2014年7月19日

ランデブー 6:42 03

「お姉さまっ?!」
「ほら、早く!店員さんが来る前にはずし終えていなかったら、スール解消するわよ?」
「そ、そんな・・・」
「大丈夫。あたしがうまくやるから、直子はうつむいて、そのアイスクリームを食べているフリでもしていればいいわ」
「わ、わかりました・・・」
 
 お姉さまにイジワルなお顔で促され、震える指でボタンを全部はずしました。
 ゆったりめのブラウスなので、前がモロに左右に割れてしまうことはありませんが、開いた胸元とチラチラ覗く素肌がすっごく不安。
 ドキドキして乳首が痛いくらい。

 コンコン!
 ドキンッ!
「お呼びでしょうかっ?」

 格子戸がガラガラッと開くと、作務衣のような制服を着た若い男性の店員さんが満面の笑みを浮かべて立っていました。
 その瞬間、私はブラウスのお腹のあたりを左手で押さえながら思いっきり背中を丸めてうつむき、目の前のアイスクリームのスプーンを口に運びました。

 私の左隣、店員さんに近い側で背中を向けていた形のお姉さまが、ゆっくりと店員さんを振り返ります。
 隣でうつむいている私の視線には、Vラインがたわんだブラウスの襟ぐりから自分の胸の谷間が丸見え。
 だけど、これだけ前傾していれば、お座敷の縁に膝立ちの店員さんからは、私の後頭部とブラウスの背中しか見えていないはず・・・

「えーっと、グラスワインの白、同じ銘柄をもう一杯と、直子のは何だっけ?あ、梅酒のソーダ割をおかわり」
「それからお食事のお皿は全部さげてください。ご馳走さま」
 おっしゃりながら、テーブルの上の空になったお皿を次々と、店員さんの膝元に置いてあげているようです。
「一緒に冷たいお水もふたつ、いただけますか。それとチェックを。9時半前には出ますので」
「かしこまりました。少々お待ちください」

「ずいぶん大げさに丸まっていたわねえ。店員さんが不思議そうに見ていたわよ?」
「だって・・・」
 格子戸が閉じられた音と同時に顔を上げた私の真正面に、愉快そうなお姉さまのお顔がありました。
「ちゃんとボタンはずした?」
「はい・・・」
「本当?自分でブラウス開いてみせて」
「えっと、あの、は、はい・・・」
 お姉さまの瞳にまっすぐに見つめられた私は、従うほかはありません。

 ブラウスの前立てを両手でつまみ、おずおずと左右に開き始めます。
 素肌が徐々に外気に晒されていきます。

「もっと開いて」
「そんなんじゃだめ。もっとよ、もっと」
 私の両手は、縄跳びをするときみたいな形で左右に分かれ、ふたつのふくらみが完全に露になりました。
「やっぱりツンツンね。硬そうに尖ってる」
 愉しそうなお姉さま。
 衝立越しに聞こえてくる他のお客様たちの喧騒が、一段と大きくなったような気がしました。

「あたしがいいと言うまで閉じたらダメよ」
 おっしゃりながらお姉さまの上半身が私のほうへ傾いてきました。
 パンティをはずされたときと同じように、私の下半身に膝枕みたいな格好のお姉さまが、私の左腰のあたりをゴソゴソいじっています。
 ジジーーッ。

「あっ!?」
「おっけー。少しお尻を浮かせてくれる?」
 お姉さまの言いなりモードな私は、招く結果がわかっていても、逆らうことは出来ません。
 お姉さまの手が私のスカートのホックをはずし、ジッパーを一番下まで下げていました。
 私がためらいながらも少しお尻を浮かせたタイミングを逃さずスカートが下へと引っ張られ、腿からニーソックスの脛、足先へとスルスルッと滑り落ちていきました。

「ああんっ、お姉さまぁ・・・」
「そのブラウス、意外と丈が長いから大丈夫。ギリギリ隠れるわよ」
 上体を起こしたお姉さまが私の横にピッタリ寄り添うように座り直し、満足そうに微笑みます。
「それに直子は余計なヘアがまるで無いから、ソコが悪目立ちしないし」
 ブラウスを開いているので今は丸見えな私の肌色な土手に、ジーッと視線が注がれます。
「これで残るはブラウスだけね。こんなところで裸にされるのって、どんな気分?・・・」

 コンコン!
 ドッキーン!!
 お姉さまのイジワルなご質問が終わらないうちに、またしてもノックの音が。
 私は反射的に開いていたブラウスを掻き合わせ、両手で前立てをギュッと押さえたまま盛大にうつむきました。

「お待たせしましたぁ。お飲み物をお持ちしましたぁ」
 ふうわりしたお声の主は女性です。
 うつむいたまま横目で窺がうと、作務衣姿にひっつめ髪の可愛らしい女の子店員さんでした。

「ありがとう」
 お姉さまがグラスを受け取ってテーブルに置いています。
「あとこれ、おしぼりです。お帰りの前にお使いください。それと、これがお会計の伝票です。お帰りの際に出口脇のレジでお支払いください」
「はい。ありがとう」
 お姉さまと店員さんの会話を聞きながら、再び視線を下に落としました。

 やだっ!隠れてないっ・・・
 自分の視線の先に、掻き合わせたブラウスの白い裾。
 そのほんの少し先に、ピッタリ閉じた私の両腿の付け根の肌色が覗いていました。
 少しプックリふくらんだ丘の先端にはちょっぴりスジまで。

 まさか店員さんから、見えていないよね???
 あっ!て言うか、後ろは?
 ひょっとして私の生お尻、お座布団の上ではみ出しちゃっているかも!?
 店員さんから丸見えかも!?
 ブラウスの背中側って、普通、前よりちょっと丈が長いよね?だから隠れているよね?大丈夫よね!?
 ちょっとしたパニック状態。
 パニックがコーフンを呼び、コーフンがムラムラを呼び起こします。

「へー、あなた間宮さんっていうんだ?こういうお仕事大変でしょう?」
「あれ?なんで名前を・・・って、ああ、この名札でしたね。いえ。楽しいです。うちのお店は良いお客様ばかりですから」
「けっこうカップルとかが多いみたいね」
 お姉さまったら、のんきに店員さんとおしゃべりされています。
 ああん、早くその店員さんにお引取り願ってくださいませぇ、バレないうちにぃ・・・

「それではどうぞごゆっくり」
 世間話がやっと終わって、店員さんが立ち去ろうとするのを、
「お待ちなさい」
 お姉さまが呼び止めました。

「直子、あなたの前のそのアイスクリームのお皿も下げてもらいましょう。こっちにちょうだい」
 お姉さまが店員さんのほうを向いたままおっしゃいました。
「あ、はい・・・」
 お姉さまが取ってくれない以上、私から差し出すしかありません。
 覚悟を決めて前屈みの上体を少し正しました。
 左手でブラウスの胸元、ちょうどおっぱいの上辺りをギュッと押さえたまま、目の前のアイスクリームのお皿を右手で持って上体だけひねり、お姉さまのほうへ差し出しました。
 左肩越しに店員さんと目が合いました。

 お皿を受け取ったお姉さまは、それを店員さんの膝元に置きました。
「これもお願いね」
「はい。あのう、そちらのお客さま、大丈夫ですか?お顔が真っ赤ですよ?」
「ああ。この子はね、お酒が弱いのよ。飲むのは好きなクセにね。だからちょっと休んでいるの。ご心配ありがとう」
「そうでしたか。どうぞごゆっくり」
 
 それからお姉さまが私のほうへ向き直りました。
 至近距離で見つめあうふたり。

「襟が、曲がっていてよ」
 お姉さまの両手が私の襟元に伸び、ブラウスの襟を左右に押し広げるように引っ張られました。
 私は本能的に、胸元を抑えている左手にギューッと力を込めます。
「身だしなみは、いつもきちんとね。間宮様が見ていらっしゃるわよ」

 きょとんとした表情でその様子を見ていた店員さんは、ペコリとひとつお辞儀をすると首を少し右に傾けたまま、静かに格子戸を閉じました。

「どうやらあの子は、スールの小説は知らなかったようね。残念」
 店員さんが去ってから、お姉さまがそんなに残念そうでも無い感じでおっしゃいました。
「天然ぽい子だったけれど、あの子の位置からなら、直子のブラウスのボタンが全部はずれているのもわかったはずだし、何かヘンだって感づいたかしら?」
「帰るとき首をかしげていたから、今頃厨房で誰かに話しているかもね」
 
 ワイングラスに唇をつけて少し傾けた後、お姉さまはそんなことをおっしゃりながら、なぜだか新しい割り箸を一膳、パチンと割りました。
 もうお料理もおつまみも何も無いのに。

「さあこれで、あと20分くらいは誰もここには来ないわね。ゆっくり楽しみましょう」
 お姉さまの両手が再び私のブラウスに伸びてきました。
「ほら早くそれも脱いで。あたしの可愛い妹の、生まれたままの姿を見せて」
 お姉さまの手でブラウスが両肌脱ぎとなり、あれよという間に両袖からはずされました。
 私の素肌を隠しているのは黒いニーソックスだけの、ほぼスッポンポン。
 お姉さまがまた、私の横にピッタリ密着するようにからだを寄せてきました。

「うふふ。あたし、直子のこのおっぱい、大好きよ。アンダーがぽってり重そうで、ふしだらな感じ」
「直子のお顔からすると、もう少しこう、青い果実的なもの想像しちゃうけれど、実際は熟々、たわわ、って感じよね」
「それにこの乳首。すごい存在感。それに乳輪も派手めで。直子って、ぱっと見清楚そうなのに、脱いだらアンバランスなところがいいわ」
 お姉さまが右手に持った割り箸で、私の左乳首をつまんできました。
「ああんっ!」
「ほら!声は出さないのっ!」
 おっしゃりながらもお箸でキュッキュッとつまんできます。
「すごく硬い。コリコリ。軟骨みたい」
「んんっ・・・」

「えっちな声って意外と通るものなのよ?酔った男性とかとくにそういうのにはビンカンだから、直子がヘンな声出していると、なんだなんだ、って、個室の前に人だかりが出来ちゃうわよ?」
 今度は割り箸を下乳にあてがい、持ち上げたり下ろしたりして、たゆんたゆん揺らされます。
「あうっぅーっ・・・」
「それともそれがお望みなのかしら?おっぱい揺らされているところ、みんなに見てもらいたいの?」
「い、いえ、ちがいますぅ・・・」
 快感をこらえながら、小声で必死の弁明。
「そう。いい顔よ。あたし、直子がそうやって、気持ちいいのを一生懸命ガマンしている顔が大好き」
 お姉さまのお箸の先が胸の真ん中をツツツッと滑っておへその中へ。
「んぐぅっ・・・」

「座ったままだと直子の一番ステキな部分が暗くてよく見えないわね。立ちましょう」
「で、でも、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫よ。衝立は充分な高さがあるし、さっきも言ったけれどもう誰も来ないから」
「は、はい・・・」
 立ち上がるために恐る恐る右腿から上げると、内腿が擦れてヌルッと滑りました。
 もうこんなになっちゃってる・・・

 今更意味の無いことと知りつつも、右腕で胸をかばい左手で股間を隠して、その場に立ちました。
「あらあら、お店の座布団、汚しちゃったわね」
 お姉さまが小さく笑いながら、私のお尻が敷いていたお座布団を、クルッとひっくり返しました。
「そこじゃなくて、そっちの衝立の前に立って。それから、直子の両手は、そこじゃないと思うけどな」
 お姉さまがお隣のお部屋とを仕切る衝立の前を指差しながら、ご自分も立ち上がりました。
 私はお言いつけ通りに場所を移動し、両手を組んで後頭部に回して、両足を、休め、くらいまで広げました。

 今まで何人かのかたから命ぜられ、お姉さまと出逢ったときも当然のように要求された、私に一番お似合いの姿勢。
 腋の下から乳房、そして下半身までも一箇所として自分で覆い隠すことの出来ない、自分のからだのあらゆる部位の鑑賞と処遇を全面的にお相手に委ねる完全降伏状態、マゾの服従ポーズ。
 お姉さまの瞳が私の全身を舐め始めました。

 立ち上がると、周りから聞こえてくるお話し声や店員さんの応答、酔客独特の奇声や騒ぎ声が更にボリュームアップした気がしました。
 私ったら、こんなころで、こんな格好に・・・
 そしてそれを、お姉さまだけにじっくり視られている・・・
 背徳感みたいなアブノーマルさが興奮に油を注ぎ、いっそうムラムラを煽り立ててきます。
 そんなことを考えている私を知ってか知らずか、お姉さまがニッと笑って私の背後に目を遣りました。

「さっきトイレ行ったときチラッと見たら、お隣の個室は合コンみたいだったわ。直子と同じ年頃くらいの男女が5、6人、楽しそうにキャッキャウフフしていたわ」
 私が背にしている個室のことでしょう。
「そこだけじゃなくて、トイレの行き帰りに、サラリーマンの上司悪口大会とか学生さんのバカ騒ぎとか、絶え間なく聞こえていたわ」
「そんな中で全裸になっている、あ、正確には全裸じゃないわね。でもそのソックスは脱がなくていいわよ。裸にソックスだけっていうのも妙にいやらしいものね」
 お姉さまのお箸がまた、私の乳首をつまんできます。
「ぁぅっ、はぁはぁ・・・」
 私は必死に悦びを押し殺し、その分息遣いがどんどん荒くなってしまいます。

「今、このお店の中でそんな格好しているのって、間違い無く直子だけでしょうね。他のお客さんはみんな楽しく飲んでいるというのに」
「どう?このあいだの試着室と比べて、どっちが興奮する?」
 お箸が乳首をキュッ。
「ぁんっ。どっちも同じくらい、は、恥ずかしいです・・・」
「でもさ、少なくとも試着室なら、試着っていう、服を脱ぐための大義名分があるから、裸になっているのがもしもみつかっても、幾らか言い訳出来るわよね?」
「だけど、居酒屋で裸は、おかしいわ。だって脱ぐ理由がないもの」

「あ、いいこと思いついたわ。直子はあたしと飲みながら野球拳をして、負けちゃったの。負け続けて全裸。お酒の席でそういう遊び、することあるものね」
「言い訳出来るなら見られても大丈夫よね。呼び出しベル押して、店員さん呼んでみようか?」
 お箸がおっぱいの皮膚をツンツン突いてきます。
「ぁ、許してくださいぃ・・・そんなイジワル言わないで・・・」
 小さな声で途絶え途絶えに、お姉さまのご提案に異議を申し立てます。
「いいじゃない?さっきの可愛い店員さん、間宮さんだっけ?に、直子の裸、見てもらえるかもしれないのに。直子、そういうの好きなクセに」

 お姉さまのお箸が私のバストからだんだん下に降りてきました。
 それに伴って、お姉さまが私の足元で膝立ちになりました。
 お姉さまのすぐ目の前に私のアソコ。

「でもまあ今日は、あたしがじっくり直子を見せてもらわなくちゃね。スールになった記念の日なのだから」
 おっしゃいつつ、お箸で私の土手をつつきます。
「ううっ・・・」
 背中を這い上がってくる快感が口から出てしまうのを、必死にこらえます。
「そう。一生懸命がまんなさい。あたしはその顔が見たくて直子とおつきあいするのだから」
 お姉さまが私の顔を下から見上げて妖しく微笑みました。

 お姉さまのお箸が円を描くように、私の下腹部を撫ぜ回します。
「あたし、直子のココも大好きよ。色白でプックリしててプヨプヨの柏餅」
 お箸が徐々に両腿の付け根に近づいてきます。
「中身のアンコは、何味かしら?あらあら、おシルが滲み出てきちゃっているわね」
「あうっ!」
 愉しそうなお姉さまのお声と共に、プスリ、という感じで、2本のお箸の箸先が私のワレメにごく浅く、突き刺さりました。


ランデブー 6:42 04

2014年7月12日

ランデブー 6:42 02

「あっ、いえ、あの、えっと、はい・・・」
 
 不意を突かれてあわてた私は、持っていた梅酒ソーダのグラスをあやうく落としそうになってしまいました。
 目の前で絵美さまが薄く微笑んでいます。
 ついに本題です。
 落ち着いてお話しなくちゃ。
 梅酒ソーダを一口ゴクンと飲んで、姿勢を正しました。

 私は今日、絵美さまに私の恥ずかしい嗜好と性癖を、すべて包み隠さずお話しすることに決めていました。
 すべてを知っていただいた上で、絵美さまが私のパートナー、いいえ、ご主人様になっていただけるよう、お願いするつもりでした。

「いつも、というわけではないのですけれど・・・」
 すっごくドキドキしながら、私は話し始めました。
 
 子供の頃、SMの写真集を盗み見たことから始まって、トラウマのこと、やよい先生とのこと、しーちゃんのこと、シーナさまとのこと・・・

 絵美さまがとても聞き上手で、基本的には黙って聞いていてくださり、私の話が散らかりそうになったときだけ的確に誘導して、更に新たな話題を引き出してくださいました。

「へー。そのときはどんな感じだった?」
「通っている学校の門の前で全裸って、すごいわねー」
「その人、次から次へとよくそんな恥ずかしいこと、思いつくものね?」
「そんなに感じちゃったんだ?えっちな子ねー」
 
 興味津々のお顔で、じーっと私を見つめつつ真剣にお耳を傾けてくださる絵美さまに性的な興奮さえ感じながら私は、東京に来てからのはしたない独りアソビのことまで、ほとんど洗いざらい白状していました。

「ふーん。なるほどね。あなたはそういう女の子なんだ?」
 私の告白がひと段落すると、絵美さまがまっすぐに私の顔を見ながらおっしゃいました。
 涼しげなふたつの瞳が少し笑っています。
「・・・はい」
 私は小さくコクンとうなずきました。
 言わなくちゃ。
 ここでちゃんと言わなくちゃ。
 覚悟を決めて、絵美さまのふたつの瞳に視線を合わせました。

「それで・・・」
「うん?」
「それで、こんな私なのですけれど、ぜひこれからもずっと、私とおつきあいしていただけませんか?」
 絵美さまのお顔が一瞬、えっ?という表情になりました。
 それからゆっくりと、淡い微笑が広がっていきます。

「おつきあい?」
「はい。私、恋しちゃったみたいなんです。お姉さ、あ、いえ、絵美さまのことが大好きになっちゃったんです」
 戸惑いのような表情を浮かべた絵美さまが、ふっと目を伏せました。

 その後の沈黙は、私にはすっごく長く感じられました。
 どんなお答えが返ってくるのか・・・
 絵美さまに嫌われてしまっただろうか・・・
 やっぱりすでにおつきあいされているかたがいらっしゃるのだろうか・・・

「あたしはかまわないけれど、本当にいいの?」
 実際には5秒くらいの沈黙の後、絵美さまが、拍子抜けするようなお答えをくださいました。
 あまりに予想外すぎて、今度は私が戸惑う番。

「えっ?」
「だってあなた、あたしのこと何も知らないでしょ?」
「あ、それはそうですけれど・・・あ、誰かもう、おつきあいしているかたが・・・?」
「ううん。あたしもあなたと同じで、オトコには興味ないたちだし、かといって、同性の決まった相手もいない」
「それならぜひ、おつきあいしてください。私、なんでもやりますから」
 すがるように絵美さまを見ました。

「実を言うと、あたしもあなたのこと、このあいだのアレでとても気に入ったから、おつきあいするのはいいのだけれど・・・」
 気に入った、というお言葉に天にも昇る気分。
「だけどあたしはね、けっこうめんどくさいオンナよ?」
 絵美さまが自嘲気味につづけました。
「誰かとつきあってもあまり長続きしないのよ。わがままだし、気分屋で飽きっぽいし、嫉妬深いし、仕事忙しいし・・・」
 ここは押すしかない、と思った私は、思い切り恥ずかしい科白で攻め込みました。
「だいじょうぶです・・・どんな仕打ちをされても耐えられます。私、マゾですから」
 あはは、って笑った絵美さまが美味しそうに、グラスに少し残っていたワインを飲み干しました。

「なるほどね。それならあたしたち、つきあってみようか?」
 絵美さまがニッコリ笑って、注ぎ直したワイングラスを私のほうに差し出してきました。
「ほんとですか!」
 チーンッ!
 勢いよく差し出した私の梅酒ソーダのグラスとワイングラスが触れ合い、綺麗な高音が響きました。

「それにしても、あなたが百合草女史と知り合いだったなんて、世の中ってほんとに意外と狭いのね」
「あ、やよい先生、いえ、百合草先生を、ご存知でしたか?」
「ご存知も何も、お店によく遊びに行っているし、水野さんがあたしの高校の先輩なのよ」
「ああ、ミイコさまですね」
 水野美衣子さま、やよい先生のパートナーで、ご一緒に新宿でレズビアンバーをやっていらっしゃる女性です。
「そう。お店でシーナさんにもお会いしたことあるし」
「そうだったんですか?」
「まあ、こういう嗜好を持つと、同じ嗜好の人たちが、自然に顔見知りになってしまうのかもね」
 絵美さまが感慨深そうにおっしゃいました。

「それで今のあなたの話だと、百合草女史やシーナさんが、今までさんざんあなたのからだをおもちゃにしてきたのでしょ?」
「これからあなたとつきあう身としては、彼女たちになんだかジェラシーを感じちゃうわ」
 からかうような口調でしたが、なんだか申し訳ない気持ちになってしまいます。
「ご、ごめんなさい・・・」
「冗談よ。これからあなたは、あたしだけのものだものね?たくさん愉しいことをしましょう」
「はいっ!」

「と言ってもあたし、自分ではそんなにエスっぽいとも思っていないのよね」
「いえいえ。私を虐めるの、すっごくお上手でしたよ。ずいぶん慣れている感じで」
「高校のときに、あなたみたいな子がひとりいたのよ。人前で裸にされて悦んじゃうような子が」
「もちろんいわゆるイジメじゃないわよ?仲良しグループの中の悪ふざけの延長みたいな、他愛も無いじゃれあい。その子もやられて嬉しそうだったし」
「へー」
「服飾部だったのよ。洋服作って着せあったり、学校祭ではファッションショーしたり」
「そのお話、すっごく聞きたいです」
「詳しいことは今度ゆっくり聞かせてあげるわ。そのときに、その子を辱めることに快感を覚えるようになっちゃったみたいなのね」

「あたしはね、顔フェチなの。イキ顔フェチ」
「可愛い女の子がせつなげに顔を歪めているのを見るのが大好物なの」
「綺麗な子が苦痛に苛まれている顔とか、気持ち良すぎて涙目になっていたり」
「可愛ければ可愛いほどいいのはあたりまえよね。そういうのを見ているのが好きなの」
「だから虐めたり責めたりするのは、別にあたしの手でじゃなくてもぜんぜんよくて、誰かがしているのを傍で見ているだけでもよかったのだけれど・・・」
 絵美さまがそこでいったんお口をつぐみ、私を真正面からじーっと見つめてきました。
「あなたの場合は違ったの。あたしが自分の手で、その可愛い顔をどんどんどんどん歪ませてみたい、って心の底から思ったのよ」

 私の心臓は、嬉しさで飛び出しそうなほど。
 今すぐ絵美さまに抱きつきたい、と思いました。

「だから・・・」
 腰を浮かせかけた私を制するように、絵美さまのお言葉がつづきました。
「SMで言う、ご主人様と奴隷、みたいな関係はピンと来ないのよね。なんだか字面が生々しくて。それよりも、なんて言うか・・・」
 絵美さまが視線を落とし、ご自分の思考の中に沈まれました。

「そうだ!」
 お顔を上げた絵美さまの妖艶な微笑み。
「あなた、マンガとかアニメが好きだって言ったわよね?」
「はい」
「だったら、スール、って知ってる?」
「あ、はい。全部読んでます。絵美さまもお好きなのですか?」
「うん。あのシリーズは面白いわよね。甘酸っぱくて」

 その頃人気のあった、由緒正しいお嬢様学校が舞台の少女小説でアニメにもなった作品内の設定。
 スール、とはフランス語で、姉妹。
 学園生活を清く正しく美しく過ごすために、上級生が下級生と、姉妹、になって、姉が妹を導く関係。

「あたしたち、スールになりましょう」
「はい、喜んで」
「そうなるとあたしはあなたを、直子、って呼ぶことになるわね」
「はい。私は絵美さまを、お姉さま、とお呼びします」
 私はルンルン気分でお答えしました。
「実は私、絵美さまのお名前がまだ分からないときからずっと、心の中で、お姉さま、ってお呼びしていたんです」

 チーン!
 もう一度グラスを軽く合わせ、私とお姉さまはめでたくスールとなりました。
 でも、私とお姉さまとのスール関係は、清く正しく、とはいかないでしょうけれど。

「さて・・・と」

 お料理もあらかたいただいて、お話もひと段落。
 お姉さまが少し目を細め、イタズラっぽい目つきで私を見つめてきました。
 イジワルそうな笑みが唇の端を歪めています。

「直子はもうお料理はいい?食べたいものある?」
「いえ、だいじょうぶです。お腹一杯。ごちそうさまでした」
「そう。だったら少し食休みしましょうか」
 絵美さまが呼び出しベルを押して、駆けつけた店員さんにアイスティとデザートのアイスクリームを二人分頼みました。

「そろそろ8時半ね。お店もけっこう混んできているみたいね」
 確かに四方の仕切りの向こう側は、来たときよりもずいぶんガヤガヤしています。
「週末ですからね」
「あたしちょっと、おトイレに行ってくるわね」
 お姉さまが席を立ってしばらくしてからデザートとグラスが運ばれてきて、そのすぐ後にお姉さまが戻られました。

 お姉さまは、出入り口側のご自分の席に座ってから、私を呼びました。
「直子の顔、もっとよく見せて。あたしの隣にいらっしゃい」
 ご自分の右隣を指差しました。
「あたしたちがめでたくスールになった、記念の儀式をしましょう」
「はい」
 私は自分のグラスを持ち、お姉さまの右隣に腰を下ろしました。
 お姉さまの右手が私の顎を軽くつまみ、ふたり、至近距離で向き合いました。
 アルコールが少し回ったのか、お姉さまの目元がほんのりピンクに染まっていて艶かしい。
 キスしてくれるのかな?
 ドキドキしたまま目をつぶりました。

「本当に、虐めたくなるお顔だこと。ねえ、直子、裸を見せて」
 左耳に吹きかかる吐息にゾクっとしつつも、おっしゃられたお言葉の意味にビクンとからだが跳ねました。
「えっ!?今ここで、ですか?」
「もちろん今ここでよ。大丈夫。もう注文したお料理は全部出ているし、そこの呼び出しベルを押さない限りお店の人は来ないから」
「で、でも・・・」
「それに直子は、あたしにそういうことをまたされたくて、あたしに会いに来たのでしょう?恥ずかしい思いがしたいのでしょう?」
 お姉さまがニッと笑って、私のスカートを捲り上げました。
「あっ、いやんっ!」
「こら。大きな声は出さないの。まわりは酔っ払いのオトコばっかりよ?ヘンな声出したら襲われちゃうわよ?」
 お姉さまったら、その振る舞いはどこから見ても立派に、SMで言うところのご主人様です。

「あら、このパンツを穿いているということは、ブラもピンクのアレね?」
「はい・・・」
「それなら、あの日直子が言っていたこと、今すぐここで実行出来るじゃない?ほら、服を着たまま下着を取るって」
「そ、そうですね」
「だったらあたしがボトムは取ってあげるから、直子は自分でブラをはずしなさい。いつでもどこでもすぐ脱げる、っていう露出マゾなコンセプトのフロントホックストラップレスブラを」

 愉快そうなお姉さまのお声が左耳をくすぐり、座っている私の下半身に膝枕するように上体を傾けてきました。
 スカートの裾から潜り込んだ手があれよあれよと言う間に、腰で結んだパンティの紐をスルスルっと左右とも、解いてしまいました。
「少し腰を浮かせて」
 お言いつけ通りにすると、私のスカートの裾から手品のように、一片のピンク色の布地がお姉さまの右手につままれて現われました。

「ねえ直子?このパンツ、ここのところ、グッショリ濡れているわよ?」
 パンティのクロッチ部分が私の鼻先に突き出されました。
「きょうはまだ、濡れるようなことしていないのに、なんでこうなっているの?ねえ?」
「あん、それは・・・」
「ひょっとして、あたしと話すだけで感じちゃってたの?そんなにあたしが好き?」
「は、はい・・・」
「それならちゃんと言いつけも守らなきゃ。早くプラも取りなさい」

 ブラウスの上からフロントホックをはずすと、乳房がプルンと跳ねてブラが肌の上を滑り落ちました。
 これをどうやって取り出そうか?
 長袖だから袖からとはいかないし、ボタンをちょっとはずして首周りから・・・
 考えていたら、お姉さまの手が私のブラウスに伸び、ブラウスの裾がスカートのウエストからたくし上げられ、ついでにブラジャーもブラウスの裾から引っ張り出されました。

「これで直子はノーパンノーブラね。今の気分はどう?」
「恥ずかしいです・・・」
「嘘おっしゃい。気持ちいいクセに。お顔が蕩けちゃっているわよ?」
 からだ全体が上気して、粘膜がヌルヌルピクピクと蠢き始めていました。

「次はブラウスのボタンを全部はずしてみようか」
「えっ!本気ですか?」
「本気、って聞くのは失礼よね。あたしはさっき、直子の裸を見せて、って言ったじゃない?」
「裸って言うのは服を着ていない状態のことよ。あたしは直子の、たぶんもうツンツンに尖っている、あの日みたいな乳首を今すぐ見たいのよ」
 もう!イジワルなお姉さま・・・
「わ、わかりました」

 私がブラウスのボタンを上からはずし始めると同時に、お姉さまがテーブルの上の呼び出しベルを勢いよく押しました。


ランデブー 6:42 03

2014年7月6日

ランデブー 6:42 01

「あなたはあんなこと、しょっちゅうやっているの?」

 とある居酒屋さんの衝立で仕切られた小さな個室。
 私の対面に座っている絵美さまの唇が、そう問いかけてきました。

 あのランジェリーショップでの出来事から約ひと月後、桜の蕾もほころび始めた、3月がもう終わりそうな頃。
 私は、絵美さまと再会することが出来ました。

 もちろん、横浜から戻ったその日の夜、自宅から絵美さまにお電話しました。
 目を閉じればまぶたの裏にはっきりと浮かぶ、絵美さまの端正なお顔を思い出してドキドキしながら。
 ツーコールも鳴らないうちにつながりました。
「待っていたわ、電話」
 絵美さまは、私が名乗る前に、少し掠れ気味のハスキーなお声でそうおっしゃり、電話に出てくださいました。

「先日は、本当に失礼いたしました・・・」
 から始めて、緊張しつつ慎重に言葉を選びながら、もう一度お逢いしたい、という意味のことをなんとか伝えました。
 絵美さまは、つっかえつっかえな私の言葉にも気さくな感じで答えてくださり、ぜひ会おうということになりました。
 でも、絵美さまのお仕事のご都合や、私が卒業を控えた時期であったこともあり、ふたりのスケジュールが合う日は、ずいぶん先のことになってしまったのでした。

 絵美さまが待ち合わせに指定された場所は、意外なことに池袋でした。
 私は、当然またあの横浜のショップに伺うことになるのだろうと勝手に思い込んでいたので、思わず、えっ!?って聞き返してしまいました。

「あなたのおうちからは遠い?」
「いいえ。ぜんぜん逆です。私今、東池袋に住んでいるんです」
「あら、それならなおさら好都合じゃない?」
「あなたに会えるの、楽しみに待つことにするわ」
 電話を終えるとき、絵美さまは艶っぽいお声で、そうおっしゃってくださいました。

 ステキな絵美お姉さまにもう一度逢える・・・
 それからの毎日は、遠足の日を心待ちにしている子供みたいに、ルンルンワクワクな気分で過ごしました。
 絵美さまはもうすでに、私がどういう性癖を持つ人間なのかご存知です。
 だからお逢いしたらきっと、あのときみたいなえっちなアソビで、私を辱めてくれるはず・・・
 ルンルンとムラムラがごちゃ混ぜになったルラルラ気分。
 お約束の日を指折り数えながら私は、文字通り毎日、思い出しオナニーをくりかえす日々でした。

 ランジェリーショップでの出来事から日が経つにつれ、あの日のあれこれを客観的に考えることが出来るようになっていました。
 そして考えれば考えるほど、あの日、私がしでかした数々のはしたない行為は、どんなに言葉を繕ってみてもくつがえらない、あまりに異常でヘンタイな露出マゾそのものの痴態だったという事実と、それを行なったのが紛れもなく自分だった、という現実を確認することとなり、そのいてもたってもいられない恥ずかしさが、私を更にどんどん欲情させました。

 前の年の夏休み以降、やよい先生とシーナさまが、お仕事、プライベート共に一段とお忙しくなり、ほとんどお会い出来ない日々がつづいていました。
 そのあいだはずっとひとりアソビばかりだったので、誰かとリアルに会話しながら辱めを受けたのは、すごく久しぶりでした。
 そのせいもあってあの日の私は、自分でも信じられないくらい大胆になり、後先も考えられないほど発情していました。

 日曜日のお買い物客が大勢行き来しているファッションビルの、薄い壁で仕切られただけの試着室。
 そんな危うい場所で全裸になり、ほぼ初対面の絵美さまに視られ、虐められながら、声を押し殺して何度か絶頂を迎えた私。
 関係者しか入れないビルのスタジオに忍び込み、たくさんのいやらしいお道具を使って、性癖丸出しオナニーショーをご披露した私。

 現実にやってしまった、あまりにも破廉恥な行為の数々に今更ながら凄まじい羞恥を感じ、その恥ずかしさが、子供の頃から私のからだを蝕んでいる、自己制御不能な被虐心を強烈に疼かせました。
「あなたは正真正銘の露出マゾ。ヘンタイ性欲者なのよ、直子」
 自分で自分を蔑む心の声に支配された私の両手。
 からだをまさぐる10本の指は、いつまでも止まることがありませんでした。

 快感の余韻の中て少し気持ちが落ち着くと、今度は、絵美さまと再会出来る喜びが、みるみる心を満たしていきます。

 当日は何を着ていこうかな?
 あのお話もこのお話も聞いてもらおう。
 また手をつないでくれるかな?
 またキスしてくれるかな・・・

 自分にとって大きなイベントのはずな大学の卒業式当日も上の空、絵美さまのことばかりを考えていました。
 中でも大いに頭を悩ませたのが、当日どんな服装をしていくか、でした。

 本当に真剣に、すっごく迷いました。
 出会いのときは、駅ビルのおトイレでえっちめな下着に穿き替え、ファッションビルのおトイレでは、わざわざミニスカートをクロッチギリギリまで無理やり短かくしてからショップを訪れました。
 そんな服装が功を奏して、絵美さまもすんなり私の性癖に気づいてくれたような面があったような気もします。
 絵美さまは、そういう私を期待されているかもしれない。
 まだ街中では春物コートを着た女性も目立つ頃でしたから、いっそ裸コートで行っちゃおうか・・・
 確か絵美さま、あの日の別れ際、次回もあたしがびっくりするような格好でいらっしゃい、っておっしゃていたし・・・
 そんな大胆なことを考えてはドキドキ昂ぶるのですが、一方では、私の中に生まれたひとつの決意が、そのような浮わついた気持ちにブレーキをかけていました。

 当日、私は絵美さまに、ぜひ自分とおつきあいして欲しい、とお願いするつもりでした。
 私だけのパートナーになってください、と。
 私にとっては一大決心でした。

 思えば今まで私が好きになったり、実際に性的なお相手をしてくれた人たちは、そのときすでに私とは別の決まったお相手がいたり、私がぐずぐずしているうちに別のお相手をみつけてしまったりで、誰ともちゃんとした、と言うか、ステディなパートナー関係にはなれずじまいに、今まできていました。
 そういうのは終わりにしたい。
 もう一歩踏み込んだ、私と誰か、ふたりきりの親密な関係が欲しい、と切実に願っていました。
 
 そして何よりも私は、あの日の出来事を通して、絵美さまのこと以外考えられなくなっていました。

 私が絵美さまに、こんなにも恋焦がれてしまう最大の理由。
 ひと月近く、ずーっと絵美さまのことだけを考えて導き出された結論。
 それは、私のあられもない行為の一部始終を、まるでご自分の頭の中のビデオカメラで記録しているかのように、冷ややかに、かつ真剣に目撃されていた絵美さまの瞳でした。
 絵美さまが私をじっと見つめる、その視線・・・

 それは、やよい先生やシーナさまとのアソビでも感じられたものではあるのですが、絵美さまのそれは、もっともっと強力に私を惹きつけました。
 その視線に晒されているだけで、心の奥底からジンジン感じてしまう、絵美さまの瞳の光がちょっと変化しただけで性的興奮が異様に昂ぶってしまう、私にとって特別な視線でした。
 視姦、という言葉は、知識としては知っていましたが、あの日初めて身をもって体験した気がします。
 とにかく視ていて欲しい。
 一瞬でも視線が私からそれると、それだけで言いようも無い寂しさに襲われてしまう。
 そんな魔力を、絵美さまの視線は持っていました。

 哀れむような、呆れているような冷たい瞳の中に、チロチロとゆらめいていた絵美さまの官能。
 私が恥ずかしがれば恥ずかしがるほど大きくなっていく、絵美さまの愉悦の炎。
 私は、その炎をより燃え立たせたくて、絵美さまに悦んでいただきたくて、どんどん自らを恥辱の果てに追い込みたくなるのです。

 もう一度、あの視線で私のからだをつらぬいて欲しい。
 からだの隅々までを、あの視線で舐められたい、責められたい、嬲られたい・・・

 もちろん視線だけではなく、絵美さまのお声や振る舞いも、何もかもが私のマゾ心の琴線を激しく震わせてくださいました。
 絵美さまは私にとって、心から本当に理想的と思えるパートナー。
 いいえ、マゾな私がパートナーなんて、そんな生意気なことを言ってはいけません。
 主従関係、ご主人様と奴隷、飼い主とペット・・・
 絵美さまが悦ぶことであれば、なんでも、どんなに恥ずかしいことでも出来る。
 絵美さまが私を視ていてくださるなら、他には何もいらない。
 そのくらい私は、絵美さまに心を奪われていました。
 絵美さまにだけは嫌われたくない、と思いました。

 魅力的な絵美さまですから、すでに誰かとおつきあいしている可能性も大きいとは思いましたが、その場合は、その次のポジションでもいいから、私とも遊んで欲しい、と頼み込むつもりでした。
 そしていつか、私だけの絵美さまになれば・・・
 やよい先生にもシーナさまにも感じたことの無かった、私にしては珍しく、独占欲、までもが芽生えているみたい。

 そんなことをごちゃごちゃ考えているあいだも、私の粘膜は絵美さまの視線を思い出して疼き始めます。
 自分の指で疼きを鎮め、少し冷静になった頭でまた考えます。

 結局、臆病さゆえなのでしょう、嫌われたくない、という想いばかりがどんどん募っていきました。
 絵美さまは、社会人で教養もおありだろうし、普段はちゃんと常識をわきまえているかたのはず。
 今回お逢いするのはショップではなくて、人通り多い街中だし、あんまりだらしのない格好で行くと失望されちゃうかもしれない。
 それに、私がおつきあいをお願いする大事な日なのだし・・・
 そう考えるようになって、やっぱり普通に無難な格好で行くことに決めました。

 お約束の日は、金曜日でした。
 絵美さまは、お仕事を早めに終わらせて駆けつけてくださるということで、夕方6時40分の待ち合わせでした。

 当日は、4月間近にしては少し肌寒い曇り空。
 お出かけ前にウォークインクロゼットで、手持ちのお洋服をあれこれ引っ張り出し、長い時間悩みました。

 少し厚めな純白コットンのフリルブラウスにベージュのジャケットを羽織り、膝上丈の濃いブルーのボックスプリーツスカートに黒ニーソックス。
 悩んだワリには、普通の真面目な学生さん風になっちゃいました。。
 下着だけは、あの日絵美さまが選んでくださったピカピカピンクのストラップレスブラと紐パンにしました。

 すっかり薄暗くなった繁華街を抜け、灯りが煌々と灯るデパートのショーウインドウ前。
 待ち合わせ時間に少しだけ遅れて現われた絵美さまは、濃いグレーのパンツスーツ姿でした。
 仕立ての良いやわらかそうな生地に包まれたウエストからヒップのラインがすっごく綺麗。
 大きめに開けたシャツブラウスの襟元から覗く白い肌がセクシー。
 お仕事が出来そうなオトナの女性っていう感じ。
 ごあいさつも忘れてしばし見蕩れてしまうほどカッコイイお姿でした。

「こ、こんにちは。きょ、今日はわざわざおこしいただいて・・・」
 すっかりアガってしまい、ごにょごにょご挨拶する私に、ニッと笑いかけてくださる絵美さま。
 ズキューン!

 絵美さまは気さくに、元気にしてた?みたいなお言葉をかけてくれながら、ズンズンと大股で歩き始めました。
 さすがにいきなり手をつないではくれないようなので、半歩くらい後ろを追いかけます。
 案内してくださったのは、雑居ビルの上のほうにあるオシャレな居酒屋さんでした。
 予約してあったらしく、すぐに通された場所は四方を和風な格子戸のような衝立で仕切った完全個室でした。
 真ん中に正方形のテーブルがあって、足元が掘りごたつみたく凹んでいて床にお座布団を敷いて座るタイプ。
 絵美さまは、私に奥を勧め、ご自分は入り口格子戸に背を向け、私と差し向かいにお座りになりました。

 ほどなく店員さんが来て、絵美さまが慣れた感じでお料理をいくつか注文され、私は梅酒のソーダ割を注文しました。
 絵美さまは白ワイン。
 しばらくは、お食事をいただきながら、絵美さまのお仕事についてのお話になりました。

 絵美さまは、その服装のせいか、ショップでお逢いしたときとはまた少し違った印象で、なんて言うか、知的できりりとした感じで、まさしくクールビューティという言葉がぴったり。
 私は、お話をお聞きしながらも、絵美さまの綺麗なお姿にうっとり見蕩れていました。

 絵美さまは、横浜のランジェリーショップの店長さんが本職というわけではなく、普段は、アパレル系のデザイン事務所を経営されているのだそうです。
「新作が出たときとか、お客様のニーズを調べたいときなんかに、懇意にしているお店に頼んでマヌカンの真似事させてもらったりしているの。いわゆる市場調査」
「そんなにしょっちゅうではないけれど、新宿とか渋谷、銀座、いろいろなところでね」
「あの横浜のお店は、うちも多少出資しているから、アンテナショップみたいなものかな」
 絵美さまが、生ハムを器用にフォークで丸めながら説明してくださいました。

「それはつまり、会社の社長さん、ということですか?」
「そうね。らしくないのだけれど、行きがかりでそうなっちゃったのよ」
 絵美さまが照れくさそうに笑いました。
 そのお顔がとてもコケティッシュで、キュンとしてしまいます。
「少人数だけれど、けっこう手広くやっているの、アパレル全般ね」

 美味しいお料理をいただきつつ、梅酒ソーダをちびちび飲みながら絵美さまのお話に耳を傾けていると、ふいにデジャヴを感じました。
 こんな感じの場面、ずっと前に体験したことがある・・・
 すぐに思い出しました。
 中学生のとき、私のトラウマとなった事件のことでやよい先生にご相談したとき、連れて行かれた居酒屋さん。
 あのときの感じにそっくり。

 私が少しのあいだ、遡った時間に思いを馳せていたとき、不意にお言葉を投げかけられました。

「ところであなたはあんなこと、しょっちゅうやっているの?」


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