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2010年11月21日

トラウマと私 25

居酒屋さんを出て、反対側の駅前ロータリーまで、やよい先生とゆっくり歩いていきました。
私は、やよい先生と手をつなぎたかったのですが、万が一、知っている人に見られたらメンドクサイことになっちゃうのでがまんしました。
その代わり、やよい先生に寄り添うように、ピッタリとからだの側面をくっつけて歩きました。
やよい先生のからだのぬくもりを感じながら。

「先生、ごちそうさまでした。今日は本当にありがとうございました」
「ううん。あたしも楽しかったから、いいのよ。なおちゃんのヒミツもバッチリ知っちゃったしね。お料理は美味しかった?」
「はい。すっごく美味しかったです」
そんなことを話しながら、ロータリーに到着しました。
私は、まわりをキョロキョロして小さめな白い車を探します。
ライオンのマークが付いた白い車・・・
「まだ母は着いてないみたいですねえ?」
やよい先生にそう言ったとき、駐車していたバスの陰からスルスルっと、母の白い車が近づいてきました。

「百合草先生。今日はうちの娘が、本当にお世話をおかけしてしまって・・・」
言いながら、母が運転席から降りてきました。
母は、白くて襟がヒラヒラしたブラウスの上に、ネイビーの薄手な秋物ジャケットを着て、下はジーンズでした。
大きな紙袋を手に持っています。
「森下さんのお母さま。ご無沙汰しています。あたしこそ、娘さんを遅くまでひき止めてしまって、申し訳ございません」
やよい先生がペコリとお辞儀します。
「いえ、いえ、いつもいつも直子がお世話になって・・・」
言いながら母が大きな紙袋をやよい先生に差し出しました。
「百合草先生が甘党か辛党か存じ上げないので、両方持ってきました。直子がお世話になったお礼です。シュークリームとワインなんですけど・・・」
「あら、あらためて考えるとちょっとヘンな組合せだったわね」
母が一人でボケて、ツッコンで、あははと笑っています。
「お帰りのとき、お荷物になっちゃって、ごめんなさいね」
「いえいえ、かえってお気を使わせてしまって、では、遠慮なくちょうだいいたします」
やよい先生がまたお辞儀をして、紙袋を受け取りました。

「それじゃあ森下さん。また来週、お教室でね。お母さま、ありがとうございました」
「はーい、先生。今日はごちそうさまでした」
「百合草先生、こちらこそ本当にありがとうございました」
3人でお辞儀合戦をした後、やよい先生は、右手を上に挙げてヒラヒラさせながら改札口に消えていきました。

車に乗り込んで、駅前の渋滞を抜けるまで、母と私は無言でした。
車がスイスイ滑り出してから、母が口を開きました。

「なおちゃん、今日は何をご馳走になったの?」
「うーんと、イタリアンかな。パスタとかサラダとか」
「美味しかった?」
「うん。トマトソースがすっごく美味しかった」
「それは、良かったねえ」
そこで少し沈黙がつづきました。

「それで、なおちゃんの悩みごとは、解決したの?」
「えっ?」
「あらー、ママだって、ここ数週間、なおちゃんがなんだか元気ないなあー、って気がついてたのよ?」
「何か悩みごとでもあるのかなー、って」
母が私のほうを向いて、ニッと笑いました。
「でも、もうどうしようもなくなったら、ママに言ってくるでしょう、って思って放っといたの」
「でも、なおちゃんは、百合草先生をご相談相手に選んだのね・・・」
「・・・ママ」

「ううん。誤解しないで。怒ってるんじゃないの、その逆よ。ママ嬉しいの」
「なおちゃんのまわりに、なおちゃんのことを心配してくれる、家族以外の人が増えていくのが、嬉しいの」
「なおちゃんにも、だんだんと自分の世界が出来ていくんだなー、って、ね」
「それで、百合草先生とお話して、その悩みは解決した?」
「うん。だいたいは・・・ううん、スッキリ!」
「そう。良かった。百合草先生、さまさまね」
「こないだいらっしゃった、なおちゃんのお友達も、ママ好きよ。みんな明るくて、素直そうで」

夏休み、8月の初め頃に、愛ちゃんたちのグループがみんな来て、私の家では初めて、お泊り会をしました。
お庭で花火をやったり、リビングでゲームをしたり、私の部屋でウワサ話大会したり。
ちょうど父も家にいて、家の中に女性が母も含めて7人もうろうろしているので、少しびびりながらも張り切っていたのが可笑しかったです。
愛ちゃんたちには、なおちゃんのお家すごーい、って冷やかされて、ちょっと恥ずかしかった。

「なおちゃんも、もうママにヒミツを持つ年頃になったのかー」
「これからどんどん、ヒミツが増えていくんだろうなー」
母は、運転しながら独り言にしては大きな声で、そんなことを言っています。

「百合草先生やお友達、大切にしなさいね」
信号待ちのとき、母が私のほうを向いて、真剣な顔で言いました。
「はいっ」
私も真剣に、大きな声で答えます。

車が走り出して、母の横顔を見つめていたら、少し寂しそうに見えたので、私は一つ、ヒミツを教えてあげることにしました。
「ねえ、ママ。私ママにヒミツ、一つだけ教えてあげる」
「あら、いいの?なになに?」
「あのね、私、夏休みに入る前の日にね、ラブレターもらっちゃった」
「あらー。スゴイわね、直接手渡されたの?」
「ううん。学校の靴箱に入ってたの」
「それはずいぶん古典的な人ね。それで?」
「でも私、今、そういうことに全然興味がないから、断っちゃった」
「あはは、そうなの。なおちゃんらしいわね」

母は、それ以上、どんな人だったの?とか、何て言って断ったの?とか追求しないで、ハンドルを握りながらニコニコしていました。
私はそれを見て、母はやっぱりカッコイイなあーって思いました。

「ありがと、ママ」
「どういたしまして。それより、ともちゃんが、直子おねーちゃんがお帰りになるまで起きてるー、ってがんばってたけど、もう、さすがに寝ちゃったかしら?早く帰ってあげましょう」
「うんっ!」

国道の信号が赤から青に変わり、先頭にいた母がアクセルを踏み込みました。
もうあと少しで我が家です。
フロントグラスの向こうに、左側が少し欠けている楕円形のお月さまが、明るく輝いていました。



トラウマと私 24

「それは、とても光栄なことね」
やよい先生も私の目をまっすぐに見ながら、魅力的に微笑んでくれました。

「それで、私、その週のバレエのレッスンのとき、すっごく先生を意識してしまって・・・ご迷惑をおかけしてしまって・・・」
「そういうことだったのね。なんだかずっとそわそわ、モジモジしてるから、どうしちゃったんだろ?この子、って思ってたのよ」
やよい先生がイタズラっぽく笑います。
「で、どんな風に、あたしとのソレ、想像したの?」
「そ、それは・・・」

私は、恥ずかしさで、もうどうしようもないくらい、からだが火照っていました。
乳首も痛いほど、アソコもショーツに貼り付いてしまっています。
「鏡に・・・鏡に向かって・・・自分のからだ映して・・・私の胸や、アソコを・・・先生の手で可愛がられてるって想像しながら・・・」
私は、自分で言っている言葉に、恥ずかしがりながらコーフンしていました。

「そう。それがすっごく気持ち良かったんだ・・・なおちゃん、カワイイわね」
やよい先生がえっちっぽく笑いかけてくれます。
私は、すっごく嬉しい気持ちになります。
オナニーをしたときとは別の種類の、心地よい快感がからだをじーんと駆け巡りました。

「先生、私、レズビアンになれるでしょうか?」
快感の余韻が収まるのを待って、私は、これ以上無理っていうくらい真剣な気持ちで、やよい先生に問いかけました。
「うーん・・・そんなに真剣な顔で聞かれてもねえ・・・」
やよい先生は、はぐらかすみたいにお顔を少し背けます。
ちょっと考える風に上を向いてから、また視線を私に戻しました。

「それじゃあ、なおちゃんは、お友達、たとえばあなたとすごく仲の良さそうな川上さんとかとも、そういうことしたいと思う?」
「いえ。それは考えてみたんですけど、そういう気持ちにはなれませんでした。もちろん愛ちゃんは大好きなお友達なんですけれど・・・」
「でも、あたしとならそうなってみたい?」
「はい・・・」
「それは、なおちゃんがあたしを大好きだから?」
「はい」

「ほら。つまりそういうことよ」
やよい先生が明るい声で言います。
私は、きょとん、です。

「なおちゃんがそうなってみたいと思った相手は、あたしだった。それで、あたしは女だった」
「その前に知らない男性にヒドイことされて、男性がイヤになっていたのもあるんだろうけど、なおちゃんは、あなたが大好きだと思った人、えっちな気持ち的に、したい、と思った人としか、そういうことはしたくないんでしょ?」
「はい・・・」
「それなら、別にレズビアンになる、ならないなんて考えないで、今まで通り、そういう気持ちのまま過ごしていけばいいのよ」
「大多数の人たちは普通、恋愛をする相手、セックスの相手は異性と考えている。でも、大好きになった人、したいと思った人が同性だったとしても別に何も悪いことじゃないの。たまたまそうなっちゃっただけ」
「なおちゃんがされたみたいな、自分の欲望のためだけに無理矢理、関係ない誰かをひどいメに合わせたり、カンタンに言うと痴漢とか強姦とか婦女暴行とか監禁とかのほうが、よっぽど非難されるべきことなの」
「だからあなたも今の気持ちのまま、男性が苦手なら苦手でいいから、大好きになれて、したいと思える人を探したほうがいいわ。レズビアンがどうとか特別に考えずに、ね」

「それに・・・」
「ひょっとしたら何年か先に、なおちゃんのアソコにピッタリなサイズのペニスを持った、やさしくてカッコイイ男の子が現われるかもしれないし、今は深刻に思えるそのトラウマも、ひょんなきっかけで治るかもしれない・・・」

そこまで言って、やよい先生はテーブル越しに両手を伸ばしてきて、私の両手をやんわり掴みました。
そのままテーブルの上で二人、両手を重ね合います。
私には、やよい先生が今、最後に言った言葉とは裏腹に、そのまま男性が苦手なままでいて、っていう私への願いを、無言で態度に表したような気がしました。
私の胸がドキンと高鳴ります。

「それでね・・・あたしは今、なおちゃんを抱いてあげることはできないの」
やよい先生は、私の手を取ったまま、声を落として言いました。
「今はちょっと喧嘩中だけど、あたしは今のパートナーが大好きだし、大切に思っているし、彼女とだけそういうことをしたいの」
「彼女は、あまり束縛するタイプではないけれど、今はやっぱり、彼女とだけそういうことをしたいの」
「それになおちゃん、今中二でしょ?中二って言うと何才だっけ?」
「14才です・・・」
私は、やよい先生の言葉にがっかりして、力なく答えます。
「14才なら、まだまだこの先たくさん、出会いがあるはずよ。女性とも男性とも」
「それで、なおちゃんが本当に大切に思える人ができたら、本格的にえっちな経験をするのは、そのとき・・・今よりもう少し大人になってからのほうがいいと思うの、なおちゃんのためにも」

「でも、今、私はやよい先生のこと、本当に大切に想ってるんです・・・」
小さな声でつぶやきました。
私は、あからさまにがっかりした顔をしていたんだと思います。
やよい先生がまた少し考えてから声のトーンを上げて、こんな言葉をつづけてくれました。

「それでね。正直言うと、あたしもなおちゃんには、興味があるの。あなたカワイイし、ほっとけないとこがあるから」
「だから、なおちゃんがもう少し大人になって・・・そうね、高校に入ったら・・・じゃあまだ早いか・・・高校2年て言うと17才?」
「・・・はい」
「高校2年になってもまだ、今と同じ気持ちがあったなら、そのときはあたしがお相手してあげる」
「本当ですかっ?」
私に少し元気が戻ってきました。
「うん。約束する。だから、しばらくの間は、あたしを、血のつながった本当のお姉さんだと思って、なんでも気軽に相談して」
「それにもちろん、オナニーのお相手としてなら、ご自由に使ってもらって結構よ。なおちゃんがあたしを想ってしてるんだなあ、って考えるとあたしもなんだかワクワクしちゃう」
やよい先生がえっちぽい顔になって言いました。

「だけどバレエのレッスンのときは、そんな素振り見せないでね。あたしもあくまで講師として接するから。今まで通り」
「あなた、バレエの素質、いいもの持っているんだから、ちゃんと真剣にやりなさい。真剣にやればかなりの線まで行けるはずよ」
「はいっ!」

私は、なんだか気持ちがスッキリしていました。
やよい先生とかなり親しい関係になれたことを、すごく嬉しく感じていました。
それに、考えてみればこうして、セックスやオナニーのことを実際に言葉に出して、誰かと話し合ったのも初めてのことです。
なんだか一歩、大人になった気がしていました。
私のヘンな性癖に関しては、やっぱり恥ずかしくって言えなかったけれど・・・
でもその上、あと数年したら、やよい先生が私のお相手をしてくれる、って約束までしてくれたんです。
自然と顔がほころんできます。

「やっと、なおちゃんに笑顔が戻ったわね」
やよい先生は、両手で私の手を握ったまま、ニッコリ笑いかけてくれます。
「今日の二人のデートは、あたしたちだけの秘密ね。あたしは、これからも、なおちゃんと二人きりのときだけ、あなたをなおちゃんって呼ぶ。バレエのときやみんながいるときは、今まで通り、森下さん。それでいいわね?」
「はい」
それからやよい先生は、目をつぶって、お芝居じみた声を作って、こんなことを言いました。
「美貌のバレエ講師と年の離れた可憐な生徒は、お互い惹かれ合っていた。講師には女性の恋人がいて、生徒は講師を想って自分を慰めている。それでも素知らぬ顔でみんなと一緒にレッスンに励む二人は、何年後かに結ばれる約束をしていたのであった・・・」
「なんちゃって、こうやって言葉にしてみると、このストーリーでレディコミかなんかで百合マンガの連載できそうじゃない?あたしたちって。なおちゃんも、オナニーのときに妄想、しやすいでしょ?」
やよい先生が笑いながらイジワルっぽく言います。
「もうー、やよい先生、イジワルですねー」
私は甘えた声を出して、やよい先生の手をぎゅっと握りました。

「あらー。もうこんな時間」
やよい先生は、私の手を握り返しながら、私が左手首にしている腕時計に目をやって、大きな声を出しました。
8時を少し回っていました。
「そろそろお母さまに電話したほうがいいんじゃない?」
「あ、はい」
私は、もっともっとやよい先生と一緒にいたい気持ちでしたが、そうもいきません。
やよい先生が差し出してくれたケータイを受け取って耳にあてました。

「30分後にバレエ教室側の駅前ロータリーで待ち合わせです」
母との電話を終わって、ケータイを返しながらやよい先生に告げました。
「じゃあ、あと20分くらいだいじょぶね」

その20分の間に、やよい先生がなぜレズビアンなのか、っていうお話を聞かせてもらいました。
誰にも言わない、っていう約束なので詳しくは書きませんが、やっぱり、ティーンの頃に男の人に嫌な経験をさせられたことも大きいようです。
「だからなおさら、あたしは、なおちゃんのことが気にかかるし、心配なの。遠慮せずになんでも相談してね」
やよい先生は、そう言ってくれました。
私は、やよい先生と出会えて、本当に良かったと心の底から思いました。


トラウマと私 25

2010年11月20日

トラウマと私 23

「それで・・・」
私は、その後に何を言えばいいのかわからないほど、恥ずかしさに翻弄されていました。
顔中真っ赤になって、やよい先生のお顔を見ることも出来ず、うつむいています。

「えっと、それはつまり、じーこーいってこと?」
やよい先生がポツリと言います。
「G・・・?」
やよい先生がくれた言葉が理解できず、私はそっと顔を上げました。
やよい先生は、やわらかく笑って私を見ています。

「自分で慰める、って書いて自慰。自慰行為。俗に言うオナニーのことよ?」
やよい先生の好奇心に満ちた目が私の顔を見つめています。
コクンと小さくうなずいたとき、私の恥ずかしさは最高潮に達しました。
心臓がドクドク音をたてて跳ね回り、息苦しくなって、なぜだか下半身もジワっときました。
私、こんなことを話しているだけで、性的に感じてしまっています。

「へー。なおちゃんでもそういうことするんだ?」
「あなた、少し浮世離れしてるところ、あるから、そういうことにはあんまり興味ないのかと思ってた・・・」

私がどんどん身を縮こませてプルプルからだを震わせているのに気がついたのでしょう、やよい先生は、そこまで言うと言葉を止めて、テーブル越しに右腕を伸ばして、私の左肩を軽くポンっと叩きました。
「ごめんごめん。そんなに恥じ入らなくてもいいのよ。普通のことだし。あたしも小六の頃から、もうしてたもん」
その言葉を聞いて私は、おそるおそる顔を上げます。

「あたしの場合、きっかけは、よくある話だけど、鉄棒。あたしお転婆だったから、休み時間によく鉄棒で遊んでたの。スカートの裾をパンツの裾にたくしこんでさ・・・逆上がりとか」
やよい先生が懐かしそうに目を細めて話し始めました。
「ある日、なんかの拍子で鉄棒を跨いじゃったのね。足掛け前転かなんかやってたときだったかなあ?そしたらパンツ越しに鉄棒がアソコにグイっと食い込んできて、あはんっ、てなっちゃってさあ」
「それがすごく気持ち良くってね。休み時間、足掛け前転ばっかりやってた。隙を見ては両脚で鉄棒跨いで、そのままじっとしてるの。ヘンな子供よね」
やよい先生は、クスクス笑いながらワイングラスに口をつけました。
「それから、いろんな棒をアソコに擦り付けるのが好きになっちゃって。ほうきやモップの柄とかバトンとか手すりとか。今でも擦りつけオナニーは、好きよ」
ウフっと笑ったやよい先生は、すごくえっちそうでステキでした。

「なおちゃんは、どんなことがきっかけだったの?」
やよい先生が子供の頃のお話を聞かせてくれたおかげで、私も一時の激しい恥ずかしさが少し薄れて、お話しやすい雰囲気になっていました。
顔を上げて、やよい先生をじっと見て、話し始めます。

「私の場合は・・・」
正直にお話すれば、初潮が来る前から本で知識を仕入れていて、初潮が来るのを心待ちにしていた、となります。
でも、それはちょっと、あまりにもあからさまなので、
「えーっと、父のお部屋で偶然みつけてしまった、えっちな写真集を見たのが・・・」
どんな種類の写真だったのかは、やっぱり恥ずかしくて言えません。
「その写真を見てたらドキドキしてしまって、自然に手が・・・」
「ふーん。そういうのもよく聞く話よね」
どんな写真だったの?って聞かれたらどうしよう・・・
ちゃんとお答えしなくちゃ・・・
どぎまぎしている私の予想とは裏腹に、
「それで、なおちゃんは、ちゃんと最後まで・・・」
やよい先生がそこまで言ってから急に言葉を切って、お水を一口飲みました。

「まあ、それは後で聞くことにして、話を進めましょう。えーっと、夏休みの出来事で男性のアレが怖くなって、オナニーができなくなった、っていうところまでよね?」
「は、はい・・・それで・・・」

「自分で自分のからだをさわっていても、あのときの感触を思い出してしまって、全然ダメで・・・」
「私、そういうことするときは、誰か女の人にさわってもらうのを想像することが多いんですけど、誰を想像してもあのときのイヤな感触になってしまって・・・」
「頭の中は、稲妻に映し出されたグロテスクな場面に支配されてしまって・・・」
まだ私は、オナニー、という言葉を実際に口に出すことが恥ずかしくって、できません。

「ああ、なおちゃん。そういうのって、トラウマ、っていうのよ」
「虎・・・?馬・・・?」
「心的外傷。心の傷ね。何か衝撃的なことを見たり、体験したりして精神的なショックを受けちゃって、それがずーっと心に傷となって残っちゃうこと。重い人は診察やお薬とかも必要みたい。そのことについてあんまり考えすぎないようにするのが一番らしいけど、それって難しいわよね・・・」
やよい先生は、最後のほう、しんみりとした口調でした。
やよい先生にも何か、そういう体験、あるのかしら?

「で、それで?」
少しの沈黙の後、やよい先生がまたニッコリ笑って先を促しました。
「あ、はい。それで、そんなときにお友達から、先生の・・・やよい先生と誰か女の人とのお話、さっき言ったお話を聞かされて・・・」

私はまた、どきどきが激しくなってきます。
とうとう告げるときがやってきました。
お水を一口飲んで、気持ちを落ち着けようと努力します。

「わ、私・・・私、やよい先生のこと・・・、ずっと前から・・・だ、大好きだから・・・」
小声で途切れ途切れに、やっとそう言いました。
やよい先生は、薄く笑みを浮かべながら真剣に聞いてくださっています。
私は、これではいけないと思いました。
もっとはっきり、ちゃんと伝えよう。

「私、やよい先生のこと大好きなんです。だから、やよい先生とそういうことをしてるって想像しながら、やってみたんです・・・オ、オナニー・・・を」
やよい先生の目をまっすぐに見て、勇気を振り絞って言いました。
オナニー、っていう言葉を口にしたとき、またアソコの奥からヌルっときました。
やよい先生のお顔が、一瞬固まってから、パっと嬉しそうな笑顔に変わったように見えたのは、私の贔屓目でしょうか。

「それで、そしたら、すっごくうまくいったんです」
「あのイヤな場面も全然思い出さずにすんで、ちゃんと最後まで出来て」
「それで、すっごく気持ち良かったんですっ!」
「本当に本当に気持ち良かったんですっ!」
たたみこむように一気に言いました。

私は、やよい先生の目を懇願するように、媚びるように、訴えるようにじーっと見つめます。
どうか私を受け入れてください・・・
どうか私を嫌わないでください・・・
どうか私の願いを叶えてください・・・


トラウマと私 24

2010年11月14日

トラウマと私 22

やがて、お料理が次々と運ばれてきました。
そのたびに、やよい先生が小皿に取り分けてくれています。
自分では、あまりお腹が空いていないと思っていたのですが、サラダのドレッシングとパスタのトマトソースがすっごく美味しくて、意外にぱくぱく、たくさん食べてしまいました。
お食事の間は、バレエの技術や好きな曲のことを話題にしていました。

メインのお料理があらかた片付いて、二人でフーっと一息つきました。
やよい先生は、お食事をしながらワインを2杯くらい飲んでいましたが、顔が赤くなったり、酔っ払った素振りは全然ありません。

「森下さんって、お母さまからは、なおちゃん、って呼ばれてるのねえ。さっき電話したとき、聞いちゃった」
トイレに立って、戻ってきたやよい先生が自分でデカンタからワインを注ぎながら突然、言いました。
「・・・は、はい」
私はまたちょっと、恥ずかしい感じです。
「あたしもそう呼んでいい?」
やよい先生がまた、冷やかすみたいに笑いながら言います。
「はい・・・いいですけど・・・」
私の頬が急激に染まってしまいます。

「それじゃあ、なおちゃん。さっきの話のつづきを聞かせて。あたしがレズなことと、なおちゃんの悩みとの関係」
「あ、はい・・・えーと、それでですね・・・」

私は、夏休み後半の父の実家での出来事をお話することにしました。
あの出来事を真剣に思い出すのは、久しぶりのことでした。
忘れよう、忘れようとして、うまくいきかけていた時期でしたから。
それでも、私がいかに怖かったかをちゃんと理解してもらおうと、ありったけの勇気を振り絞って、思い出しながらお話しました。

「なるほどねー。とんだ災難だったわねえ」
私の話を黙って真剣に聞いていてくれたやよい先生は、深刻な感じでそう言ってくれました。
「それで、なおちゃんは男性が苦手に思うようになっちゃった、と。どうやら本当にレズビアンにつながりそうね」
少し明るめな声でそう言ったやよい先生は、私をまっすぐに見つめて言葉をつづけます。

「でもね。話を進める前に、今の話について一つだけ、なおちゃんに言っておきたいことがある」
やよい先生の口調が少し恐い感じです。
「はい?」
私は姿勢を正して、やよい先生を見つめます。

「そのバカな男が逃げ出した後、なおちゃんは、すぐにお母さまなり、お父さまなりに言いつけて大騒ぎにするべきだったのよ」
「そりゃあ、そんなことがあったら、なおちゃんは気が動転しているだろうし、恥ずかしさもあるしで泣き寝入りしちゃうのもわからないではないけどね」
「でもそれは、結局一番悪いことなのよ。どうしてかわかる?」
やよい先生の真剣な口調に、私はお説教をされているみたいに感じて、うなだれてしまいます。
「あ、ごめん。別に怒っているわけじゃないのよ」
やよい先生があわてて笑顔になります。

「ただね、なおちゃんならたぶんわかってくれると思うからさ」
「つまりね、そこでその男に何の負い目も背負わさずに逃がしちゃうと、次また絶対どこかで同じことするのよ、そのバカが」
「それで、また誰か別の女の子がひどい目にあっちゃう可能性が生まれるワケ」
「そのときに大騒ぎになれば、たとえそいつが捕まらなかったとしても、騒ぎになったっていう記憶がそのバカの頭にも残るから、ちょっとはそいつも反省するかもしれないし、次の犯行を躊躇するかもしれないでしょ?」
「ノーリスクで逃がしちゃうと、味を占めちゃって、つけあがって、また同じようなことをするの。バカだから。あたしの経験から言えば100パーセント!」
やよい先生は、まるで自分が被害にあったみたいに真剣に憤っています。
私は、やっぱりやよい先生は、からだも心もカッコイイなあ、ってうつむきながらも考えていました。

「なおちゃんのケースは、もう流れが出来ちゃってるから今さら騒ぎにしてもしょうがないけど、もし、万が一、また同じようなメにあうようなことになったら、そのときは絶対泣き寝入りしないでね。盛大に騒ぎ立てて。他の女性のためにもね。なおちゃんならできるでしょ?」
うつむいている私の顔を覗き込むようにして、やさしい笑顔を投げてくれます。
「はいっ!」
私は、その笑顔を見て、今度からは絶対そうしようと心に決めました。
「よしよし。いい子だ」
やよい先生が目を細めて、右腕を伸ばして、私の頭を軽く撫ぜ撫ぜしてくれました。
ひょっとするとやよい先生、やっぱり少し酔ってきているのかもしれません。

「まあ、今さら蒸し返してご両親に言う必要はないけれど、もしもまた、お父さまのご実家になおちゃんも行かなくてはならないときがあったら、行く前にその出来事のこと、ちゃんと言ったほうがいいわね」
やよい先生は、この話題を締めくくるみたいにそう言って、ワインではなくお水をクイっと飲みました。

少しの沈黙の後、やよい先生は片腕で頬杖ついて、好奇心に満ちた思わせぶりな目つきで私を見ながら、唇を動かしました。
「それでつまり、その出来事でなおちゃんは男性が怖いと思うようになって、レズビアンに興味を持った、っていうこと?」
お酒のせいか、目元がほんのり色っぽくなったやよい先生にじっと見つめられて、どぎまぎしてしまいます。
「えーと、まあ、そうなんですけど、まだつづきがあるんです・・・」
ここからが私の本当の、やよい先生への告白、になります。
私の胸のどきどきが急激に早くなってきました。

残っていたジンジャーエールを一口飲んで大きくフーっと息を吐き、意を決して話し始めます。
「それで・・・夏休みが終わった頃は、その出来事のショックで落ち込んでいたんですけど、そのうち・・・」
「そのうち私、できなくなっちゃってることに気がついたんです・・・えーっと・・・」

私は、やよい先生に向けて、オナニー、という言葉を口に出すことが、どうしてもできませんでした。
その言葉を告げるのが、すっごく恥ずかしくって、はしたなくて・・・
でも、それをちゃんと告げないと、お話が先に進みません。
やよい先生は、また黙って、じっと私の次の言葉を待っています。

「私・・・自分のからだをさわって・・・気持ち良くなること・・・知ってたんです・・・」
「いろいろさわって、気持ち良くなること・・・でも、あの出来事で、それが・・・それができなくなって・・・」

私の耳たぶが、さわったら火傷しそうなくらいに熱くなってくるのが自分でもわかります。
身悶えするような恥ずかしさ・・・
いいえ、実際私のからだは、微かにですが、こまかくプルプル震えていました。
ブラの下で両乳首が少しずつ起き上がって、尖っていくのも感じていました。


トラウマと私 23

2010年11月13日

トラウマと私 21

やよい先生が口元まで持っていっていた、ケーキの欠片を刺したフォークが空中で止まりました。
「えっ?」
私の顔をまじまじと見つめながら、やよい先生がかすかに首をかしげます。

「あ、ご、ごめんなさいっ!突然すごく失礼なことを聞いてしまって、ごめんなさい、ごめんなさいっ!」
私は、あわてて何度もペコペコお辞儀しながら、必死に謝ります。
やよい先生を怒らせちゃったかな・・・・

うつむいている私は、上目使いでおそるおそるやよい先生を見てみました。
やよい先生は、止まっていたフォークをゆっくりと口の中に運び、しばらくモグモグした後、フォークをお皿に置いてニッコリ微笑みました。
「あなたが謝る必要は無いわよ。いきなり思いがけないことを聞かれたから、少しビックリしただけ」
「失礼なこと、でもないわ。だって、それは本当のことだから。答えはイエスよ」
やよい先生は、そう言うと私に向かってパチンとウインクしました。

「でも、森下さん?あなた、誰にそれ、聞いてきたの?」
「は、はい・・・それは・・・」
私は、曽根っちから聞いたお話をほとんどそのままやよい先生にお話しました。

「なるほど。そういうワケだったのね。ナカソネさんね、覚えてる。あの子もけっこうスジ良かったけど・・・そう、今はレイヤーやってるの・・・」
懐かしそうに遠くを見る目付きになっています。
「それで、川上さんが、みんなに広めないように、って言ってくれたのね。あの子もいい子よね。あなたとずいぶん仲がいいみたいだけど・・・」
「でもね、あたしは別に隠すつもりもないの。まあ、かと言って自分からみんなに宣伝することでもないけどさ」
やよい先生がクスっと笑いました。
「そのとき一緒にいたのは、今のところあたしが一番大好きなツレ。でも先週いろいろあって、今ちょっと喧嘩中・・・」
やよい先生のお顔がちょっぴり曇ります。

やよい先生は、コーヒーを一口啜ると、あらためて私の顔をまっすぐに見つめてきます。
「だけど、私がビアンなことが、あなたの悩みに何か関係あるの?」
少し眉根にシワを作って怪訝そうなお顔です。
私は、そのお顔を見て、ズキュンと感じてしまいました。
すごくセクシーなんです。

「あ、は、はい・・・いろいろと関係していて、そのお話はまだまだ入口のところなんです・・・うまくご説明できるかわからないんですけど・・・」
なぜだかうろたえてしまった私は、すがるようにやよい先生を見つめてしまいます。
「ふーん。長い話になりそうね・・・」
やよい先生は、しばらく宙を見つめて何か考えるような素振りでした。

「ねえ?あなた、門限あるの?」
何かを思いついたらしく、一回うなずいてから、やよい先生が明るい声で問いかけてきました。
「えーと、とくには決まってません・・・バレエの日なら、7時くらいまでには帰ってますけど・・・」
「森下さんのお母さま、あたしも何度かお会いしたけど、やさしそうなかたよね?」
「はい・・・」
「あなたのお母さま、話がわかるほう?」
「えっ?うーんと、そう・・・そうだと思いますけど・・・」
「あなたの家の電話番号教えて」
私は、何をするつもりなんだろう?と思いながらも、家の電話番号を教えました。
やよい先生は、私が数字を告げるのと同時に自分のケータイのボタンを押していきます。
最後の数字を押し終えると、ケータイを自分の耳にあてて立ち上がり、スタスタとお店の入口のほうに歩いて行きました。
席に一人、取り残された私は、ワケがわからず、疑問符をたくさん頭の上に浮かべたまま、半分になったケーキをつついていました。

三分くらい経って、やよい先生がテーブルに戻ってきました。
「交渉成立。あなたと夕食一緒に食べに行っていいって、あなたのお母さまにお許しをいただいたわ。次の課題曲を決めるんで、少し込み入った話になるから、って嘘ついちゃったけど」
やよい先生は、ニコニコしながら私の前に座り直して、コップのお水をクイっと飲み干しました。
「さあ、あなたもそのケーキ食べちゃって。そしたら、このお店出て、あたしのお気に入りのお店に連れていってあげる。そこでゆっくりお話しましょ」
「あ、それから、ここ出たら、あなたからもお家のほうに電話入れるようにって。あなたのお母さま、キレイな声してるわね」
やよい先生、なんだかすごく楽しそうです。
私は、残りのケーキをモグモグと大急ぎで口に入れ、冷めたレモンティーで流し込みました。

お店から出ると、やよい先生がちょこっとケータイを操作してから私に渡してくれました。
私はそれを耳にあてて、やよい先生から少し離れます。

母は、やよい先生にご迷惑をおかけしないように、ってしつこく言ってから電話を切りました。
「お母さま、何だって?」
「はい。帰るときになったらもう一度電話しなさいって。今日はホームキーパーの人が来ているので家を空けられるから、帰りは、母が駅まで車で迎えに来てくれるみたいです。それから、先生にくれぐれもよろしく、とのことです」
「ふーん。森下さん、大事にされてるねえ」
やよい先生が冷やかすみたいに笑って言います。
私は少し恥ずかしい感じです。

やよい先生が連れて行ってくれたのは、バレエ教室があるほうとは駅を挟んで反対側の出口のそば、大きな雑居ビルの地下にある、洋風の居酒屋さんみたいなお店でした。
「うーん。さすがにそのブレザーじゃちょっとマズイかなあー」
お店の入口を通り越して立ち止まり、やよい先生が学校の制服姿の私を見てそう言ってから、自分のバッグの中をがさごそしています。
取り出したのは、薄でのまっ白いロングパーカーでした。
うっすらと何かローズ系のパフュームのいい香りがします。
「そのブレザーは脱いで手に持って、このパーカーを着てちょうだい。それと、もちろん、あなたにはお酒、飲ませないからね」
やよい先生は、私が着替えるのを待って、お店のドアを開けました。

「このお店はね、個室みたいに各テーブルが完全に仕切られているから、内緒な話にはうってつけなのよ。それとラブラブなカップルにもね」
席に案内されるのを待つ間、やよい先生が私の耳に唇を近づけて、こっそりという感じで教えてくれました。
やよい先生の息が私の耳をくすぐって、ゾクゾクっと感じてしまいます。

メイド服っぽいカワイイ制服を着たウェイトレスさんに案内された席は、四人用らしくゆったりしていて、三方が壁で仕切られていて、入口の横開きの戸をぴったり閉めてしまえば完全に個室になります。
ウェイトレスさんを呼ぶときは、テーブルに付いているチャイムを押せばいいみたいで、これなら確かに誰にも邪魔されずにゆっくりできます。

「このお店はね、けっこう本格的なイタリアンなの。何か食べたいもの、ある?」
メニューを熱心に見ていたやよい先生が、メニューから顔を上げずに、もの珍しそうにまわりをキョロキョロしている私に声をかけてきます。
「いいえ、こういうとこ初めてなんで、先生にお任せします」
「あなた、何か食べられないものとかは、ある?」
「あ、いえ、なんでもだいじょうぶです」
「それなら、あたしがテキトーに選んじゃうわよ」
やよい先生はチャイムを押して、現われたウェイトレスさんに、サラダとスープとパスタとあと何かおつまみみたいなものをテキパキと注文していました。

ウェイトレスさんが去って、私とやよい先生は二人きり、テーブルを挟んで向き合います。
「先生は、このお店、よく来られるんですか?」
「よく、ってほどじゃないけどね。他の先生たちとたまあにね。こうして座っちゃえばもう、まわりを気にしないでいいし、あたしは気に入ってるんだ。味もいいほうだと思うよ」
そんなことを話していると、戸がトントンとノックされ、さっきのウェイトレスさんが飲み物を持ってきてくれました。
やよい先生は白ワインをデカンタで、私はジンジャーエールです。

「はい、それじゃあとりあえずお疲れさま。カンパーイ」
やよい先生のワイングラスと私のカットグラスが軽く触れ合って、チーンという音が室内に響きました。


トラウマと私 22

トラウマと私 20

その日のバレエレッスン。
私は、内心どきどきしながらも、なんとか無難にレッスンを受けることができました。

「ありがとうございましたーっ!」
生徒みんなでいっせいにやよい先生にお辞儀をしてから、さあ、早く着替えてやよい先生に会ってもらうお願いしなくちゃ、ってレッスンルームの出口に急ごうとすると、
「森下さん?」
やよい先生のほうから、声をかけてきました。
私は意味もなくビクっとして足を止めます。
「は、はい・・・?」
ゆっくりと振り返ると、やよい先生が薄く微笑みながら私を見つめていました。
「少しお話したいことがあるから、着替え終わったら講師室に来てくれる?」
やよい先生のほうから、私を誘ってくれています。
私は、なんだかホっとして、
「はいっ!」
と元気よく返事しました。

やよい先生のほうから講師室に呼んでくれるなんて、ひょっとして今日はツイてる日なのかもしれません。
私は、少しだけ気持ちが軽くなって、講師室のドアをノックしました。

「失礼しまーす」
声をかけながらドアを開くと、目の前にやよい先生とは違うキレイな女性が横向きに座っていて、どーぞーっ、って答えながらニコっと笑いかけてくれました。
その女の人もブルーのレオタードを着ているので、きっと次のクラスのレッスン講師のかたなのでしょう。
初めて入った講師室は、思っていたよりちょっと狭くて、真ん中に大きめのテーブルが置かれ、まわりに椅子が四脚。
お部屋の三分の二くらいがパーテーションで仕切られていて、着替えの場所になってるみたいです。
やよい先生は、レオタードの上に薄物のスタジアムコートみたいなのを羽織って、奥の椅子に座っていました。
「森下さん、いらっしゃい。ごめんね、呼びつけちゃって・・・」
やよい先生が言いながら椅子から立ち上がり、近くにあった椅子をひきずってきて、自分の前に置きました。
「たいしたことじゃないんだけどね。まあ、ここに座って・・・」
私が座ると同時に、入り口のところにいた青いレオタの女性が、いってきまーす、って言いながらお部屋を出ていきました。
やよい先生も、お疲れでーす、と声をかけます。
ドアがパタンと閉じて、お部屋にはやよい先生と私の二人きりになりました。

「そんなにかしこまらなくてもいいんだけどさ。森下さん、夏休み終わってからこっち、なんだかヘンでしょ?」
うつむいてモジモジしている私の顔を覗き込むようにやよい先生が聞いてきます。
「は・・・い・・・」
「だから、なんか悩み事でもあるのかなあ、って思ってさ。あたしで良ければ相談に乗るよ、って言いたかったの」
「・・・は、はい・・・」
私は、すっごく嬉しくなって、大げさではなく、感動していました。
やよい先生は、私のことを気に掛けていてくれたんだ・・・

「あ、ありがとうございます。じ、実は私も今日、先生にご相談したいことがあって、レッスンの後、お願いに伺おうと思っていたんです・・・」
上ずった声になってしまいます。
頬もどんどん火照ってきます。
「そうなんだ。やっぱり何か悩みがあるの?」
「は、はい。それで、良ければ近いうちに先生にお時間がいただけないかなって・・・」

私の顔をじーっと見つめていたやよい先生は、ニコっと笑って、
「それなら、これからどう?今日はこの後の個人レッスンの予定がキャンセルになったんで、あたし、この後ヒマだから。グッドタイミングね。あたしとデートしましょ?」
やよい先生がイタズラっぽく言って、魅力的な笑顔を見せてくれます。
「は、はい・・・先生さえ良ろしければ・・・」
私は、あまりにうまくお話が進み過ぎて少し戸惑いながらも、やよい先生とゆっくりお話できる嬉しさに舞い上がってしまいます。

「それじゃあ、あたし着替えたり退出の手続きとかするんで少し時間かかるから、そうね・・・駅ビルの2階の本屋さんで立ち読みでもしながら待っててくれる?本屋さん、わかるよね?」
「はいっ!」
私も愛ちゃんと帰るときにたまに寄るお店です。
「20分くらいで行けると思うから」
言いながら、やよい先生が立ち上がりました。
「はいっ!」
私も立ち上がって、やよい先生に深くお辞儀をしながら、
「ありがとうございますっ!」
と大きな声でお礼を言って講師室を出ました。
心臓のどきどきが最高潮に達していました。

本屋さんの店内をブラブラしながら、どこから話そうか、どう話そうかって考えるのですが、胸がどきどきしてしまって考えがうまくまとまりません。
そうしているうちに、やよい先生の姿が本屋さんの入口のところに見えました。
私は小走りに入口のところに急ぎます。

私服のやよい先生は、からだにぴったりしたジーンズの上下を着ていて、ヒールのあるサンダルだから背も高くなって、いつにもましてスラっとしていてカッコイイ。
胸元のボタンは3つまであいていて、中に着ている黄色いTシャツが覗いています。
「お待たせー」
駆け寄ってきた私にニコっと白い歯を見せてくれます。

「お茶でも飲みながらお話しましょう」
連れて行かれたのは、同じフロアの端っこにあるお洒落なティーラウンジでした。
お客さんはまばらで、ショパンのピアノ曲が静かに流れています。
レジや調理場から遠い一番隅っこの席に向かい合って座りました。
「何でも好きなもの、頼んでいいわよ」
やよい先生は、そう言ってくれますが、私は全然お腹が空いていません。
「えーと・・・レモンティーをお願いします」
「あら?ここのケーキ美味しいのよ?一つくらいなら食べられるでしょ?」
「あ・・・は、はい・・・」
やよい先生は、自分のためにコーヒーと、ザッハトルテを二つウェイトレスさんに注文しました。

飲み物が来るのを待つ間、やよい先生は、今日キャンセルされた個人レッスンの生徒さんが習っている課題曲が、いかに難しい曲であるかについてお話してくれていました。
私は、相槌を打ちながらもお話の中味が全然頭に入ってきません。
今日のお話次第で、やよい先生と私の今後の関係が決まってしまうんだ・・・・
心臓がどきどきどきどきしていました。

ウェイトレスさんが注文の品々をテーブルに置いて去っていくと、やよい先生はコーヒーカップに一口、唇をつけてから、私の顔をまっすぐに見つめました。
「さてと・・・それじゃあ、お話を聞かせてちょうだい」
「は、はい」
私は、ゴクンと一回ツバを飲み込んでから、考えます。
何から話始めるか、まだ決めていませんでした。
えーと・・・
どうしようか・・・

考えがまとまらないうちに、勝手に口が動いていました。
「えーと・・・やよいせ・・・ゆ、百合草先生は、レズビアン、なんですか?」
自分でも思いがけない言葉を、やよい先生につぶやいていました。


トラウマと私 21

2010年11月7日

トラウマと私 19

ようやく呼吸も落ち着いてきて、よろよろと身を起こし時計を見ると、深夜の0時になろうとしていました。

私は、後片付けを手早く済ませ、さっきまでそこに寝そべっていたバスタオルを素肌に巻いて、そーっと階下のバスルームに降りていきました。
シャワーを浴びて、汗やいろんな体液を洗い流してスッキリしてから、新しい下着を着けてお部屋に戻ります。
パジャマをもう一度着直して、電気を消して、ベッドに潜り込むとすぐ、ぐっすり深い眠りに落ちました。

翌朝、私は完全復活していました。
あの悪夢な出来事を忘れられたわけではありませんが、記憶のより深いところに格納できたみたいで、えっちなことを考えても邪魔されることはなくなりました。
私がそういうことをするお相手は女性だけ。
そんな覚悟が私の気持ちの中に定着したようです。

ただ、体育の先生の中にマッチョ体型で腕の毛もじゃもじゃな毛深い男の先生が一人いて、その先生が近くに来ると、やっぱりゾクゾクっと悪寒を感じてしまい、朝礼のときに困りました。

愛ちゃんたちグループのみんなとも、今まで通り普通におしゃべりできる、楽しい学校生活に戻っていました。

木曜日の放課後。
バレエ教室のレッスンに行ったとき、また新たな問題が発生していることに気がつきました。
私は、やよい先生に真剣に恋をしてしまっていました。

実は、バレエ教室がある町の駅に行くために愛ちゃんと二人で電車に乗っているときから、私の心の中がザワザワざわめいてはいました。
私は今日、やよい先生と普通に接することができるのだろうか?
月曜の夜、あんなに激しく具体的な妄想でイってしまった私に・・・
でもこのときは、まあその場になればなんとかなるでしょう、って無理矢理思考を停止して楽観的に考えていました。

レオタードに着替えてレッスンルームに入ると、すでにやよい先生がパイプ椅子に腰掛けて私たちが揃うのを待っていました。
私と愛ちゃんに気がつくと、ニッコリ笑って手を上げて、
「おはよっ!」
って声をかけてくれます。

その笑顔を見た途端、私の考えが甘かったことを思い知らされました。
からだ中の温度が一気に上がって、カーっと熱くなってしまいます。
そのステキな笑顔がまぶしすぎて、まっすぐに見ることができません。
胸がどきどきどきどきしてきます。
少女マンガによくある、内気な女の子がヒソカに片想いしている憧れの男の子に声をかけられたとき、そのままの反応が自分のからだと心に起こっていました。

愛ちゃんは、その場でお辞儀して、おはようございます、って自然に挨拶を返しています。
私は、動揺を隠したくて、かえって大げさになってしまい、不自然に深く上半身を曲げて、おはよーごーざいまっす、と大きな声でマヌケな挨拶を返してしまいました。
それを見て、やよい先生はアハハハって笑っていました。

私は、レッスンの間中なんとか心を落ち着けよう、普段どおりにふるまおう、レッスンに集中しよう、と一生懸命努力しました。
グループレッスンは6人クラス。
やよい先生は基本的に6人全員に向けてお話しながら、お手本を見せてくれます。
レッスンの序盤は、まだ胸がどきどきしていてぎこちない感じでしたが、時間が経つにつれて、なんとか普通にやよい先生を見れるようになってきていました。
レッスン後半は、一人ひとりの個別指導になります。
その日習ったポーズやステップを手取り足取り指導してもらいます。
私の番が来ました。

妄想で着ていたのと同じレモンイエローのレオタードを着たやよい先生が私の前に立ちました。
もうだめでした。
どきどき復活です。
私は、やよい先生の前で夢現な感じで教わったステップをやってみました。
「あらあ?みんなと一緒のときはうまく出来てたのに、今のはちょっとでたらめねえ」
やよい先生が少し苦笑いしながら、私の右腕を取ります。
「ここは、こうでしょ?」
「それで、こうして、こう。わかった?」
私の背中や太腿や、首に手を副えて指導してくれます。
一週間前までなら、これは普通のレッスン風景で、私もとくに何も感じずに集中できました。
でも今日はだめです。
やよい先生が私のからだをさわってくれるだけで、話しかけてくれるだけで心が遠いところへ逝ってしまいます。

それでもなんとか、やよい先生にご迷惑がかからないように集中しようと試みます。
でもだめでした。
やよい先生が私のウエストに腕をまわして、私のからだを支えてくれているとき、
このままやよい先生の胸に抱きつけたら、どんなに気持ちいいだろう・・・
なんて不埒なことを考えているのですから。

やよい先生も今日の私はなんかおかしい、と思ったのでしょう。
「じゃあ森下さん、このステップは、後で川上さんによーく聞いて教えてもらって、来週までに出来るようにしておきなさい」
なんだか困ったようなお顔で言ってから、早々と次の人へのレッスンに移ってしまいました。

家に帰って、私はまた途方に暮れてしまいます。
私がやよい先生を過剰に意識してしまうことがレッスンに集中できない原因なのは、自分でもわかっています。
でも、やよい先生を想う気持ちは、自分でもコントロールできない心の深い奥底から湧き出て来ているみたいで、抑えつけることができません。
こんなことをつづけていたら、きっとやよい先生に呆れられてしまいます。
呆れられるだけならまだしも、嫌われてしまうかもしれません。
それは絶対イヤです。

その週の週末。
私は、やよい先生以外の女性で妄想オナニーをしてみようと考えました。
やよい先生ばっかりに頼って妄想してるから、実生活でも過剰に意識してしまうのではないか、って思ったんです。

愛ちゃんたち5人のことを最初に考えてみました。
あの5人は、もちろんみんな大切なお友達で大好きなのですが、そういう、性的なアレとは、どうしても結びつけることが出来ませんでした。
実際、5人とのおしゃべりで、一般的な下ネタっぽいことが出ることはたまにありましたが、セックス経験があるかとかオナニーしているかとかの具体的なプライベートでの性に関する話題は、一切したことがありませんでした。
私は、愛ちゃんたち5人がオナニーを知っているかどうかさえまったく知りませんし、みんなも私がオナニーをしていることは知らないはずです。
えっちな知識が詳しそうなのは、曽根っちとしーちゃんですが、それも普段の会話を聞いている限りの話で、曽根っちはお姉さんの影響、しーちゃんはマンガからの知識っぽくて、実際どうなのかはわかりません。
いずれにしても、お友達5人は、性的妄想には向いていないようです。

それなら次はオオヌキさんです。
オオヌキさんを想ってのオナニーは、彼女たちが遊びにいらした数日後の夜にしていました。
そのときの妄想は、あのキワドイ水着を着たオオヌキさんにマッサージされているうちに、いつのまにか私も同じ水着を着せられていて、腕を縛られていて、篠原さんのフルートをアソコに入れられるというものでした。
そのときのオオヌキさんは、すごく丁寧な言葉遣いで恥ずかしがりながら、私を苛めていました。
かなりコーフンしました。
でも私がオオヌキさんに会ったのは、あのとき一回だけですし、実際どんな性格のかたなのかは知りません。
そうなると、妄想していても同じようなストーリーになってしまいがちなので、強い刺激を欲している今の私には少しキツイ気がします。

そして、そんなことを考えているうちに、私のからだがまたウズウズしてきたのですが、同時に、逃げ場所がどこにも無いことをも思い知らされました。
私のからだが性的に高揚してきたのは、愛ちゃんたちやオオヌキさんのことを考える一方で、木曜日のレッスンのときに私のからだをさわってくれたやよい先生の手の感触を、からだが思い出していたからです。

私の頭の中は、結局またやよい先生に占領されてしまい、なしくずし的にオナニーを始めてしまいました。
どうしてちゃんとレッスンを受けないの?ってやよい先生に叱られながらおっぱいを苛められて、なぜだか篠原さんのフルートをアソコに突っ込まれて、あっけなくイってしまいました。

次の週の木曜日のレッスンは、先週よりマシな状態で受けることができました。
日曜日から水曜日の夜まで、考えに考え抜いて、私は、ある一つのことを決意していました。
いつまでもどきどきした状態でレッスンを受けていると、状況は悪くなる一方です。
何かしらの打開策を講じなければなりません。

私は、やよい先生に告白することにしました。
やよい先生を大好きなこと、と、私の性癖すべてを。
全部告白して、断られたり嫌われてしまったら、それでもう仕方ありません。
だけど、やよい先生なら少なくともお話だけはちゃんと聞いてくれるはず。
それでダメならあきらめよう。
そう決意しました。

タイミング良いことに次週のレッスンは、愛ちゃんがその2週間後に迫った運動会の準備でお休みすることになり、私一人で行くことになりました。
そのレッスン後に講師室に行って、時間を作っていただけるように頼んでみるつもりでした。


トラウマと私 20

トラウマと私 18

両腕を胸の前で交差させて、両手を自分の肩にかけ、自分のおっぱいを押しつぶすようにぎゅーっと腕を押し付けます。
それからゆっくりと両手のひらを下に滑らせていきます。
脇腹を撫ぜて、おへそのあたりをやさしく愛撫して、徐々に下腹部へ近づきます。

「森下さんのアソコ、さわってもいいわね?」
私は、コクンと頷いて鏡の中の右手の動きを見守ります。

右手のひらが下腹部をゆっくりと滑り、陰毛の上で止まりました。
小さく爪をたてて、軽くひっかくみたいにジョリジョリと陰毛を弄びます。
「あはーん」
しばらくそこで停滞した後、右手がさらに下を目指してじりじりと移動していきます。
左手は、右のおっぱいを軽くつかんでやんわりともみもみしています。
左手の肘の下で、左乳首が押しつぶされてもなお尖ろうと背伸びをやめません。
ふいに右手が進路を変え、右内腿付け根あたりの肌をさわさわと撫ぜ始めました。
私は、早くアソコをさわって欲しくて堪りません。
鏡に映った自分の顔に訴えかけるように目線を合わせます。

「は、はやく、直子のアソコ、さわって・・・ください」
右手がじらすように少しずつ左方向に移動していき、やがて手のひらですっぽり覆うようにアソコの上に置かれました。
「ああーーんっ!」

「森下さんのココ、すごく熱くなってる・・・それに蜜が溢れ出しちゃってて、手のひらがもうヌルヌル」
やよい先生はそう言いながら、アソコ全体をもむように手のひらを動かしてきます。
長い薬指が肛門の寸前まで伸びています。
「ふーんんっ」
手首の手前の親指の付け根の皮膚が盛り上がっているところに、大きくなって顔を出したクリトリスがちょうど当たって、手が動くたびに土手ごと擦れて、私はどんどん気持ち良くなってきます。
「んんん・・・もっとーっ!」
私は、上半身を屈めて猫背になって、鏡の前で右手を動かしつづけます。
左手もおっぱいを中心に上半身全体を激しく撫でまわしています。
両脚がブルブル震えて、立っているのもやっとです。
「膝が震えているじゃない?そんなに気持ちいいの?そのままそこに座っちゃってもいいのよ」
私は、右手と左手は動かしたまま両膝をゆっくり折って、いったんしゃがみ込んだ後、お尻をペタンとフローリングの床に落としました。
冷たい床が火照ったお尻に気持ちいい。
その拍子に、アソコを包み込んでいる右手の中指がヌルリとアソコの中に侵入しました。
「ああんっ!」

「あらあら。指がツルって入っちゃったわよ。中がすごく熱いわ」
そう言いながら人差し指も揃えて中に侵入させてきて、中でグニグニと膣壁を陵辱し始めます。
「あんっ、あんっ、あんーっ!」
親指はクリトリスの上に置かれ、押しつぶしたり擦ったりされています。
「ん、ん、ん、んーっ!」

鏡の中に、床にぺったりお尻をついて、両脚を膝から曲げてM字にして大きく開き、その中心部分に右手をあててせわしなく動かしている裸の女の姿が映っています。
その右手の下の床には、小さな水溜りがいくつも出来ていました。
「森下さん、すごい格好ね。いやらしい・・・」
私には、やよい先生の声がはっきりと聞こえていました。
「ああーんっ、や、やよい先生・・・私を、私をイかせて、く、くださいいいいいーーっ」
右手の動きが激しくなり、くちゅくちゅくちゅくちゅ、恥ずかしい音が聞こえてきます。
左手は右の乳首をぎゅっとつまんで、強い力でひっぱっています。
「あーーっ、あーーっ、いい、いいい、いいいぃぃぃ・・・」
「もっと、もっともっとーーーっ」
私は、目をぎゅーっとつぶって、やよい先生のことだけ考えながら両手を動かしつづけました。

やがて目の前が真っ白になるような恍惚感が全身を包み、からだ全体がフワっと舞い上がるような感覚が訪れます。
「いいいい、いいいん、いくいくいくいく、いくーーーーっ!!!」
声を押し殺して小さく叫びながら、私は絶頂を迎えました。

まだ激しく上下している肩を両手で抱きながら、しばらくその場に座り込んでいました。
心の中に心地よい達成感を感じていました。
私は、やよい先生がお相手なら、ちゃんとイけるんです。
フラッシュバックがつけこんでくる隙もまったくありませんでした。

少し呼吸が落ち着いてきてから、立ち上がってクロゼットへ歩いて行き、大き目のバスタオルを2枚取り出しました。
それからベッドに行って愛用の枕を持ちます。
鏡の前に戻って、床にバスタオルを重ねて敷き、枕をその上に置きました。
今夜は、まだまだやめる気はありません。
この2週間の間感じていたモヤモヤにきっちりと決着をつけるつもりでした。
「今度は、やよい先生をイかせてあげます」
私は、小さな声でそう言ってからその場にひざまずきました。

なぜだか、ものすごく恥ずかしい格好をしたい気持ちになっていました。
それで思いついたのが、小学生のとき、お医者さんごっこの最中にお友達にやらされた四つん這いスタイル。
お浣腸の真似事のときにとらされた格好です。

私は、鏡にお尻を向けてバスタオルの上に膝立ちになります。
それから上半身を倒していって、両手を床につき、完全な四つん這いになりました。
首をひねって鏡を見ると、白くてまあるいお尻が薄闇の中にぽっかり浮いているのが映っています。
両膝を広めに開いてから、両手で支えていた上半身を両肘まで落とし、ちょうど顔がくるところにフカフカの枕を置きます。
枕の上に右向きに顔をひねって左頬を埋ずめ、両手をゆっくりとはずしました。
私のからだは四つん這いの格好から、顔面と両膝でからだを支えている惨めな格好になりました。
お尻だけが高く突き上げられています。
右向きになった顔をひねって鏡のほうに向けると、自分の両膝の間から、綴目がパックリ開いたアソコと、その上にちょこんとすぼまったお尻の穴までが映っていました。

からだの下から右腕を伸ばして、自分のアソコにあてがいました。
左手は、引力にひっぱられて下を向いているおっぱいに軽く副えます。
「これから、やよい先生のアソコも気持ち良くしてあげます。だから、もっとお尻を突き出してください」
小さな声でそう言ってから、腰に力を入れて自分でお尻をぐいっと持ち上げました。
アソコを覆っていた右手のひらの中指と薬指だけ、くの字に曲げて、ヌプっとアソコに潜り込ませます。
「あはんっ!」
まだ濡れそぼっているアソコの中をくにゅくにゅ掻き回しながら、左手で右おっぱいを激しく絞ります。
「き、気持ちいいですか?やよい先生?・・・」
私は、口ではそう言いながらも、両膝の間から見えている自分の惨めな格好の被虐感と、自分の指が紡ぎ出すめくるめく快楽に酔い痴れていました。
「あーん、いい、いい、いいいーっ」
「もっと責めて、もっと責めて、激しくしてー」
また、くちゅくちゅくちゅくちゅ、いやらしい音が聞こえてきました。
左手は、今度は左の乳首を押しつぶさんばかりに強くつまんで捻っています。
私は、枕に正面から顔を埋ずめてうーうー唸っています。
「うーんふー、うーんふー、うーんふーっ」
頭の中では、やよい先生大好き、っていう言葉だけ何度も何度もくりかえし叫んでいました。

やがて、左手もアソコに持っていってクリトリスの周辺をひっかくように、擦ってつまんで舐りまわし始めます。
右手は、アソコを叩くようににパシパシと音をたてて打ちつけながら、指の抽送のピッチをあげていきます。
両手でよってたかって陵辱されている私のアソコから、だらだらとすけべなよだれが両太腿をつたって床に滑り落ちていきます。
「んーふー、ぬーふー、ぬーふーんー、ぬんんんんんんーーーーっ!!!」

この夜二回目の絶頂は、一回目に勝るとも劣らない超快感でした。
イった瞬間にからだ中を電気みたいなのがビリビリビリっと駆け巡り、頭の中にフラッシュライトが何発もパチパチと瞬きました。

私のからだは、すべての動きを止め、その場につっぷして、からだからすべての力が抜けてしまいました。
私の意志とは関係なく、アソコの中を含めたからだ中のあちこちが、時折ヒクヒクっと痙攣しています。
やよい先生にイってもらうための妄想をしていたはずだったのに、終わってみれば結局また、やよい先生の指で私がイかされていました。

私のお腹の下敷きになっていた右手をのろのろと引っ張り出して、自分の顔に近づけてみます。
右手はグッショリと濡れて、人差し指と中指と薬指の三本が白くシワシワにふやけていました。


トラウマと私 19

2010年11月6日

トラウマと私 17

私は、お部屋のドアのところまで行って、鍵をかけました。
それからベッドのところまで戻り、再び浅く腰掛けました。

やよい先生と、もう一人の美しい女性が仲良くしている場面を想像してみます。
やよい先生のお相手の女性って、どんな感じの人なんだろう?
曽根っちから聞いたお話では、女優さんのように綺麗っていうことですが、抽象的すぎて、うまく想像できません。
仕方ないのでオオヌキさんに出演してもらうことにします。

やよい先生とオオヌキさんが隣り合って、からだをぴったりくっつけてベッドの縁に腰掛けています。
ラブホテルの内部がどんな感じなのかも私は知らないので、なんとなく豪華なお部屋、我が家の父と母の寝室を思い浮かべてみました。
照明を少し落として、薄暗い感じです。

やよい先生は、バレエのレッスンでいつも着ている鮮やかなレモンイエローのレオタード、オオヌキさんは、あの日着ていたキワドイ水着姿です。
二人は、互いに顔だけ横に向けて、じーっと見つめ合っています。

やがてオオヌキさんの手がやよい先生の胸に伸びて、ゆっくりとやさしく愛撫し始めます。
やよい先生は、目をつぶってうっとりとした表情になっています。
私も自分の右手をパジャマ越しに自分のおっぱいに置いて、ゆっくりともみ始めました。
目をつぶってしまうと、思い出したくない場面がフラッシュバックしてくるかもしれないので、自分の右手に視線を落としながら妄想をつづけます。

オオヌキさんは、両手を優雅に滑らせて、やよい先生の上半身、胸や首筋や脇腹や背中をしなやかな指で丁寧に愛撫しています。
私も自分の両手で自分の上半身をまさぐります。
だんだん気持ち良くなってきました。

やよい先生も両手を伸ばし、ほとんど裸に近いオオヌキさんの上半身を愛撫し始めました。
乳首が隠れているだけのおっぱいを下から手のひらで支えるように持ち上げて、プルンと揺らしています。
背中に回した指を背骨に沿って滑らせます。
首筋から顎にかけて、やんわりと撫ぜまわします。
オオヌキさんの眉根にシワができて、ゾクゾクするほど色っぽい表情になっています。

やよい先生とオオヌキさんは、上半身を互いに向け合い、互いの両手を伸ばして相手のからだを抱き寄せるような格好で愛撫をつづけています。
私は、自分の上半身を両手でさわさわと撫ぜまわしながら、いつの間にか両目をつぶって妄想モードに突入していました。
目をつぶってもフラッシュバックは来ないようです。
頭の中は、やよい先生とオオヌキさんの姿で一杯です。

しばらくそうしていて、だんだんと高まってきていたとき、ふいに気がつきました。
私は今まで、妄想オナニーのとき、誰かに自分のからだをさわられることばっかりを想像していたことを。
私が誰かのからだをさわる、誰かを愛撫してあげる、という発想が無かったことを。

私がやよい先生のからだをさわってあげて、気持ち良くさせてあげる・・・
やよい先生をイかせてあげる・・・
やよい先生も私をさわって、私を気持ち良くしてくれる・・・
なんて刺激的な妄想でしょう。
私の頭の中にいたオオヌキさんは、その瞬間、私自身にすり替わっていました。
私とやよい先生が抱き合っていました。

あるアイデアが閃きました。

ベッドから立って再びドアのところまで行き、お部屋の照明のスイッチを2段落として薄暗くしました。
それから、姿見の前に立ちます。
鏡の中に、薄暗いお部屋とパジャマを着た私の全身が映っています。
鏡の外の自分をやよい先生と思って、お互いにからだをまさぐり合う。
自分のいやらしい姿を自分の目で見ながら、オナニーしてみよう。
妄想に入り込んで目をつぶってしまうと、あの悪夢な場面を思い出してしまう確率も上がってしまいそうですが、こうして具体的に見るものがあれば、妄想もしやすいし、行為に集中できそうな気がしました。

パジャマのボタンを上からゆっくりと一つずつはずしていきます。
鏡に映っている、私のパジャマのボタンをはずす指は、私の指ではなく、やよい先生の指です。
すっかりボタンがはずされたパジャマをはだけます。
今夜はノーブラです。
二つの乳首がツンと背伸びして、上を向いています。
私は、鏡に映るそれを見ながら、右手を右のおっぱいに重ねます。
その手は、やよい先生の手です。
「あら森下さん、乳首をこんなに固くしちゃって、もう感じてるの?」
やよい先生の声が聞こえてきました。
バレエのレッスンのときと同じ口調です。

やよい先生の手のひらに包まれた私のおっぱい。
人差し指と中指の間に乳首を逃がして、ときどき、ぎゅーっと挟んできます。
「あーんっ!」
「感じやすいわねえ。えっちな子」
やよい先生は、薄く笑って右手をもみもみ動かします。
「私にも先生のおっぱいをさわらせてください」
左手を左のおっぱいにあてて、同じようにもみもみし始めます。

私は、自分の生身のからだと鏡に映った自分のからだを交互に見ながら、やよい先生との妄想の世界にすっかり入り込んでいました。
私の手は、やよい先生の手。
私のおっぱいは、やよい先生のおっぱい。
二人でさわり合いながら、どんどん気持ち良くなっていく・・・

鏡に映っている私の顔は、だんだんと紅潮してきます。
ときどき眉間にシワを寄せ、ときどきうっとりと目を閉じて、ときどき、うっ、と声が洩れるのをがまんして・・・
両内腿の間も充分すぎるほど潤ってきました。

「あなたは、あたしのことが好きなのよね?」
やよい先生が妄想の中で問いかけてきます。
「はい・・・」
「だったら、あたしの指でイくことができるはずよね?」
「・・・」
「あたしの目の前でイってみなさい」
「・・・はい」
「ほら、その余計なもの、全部脱いじゃいなさい。あたしも脱ぐから」

私は、上半身に羽織っていたパジャマから両腕を抜いて、まず上半身裸になり、鏡の正面に立ち直しました。
それから、パジャマのズボンのゴムに手をかけて、鏡の中の自分の姿を見つめながら、ショーツごとゆっくりとずり下げていきます。
薄い陰毛の生え始めが現れて、やがて両太腿の間まで露になっていきます。
潤っているアソコから少し漏れてしまったえっちなおツユが、ショーツ内側のクロッチ部分を濡らして一筋、私の裸の股間へとツーっと細い糸を引いて、その糸はショーツを下げるごとに伸びていき、膝まで下げたときにプツンと途切れました。

パジャマとショーツを両足首から抜いて、全裸になって、再び姿見の前にまっすぐ立ちます。
両腕を脇に垂らして、気をつけの姿勢です。
頭の中では、一生懸命やよい先生の全裸姿を想像しています。
鏡に映った自分の姿の、顔をやよい先生に修正します。
おっぱいを30パーセントくらい増量します。
下半身をもっとスラっとさせてみます。
やよい先生のアソコの毛、どんな形なんだろう?

「森下さん、ステキなからだよ。でも恥ずかしそうね」
やよい先生がハスキーな声で耳元にささやいてきます。
「さあ、今度は裸で抱き合いましょう・・・」


トラウマと私 18

2010年10月31日

トラウマと私 16

「姉貴もそのとき、すごくびっくりしちゃって、懐かしさもあって思わず声かけそうになったんだけど、こっちは仕事で向こうはプライベートだし、よく考えるとお互い気まずいシチュだしで、なんとか踏みとどまったんだって」
「姉貴は、さっき言ったみたいに髪型変わってて高校生の頃の面影全然無いから、百合草先生にはまったく気づかれなかったみたい」

「それで、その二人のことを仕事しながら露骨にならないように、チラチラと注目してたんだって」
「お相手の女性が本当に綺麗な人で、そのまま今すぐ女優さんになれそうなほど、それも誰が見ても清純派のね」
「その女性がかいがいしく百合草先生にお料理取ってあげたり、フォークで口元まで持っていって食べさせてあげたりしてるんだって」
「姉貴流に言うと、一見その女の人が攻めで百合草先生が受けに見えたけど、あの女の人は誘い受けね、たぶんベッドでは百合草先生が攻め、だって」

「とにかく久しぶりにすごくコーフンした、って姉貴ノリノリだった」
「姉貴も今まで何組かビアンカップル見たことあるけど、あんなにカッコ良くて美しいカップルはいなかったって、例えがヘンだけどタカラヅカみたいだったって」

「とまあそんなワケで、百合草先生はやっぱり名前の通り百合だった、っていうお話でしたー」
曽根っちがおどけてお話を締めくくりました。

「なんて言うか、ビミョーな話よね」
ユッコちゃんが腕を組んで思慮深げな顔になっています。
「百合草先生って、愛子たちにレッスンするときは、どうなの?なんかヘンなこととかするの?」
聞いてきたのは、あべちんです。
「まさかー。普通に熱心に指導してくれてるよ。別にえっちな目付きでもないよねえ?なおちゃん?」
「うん。そんなこと感じたことなかった」
そう答えながらも私は、今の曽根っちのお話に内心すごい衝撃を受けていました。
「そんなに綺麗な大人のカノジョさんがいるんでしょ?ワタシたちみたいな子供は、まったく眼中にないのよ、その先生」
しーちゃんが嬉しそうに言いました。

「ねえ、曽根っち?」
何か考え込むような顔をしていた愛ちゃんが曽根っちのほうに顔を向けました。
「今の話なんだけどさ、その、あんまり広めないようにしてくれるかな?」
「あたしは、百合草先生が女性とおつきあいしていても、今まで通り好きだし尊敬してることに変わりないんだけどさ、そういうのって、やっぱり気にする人もいると思うのよ」
「だから、ウワサになって百合草先生がお仕事し辛くなっちゃったりすると、アレでしょう?だから・・・」
私も愛ちゃんの横で、うんうん、と大きくうなずきます。
私も全面的に愛ちゃんと同じ意見でした。
「うん。わかったよ。じゃあこの話はアタシたちだけの秘密ね。もう誰にもしゃべらないね」
曽根っちがニッコリ笑って約束してくれました。

「ビアンカップルかー。なんか憧れちゃうなー」
しーちゃんは、相変わらず嬉しそうな妄想顔になっています。
「じゃあさ、レズっ子しーちゃんとしては、アタシたちの中だったら誰がいい?」
曽根っちが笑いながらしょーもないことを聞いています。
「うーん・・・この5人となら、誰とでもおっけーだけど・・・」
「この浮気娘!」
あべちんがすかさずツッコミました。
「誰か一人だったら・・・なおちゃんかなっ」
「おおーっ!」
4人の唸るような声を聞いて、なぜだか私の頬が赤くなってしまいます。
「なんで直子も頬染めてるんだよっ!」
ユッコちゃんが私の頭を軽くはたきました。
「残念でしたー。なお姫はわたしのモノよーん」
あべちんが私の背後にまわって、両手をブラウスの上から私のおっぱいに置いて、軽くモミモミしてきます。
「あーーん、いやーん」
私もワザと色っぽい声をあげます。
「キャハハハハ~」
6人の笑い声が誰もいないクラスの教室に響きました。

それから、久しぶりに6人揃って途中まで一緒に帰りました。
夏休み中にみんなで遊んだ、楽しいことをたくさんおしゃべりしながら。

お家に着く頃には、昨日までの憂鬱な気持ちは、ほとんど消えていました。
もちろん、父の実家でのイヤな出来事の記憶まで消えたわけではありませんが、今は、それよりももっとよーく考えてみたいことがありました。

いつもより早めにお風呂に入って、パジャマに着替えてホっとした夜の9時半。
私は、自分のお部屋でベッドに腰掛けて、愛ちゃんたちから聞いたお話について考えをめぐらせました。

ウチダっていう人の一件は、男の人ってやっぱりヘンな人が多いんだなあ、っていう感想で、私の男性に対する苦手意識、マイナスイメージを増幅するだけのものでした。
それに対して、あべちんたちが私にしてくれたことを思うと、やっぱり女の子同士のつながりっていいなあ、お友達っていいなあ、って再認識させてくれました。
そして、百合草先生のこと・・・
私はいつも、やよい先生、と呼んでいるので、ここから先は、そう呼ばせてください。

女性同士で恋人同士・・・
ラブホテルに二人で入っちゃう間柄・・・
レズビアン・・・

曽根っちがやよい先生のお話をしてくれている間中、私は、どきどきどきどきしていました。
やよい先生と女優さんみたいに綺麗な女性が恋人同士。
それはある意味、私が今まで漠然としたイメージで妄想していた理想に、一番近い現実でした。

あらためて考えてみると、私は、父の実家でのあの出来事を体験する前から、性的な妄想をするときのお相手を男性に想定したことがありませんでした。
愛撫されるときも、苛められるときも、痛くされるときも、命令されるときも、いつもお相手は女性でした。
それは、自分に似た声の知らない女性だったり、父の写真集で見たモデルさんだったり、えっちぽい映画で見た女優さんだったり、最近で言えばオオヌキさんだったり、そしてもちろん、やよい先生だったり・・・

私は、やよい先生に憧れています。
バレエを習うために母と訪れたお教室の受付で、初めてやよい先生を見たときから、ずっと憧れています。
今思うと、そういう気持ちをみんなは普通に、恋、と呼ぶのかもしれません。
そのやよい先生には、女性の恋人がいる・・・
単純に考えればショックを受けるはずなのに、私は逆にすごく嬉しく感じました。
だって、たぶんやよい先生も男性がキライなのでしょう。
男性といるより女性といるほうが好きなのでしょう。
私と同じなんです。

私は、やよい先生に、父の実家での出来事でいろいろグダグダ悩んだことや、それ以前の、誰かに裸を見られるのが好きだった子供の頃のこととか、父のSM写真集を見て感じてしまったこと、妄想オナニーがやめられないこと、などなど普段両親やお友達に隠している恥ずかしいこと何もかもすべて、話してしまいたくて仕方なくなっていました。
きっと、やよい先生なら、それらを全部真剣に聞いてくれて、私に一番合った答えを教えてくれるはずです。
何の根拠も無いのですが、私はそう確信していました。

レズビアン・・・

えっちなことをするお相手を女性に限定してしまえば、間違ってもあのグロテスクなモノが出てくることはありません。
だって女性は、最初から持っていないのですから。
お酒を飲んで深く眠り込んでしまっても、縛られてからだが動かせなくても、お相手が女性なら、アレで嬲られる心配は無くなります。

今ならちゃんとオナニー出来る気がしてきました。
やよい先生のことを考えていたら、からだが少しずつ興奮してきていました。


トラウマと私 17

2010年10月30日

トラウマと私 15

「それでね、さっきの昼休み、みんなでウチダのクラスの教室まで怒鳴り込みに行ってきたの」
あべちんが笑いながら教えてくれました。
「兄キとウチダはクラス違うから、兄キに、昼休みウチダのクラスに行って足止めしておくように頼んでさ。最初は兄キも元部員を裏切るみたいでイヤだ、ってごねてたんだけど、なお姫の写真見せたら、やる、ってさ」
「こんなカワイイ子に告られたのが本当だったら、ウチダが断わるわけがない、って笑ってたわ」

「3年生の教室に怒鳴り込むのは勇気要ったけど。みんなと一緒だし、何よりもみんな本気で怒ってたし」
「教室の後ろの窓際にあべちんのお兄さんがいたから、近づいていくと愛ちゃんが、あいつだっ!って大声上げて指さして」
ユッコちゃんもなんだか楽しそうに言います。

「それで、愛ちゃんがウチダの席の前で腰に両手をあてて見おろしながら、あんた自分でラブレター出してフられたクセに、自分がフったなんて言いふらすのは、どういうつもりなのよっ!って大きな声で怒鳴りつけてさあ」
「最初はウチダもヘラヘラしてしらばっくれてたんだけど、そのうち、うるせーなーとかふてくされ始めたんで、愛ちゃんが、あんたの書いたラブレター一字一句まで覚えてるわよ、なんならここでみんなに披露してあげようか?あと、なおちゃんにフられたときの状況も、って凄んだら、今度は震えだしちゃってさあ」

「3年のクラスの人たちも、最初は、なんなんだ?って感じだったんだけど、事情がわかるにつれて、女子の先輩たちから、うわーっ!ウチダ、サイテー、とか、クズだとは思ってたけどクズにもほどがある、とか声が聞こえ始めて、みんなで呆れてた」
「サッカー部の後輩に自慢したときに一緒にいたらしい友達もいて、なんだよおまえ、大嘘なのかよ?って大声上げて」
「あべちんが、わたしたちにきちんとあやまんなさいよっ!て詰め寄ったら、ウチダ、直立不動になって上半身90度曲げて、すいませんでしたーっ、だって」
「その瞬間、教室中、男子も女子も大爆笑だったよねー」
みんなが口々にそのときの状況を教えてくれました。
あの控えめなしーちゃんさえ楽しそうに笑っています。

「そんな感じで仇はとったから、なお姫も早く元気出してね」
あべちんが私の顔を覗き込むように笑いかけてきます。
「・・・ありがとう」
私は、なんだか感動していました。
ウチダっていう人のことは、まあどうでもいいのですが、愛ちゃんたちみんなが私のためにそこまでしてくれたことが、すっごく嬉しくて、ありがたくて涙が出そうでした。
それと同時に、少しだけど前向きな気持ちが戻ってきました。

「でも、ウチダ、あんなに追い込んじゃったから、なおちゃんのこと逆恨みしてストーカーになったりして」
曽根っちが冗談めかして怖いことを言います。
「へーきへーき。あいつにそんな根性ないって。ヘタレそのものって顔だったじゃん。わたしの兄キにもよく言っておくし、わたしたちが絶対に、なお姫守ってあげるよ」
あべちんが頼もしいことを言ってくれます。
「だからなお姫も、なんかあったらスグにわたしたちに相談しな、ね?」
「ありがとう、みんな・・・」
私は、本当に嬉しくて、思わずあべちんの両手を取って、強く握っていました。

「それにしても男子って、なんでそんなすぐバレるような嘘、つくのかねえ?信じられない」
とユッコちゃん。
「見栄をはるベクトルが間違ってるよねー」
と曽根っち。
「ああいうクズ男子見ちゃうとあたしも当分、ボーイフレンドとかいらないなあって思っちゃうよ」
と愛ちゃん。
「でも、男子がみんなウチダみたいなクズってわけではないよ」
と曽根っち。
「どっちにしても中学男子ってやっぱガキっぽいよねえ。わたしは、大人っぽい人がいいなあ。高校生とか」
とあべちん。
「今は、女子だけでワイワイやってるほうが全然楽しいよねー」
とユッコちゃん。
そうだよねー、ってみんなで言い合った後、しーちゃんがポツンと言いました。
「でもワタシ、女の子同士の恋愛でも、いいよ・・・」

「しーちゃんは、レズっぽいマンガもよく読んでるもんねー。でもBLも好きなんでしょ?」
あべちんがすかさずツッコミます。
「うーん、どっちかって言うと百合系のほうが好き、かなー。キレイだし、カワイイし」
しーちゃんがうっとりした感じで言いました。

「そうそう。百合系って言えばこないださあ・・・」
話を引き取ったのは曽根っちでした。

「愛ちゃんとなおちゃんの通ってるバレエスクールに百合草っていう名前の講師の人、いるでしょう?」
「うん。百合草先生は、あたしたちの担当講師だよ」
と愛ちゃん。
「あー、そうなんだ。じゃあこの話、ちょっとマズイかなあ・・・」
曽根っちは、じらすみたいに少しイジワルな言い方をします。
「えっ?なになに?すごく気になるんだけど」
愛ちゃんが曽根っちに食い下がります。
私もまっすぐ曽根っちを見つめます。

「百合草っていう先生、どんな感じの人なの?」
曽根っちが私に問いかけます。
「すっごくキレイで、プロポーションも良くて、しなやかな感じで、踊りももちろんうまくて、性格もさっぱりしていて頼りがいのあるいい先生、だよね?愛ちゃん?」
愛ちゃんも黙って大きくうなずきます。
「ふーん。なおちゃんも愛ちゃんもぞっこん、て感じだね。じゃあ、びっくりしないで聞いてね」

「アタシの姉貴、今、東京の大学に通っていてね、一人暮らししているんだけれど、夏休みに一週間くらい、こっちに帰って来ててね、そのときに聞いた話」
「姉貴も中学から高校2年まであのバレエスクールに通っててね、けっこう真剣にバレリーナ目指してたのね」
「でも今は、なんだかアニメのコスプレとかにはまっちゃってて、髪の毛ベリベリショートのツンツンにしちゃってるけど。そのほうがウイッグかぶりやすいんだって」
しーちゃんが目を輝かせます。
「今の姉貴なら、しーちゃんと話、すっごく合いそうね」
曽根っちもしーちゃんのほうを向いて、ニコっと笑いました。

「それで、もう一年くらい、渋谷にあるおしゃれ系な居酒屋さんでバイトしてるんだって」
「でも、その居酒屋さんって、ホテル街の入口にあるんだって。いわゆるラブホ街ね。だから来るお客さんもそういうカップルさんばっかりなんだって」
「お店に来たお客さん見ると、これからヤルのかヤった後なのか、たいがいわかるって豪語してたわ。あと、シロートなのかショーバイなのかも」
「ショーバイ、って?」
あべちんがおずおずと口をはさみます。
「だからつまり、お金もらってそういうことする女のことね。援交とか。そのお店で待ち合わせてホテルへ、ってパターンに使われてるみたいね」
「お客さんがみんなそんなだから、お金はけっこう使ってくれるみたいなのね。ほら、そういう場になれば男ってみんな見栄はるじゃない?ラブラブだったら終わった後、おしゃれなお店で美味しいものでも食べていくか、みたいになるし」
「高めの値段設定でもお客さん入るからバイト代はいいみたい。こっち来てるとき、アタシも誕生日プレゼントにブランドもののバッグ、買ってもらっちゃったし」
みんな興味シンシンで曽根っちのお話を聞いています。

「それで、8月の始めの頃、その日は姉貴、遅番だったんで夜の7時過ぎに出勤したんだって、ラブホ街抜けてね」
「そしたら、とあるおしゃれっぽいホテルから、女性が二人、寄り添うように出てくるのを見たんだって」
「姉貴はそのときは、後姿しか見なかったんだけど、二人ともスラっとしてて、片方の女性がもう片方の女性の腕に絡みつくみたいにぶら下がってて、ラブラブな感じだったって」
「姉貴は、へー、女性同士でこういうところ使うカップルも本当にいるんだなあ、ってヘンに感心しちゃったって。でもまあ、そんなの人の好きずきだからね。なんだかカッコイイなとも思ったって」

「それからお店に入って、仕事するためにフロアに出たら、どうもその女性カップルらしいお客さんが二人で奥のほうのテーブルに座ってたんだって」
「姉貴は後姿しか見ていないんだけれど、そのカップルのうちの一人の女性がすごく特徴のある柄の白っぽいノースリワンピを着ていたんでわかったんだって。スカートんとこの柄が同じだったって」
「向かい合わせの二人がけの席なのに隣同士で座っちゃって、からだぴったりくっつけてイチャイチャしてるんだって」
「でも、二人ともなんかスラっとしてて、モデルさんみたいでカッコイイから、いやらしい感じや下品な感じは不思議としなかった、って言ってた」
「そのお客さん、二人とも大きなサングラスをかけていたんで、気がつかなかったのだけれど、姉貴がそのテーブルにお料理を運んで行ったら、短い髪のほうの女性がサングラスはずしたんだって」

「それで、その顔見たら・・・間違いなく百合草先生だったんだって」


トラウマと私 16

トラウマと私 14

月曜日の朝。
少し寝坊してしまい、始業時間ぎりぎりにクラスの教室に入りました。
ものすごく投げやりな気持ちのままでした。

私のからだからは、相変わらず陰気オーラが漂っているので、休み時間になっても誰も話しかけてきませんでした。
昼休みのチャイムが鳴った途端、愛ちゃんたちのグループ全員が揃って席を立って、どこかに行ってしまいました。
私は、それを見ても何も感じませんでした。
早くお家に帰ってベッドに横になりたいな、なんて考えながら、自分の席で頬杖ついてボーっとしていました。

6時限目が終わって、そそくさと帰り支度をしていると、愛ちゃんたちが私の席のまわりに集まってきました。
私といつも遊んでくれる仲良しグループのメンバーは、愛ちゃんの他に4人います。

ユッコちゃんは、背が少し小さいけれど運動神経バツグンの明るいスポーツ少女。
運動会では愛ちゃんと二人で大活躍なクラスの人気者。

曽根っちは、背が高くて大人っぽい雰囲気で一番オマセさんかもしれませんが、私たちと一緒だと独特のボケでみんなを笑わせる三枚目役。

あべちんは、J-ポップ好きでおしゃべり好きな快活な女の子で、曽根っちのツッコミ役。
私を姫と呼んだ張本人のイタズラ好きで、私の胸やお尻によくタッチしてきます。

しーちゃんは、大人しめ控えめな美少女さんで、コミックやアニメが大好きで、絵を描くのもうまくて、テレビでエアチェックしたアニメDVDをみんなによく貸してくれます。

「なお姫、ごめんっ!」
まだ座っている私の正面に立ったあべちんが、両手を自分の胸の前で合わせて、私を拝むような格好で大げさに頭を下げてきます。
「えっ?」
私は、びっくりして顔を上げ、あべちんを見ました。
あべちんは、本当にすまなそうにからだを屈めて謝っています。
「わたしがヘンなウワサ流しちゃったから・・・なお姫に迷惑かけちゃって・・・」
私には、なんのことやら、さっぱりわかりません。
「はい?」
私は、私を取り囲むように立っている5人の顔を見回しながら、疑問符全開で首をかしげます。
「あべちん、ちゃんと説明してあげないと、直子、なにがなんだかわからないよ」
ユッコちゃんがじれったそうにあべちんに言いました。

「夏休みの最後の日に、わたしが必死こいてたまった宿題してたらさ、兄キがわたしの部屋に入ってきたの・・・」
あべちんが話始めました。
あべちんには、一つ上のカッコイイお兄さんがいて、サッカー部のキャプテンを務めていることも聞いていました。
「それで、おまえのクラスに森下っていう女子、いる?って突然聞くのよ」
「わたしはもちろん、いるよ、って答えた」
「そしたら兄キ、なんだか聞き辛そうに、その子、その、なんだ、あんまりカワイくないのか?なんて聞いてくるのよ」
「私、頭来ちゃって、なおちゃんは、姫って呼ばれるくらい可愛いし、おっとりしてて、育ちいい感じで、勉強も出来て、ちょっと天然ぽいとこもあるけど、誰に聞いても可愛いって即答するくらい可愛いらしい女の子だ、って言ってやったのよ」
私は、面と向かってそんなことを言われて恥ずかしくなって、うつむいてしまいます。

「で、なんでそんなこと聞くのか、って兄キを問い詰めたの」
「そしたら、兄キが言うには、その2、3日前に学校でやってるサッカー部の練習に顔出したんだって・・・」
「3年生は夏休み前までで引退だから、練習はできないんだけどね。ヒマだったから差し入れのアイス買って、ちょこっとからかいに行ったんだって」
「で、休憩のときにアイス食べながら、2年生の部員たちとおしゃべりしてたら、後輩の一人が、ウチダ先輩ってスゴイんですねえ、って言い始めたんだって」
ウチダ?
なんだか憶えのあるような、ないような名前・・・

「なんでも、そのウチダってやつも、夏休みの真ん中頃に下級生の練習見に来たんだって。なんとかって友達と一緒に」
「それでそのとき、夏休み中に2年生の女子から告られたんだけど、好みじゃないからフってやった、って自慢げに話していったんだって」
「ウチダとその友達っていうのは、結局3年間サッカー部にいてもレギュラー取れなくて、そもそも女子にもてそうだからサッカー部にいただけ、みたいないいかげんな奴ららしいんで、後輩たちも話半分で聞いてたらしいけど」
あべちんは、そこでいったん言葉を止めました。

「それでね・・・」
あべちんは、言い辛そうにまた話始めます。
「その、ウチダがフった女子の名前が森下だ、って兄キが言うのよ・・・」
「そ、それは・・・」
私は、思わず大きな声が出てしまいます。
すかさず愛ちゃんが私の肩にやさしく手を置いて、わかってるから、って言うみたいに私を見つめながら二度三度、大きくうなずいてくれました。
私は、話の先を促すようにあべちんを見つめます。

「わたしだって、まさかあ、と思ったわよ。なお姫が誰か男子に告る姿なんて、想像もつかないし・・・」
「その話聞いちゃったから、夏休みの宿題どころじゃなくなっちゃって、おかげで先週は先生たちに叱られて、追加の宿題までもらって散々だったわ・・・」
あべちんが私を見てほんの小さく笑いました。

「でもね、夏休み終わって学校に来たら、なお姫は確かになんだか落ち込んでるみたいだし、わたしたちとはロクにおしゃべりもしないでスグ帰っちゃうし・・・」
「夏休みも後半は、なお姫、わたしたちと全然遊んでなかったじゃない?」
「・・・ひょっとしたら本当なのかも、って思えてきちゃったのね。今考えれば、さっさと直接なお姫に聞けば良かったんだけどさ」
「それで、曽根っちやしーちゃんにもしゃべっちゃたのよ」
「2年の他のクラスじゃけっこうウワサになってるみたいでさ、わざわざうちのクラスまでなお姫の顔、見に来た奴らもいたみたい」
それでなんだかみんなよそよそしいような、居心地悪い感じがしてたのか・・・
「うちのクラスには、幸か不幸かサッカー部に入ってる男子がいないのよねえ。いたらそいつにもう一度確かめたんだけど・・・だから、余計になお姫には聞き辛くって」

「で、それをユッコと愛子に初めてしゃべったのが金曜日の放課後。愛子が木曜日にバレエ教室一緒に行ってたから、何か知ってるかなあと思って・・・」
「そしたら愛子、すごい剣幕で怒り始めちゃってさあ・・・」
「だって、あたし、その場にいたんだもんっ!」
愛ちゃんが待ってましたとばかりに、話し始めます。

「あのガキっぽい手紙の文面も覚えてるし、なおちゃんがあいつに手紙つき返したのに、あいつ受け取らなくて、封筒が地面にヒラヒラ落ちてったのも全部見てたもんっ!」
「だいたい自分から呼び出しといて、遅刻してくるって、なんなの?何様のつもりよっ!それで今度は、自分からフったなんて言いふらして・・・ぜーったい許せないっ!」
愛ちゃんはどんどんコーフンしています。
あべちんが、まあまあ、と愛ちゃんの背中をさすりながら、話を戻します。
「愛子に聞いたら、なお姫が沈んでいるのは、アレだったのと、おじいさまが亡くなったせいだって教えてくれて、わたし、そのウチダってやつがどうにも許せなくなっちゃってさあ」

「それで、土曜日にあべちんの家にみんなで集まって、どうしてやろうか、って話し合ったのよ」
ユッコちゃんが言いました。
「あべちんのお兄さんも交えてね。それで・・・ね」
曽根っちが愉快そうにニヤっと笑いました。


トラウマと私 15

2010年10月25日

トラウマと私 13

土曜日の夜。
考えごとが一段落して一息ついて、ゆっくりお風呂に入ってからお部屋で身繕いしているとき、あるアイデアが浮かびました。

激しいオナニーをして思いっきりイったら、あんな出来事、忘れられるかもしれない・・・

そのとき私は、ブラとショーツを着けてコットンのパジャマの上下を着ていました。
まったくムラムラは感じていなかったのですが、試してみたい気持ちが大きく膨らんできました。
時刻は、夜の11時少し過ぎ。
この時間なら、母も、珍しく家にいる父も、私の部屋に来ることはまずありません。
さっき階下のお風呂から出たとき、すでにリビングの灯りは消えていました。
おそらく父と母は、防音されている寝室にいるはずですから、多少大きな声が出てしまってもだいじょうぶなはずです。

念のためにドアに鍵をかけて、窓の戸締りを確かめてからベッドの縁に腰掛けました。
パジャマの上から、おっぱいをサワサワと撫ぜてみます。
ゆっくり、やさしく撫でまわしていると、だんだんとその気になってきました。

パジャマの上下を脱いで、下着姿でベッドに上がり、仰向けになりました。
電気を消してしまうと、あの日の状況に似てしまうので、明るいままにしておきます。
上半身をやさしく撫ぜつづけます。
ブラの上からおっぱいを軽くもみしだきます。

頭の中では、ミサコさんたちが我が家に来たとき、お昼寝したときに見たオオヌキさんとの夢をイメージしていました。
頭の中をステキなオオヌキさんの、あの大胆な水着姿で一杯にしようと努力しました。
ブラをはずして、おっぱいや乳首をじかにさわり始めます。
あくまでやさしくソフトに、日除け止めを塗ってくれたときのオオヌキさんの指のイメージで・・・

乳首も少し勃ってきたし、ショーツの下のアソコも少しだけ潤ってきたようです。
ゆっくりとショーツも脱いで、足首から抜きました。
全裸です。
右手を徐々に下のほう移動していきます。
あくまでやさしく、あくまでソフトに。
頭の中は、オオヌキさん一色に染まっていました。
これならだいじょうぶ。
気持ちいい。

右手でやさしく薄い陰毛をなぞり、左手で左のおっぱいをやわらかく掴みます。
乳首を軽くつまんで、少しだけひっぱります。
「あんっ」
じらすようにゆーっくりと、右手の指の先がアソコの亀裂の割れ始めまで届いたとき・・・

唐突に思い出しました。
私、あのとき確かにあの男に、アソコも弄られていました。
イヤな夢を見ながら感じたイヤな感触が一気に甦りました。
クリトリスをぞんざいに擦るザラザラとした感触・・・

その途端に、自分でさわっているおっぱいへの愛撫もザラザラとした感触に変わりました。
もう両手は動かせません。
同時に、頭の中のオオヌキさんを蹴散らして、あの場面が大きくフラッシュバックしてきました。
あのイヤな臭いまで漂ってくるように感じます。
「いやっー!」
私は思わず起き上がり、両手で顔を押さえました。

しばらく呆然としていました。
エアコンは効いているのに、じんわりとイヤな汗もかいていました。

かなり長い間、ベッドの上で呆けていたと思います。
ふっと我に返り、そそくさとバスタオルで全身を拭いて、ショーツを穿き、ブラはしないでパジャマの上下を着て、お部屋の電気を消し、ベッドに横になりました。

私、この先、アソコをさわるたびに、あんな悪夢を思い出さなければいけないのでしょうか?
私、これからずーっとオナニーできないのでしょうか?
私、イくことはもう一生できないのでしょうか?
・・・あんまりです・・・

ベッドに寝転んで、天井を見上げながら、頭の中で何度も何度も同じ言葉がくりかえされていました。
それ以外、頭の中は、真っ白でした。
あのフラッシュバックさえ入り込んで来れないのが、救いと言えば救いでした。

いつ眠りに落ちたのか、わかりません。
たぶん明け方近くだと思います。
目が覚めたのは、翌日の午前11時過ぎでした。
晴天でした。
気分はサイテーでした。

日曜日の午後を無気力に過ごして、その夜。
あきらめきれない私は、もう一つの方法を試してみました。

父のお部屋から持ち出してきた2冊のSMの写真集を見て、初心を取り戻そうと考えたのです。
最近は、あの写真集を見ながらオナニーすることは滅多にありませんでした。
気に入った写真はすべて、頭の中に叩き込まれているので、オナニーのときの妄想では大活躍していましたが、もう一度実際に写真を見ることで新鮮に感じられるかもしれません。
写真を見ながら、初めてオナニーで激しくイってしまったときみたいにどんどん興奮できれば、今、私を苦しめているおぞましい出来事の記憶も頭から追い出せるかもしれない、という目論見でした。

勉強机に向かって椅子に座って、あえて自分のからだにはまったく触れず、じっくり写真を見ていきました。
性的に興奮してきたらすぐ、服を脱ぐつもりでした。
2冊を1度づつ、時間をかけて眺めました。
ムダでした。

逆に、こんな風に縛られたところにあの男がやってきたら・・・
なんて、今まで考えたこともなかった妄想が広がって、恐怖のほうが勝ってしまい、性的に興奮するどころではありませんでした。
眉根にシワを寄せたモデルさんたちの表情も、今までは苛められて悦んでいるように見えていたのですが、今日は本当にイヤがっているようにしか見えませんでした。

そのうちに、なんだか自分がやっていること、考えていることがすべて、すごくバカバカしく思えてきて、写真集をしまい、さっさとパジャマに着替えてベッドに寝転びました。

何もかもがつまらなく感じていました。


トラウマと私 14

2010年10月24日

トラウマと私 12

夏休みの残り数日を、煮え切らない悶々とした気持ちと、生理で重くだるくなったからだとで過ごしました。

母や父の前では、なるべく沈んだ素振りを出さないようにしていましたが、お部屋で一人になると、どうしてもあのときのことを考え始めてしまいます。
考え始めると、ちょっと疑問に思う点とか、調べてみたいことがいくつか出てきました。
もちろん、できることなら、きれいさっぱり忘れてしまいたい記憶でした。
瞼に焼きついたように離れないあのおぞましい場面を、なんとか思い出さないように、頭のずーっと隅に追いやろうと努力しました。
でも、一度湧いてしまった疑問や、私の五感に残る感触の真相は、調べずにはいられないものでした。

愛ちゃんたちから、遊びのお誘い電話もあったのですが、生理で体調が良くないから、と母にお断りしてもらいました。

二学期の始業式の日も、まだ生理は終わっていませんでした。
私は、沈んだ気持ちで学校へ行き、帰りの時間になるのをひたすら待ちました。
どこかに寄って遊んで行こう、って誘ってくれる愛ちゃんたちに、ちょっと家庭の事情があって、と嘘をついて、まっすぐに町の図書館に飛び込みました。
翌日の放課後も・・・次の日も。

木曜日は、愛ちゃんと一緒にバレエ教室に行きました。
「なおちゃん、夏休み明けてから、なんだか元気ないみたいねえ」
愛ちゃんが聞いてきてくれます。
「何か悩み事?」
「うーん、そういうワケじゃないのだけれど・・・私、今アレだから・・・ちょっと、ね」
生理は2日前に終わっていました。
「それに、夏休みの終わりに、大好きだったおじいさまが亡くなってしまって、それもちょっとね」
大好きだった、ていうのは嘘です。
「ふーん、そうなんだ・・・」
愛ちゃんも一緒に沈んだ顔になってくれます。

私は、愛ちゃんになら、全部しゃべってしまってもいいかな、とも思っていました。
でも・・・
しゃべったからと言って、どうなるワケでもないし、かえって愛ちゃんを心配させてしまいそうだし・・・

バレエのレッスンにも、やっぱりあまり身が入りませんでした。

金曜日になると、クラスのお友達も心なしか、なんだかよそよそしい感じになっているように思えました。
今の私、陰気だもの・・・
あまり近づきたくないと私でも思うでしょう。
その日の放課後も一人で図書館に行きました。

週末に自分のお部屋で一人、今まで図書館で調べた成果と、私が悶々と考えていた仮説について、真剣に検討してみました。

まず、あのとき私のからだをヌルヌル、ベトベトにしていた液体の正体です。
私は、からだに射精されてしまったのでしょうか?
精液についていろいろ調べました。
図解が付いているページは、その図を他の本で隠しながら、文字だけを追いました。
今の私は、たとえ簡略な図だとしても、アレの形を見たくありませんでした。

精液は、白濁、または薄黄色気味の粘り気のある液体で、栗の花のような匂いがする、ということでした。
あのとき私のお腹を汚していた液体は、ヌルヌルはしていましたが、ネバネバまではしていなかった気がします。
色は、辺りが真っ暗だったのでよくわかりませんが、電気を点けてから見たときは、透明でした。
でも、精液は時間が経つと透明になる、とも書いてありました。
すると、あれは一回射精されて、時間が経ったものなのでしょうか?

同じページに、射精の前に分泌される、カウパー氏腺液、とういうのも出ていました。
こっちは無色透明無臭で、糸を引くほどヌルヌルしていると書いてありました。
いわゆる、感じたとき、にまず出てくる液だそうで、女性の愛液と同じようなものなのかな?
私は、こっちのほうがアヤシイと思いました。

白濁した液、という字面を見て、自分のえっちなお汁のことも思い出しました。
オナニーを何度かして、慣れ始めた頃、少し長めに熱心にアソコを指でクチュクチュしていると、透明だった液がだんだん白く濁ることがありました。
そのときも最初はずいぶんびっくりして、まさかヘンな病気?とか思って、すぐに図書館で調べました。
他のなんとかっていう液が混じって白濁することもあるが異常ではない、と書いてあって安心したものでした。

次に匂いです。
あのとき鼻についたイヤな臭いの正体は?
精液の匂いは、栗の花の匂いに似ている、と書いてありましたが、私は、栗の花がどんな匂いなのかを知りません。
花が咲くのは6月上旬頃だそうなので、嗅ぎにいくこともできませんでした。
カルキの匂い、と書いてある本もありました。
カルキの匂いっていうと、プールの消毒液の匂いのはずです。
あのとき、そんなケミカルな匂いは感じませんでした。
もっと、生々しい、ツンとくる、なんていうか獣じみた臭いでした。

いろいろ調べると、わきが、っていうのがありました。
いわゆる、腋の下の臭い、の強いやつみたいです。
そう言われれば、そんな感じでした。
体育の時間、汗びっしょりの男子から漂ってくる臭いをもっと強烈にした、みたいな。
これが男性の匂いなのでしょうか?
男性にも体臭が強い人と弱い人がいるようですが・・・

私が眠っている間、からだをさわられていたのは確実のようです。
あのイヤな夢の中ででの感触は、リアルすぎました。
Tシャツをめくられても、ショーツを下ろされても気がつかなかったくらいですから、さわられててもしばらくは、気がつかないくらい深く眠っていたのでしょう。
やっぱりワインのせいなのかな?
お酒はもう飲まないほうがいいな、と思いました。

さわられるだけならまだしも、ひょっとすると舐められたりもしていたかもしれません。
あのとき、私の上半身を覆っていたヌルヌルの液体は、よだれっぽくも感じました。

結局、確かなことは何一つわからないのですが、一応こういう結論にしました。
あの日、私のからだを汚した液体は、私の汗と、知らない男の汗と、よだれと、カウパー氏腺液、で、射精はされなかった。
根拠は、精液の臭いを感じなかったことと、男のアレが勃っていたこと。
ひょっとしたら舐められはしたかもしれない・・・

ここまで考える間も、私は、何度も悪寒でからだをゾクゾク震わせていました。

もしも、もう少し目が覚めるのが遅かったら、私はどうなっていたんだろう・・・
そう考えた瞬間、からだをゾクゾクゾクーっと強烈な寒気が襲いました。

男性のモノは、みんなあんなにすごいのか?という疑問もありました。
本には、日本人成年男子の平均は、勃起時13~15センチとありました。
定規を見ると、これでもけっこうな長さです。
そして私が見たのは、そんなものじゃありませんでした。
それに太さも・・・

でも、この疑問は、これ以上真剣には、考えられませんでした。
本気でズキズキと頭が痛くなってきてしまうんです。

最後の疑問は、あの男の正体でした。
と言っても、あの日あの場所にいた男性の中で私が知っているのは、父とワインのおじさまだけなので、わかるはずはないのですが、後になって考えていたら一つだけ、引っかかることがあるのに気がつきました。

母は、ワインに酔った私をお部屋まで連れて行った後、ドアに鍵をかけずに戻ったのか?
普通に考えると、母の性格から言って、鍵はかけていくと思います。
私物のバッグとかも置いてありましたし、母が戻ってきたときも私が鍵をかけていたことに関しては、何も言いませんでしたし。
鍵がかかっていたとすると、あの日、私の寝ているお部屋に入って来れるのは、かなり限られた人だけになるはずです。
すなわち、あのお屋敷に住んでいる身内の人、もしくは使用人の人・・・
その中で、体格が良くて筋肉質で毛深くて体臭がキツイ男性、がいたら、その人は限りなくクロです。
その男が一言だけ発した声は、意外と若い声に聞こえました。
これでかなり絞り込めるかもしれません。

母がうっかり鍵をかけないで戻ったのなら、この仮説はまったく無意味になります。
父と母に聞いてみようか・・・
しばらく真剣に悩みました。

お部屋の中をウロウロ歩きながらさんざん迷った挙句、やっぱり、やめておくことに決めました。
犯人がわかったところで今さら、起こったことが無かったことになるわけでもないし・・・
いずれにしても、父の実家にはもう二度と行かない、と心に決めました。

一通りの結論を一応出したので、ほんのすこーしだけ気持ちが落ち着きました。
そして、この出来事を体験したおかげで、苦手なものがずいぶん増えてしまったことがわかりました。

まず、毛深い男性、がダメになりました。
木曜日に愛ちゃんとバレエ教室に行ったときも、電車の中で吊革に掴まっている男の人の半袖の腕にどうしても目が行ってしまいました。
それで、もじゃもじゃと毛深い人がいると、それだけで背筋がゾワゾワっときてしまいました。

同じように、男の人の体臭にも過敏になりました。
あのときと同じような臭いがちょっとでもすると、逃げ出したくなってしまいます。

筋肉質の男性にもあまり近寄りたくありません。

雷様は、以前から苦手でしたが、輪をかけてダメになりました。
とくに稲妻は、条件反射であの場面を呼び起こしてしまいます。

もちろん、男性のアレに関しては、無条件でパスです。
この先二度と見たくない、と思いました。

一番深刻な被害に気づいたのは、土曜日の夜中でした。

私、オナニーができなくなっていました。


トラウマと私 13

2010年10月23日

トラウマと私 11

シャワーを止めて、そろそろ出ようと思いました。
オシッコがしたくなりました。
隣にあるトイレに行こうか、と一瞬迷いましたが、なんだか面倒になって、はしたないけれどここでしちゃうことにしました。

シャワーを再び強くほとばしらせてから、その場にしゃがみました。
アソコの奥がウズウズっとしました。
オシッコが出てきました。
生理も来てしまいました。

もう一度全身にシャワーを浴びてからバスタオルをからだに巻き、お部屋のドアを少し開いて顔だけお部屋に出しました。
「ママ、生理が来ちゃったの。私のかばんの中からアレ取ってくれる?」
母は、ベッドの縁に浅く腰掛けてボンヤリしていました。
「あらあらそうなの?大変ねー。ちょっと待っててね」
台詞とは裏腹にのんびりと立ち上がると、私のかばんをガサゴソして、ナプキンを手渡してくれました。

ナプキンをあててから新しいショーツを穿いて、母に借りたブルーのTシャツを素肌にかぶります。
胴回りがゆったりしていて、丈が私の膝上まであって、いい匂いがします。
私は、からだがスッキリした開放感と、生理が来てしまったどんより感がないまぜになった、中途半端に憂鬱な気分でお部屋に戻りました。

ヨシダさんは、喪服のワンピースのままベッドに仰向けに、タオルケットを掛けて寝かされて、軽くイビキをたてていました。
「なおちゃん、お疲れさま。シャワー気持ち良かった?ママもやっぱり、シャワーしとこっかなあ」
母が欠伸をしながら、自分のバッグの前にしゃがみ込みました。
「ママがシャワーしている間に、なおちゃん、お布団敷いておいてくれる?今夜は二人、枕並べて寝ましょう」
「はーい」
私は、ちょっとだけ嬉しくなります。

母がバスルームに消えて、私は、髪や顔のお手入れをした後、お布団を並べて二つ敷きました。
そのお布団の上に座って、やれやれ、と一息ついたとき、コンコンとドアがノックされました。
私は、ビクっと震えます。
今は、あんまり知らない大人の人とは、お話ししたくない気分です。
「は、はーい」
一応大きな声で返事します。
「おっ、直子か?ドア、開けてくれ」
父の声でした。

父の後から、やさしそうな感じのキレイなお顔の喪服の女性も微笑みながらお部屋に入ってきました。
「直子、誰だったっけ?って顔をしてるな。忘れちゃったか?オレの妹の涼子」
「直子ちゃん、お久しぶりね」
その女性がニコニコ笑いながら、私にお辞儀してくれます。
私もあわててペコリとお辞儀しました。
 
涼子さんのお顔は、確かに言われてみれば、なんとなく父に似ていました。
くっきりした瞼の線とか、鼻筋とか、細い顎とか。
父がもし女性だったら、こんなお顔になるのかあ。
この人の旦那様がさっきの全体にまんまるい感じのワインのおじさまなんだあ。
私は、そんなことを考えてヘンに感心してしまいます。

「そろそろ直子たちが風呂に入る頃かな、と思って様子を見に来たんだけど、ここのシャワー使ったんだ」
「パパたち、昨日、見張りしてくれてたんだって?」
「ああ、なんかこの辺り、ヘンな奴が出没するらしいからな。でもまあ、シャワーしたんなら、今夜は見張り、しなくていいな」

それから三人で、今敷いたお布団の上に座って、しばらくお話をしました。
質問役は、主に涼子さんでした。
何年生になったの?から始まって、好きな科目は?とか、普段は何してるの?とか、ボーイフレンドいるの?とか。
私がバレエを習っている、と告げるとすごく興味を持ったみたいで、いろいろ聞いてきました。

涼子さんは、本当にやさしそうで、おっとりとしていながら好奇心も強いみたいで、どことなく母に感じが似ている気もしました。
私は、すぐに涼子さんのことが好きになりました。

父は、喪服から着替えて、ワインカラーのポロシャツにカーキ色のバミューダパンツを穿いていました。
お葬式が無事終わってホっとしているみたいで、お酒が入っているせいもあるのでしょうが、ずいぶんリラックスしているみたいでした。
私と涼子さんの会話に、ときどき冗談で茶々を入れて笑っています。

私は、あぐらをかいて座っている父の、バミューダパンツから伸びている脛から上の部分や、ボタンを全部はずしているポロシャツの襟元から覗く肌にチラチラと視線を投げていました。
父は、やっぱりあまり毛深くありません。
私は、心底良かったと思いました。

そうこうしているうちに、母もシャワーから出てきました。
私とおそろいのTシャツを着ています。
でも、母のほうが胸がばいーんと出ていて、数段色っぽいです。

母も交えてしばらく4人で雑談していました。
涼子さんたちも途中まで帰る方向が一緒なので、帰りは、父の車に同乗していくことになりました。
「ねえパパ、私、明日の朝、早くにお家帰りたい。知らない人のお家だから、なんだか疲れちゃった・・・」
私は、思い切って父に言ってみました。
一刻も早く、このお屋敷から立ち去りたいと思っていました。
「そうね、それになおちゃん、アレが来ちゃったから、ね」
母が援護してくれました。
「アレ?」
父が一瞬首をひねってから、あわてて言いました。
「そうだな。オレも帰って揃えなきゃならない資料もあるし、兄キたちと顔合わすとまたゴタゴタした問題を押し付けられそうだしな・・・早めに出るか」
父も賛成してくれました。
明朝6時に出発することになりました。

父たちがお部屋を出て行って少ししてから、ヨシダさんが目を覚ましました。
「なおちゃん、ごめんなさいねえ、ベッド」
「いいえ。だいじょうぶですから。今夜は母とお布団で寝ます」
ヨシダさんは、照れたように笑いながらおトイレに入って、しばらくして戻ってくると、のろのろとワンピースを脱いでゴソゴソと浴衣に着替えました。
「まだ、全然お酒抜けないから、今夜はこのまま先に休ませてもらうわ。おやすみ、なおちゃん」
まだ真っ赤なお顔を私に向けて、ニっと笑ってからベッドに横になると、タオルケットをかぶって横向きに丸くなりました。
すぐに寝息が聞こえてきました。

その夜は、母と枕を並べてお布団に入りました。
母は、しばらく、父と出会った頃の思い出話を聞かせてくれていましたが、やがて先に眠ってしまいました。

取り残されて、お布団の中で目をつぶっていると、やっぱりどうしてもあのときの場面が瞼の裏に浮かんできてしまいます。
私は、他のことを考えようと努力しました。
小学生の頃のことや、バレエのことや、愛ちゃんたちと遊んだことや、オオヌキさんたちのことや・・・
でも、他のことを考えようとすればするほど、かえって鮮明にさっきのあの場面が頭の中を占めてしまって、うまくいきません。
その場面が浮かぶたびに、生理的な嫌悪感に頭もからだも支配されてしまいます。
また、他のことを考えようと努力します。
同じことを一晩中、何度もくり返しました。
眠気をまったく感じなくなって、私は一人、お布団の中に丸まって、ひたすら朝がやって来るのを待ちました。

腕時計を見て、5時半になって、私は、お布団から上半身を起こしました。
あれから一睡もできませんでした。
母ものそのそと起き上がりました。

朝の支度をいろいろ済ませて、6時5分前にお庭に出ると、もう父と涼子さんたちが待っていました。
ワインのまあるいおじさまがニコニコ笑って手を振っています。

母が運転して、私が助手席、父と涼子さんと旦那様が後部座席に座りました。
知らない中年のおじさま二人とおばさま一人が、お庭で見送ってくれました。
私は、どうしてもそのおじさまたちを注意深く観察してしまいます。
体型や腕の毛深さから言って、彼らはシロみたいでした。

車の中では、涼子さんの旦那様が絶え間なく面白い冗談を言ってくれて、和気藹々な感じでした。
途中、ファミリーレストランでゆったりと朝食を取って、高速道路に入ってからは、涼子さんの旦那様のお仕事のお話にみんなで興味シンシンでした。
ワインのまあるいおじさまは、テレビ局の偉いディレクターさんだそうで、いろんな有名タレントさんのウワサ話や大きなニュースになった事件の裏話を聞かせてもらいました。
私は、だんだんと眠たくなってきていたのですが、お話が面白くて、ずっと起きていられました。

高速道路を途中で降りて、涼子さんたちを最寄の駅前まで送っていきました。
駅でお別れするとき、涼子さんが近い内に我が家に遊びに行く、って約束してくれました。
私はすっかり、ワインのまあるいおじさまと涼子さんご夫婦の大ファンになっていました。

来た道を戻って、再び高速道路に乗り直します。
今度は、父が運転して母が助手席。
私は、後部座席に移って、やがてぐっすり眠り込んでしまいました。


トラウマと私 12

トラウマと私 10

ゴンゴン、とドアを強くたたく音で目が覚めました。
私は、ベッドの上に座ったまま脱力して、またうつらうつらしてしまっていたようです。

「なおちゃーん、ちょっと鍵、開けてくれないー?」
母の大きな声がドア越しに聞こえました。
私はあわててドアに駆け寄り、鍵をはずします。
とりあえず今は、何もなかったフリでいよう、と決めました。
外開きのドアをそーっと開けると、母が誰か女の人と寄り添うように立っていました。

「ヨシダのおばさまが酔っ払ってしまわれて、ね」
母の肩に腕を絡めてしなだれかかっているのは、昨夜このお部屋に一緒に泊まったおばさまがたのうちの一人でした。
「ベッドに腰掛けさせてあげたいから、なおちゃん、ベッドの上、お片付けしてくれる?」
私は急いでベッドの上をささっと手で払い、たるんでいたシーツを伸ばしました。
ヨシダのおばさまは、へべれけでした。
薄目を開いて、ぐでーっとしたまま、なんだか嬉しそうなお顔をしています。
母がおばさまをベッドの縁に座らせると、そのままコテンと上半身をベッドに倒して動かなくなりました。
すぐにかすかな寝息が聞こえてきました。

「雨が小降りになったから、やっとみなさん、お帰りになり始めたわ」
「ママ、鍵持ってるのだけれど、ヨシダさん支えていたからポッケに手を入れられなくて」
「今夜はみなさん、ほとんどお帰りになるみたい。今夜泊まっていくのはパパの親戚筋のかたたちだけみたいね」
「あのワイン、美味しいから、ママもちょっと飲みすぎちゃったー」
母は、着替えをしながら脈絡の無いお話を投げかけてきます。
私の返事は別に期待していないみたいです。

「昼間のマイクロバスで全員、駅まで送ってくださるんだって」
「そうそう、さっきのカミナリさま、スゴかったわねー」
「きっと近くに落ちたのよ」
「今夜このお部屋に泊まるのは、ヨシダさんと私たちだけだって」
お酒のせいでだいぶテンションが上がっているみたい。

黒いワンピースから生成りなコットンのシンプルなワンピースに着替え終えた母は、言葉を切って、まじまじと私の顔を見つめてきました。
「なんだかなおちゃん、ちょっと顔色、悪いわねえ。まだ気持ち悪いの?」
「ううん。そんなことないけど・・・」
母の口から、ほんのりアルコールの香りが私の鼻に届きます。
私は、さっきの出来事を誰にも話さないことに決めました。
今さら話しても、もうしょうがないし・・・

「ねえ、ママ。私、お風呂に入りたい・・・」
「うん?」
「寝る前にエアコンのタイマーかけたから、起きたときは切れていて、汗びっしょりだったのね・・・だから、早くお風呂、入りたいの・・・ママと一緒に」
私は、母の顔を上目使いに見ながら言いました。
「そう・・・ママ酔っ払っちゃったから、今日はお風呂、いいかな、って思ってたのだけれど・・・でも、なおちゃんが入りたいって言うんなら・・・つきあってあげよっかー?」
母がニコっと笑って、そう言ってくれました。

「だけど、もう少し、そうねえ、あと30分くらいがまんしてね」
「今は、お帰りになるかたたちや宴会の後片付けで、お屋敷中がバタバタしてるから・・・」
「身内のかたたちばかりじゃなくて、知らない人たちもたくさんいるから、ね・・・」

それから母は、急にイタズラっぽい顔になって声をひそめました。
「前に、大おじいさまの何回目かの法要のときにも、泊りがけで盛大な宴会をしたことがあったんだって・・・」
「そのときにね、夜にお風呂に誰か女性が入っているとき、お風呂覗こうとした人がいるらしいの・・・」
「パパのご親戚筋の女性のみなさんは、美人さんばっかりだからねえ・・・」
「だから、なおちゃんも今お風呂に入ると、覗かれちゃうかもよ?」
母が冗談めかして笑いました。
私は全然、笑えません。

母は、そんな私の表情には無頓着にお話をつづけます。
「昨夜もリョーコさんたちがお外で見張っていてくれたのよ、私たちがお風呂に入っているとき」
「リョーコさん、て?」
「パパの妹さん。ほら、さっき、なおちゃんにワインを勧めてくれたおじさまがいたでしょう?あの人の奥様。とてもお綺麗なかたよ」

昨夜使わせていただいたお風呂は、すごく広くて立派で、檜造りのすごく大きくていい匂いがする浴槽で、まるでどこかの温泉宿みたいでした。
お庭に面したところが大きな曇りガラスの窓になっていて、開けたら露天風呂みたくなるねー、なんてのんきに母と話していました。

「昨夜もお通夜に来られたお客様が何人か、夜になってもお庭でブラブラされてたでしょう?」
「リョーコさんとパパが窓のところでおしゃべりしながら、ヘンな人が近づかないように見張っていてくれたんだって」

「それにしても、男の人ってお酒入ると子供みたいになっちゃうのねえ」
母が何か思い出したみたいにクスクス笑いながらつづけます。
「さっきも酔っ払った何人かの人たちがワイシャツとか脱ぎ出しちゃって・・・中にはズボンやパンツも脱いじゃう人がいてね」
「ヘンな踊りを踊りだすの・・・もう可笑しくて可笑しくて」
母は口元を押さえてクツクツ笑っています。
「なおちゃん、いなくて正解だったわよ」

「ねえママ、宴会の人の中にランニングシャツの人はいた?」
私は、思わず聞いてしまいました。
「うーんと、みなさんワイシャツ脱いだらランニングシャツだったわねえ・・・でも、ランニングシャツがどうかしたの?」
「・・・ううん・・・なんでもないけど・・・」
その中にスゴク毛深い人はいた?
とは、やっぱり聞けませんでした。

母は少し訝しげな顔をしていましたが、突然、明るい声で言いました。
「そうだ!なおちゃん。シャワーでいいなら、このお部屋で浴びれるわよ」
「えっ?」

「ここのところをね・・・」
お部屋のドアのところまでスタスタ歩いていった母は、お部屋の突き当たりの木製の壁の端っこに手をかけてスルスルっと横に開きました。
今まで壁だと思っていた向こうに、またお部屋があるみたいです。
私も母のところまで歩いていきます。

そこは、一段下がってタイル敷きになっていて、その向こうに8帖くらいの空間があり、半分がトイレとシャワー付きのユニットバス、廊下で仕切って半分が流しやオーブンレンジとか小さな冷蔵庫が置いてある簡易キッチンみたいになっていました。
「なおちゃんに、ここにおトイレがあるの、教えてなかったけ?」
私は、このお屋敷に着いたときに教えてもらった、母屋のお風呂場のそばにあるトイレに、いつもわざわざ渡り廊下を歩いて通っていました。
「そっかー、ごめんね。お湯が出ることは昨夜確認したから、今すぐ入りたいなら使わせてもらえば?」
「うん」
「パパはね、ここに住んでいるときは、ほとんどこの離れにこもってて、よっぽどの用事で呼ばれない限りめったに母屋には顔を出さなかったらしいのよ」
母は、何が可笑しいのか、嬉しそうにまたクスクス笑いながら、冷蔵庫から日本茶のペットボトルを取り出しました。

「ねえママ、何かパジャマ代わりになるものある?このTシャツ、汗かいちゃったから、もう着たくないの・・・」
母は、自分のバッグをガサガサやって、丈長めのあざやかなブルーのTシャツを貸してくれました。
母がいつも付けているコロンのいい香りがします。
私は、それと新しいショーツを持ってバスルームに入りました。

シャワーを最強にして、熱いお湯にしばらくからだを打たれました。
さっきの感触をすべて、できれば記憶ごと、洗い流して欲しくて仕方ありませんでした。
でも、目をつぶっていると瞼の裏に、さっきの場面がまざまざと浮かび上がってきてしまいます。
私は、イヤイヤをするように激しく顔を左右に振ります。
気を取り直して、タオルに石鹸を擦り付けてゴシゴシゴシゴシ、首から下全体をしつこく洗いました。
乳首を擦っても、股間を洗っても、えっちな気分になんて微塵もなりませんでした。
ついでに、さっきまで着ていたピンクのTシャツと穿いていたショーツも丹念にゴシゴシ洗います。
ワインの酔いも、もうすっかり消えてなくなっていました。
髪も洗って、ぬるま湯にしたシャワーを頭から全身に浴びていると、すこーしだけだけど気分が落ち着いてきました。


トラウマと私 11

2010年10月18日

トラウマと私 09

目が覚める寸前まで、すごくえっちな夢を見ていました。
それは、ミサコさんたちがお泊りに来た約2週間前のあの日、お昼寝したときに見た夢と似ていました。
ただ、不思議なことに、まったく気持ちいいとは思えない夢でした。

私のからだをさわっているのは、オオヌキさんやともちゃんの手ではなくて、なんだかもっとザラザラした感触の何かでした。
私は全裸で、なぜだかからだが動かせません。
M性の強い私ですから、今までにも何度か同じような状況の夢は見ていました。
からだが動かせなくて身悶えしながらも、いつしかそのやさしい愛撫に負けて気持ち良くなっていく、というのがパターンでした。
けれどこの日見た夢は、違っていました。
私は、必死にもがいて、その手から逃げ出そうとしていました。
ザラザラした何か、による愛撫がすごくイヤな感じだったんです。

動かないからだを必死にくねらせて、その愛撫から逃れようとします。
それでも、その何かは執拗に私のからだを撫で回してきます。
「やめて、やめて、やめて・・・」
声を出そうとしているのですが、なぜだか声も出せません。
「やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ・・・」
私はそう叫んでいるつもりなのに、夢の中では、
「うーん、うーん、うーん、うーん・・・」
という呻き声にしかならないのです。
私は、もうそれ以上どうにも耐え切れなくなって、最後の力を振り絞りました。
「やめてーーーーーーーっ!」
叫べた、と思った瞬間、両目がパチっと開きました。

真っ暗でした・・・
今、自分がどこにいるのかわかりません・・・
一瞬の間を置いて、ザーーっというラジオのノイズみたいなのが私の耳にフェードインしてきました。
そうだ、ここは父の実家のお部屋で、聞こえているのは雨の音、私はベッドの上、私はワインを飲んで・・・

次の瞬間、私のからだの異常に気がつきました。
私は、ベッドに仰向けに寝ていました。
掛けて寝たはずのタオルケットがありません。
パジャマ代わりのTシャツが首のところまでまくり上げられていました。
ショーツが両膝までずり下げられていました。
全身汗まみれでした。

えっ!?
ちょ、ちょっと、なに、これ・・・
と、同時に鼻をつく、酸っぱいような、生臭いような、不快な臭いに気がつきました。
愛ちゃんに連れていってもらって覗いた真夏の運動部の更衣室みたいな臭い・・・

私は、からだを起こそうとしました。
その瞬間に何か、たぶん生き物、の気配を近くに感じました。
ベッドの傍らに・・・誰かいる・・・

そのとき、激しい稲妻がピカピカピカーッとベッド脇の窓から射し込んで、ベッド付近を数秒、明るく照らしました。
ベッドの傍らに立っている、誰か、の姿が闇にくっきりと浮かび上がりました。

太い二本の脚は、太腿のいたるところまで毛むくじゃらでした。
がっしりとした腰まわりから脇腹も引き締まった、筋肉質っぽい体型でした。
おへそから上は、窓から射し込んだ閃光の陰になってしまい、よく見えませんでした。
白っぽいTシャツ?ポロシャツ?をおへその上までまくっていました。

そして・・・

軽く開いた両太腿の付け根の間から、お腹とほぼ平行にまっすぐに天を突いてそそり立つ、太いゴツゴツした棍棒のような物体が生えていました。
それは、何か禍々しい爬虫類のように全体にゴツゴツしながらもヌラヌラとぬめっていて、先のほうで一回くびれていました。
根元のほうは、三分の二くらい硬そうなもじゃもじゃの毛でびっしりと覆われていて、その毛は、お腹をつたい、おへその上までつながっていました。
棍棒の先のほうは、まさに大きな亀の頭そっくりで、濡れてテラテラと赤黒く光っていました。
膝から下もよく見えませんでしたが、どうやら下着、たぶんブリーフを自分の膝のところまで下げているようでした。

嫌な生臭さが一段と強くなりました。

稲妻の光が消えてお部屋に暗闇が戻ってきたとき、その何者かが、
「うわっ!」
と小さく低く声をあげました。
それと同時に、私の裸の左脇腹に、傍らに立つ何者かから垂れてきたらしい液体が一滴、ポタりと落ちました。

私がありったけの声で悲鳴を上げるのと、凄まじい音の雷鳴があたり一面に響き渡るのと、同時でした。

雷鳴が響くと同時にまた、鋭い稲光が窓に走りました。
ベッドの傍らにいた男は、ガサガサっと大きな音をたててその場を飛び退き、ズボンをずり上げながら脱兎の如くドアから出て行く後姿が、稲光のおかげで見えました。
上半身は、白いランニングシャツでした。

私がもう一度悲鳴をあげようしたとき、再びバリバリバリと更に大きな雷鳴が轟きました。
私は、盛大にビクっとして、タイミングを逸してしまいました。

それでも、あわてて上半身を起こし、両手で裸の胸をかばいます。
汗なのか、何なのか、おっぱいからお腹にかけてヌルヌル、ベトベトです。
悲しいことに、乳首が勃っています。

急いでアソコに手をやります。
じっとりと湿っています。
でも、アソコに何か入れられたりは、していないみたいです。

ショーツを上げて、ベッドに座り直して、しばらく脱力してしまいました。

頭の中では、今すぐ母のところへ行って今のことを話して、犯人を捕まえてもらわなければいけない・・・
と、わかっていました。
でも、からだが動きませんでした。
ショックが大きすぎました。
初めて間近で見た・・・大人の男性のアレの・・・

あんなにグロテスクなものだとは、思っていませんでした。
私が見たことあるのは、子供の頃見た小学生のと保健の教科書に載っていた解説図。
いわゆる勃起した状態のソレは、見たことありませんでした。

初めて見たソレは、禍々しすぎました。
邪悪で汚らしい、どこか遠い星から侵略に来た巨大水棲生物の触手のよう。
大人になって恋愛したら、愛情の確認として、あんな醜悪な、あんな気味の悪いものを私のアソコに受け入れなくてはならないのでしょうか?
第一、私のアソコにあんな太くてゴツゴツしたモノが入るわけありません。

稲妻がピカッと光るたびに、今さっき見た場面がフラッシュバックします。
鼻をつく臭いまで甦ります。
そのたびに私は、両目をギュッとつぶって両膝に顔を埋めます。
つぶった両方の瞼の裏にも、その場面が鮮明に焼き付けられてしまっていて、私には逃げ場がありません。

とりあえず一刻も早く、この汚されたからだをシャワーでキレイに洗い流そうと思いました。
シャワーを浴びよう、と思ったとき、ここが自分の家ではないことに気がつきました。
あまりに気が動転していて、お部屋の電気を点けることもエアコンを入れ直すことも忘れていました。

手探りで天井の灯りからぶら下がっている紐をひっぱると、見慣れないお部屋が目の前に広がりました。
そう、ここは父の実家の父のお部屋でした。
エアコンもつけます。
エアコンが止まっていたということは、ベッドに入ってから一時間以上は経っているはずです。

そうだ、シャワーだった。
バスタオルを出そうと思って手が止まりました。
お風呂場は昨日、母と一緒に入ったから場所はわかっています。
でも、もしも私が一人で入っているのを知って、あの男がまたやって来たら・・・

私は、Tシャツをまくり上げて、胸とお腹と背中を乾いたバスタオルで入念に拭きました。
それから、ショーツを少し下げて下半身も入念に拭い、またショーツを穿き直しました。
エアコンが効いてきて、汗が引いていきます。

母も同室のおばさまたちの誰も、まだお部屋に帰って来ないということは、まだ宴会がつづいているのでしょう。
さっきのすごく大きな雷鳴も宴会の喧騒に紛れてしまったのでしょうか。
私の悲鳴も・・・

今、母のところに行って、これこれこういうことがあったと訴えたとします。
母の性格ですから、絶対うやむやにはせずに、徹底的に犯人を捜すでしょう。
父は、実家とあまり折り合いが良くないみたいです。
今日は、父のお父様のお葬式です。
そんな状況で、宴会の真っ最中にヘンな騒ぎをおこしてしまったら・・・

私は、どうすればいいのか、まったくわからなくなってしまいました。

窓の外では、雨がザーザー降りのようです。
雷様は、おさまったみたい。
私は、窓のカーテンをピッタリと閉めました。
お部屋のドアの鍵もかけました。

私は、このお部屋から出られなくなってしまいました。
ベッドの上に正座で座りました。
私には今、母だけが頼りです。
「早く帰ってきて・・・ママ・・・」
涙が一粒、ポタリと落ちました。


トラウマと私 10

2010年10月17日

トラウマと私 08

顔を真っ赤にした小柄なおじさまが空のコップ片手に一人、フラフラと私たちのほうにやって来ました。
おばさまたちにビールを注いでもらって、しばらくワイワイやっています。

そのうちに、いつのまにか私と母のお膳の前に座り込んで、声をかけてきました。
「おやぁ、直子ちゃん。大きくなったねえ」
真っ赤な顔をニコニコさせています。
お腹が突き出た小太りの典型的な中年のおじさまです。
まん丸いツルツルした愛嬌のあるお顔で、悪い人ではなさそうです。

「何年生になったの?」
「中二です・・・」
うつむきがちに答える私。
やっぱり、知らない大人の人との会話は苦手です。
「直子ちゃんも、ママに似て美人さんだねえ」
私は、恥ずかしくなってうつむきます。
「おじさんのこと、覚えてる?」
私に顔を近づけて覗き込もうとするおじさまに、まわりのおばさまたちが、
「ほら、なおちゃん、困っちゃったじゃない」
「なおちゃん、酔っ払いは嫌いだってさー」
「あんた、ちょっと飲みすぎだよっ」
と笑いながらおじさまを叱って、助けてくれました。

おじさまは、乗り出していたからだを戻して、照れ笑いをしながら薄い頭を掻いています。
それから、イタズラっぽく笑ってこんなことを言いました。
「そうだ、直子ちゃん。ワイン飲んでみる?美味しいよ」
まわりのおばさまたちは、
「またあんたはっ!何考えてるの?」
「子供にお酒すすめて、どうするのっ!?」
と今度はさっきより真剣な口調で、口々におじさまを叱ってくれました。

私は、飲んでみたいな、ってなぜだか思いました。
母の顔を見ます。
「なおちゃん、飲んでみたい?」
私は小さく頷きます。
ちょっと考える風をしてから母は、
「それなら、いただいてみれば?帰るのは明日だし、今夜はゆっくり寝れるし、ちょっとなら大丈夫でしょう。何事も経験よ」
と言って、私の頭に軽く手を置きました。

嬉しそうな顔になったおじさまは、お部屋の端のほうに置いてあるクーラーボックスから、わざわざまだ口の開いていない白ワインのボトルを持ってきてくれました。
オープナーでコルク栓をくるくると開けてくれます。

「これは、すごくいいワインだよ」
言いながら、大きめのワイングラスに半分くらい注いでくれます。
「これはね、おじさんがケチなんじゃないんだよ。ワインはね、香りも楽しむお酒だから、一度にたくさん注いじゃいけないの」
「ワイングラスの半分ちょっと下くらいがベストやね」
「それで、飲むときは、グラスのこの脚のところ持つんだよ。それがエレガントなレディのマナー」
おじさまが得意げに説明すると、またおばさまたちから、
「あんたの口からマナーなんて言葉、聞きたくないねっ!」
「いつもそんなこと言って、飲み屋で女の子たぶらかしてんでしょ?」
「リョーコさんに言いつけるわよっ!」
いっせいにイジメられています。
このおじさま、おばさまたちに人気あるみたい。

受け取ったグラスを言われた通りに脚のところを持って、母の顔を見ました。
母が頷きます。
私は、おそるおそるグラスを自分の唇に近づけていきます。
その場のみんなが私に注目しています。

葡萄のいい香りが私の鼻をくすぐります。
唇についたワイングラスを少し上に傾けると、冷たい液体が口の中に流れ込んできました。
酸っぱくて、ちょっと苦くて、かすかに甘味もあって。
美味しいと思いました。

「どう?」
おばさまの中の一人が聞きます。
「・・・美味しいです、とても」
小さな声で答えます。
「そう。やっぱりなおちゃん、お母さん似ねー」
「このあと、からだがポカポカして気持ち良くなってくるから」
「でも、本当は20歳になるまで飲んじゃいけないのよ」
おばさまたちがまた、いろいろ言っています。
母も微笑みながら私を見ています。

その間に、グラスに残っている液体をゆっくりと飲み干しました。
「もう一杯飲むかい?」
空になったワイングラスを見て、おじさまが調子に乗って聞いてきます。
私は、また母の顔を見ました。
母は、今度はきっぱり首を左右に振りました。

それが合図だったかのように、その場の話題は私から離れて、おばさまたちがまた違う話題でおしゃべりし始めます。
おじさまも立ち上がって、私にヒラヒラと片手を振ると、またフラフラと他のグループのほうへ歩いて行きました。

その姿を見送りながら私は、顔が急激に火照ってくるのを感じていました。
からだ中がポカポカしてきて暑いくらいです。
そして、なぜだか急激に眠くなってきました。

「あらー、なおちゃん、顔真っ赤」
母の声で、目が開きました。
どうやら、その場で数分間うつらうつらと居眠りしてしまっていたようです。
「あらあら、なおちゃん、お部屋に戻って、しばらく横になってなさい」
「・・・うん」
私は、立ち上がろうとしますが、からだ全体に力が入りません。
胸の鼓動がすごく早くなっている気がします。
「しょうがないわねー。初めてのお酒だし、ま、仕方ないか」
母は、私の片腕を肩にかけて抱き起こしてくれました。
「ちょっと、直子を部屋で休ませてきます」
おばさまたちにそう告げて、私をよいしょっとおぶってくれました。

「なおちゃん、知らない間にずいぶん重くなったわねえ」
母は、そんなことを言いながら、私を背負って渡り廊下をゆっくり歩いていきます。
母におんぶされるのなんて、何年ぶりなんだろう?
私は、猛烈に眠たい頭ながらも、すっごく嬉しく感じていました。

お部屋に着くと、なんとか一人で立てました。
「ちゃんとお着替えしてから、ベッドに入りなさいね。そのまま寝たらワンピース、シワシワになっちゃうから。一人でできる?」
母がやさしく聞いてくれます。
「うん。なんとかだいじょうぶみたい。ママありがとう。ごめんね」
「一眠りして、具合良くなったらまた、一緒にお風呂に入りに行きましょう。ママ、もう少し宴会のお付き合いしてくるから、何かあったら呼びにきなさい」
「はーい。それじゃあとりあえずおやすみなさーい」
「はい。おやすみ」
母は、ゆっくりとお部屋を出て行きました。

私は、少しよろけつつ、ワンピースを脱いで、胸もなんだか息苦しいのでブラジャーもはずしました。
全身がほんのりピンク色に火照っていました。
パジャマ代わりに持ってきていた丈長め、ゆったりめのピンクのTシャツを頭からかぶります。
エアコンのタイマーを一時間にセットして、電気を消してベッドに潜り込みました。
ベッド脇にある大きなガラス窓を、強風に吹かれた雨が時折強く打ちつけているようで、パラパラと音がします。
雷鳴は聞こえませんが、稲妻がときどき光っているみたい。

「カーテン閉めたほうがいいかなあ・・・」
なんて思いながらも、ズルズルと眠りの淵に引き摺り込まれていきました。


トラウマと私 09

2010年10月16日

トラウマと私 07

いろいろと楽しかった夏休みも、終わりが近づいてきた8月下旬、悲しいお知らせが我が家に届きました。
父のお父さま、私から見ればおじいさま、が病気で亡くなったっというお知らせでした。

父の実家は、現在私たちが住んでいる町から車で、高速道路を使って3時間くらいの山間の町にあります。
父は、四人兄弟の3番目。
上の二人はお兄さまで、下は妹さん、年齢はそれぞれ2、3歳づつくらいの差だそうです。

父にちゃんと聞いたことはありませんが、父は、この数年間ずっと実家に帰るのを避けているように見えました。
あまり実家に近寄りたくないみたい。
私が憶えてる限りでは、私を連れて行ってくれたのは、小学校の低学年の頃に一回だけ。
とても広くて立派なお屋敷だったのは、薄っすらと憶えていますが、おじいさまやその他の親戚の人たちのことは、お顔も含めて何も憶えていません。

父も母も、自身の実家のことについては、ほとんど話題にしませんでした。
母がたまに、結婚前の思い出を聞かせてくれるくらい。
私もあえて聞く必要も無かったので、今に至るまで、両親の実家のことは、よく知らないままです。

そんな父でもさすがに、お父さまがご病気だったことは、知っていたのでしょう。
母が父の実家から電話をもらい、すぐに父のケータイに電話をしたら、すごく冷静だったそうです。
その日父は、珍しく夜の8時前に家に帰ってくると、どこかに何本か電話をしていました。
翌日朝早く、親子3人で父の実家へ行くことになりました。

8月最後の金曜日の早朝、父の運転で父の実家に向かいました。
篠原さん親娘もご一緒に、とお誘いしたらしいのですが、ともちゃんがカゼ気味らしく、様子を見て、なるべく明日の告別式だけは参列したい、ということになったそうです。
篠原さんは、亡くなったおじいさまのお姉さまの次男の娘さん、だそうで、私から見ると、はとこ、になるのかな?

途中、サービスエリアでゆったりと朝食を取ったり、高速道路を降りてからは、有名なお城跡に寄り道したりして、その間、まったくおじいさまとは関係の無いお話ばかりしてて、父の実家の門をくぐる頃には、午後の3時を回っていました。
父は、本当に実家に帰るのがイヤなんだなあ、ってよくわかって、ちょっと可笑しかったです。

数年ぶりに訪れた父の実家は、やっぱり広大なお屋敷でした。
丁寧ににお手入れされた立派な樹木が立ち並ぶ石畳を抜けると、広いお庭に出て、何人ものお客様が入れ替わり立ち代り、お庭を右往左往していました。
お家も和風で、一見、大きなお寺みたいな立派な造り。
お庭に面した廊下を隔てた20畳以上ありそうな畳敷きの大広間で、お通夜の準備が始まっていました。

父は、なんだか急に忙しそうで、こっちに着いてからは、知らない男の人たち数人とずっと一緒に行動していました。
母は、幾人かの人たちとご挨拶を交わしていましたが、私は、誰一人として知りません。
私と同じくらいの年齢の男女もちらほらいましたが、誰が誰やら全然わかりません。
なので、私はその三日間ずっと、母にぴったりくっついていました。

着いた日の夕方からお通夜で、すごくたくさんの方々が訪れてきました。
花輪がたくさん飾られて、聞いたことあるような政治家さんの名前もちらほら見えました。
父の会社の名前のもちゃんとありました。
お通夜の仕切りは、専門の人たちがやっているので、私と母は、父のご親戚のかたたちにご挨拶をしてしまうと、まったくヒマになってしまいました。
母も、なんとなく居心地悪そうです。
仕方ないので、大広間の隅っこに並んで座って、二人で小声でテーマ別しりとりをしながら時間が過ぎるのを待ちました。

その夜は、お屋敷に泊まりました。
他にも何人ものかたが、泊まっていくみたいです。
私たちが案内されたのは、大広間から渡り廊下を隔てた離れにある、ベッドが一つだけ窓際に置かれた広い洋風のお部屋でした。
「ここは昔、パパのお部屋だったそうよ」
母が教えてくれました。

そのお部屋に私と母、それに母より年上な知らないおばさま3人と泊まりました。
夕ご飯もお膳をそのお部屋まで運んで来てくれて、そこで食べました。
おばさまたちは皆、気さくな人たちで、
「なおちゃん、本当に大きくなったわねえ」
「この前会ったときは、こんな小さかったのにねえ」
「もうすっかり、女性のからだつきねえ」
などと、口々に言ってくれます。
でも、私は彼女たちが誰なのか全然わかりません。
私にベッドを使わせてくれて、母と3人のおばさまたちは、フカフカの絨毯の上にお布団を敷いて寝ていました。

次の日がお葬式で、車で20分くらいのこれまた大きなお寺に参列者みんなで移動しました。
お屋敷に集まっていた人たちだけでマイクロバス5台が満席、すごい人数です。

「ねえママ、この人たちみんな、あのお屋敷に昨夜泊まったの?」
私がびっくりして聞くと、母は、
「まさかあ。半分くらいの人は今日来られたんじゃない?そう言えば、篠原さんは、来られたのかしら?」
生憎の曇り空で湿気が強く、今にも雨が降り出しそうな蒸し暑い日でした。

お寺では、篠原さんたちと会うことができたので、少しホっとしました。
お葬式の間は、ともちゃんとずっと手をつないでいました。
ともちゃんも黒いワンピースを着ていて、カゼがまだ直りきっていないのか、いつもの元気がありませんでした。

告別式が終わると、篠原さん親娘は、ともちゃんの調子も良くなさそうなので、火葬には立ち会わずにそのまま帰っていきました。
私たち家族は、もう一泊して、明日朝早く帰ることになりました。

夕方からは、お屋敷に戻った人たちが集まり、大宴会になりました。
精進落とし、と言うそうです。
昨夜お通夜をした大広間に、ずらっとお膳が並んでいます。
入りきれなかった人は、廊下に座っています。
100人くらいいるのかな?

大きな祭壇が設えられて、最初は、お坊さんが出てきてブツブツお経をあげていました。
それが終わるとお食事となり、大人たちがお酒を飲み始めて、ワイワイガヤガヤし始めます。
私は母の隣に座り、黙ってお料理をいただいていました。
普段はあまり食べない和食な献立でしたが、お腹が空いていたので、すごく美味しかった。
母は、ビールのグラスを持って知らないおばさまたちとお話しています。
私たちのいる一角は、女性ばかりです。
昨日一緒に泊まったおばさまのうちの一人もいます。
お料理を食べ終わり、退屈になってきた私は、あのお部屋に戻って横になりたいなあ、なんて考えていました。

お外は、空が一段と暗くなって雨が降りだしたみたいで、パタパタと屋根を打つ雨のかすかな音と共に、ときどきピカピカ光る稲妻が天井近くの明かり窓を走っているのが見えました。


トラウマと私 08

トラウマと私 06

バスタオルと新しい下着とお風呂セットを入れた布袋を持って階段を下り、バスルームに入ろうとしたら、電気が点いていて、誰かが先に使っているみたいでした。
喉も渇いていたので、ダイニングに飲み物を取りに行くことにします。
リビングに通じるドアが開いていて、リビングでは、母とミサコさんだけが並んでソファーに座っていました。
二人とも湯上りのようで、母は黒の、ミサコさんは白のゆったりしたTシャツに、ボトムは二人とも黒のスパッツ。
テレビには、フラを優雅に踊っている外国の女性の映像が映っていて、ハワイアンな音楽が低く流れていました。
たぶんDVDでしょう。

「あら、なおちゃんお風呂入りたいの?今は、タチバナさんたちが入っているから、もう少し待っててね」
母が私を見て言います。
「夕ご飯は、篠原さんがおソーメン茹でていってくれたから、それを適当にね。おツユとか全部冷蔵庫にあるから。あとは、ダイニングのテーブルにあるものをお好きに」
「ともちゃんが、お帰りにおねーちゃんにご挨拶するってきかないから、なおちゃんのお部屋行ったけど、ぐっすり眠ってたから、起こさなかったって言ってたわ」

私は、リンゴジュースを注いだコップを持って、母たちの正面に座りました。
タチバナさんとオオヌキさん、一緒にお風呂入ってるんだ・・・
あ、でも女性同士だしお友達同士だし、何にもおかしくはないか・・・
寝起きのボーっとした頭でそんなことを考えていると、ミサコさんが聞いてきました。

「ねえ、なおちゃん。あなたボーイフレンドとか、いるの?」
「えっ?」
私は、ちょっとあたふたしてしまいました。
「えーと、私は、今は、そういうの、ぜんぜん興味ないって言うか・・・」
「あらあ、そうなの?でもなおちゃん、カワイイからもてるでしょ?アナタも心配よねえ?」
母に話を振っています。
「そうねえ・・・でもまあ、そういうのって、なるようにしかならないから、ね」
母は、のほほんとそう言って、視線をテレビに戻しました。

リビングのドアが開いて、タチバナさんとオオヌキさんが戻ってきました。
「あーさっぱりしたあ」
タチバナさんはピッチリしたブルーのタンクトップにジーンズ地のショートパンツ姿。
胸の先端がポチっとしていて完璧ノーブラです。
でも全然隠す素振りもありません。
オオヌキさんは、バスタオルを胸から巻いたままの姿です。
湯上りのためか、上気したお顔で相変わらず、もじもじと恥じらっています。
脱衣所にお着替えを持って入るの、忘れちゃったのかしら?

「それじゃあなおちゃん、お風呂入っちゃえば?」
母がのんびりと言いました。
「はーい」
私は、コップを戻すために一度ダイニングに戻って、ついでに洗ってシンクに置いてから、今度はリビングを通らず廊下に出て、リビングのドアの前を通ってバスルームに向かいました。

リビングの前を通ったとき、
「今度は、どれを着てもらおうかなあ?」
という、ミサコさんかタチバナさんらしき声が聞こえてきました。
えっ?どういう意味?
やっぱりオオヌキさんって、誰かの言いなりな着せ替えごっこ、させられてるのかなあ?
私は、またドキドキし始めてしまいます。

バスルームに入ると、いつもとあきらかに違う香りが充満していました。
香水というか、シャンプーというか、体臭というか・・・
それらが一体化した、我が家のとは違う、まったく知らない女性たちの香り。
今日のオオヌキさんの一連の行動や、さっき見た夢、今リビングの前で聞いた言葉・・・
それらが頭の中で渦巻いて、ムラムラ感が一気に甦ってきました。
私は、強いシャワーでからだを叩かれた後、バスタブにザブンと飛び込んで、声を殺して、思う存分自分のからだをまさぐってしまいました。

ずいぶん長湯をしてしまいましたが、ムラムラ感もあらかた解消されて、お腹も空いてきました。
夜の8時ちょっと前。
自分の部屋で丁寧に湯上りのお手入れをしてから、パジャマ姿でダイニングに行きました。
リビングへのドアは閉じていましたが、母たちは、どうやらお酒を飲み始めたようで、DVDのBGMの音量とともに話す声のトーンも上がっていました。
誰かの噂話とか、お仕事関係のお話のようでした。
聞くともなく聞きながら、おソーメンをズルズルと食べました。
冷たくて美味しかった。

食べ終えて、お片付けしてから、一応みなさんにご挨拶しておこうとリビングに顔を出しました。
テーブルの上にワインやブランデーの瓶やアイスペール、缶ビールが乱雑に置いてあります。
「あらーなおちゃん、うるさかった?」
ミサコさんがトロンとした目で言います。
「いえ。だいじょうぶです。楽しんでください」
オオヌキさんは、どんな格好をしてるのかなあ、ってワクワクしながら見てみると・・・
昼間のと同じような、乳首がかろうじて隠れるだけなデザインの白い、たぶん今度のは下着で、上にグレイっぽい渋いアロハを羽織っていました。
下半身は、床にぺタっと座り込んでいるので見えません。
私は、ちょっと期待はずれでした。
「直子ちゃん、本当にカワイイわねえー」
私と目が合ったオオヌキさんが黄色い声で言います。
オオヌキさんは、もうけっこう酔っ払っているみたいです。
今は全然恥ずかしそうでもありません。

「ママ、私は明日、愛ちゃんたちと電車で遊園地に遊びに行くから、朝の九時頃には出かけちゃうから・・・」
「あらー?、もしかしてデート?」
タチバナさんが聞いてきます。
「い、いえ、女の子6人で、です」
「へー、それじゃあナンパされちゃうかもしれないわねー」
ミサコさんも嬉しそうに言ってきます。
私は、苦笑いを浮かべてから、
「だ、だから、もしもママたちが起きてなかったら、そのまま行っちゃうからね」
「はーい。了解ー。楽しんでいらっしゃーい」
母も陽気です。
「それでは、みなさんおやすみなさい。ごゆっくりー」
「はーい、おやすみー」
皆が口々に言ってくれます。
私は、自分の部屋に戻りました。

明日、遊園地に着て行く服の準備や、日記を書いていたら10時をまわっていました。
寝る前にトイレに行ったついでに、今日着たレオタードをバスルームの脱衣所にある洗濯カゴに入れに行くと、リビングの灯りは点いているのに、しんとしていました。
覗いてみようかと一瞬思いましたが、やめときました。

さっきお昼寝したから、なかなか寝付けないかなあとも思っていましたが、ベッドに寝転んで、村が発展すると町になるから、ムラムラが強くなるとマチマチだ、って書いてたのは誰の本だっけかなあ、なんてくだらないことを考えていたら、いつの間にか眠っていました。

翌朝、顔を洗うために階下に降りると、しんとしていました。
リビングを覗くと、テーブルの上もすっかり片付けられています。
歯を磨いたり身繕いを整えてから、一応母の部屋を小さくノックしてみました。
返事はありません。
鍵もかかっていなかったので、そーっと開けてみました。
誰もいませんでした。

愛ちゃんたちと待ち合わせている駅に向かいながら、考えました。
母たち4人は、おそらく父と母の広い寝室で一緒に寝たのでしょう。
それはそれで、別におかしなことではありません。

でも、オオヌキさんの存在が私のイケナイ妄想を駆り立てます。
昨日一日、ほとんど裸のような格好で過ごしていたオオヌキさん。
いえ、過ごすことを命じられていた、なのかもしれません。
そんなオオヌキさんとあの寝室に入ったら、少なくともミサコさんとタチバナさんは、大人しく眠るはずがない、と思えて仕方ありませんでした。

オオヌキさんと私は似ている・・・
ということは、今、私が考えているようなことをオオヌキさんも期待していた?

駅の切符売り場の壁にもたれて、そこまで考えたとき、おはよう、って愛ちゃんが声をかけてきました。
私は、あわててその妄想を頭の片隅に追いやり、愛ちゃんにニコっと笑いかけました。


トラウマと私 07