2015年9月6日

オートクチュールのはずなのに 18

 緑色のカーテンをきっちり閉めて、ドキドキを鎮めるために深呼吸をひとつ。
 側面の壁に貼ってあった操作説明に目を通すと、さっきの機械とは違う種類でした。
 でも、撮り方自体は大体同じで一安心
 先にウェットティッシュでショーツと股間を拭ってしまおう、とベンチ状の椅子に腰掛けたとき、大問題に気がつきました。

 このブース、さっきのブースに比べて目隠しカーテンの丈が異様に短かいのです。
 腰掛けると下半身、腰から下部分がすべてカーテンの下にきてしまい、お外からまったく隠せていません。
 あわてて立ち上がり確認してみたら、まっすぐ立った状態でカーテンの裾が私の太腿付け根の少し下くらいでした。
 腰掛けて股間を弄っていたら、その様子は途切れたカーテン下の空間から、行き交う人たちに剥き出しの太腿ごと丸見えとなることでしょう。
 
 さっきのブースは確か、膝のあたりまであったのに。
 かなり動揺してしまいました。
 どうしよう・・・?
 
 いつまでこうしていても仕方が無いので、立ったままミニワンピースの裾をめくり、ウェットティッシュをショーツの股間にあてがいました。
「はぅん」
 ひんやりとしたティッシュ越しに、乳液みたくヌルンとした液体が滴らんばかりに、布地を湿らせているのがわかりました。
 ティッシュを何度か折り直して丁寧に拭うと、ウェットティッシュ全体がベトベトになりました。

 渡されたウェットティッシュは、あと三枚ありました。
 お姉さまがこれだけの枚数をくださった、ということは、それだけ丁寧にキレイにしてきなさい、という意味なのでしょう。
 ショーツの裏側、あとやっぱり膣内も、拭っておかないと。

 だけど、ショーツの裏側を拭うには、いったんショーツをずり下げなければなりません。
 まっすぐ立っていても腿の付け根辺りまでしか隠してくれないカーテンですから、ここでショーツを下げたりしたら、その一連の動作がお外から丸わかりになってしまう上、拭いているあいだ中、下着を中途半端にずり下げた生足を、行き交う人たちにご披露しっぱなし状態になっちゃうはずでした。

 私はそれを、お姉さまからのご命令と受け取りました。
 お姉さまは、ここのカーテンがこんなに短かいことを知った上で、私にそういう辱めを受けることを望んでいらっしゃる、と。
 そして、お姉さまの言いなりドレイである私には、従う以外の選択肢はないのです。
 覚悟を決めました。

 カメラのほうを向いてまっすぐに立ち、ミニワンピの裾に潜らせた両手でショーツのゴムをつまみました。
 私、これから、こんな場所で下着を脱ごうとしている・・・
 そう思った途端に、辺りの雑踏と喧騒のボリュームが盛大に上がった気がしました。

 ひっきりなしに行き交う靴音、人々のざわめき、電車の到着を告げるアナウンス・・・
 ごくありきたりの正常な日常生活の中で、ひとり、異常なことをしようとしている私。
 見知らぬ人がいつ気づいてもおかしくない、下半身までカーテンが届かないブースの中、自ら下着を下ろして性器を露出しようとしているヘンタイ。

 そんな恥ずかしい姿、絶対誰にも視せたくないのに、なんでこんなに昂ぶっているのだろう?
 視られたくない気持ち以上に、視られてしまうことを期待している、もうひとりの自分がいました。
 被虐のジレンマで張り裂けそうな自分の心に焦れたみたいに、両手が勝手に動き始めていました。

 ショーツを裏返すみたく縁から丸め、ゆっくり腿のほうへとずり下げます。
 まずは太腿の中間くらいまで。
 ショーツが股間を離れるにつれ、股間とショーツの裏地との空間を、か細い糸が何本も引いては切れました。
 ずり下げられて丸まった銀色ショーツの布地は、左右の太腿を束ねて縛る一本の黒い縄のよう。
 その黒い縄はもちろん、途切れたカーテンの下から、お外に丸見えとなっていることでしょう。

 上半身を少し屈め、二枚目のウェットティッシュでショーツの裏地を拭います。
 左手をショーツに添えてクロッチ部分を広げ、右手のティッシュを裏地に押し付けました。
 ヌルヌルの感触で、すぐに二枚目も満遍なくベトベト。
 それをベンチ端に置いた使用済み一枚目の上に重ね、三枚目に手を伸ばしました。

 この三枚目のウェットティッシュは、自分の性器、いえ、直子のはしたない剥き出しマゾマンコを直に拭うためのもの。
 そう考えたら、被虐のジレンマが昂ぶり側にグラリと傾き、これから自分がすべきことが決まりました。
 マゾならマゾらしく。
 こんな場所で剥き出し性器を弄ろうとしているヘンタイ女は、それにふさわしい格好にならなければいけないのです。

 立ったまま、ミニワンピースのボタンを上から外し始めます。
 おっぱい写真を撮るだけならおへそくらいまで外せばいいのですが、全部外します。
 そのほうが私らしいから、そのほうがお姉さまに悦んでいただけるはずだから。

 ボタンをひとつ外すごとに、割れた前立ての隙間から覗く肌の比率が増えていきます。
 おへその下まで外し終えると、残ったボタンはふたつだけ。
 それらも外してしまえば、すでにショーツは下ろされているので、私のふしだらな剥き出しマゾマンコがブースの中で、文字通り剥き出しになってしまうのです。

 今までにも、駅や学校の公衆トイレやブティックの試着室など、公共の場のかりそめの密室で人知れず裸になり、その被虐的、背徳的な状況をひとりこっそり愉しんだことが何度もありました。
 でも、この証明写真ブース内は、それらの経験を軽く凌駕するほどの、危う過ぎるスリルに満ち溢れていました。
 
 現実世界とヘンタイな私を隔てるには、あまりに短かく薄っぺら過ぎるヘナヘナなカーテン。
 そんな頼りないカーテンのすぐ向こうを、ひっきりなしに行き交う大勢の人たち。
 今だって、誰かちょこっとこちらに目を遣れば、写真ブースの中でなぜだか下着を下ろしている女性がいる、ということは一目瞭然でしょう。
 スリルがもたらす興奮は、理性と呼ばれるブレーキをまるっきりの役立たずにして、今や完全に、視て欲しい、の側にシフトした私に、更にもっとヘンタイなことをさせようとしていました。

 今の私がこれほど大胆になれるのは、ひとえにお姉さまが傍らにいてくださるおかげでした。
 独り遊びでオドオドビクビクしていたときとは違い、お姉さまから見守られているという安心感に、どっぷり甘えている私。
 だからこそ、お姉さまの前では自分の性癖に忠実になって、そのことでお姉さまにも愉しんでいただきたい、という使命感をも感じていました。

 ボタンをすっかり外し終えると前立てがハラリと左右に割れ、銀色のブラジャーから下腹部、そして布に覆われていない無毛の恥丘までもが、ワンピース布地の隙間から細い長方形にさらけ出されていました。
 躊躇せず、袖から両腕も抜き、脱ぎ去ったネイビーブルーの布地をベンチ状の椅子右端に置きました。
 これですっかり下着姿。
 と言ってもショーツはすでに腿まで下ろしていますし、ブラジャーだってこの後すぐ、本来の役目を放棄させられる運命なのです。

 立ったままブラジャーのハーフカップに手を掛けます。
 そのままおっぱい全体をブラジャーから引き剥がすみたいに、カップをお腹側にずり下げました。
 ブルンと揺れながら姿を現わすぽってり下乳と、自分で見ても痛々しいほどに尖りきって宙を突く乳首たち。
 ブラジャー左右の肩ストラップに挟まれ、カップの縁で上のほうへと持ち上げられ、全体が窮屈そうに中央付近へ寄せ集められたおっぱいは、谷間クッキリ、ボリュームアップ、いつもより肉感的で卑猥な感じ。
 そのままからだを前屈させ、ショーツも膝のところまで更にずり下げました。

 これが私の望んだ、私らしい姿。
 下着は上下ともちゃんと着けているのに、隠すべきところは一箇所も隠せていない、ある意味全裸より浅ましい、ヘンタイ露出狂女の脱げかけ半裸姿。
 正面の鏡におへそを中心とした白い肌が、艶かしく映っています。
 
 その画像を見ながら腰をゆっくりと落とし、再びベンチ状の椅子に腰掛けました。
 裸のお尻に椅子がひんやり。
 おそらくお外には、何にも覆われていない肌色の腰部分が、カーテンの下から覘いていると思います。
 もちろん、膝まで下ろした紐状ショーツも。

 背筋を伸ばしてまっすぐ座り、あらためて正面の鏡と向き合いました。
 そこには、赤い首輪を嵌められて不自然な形におっぱいを露出した、見るからに発情しきった淫ら顔マゾ女の悩ましげな表情が映っていました。

「・・・必要な証明写真の種類をお選びください」
 料金の投入口にお金を入れると突然、甲高くチャイムが鳴り、かなり大きな女性のお声が!
 えっ!?何これ?しゃべるの!?
 さっきのブースはしゃべらなかったので、ちょっとしたパニック。
 て言うか、そんなに大きなお声を出されたら、お外からも注目されちゃいそう。
 女性のお声で急に現実に引き戻され、同時に今自分がしていることのとんでもなさ、こんなところでほぼ全裸になっている現実を、あらためて思い知りました。

 俄然不安になって、カーテンの下から見えているお外に視線を走らせると、ブースのすぐ近くに見覚えのある細くしなやかなジーンズのおみ足。
 そう、お姉さまが見守ってくださっているから大丈夫。
 その周辺に他の足元は一切見えなかったので、かなり安心しました。

 と同時に股間のローターが激しく震動し始めました。
「んふぅーっ!」
 きっとお外にいらっしゃるお姉さまにも女性のお声が聞こえ、私が写真を撮り始めることを知り、イタズラを仕掛けてきたのでしょう。
 
 別の見方をすれば、お姉さまが私にイタズラ出来るくらい、今のところブースは注目されていない、とも考えられます。
 もしも、ブースの中で誰かが裸になっている、って何人かに気づかれて周囲がヒソヒソしていたら、お姉さまにもイタズラ出来る余裕なんてないでしょうから。
 その考えは、私をずいぶんホッとさせてくれました。

 操作方法を教えてくださる女性のお声に従って操作をしているあいだ中、お外から注目されやしないかと気が気ではありませんでしたが、それでも考えていたことは、実行に移しました。
 写真を撮られるあいだ、顔は正面を向けたまま、左手のウェットティッシュでずっと股間を拭っていたのです。

 腫れ上がった肉芽にティッシュが触れるたびに、眉間にいやらしくシワが寄りました。
 強く押し付けたティッシュ越しにもわかるほど、股間全体が熱くなっていました。
 ローターは相変わらず、中で激しく震えています。
 お姉さまったら、そんなふうにローターを震わせていたら、せっかくティッシュで拭っている意味が無いですよ?
 
 ああん、このまま指を潜り込ませて、クリトリスをつまんで、最後までイっちゃいたい・・・
 さすがにそこまでは出来ませんでしたが、ティッシュを押さえる指がモゾモゾ動いてしまうのを、止める事も出来ませんでした。

 鏡の中の自分の顔が、自分でも恥ずかしくなるほど淫らに歪んでいました。
 からだ中が疼き悶え、大興奮していました。
 拭っても拭ってもジワジワ溢れ出てくる粘性の液体。
 そんなさ中、パシャン、とシャッターが切れたらしい音が聞こえました。

「ありがとうございました。写真は外の取り出し口から出ます」
 女性のお声と同時にローターも止まり、達し切れなかった私はガクンとうなだれます。
 あぁんっ、また生殺し・・・
 股間を押さえていたティッシュは前の二枚以上にグッショリ濡れそぼっていました。

 ブースに入って撮影まで、時間にすれば、ほんの5、6分のことだったのでしょうが、私には小一時間もかかったように思えるくらい、グッタリ疲れていました。
 でも、あまりお姉さまをお待たせしてはいけない。
 すぐに気持ちを切り替えました。

 よろよろと立ち上がり、膝のショーツをモゾモソずり上げます。
 ショーツのクロッチはまだ湿っていて、そこに新しいシミが更に広がっていくのがわかりました。
 ミニワンピースを羽織り、下から順にボタンを留めていきます。
 お言いつけ通りブラジャーは直さず、おっぱいを飛び出させたまま。

 ここに入ってきたときと同じように、上から三番目の胸元ボタンまでを、きっちり留めました。
 そのときより、バスト全体の位置がせり上がっている感じ。
 アンダーをカップで持ち上げられていつもより高い位置になった乳首が、胸元に貼りついた布地をポッチリ浮き上がらせ、ひと目でノーブラと分かる状態となりました。
 ボタンふたつ外れた状態のVゾーンからは、盛り上がったおっぱいの谷間が不自然なくらいクッキリ覗いています。
 こんなふしだらな格好で、今度は街中をお散歩するんだ・・・
 どうしても目が行ってしまうほど自分の胸元で派手に目立っている恥ずかしい突起にクラクラしながら、ゆっくりとカーテンを開きました。

「・・・お待たせしました、お姉さま」
 お姉さまは、私と目が合うとニッと笑い、私の眼前に今撮ったばかりの写真を突きつけてきました。
 そこには、半開きの目と唇で、なんとも悩ましく顔を歪ませたおっぱい丸出し女のバストアップが、同じ構図で四枚写っていました。

「ずいぶんと大胆なことしていたわね?まさか中でワンピまでさっくり脱いじゃうとは、思ってもいなかったわ」
 写真をつかもうと思わず伸ばした私の右手をヒラリとかわすお姉さま。
 置いてきぼりになったその右手をご自身の左手で捕まえると、引っ張るみたいにホームのほうへとスタスタ歩き始めました。
 
 電車が出て行ったすぐ後のようで、ホームにはけっこうな人波が右へ左へと行き交っていました。
 お姉さまはずっと無言。
 人混みに紛れてしばらくしてから、ようやくお姉さまが歩調を緩めました。

「カーテンの下から直子の生足、丸見えだったわよ?もちろん下げたパンティまで」
 階段をゆっくり上りながら私にヒソヒソ耳打ちしてくるお姉さま、
「座ったときは裸の腰まで見えていたし、見ているこっちのほうがハラハラしちゃったわよ」
 階段を上りきると10メートルくらい先に改札が見え、その向こうは都会らしい駅ビル地下っぽいたたずまいでした。

「歩きながらブースの中をチラチラ見ていく人もいたから、けっこうな人数の人がブースの中の生足とパンティには気がついていたみたい」
「でも、普通の人は立ち止まらないからね。そのまま通り過ぎるだけなのだけれど」
「ひとりだけ、中年のリーサラっぽいオジサンが、一度通り過ぎたのにわざわざ戻ってきたのよ。直子が座って撮影が始まった直後だったな」
「あたしがブース前に陣取って、次の順番待ちで並んでいるようなフリをしていたから、近づいては来れなかったみたい」

「それでそのオジサン、ブースが見える対面の壁にもたれてケータイを弄り始めたの。頻繁に視線をこちらに投げながら、まるで張り込みの刑事みたいに」
 人混みをすり抜けながら、お姉さまがヒソヒソしてきます。
「ブースに注目しているのは丸わかりだったから、ちょっとヤバイかなと思って、直子が出てきたらすぐ逃げることにしたの。見るからにスケベそうな顔していたから、そのオジサン」
 お姉さまが呆れたようなお声でそこまで教えてくださったとき、改札口にたどりつきました。

 いったん互いの手を解き、改札を抜けました。
 そのまま通行の邪魔にならない壁際までふたりで退避。
 お姉さまと向かい合いました。

「それにしても、直子もいい度胸よね。カーテンが短かいの、わかっていてやったのでしょう?」
「・・・はい」
「どうだった?あんなところで裸になったご感想は?」
「それは・・・」
「この写真見れば一目瞭然よね。いやらしい顔しちゃって」
「・・・」
 お姉さまが再び私に写真を突きつけ、その向こうからじっと私を見つめてきます。

「命令どおり、ブラはずり下げたままのようね?」
 お姉さまの視線が私のバストを凝視。
「はい・・・」
「そんなに露骨にワンピの前を尖らせていたら、街中の人たちに、わたしはノーブラです、って宣言して歩くようなものよ?それでもいいの?」
「あの、えっと、はい・・・」
「そうよね、直子はそういうので悦ぶマゾ女だものね?」
「・・・はい」

「剥き出しマゾマンコはちゃんと拭いた?」
 お姉さまの視線が更に下がりました。
「はい・・・」
「知ってて聞いたのよ。直子がマゾマンコ弄りながら写真撮られてるとこ、外から丸わかりだったもの」
「・・・あれは、ただ拭いていただけです・・・」
「ふーん。どうだか」
 お姉さまの蔑むようなお声。

「それで、キレイになったの?」
「えっと、それは・・・」
「でしょうね。相変わらずクロッチがグショグショだもの。あとからあとから滲み出る愛液に追いつかなかったのでしょう?」
「はい・・・そうです」

「あたしもそう思って、いっそ一度イってしまったほうがいいのかなとも考えてさ」
「・・・」
「せっかくローターで助けてあげたのに、イケなかったんだ?」
「・・・はい」
「それはご愁傷様。でも、あたしの経験上、イキたくて仕方ない状態の直子ほど、面白いオモチャはないのよ。これからのお散歩がますます愉しみになったわ」
 そうおっしゃって、愉快そうに微笑むイジワルお姉さま。

「使用済みのウェットティッシュは、どうしたの?」
「あ!いけない!椅子の上に置きっぱなしでした」
 すっかり忘れていました。
「あーあ。次に使う人はいい迷惑ね。うっかり触らなければいいけれど」
 ドロドロヌルヌルのティッシュの感触を思い出し、ひとり強烈に赤面してしまう私。

「あ、でも、さっきの張り込みオジサンが戦利品としてとっくに回収していったかもしれないわね。今夜のオカズに」
「オジサンの脳裏には座った直子の艶かしい裸の腰のラインが焼きついているはずだからね。きっといろいろ捗るはずよ」
 お姉さまがお下品に冷やかしてから唇を寄せてきて、私の耳にフッと熱い息を吹き込みました。
「ぁぁんっ!」

「おーけー。では行きましょう。この周辺は繁華街も近いし、今までよりずっとたくさんの人たちに、そのいやらしい姿を視てもらえるはずよ」
「でもその前に、あたしにいつまでバッグを持たせておく気?」
「ご、ごめんなさい、お姉さま」
 あわてて左手を差し出しました。

「バッグは直子の係って最初に伝えておいたのだから、さっさと気を利かせなさい」
 おっしゃりながらご自分の左肩からビニールトートの提げ手を抜き、私に渡す前に中を何やらガサゴソされました。
「さ、これでいいわ。どちらを表に向けても、直子の好きにしていいわよ」

 渡されたバッグには、絶望的な仕掛けが施されていました。
 片面に麻縄や鎖、洗濯バサミや銀色ディルドなど、私を虐める不健全なお道具たちが、薄いブルーのビニール越しに透けて見えているのは相変わらずでした。
 もう片面の、今まではまっ白いバスタオルのタオル地だけが見えていて健全だったほうに、今さっき撮影された私の淫ら顔証明写真が表向きで見えていました。

 ハガキ大の紙に四分割で、同じ構図の写真が四枚。
 ビニールとバスタオルのあいだに挟まれ、バッグ側面のほぼ中央部分に配置されたそのカラー写真は、真っ白なタオル地の中、青色を背にした肌色ばかりの写真が唯一のアクセントとなり、否が応でも目を惹き、かなり鮮やかに目立ちました。
 その写真を見て、それから、そのバッグを持っている人物に目を遣れば、写真の中でいやらしく顔を歪めているおっぱい丸出し女と、バッグの持ち主が同一人物だとすぐにわかってしまうことでしょう。
 
 更にご丁寧に、その前に撮影した顔を半分隠したおっぱい丸出し写真は、バッグのマチ部分、もちろんここも透明です、に移動され、正面または背後から、いつでも丸見え状態となっていました。

 自分のおっぱい丸出し喘ぎ顔ヌード写真をさらしながら街を歩くか、それとも、見る人が見ればピンときちゃう、自分を虐める破廉恥なお道具を持ち歩いていることを誇示しながら街を歩くか・・・
 どちらもあまりに恥ずかし過ぎる恥辱の選択。

 迷った末に、私は前者を選びました。
 理由は、今さっきお姉さまが敢えてそうされたのだから、つまりはそれがお姉さまのお望みだと思うから。
 それにそっちのほうが、より露出狂マゾらしいとも思ったから。
 写真の側を表に向けてバッグを提げた私を見て、お姉さまが嬉しそうに、ふふん、と笑い、私の右手をつかみました。

 お姉さまと手をつないで駅ビルっぽい通路の人波をかき分けていきます。
 改札のすぐそばが大型量販店の入口であることもあり、ひっきりなしに人とすれ違います。
 からだに感じる視線の数も、今までとは桁違いに増えていました。
 それは、今の私のいでたちに、通りすがりの人の視線を惹いてしまうような箇所が増えていることとも、無関係ではないのでしょう。

 今までもさんざん注目されてきた赤い首輪。
 少し視線を下げると、Vゾーンから覗いている盛り上がった胸の谷間。
 布地を押し上げている乳首の突起。
 もっと下げると、割れた裾からチラチラ覗く黒いクロッチ。
 おっぱい丸出し女の写真が透けて見えているビニールトート。
 少し数えただけでもこれだけあります。

 更に、お姉さまが人目を惹く超美人さんであること、女同士で手を繋いでいること、私の顔が汗ばんではしたなく上気していること、などなど。
 ありふれた街の喧騒の中で、私とお姉さまがいる空間だけが浮きまくり、目立ちまくっていることを痛切に感じていました。
 そして、その不躾な好奇の視線を受けることが妙に心地良く、全身が敏感にチクチク疼きまくってしまっているのも事実でした。

 そんな視線をすれ違う人たちからビンビン感じつつ、階段を上りきり地上に出ました。
「あら、駅ひとつぶんで、外がずいぶん暗くなっちゃってる」
 お姉さまが驚いたようにお空を見上げました。
「まだ午後3時過ぎなのにこの空の暗さは、やっぱり天気予報ってたいしたものなのね。間違いなくひと雨くるわ」
 お姉さまがなぜだかとても嬉しそうに、そうおっしゃいました。


オートクチュールのはずなのに 19


2015年8月23日

オートクチュールのはずなのに 17

 プリペイドカードを持ってきていない私のために、切符を買ってきてくださったお姉さま。
 ご自分のカードを抜いた後、私が左肩に提げているビニールトートに、お財布を戻されました。
 
 そのとき、気がつきました。
 さっきお姉さまが私の左肩にビニールトートを掛けてくださったとき、表に見える側をバスタオルではないほうにしちゃったみたい。
 今現在、バッグのシースルーなビニール側面からは、とぐろを巻いた麻縄や鎖、えっちなお道具の数々が見えているはずです。
 
 だけど私が勝手に提げ変えることは許されません。
 お姉さまがそうされたということは、それがお姉さまのご意志であり、こう提げなさい、というご命令なのですから。

 改札を抜けると、数メートル先にホームへと下りる下りエスカレーター。
 そこへ向かっている途中、ちょうどホームに電車が侵入してきて、ここでも凄い風が吹き上げてきたので、ミニワンピースの裾前を手で押さえることが許されました。

「ただし、さっきの階段のときと同じように、押さえていいのは下腹部のあたりまでよ」
 お姉さまの念を押すような耳打ち。
「はい。わかっています・・・」
 少しでも風圧がかかれば裾の前立てがあっさり左右に割れ、はしたないおツユで濡れそぼったショーツの恥丘部分を、みなさまに見せつけながら下りることになるはずです。

「今度は先に行きなさい」
 お姉さまに促され、エスカレーターのステップ左端に立ちました。
 すぐ後ろにお姉さまもつづきます。
 下りエスカレーターの右隣は、ホームから改札口へと向かう人たちのための上りエスカレーター。
 今到着した電車に乗っていたのであろう人たちが次々と、その上りエスカレーターに乗り込んできます。

 下りエスカレーターに乗っている私の前には、一番下まで誰も乗っていませんでした。
 すなわち、私が先頭状態。
 上りエスカレーターで上がってくる人のうち、うつむいている人以外は、その視界に否応無く、私の姿が入り込んでくるはずです。
 
 いくつもの視線がまず私の首に貼りつき、次に股間へと移動していくのを感じていました。
 自分では見えませんでしたが、ミニワンピの裾が絶えず左右に割れてはためいているのは、わかっていました。
 
 私は、ずっとそ知らぬ顔を作り、目の焦点をどこにも合わせさず、まっすぐ眼前の宙空を見つめていました。
 内心では、心臓が壊れちゃうんじゃないかと思うくらいのドキドキで、キュンキュン感じまくっていました。

「ずいぶんジロジロ注目されていたわね。すれ違った後もずーっとこっちを振り向いていたオジサンまでいたわよ」
 エスカレーターを降りた途端にお姉さまに肩を叩かれ、ヒソヒソされました。

 たまらず私は、お姉さまの左腕にギューッとしがみつきました。
 誰かにしがみついていないとヘナヘナとへたり込んでしまいそうなほど、下半身がジンジンかつフワフワしていたのです。
 お姉さまは、私がしがみついてくることについては別に何もおっしゃらず、そのままゆっくり、ホームの中央のほうへと進んでいかれました。

「なんだか狭いホームなのね。それなりに有名な駅なのに、ホームドアも無いし。混雑したら危なそうよね?」
 ホームをしばらく進み、何本目かの太い円柱で足を止めたお姉さま。
 私を振り向き、世間話みたいにそうおっしゃいました。
「それに、予想通りではあるけれど、人が少なすぎ。これじゃあ直子もがっかりでしょう?」
 からかうように私の顔を覗き込んでくるお姉さま。

「いえ、そんなことは・・・」
 少ないと言っても、エスカレーターを降りてからここまでで十数人の人たちとすれ違いましたし、そのうち半数以上の人から、首輪やバッグへの不躾な視線をいただいていました。
「次の駅行けば、もっとたくさんいるはずだから、もう少しの我慢よ」
 あくまでも私が残念がっていると決めつけるお姉さま。
 やがて轟音と共に電車が到着しました。

 各ドアから乗る人、降りる人、ほんの数人づつ。
 電車内も、都会の地下鉄にしては珍しいくらいガラガラでした。
 空席のほうが目立つロングシート、プラス、これだけ席が空いていてもなぜだか立っている人がドア際にポツンポツン。

「見事にガラガラね。これじゃあ痴漢ごっこも出来やしない」
 お姉さまが冗談めかしておっしゃいました。
「一駅だけだけれど、座りましょう」
「はい」
 私たちが乗り込んだドアのすぐ脇のロングシートが丸々空いていたので、私がドア脇の一番端に座る形で、ふたり並んで腰掛けました。

 この服装で腰掛けると裾がせり上がり、ショーツのクロッチ先端が見えっ放しになることは、車の助手席に座ったときにわかっていました。
 でも、私たちが座っているシートの周辺、お姉さまから向こうにも対面側にも、誰もいませんでした。
 
 この位置から見える人影といえば、対面側シート脇のドア際で、手摺りにもたれかかってお外を向いている男性の背中だけ。
 その男性の両耳にはイヤホンが見え、まったく周囲を気にされていないご様子。
 なので、私も安心して座ることが出来ました。
 もちろん座ってすぐ、肩から外したトートバッグを膝の上に乗せ、剥き出しショーツを隠しました。

「エスカレーターでは失敗しちゃった。バッグを右肩に提げ直すように命令すればよかった」
 お姉さまが地下鉄の騒音に負けないように私の耳に唇を近づけ、大きめヒソヒソ声でおっしゃいました。
 視線はずっとビニールトートに注がれていて、私もつられて見たら、あら大変!
 私ってば、無造作に麻縄や鎖が見えるほうを表側に向けていました。

 あわててひっくり返そうとする手を制され、お姉さまがつづけました。
「さっきのエスカレーターって、すれ違うとき、かなりの至近距離だったでしょ。でも直子のバッグは左肩で、壁のほうに向けて提げていたから、すれ違う人に中を見てもらえなかったじゃない?」

「直子の姿を見て、このバッグの中身も見てもらえれば、直子がどんな種類の女なのか、いっそう明確にわかってもらえたと思うのよね」
 お姉さまが本当に残念そうなお声でおっしゃいました。
 お得意のお芝居とは思いますが。

 それよりも私は、膝の上のバッグにもっと恥ずかし過ぎる事実を発見していました。
 シースルーのビニールトート表面ほぼ中央左寄り、麻縄がとぐろを巻いているその上に、さっき撮った証明写真がハッキリ表向きで見えていたのです。
 顔は隠しているものの、おっぱい丸出しの自分の写真。
 
 写真が小さいので、遠目からはなんだかわからないでしょうけれど、このくらいの距離なら、えっちなおっぱい写真だとバッチリわかっちゃいます。
 私、こんなもの見せびらかせたまま、駅の中を歩いてきたんだ・・・
 今更手遅れなのですが、さりげなく右手をバッグの上に置き、写真の部分を隠しました。

「そう言えば、次の駅で小銭が必要なのだったわ。ちょっとバッグ貸して」
 写真を隠した私を見透かしたみたいに、お姉さまの手が私の膝からバッグを奪い去りました。
 再び剥き出しとなった、私のびしょ濡れショーツ先端。
 周囲に人がいないのが本当に幸いです。

 バッグの中をガサゴソして目的を果たされた後も、お姉さまはバッグを返してくださいません。
 一度周囲を見回してから、ヒソヒソ耳打ちしてきました。

「膝小僧をぴったりくっつけちゃって、ずいぶんお行儀がいいのね?どうせ誰も見ていないのだから、もうちょっとリラックスしたら?」
「えっと、あの、やっぱり一応は、電車の中ですから・・・」
「そんなお堅いこと言っても、今だってパンティ、隠しきれていないじゃない?」
「それは、そうですけれど・・・」
「ふーん。素直じゃないわね、マゾのクセに。これならどう?」
「んふぅっ!」

 ショーツの奥でローターが強烈に震え始めました。
 思わず眉間にシワが寄ってしまうほど。
「うわー。エロい顔になっているわよ?そんな顔をしていたら、遠くから見た人にだって、感じているのがバレちゃうわよ?」
 愉しげなヒソヒソ声が右耳をくすぐりました。

 両腿をピッタリ閉じてローターを締め付けていると余計感じてしまうので、仕方なく徐々に両膝を開き始めました。
 両足は揃えたまま膝だけ大きく開いたので、もしも誰かが視ていたら、すごく卑猥かつお下品な格好だったことでしょう。

 股を開いて震動は幾分ラクにはなりましたが、今まで昂ぶりつづけていたところに、今回の刺激は強烈でした。
 お姉さまは、まだローターを止めてくださいません。
 両膝が無意識に、パクパク開け閉めの動きをしちゃっています。

 私、こんな走っている地下鉄の中で、感じちゃっている・・・
 他のお客様も普通に乗っている明るい車両の中で、イキそうになっちゃっている・・・
 そんな背徳的な想いが被虐の炎に油を注ぎ、益々敏感に疼き悶える下半身。
 感じていないフリを必死に繕いながらも、どんどん高まっていました。

 間もなく次の駅に到着、というアナウンスと共にローターがピタッと止まりました。
 ああんっ、もう少しでイケたのに・・・
 ホッとする気持ちと残念に思う気持ちが半々の私。
 髪の生え際にジンワリ汗が滲むほど火照った顔は、すごくエロくなっていたと思います。

 両膝を無駄にパクパク開け閉めしちゃったせいでしょう、ワレメが割れておツユがもっと染み出してしまったようで、ショーツのクロッチは滴らんばかりのぐしょ濡れ。
 事実、座っている両腿のあいだから見える紫色のシートに少し白濁した水滴が一粒、半透明な宝石のようにキラッと光っていました。

 電車が減速し始めると、お姉さまがバッグを持ったまま、おもむろに立ち上がりました。
 私もあわててつづきます。
 立ち上がるとき、シートの水滴と私の股とのあいだに、細い糸が一本スーッと伸びて、すぐ切れたのがハッキリ見えました。
 からだ中の血液が沸騰しそうでした。

 入ってきたときと同じドアの手摺りに掴まり、電車が停まるのを待ちました。
 お外の暗闇で鏡と化した窓ガラスに映る、赤い首輪の女。
 その辛そうな顔がなんとも悩ましく淫ら過ぎて、今すぐどこかに逃げ去りたい気持ち。
 鏡の奥には、そんな私を愉しそうに見つめるお姉さまのお顔もありました。
 やがて窓ガラスが明るくなり、電車がホームへと滑り込みました。

 駅のホームに降り立つと、お姉さまが再びビニールトートを私の左肩に提げさせました。
 もちろん、タオルの側ではないほうを表に出して。
 私も再び、お姉さまの左腕にしがみつきました。
 
 広くて明るいホーム内に、聞き覚えのある日常的な雑踏と喧騒。
 閑散とした電車内から一変した雰囲気に戸惑ったのか、電車内でのローター陵辱による昂ぶりの余韻が急激に引き始めたのが、少し残念でした。

「ず、ずいぶん人が多いですね・・・」
 さっきの駅のホームとは打って変わって、それなりの人数の人たちが広めのホームを右へ左へ、忙しそうに歩いていました。
「ここの駅一帯に、確か五種類の地下鉄路線が乗り入れている一大乗換え駅だからね。ここからなら、池袋でも渋谷でも銀座でも浦安でも、なんなら神奈川にだって埼玉にだって一本で行けちゃうのよ」
 お姉さまが人波を優雅にすり抜けながら、教えてくださいました。
「でもやっぱり、普段に比べれたらかなり少ないほうね。歩いている人種も違うし。普通の日はほとんどサラリーマンだけだもの」

 確信を持った足取りで、いくつものエスカレーターや階段を上ったり下りたりしながら、歩きつづけるお姉さま。
 置き去りにされないように、私もその左腕にくっついています。
 絶えず誰かとすれ違い、追い越され、ときどき首輪に視線を感じました。
 そして歩いているうちに、さっきみたいな空いている駅よりも、このくらい混んでいたほうが気がラクなことに気がつきました。

 誰かにすれ違いざま注目されたとしても、それはほんの数秒間の出来事。
 ずっと歩きつづけているので、お互い違う方向に歩き去れば、すぐに忘れてしまう。
 二度見しようとしても、私の姿はすでに人混みの中に消えているでしょう。
 そんな、人混みに紛れている感、が、安心感をもたらしてくれたのだと思います。
 もちろんたくさん人がいる分、私の首輪や股間に気がつく人数も増えているはずですけれど。

「ずいぶん広い駅なのですね?」
 優雅に歩きつづけるお姉さまにお尋ねしました。
「うん。この駅は構内で別の駅ともつながっているの。まだ改札出ていないでしょ?」
「そう言えば・・・」
「降りたのは永田町駅だったけれど、あたしが目指しているのは赤坂見附の改札。取引先がいくつかあるから、そっちから出たほうが土地勘があるのよ」
 短かいエスカレーターに乗ったところで、お姉さまが教えてくださいました。

「そんなことより直子はさ、さっき電車の中でローターに感じまくっていたとき、誰かにずっと、じーっと視られていたの、気がついていた?」
 エスカレーターを降り、まっすぐの通路になってお姉さまと並んだとき、ヒソヒソ耳打ちしてきました。
 青天の霹靂でした。

「えーっ!?だってあのときは、前にも横にも、誰も座っていませんでしたよ?」
「そうね。座ってはいなかったわね。でもひとり、直子の斜め前くらいに、いたでしょう?」
「あっ!」
 イヤホンをしてドア際に立っていた、あの男性のことのようです。

「でもでも、あの人はずっと背中を向けて、お外を見ていましたよ?窓ガラス越しに・・・」
 自分で言い訳している途中に、はっ、と気がつきました
 人混みの安心感から余裕が出て、せっかく装えていたお澄まし顔が、みるみる崩れてしまいました。

 「やっと気がついたみたいね。さっき直子も自分の顔に見惚れていたじゃない?地下鉄って外がずっと暗いままだから、窓ガラスが鏡みたいになって、車内の様子が鮮明に映り込んじゃうのよ」
 お姉さまのヒソヒソ声がすっごく愉しそう。
 ゆっくりと歩きながら、お姉さまのお話がつづきました。

「あたしが見ていた感じでは、かなり早い段階で気づいていたみたいよ。あたしが直子の膝からバッグを取り上げたとき、彼の肩が一瞬、ビクンと揺れたもの」
「たぶんその前、乗り込んで座ったとき、直子のパンティが見えていることに気づいて注目していたのだと思うわ。そうじゃなくても、そんな首輪をしているのだもの、ヘンな女だなって注目しちゃうでしょうけれど」
 ご自分でやらせたクセに、イジワルなことをおっしゃるお姉さま。

「後姿を見た感じ、若めで細身でスーツ姿でもあったし、害は無さそうって判断して、サービスしてあげることにしたの」
「あたしの姿も一緒に窓に映り込んでいるはずだから、あたしが彼に気づいていることに気づかれないように観察するのが大変だったかな。なるべく視線を動かさないようにしてね。でも見ていてすごく面白かったわよ、ふたりとも」
「直子が膝を広げ始めたとき、手摺りを握っている彼の右手に力が入って、白くなってたのが可笑しかったわ。きっと彼も充分愉しめたでしょうね」

「あたしたちが降りるまで一度も振り向かなかったのは偉かったわね。あんなの見せつけられたら、一度は肉眼で、生で拝みたかったでしょうに」
「降りる前にドアのところに立って確認してみたら、対面の端のシート一帯がガラスにバッチリ映っていたから間違いないはず。彼の位置から直子の挙動は、鏡状態で丸見えだったの」

「あれだけ長い時間視ていれば、直子の股間の黒いものがマン毛でないことも、だったらなぜ黒くなっているのかも、わかっちゃったでしょうね」
「それに、あたしたちがどういう関係で、直子が何をさせられていたのかだって、ちょっと知識があればわかったはずよ。あの女は露出狂マゾだって、彼が正しく理解してくれたら、直子も本望でしょう?」
「彼が交差点のオタク君たちみたいに、えっちな知識をたくさん持っていてくれることを祈るわ。降り際にやっとこっちを振り向いたのを見た感じでは、気弱そうなメガネ君だったけれど」

 お姉さまが愉しげにお話されているあいだ中、私はお姉さまの腕にギューッとしがみついていました。
 お話が進むごとに、いてもたってもいられなくなりました。

 全部、視られていた・・・
 周囲に目がないことに安心しきって、自らいやらしく開け閉めしていた股間も、ローターで感じているのを必死に取り繕う顔も、愛液がジュクジュク滲み出るショーツも、立ち上がったときに引いた糸までも・・・
 知らない男性に全部、視られていた・・・
 やよい先生やシーナさま、そして最近ではお姉さまにしかお見せしたことのない、マゾ女直子がイク寸前まで高まった姿、私のヘンタイな本性・・・

 恥ずかしいとか、羞恥とか、そういう言葉では到底収まりきらないほどの恥辱感が、全身を駆け巡っていました。
 でもその恥辱感には不思議なことに、今までに感じたことの無い甘美な開放感も少し、混ざっていたのも事実でした。

「ふう。やっと着いた。ここからが丸の内線、赤坂見附駅のホーム。それで、ここに寄りたかったの」
 お姉さまからのショッキングな暴露で腑抜けのようになった私を、お姉さまが引き摺るみたいに誘導してくださいました。
 通路からホームへ向かう少し広くなったスペースの片隅に、見覚えのある形がありました。
 さっきの駅にあったのと同じような、証明写真機のブースでした。

「またここで、おっぱい写真を撮ってもらうおうと思ってさ」
「はい・・・」

 どんなに恥ずかしいめに遭わされても、それを見知らぬ人に視られても、していただいたこと、視ていただいたことを、悦んで受け入れなければいけない・・・
 だってそれは、マゾでヘンタイな私のことを想うお姉さまが、敢えてしてくださることなのだから・・・
 私はそういう女なのだから・・・
 そんな気持ちになっていました。

 傍らを人々がひっきりなしに行き交う証明写真機ブースの前で、お姉さまと向かい合わせに見つめ合いました。

「おっぱいの出し方はさっきと同じ。ブラを下にずらす。わかるわよね?」
「はい」
「今回あたしは覗かないから、全部ひとりでやりなさい」
「はい」
「おっぱい出して、今度は顔を隠さないで写真を撮りなさい」
「はい」
「撮り終わったらおっぱいはしまわずに出したまま、ワンピのボタンだけ留めて出てきなさい」
「・・・はい」

「なんだか急に素直になっちゃったのね?ちゃんとわかってる?」
「はい。わかっています。直子はお姉さまの言いなりドレイですから、何でもお姉さまのおっしゃる通りにいたします」
「うふふ。あのメガネ君に視られちゃったと知って、開き直っちゃったみたいね。ますます愉しくなってきたわ」

 お姉さまの瞳がエス色に妖しく揺れて、私のマゾ度も臨界点を突破。
 今の私は心身ともにドエム一色でした。
「これ、お金ね。あと、これ」
 ウェットティッシュを数枚渡されました。

「パンティから雫が今にも垂れそうよ。直子の剥き出しマゾマンコを、中でキレイに拭ってきなさい。まあどうせ、すぐにまた濡らしちゃうのでしょうけれど」
「お心遣いありがとうございます、お姉さま」
「バッグは持っていてあげるから、早くやっていらっしゃい」
「はい、お姉さま」
 右手にお金、左手にウェットティッシュを握り締め、ブースの中に入りました。


オートクチュールのはずなのに 18


2015年8月16日

オートクチュールのはずなのに 16

 低めのビルが立ち並ぶ、いかにもオフィス街というたたずまいの一画を、お姉さまとふたり、歩いていきます。
 たまにみつかる飲食店もお休みばかりで、街全体がまさしく、休日、という感じ。
 当然、人通りもとても少ないのですが、まったく無いというわけではありません。
 奥様風のご婦人や子供連れのご家族とすれ違ったり、曲がり角から突然、若い男性が現われたり。
 
 そのたびに私はビクビクしてしまい、寄り添ったお姉さまから、うつむかない、顔を上げて堂々と、って小さなお声で叱られました。
 少し風が出てきたみたいで、向かい風が吹くとワンピースの裾の真正面が完全に左右に割れて、はためきました。

 どうやら先ほど車で走ってきた幹線道路のほうへ戻るようです。
 四つ角を二、三度曲がり、路地から幹線道路が見える頃には、道行く人たちもけっこう増えていました。
 お姉さまに叱られるので一生懸命頑張って、まっすぐ前を向き普通の顔をしているように努めました。
 ミニワンピースの裾からは濡れそぼったショーツの股間が始終チラチラしているはずです。
 リモコンローターはいつの間にか止まっていました。

 うつむかずに歩いていると、行き交う人たちが私を視たときの反応がわかりました。
 最初に視線が注がれるのは、やっぱり首輪。
 一瞬チラッと見てから、たいていの人が二度見してきました。
 首輪をじっと見て、それから視線が上下して顔と全身。

 ただ、私に気づく人は、正面からやって来てすれ違う人たちばかりで、視られている時間もほんの数秒間。
 後ろから追い越して行く人や道幅を隔てた反対側を行く人たちなど、ほとんどの人たちは、私のことなど一瞥もせず、ただ通り過ぎていきました。
 そっか、道を歩いているときって、意外と他人のことなんて見ていないものなんだ。
 それがわかって、気持ちがかなりラクになりました。

 路地が尽きて、幹線道路の歩道に入りました。
 どこかの駅が近いみたいで、開いているお店も並び、賑わっている、というほどではないにしろ、それなりに人通りがありました。
 少し歩くと交差点があり、信号待ちの人波が出来ていました。
 人波と言っても、10数人ほど。
 お姉さまに手を引かれ、その最前列に立ちました。
 幸い、風は弱まっています。

「平日のお昼時とか、この交差点にもかなりの人数が集まるのだけれどね」
 のんびりしたお声で教えてくださるお姉さま。
 つないでいた手をいったん解き、その手をジーンズのポケットに入れました。
 同時に股間のローターが震え始めます。
「んっ!」
 唇を真一文字に結んで、なんでもないフリを装う私。
 お姉さまは、スイッチを入れたり止めたりして遊んでいます。

「あっ、あそこのふたり、直子に注目しているみたいよ?」
 お姉さまが、軽く顎を突き出して示される視線の先を追ってみます。
 片側3車線の幅広い交差点の向こう側には、こちらと同じくらいの数の歩行者の方々が信号の変わるのを待っていました。
 全員の目がすべてこちらに向いているので、最前列で対面している私は、それらの視線にじっと観察されているような錯覚を覚えました。

 お姉さまがおっしゃったおふたりは、すぐにわかりました。
 年齢は私とそう変わらなそうな、学生さん風男性二人連れ。
 おふたりとも中肉中背で、遠いのでお顔まではわかりませんが、ひとりはリュックを、もうひとりはショルダー掛けのバッグを提げていました。
 リュックの人がこちらを指差し、ショルダーの人に何やら耳打ちしていました。

 交差点をまばらに車が通過して、ミニワンピの裾がそよそよと風に揺れます。
「いい?まっすぐ前を見て、絶対裾を押さえては駄目」
 お姉さまのささやきが、私の右耳をくすぐりました。
「ほら、あたしにもっとくっついていいわよ」
 おっしゃると同時にローターが強く震えだし、ポケットに突っ込んだままのお姉さまの左腕に、自分の右腕を絡めてしがみつきました。

 ようやく信号が変わって歩き始めます。
 ローターは止まっています。
 一歩踏み出すたびに裾がヒラヒラ割れています。
 すれ違う人や追い越す人たちが、チラチラと私の首輪に視線をくれるのがわかりました。
 お姉さまにピッタリ寄り添って、視られていることを充分意識しながら、それでも普通のフリで歩きました。

 学生さん風の二人連れも、向こう側から歩き始めていました。   
 時折何かおしゃべりしては、おふたりともずーっと私たちのほうを向いたまま。
 近づくにつれて、その視線がとくに下のほう、すなわち私の股間周辺に集中して注がれているのがわかりました。
 一歩先を歩くイジワルなお姉さまは、横断歩道を斜めに誘導し、わざとその人たちに近づくように仕向けています。
 その人たちとの距離がみるみる縮まってきました。

 その人たちと絶対目を合わせないように前を見つつも、その視線の行方がすっごく気になって仕方ありません。
 ヒシヒソ話しているのは、お姉さまがおっしゃった通り、股間にチラチラ見え隠れしている黒いものが、陰毛だと思っているからかもしれない。
 そんなふうに考えるともう、いてもたってもいられない気持ちになります。
 あと2メートルくらいですれ違う、というときに、股間のローターが突然震え始めました。
「ぁふぅっ」
 小さく喘いでお姉さまの左腕にギュッとしがみつく私。
 同時に目もつぶってしまったので、すれ違いざまの彼らのリアクションを知ることは出来ませんでした。

 彼らとすれ違った後も、首輪に他の人たちから、いくつかの視線を感じながら、交差点を渡り終えました。
 渡りきった後、お姉さまが一度背後を振り向き、それから再び手をつないできました。

 そこからは、車がすれ違えるくらいの道幅の下り坂になっていました。
 交差点を渡る前の路地よりは、人通りが若干多い感じ。
 お店は開いていたり閉まっていたり。
 ローターは止まっています。

「さっきの二人組、直子のことガン見していたわね」
 お姉さまが少し歩調を緩めて、耳打ちしてきました。
「すれ違うとき、背の低いほうがニヤニヤ笑っていて気持ち悪かった。すれ違った後も振り返って、まだあたしたちのこと見ていたのよ」
 背の低いほうというと、リュックの人のほうです。
 でも、私はと言えば今の体験にドキドキし過ぎて何も考えられず、お姉さまのお言葉にお返事出来ません。

「ずーっと直子の股間ばかり視ていたわよね?たぶんあいつら、直子がノーパンで、マン毛が見えていると思ったのよ」
 お姉さまも私と同じことを考えていたようです。

「いでたちからいってオタクぽかったわよね?あの手の人種は知識だけは豊富だから、あたしたちが何をしているのか、わかっちゃったでしょうね」
「女同士で腕組んで、片方が首輪なんか着けてエロい格好していて、もう片方はそ知らぬ顔で先に立って歩いている・・・」
「すなわち、レズビアンのエスとエムの野外露出調教羞恥プレイ。まあ、あたしたちが今やっていることって、実際その通りなのだけれどね」
「オトコのオタクって、そういう妄想ばっかりしているらしいじゃない。現実で目の当たりにしちゃったから、あの子たち今夜、いろいろと捗っちゃうでしょうね」
 愉快そうなお姉さまの弾んだお声。

 そんなお話をしながら歩いているあいだも、いくつもの通り過ぎる視線を自分の首に感じていました。
 そうです。
 少しでもその手の知識がある人なら、首輪をしている女イコール、マゾ性癖を持つ女、とみなすのです。
 そして、そのマゾ性癖の女がきわどくエロっぽい格好をしていれば、露出願望を持つ視られたがりマゾ女なのだな、とも理解するでしょう。
 自分からしているのか、強制されてイヤイヤしているのかまではわからないでしょうけれど。
 今現在、私がそういう格好、つまり、自分のヘンタイ性癖を赤裸々に露にした格好で、公衆の面前を歩いているという現実に、今更ながら全身の血液がカーッと萌え上がってしまいます。

「見えた見えた、あれね」
 一歩先を歩くお姉さまが指さす先には、地下鉄の駅があることを示すマークがありました。
「あたしもここから乗ったことはないのよね。って直子、なんだか目がトロンとしちゃってる。さてはまた、えっちな妄想をふくらませていたでしょ?」
 お姉さまの冷やかすようなお声。
 私を振り向いてくださったお姉さまを、すがるように見つめました。

「あの、いえ・・・私、あの、さっきから感じっぱなしなんです・・・」
 思い切って正直に告白しました。
「ふーん。視られることが恥ずかしいっていう気持ちより、気持ちいいっていう感覚が勝ってきたのね。いい傾向よ。それこそ直子の本性なのだから。でもまだまだこんなものでは終わらないからね」
 握っていた手を解くお姉さまと、股間の振動に備えて身構える私。

 今日のお姉さまは、かなり本気。
 お部屋を出てから今までのあれこれで、それがはっきりわかりました。
 本気で、公衆の面前で私を辱めようとしている。
 それで私が悦ぶから、私がそれを望んでいるから。
 自分のマゾ性を何に臆することなく、さらけ出せる喜び。
 それを与えてくださるお姉さまに、精一杯お応えしなければ。
 そう考えるようになっていました。

 地下鉄の駅へ降りる階段は狭く、傾斜も急でした。
 そして何よりも風がすごい勢いで吹き上げていました。
 
 その前に立ったとき突風を浴び、私のミニワンピの裾はあっさり大げさにひるがえり、ちょうど上がって来たご中年の男性にパンモロをバッチリ視られてしまいました。
 さすがの私もあわてて前を押さえるほど。
 それでも風に煽られてふくらみつづけるスカート。
 歩道を歩いていた人たちには、丸出しショーツのお尻をしっかり見られちゃったことでしょう。

「まあ仕方ないわね。この風でミニスカの裾を押さえない女性なんて、それこそ頭がヘンだと思われちゃうもの」
 お姉さまも苦笑いで、いったん階段入口の脇にふたりで避難しました。

「おーけー。あたしが先を歩くから、直子は後ろに着いてきなさい」
 愉しそうにおっしゃるお姉さま。
「前も押さえていいわ。ただし、一番下を押さえるのは駄目。そうね、下腹部の、その留まっている一番下のボタンのとこらへんを押さえて、クロッチ前は、はためくようにしておくこと」
「もちろん直子は、完全に隠しきれていると思って余裕の表情をしていること。常にあたしの二段後ろね、それ以上詰めちゃ駄目」
「・・・はい、わかりました」
 お姉さまのイジワル声が一段と愉しげです。

「これからこの階段を上がってくる、とくに男性にはご褒美タイムね。もれなく直子の愛液が滲み出たシミつきパンティのクロッチがバッチリ拝めるの。それをマン毛だと思い込むのも自由」
「何人とすれ違うかは、日頃の直子の行ない次第かしら。あ、それと、前屈み気味に歩けば、すれ違うときおっぱいも覗いてもらえるかもよ?」

 そうなのです。
 強い風を孕んだワンピースは上半身の布も浮かせ、さっきの突風であわてて前を押さえて前屈みになった私の視界には、風を孕んで浮き上がったVゾーンからブラジャーも丸見えだったのでした。
「さあ、行きましょう」
 お姉さまに右腕を引っ張られ、再び階段の入口に立ちました。

 人がやっとすれ違えるくらい狭く、普通の膝丈スカートだったとしても一番下から一番上を見たらスカートの中が覗けちゃいそうな、長くて急勾配な階段。
 その左側をゆっくり下りていくお姉さまの背中を追って、私も下り始めました。
 強い風が正面から、絶えず吹きつけて来ます。
 お言いつけ通り、裾の少し上を押さえ、急勾配なので幾分前屈みになって。
 風が内腿のあいだを吹き抜けて行くのがわかりました。

 三段も下りないうちに、一番下に人影が現われました。
 スーツ姿のご中年サラリーマン風男性。
 休日出勤なのかな。
 通路をうつむきがちに歩いてきて、階段一段目の前でおもむろに上を見上げました。

 まず、前を行くお姉さまに目を留め、つづいてその背後の私にも。
 そこで、おやっ?、というお顔になり、上を見上げたまま、階段の向かって右端の一段に、ゆっくりと右足を踏み出しました。

 距離と勾配と私のミニワンピの裾丈を考えれば、風が吹いていようがいまいが、前を押さえていようがいまいが、あの位置からなら、裾の中身は丸見えでしょう。
 本来であれば、バッグなどを前に持って防御するべき、ミニスカ女性の天敵のような階段でした。

 必要以上にゆっくりと階段を下りていくお姉さま。
 お言いつけ通り、その二段後ろを、少し前屈み気味に着いていく私。
 風を孕むミニワンピース。
 始終左右に割れっぱなしの裾で、剥き出しとなっているクロッチ。
 その男性は私とすれ違うとき、なぜだか少し申し訳無さそうなお顔をされていました。

 最初の階段を下り終えると、少し平地を歩いてまた次の長い階段。
 運が良いのか悪いのか、ちょうど電車が到着した後だったようで、最初の男性につづいて、十数人の人たちと次々にすれ違いました。

 女性にはあまり関心を示されませんでしたが、男性は老いも若きもみな一様に、私を視界に認めたときから歩調が緩くなり、首輪と股間へ交互にチラチラ視線を送ってくださいました。
 その視線を感じるたびに、全身がゾクゾク疼きました。
 すれ違った後にも振り返ってくる気配を感じ、更に前屈みになって胸元を覗き込みやすいような姿勢になってあげたりもしました。

 お姉さまは、ときどき振り向いてはカメラを向けてきました。
 そんなふたりを呆気にとられたお顔でまじまじと見てくるご婦人もいらっしゃいました。
 階段を降りているあいだ中、注がれる視線のすべてが心地良く私を陵辱してくださいました。
 ローターが震えてもいないのに、膣内がヒクヒクしっぱなしでした。

 階段を下りきると風も弱まり、電車が行ったすぐ後なので、数メートル先の切符券売機近くにも人影は無く、私たちの後から階段を下りてきた人たちがちらほら、私たちを追い越して改札を通っていきました。

「かなり注目を集めちゃったわね?」
「お姉さまがお綺麗で、人目を惹いてしまうからだと思います」
「あら、嬉しいこと言ってくれるのね。おだてても、直子への命令が甘くなることはないわよ?」
「はい。わかっています」
「たくさん視てもらって、どう?濡れちゃった?」
「あ、はい・・・」
 はしたないけれど真実だから仕方ありません。

「あの階段、下りだったからまだマシだったかもね。上りだったら、下りてくる人からは直子の谷間覗き放題、直子の後ろに着いた人には、パンティのお尻ずっと丸出し状態だもの」
 私の手を取ってゆっくりと、券売機方向へ向かうお姉さま。
 お姉さまのお言葉に、どうせならそれもやってみたいかも、なんて思っちゃう、ふしだらな私。

「あっ!この駅にもあるんだ」
 もうすぐで券売機というところで、お姉さまが立ち止まりました。
 お姉さまがご覧になっている方向にあるのは、駅や街角にたまに設置してある、証明写真の撮影ブースでした。
「ちょうどいいわ。ちょっとここで練習していきましょう」
 お姉さまが謎なことをおっしゃり、私の手を引いてブースに近づきました。

「直子、入って」
「はい・・・」
 開きっ放しのカーテンの向こうに、作り付けの小さな椅子がひとつだけ。
「直子も使ったことあるでしょう?こういう証明写真機」
「あ、はい。学生の頃、何度か・・・」
「お金はあたしが出してあげるからバッグをちょうだい」
「あ、はい」
 肩に提げたビニールトートをお姉さまに差し出して、椅子に腰を下ろしました。

「それじゃあ、閉めるわよ」
「えっ?お姉さまは?」
「そんな狭いところに二人で入っていたらヘンに思われるでしょ?プリクラじゃあるまいし」
 苦笑しながらカーテンが閉じられたと思ったら、ブースの壁とカーテンの隙間から、お姉さまがニュッとお顔だけ入れてきました。

「もうわかっているとは思うけれど、そこでカメラに向かって、おっぱい出しなさい」
 隙間から顔だけお姉さまの、抑えた声でのご命令。
 もちろん、えっ?とは思ったのですが、ご命令には絶対服従なので、一度うなずいてから、胸元のボタンを外し始めました。
 だけど、お姉さまが覗いて撓んでいるカーテンに隙間が出来ていないか、内心気が気ではありません。
 ドキドキしながらおへそ近くまでボタンを外し終えました。

 これからどうすればいいのでしょう。
 ブラジャーも外すのかな?
 考えながら、お姉さまをすがるように見ました。
「ブラを下にずらして、おっぱいを出しなさい。カップを下乳まで下げて」

 お姉さまに促され、ブラジャーのハーフカップ全体をお腹のほうへ引き下げました。
 尖った乳首がプルンと跳ねて、おっぱい全体が露になりました。
 下げたハーフカップに下乳が持ち上げられ、いつもよりひと回り大きく見えます。
「ちゃんとおっぱいまで写るように背筋を伸ばしてね。あと、そのおっぱいの出し方、しっかり憶えておいて」
 そうおっしゃって、お姉さまのお顔が一度引っ込みました。

 カーテンの端が意地悪するみたいにユラユラ揺れて、お外がチラチラ覗けます。
 目の前の鏡に映る、赤い首輪を嵌めて不自然な形に両乳房を露出した不安げな女の上半身。
 カーテン越しに駅のアナウンスや電車が走り去る轟音、人々のざわめきが聞こえてきて、私のドキドキは最高潮。
 どんどん心細くなっているとき、お姉さまのお顔がニュッと、再び現われました。

「はい。お金」
 小銭を渡され、投入口に入れました。
「顔は隠していいから、おっぱいはバッチリ写るようにね。顔は、右の手のひらをカメラに向けて、目と鼻だけ隠しなさい」
「こう、ですか?」
 試しにお言いつけ通りの方法で顔を隠すと、お姉さまからおーけーをいただきました。
「写真撮ったらさっさとおっぱいしまって、元通りに服装直して出てきなさい」
 それだけおっしゃると、お顔がまたひっこみました。

 操作盤の説明に従って、写真を撮りました。
 ストロボが光ったとき、かなりびっくりしてしまいました。
 それから大急ぎでブラジャーを直し、胸元のボタンも留め直しました。
 出来上がった写真は、お外の取り出し口から出てくるということなので、自らカーテンを開けてお外へ出ました。
 写真はすでに出来ていたみたいで、お姉さまがお手に取ってニヤニヤされていました。

「なんだか、どこかの風俗嬢の紹介写真みたいね」
 お姉さまが差し出してきた紙には、両目と鼻付近だけを手のひらで隠したおっぱい丸出し女のバストアップ写真が、無機質な青色をバックにまったく同じ構図で4枚、鮮明に印刷されていました。
 赤い首輪と尖った乳首が淫猥で、ひと目でこの女はマゾだとわかっちゃうように感じました。
 それよりも何よりも、こんな自分の恥ずかし過ぎる写真を、すぐ横を見知らぬ人たちがたくさん行き交う駅の改札近くで見せられていることに、アブノーマルな興奮を感じていました。

「この写真は、あたしが記念にいただくわ。お金を出したの、あたしだもの」
 お姉さまがイタズラっぽく微笑み、ビニールトートをガサゴソし始めました。
「それで、あたしのものっていうことは、あたしがどうしようが勝手っていうことよね?」
 お裁縫セットから取り出したちいさなハサミで、写真を上下2枚づつの二分割にチョキンと切り離しました。

「こっちは、バッグに仕舞って・・・」
 ビニールトートのバスタオル側ではないほうに、写真が透けて見えるようにわざわざ表を向けた形で無造作に突っ込むお姉さま。
「そして、残りのこっちは・・・」
 お姉さまがニッと微笑み、証明写真ブースの中に入り込んで、操作盤の下の狭い台になったところの隅っこに、裏を向けて置きました。

「散歩の帰りにもう一度ここに立ち寄って、この写真が残っているか確認するの。賭けみたいなもの。面白いと思わない?」
 お姉さまの超愉しそうな笑顔。
「つ、つまり、もしかしたらこの写真が、誰かに視られちゃう、ということですよね?」
 自分で尋ねながら、誰かがこの写真をみつけたときの光景を想像して、キュンキュン感じてしまう私。

「この時期に証明写真を撮ろうなんていう人は少ないとは思うけれど、中に入ったら絶対に気づくわよね?それで写真見れば、まあ、オトコなら絶対持って帰るでしょうね」
「直子はどう思う?残っているか、誰かが持っていっちゃうか」
「うーん・・・やっぱりこの時期だと、誰もここを使わなくて、そのままのような気も・・・」
「おーけー。それじゃあ、もしなくなっていたら直子の負け、ということで、特別なお仕置き。それで決まりね。ちょっとここで待ってて」
 お姉さまは、ビニールトートの提げ手を私の左肩まで強引に通した後、お財布だけ持って券売機のほうへと向かいました。

 その背中を見送りながら、私は帰りに再び、あの階段を下りなくてはいけない、ということに、ふと気づきました。
 帰りの頃の私は、いったいどんな姿にされているのだろう・・・
 変わらず下着を着けているとは、到底考えられませんでした。
 
 そして、あの写真があるかどうかを確認したら、今度は電車に乗るのではなく、下りてきたあの急階段を上がって戻らなければならないのです。
 ノーパンノーブラにされていたら・・・
 そのときの自分を思うだけで、頭がクラクラするほどムラムラ疼いてしまいました。


オートクチュールのはずなのに 17