2015年12月20日

オートクチュールのはずなのに 29

 ふと横を見ると、ほのかさまがワンピースをすっかり脱ぎ終えていました。

 ペールホワイトと呼ぶのでしょうか、ひんやりとした雰囲気の色素薄めな肌色の素肌が、応接室の窓から差し込む日差しにクッキリ照らし出されていました。
 どちらも少しだけフリルで飾られた、清楚という言葉がぴったりな真っ白なハーフカップブラとフルバックのショーツ。

 ほのかさまって、確実に着痩せするタイプです。
 思っていた以上にボリューミーなバスト、キュッとくびれたウエスト、そこから流れるような曲線を描いてツンと上を向く逆ハート型のヒップ。
 早乙女部長さま、リンコさま、ミサさまも、見惚れたようにほのかさまの神々しいまでの肢体を凝視していました。

 私も吸い寄せられるように見惚れかけたのですが、ハッと、自分が今置かれている状況を思い出しました。
 ええい、もうなるようにしかなりません。
 
 もしもノーパンだったら、ついうっかり、で思い切りドジっ子になって、なんとかお笑いでごまかそう。
 幸いなことに、私の本性をご存知なチーフもいらっしゃらないことだし。
 ほのかさまに注目が集まっているうちに、と思い、急いでシャツブラウスのボタンを上から外し始めました。

 ブラウスのボタンを3つまで外し、着けていたブラジャーがチラッと見えたとき、はっきり思い出しました。
 大丈夫、今日はちゃんとショーツも穿いている。
 ホッと一息、胸を撫で下ろしました。
 今朝、なぜこの下着たちを身に着けることにしたのかまで、ハッキリ思い出していました。
 と同時に、昨夜、どんなオナニーをしたのかまでも。

 昨夜は、お姉さまとの連休中のあれこれの思い出し自虐オナニーシリーズ。
 お姉さまのお部屋のベランダで白昼、人間洗濯物干しにさせられる妄想でした。

 全裸でベランダに連れ出された私は、ベランダの下からもよく見えるところに立たされ、両腕を左右へ水平に挙げるよう命令されます。
 お姉さまが私の腕に、タオルやハンカチを洗濯バサミで留めていきます。
 皮膚とお洗濯物を一緒に挟んで留めるのです。
 
 更に、長い紐を結んだ洗濯バサミを私の乳首に噛みつかせ、紐のもう一方の端を洗濯物干しの柱に結び付けて、その紐にもお洗濯物をどんどん掛けていくのです。
 お洗濯物の重さで乳首が引っ張られ、ついには激痛と共に外れてしまいます。
 外れてしまってお洗濯物を落としてしまったら、もちろん更にキツイお仕置きが待っているのです。

 そんな妄想をしながら、自分のからだにたくさんの洗濯バサミをぶら下げました。
 私の大好きな、おっぱいを絞り出すような形に麻縄で乳房を縛り、ツンと尖った乳首に洗濯バサミを噛ませて引っ張りました。
 クリットローターとバイブレーターはずっと震わせっぱなし。

 頭の中には、私の恥ずかしい姿をベランダにみつけた通行人やお隣の女子校の窓から、情け容赦の無い嘲りや蔑みが絶えず聞こえていました。
 棒枷で大の字に開きっ放しのマゾマンコからは、愛液が始終ポタポタと床に垂れていました。
 そんなふうに私は、鏡張りのお仕置き部屋で首輪から垂れたリードの鎖をユラユラ揺らしながら、夜が更けるまでアンアン身悶えしつづけたのでした。

 その流れで、今朝起きて下着はどうしようかと迷ったとき、実際にもその後、お姉さまからご指示いただいて身に着けたアレにしよう、と決めたのでした。
 元々はお姉さまの持ち物であった、シルバーのオシャレなブラジャーとショーツ。
 そこまで思い出したとき、急に別の不安が頭をもたげてきました。

 昨夜の痕跡が肌に残っていないだろうか?
 たとえば縄の痕とか、洗濯バサミの小さな鬱血とか、鞭で叩いたミミズ腫れとか・・・
 オナニー後はゆっくりお風呂に入って素肌マッサージはしましたが、今朝はまったくそんなことを気にせずお洋服を着てしまいました。
 自分でもどうなっているか、脱いでみなければわかりません。

 ブラウスのボタンはすべて外し終えていました。
 開いた隙間から肌を見た感じでは、大丈夫そう。
 他のみなさまは、インナー、ブレザー、スカートとすでに身に着け終えたほのかさまに、今度はアクセサリー類を着けるお手伝いをされています。
 そのあいだに、ささっと脱いで、ささっと上だけでも着てしまおう。
 ブラウスの前を開き、あたふたと袖を抜きにかかりました。

「あら、森下さんは、うちのランジェリー、着けてくださっているのね?」
 いきなり早乙女部長さまからお声がかかって、盛大にドッキン!
 いつの間にか部長さまが私の前に来られていました。
 
 不意を突かれた私は、脱いだブラウスをテーブルの上に置くのが精一杯。
 咄嗟に自分の上半身に視線を走らせ、左脇腹に赤い点みたいのが見えた気がしてサッと右手で隠しました。
 それだけでは不自然なので左腕をその上に交差させ、お腹の前で両腕を組むような格好、その格好でフリーズ。

「でもおかしいわね。そのシリーズはまだ流通に乗っていないはずじゃなかったかしら?」
 部長さまが私のバストをまじまじと見つめながらおっしゃいました。
 お腹の前で両手を組む格好ですから、見方によっては、おっぱいをこれ見よがしに突き出して強調しているふうに見えちゃったかもしれません。
 部長さまのお声につられるように、リンコさまとミサささま、そしてほのかさまの視線も私を追いかけてきました。

「あ、あの、これは、お休み中にチーフのお家のお掃除のお手伝いに伺いまして、そのときに貸していただいたと言うか、譲っていただいたと言うか」
 フリーズしたまま説明する私の上半身を、みなさまの視線が舐めるように這い回るのがわかりました。
「そんなことがあったのね。着け心地はどう?」
「はい、とてもいいです。やわらかで軽くて・・・」
 布地がソフト過ぎて、私の尖った乳首が露骨に布を押し上げているのが、生々しくわかる程でした。

「そうでしょう。いいシルクなのよ、それ。でもそのサイズでは、森下さんにはちょっとキツイでしょう?合わないブラ着けていると、バストの形が崩れちゃうわよ?」
「あ、そ、それはチーフからもご助言いたただきましたけれど、そんなに気になるほどではなかったので・・・」

「だーめ。せっかく奇麗なバストしているのだから、丁寧に育てないと。確か森下さんに合うサイズでそのカラーのサンプルも倉庫にあったはずだから、後ほどわたくしが交換してあげます」
「あ、はい。それは、ありがとうございます」
 部長さまと会話をしているあいだ中、みなさまの視線が私のバストに集中しっぱなしで、それを感じて乳首は益々尖り、早く何か着たくてたまりませんでした。

「たまほののほうはだいたい終わったから、今度は森下さん。まずそれを着て」
 リンコさまがほのかさまの着付けに戻り、部長さまが直々に私を担当してくださるみたいです。
 ミサさまは、私とほのかさまを交互に見ています。

 部長さまが指さされたのは、真っ赤をベースに緑のチェック柄を散りばめたノースリーブのシャツ、と言うよりタンクトップみたいな形の前開きのインナーでした。
 前開きは、ダミーのボタンがデザインで付いているものの、実際はジッパーで開閉する形。
 あらためて手に取ってみると、ずいぶん薄い生地で若干伸縮性もあるみたい。
 一刻も早く脇腹を隠したいという一心で、ささっと両袖を通し、テキパキとジッパーを上げました。

 ジッパーを閉じると、かなりピチピチフィットなボディコンシャス。
 両腋、胸元、背中のどれもが大胆に開いていて、雰囲気的にはビスチェに近い感じ。
 丈も短くて、おへそがもろに覗く長さで終わっています。

「うん。いい感じ。それにブレザーを羽織ってアクセを付けるのだけれど、とりあえず先にボトムを穿いてしまいましょう。ジーンズ、脱ぎなさい」
 部長さまがおっしゃった口調がお姉さま、いえ、チーフに似ていてドキンとしたとき、同時にふっと新たな懸念が急浮上してきました。
 そうだった・・・
 ドキドキが急激に高まる中、リンコさまからお声がかかりました。

「部長、Aタイプのほうは、最終こんな感じでよかったでしょうか?」
 見ると、ほのかさまの着付けが終わり、リンコさまと連れ立って部長のそばにお立ちになりました。
「うん。いい感じね。アクセも全部着けた?」
「はい。ソックスと靴以外は仕様通りのはずです」

 私が着ているのと同じ色柄のインナーの上に、緑と赤をオシャレに配色したブレザーを羽織っています。
 ただし、ほのかさまの襟元にはYシャツ風のカラーが付いていて、ソコから結んだフワッとした赤いリボンが、大きく開いた胸元を絶妙に隠していました。
 なるほど、最終的には、ああいう形になるんだ・・・
 自分のがら空きな胸元を見下ろして、少し安心しました。

 赤と緑の可愛らしいチェックのミニスカートは、けっこうローライズでほのかさまもおへそが見えています。
 丈は膝上20cm位。
 これで激しく歌って踊ったら、下着が見えてしまうことは確実です。
 だけどああいう人たちは、俗に言う、見せパン、を穿いているはずだから。

 そんな姿でスクッと立っているほのかさまは、見るからに可憐で、チラッと見えるおへそが小悪魔的にセクシーで、本当に芸能人タレントさんと言われても誰も否定出来ないほど、華やかなオーラを放っていました。

「たまほのって、どんなファッションしてもそれなりにすっごく似合っちゃうんだから、反則よね」
 リンコさまの本気半分からかい半分のお声に、頬をポッと染めて反応するほのかさま。
「でも、わたし、これはかなり気恥ずかしいです・・・おへそが・・・」
 スカートの裾を引っ張りつつ照れたお声でポツンとつぶやいたほのかさまの、その可愛らしさと言ったら。
 魅入られたようにほのかさまを見つめているミサさまのお顔が、子猫のようにデレていました。

「おーけー。たまほのはちょっとそこで待っていて。森下さんのほうも片付けてしまいましょう」
 部長の一声に、再び4人の視線が私に集中しました。
 途端に私の懸念も再浮上。

 これから私は、みなさまの前でジーンズを脱ぐわけですが、ノーパンでないことはわかり、サイアクの事態は避けることが出来ました。
 でも、穿いてきたショーツが問題でした。
 頭の中で、お姉さまとのあの日の場面が、まざまざと再生されました。

「出発前に、もうひとつだけネタバレしてあげる。あたしがなぜ、直子にグレイのパンツを穿かせたと思う?」
「・・・わ、わかりません・・・」
「グレイのシルク地だとね、直子がいやらしい気持ちになってマゾマンコを濡らしちゃったとき、そのシミが一番クッキリ目立つのよ。黒々と、遠くから見てもわかるくらい」
「・・・」
「そんなのみんなに見られたら、ある意味ノーパン見られるより恥ずかしくない?サカっている証拠だし、ぱっと見でもお漏らしみたいだし。だからせいぜい濡れないように、がんばりなさい」

 手遅れでした。
 その日は朝から、マゾマンコがキュンキュンしちゃう出来事が何度もありましたし、今だって窮地に立たされた自分の被虐に、自分の意志とは関係の無いところで、ウルウル疼いていしまっています。
 自分のからだですから、今現在私が濡れていることはわかっていました。
 問題は、それが今、どのくらいまでショーツに滲み出てしまっているか、でした。

 逃げ場所のないこともわかっていました。
 私は、何がどうしたって今ここで、みなさまの目前でジーンズを脱がなくてはならないのです。
 でも、そんなふうに考えるほど、余計に濡れてきてしまうマゾな私・・・
 いっそのこと、誤ったフリをして、ショーツごとジーンズを脱いでしまい、剥き出しパイパンマゾマンコをみなさまにご披露してしまおうか・・・
 そんな自虐的な妄想まで浮かんでくる始末。
 
 もはや仕方ありません。
 覚悟を決めて靴を両方脱ぎました。

 ゆっくりとボタンを外し、ジッパーを下げました。
 それから大げさに身を屈め、縮こまるみたいな体勢でゆっくりとジーンズを下ろしていきました。
 視界にショーツの銀色な布地が見えました。
 パッと見では、それとわかる程の変色は無いみたい。
 大急ぎで足元まで下ろし、両脚を抜きました。

 再び立ち上がると、目の前にスカートが差し出されました。
「はい、これ」
 リンコさまが差し出してくれています。
 他のかたがたの視線は、私の下腹部に集中しているように感じました。

 手にしたスカートも、思ったよりも薄くて軽い生地でした。
 広げてみると巻きスカート。
 ボタンで調節するようです。

 いつものスカートの感じでウエスト少し下にあてがうと、丈がぜんぜん短くて、ショーツがほとんど隠れません。
 あれ?
「あ、それはね、ローライズだからもっと下で穿くの。腰骨のちょっと上くらい」
 リンコさまが寄ってこられ、私の足元にひざまづきました。
「やってあげる。ここにこうして・・・」
 私の右側にひざまづいたリンコさまが私の腰にスカートをあてがい、ボタンを留めてくださいました。
 
 スカートを持ったときから気がついていたのですが、私のスカートはほのかさまのに較べて、格段に短かい仕様のようでした。
 現に、リンコさまに穿かせていただいた後でも、スカートの裾は股の付け根ギリギリ。
 ちょっとでも動けばお尻全開、クロッチ丸見えとなることでしょう。

「うん。そんな感じね。デザイン通り。あとは小物」
 部長さまが満足そうにうなずきました。
 えーーーっ!?
 私の心中、大騒ぎ。

「あのあの、でも、このスカート、ほのかさまのと較べて、すごく短かすぎませんか?」
 我慢出来ずに思わず言ってしまいました。
 あわて過ぎたので、いつも心で思っている、ほのかさま、と呼んでしまいました。

「問題は無いの。Bタイプはその仕様」
 部長さまが真面目なお顔で、キッパリとおっしゃいました。
「でもこれでは、何て言うか、動くたびに、し、下着が丸出しになっちゃいますけれど・・・」
「いいのよ。彼女たちはそれを見越して、見せるための下着を身に着けるから」
 さも当然という感じでお澄まし顔の部長さま。

 そんなこと、私だって知っています。 
 これを着るタレントさんは、そうなのでしょうけれど、そんなキワドイものを今ここで着ている私は、見せパンではなくて、自分の日常的な下着なのですけれど・・・
 そう抗議したいのですが、もちろん出来るはずありません。
 そんな自分の可哀相な立場に、被虐大好きマゾの私がまた反応して、という悪循環。
 奥の潤みを感じて、そっとスカートの裾を引っ張るように股間を両手で隠しました。

「この衣装はね、基本、同じデザインで2タイプ作れっていう依頼なの。たまほのが着ているのがAタイプ。森下さんのがBタイプ」
 部長さまが出来の悪い生徒を諭す先生みたいに、ゆっくり説明してくださいました。

「アウェイとホームみたいなものよ。Aタイプは、テレビや、スポンサー主催のイベントライブで数曲披露するとか、言わばメディア用。Bタイプは、彼女たちの事務所が企画するライブステージ用」
「事務所は、彼女たちを色っぽい感じ、セクシー路線で売り出すつもりなの。それで口コミでファンを増やす作戦。だから基本的に露出度多め。でもテレビとかのメディアはいろいろと小うるさいから、Aタイプみたいにおへそまで。スカートも見えるか見えないかくらいに抑えたチラリズム路線」
「その分、ホームではキワドイくらい大胆に挑戦したい、っておっしゃるから、こうなったの」

「そ、そうだったのですか。それでは仕方ありませんね」
 クライアント様のご要望なら、私が文句を言ってもはじまりません。
 そういうことであれば、早くこの試着テストを終えて普通の服装に戻ろう、と頭を切り替えました。

「そういうことですと、ほのかさんのようなカラーや胸元のリボンも、私のには無いのですね?」
 自分の、えげつないくらい大胆に開いた胸元を見下ろしながら、一応お聞きしました。
 ハート型に開いたゾーンにはおっぱいの谷間がクッキリ三分の一くらい露出して、おまけにブラジャーもインナーも生地が薄めなので、私のやんちゃな乳首は、外から見ても生地越しにうっすら位置がわかりました。

「そうね。アウェイ用はブレザー着たままが前提だから、ホルタートップにしてカラーを付けてリボンを結ぶことにしたの。その代わり、背中側は全開よ」
 部長さまがおっしゃると、待ってました、とばかりに、ほのかさまがつづけました。
「それなんです。わたしが一番落ち着かないのは。上着を脱いだら背中側のブラのストラップが丸見えですよね?」
「それは、さっきも言ったようにAタイプは本番中ブレザーを脱がない前提なので、たまほのは気にしなくていいの」
 ほのかさまの抗議を、部長さまがあっさり退けました。

「あ、それでBタイプのネックアクセは、これね。チョーカー」
 部長さまがテーブルからつまみ上げ、私の目の前に突き出してきたのは、以前、シーナさまが私にプレゼントしてくださったのとよく似た形の、エンジ色に近い濃い赤色のチョーカーでした。
 男性の腕時計のベルトくらいの幅の、ワンちゃんの首輪にそっくりなチョーカー。
 中央付近にハート型のリングが三つ、ぶら下がっていました。

「アイドルオタクの人たちに受けそうだからって、事務所のプロデューサーのゴリ押しで決まったの。なんだか気味の悪い分析をしていたわ。わたくしたちは、もっとエレガントなアクセをいくつか推薦したのだけれど」
 部長さまがさもつまらなそうにおっしゃいました。

 私は、それを見た瞬間にゾクゾクっとからだが震え、まずシーナさまにいただいたチョーカーが思い浮かび、それが消えるとすぐ、今も社長室の自分のバッグの中にこっそり忍ばせている、お姉さまへの服従の証である愛用の首輪を思い出していました。
 そして、私がそれを着けて行なった、破廉恥な行為の数々。

 私、これからみなさまの前で、このチョーカーを着けるんだ・・・
 私の中のマゾを具現化してしまう、禁断の装飾具。
 からだがカッと熱くなり、その日最大の奥の潤みを股間に感じていました。


オートクチュールのはずなのに 30


2015年12月13日

オートクチュールのはずなのに 28

 応接室へお茶をお持ちすると、ほのかさまとご来客の男性おふたりが熱心にお話しされていました。
 テープルの中央に何かの図面を広げ、みなさまその図面を見るためにうつむいておられました。

「失礼します」
 私の声にほのかさまがお顔を上げました。、
「あら、ありがとう」
 つられるように、お客様おふたりもお顔を上げました。
 かなり緊張しつつ、それぞれの前にお茶を置いていきます。

 お客様の男性おふたりは、テーブルにお茶を置くと私にお顔を向け、座ったまま真面目なお顔で会釈を返してくださいました。
 おひとりは、がっしりした体格で短髪の、俗に言う体育会系タイプ。
 おひとりは、スラッと細身でやや長髪気味なクセッ毛に銀縁メガネの、インテリ理工系タイプ。
 おふたりとも、お歳は30手前くらいでしょうか、イケメンと言って良い男性らしい整ったお顔立ちで、ピッタリめのビジネススーツがそれぞれよく似合っていらっしゃいました。

 お茶を置くために近づいたとき、女性とは明らかに違う匂いが微かにして、それに気づいた途端、急激に胸がドキドキし始めました。
 お茶を置き終えてお辞儀をひとつ、逃げるように応接室を後にしました。
 社長室へと小走りに駆け込み、ドアは開け放したまま入口のところでホッと一息。
 呼吸を整えてお部屋の奥に目を遣ると、私のデスクの椅子にミサさまが座って私を見ていました。

「息抜き」
 ミサさまがポツンとおっしゃり、私の席を立って窓際の応接に移動されました。
「あ、そうでしたか」
 ミサさまの動きに誘われるように、私もミサさまの隣に座りました。

「彼ら、来ているんだ?」
「はい。ほのかさんがお相手されています」
「直子はオトコ、苦手?」
「えっ?」
「さっき入口のところで、動揺してるような、フクザツな顔、していたから」
「あ、はい。入社前のチーフのお話では、お取引先は女性ばかりと聞いていたので、びっくりしてしまって・・・」
 ミサさまがニッと笑ってうなずきました。

「でも、安心して。彼らはぜんぜん、問題無い」
 ミサさまが少し声を落として、その童顔をイタズラっぽくほころばせました。
「えっ?」
「オンナ、という意味で、彼らが直子に興味を持つことはまったく無いから」
「えっと・・・」
「彼らは、うちと提携しているスタンディングキャットっていう会社の社員」
 そう言えば、ご来客の予定表にはSC社と記されていました。

「そのお名前からすると、ペット用品か何かの会社さまですか?」
 ペット用品、と自分で口にした瞬間、唐突に愛用の首輪が頭に浮かび、一瞬ビクン。
 私の質問にミサさまは、愉快そうに首を左右に振りました。

「ううん。寒いダジャレ」
「ダジャレ?」
「キャットは?」
「猫、ですよね?}
「スタンディングは?」
「うーんと、立つ、とか立っているとか・・・」
「立つ、と、猫。そういう種類の男性。つまり、だんしょくか」
「だんしょくか?」
 ミサさまのお言葉を鸚鵡返しして、ハッと気がつきました。

「あっ!」
「そう。彼らはホモセクシャル。タチとネコっていう痛いダジャレの社名」
 愉しそうに微笑むミサさま。

「スタンディングキャットは、うちの会社の男性版。同性愛男性による同性愛男性のためのファッションブランド」
「うちと同じで、社員は全員同性愛者。流通やデザインで以前から相互交流している。生地を共同購入したり」
「だから、彼らが直子に対して異性愛的な興味を持つことは、あり得ない」
「そうだったのですか・・・」
 ミサさまのご説明を聞いて、一気に緊張が解けました。

「イベントの打ち合わせに来たのだと思う。会場の設営や場内整理、主に力仕事を手伝ってもらうことになるから」
 ミサさまは、私を慈しむような柔らかい微笑を浮かべ、私の顔を見つめながら、説明してくださいました。

「彼らは、とてもユニーク。ファッションやメイクにすごく詳しいし、並みの女性より女子力高いのが何人もいる」
「基本、ナルシスト。だけど、コミュ能力も高いから、話すと面白い人が多い。女性に対する人当たりがギラギラしていないから」
「それに、ナマのビーエルを間近でライブで見れるから、とても貴重」
「直子も、彼らをオトコとして意識しないで、ボクらに対するみたく普通に接すればいい」

 ミサさまのご説明で、かなり気が楽になりました。
 そういうことであれば、男性といっても普通程度には接することが出来そうです。
 体臭と体毛は、やっぱり苦手だけれど。

 それに、お休み中のお姉さまとのえっちな冒険で、男性からの視線にずいぶん耐性がついていました。
 えっちな妄想のときに、不特定の男性の視線を思い浮かべることが出来るくらいに。
 もしも、それ以前の私だった頃に今日のお客様が現われたら、怖気づいてしまって、お茶をお出しすることさえ出来ず、ほのかさまに大きなご迷惑をおかけしてしまったかもしれないと思うと、それだけでも、お姉さまとの三日間は有意義なものだったと、あらためて思いました。
 
 不意の男性襲来に対する警戒心が完全に解け、打って変わって、男性同性愛者、という存在に好奇心さえ湧いてきました。
 と同時に、ふともうひとり、最近になって頻繁にオフィスを訪れる謎なお客様のことを思い出しました。
 ついでと言っては失礼ですが、この機会にそのかたのこともミサさまに尋ねてみることにしました。

「お客様と言えば、最近よく、早乙女部長さまを訪ねてこられるお綺麗な若い女性がいらっしゃいますよね?」
「?」
 誰だろう?というふうに可愛らしく小首をかしげるミサさま。

「えっと、背格好は私と同じくらいで、でも、いつもセンスの良いファッションで、何て言うか、華があるって言うか、芸能人ぽいオーラがあって・・・」
「このところ毎日のようにアポ無しでお見えになって、早乙女部長さまとお話しされた後、デザインルームにお入りになったりもして・・・」
 そのかたのお名前は、ご来客予定表にも無く、いつも突然いらしていました。

「ああ。絵理奈のこと?アヤ部長、直子に紹介してない?」
「ええ。いつもお茶をお出しするとき会釈するくらいで」
「彼女は、今度のイベントでモデルしてくれるグラビアアイドル。アヤ部長がどっかからつれてきた」
「へー。やっぱりモデルさんでしたか。お綺麗なかたですものね。絵理奈さんていうんだ」

「元は地方でレイヤーしていたらしい。ボクらは知らなかったけれど。それでどっかの事務所にスカウトされてイメージビデオを違う芸名で数本出してる。絵理奈は着エロビデオのときの芸名。そこそこ売れているらしい」
「歳も、直子と同じか、一個上くらい。ネット界隈ではけっこう人気ある」
 ミサさまが淡々とご説明してくださいます。

「うちのイベントで披露するアイテムはけっこうキワドイから、あまり有名なモデルは使えない。かと言って、AV女優を使うとキワモノっぽいイロがついちゃう危険性がある。そういう意味でアヤ部長はいい人を捕まえたと思う」
「うちのイベントは業者向けで非公開だし、会場で一切写真は撮らせないから、彼女の経歴にも傷はつかない。カタログにも顔は出さないし」
「今回のイベントのアイテムは、すべて彼女のからだに合わせて作った。デザインルームの中では、彼女はいつも、ほとんど裸同然。かなりえっちなからだつき」
 ミサさまが思い出し笑いのような、艶っぽい笑みを浮かべました。

 早乙女部長さまが絵理奈さまとデザインルームにこもっているときは、ミサさまとリンコさまも交えて、そんなことになっていたんだ・・・
 お仕事とは言え、着衣三名に囲まれた裸の美人モデルさん。
 その様子を想像したら、ウルウル疼いてきてしまいました。

「ちょっと生意気だけれど、プロ根性はある。どんなアイテムでもひるまなかったし」
「イベント終わったらリンコと3人で何かコスプレイベントに出ようって話してるから、そのときは直子も誘う」
「あ、はい。って言うか、うちのイベントのアイテムって、プロのモデルさんもひるむ程、キワドイのですか?」
「うふふ。それは当日になってのお愉しみ。今年のテーマは、エロティックアンドエクスポーズ、だから、なおさら」
 イタズラっぽく微笑むミサさま。

「あっ、彼らが帰りそうだから、ボクもそろそろ仕事に戻る」
 応接室のほうがガタガタしているのに気づいたミサさまが、そうおっしゃって立ち上がりました。

「もう少しゆっくりされてもいいですよ。せっかく早乙女部長さまもいらっしゃらないのだし。ほのかさんがミサさんとお話ししたがっていましたよ?」
 そう伝えると、ミサさまの頬にポッと紅が注しました。
「いい。照れ臭い」
 可愛くおっしゃって、逃げるように社長室を後にするミサさま。
 そのお背中を見送ってから、私もテーブルのお片付けをしなくちゃと、応接室へと向かいました。

「お土産いただいたの。先週北海道へ行かれたのですって。後でいただきましょう」
 お客様をドアまでお見送りになり、応接室に戻られたほのかさまがテーブルの上の紙包みを指されておっしゃいました。
 北海道土産として超有名なビスケットに白いチョコを挟んだお菓子の、大きな包みでした。

「あのかたたちは、うちと交流のある会社のかたたちだそうですね。ミサさんにお聞きしました」
「そうなの。ゲイ男性向けアパレルのかたたち。今度のイベントでお手伝いいただくから、直子さんもお顔を憶えておいたほうがいいわ。あ、さっきご紹介すればよかったわね」
 ほのかさま、なんだかとても楽しそう。

「メガネのかたが橋本さん。マッチョなほうが本橋さん。当日は、あと数名つれてきてくださるそうよ」
「ゲイのかたたちのお話って、本当にためになるの。今日も橋本さんから、お肌がスベスベになるドイツのボディシャンプーのブランド、教えてもらっちゃった」
 あくまで無邪気なほのかさまを見て、私も見習わなくちゃと思います。

 応接室を片し終えて一息ついていると、早乙女部長さまとリンコさまがお戻りになりました。
「お帰りなさいー」
 リンコさまは大きなカートを引っ張っていました。

「ああ疲れた。悪いけれどお茶煎れてくれる?その急須の二番煎じでいいから」
 デスクの上に置きっぱなしだった急須をみつけた早乙女部長さまが、おっしゃいました。
「はいはいー。ただいま」
 急須を持って給湯室へ駆け込む私。
 オフィス内のまったり空気が、一気に引き締まりました。

「たまほのと森下さんがオフィスにいてちょうど良かったわ。あなたたたち、今、手空いている?」
 ご自分のデスクでお茶を美味しそうに飲み干した早乙女部長さまが立ち上がり、私たちにお声をかけてきました。
「あ、はい。これといって急ぎの仕事は・・・」
 ほのかさまのご返事。
 使っていたラップトップパソコンを社長室に戻そうとしていた私も、立ち止まって振り返りました。

「よかった。ちょっと応接に集まってちょうだい」
 手招きしながら、部長さまご自身も応接室へ向かいます。
 その後をリンコさまがつづきました。

「今度うちでね、今年の春にデビューした女子アイドルユニットの衣装を担当することになったのよ」
 応接に集まった4人は、部長さまがお座りにならないので突っ立ったまま。
 私たちの顔を交互に見渡しながら、部長さまがご説明してくださいます。

「それの仮縫いサンプルが今日上がって、これからいろいろ煮詰めていくのだけれど、あなたたちの意見も聞きかせて欲しいの」
 リンコさまがカートを開き、ビニールに包まれたその仮縫いサンプルとやらをテーブルの上に置きました。

「大所帯のユニットで、一軍二軍みたいな選抜制もある、っていう何番煎じ?って感じのコンセプトなのだけれど、まあ、それなりに宣伝にお金はかけるらしいから」
 部長さまが苦笑い混じりでつづけます。

「地下アイドルのめぼしい人に片っ端から声をかけて集めたらしいわ。だから年齢にもけっこう幅があるって。もちろんオフレコだけれど」
「メンバーが多いということは、それだけたくさん作るっていうことだから。わたくしたちにとっても良いことではあるわけ」

 リンコさまがビニールを開き、テーブルの上に衣装を広げています。
 赤と緑に白と黒、そこに金と銀を散らしたきらびやかな衣装でした。
 基本的には、ブレザーとインナーにスカートという、学校の制服のような構成。
 それにリボンとか、キラキラしたアクセサリーが加わるようです。

「11月発売のクリスマスターゲットな新曲だから、この色遣い。ありきたりだけれど事務所からの指定だから仕方ないの」
 部長さまの苦笑いはひっこみません。

「これをあなたたちに実際に身に着けてもらって、何でも気づいたことを教えて欲しいの。基本的に踊りながら歌うことを念頭に置いて、とくにそういった機能的な面をね」
 ふと気づくと、ミサさまもいつの間にか、部長さまを囲む輪に加わっていました。

「こっちがたまほので、こっちが森下さん。それぞれの体型に近いはずだから」
 一見、同じように見えるふたつの衣装を、わざわざ指定されました。
「それじゃあちょっと、着替えてくれる?ソックスは履き替えなくていいから」
「はい」
 ほのかさまとユニゾンでお答えしました。

 指定されたほうの衣装パーツをかき集めて両手に持ち、更衣室へ向かおうと背中を向けると、部長さまからお声がかかりました。
「ちょっと森下さん、どこへ行くの?」
 振り向くと呆気にとられたような不思議そうなお顔の部長さま。

「えっ?どこへって、着替えるために更衣室へ・・・」
 お答えしながら他のかたたちを見ると、リンコさまもミサさまも、部長さまと同じように不思議そうなお顔。
 ほのかさまは、さも当然のようにその場でワンピースのボタンを外し始めていらっしゃいました。

「あっ!あの、えっと・・・」
 それで状況が呑み込めて、盛大に焦る私。
「ここには同性しかいないのだから、別にわざわざ更衣室まで行って着替えることないんじゃない?」
 リンコさまが、心底不思議そうにおっしゃいました。

「森下さんて、極度の恥ずかしがり屋さんなのかしら?それとも何か、わたくしたちに見られたくないからだの傷跡とかがあるの?だったら無理には引き止めないけれど」
 部長さまに至っては心配そうに、すごくおやさしく尋ねてくださいました。

「あの、いえ、別にそういうわけではなくて・・・」
 パニクった私はしどろもどろ。
「そ、そうですよね・・・いつものクセでつい・・・お着替えというと更衣室っていう、何て言うか、こ、固定観念があるみたいで・・・」
 弁解しながら、衣装一式をそそくさとテーブルに戻しました。
 幸いみなさま、あはは、と笑ってくださいました。

 どうしよう?
 えっと私、今日、どんな下着、着けてきたのだっけ?
 って言うか、そもそもショーツ、着けてきたっけ?
 パニクった頭では、そんなことさえすぐに思い出せませんでした。

 その日私は、ジーンズに長めのフリルシャツブラウスという軽装でした。
 ブラジャーを着けているのは確実ですが、ショーツの記憶は曖昧。
 ムラムラ期真っ只中の私は、頻繁にノーパンジーンズを愉しんでいました。

 やっぱり、お願いして更衣室へ行かせてもらおうか・・・
 だけどさっき、更衣室へは行かないと宣言したばかり。
 それに、仮に更衣室へ行ったところでノーパンだったら、着替える衣装はスカートで、それもかなりミニっぽいですから、その先はもうごまかせません。
 
 甘美ながらも絶望的な被虐の陶酔が、ツツツツッと背筋を駆け上りました。
 

オートクチュールのはずなのに 29


2015年12月6日

オートクチュールのはずなのに 27

 その日は珍しく早乙女部長が午前中から、リンコさまと一緒に外出されていました。
 オフィスに残っているのは私とほのかさま、そしてミサさまがデザインルームに。

 午前11時頃に来社されたお客様のお相手のために、ほのかさまが応接室にこもったので、私は電話番も兼ねてラップトップパソコンをメインルームへ移動し、空いているデスクでお仕事をつづけました。
 そのお客様がお帰りになって、応接室でランチタイム。
 持参したお弁当を広げ、久しぶりにほのかさまとのおしゃべりを、ゆっくり楽しみました。

「イベントの準備も大詰めみたいですね?」
 私が尋ねると、ほのかさまがニッコリ微笑まれました。
「そうね。アイテムの準備は順調みたい。でも、営業にとっては、これからが正念場なの。ひとりでも多くのお得意様に見に来ていただかないと」
「大変そうですね。間宮部長さまは、今日は仙台ですね?」
「そう。あのかたのおからだも、心配だわ。連日ハードスケジュールだから」
 ほのかさまのお顔が少し曇りました。

「今日、早乙女部長さままでお出かけになられたのも、そういう理由なのですね?」
「ううん。早乙女部長は別件よ。他のお仕事のサンプルが上がるから、都内のアトリエへ行っているはず」
「へー」

「でも、こんなことを言うと怒られちゃいそうだけれど、早乙女部長がいらっしゃらないと、オフィスの空気がなんとなくまったりしちゃうわよね?」
 ほのかさまがイタズラっぽくおっしゃいました。

「はい。いつになくのんびりって言うか、リラックスって言うか」
「うふふ」
 ふたりで顔を見合わせて含み笑い。
「逆に言うと、それだけオフィス内で、あのかたの存在感が大きいっていうことよね。いらっしゃるだけで、背筋が伸びる、みたいな」
 
 確かにそうでした。
 早乙女部長さまが電話や対面でキビキビとお仕事の指示を出されたり、キッパリ駄目出しされたりするのを見ていると、この人には叱られたくない、ミスをしてはいけない、という思いが募り、良い意味での緊張感をもたらしていました。

「直子さんは、ずっとオフィスにいるから、けっこう毎日、気が抜けないでしょう?」
「そうですね。でも私、たいてい午後からは社長室にこもっちゃいますから」
「チーフのお手伝いしていた頃は、わたしもそうだったわ」
 再びふたりで、うふふ。

「いけない。少しまったりしすぎちゃった。この後1時半にまたお客様がいらっしゃるから、急いで食べなくちゃ」
 ほのかさまが少しあわてたように、ちまちまお箸を動かし始めました。

 お休み明けから連日のように、さまざまなお客様がオフィスにお見えになっていました。
 問屋様、小売店様、製縫を請け負ってくださるアトリエのかた、生地問屋様、海外買付のバイヤーのかた、エトセトラ、エトセトラ。
 そんな中に、私が見知ったお顔がおふたり、いらっしゃいました。

 おひとりめは、ちょうど一週間前、早乙女部長を訪ねてこられた里美さま。
 里美さまというのは、私とお姉さまの出逢いの場となった横浜のランジェリーショップで、マヌカンをされていたかたで、フルネームは愛川里美さま。
 
 私とお姉さまが狭い試着室の中で人知れずえっちなことをしていたとき、ずっとお店番をしてくださり、その後に、私がお姉さまに全裸オナニーショーをご披露して、あまりの気持ち良さに気を失ってしまったときには、お姉さまと一緒に介抱してくださった、私とお姉さまとの秘密を共有する、言わば共犯者みたいな存在のかた。
 お姉さまによると、私が全裸で気絶しているとき、膣に指を挿れられるイタズラをされた仲でした。

 その可愛らしい小顔な童顔を応接室でみつけ、呼吸を忘れるほど驚いて、持っていたお紅茶を載せたトレイを危うく取り落としそうになりました。
 ご来客の予定表には会社名しか記してなく、その会社からはいつも別のかたがお見えになっていたので、まさに不意討ちでした。

「うわー。お久しぶりー。三ヶ月ぶりくらい?お元気そうね?」
 里美さまが屈託の無い笑顔を向けてくださいました。
「あら、ふたりは面識、あったの?」
 早乙女部長さまが私たちの顔を交互に見て、訝しげに尋ねます。
 里美さまは、うちと親密なお取引先会社のひとつに勤められていて、うちのブランドのネットショップを担当してくださっているので、お仕事上のメールは何度か遣り取りしていました。

「あ、はい。今年の春先に渡辺社長さまがリサーチで、ショップに五日間ほど詰められたことがありましたよね?あのときにわたくしもご一緒して。そのとき偶然、お客様としてお見えになられました」
 里美さまがスラスラっとお答えになりました。

「そ、そうなんです。あのとき、店長さんをされていたチーフからご紹介いただきました」
 私もすかさず首をコクコク縦に振りました。
「ああ、横浜のショップのマーケティングリサーチね。へー。そんなことがあったの」
 部長さまが心底驚いたお顔をされています。

「人の縁て不思議なものね。だけどよくそんな、一度お店で会っただけの人を憶えていたわね?森下さんが何か印象に残るようなことでもしたの?」
 部長さまは、本当に不思議そうなお顔で、里美さまにお尋ねになりました。

「いえ。とくにそういったことはないのですが、お綺麗なかたでしたし、渡辺社長さまにインナーのことで熱心にご相談されていましたから、印象が深かったのかもしれません」
「だから、森下さんが御社に入られて、更にネットショップのご担当になられるとお聞きしたときは、わたくしも不思議なご縁を感じました」
 里美さまは笑みを絶やさずにシレッと、そんなふうにおっしゃいました。
 私はもう、居心地の悪さに胸がドキドキ。

「そう。やっぱり愛川さんは、マヌカンとしても優秀なのね。接客業で一番大切なのは個々のお客様に対する記憶力ですもの。それがキメ細かい接客につながるのだから。そんなかたがブレーンにいてくださって、わたくしも心強いわ」
 部長さまは、里美さまにそうおっしゃった後、私のほうへ向きました。

「今回のイベント、愛川さんもわたくしたちの側でお手伝いしてくださるのよ。不思議な縁同士のふたりで力を合わせて、がんばってください」
「は、はいっ!精一杯がんばります」
 おふたりに向けて、思わず深々とお辞儀する私。

「それで、当日なのだけれど・・・」
 部長さまが里美さまに向き直ったのを合図に、静々と応接室を後にする私。
 里美さまは、人懐っこい笑顔を浮かべて私を見送ってくださいました。

 その数日後には、シーナさまがお見えになりました。
 シーナさまとお会いするのも、就職祝いをいただいたとき以来でしたから、ずいぶん久しぶりでした。

「あら、直子さん、ごきげんよう。お仕事がんばってる?」
「あ、ごきげんよう。お久しぶりですシーナさま」
 大きなカートを転がして入ってきたシーナさまは、勝手知ったる他人の家みたいな感じで、ズンズン、おひとりで応接室へ入っていきました。

 社内的に私は、シーナさまのご紹介で入社したことになっていますから、こんなふうに親密さを醸し出しても不自然ではないのですが、お姉さまとパートナーになる以前は、私をさんざん虐め抜いた私の元ご主人様であり、つい数ヶ月前にお姉さまへマゾペット譲渡された身からすると、オフィス内でお会いすることに少なからぬ心のざわつきを感じてしまいます。
 その上、間の悪いことにその日私は、湧き上がるムラムラを抑えきれずに、ジーンズの下はノーパンで出社していました。

 お相手をされる早乙女部長さまは、お電話が長引いていて、私にジェスチャーで、シーナさまのお相手するようにと促してきました。
 応接室へお紅茶をふたり分持って行くと、スススッとシーナさまが寄ってこられました。
「直子さん、少し見ないうちに一段とイロっぽくなったんじゃない?」
 ここまでは普通のお声で、その後、私の右耳に唇を寄せてコショコショつづけました。

「イロっぽく、って言うよりはエロっぽく、ううん、むしろドマゾっぽくかな?」
「どう?エミリーにちゃんと虐められてる?彼女、仕事忙しいのでしょう?」
「寂しかったら内緒でわたしに電話して。直子だったらいつでも虐めてあげるから」
 からかうように私の耳に息を吹きかけて唇を離すと、近くにあった椅子にゆっくり腰掛けて、優雅な仕草でティーカップを軽く傾けました。

 ムラムラ真っ最中の私は、そのお声だけでゾゾゾッと背筋に電流が走り、ジンワリ潤んでしまいます。
 座っているシーナさまが目の前に突っ立っている私を見透かすかのように、頭の天辺から爪先まで、全身を舐めるように見つめてきました。
 
 シーナさまのマゾオーラセンサーは優秀なので、私が今ムラムラ期なことは、きっと出会った途端に見抜いていることでしょう。
 ノーパンなこともバレちゃうかもしれない・・・
 そう思ってシーナさまを見ると案の定、シーナさまの視線は私のジーンズの股間に留まっていました。
 
 シーナさまによる耳元でのささやきお言葉責めと不躾な視姦で、私のマゾマンコはキュンキュンむせび泣き、膣壁からは後から後から、歓喜のよだれがヌルヌル分泌されていました。
 自分でも内股がヌメっているのがわかるほどでしたから、至近距離のシーナさまの瞳なら、ジーンズ地に滲み出してインディゴブルーを色濃く湿らせるシミに難なく気づかれたことでしょう。
 もちろんそのお鼻で臭いにも。

「慣れないお仕事で大変でしょうけれど、がんばりなさい。せめて、紹介したわたしに恥をかかせないくらいには、ね」
 シーナさまが少し大きめなお声で、冗談ぽくおっしゃいました。
 たぶん、まだお電話中の早乙女部長さまにお聞かせするため。

「はい。最近段々、お仕事の面白さがわかってきたような気もしています」
 私も調子を合わせて、普通の声でお答えします。
「来月はイベントだものね。わたし、ここのイベント、毎年すごく楽しみにしているのよ・・・」

 そんな当たり障りの無いの会話をしながら、シーナさまの右手が、私のジーンズのジッパーフライ部分をほぼ隠しているライトブルーのチュニックの裾を、ピラッとまくり上げてきました。
 あっ!? とは思ったのですか、私は、されるがまま、突っ立っているだけ。
 やっぱりバレていた、という羞恥と、これからどうされちゃうのか、という期待、万が一部長さまに見られたら、というスリルなどがごちゃまぜとなって、ヘビさんに睨まれたカエルさんのように、身動きが出来なくなっていました、

 座ったままのシーナさまが私を見上げ、見覚えあり過ぎる、妖しいエスな瞳で薄く笑いました。
 そのお顔を見たら私には、もはや一切の抵抗の術はありません。
 それどころか、無意識にマゾの服従ポーズを取ろうとしていて、知らず知らず中途半端に上がりかけていた両腕をあわてて下ろしました。
 
 そんな私の様子を愉快そうに見ていたシーナさま。
 おもむろに左手を私の下半身へと伸ばし、当然のことのように私のジーンズのジッパーをジジジッと半分くらい下げました。
  
 もう一度無言で私を見上げるシーナさま。
 チュニックをめくる手を左手に変え、私の顔をエスな瞳で見据えたまま、開いたジッパーのあいだに右の人差し指と中指を添えました、
 やがて指二本がVサインの形にゆっくりと開き、抉じ開けられた隙間から覗く、私の無毛な肌色の土手。
 私の視線は、ジッパーのあいだから覗く、自分の恥丘に釘付けになってしまいます。

「あ、ちょっとメールチェックしなくちゃ」
 再び大きめのお声でわざとらしくおっしゃりながら、私に隣に腰掛けるよう、右隣の椅子を指さしました。
 無言で腰掛ける私。
 すかさず私の左耳に唇を寄せてきました。

「やっぱりノーパン。そうだと思った。今日の直子の顔、ドマゾ全開だもの」
「社会人になっても相変わらずなのね?エミリー、かまってくれないの?」
 小さく顔を左右に振る私。

「ま、いいや。わたしが帰るまで、そのジッパー直しちゃだめ。これは命令。そういうのが欲しいのでしょう、今の直子は?エミリーには内緒よ」
「こんなところでパイパンマンコ、外気に晒している気分はどう?」
 ジッパーの隙間から指を挿れられ、付け根付近までサワサワ撫ぜられながら、からかうようにささやかれました。
 ジッパーはもはや、ほぼ全開でした。

「ごめんなさい。電話が長引いちゃって。お待たせしましたシーナさん。例の石は手に入った?」
 ごめんなさい、の最初の、ご、のお声が聞こえた刹那、私のジーンズ上にチュニックの裾が戻り、シーナさまの指が去りました。
 早乙女部長さまが書類の束を抱くように持って応接室へ入ってこられ、いきなりシーナさまの左隣に腰掛けられました。
 幸か不幸か、部長さまにとって私の存在は、まったく眼中に無いようでした。

 私はそーっと立ち上がり、火照った顔を部長さまに見られないようにうつむいたまま、トレイの上のもうひとつのティーカップを部長さまの前へそっと置きました。
「それでは、失礼します」
 お辞儀しながらご挨拶すると同時に部長さまたちに背中を向け、応接室のドアへ向かいました。
「ありがとう」
 部長さまのおやさしいお声が、私の背中にかけられました。

 もちろん、その日は帰宅するまで、そのままジッパーほぼ全開で過ごしました。
 辛うじてチュニックで隠れる範囲でしたし、ジーンズのジッパーフライって、しゃがみでもしない限り、たやすく割れちゃうようなものではないですから。
 
 その後はご来客も無く、お仕事はずっと社長室でしました。
 ジッパーの隙間からときどき指を挿し入れて、自分の恥丘のスベスベを指先で味わいながら、ちゃんとお仕事もしました。

 お仕事を終えて帰るとき、部長さまのデスクの前に立ってご挨拶したときは、かなりドキドキして、さすがにチュニックの裾を押さえたままお辞儀しました。
「お先に失礼させていただきます」
「はい。お疲れさま。ごきげんよう」
 部長さまは、いつものようにおやさしくおっしゃって、私の顔をチラッと見上げて微笑まれ、すぐにパソコンのモニターへと視線を戻されました。

 街中を歩いて帰るときは、緊張し放しでした。
 シーナさまのご命令は、シーナさまが帰るまで、だったので、解除されているはずでしたが、陽も暮れていたので、思い切ってやってみました。

 ノーパンなのにわざとジーンズのジッパーを全開にしている、というヘンタイ被虐行為に全身が蕩け出しそうでした。
 うつむいたまま、すれ違う人がいてもチュニックの裾は敢えて押さえず、足早に家路を急ぎました。
 その夜の自宅でのオナニーが普段より数倍、激しかったことは言うまでもありません。

 おっと、ずいぶん脱線してしまいました。
 お話をその日のことに戻します。

 そんなふうに、連日お見えになるお客様の中で、その日の午後、ほのかさまを訪ねていらっしゃったお客様は、明らかに異質でした。
 ドアチャイムが鳴り、インターフォン越しに聞こえてきたその第一声に、私はギョギョッと立ちすくみ、思わずホワイトボードのご来客様一覧を見直しました。
 納品書か請求書で見覚えのある気がする会社ではあったものの、ご来社いただくのは、私にとっては初めてのかたのようでした。

 私が入社以来そのときまで、来社されるお客様はすべて女性でした。
 年齢に多少幅はあるものの、お得意先様でもお取引先様でも、すべて女性のかたがいらっしゃいました。
 お姉さまからの勧誘のときも、お取引先はすべて女性で、女性による女性のためのファッションがポリシーと伺っていたので、安心しきっていましたし、そんな空間を私は、とても居心地が良いと感じていました。

「玉置さまと1時半にアポイントを取りました橋本と申します」
 インターフォンから男性のお声でそう聞こえたとき、私はびっくりし過ぎて、軽くフリーズしてしまいました。
「あ、はいはいー。どうぞ、お入りください」
 ほのかさまが当然のように応答され、私を振り向きました。

「あのかたたちは、確か緑茶がお好みだから、それでお願いね」
 なんだか嬉しそうにおっしゃるほのかさまにも、軽い眩暈。
「あ、は、はい。わかりました・・・」
 そう答えたものの、喩えようの無い理不尽な気持ちが心の中でモヤモヤしていました。

 オフィスへのドアが開き、スーツ姿の紛れも無い男性がおふたり、オフィス内に入ってきました。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
 資料のファイルらしきものを小脇に抱え、いそいそと応接室に向かうほのかさま。

 フリーズしていた私は、男性たちの姿がチラッと見えた途端にフリーズが解け、彼らに背中を向けて社長室から給湯室へ一目散。
 恐れとも不安とも、はたまた怒りとも言い切れない、得体の知れない感情で心の中が盛大にざわついていました。


オートクチュールのはずなのに 28