正しい道へと導く女神様の役回り。ガキンチョのイタズラで溜まったムラムラは明日、アタシたちがオフィスでぜーんぶ、解消してあげるから」
 からかうようにおっしゃる凛子センパイ運転のお車は、細い路地をくねくねと器用に曲がりながら進んでいきます。

 車内には低く、ここ数年の深夜アニメのオープニングやエンディングテーマ曲がランダムに流れつづけています。
 ときどき一緒に小さく口ずさむ凛子センパイ。
 照りつける陽射しが嘘のような、エアコンのよく効いた快適な車内。

「それにしても、最近は小学4年生くらいで、お友達同士で電車に乗って繁華街に映画を観に行ったりするのですね?4年生って10歳か9歳くらいですよね?」
 私が凛子センパイのお話を聞いて、素朴に驚いたことを口にしてみました。

「ユタカんちから池袋まで急行に乗れば10分ちょっとくらいだしね。それに今、電車に乗って塾通いなんて私学受験志望なら小3くらいからザラらしいよ」
 リラックスしきったご様子でハンドルを握られている凛子センパイ。

「まあ、学校的には保護者同伴なしで学区外に遊びに出るのは禁止なんだろうけど、夏休みに親戚の家に子供たちだけで遊びに行く、なんてのはよくあることじゃん」
「あと、ユタカは男の子だから。義姉さんも、ユーコちゃんにはまだ、女子だけでの遠出は許してないってさ」

 センパイのお話に相槌を打ちながら、私が初めてひとりで電車に乗ったのは、中一になってからのバレエ教室通いだったなー、なんて懐かしく思い出していました。

「それにさ、夫婦的にも休日に子供がどこか行ってくれると好都合なのよ。今日はユーコちゃんも近所の友達とお泊まり会らしいし」
「子供が大きくなっちゃうと、メイクラヴのチャンスがグンと減っちゃうらしいからねー」

「今日は久しぶりに夫婦水入らずでドライブでもして、昔よく行っていたラブホで恋人気分に浸るの、なんて義姉さんウキウキで言ってた。コスプレえっちでもする気なんじゃないかな」
「ひょっとしたらユタカに歳の離れた弟か妹がデキちゃったりしてね」
 なかなか生々しいお話を、サラッとされる凛子センパイ。

 お車は大小のお店が立ち並ぶ商店街に入っていました。
 路地をひとつ曲がり、小さな空き地みたいな一画に進入、サクッと綺麗に駐車されました。

「はい、着いたよ」
「えっ!?もうですか?」
 走り出してからまだ10分も経っていません。

「あれ?直子、アタシんちがどこか知らなかったっけ?」
「あ、はい。部室に泊まり込んでいらっしゃることが多いから、たぶんご自宅はずいぶん遠いのだろうと、勝手に思い込んでいました」
「あはは、仕事が立て込んでるときは、いくら近くても、そんな通勤時間さえもったいなく思えちゃうんだよね」

「ここは、どの辺りなのですか?」
「JRで言うと池袋のひとつ隣、北口改札を出て徒歩三、四分、ってところかな」
 ご愉快そうにお答えくださる凛子センパイ。

「オフィスからでも20分も歩けば帰れる距離だけど、仕事モードのときはオフィスと部室のほうが居心地いいんだよね。いつもミサミサと一緒だし」
 一瞬、照れたようなお顔になりました。

「ここからちょこっと歩くよ。うちのマンション、駐車場無いから。ここを月極で借りてるんだ」
 お車のドアを開けた途端、容赦の無い陽射しと猛暑がムワッと襲いかかってきました。

 路地を出るとまた商店街。
 飲食店が多いようですが、日曜日のせいか、まだランチタイムなのに閉まっているお店が目立ちます。
 少し歩くと左側にコンビニエンスストア。
 スタスタとご入店される凛子センパイ。

 ペットボトルのジュースや袋のお菓子、アイスなどを適当にお買いになって店外へ。
 そのままコンビニの敷地内を裏手のほうへと向かわれます。

「えっ?」
「ここがアタシんち。このコンビニの上、4階建ての3階301号室」
 コンビニの裏側に建物全体のエントランスらしきゲートがあり、郵便受けが6つ並んでいました。
 そこから屋外階段が建物の側面を上へ上へとジグザグに伸びています。

「4階建てだからかエレベーター付いてないんだよね。悪いけど3階まで自力で上がって」
 凛子センパイのお背中を追って階段を昇っていきます。
 ロングTシャツの裾からデニムのショートパンツが覗き、その下のスラッとしたお御足が陽射しにキラキラ汗ばんでいます。

 3階までたどり着くと、胸高のフェンスに覆われた外廊下。
 廊下を3、4歩歩いた左側に、301 OOSAWAと記されたネームプレートを貼り付けたドアがありました。
 カードキーらしく、センパイがカードをかざすとカチャンとかすかな音。

「到着ー。入って入って」
 内開きドアの中で手招きされる凛子センパイに促され、おじゃましまーす。

 エアコンを点けっ放しにしておいてくださったようで、入るなりひんやり生き返りました。
 沓脱ぎの先に短かい廊下があって、その正面に開けっ放しのドア。
 そのドアの向こうには、意外に奥行きのあるリビングダイニングが広がっていました。

「いやあ、うちに誰か招くのなんて久しぶりだからさ、散らかし放題だったから昨日は片付けでてんやわんやだよ。適当にその辺に座って汗拭いてて」
 ウエットティッシュのボトルと冷たいお紅茶の缶を手渡してくださり、ご自分は買ってきた飲み物やアイスをテキパキと冷蔵庫に仕舞われる凛子センパイ。

「うち、エロマンガやエロゲーとか着エロ写真集とか普通にあちこち転がってるからさ、そういうのひとまとめにして寝室に突っ込んだり」

 確かに壁一面のブックシェルフには、凄い数のコミック本やゲームソフト、CD、DVDなどが整然と並んでいるのですが、ところどころ不自然に隙間が空いて、ぬいぐるみや箱入りのフィギュアがその隙間を埋めています。
 お部屋の片隅に、お仕事道具である小型のミシンやトルソーの類がひとまとめに集められているのも、今のお部屋の状態がイレギュラーであることを物語っているようです。

「ユタカたちがこの部屋に来ると、帰りたがらないんだよね。ゲームだマンガだ、って何時間だって遊んでいたいって」
 大きな壁掛け型ディスプレイの周りには、さまざまなゲームハードがラックに収められ、その横のラックには、ゲームショップ?と勘違いしちゃいそうなほどのゲームソフトの数々。
 そういうのがお好きな子供たちにとってここは、まさに夢の国みたいなものなのでしょう。

 そんなお部屋を見て私は、中学からのお友達、しーちゃんのお部屋を思い出していました。
 彼女のお部屋にも、凄い数のマンガがあって・・・

 その後のしーちゃんとの個人的なおつきあいで起こったビタースイートなあれこれまで急に思い出し、なんだか感傷的になってきました。
 私、あれからずいぶん遠いところまできちゃったかな・・・
 いけないいけない、と軽く首を振ったら、さっき、ふと目に入って気になっていたことを思い出しました。

「そう言えばさっき、1階の入口のところの郵便受けで、センパイのお隣の郵便受けの名札がローマ字でKOMORIって書いてあったような気がしたんですけれど・・・」

「さすが秘書課の直子、目ざといねえ」
 お片付けが一段落したらしいセンパイが、缶コーラとポテチの袋を片手に、私が座っていたダイニングテーブルの向かいの席に、どっこいしょっとお尻を落ち着けました。

「ミサミサもここに住んでるよ。もちろん別々にね。ミサミサが先に住んでて、空き部屋出たからってアタシが越してきた。かれこれ三年前かな」
 お箸でポテチをつまみつつ、私にも割り箸を差し出してくださるセンパイ。

「直子、お昼は?」
「あ、お家で食べてきました。バナナとヨーグルト」
「ポテチは?」
「あ、いただきます」
 手が油で汚れるからとスナック菓子をお箸でいただく人がいる、というのは聞いてはいましたが、自分もすることになるとは思いませんでした。

「だから昨日はミサミサもてんてこ舞い。出たり入ったりドッタンバッタン大騒ぎ」
 おっしゃりながら意味ありげに天井のほうを見遣る凛子センパイ。
 つられて視線を遣ると・・・

「あーっ!?」
 オフィスの社長室で見慣れている手のひらサイズの球体が、入口ドアの上のところに取り付けてありました。

「うふふ、気がついた?今日の、夏休み!子供のための女体観察会、はね、ミサミサんちにも無線LANでライブ配信されて、ばっちりデジタル録画されることになってるの」
 センパイが、ドッキリを仕掛けて大成功した子供さんのような、無邪気な笑顔でおっしゃいました。

「あそこの他にもこの部屋にあと3箇所、合計4箇所に監視カメラ仕込んだそうだから、お医者さんごっこは、そのレンズに映る位置でやってもらうことになるね」
 センパイのお言葉で、私が今日ここに、何をしにきたかを今更ながらに思い出します。

「今頃ミサミサも自分の部屋でカメラチェックに余念が無いはずよ。あの子、真夏はハーフ裸族だから、素肌にスク水でも着て直子の姿を見つめてるはず」
「ほら、カメラに向かって手振って。録画、よろしくお願いしまーす、って」
 からかうようにおっしゃるセンパイのお言葉に従い、まあるいレンズに向けて手を振って一礼しました。

 リビングルームの向こう端は、ベランダに出るために大きく取られたカーテン全開の素通しガラス窓。
 ベランダ越しに射し込む盛夏の眩し過ぎるくらいの陽射し。
 
 そんな昼下がりの明るいお部屋で、私はこれから見知らぬ小学生たちを前にして、ひとり裸身を晒すんだ・・・
 そしてその模様はすべて録画され、お姉さまに、いいえ、多分オフィスのみなさま全員に鑑賞されちゃうんだ・・・
 抑え込んでいるマゾ性が、ムクムクと鎌首をもたげてきてしまいます。

「そ、そう言えば、お部屋の壁の木枠のところとかドアの上とかに、やたらとパイプみたいな鉄?の棒がカーテンレールみたいに取り付けてありますけれど、あれは何の為なのですか?」
 これ以上マゾ的なことを考えていると、折角の健全下着を早々と汚してしまいそうなので、気を逸らすために、お部屋中を見渡したとき気がついたことお尋ねしました。

「ああ、あれはハンガーレール。急ぎの仕事とか急な仕事のときは、ここで作業することもあるんだ。それで複数アイテムを同時進行するのに仮縫い途中の私物アイテムとか一々クロゼット開けて吊るすのめんどいじゃない?たたむとシワになっちゃうし」
「それで、やりかけ仕事を手っ取り早く吊るすために、そこいら中に取り付けていたらこうなっちゃった」

「こないだのイベント前なんて、ちょうど間近のコスプレイベントとも重なっちゃって、公私のやりかけ衣装で窓が見えないくらいだったよ」
「今も夏イベ用やりかけ衣装がけっこうあるんだけど、今日はそれも全部、寝室に押し込んじゃった」
 自嘲気味にお答えくださる凛子センパイ。

 私の場合、同じような鉄パイプ類が自分の家の洗濯物干し用サンルーム、通称お仕置き部屋にあって、自分を虐めるときに片足を高く上げたままの拘束を固定したり、股縄渡りの両端の固定のお道具として使っているので、どうしても、そういうイメージで淫靡なほうに想像してしまうのです。
 でも今日は、マゾ要素禁止、ですから、おそらくそういう使い方はしないはず。
 それがホッとするような、残念なような・・・

 そんないやらしいことを私が考えているのを知ってか知らずか、凛子センパイが唐突におっしゃいました。
「やっぱりアタシが用意した衣装に着替えて貰おうかな。まだ時間大丈夫そうだし」

 ご自身の腕時計を見た後、傍らのショッパーをガサゴソし始めたセンパイ。
「映画が一時ちょっと過ぎに終わって、昼ごはん食べてからこっちに向かうって言ってたから、ここに着くのは多分2時過ぎくらい」
「まだ20分くらいあるし、サクっと着替えちゃってくれる?」
 テーブルの上に、真っ白なファンシーぽい衣装が広げられました。

「今日の直子の私服も充分清楚でいいんだけど、こっちを着たほうがガキンチョたちの反応が面白そうなんだよね」
「大急ぎて作ったわりには雰囲気出てるはず。直子も図ったように白いチョーカー着けてきてくれたし」
「ほら、着替えなさい。もちろんカメラの前で」

 センパイに顎で促され、立ち上がってドア前のカメラに映りそうな場所に立ちました。
 ブラウスのボタンを外し、スカートのホックを外し、あっという間に健全純白ブラジャーアンドショーツ姿。

「直子のそういう真っ当な下着姿って、かなりレアだよね。熟女のセーラー服姿と一緒で、一周回って屈折した卑猥さみたいのがあって、却ってエロくない?」
 カメラの向こうの美咲センパイに語りかけているような、凛子センパイの冷やかし交じりなご感想。
 私も、妙な恥ずかしさを感じているのは事実で、ショーツの突端がシミちゃいそう。

 渡された衣装はいずれも純白で、シフォンぽいというかチュールっぽいというか、薄い布地を何枚も縫い重ねて作ったようなフワフワな質感でした。

 インナーは、キャミソールっぽいノースリーブで、胸元もブラが完全に隠れるくらい浅く、透け感も無いお上品なタンクトップ風、隠れジッパーの前開き。
 ボトムはレースフリルモコモコな膝上ミニスカート。
 そこに二、三折まくった袖口にだけ淡いピンクの入ったブレザー風のフリルフリフリジャケットを合わせ、最後に純白フィッシュネットのニーハイストッキング。
 全体的には、どこかのブリっ子アイドルさんのライヴステージ衣装、といったいでたちになりました。

「むちゃくちゃ可愛いじゃん、ガチ似合ってる。その格好でソーセンキョ出れば、ラクショーでセンター穫れるレベル」
 巷で話題の大所帯某アイドルグループの名前を挙げて、煽ててくださる凛子センパイ。

 ピンポーン!
 そのときチャイムが鳴りました。

「あ、来たみたい。直子は、さっきの椅子に澄まして座ってて」
 スタスタと玄関に急ぐ凛子センパイ。
 ふと見回すと、私が脱いだお洋服一式は、帽子も含めてすべて、何処ともなく跡形もなく消え失せていました。

 バタンとドアが開く音ともに、お子様たち特有の甲高いお声がワイワイ聞こえてきました。

「あっちーっ!」
「うわっ、すずしーっ!」
「おじゃましまーっす!」
「おじゃまされまーっす!」

「あんたたち、汗ビッショビショじゃない!?ってあれ、ふたりじゃないのっ?えっ?4人も来たの?」
「ああ、ミツルがシンちゃんに今日のこと教えちゃってさ。それでシンちゃんがどうしても来たいって言って、仕方ないからマサヒデも連れてきた」
 
 ガヤガヤ賑やかにリビングへと入ってこられた小学生軍団。
 私も座ったままそちらに顔を向け、ニッコリ笑って、こんにちはー、と声をかけました。

 途端にピタッと静まりかえる室内。
 4人が4人共、私のほうをまじまじと見つめ、やがてコソコソと仲間内で耳打ちし始めました。

「・・・ミーコじゃない?」
「だよね・・・」
「まさか・・・」
「・・・でもそっくり」
「・・・本物?」
 そんなヒソヒソ声が聞こえてきます。

「ほらほらあんたたち、そんな汗ビッショでエアコンあたったら風邪引いちゃうよ?タオル貸してあげるから、お風呂場で上半身だけでも水シャワーしてきな。ユタカ、案内してあげて。うちのシャワーの使い方、わかるよね?」
 クロゼットからバスタオルを何枚か出しながら、凛子センパイが母親のような口調で指示されます。

「うんっ!」
 おのおのタオルを受け取った小学生軍団、ドタドタと入ってきたドアへと引き返し、私の視界から消えました。

「4人も来るなんて聞いてないわよ、まったく。早くも計画が狂っちゃったじゃない。やれやれ、これだからガキンチョは・・・」
 私の対面の椅子に座り込んで、心底うんざりしたお顔をお見せになる凛子センパイ。

「ジュースやお菓子が足りなくなりそうだから、ひとっ走り下のコンビニで調達してくるわ」
 不意に立ち上がられたセンパイが玄関に向かいながらおっしゃいました。

「どうせヤツラは15分くらいお風呂場から出てこないと思うから、そこでマンガでも読んでて」
「あ、はい。行ってらっしゃい・・・」

 唐突に男子小学生4人しかいないお部屋にポツンとひとり取り残され、これからすることの不道徳さにあらためて思い至った私は、急激にドキドキし始めていました。


夏休み自由研究観察会 03


0 件のコメント:

コメントを投稿