2017年1月8日

非日常の王国で 12

「あ、勢い良く回しすぎて1時間23分になっちゃった。ま、いいか」
 里美さまがニヤニヤを私に投げかけつつ、タイマーのダイアルをポンと押しました。

「はい。これでこのあと約80分間、マゾ子ちゃんはみなさんにされるがままのモルモット。さっきどなたかがおっしゃったけど、まさに生贄状態ね」
 里美さまの右手が私の下腹部に伸び、菱形を作る縄をつまんでグイッと引っ張りました。
「あうぅっ!」
 大股開きの裂け目に食い込んだ縄が手前に動き、ラビアの中に埋もれていた結び目のコブが、テラテラに腫れ上がった肉芽をザラッと押し潰すように擦りました。

 三つ折りソックス以外一糸まとわぬ裸身を菱形模様の麻縄で飾り、ほぼ180度に広げられたM字開脚で椅子に磔られた私。
 中学生の頃、好奇心に駆られて図書館でこっそり見て後悔した生き物図鑑の、解剖される蛙さんの図版を思い出していました。

 里美さまはとても嬉しそうに、つまんだ縄を引っ張っては緩め引っ張っては緩め、そのたびにコブが敏感過ぎる肉芽の上を猛々しく行ったり来たり。
 屈辱と被虐で飽和寸前まで昂ぶっているからだに、里美さまがくりかえす股間の綱引きは、まるで拷問でした。

「あっ、あーんっ、ひっ、いやっ、だめっ、だめぇーっ・・・」
 グングン積み上がる快感に、押し殺そうとしても喉奥から淫声が零れ出てしまいます。

「ほら、いい声で啼くでしょう?みんなも遠慮しないで虐めちゃっていいのよ?」
 里美さまがお誘いになっても、お三かたはじーっと、コブに嬲られる私の股間に見入るばかり。
 ピーク寸前の兆候を見せている私のマゾマンコから、目が離せないのでしょう。

「内腿がヒクヒク痙攣してるね・・・」
「滲み出てくる愛液が白く濁ってきた。これってアレだよね?本気汁・・・」
「穴がパックリ口開けちゃって、別の生き物みたいにビラビラごとヒクついてる・・・」
「クリをこれだけ擦られて、痛くないのかな・・・」
「お腹までプルプルしてきた。もうすぐイッちゃうんじゃない?・・・」
 頼んでもいない実況中継をしてくださるお三かた。

 視られてる・・・私が一番淫らになる瞬間を待ち侘びて、みなさまが固唾を呑まれている・・・
 里美さまの綱引きがスピードアップして、私はもはや限界でした。
「あっ、あーーっ、だめっ、いいっ、いーーっ、イキますぅ、イッちゃいますぅーーーっ」
「あぁーーーーーっ!!!」

 背もたれに背中を押し付けるように頭をのけぞらせ、みなさまに喉仏を見せながら果てました。
 真っ白になった頭の中を、パチパチとまだ小さな星たちが爆ぜているような、強烈なエクスタシーでした。

「あーあ。あっさりイッちゃった。まあ今のは、今日のレクチャーへのギャラ、ご褒美みたいなものと思ってね」
 里美さまが私の顔にお顔を近づけ、笑顔でおっしゃいました。

「マゾ子って、一回イッた後からが凄いらしいじゃない?愉しみだわ」
 私の呼び方から、ちゃん、が消え呼び捨てにした里美さまが、からかうようにおっしゃって、お三かたのほうをお向きにまりました。

「あなたたちも遠慮なさらないで、何でもしたいことしちゃっていいのよ?」
「あ、はい・・・」
 と応えたものの、なんとなく及び腰ふうな倉島さまたち。
 イッたばかりのテラテラな私のマゾマンコを、不安そうに眉根を寄せて、ただじっと見つめるばかり。

「あ、そっか。そうよね。わたしにデリカシーが足りなかったかも。ちょっと待ってて、ちょうどいいものがあるから」
 何かしら思いつかれたらしい里美さまが、おひとりだけご納得のお顔で近くのキャビネットを開け、大きめなダンボール箱を取り出しました。

「考えてみれば今日会ったばかりの、どこの誰ともわからないマゾ子の汗まみれのからだを素手でいじくるのって、気持ち悪いわよね?」
 サラッとショックなことをおっしゃった里美さま。
 私って、気持ち悪いんだ・・・

「いえ、決してそんなことは・・・」
 あわてて否定される倉島さまのお言葉を遮るように、
「ましてやマンコはイッたばかりで、白濁したヨダレをあんなに垂れ流しているんだもの、生々しすぎて年頃の女の子の腰が引けちゃうのも無理ない話よね」
 私を薄笑いで眺めつつずいぶんイジワルくおっしゃって、ダンボール箱から何かを取り出されました。

「はい。これを着けるといいわ。医療用の使い捨てグローブよ。これすればマゾ子もあなたたちも、安心して触り触られ出来るでしょう?衛生的にもバッチリ」
 半透明な白色の薄いラテックス製らしき手袋が、お三かたに配られました。

「うわ。すっごく薄い。コンちゃんくらい?」
「指にピッタリ密着するんだね。なんか感触が自分の手じゃないみたい」
「こんなのしちゃうと、よく映画とかで見る、悪の組織の非道な禁断の人体実験、ぽい雰囲気が漂ってこない?ワタシそういうシチュ、すんごく萌えるんだ」
 愉しそうにはしゃがれるお三かた。

「うちのネットショップの次回の更新でね、ちょうど予定していた特集があるのよ。そのために今、アイテムをいろいろ集めているの。このグローブもそのひとつ」
 里美さまもグローブをお着けになり、両手で、結んで開いて、をしながらおっしゃいます。

「テーマはね、オトナのお医者さんごっこ。それで医療プレイ用のアイテムを、海外を含めてあちこちから取り寄せているの。まだあまり届いていないのだけれど」
 里美さまのグローブ越しの右手人差し指が、私の左内腿を膝の方へとスーッと撫ぜました。
「はうぅん・・・」
 イッたばかりで敏感になり過ぎている肌への刺激に、思わず鼻が鳴ってしまいます。

「ドクターコートとかナース服みたいなコスプレ系はもちろん、聴診器、ピンセットや脱脂綿とか拘束用の包帯とかの小物でしょ」
「あとは、いろんな浣腸器とか、導尿カテーテルや肛門鏡とかも揃えて、かなり本格的に遊べる、医療プレイマニアには堪らない特集になると思うわ」
 お三かたのご様子を窺うと、とくにヨーコさまが興味津々のワクワク顔をされています。

「たとえばこれ、わかる?ちょうど昨日届いたばかりなの」
 里美さまがダンボール箱から引っ張り出されたのは、一見して事務用のハサミのような大きさ、形状の物体でした。
 ステンレス製らしく全体が銀色で、ハサミであれば刃となっている箇所に刃は無く、代わりに重なり合う先端部分2箇所とも、あいだに何かを挟み込めるリング状になっていました。

「あっ!あたし、外国のボンデージ画像でそれ、見たことあります。それで乳首とか肌とか、挟むんですよね?」
 倉島さまが身を乗り出しながらおっしゃいました。

「へー。よくご存知ね。その通り。これでね、マゾ子の勃起乳首を痛めつけちゃうわけ。ご褒美の後はお仕置き、SMの基本の飴と鞭ね」
 
 先端のリング状に私の右乳首が挟まれ、ハサミを閉じる要領で指を絞る里美さま。
 カリカリッと小さな音をたてて冷たい金属の輪に挟まれた乳首がひしゃげ、麻縄に絞られて尖立している右おっぱいの先端に、その用具がぶら下がりました。

「あうぅっ!」
 強めの洗濯バサミほどの疼痛がジンジンと右おっぱいを苛みます。
 さっきカリカリと音がしたところが、ハサミの閉じ具合を調節するストッパーらしく、一度噛み付いたらそのまま、バネ仕掛けの洗濯バサミのように緩むことは無いみたい。
 そのもの自体にけっこう重さがあり、挟まれた乳首が下向きにうなだれて引力に引っ張られています。

「わたしずっと、それって何なんだろう?って思っていたんです。何か化学の実験用具なのかなと思って東急ハンズとかで探しても売っていないし」
 倉島さま、とても嬉しそう。

「これはね、ぜつかんし、っていうの。ぜつは舌のこと。で、かんしは、手術とかで使う鉗子。れっきとした医療用具よ」
 里美さまがもう一本お出しになりながらご説明してくださいます。

「本来は舌を挟んで引っ張り出すための鉗子。ほら、事故とかの緊急時に舌噛んじゃって喉に詰まったりするでしょ?そんなときに気道を確保するために、これで挟んで舌を引っ張り出して出しっ放しにするの」
「この先っちょがリング状のはコラン氏式とかマッチュー氏式って呼ばれるみたい。先っちょの形状がもっと面積広く挟めるように大きくUの字状になっているのがホッチ氏式。そっちは口腔手術に使うんだって」
 おっしゃりながら倉島さまを手招きされる里美さま。

「ほら、これでマゾ子のもう片方のいやらしい乳首も、お仕置きしてあげて」
 舌鉗子を渡された倉島さまがマジマジとそれを見つめています。
「なるほどー。こういう仕組みなんですね」
 何度かカチカチいわせては開き、ご満悦なご様子。

 里美さまに軽く肩を押され、倉島さまが私の上半身のほうへいらっしゃいました。
「し、失礼します・・・本当に挟んじゃっていいんですか?」
 倉島さまが幾分おどおどされながら、私に尋ねてきました。

「ほら、マゾ子?お客様がわざわざお尋ねくださっているのよ?ちゃんとマゾらしくお願いしなさいっ!」
 右乳首の舌鉗子をビューっと引っ張りながらの、里美さまのドSなお声。

「ああんっ、はい・・・どうぞ、私のからだをお好きなだけ、いたぶってやってください・・・」
 もうひとつの乳首にも早く痛みが欲しくて、被虐まみれの科白がスラスラ出てしまいます。

「これって、どのくらい強く挟んでいいものなのですかね?」
 倉島さまが里美さまに振り向きます。
「先っちょがちょこっと浮いてるぐらい締め付けちゃっていいわよ。この子はマゾだから、痛いほど悦ぶわ」
 私に向けて嘲笑うようにお答えになる里美さま。

「このくらい、ですかね・・・」
 倉島さまがお持ちになった舌鉗子の先が、背伸びしている左乳首の裾野にひんやり触れました。
「あふぅっ!」
 期待と不安にいやらしい声が、思わず洩れてしまいます。

 リングが肌にギュウっと押し付けられ、カチカチっと小さな金属音。
 乳首の側面が両側から押し潰されて、切ない痛みが広がっていきます。
「あ、ああっ、あうぅぅっ・・・」
 乳首がグンと引っ張られる感覚がしたのは、倉島さまの手が舌鉗子から離れたからで、舌鉗子は、そのまま左乳首にぶら下がりました。

「やっぱり医療用具っていいわね。洗濯バサミとかSM用のクリップとかいかにもなやつとは違って、インモラルなアート的気品があるわ」
 里美さまがビデオカメラを向けながらおっしゃいました。

「確かにその舌鉗子?がぶら下がっただけで、ますます人体実験ぽい絵面になったっすよね?アタシこういうの、すっごく好きなんです」
 ヨーコさまが、うっとりなお顔でおっしゃいました。

「あと2本あるから、下半身も飾ってあげるわね」
 おっしゃった里美さまが、ツカツカと私の動かせない下半身に歩み寄りました。

 マゾマンコに右手が伸びてきて裂け目上を走る2本の縄をつまみました。
 その縄をクリット下の結び目から大陰唇の外側へと左右に分ける里美さまのグローブの指。
 そうすることによって、だらしなく楕円形の半開きになったマゾマンコ穴とすぐ下のお尻の穴まで、みなさまの眼前で遮るものの無い、剥き出し状態となりました。
 あらためて視線がソコに集まってきます。

「舌鉗子のいいところはね、さすがに医療用だけあって、どんなにヌルヌルしていてもしっかり噛み付いてくれるの。こんなにグショグショなマゾ子のラビアでもね」
 里美さまの指が無造作に私の左側のラビアをつまみ上げ、舌鉗子のリングで挟みました。
 ラテックス越しの指の感触は、生身の指よりも無機質な感じがして、粘膜が戸惑いにわななきました。

「うわ、マゾ子のマンコ、湯気が見えそうなほど熱くなっておねだりしてる。さすが色情淫乱マゾマンコね。ステンレスのひんやりが気持ちいいでしょう?」
 どんどんお下品になっていく里美さまの口調。

「あ、いやんっ!」
 舌鉗子に挟まれたラビアがグイッと外側に引っ張られました。
 見る見る半円形に口を開ける私の粘膜。

「ダメダメ、いやっ、いやーっ」
 大陰唇を太腿側に引っ張ったまま、舌鉗子の胴体ごと白い包帯で左太腿に巻き付けられ、粘膜開きっぱなしで固定されました。
 挟まれたラビアにさほど痛みは感じませんが、グイーっと引っ張られて予想外に伸びだビラビラが恥ずかしすぎます。

「これが最後の1本ね」
 心底嬉しそうな里美さまの手が右側のラビアをつまみ、舌鉗子を噛み付かせました。
「ああん、そんな、さ、里美さまぁ、恥ずかしいですうぅ、赦してくださいぃぃ」
 私の懇願なぞどこ吹く風の里美さまが、手際良く右太腿にも包帯を巻きつけました。

 M字大股開きで精一杯に開かれた私の股間。
 それでも飽き足らず大陰唇に噛み付いた左右2本の舌鉗子に依って、中身を奥底まで覗けるように押し広げられた、粘膜丸見えな私のマゾマンコ。
 正面から見れば、股間の中央にピンク色の穴がポッカリ大きく口を空けているはずです。

「うん。一段と恥ずかしい姿になった。これこそマゾ子のあるべき姿だわ」
 ひとり悦に入る里美さまが、またもやビデオカメラを向けてきました。

「すごーい。奥まで全部見えちゃってる。オシッコの穴まで広がって・・・あたし、自分のも含めて誰かの女性器を、こんなに奥までまじまじ観察したことなかった・・・」
 倉島さまが感に堪えないという面持ちでつぶやかれました。

「こんなことされてるのに、本当にマゾ子、悦んでるよね?ほら見て、ピンクの襞の奥からトロトロ溢れ出てくる・・・」
 私より歳下のメグさまが、呼び捨てで呆れたように蔑んでくださいます。

「うん。お尻の穴までヒクヒク蠢いちゃって、クリトリスは今にも弾けそうなくらい腫れてるし・・・確かにこんなの見せられたら、どんどん虐めたくなっちゃうわー・・・」
 ヨーコさまのメガネ越しの瞳にも、嗜虐の妖しい炎が灯ってきた気がします。
 
 私は、泣き出したい気持ちになっていました。
 それは、悲しいわけでも悔しいわけでもなく、どちらかと言えば感動の部類。
 今の自分の惨め過ぎる姿を客観的に見ているもうひとりの自分が感じている、キュンと胸を締め付けるような切ない思いからくる感情でした。
 
「あの、マゾ子って、お尻の、えっと、アナルも虐めていいんですか?」
 ヨーコさまが、我慢しきれなくなったかのように、媚びるような少し照れたご様子で里美さまにお尋ねになりました。

「ええ。マゾ子はベテランマゾだから、それはもちろんオーケーなのだけれど、なあに?あなたはアナルに興味があるの?」
 里美さまが、ちょっとからかうような口調でヨーコさまにご質問返し。

「あ、はい。って言っても自分でするのはちょっとカンベンなんですけれど、ひとのを弄って、その反応を見てみたいっていうのは、すごくあって・・・でも、そんなこと、身近な人には頼めないし」
 照れが消えたヨーコさまは、好奇心いっぱいのお顔。

「うちらって、たまにBLものも書くのですけれど、BLだと使える穴はこっちだけじゃないですか?こんなとこにツッコんで本当に気持ちいのかな、なんて懐疑的になりながら書いていたりして」
「まあ、うちらは男性器が達したときの気持ち良さだってわからないですから、ひっくるめて妄想で書くのも愉しいんですけど、でも、せっかくの機会だし、手袋もしてることだし・・・」

「いい作品を書くために研究熱心なのは、とても良いことよ」
 学校の先生のような若干上から口調でおっしゃった里美さまが、私に目を向けてつづけました。

「マゾ子は、アナルでもちゃんとイケるのよね?」
 なんてストレートなご質問。
「はいぃ・・・」
 なんてはしたないお答え。

「今日はちゃんとキレイにしてきた?」
「あの、えっと一応、こちらへ伺う前にお浣腸は、してきました・・・」
 ランチもバナナだけにして、オフィスを出る前に念の為にと思い、おトイレでぬるま湯のお浣腸を自分でしてきたのでした。

「ほらね。ちゃんとそのつもりだったみたいだから、思う存分、実験してみるといいわ」
 里美さまが、なぜだか妙に誇らしげにヨーコさまにおっしゃいました。

「あ、でも浣腸の実演は勘弁してね。ここ一応お店だからさ、クサイものぶちまけられちゃうと後始末が大変だから。もちろん聖水プレイもだめよ」
 ご冗談めかして笑う里美さま。

「それとローソクプレイもNGね。どんなに注意深くやっても床に垂れちゃうものだから。床にこびりついた蝋をキレイに剥がすのって一苦労なのよ」
「そうそう、ローソクプレイと言えば、セルフボンデージでひとりきりのときに拘束したままするのも、やめておいたほうがいいわよ。火がカーテンとかに燃え移って、拘束してるからうまく消せなくて、それで火事出しちゃった人もいるらしいから」

「浣腸とかローソクプレイをしてみたかったら、事前に言っておいてくれれば場所を用意するなりしてまた、マゾ子を貸し出すからさ」
 完全に、レンタルセイドレイ=モノ扱いの私です。

「あのテーブルに、アナルビーズもバイブもディルドも、他にもいろいろ面白いオモチャを用意しておいたから、好きなだけ持ってきて、自縛の講義をしてくれたマゾ子先生の淫らなからだを存分に労ってあげて」
「はーいっ!」
 里美さまがテーブルを指さすと、お三かたが我先にという勢いでテーブルに駆け寄られました。


非日常の王国で 13


2017年1月2日

非日常の王国で 11

 里美さまの、あからさまに侮蔑的な私のヘンタイ性癖についてのご説明。
 それを驚きと好奇が入り交じった表情で、真剣にお聞きになっているお三かた。
 里美さまのご説明はすべて本当のことなので、どう反応していいのかわからず、ただうつむく私。

 里美さまのお声が途切れたので上目遣いに窺うと、みなさまが黙ってジーっと私を見つめていました。
 正確に言うと、6つの瞳と里美さまが向けるビデオカメラのレンズ。
 お三かたの瞳が淫靡な期待に輝いているように見えました。
 ビデオカメラが向けられたのは、自縛のレクチャーを始めろ、という里美さまの合図なのだろうと理解して、愛用の麻縄に手を伸ばしました。

「緊縛に用いるロープは基本的に、ふたつ折りにして使用します・・・」
 ひとりだけ全裸の状態でみなさまに語りかける、という行為は、思っていたよりもずっと強い恥辱感がありました。

 一般的に、着衣の中にひとりだけ全裸の同性がいたら、周囲の人は混乱や憐憫から、極力その人を視ないようにしてあげると思います。
 それか、面白がってからかうか。
 今の私の状況は、そのどちらとも違っていました。

 遠慮会釈なしに私のからだを凝視してくるお三かたの視線がもたらす、身が焦げるような羞恥。
 そんな不躾が許されるのは、私がお三かたに向かって語りかけているから。
 言わば自分で、私を視てください、とアピールしているからなのです。

 日常生活では見せてはいけないとされる恥部をすべて剥き出しにしている私を、ここぞとばかりに凝視してくるお三かたの刺すような視線。
 まさに、視姦されている、という実感がありました。
 そして更にこれから、私はそれらの秘められるべき箇所を、より扇情的に目立つように、自らの手で縛り上げていくのです。

 体温がジワジワ上がってくるのがわかります。
 早くロープをからだに巻きつけて、もっと淫らな私を視ていただきたい、という欲求が抑えられません。
 視られている、という悦びに酔い痴れながらも極力冷静を装い、レクチャーをつづけました。

「こうしてロープの先端を合わせて、ふたつ折りにします」
 右手に持ったロープを均等に折り返します。
「8メートルのロープですから、4メートルとなりますね。それで、こちらの輪になった部分を首にかけます」
 ロープの折り返し部分を首にかけようと両手を挙げかけたとき、里美さまからお声がかかりました。

「そのチョーカー、外したほうがいいんじゃない?お姉さまからの大切なプレゼントなのでしょう?縄で押し潰されちゃったりしたら一大事じゃない?」
「あ、はい。そうですね」
 別に気にはしていなかったのですが、それもそうだな、と思い、両手を首の後ろに回しました。

 期せずして、マゾの服従ポーズ、のような姿勢。
 両腋の下がガラ空きとなり、おっぱいを突き出すようにみなさまに向けていると、被虐感がグンと高まりました。

 外したチョーカーは、里美さまが受け取ってくださいました。
「これは大事に預かっておくわね。帰るときに渡してあげる」
 イタズラっぽい笑顔の里美さま。

「それで、この垂れ下がったロープを束ねて、からだの正面に順番に結び目を作っていきます。まず胸元・・・」
「慣れないうちは、首周りは大きめな輪にしておいたほうがやりやすいと思います・・・」
「そして同じように、みぞおちのへん、おへその下、股の付け根あたりにも結び目のコブを作っていきます」

 ご説明しながら、首から垂れたロープを捌き、順番にコブを作っていきました。
 眼前のみなさまが真剣なまなざしで、お手元のノートと私を交互に見ています。

「結び目は、完成したときには今より上に動きますから、思うよりも下気味にしておきます。何度か試すうちにわかってくると思います」
「股間のところにふたつコブを作ったのは、縄が食い込んだときに性器・・・えっと、クリトリスを擦って、刺激してくれるように、です・・・」

 自分で口にした言葉のはしたなさに、ゾクゾクしちゃっています。
 私の当該器官は、すでにジンジン痺れて腫れ上がっていました。
 みなさま嬉しそうにニヤニヤ。

「結び目を作り終えたら、余ったロープを股のあいだにくぐらせて、背中へ持っていきます・・・」
 みなさまに見えるようにと、からだを反転してお尻を向けました。
「首の後ろで輪になっているところに、束ねた二本のロープをくぐらせます・・・」

 ロープを引っ張ると、コブが股の亀裂に食い込みました。
「んっ!えっと、ここからは、ロープを一本づつ左右に分けて、肌に縄を這わせていきます・・・」
 この辺から私の中の理性は米粒ほどになって心中深く引きこもり、自縛に夢中になっていました。

「首の後ろからのロープを左右に分けて、それぞれ一本づつ腋の下から前へ回し、首からの輪に通します・・・」
 みなさまに向き直り、おっぱいを突き出すように胸を張りました。

「輪に通したら折り返し、おっぱいの上の方に這わせて、また背中に回します。左右均等に力を入れるようにすると模様が綺麗に仕上がります」
「それぞれのロープを背中で交差させ、再び前に回します・・・」

 縄がおっぱいの皮膚を這うたびに、淫らな声が出そうになって困りました。
 乳首がこれ以上ないくらい猛りきって、みなさまのほうへと背伸びしています。
 当然、みなさまの視線が刺すように、そこに集中しています。

「戻ってきたロープをふたつめの結び目とのあいだの輪に通し、今度は下乳持ち上げるような角度で背後に回します・・・」
「私は、おっぱいをギュッと絞られるような縛られ方が好きなので、胸元と次の結び目との間隔を狭くして、下乳を潰すように縄が這うようにしています・・・」

 自分のヘンタイ嗜好が、正直にスラスラ口についてしまいます。
 上下の縄でギューッと絞られたおっぱいの先端は、皮膚が引っ張られて引き攣り、ますます痛々しく尖りきっています。

「同じように背後に回したロープを今度は三番目の輪に通して、背後に回します・・・」
「このように、正面の縄の模様が菱形になるところから、菱縄縛りと呼ばれます・・・」
「この模様が亀さんのように六角形になると、亀甲縛りとなります。亀甲縛りにする場合は、縄をくぐらせる回数が増えるので、ロープを二組繋げて使うことになります・・・」

 縄を肌にのめり込ませるようにギュウギュウ引っ張って、自分の裸身に菱縄模様を作っていきました。
 股の裂け目を縄がヌルヌル滑り、どんどん気持ち良くなってしまいます。

「同じように下腹部の輪にも縄を通して腰に回し、最後に余った縄尻を背中に通る縄に結んで巻き付ければ完成です」
「私は、かなりキツメに絞りましたが、慣れないうちは手順を覚えることを優先して、緩めから始めるといいと思います」
「ご覧いただいておわかりになったと思いますが、正面の各結び目が最初のときより、けっこう上に来ています。この辺の加減は何度か試すうちにわかってくると思います・・・」

 そのときの菱縄自縛は、我ながらとてもいい出来でした。
 綺麗な菱形が素肌に均等に満遍なくピタッと吸い付き、股間のコブもしっかりクリトリスのすぐ下に来ていました。
 
 裂け目を通るロープは、もうすでにグジュグジュ。
 この状態だとローブのどこを引っ張られても、ワレメに食い込むロープが滑り、確実に腫れ上がったクリトリスを潰してくることでしょう。
 事実、少し屈めていたからだを起こしただけで、コブがクリトリスを直撃しました。

「あんっ!、そ、それと、最初は、下半身は、下着を着けたままのほうが良いと思います。じ、直だと、刺激が強いので・・・汚れてもいい下着を着けで練習してください」
 ビリビリッと全身をつらぬいた電流にクラクラしつつ、なんとか喘ぎを押し殺して告げました。

「全身が火照ってるね?気持ち良さそう」
「うん。マゾ子ちゃん、縛ってるうちにどんどんエロっぽくなってった」
「縛り自体は、意外と簡単そうじゃなかった?」
 お三かたが小声で口々にご感想を言い合っています。

「それで、この菱縄縛り自体は、ご覧のように拘束というよりも、からだに縄が這っているという背徳感とかアブノーマルさを愉しむのがメインとなります」
「もちろんキツく縛れば、縄が肌に食い込む拘束感も愉しめますし、先ほどそちらのかたがおっしゃられたように、この上に何か着てお散歩するとか、そういう密やかな愉しみ方もいいと思います」
「とくに自縛の場合は、両手を最後まで拘束することが出来ないので、からだを自由に動かせない系の拘束感を愉しみたいのであれば、最後にもう一本ロープを用意して、後ろ手縛り、というのをするとよいです」

「ただし、自縛の場合、手や腕まで不自由にしてしまうと、抜け出すために前もってそれなりの準備が必要となります。ハサミとかナイフとか。ロープを切って解くことになりますから」
「自縛のときの両手の拘束は、私の場合、なるべくロープを切りたくないので、比較的ラクに外せる手錠とか手枷を使っています」
 さっき里美さまにかけられた重い手錠の感触を思い出し、キュンとマゾマンコの奥が震えました。
 
「以上が菱縄縛りの自縛の仕方です。何かご質問は、ございますか?」
「あ、えっと、ちょっと後ろを向いてもらえますか?」
 熱心にペンを滑らせていたノートからお顔を上げたヨーコさまが、ペンをこちらへ向けておっしゃいました。

「あ、はい・・・」
 みなさまに背中を向けるとき、自然と両手が頭の後ろに挙がっていました。
 肩の動きと共にからだを這う縄全体が上向きに引っ張られ、またしてもコブが肉芽を直撃。
「あふっ!」
 みなさまから見えないのをいいことに、眉根を寄せてはしたない声を小さく漏らす私。

「へー。後ろも綺麗にバッテンのシンメトリーなんだ」
「余った縄はあんなふうにグルグル巻きにしちゃうんだね」
「縄がお尻にかなり食い込んでるよね」
 お三かたが思い思いのご感想をつぶやかれる中、里美さまの愉しそうなお声が聞こえました。

「あなたたち、今、マゾ子ちゃんがしているポーズの意味、知ってる?」
「うーん。よくわからないけれど、あれってアメリカ映画とかで警察が犯人に銃を構えて、フリーズ、ってさせたときの、犯人がする格好ですよね?」
 倉島さまのお声。

「おお、よく知っているわね。マゾ子ちゃん?そのまま前向いて」
 お言葉に従って回れ右をすると、ビデオカメラを構えられた里美さま。

「両手を頭の後ろに当てて、おっぱいも腋の下もおへそも、もちろん性器もまったく隠せないポーズ。これを、マゾの服従ポーズ、って呼ぶの」
「ほら、ワンちゃんやネコちゃんが、かまって欲しいときにゴロンと仰向けになってお腹見せちゃうじゃない?あれと同じよ。マゾっ子がしたら、それは、虐めて欲しい、っていうこと」
「わたしのからだを、どうぞご自由にしてください、っていう服従のアピールね」
 
 自分でも、なぜ今このポーズをしたのかわかっていませんでした。
 マゾモードに入った私にとっては、やり慣れたポーズですから自然と出てしまったのでしょう。

「今の実演で自縛ノウハウはだいたい頭に入ったでしょう?あなたたち、かなり真剣にノート取っていたし」
 おっしゃりながら里美さまが立ち上がり、ツカツカと私に近づいてきました。

「お家に帰ってやってみて、何かわからないことがあったら、またいつでもマゾ子ちゃん呼んであげるからね」
「それにしても、わたしも初めて見たけれど、お見事なロープ捌きだったわ」
 私の横に立たれた里美さまが、私の下腹部を走るロープをつまみ、クイッと引っ張りました。

「あっふぅ!」
 コブがクリット直撃。
 すがる目つきで里美さまを仰ぎ見ます。
 もっとしてください、というお願いを込めて。

「そろそろ陽も傾いてきたし、自縛の講義はここまでということにして、このえっちに縛られたマゾ子ちゃんをみんなでちょっと虐めてみない?」
 いつの間にご用意されていたのか、おっきなリングがぶら下がった真っ赤な首輪を首に巻かれました。
 形といい太さといい、街で見かけるワンちゃんの首輪そのものでした。

「愛しのお姉さまのチョーカーの代わりに、わたしが首輪を着けてあげる。うちのショップオリジナルの、人間のマゾペット用の首輪よ」
「一般的にペットって、首輪を着けてあげた人が飼い主になるわよね?今のマゾ子ちゃんの飼い主は誰?」
 先ほどまでとは雰囲気の変わった低めの冷たい声音で尋ねてくる里美さま。
 あ、この人エスの役、やり慣れている、とすぐにわかるお声でした。

「あ、はい・・・目の前にいらっしゃる、愛川里美さまです・・・」
「飼い主の命令は、何でも聞けるわよね?」
「はい・・・」
 信じられない、という面持ちで里美さまと私の顔を交互に見やるお三かた。

「あのテーブルの上のオモチャ、どれでも好きなのをいくつでも試してみていいわよ。マゾ子ちゃんのからだに」
 里美さまのお顔には、ゾクゾクするほど嗜虐的な笑顔が浮かんでいました。
 ああん、やっぱり、そうなるんだ・・・

「そ、それは面白そうですけれど・・・でも、その、えーっと、マ、マゾ子さんは、それでいいのですか?」
 倉島さまが、戸惑いとワクワク半々みたいな困ったようなお顔でおっしゃいました。

「マゾ子ちゃんには、いいも悪いも無いの。そもそもこの子は、そういうことをされるために派遣された、今日ここでみんなに虐められるべき存在なのだから」
「ほら、こんないやらしい顔になっているのよ?火照っちゃって瞳なんかトロンとしちゃって、虐められたくて仕方ない、っていう感じでしょう?}
 冷たく言い放つ里美さま。

 確かにそうでした。
 この自縛のレクチャーを頼まれたときから私は、そのお相手のお客様に弄ばれることを予想していましたし、期待してもいました。
 自縛をご披露して、終わったらそのまま、お疲れさまー、で解放されるとは、まったく思っていませんでした。
 
 菱縄自縛し終えた瞬間から、私の全身が新たな辱めを期待して疼き始めていました。
 そんなふしだらな期待が、後ろを向いて、とおっしゃられたときに、自然と服従ポーズを取ってしまった理由なのでしょう。

「今日のことはちゃんとマゾ子ちゃんのお姉さまからの許可もらっているの。実は、わたしもマゾ子ちゃんをちゃんと虐めるのは今日が初めてなのよね」
「それに、あなたたちが来る前の打ち合わせでマゾ子ちゃんの口から、すべて従うつもりでここに来ました。何でもご命令ください、って宣言までもらったし、一切遠慮は要らないわ」

「あなたたちも耽美な小説を書いているなら、こんな責めをしてみたいとか、されてみたいとか、あるでしょう?いい機会だから、試してみるといいわよ。マゾ子ちゃんのからだで」
 私の首輪をススッと指で撫でた里美さまが、私の右手を取りました。

「そこの椅子に座って」
 私の荷物をどかして椅子を空けてくださいました。
 あのヘンな形の椅子です。

 一見すると、よくある形のゆったりめなラウンジチェア。
 オレンジ色っぽい赤色で背もたれは短かめ、左右に肘掛けがあって座高高め。

 一番ヘンなところは、お尻を乗せる座面でした。
 普通は四角形の平面ですが、この椅子のは、内側に向けてUの字に抉れていました。
 腰掛けてみると、お尻を乗せると言うよりも、左右の腿で座っている感じ。

 洋式便器の楕円形の便座を思い出していただくと、わかりやすいかもしれません。
 あれが半円形になっている感じ。
 実際に座ると、お尻の真下が空間になるのがわかりました。

「なかなか座り心地のいい椅子でしょう?」
 ご冗談ぽく笑った里美さまが、一度テーブルのほうへ行き、すぐに戻られました。

「みなさんがマゾ子ちゃんにイタズラしやすいように、しばらくのあいだ、恥ずかしい格好で拘束させてもらうわね」
 里美さまが座った私の背後に回り、椅子の背もたれの向こう側に私の両腕を束ね、先ほどの本格的な手錠をカチャンとかけました。

 両腕と背中のあいだに背もたれを挟み込み、背もたれの金属支柱に手錠のチェーンが絡むように後ろ手で施錠されたので、上半身がほとんど動かせなくなりました。
「これでマゾ子ちゃんは、この手錠を外さない限り、この椅子から離れられないわね」
 里美さまが、うふふ、とほくそ笑みました。

 それから里美さまは私の足元に屈み込み、私の左右の足首にそれぞれレザーの足枷を巻いて南京錠で施錠されました。
 足枷の色は首輪と同じ赤で、銀のリングに頑丈そうな短い鎖が繋がっています。

「ちょっと失礼」
 里美さまが私の左足首を持ち、無造作にガバッと持ち上げました。
「ああん!いやんっ」

 いきなり大股開きとなった私の左脚は、あれよという間に左側の肘掛けを左膝の裏側に挟むような形で持ち上げられ、足枷から伸びる鎖の端が、手際よく椅子の裏側に繋がれたようでした。
 肘掛けを膝裏で挟んだ形の左脚は、どんなにがんばっても最早閉じることが出来ません。

「あっ、いやーっ、そんなぁ、里美さまぁーっ」
 右足も持ち上げられる気配を感じて身を捩りましたが、上半身を背もたれに磔られている身ではどうしようもありません。
 あっさりと右側の肘掛けも跨がされて固定され、文字通り、大股開き、の格好になりました。
 間髪を入れず背もたれがゆっくりリクライニングし、上半身が沈んだ分だけ下半身が持ち上がります。
「いやーーーっ!」

 みなさまに股縄の股間を180度近くまで開いて、見せつけていました。
 濡れそぼった無毛の膣穴の中央に、2本の麻縄が吸い付いているはずです。
 椅子のUの字に開いた空間から、ポタポタと淫汁がしたたり、床を汚してしまっているはずです。
 お三かたも立ち上がり、無防備に晒されたその部分を覗き込むように凝視されています。

「エロ過ぎだよね、この格好。見事なM字」
「すごーい。ロープまでグショグショに濡れてる」
「この角度だと、ちょっとロープどけたら、お尻の穴まで丸見えじゃん。信じられなーい」
「確かに、こんな恥ずかしい姿にされたツインテの女の子を、現実に自分の目で見ているっていうことが信じられない。まさに生贄って感じ」

 容赦のないお三かたのご感想に被虐感がグングン昂ります。
 それを煽るように里美さまのビデオカメラのレンズが、動けない私に近づいたり遠のいたり、それこそ舐めるように隅々まで撮影されました。

「倉島さん、さっきのタイマーボックスをちょっとお借りするわね?」
 いったんビデオカメラから目線を外された里美さまがおっしゃり、テーブルの上のタイマーボックスを持ってこられ、椅子の脇に立たれました。

「これが、マゾ子ちゃんにかけられた手錠と南京錠を開けられる鍵」
 短いチェーンに繋がった小さな鍵を、私の鼻先でプラプラ揺らす里美さま。

「みなさんうちのお得意様だから大サービスで、最後はタイマー拘束プレイの参加型実演で締めましょう。マゾ子ちゃん、何時間くらい虐められたい?」
「えっ?あの、その、えっと・・・」
 突然のご質問に、言葉が出ない私。

「あなたたち、今日これからのご予定は?」
「あ、いえ、これといって別に。今日はこのショールームに来ることだけを楽しみにしていましたから」
 倉島さまが、里美さまと私を交互に見ながら嬉しそうにおっしゃいました。

「そっか。それなら別に帰りが遅くなってもかまわないんだ?2時間でも3時間でも」
「はいっ!」
 お三かた、綺麗に揃ったユニゾンのお返事。

「でも、あんまり虐めすぎてマゾ子ちゃんが壊れちゃってもマズイし、まあ、1時間位にしておきましょうか」
 タイマーボックスの蓋を開け、チャリンと鍵をボックスの中に落とした里美さま。

「実際、時間が来て鍵がリリースされたとしても、今のマゾ子ちゃんは、鍵を渡してもらわない限り、自分の力でこの拘束を解くことは出来ないのだけれどね」
 イジワルくおっしゃった里美さまが、蓋に付いたタイマーのダイアルをグルリと回されました。


非日常の王国で 12




2016年12月25日

非日常の王国で 10

 その手錠は、黒光りするスチール製の本格的なもので、両手にかけられると、ずっしりとした重みが両腕に伝わってきて拘束感を増幅させ、私の被虐心を徒に煽りたてました。

「同じ鍵で外せる南京錠や足枷と棒枷も、シリーズであるのよ」
 テーブルの上に置かれた凶々しい拘束具を、みなさまにお勧めになる里美さま。
 それらを手に取り、興味深そうにためつすがめつされるお三かた。
 里美さまは、両手が不自由となった私に何かイタズラを仕掛けてくるでもなく、やがてジーっと機械音が鳴り、ボックスのロックが解除されたようでした。

 里美さまが蓋を開き、手錠の鍵を取り出します。
「はい、これ」
 手錠のままの右手に鍵を渡された私は、左手首に嵌められた手錠の鍵穴を探し、自分で手錠を外しました。
 何かされちゃうかな、とドキドキしていた分、ちょっと拍子抜け。

「いいですね、これ」
 倉島さまが蓋の開いたボックスに手を伸ばしながらおっしゃいました。

「これ買って、ヨーコんちに置いておこうよ。いろいろ使えそうじゃない?」
「うん。試験期間中にマンガやゲーム封印するのにも重宝しそう」
「バイブや電マ入れてオナ禁とかね」
 ワイワイ盛り上がるお三かた。

「これ、輸入品でパテントものだから、定価はけっこうお高いのだけれど、サンプル品のこれでよかったら、値引き出来ますよ?今みたいにお客様にデモンストレーションを数回披露しただけのお品だから、ほぼ新品同様よ」
 ご商売上手な里美さま。

「うわー。ありがとうございます。ぜひお願いします。これはサークルの備品としてサークル費で落としちゃおうよ」
 倉島さまのお言葉の後半は、他のおふたかたへのご提案でした。

「他に何か、気になるものはあります?」
 里美さまがみなさまにお尋ねしました。
「あ、さっきの、輸入品、っていうワードで思い出したのですけれど・・・」
 倉島さまがノリノリな感じで手を挙げられました。

「ネットで見れる外国のボンデージものの動画とかでよく、何て言うのかな、機械仕掛けのえっち道具があるじゃないですか?棒の先端にバイブが付いていてピストン運動をくりかえす機械、みたいな・・・」
「ファッキングマシーン?」
 メグさまがポツリと語尾を上げた疑問形。

「そう!それ。ファッキングマシーン。でも、挿入するみたいな直接的なのじゃなくて、あたしが気になるのはスパンキングの機械なんです」
 倉島さまが若干照れたようなお顔でおっしゃいました。

「セルフボンデージして、自らお尻を突き出して機械仕掛けの鞭にお仕置きを受ける、っていう絵面にすごくウズウズしちゃうんです」
「スパンキングってひとりじゃ出来ないじゃないですか?出来ないこともないけれど、自分ですると打たれるタイミングわかっちゃうからいまいちつまらないし。だからああいう機械、欲しいなって」

「扇風機の羽根を外して自分で作ってみようかな、と思っちゃうくらい欲しいんです。でも扇風機だと一定速度の乱れ打ちしか出来なそうだし。改造しようにもあたし、機械関係、疎いし」
「打つ強さを調節出来たり、打つタイミングをランダムに設定出来たらいいですよねー」

 うっとりしたお顔の倉島さまの視線が、なぜだか同意を求めるように私を視ています。
 私も、そんな機械があったら、絶対欲しいな、とは思いますけれど・・・

「なんだ、そんなにお尻叩いて欲しいなら、言ってくれればいつでもやってあげるのに」
 ヨーコさまがニヤニヤしながら、倉島さまの肩を軽く小突きました。

「そういうんじゃないの。何て言うかな、えっちな妄想を巡らせて、その世界観の中で囚われの身となって拘束されて、延々とお仕置きされるのが気持ちいいと思うのよ。お赦しくださいー、って哀訴懇願しながら。それこそがセルフボンデージの醍醐味じゃない?」
 熱く語る倉島さま。

「生憎うちのラインアップは、まだそこまで充実していないの。ごめんなさいね」
 申し訳なさそうにおっしゃった里美さまのお顔が、すぐにほころびました。

「でも安心して。うちのショップはその辺もちゃんと視野に入っていて、今開発中だから。海外では市販しているメーカーもあるけれど、輸入ものはやっぱり値が張っちゃうのよね」
「仕組みは単純なものだし国内で作ったほうが、より使い勝手の良いものが安価で出来そうだから、今、ある精密機器メーカーと共同開発中なの。さっきおっしゃったファッキングマシーンみたいなのも含めて、その手のマシーン類全般をね」

「完成したらネットに載せるよりも早く、真っ先にお知らせするから、またここに遊びにいらっしゃい」
「はーい!」
 
 元気良く響いた、お三かたのお返事。
 私もそれは、とても愉しみ。
 ただ、このショップで売るのであれば、きっと試作段階から私が呼び出され、実験台にされることになるのでしょうけれど。

「それじゃあそろそろ、自縛の講義に移りましょうか。マゾ子ちゃん?よろしくね」
 唐突なバトンタッチに心臓がドキン。
 とうとう、このかたたちの前で全裸になるんだ・・・
 鼓動が口から飛び出しそう・・・

 でも、ずっとみなさまのお話をお聞きしていて、お三かたに性癖的な親近感も湧いていたので、同じくらいのワクワクゾクゾクを感じているのも事実でした。

「自縛の前に、まずお買い上げいただいた麻縄のメンテナンス方法から教えてあげて」
 里美さまのお言葉で、倉島さま以外のおふたりもそれぞれ、ご自分のバッグからノートとペンを取り出されました。

「へー。現役の学生さんはさすがに真面目ね。ノート取るほど真剣に聞いてもらえるなら、マゾ子ちゃんも講義のやり甲斐があるわよね」
 からかうみたいに私を見る里美さま。

 私は緊張しつつ、ご説明のために昨夜まとめておいた自分のノートをバッグから取り出しました。
 それと、愛用のロープを入れた大きな巾着袋。
 これは、中学校のとき母が作ってくれた麻布の体操服袋でした。

「そう言えばみなさんて今、何年生なの?」
 里美さまのお言葉に、すぐヨーコさまが応えました。
「アタシとメグは2年で、レイちゃんが3年。耽美研的には、もうひとりづつ2年生と3年生がいます」

「へー。みんなマゾ子ちゃんとそう歳が変わらないのね。むしろ歳下かも」
「えーーーっ!?」
 久しぶりのお三かたのユニゾン疑問形。

 私がもしも四大に行っていたら今3年生ですから、倉島さまとは同級生、他のおふたかたは一年歳下です。
 そっか、同級生や下級生の前で私はこれから、自分のヘンタイ性癖をひけらかすために、ひとりだけ全裸になるんだ。
 学生時代に果たせなかった妄想が現実になるような気分になり、その頃にひとり遊びしながら想像していた恥辱と被虐の感覚がまざまざと脳裏によみがえりました。

「どうしよっか?このまま始めてもいけれど、自縛の実演もするのだから、このままだとこのテーブルが邪魔になって、マゾ子ちゃんの下半身が見えにくいわよね?」
 里美さまがお三かたに問いかけました。

「うーん。そうかな・・・そうかも、ですね・・・」
 想定外のご質問だったらしく、戸惑ったようなご反応の倉島さま。

「あちらへ移動しましょう。せっかくいらしたのだから、かぶりつきで観ていただいたほうがいいもの。机が無い分、ノートが取りづらいかもしれないけれど」
 
 里美さまが指さされたのは、長方形のテーブルの短いほうの辺の先、マネキンの林とは反対側の壁際でした。
 そこだけショーケースの並びが途絶え、ヘンな形をした大きめの椅子以外何も置かれていない、ちょっとしたスペースになっていました。

「さあみなさん、ご自分の椅子とノートだけ持って集合!」
 里美さまが立ち上がりました。

「マゾ子ちゃんは、あそこの壁際、椅子の脇辺りで、悪いけれど立ったまま講義してね。荷物はあの椅子の上に乗せておけばいいわ」
 
 里美さまが指さされたヘンな形の椅子には、なんとなく見覚えがありました。
 ずっと以前、やよい先生とミイコさまに連れられてローソクプレイをするために訪れたSM専用ラブホテル。
 そこにあった、えっちな仕掛けがたくさんある椅子によく似ている気がしました。

 そんなことを考えてゾクゾクしているうちに、みなさまが私の前に集まってきました。
 テーブルを背に私を扇型に囲むように腰掛けたみなさまと私の距離は、ほんの2メートルに満たないくらい。
 こんな至近距離で・・・
 
おまけに私の右側は真ん中分けカーテンで可愛らしく飾られた素通しの窓。
 もう夕方5時近いのに、梅雨明けし夏に向かってどんどん伸びる明るい西日が射し込む中、路地を隔てた向かい側のビルの壁と窓が見えていました。

「さあ、これでいいわね。それではマゾ子先生、お願いしまーす」
 里美さまの茶化すようなお声に促され、ペコリとお辞儀をひとつ。

「えっと、麻縄っていうのは、普通の荷物を縛る用とか園芸用のを買うと、工業用のタールとかお肌に良くない成分を使って固めている場合があるので、一度煮詰めて洗い流し、再度なめす必要があります・・・」

 自宅でまとめてきた要件のメモをチラ見しながら、我ながらぎこちなくお話を始めました。
 私から見て、右から順番にメグさま、ヨーコさま、倉島さま、里美さま。
 至近距離から真剣な瞳たちがジーーっと私を見つめています。

「でも、今日お買い上げいただいたロープは、ちゃんと人間を縛る用に作ってありますから、この工程はいりません。すぐ使うことが出来ます・・・」
 私が、人間を縛る用、と言ったとき、みなさまクスクスと笑われました。
 それを聞いて私も幾分リラックス。

「麻縄は植物由来ですから、湿気でカビが生えたり腐ったりもしちゃいます。なので、もしも濡らしちゃった場合は、水分をよく拭き取ってから充分に陰干しします。直射日光で乾かすと縄が硬くなってしまうので、縛り心地が悪くなります・・・」
「縄が乾燥したら油を縄全体に塗りこんでなめします。ベトベトにするのではなくて、極少量を手に取って縄を滑らせて揉み込む程度で大丈夫です。これで縄がより柔らかくなります・・・」

「塗る油は、馬油とかオリーブオイルとか、人それぞれ違っているようですが、私は、動物性よりも植物性のほうがいいかな、と思ってホホバオイルを使っています。これならお化粧品でもありますし、お肌に悪いということは無さそうですから・・・」
「保管するときは、緩めにまとめて、通気性のいい布袋に入れておくのがいいです。ギュッと縛っておくと、その形のまま折れグセがついちゃいますし、ビニールの袋だと蒸れて湿気てカビることがあるらしいので・・・」

 私の説明を真剣にノートに書き取るお三かた。
 私とノートを交互に見つめ、ときどき視線がチラチラ股間に集まるのは、私のスカートが短か過ぎるためでしょう。
 お話の合間に姿勢を変える動きだけで、明るいグレイの裾からあっさり黒い下着が覗いちゃっているはずです。
 その視線が恥ずかしいのに気持ち良くて、クロッチ部分がべったり粘膜に貼り付いているのが自分でわかりました。

 その後、縄の表面が毛羽立ったときの処理の仕方や、短く切ったときの両端の処理の仕方、などをご説明して、まとめにかかりました。

「縛り終わった後は、縛られた人の汗やいろんな体液が縄に滲みついていますから、今ご説明したようなお手入れの工程を施してあげてくださいね」
 言いながら、自分の巾着袋から愛用の麻縄二束を取り出しました。

 いよいよです。
 いよいよ私は、みなさまの前で自縛ショーを行わなければならないのです。
 自分の麻縄を手に取った瞬間に、自分の中のマゾ性がジンワリと増殖し、頭の中の理性が隅っこに追いやられるイメージが見えました。

「ちょっと見せて」
 里美さまが右手を伸ばし、私の手の内から一束の麻縄を攫っていきました。
「うわー。ずいぶん年季が入っているのね。柔らかくってテラテラして。縛り心地良さそう」
 横並びのみなさまに私のロープを回して触らせる里美さま。
「やっぱり新品とは、かなり色合いが違うんですね。縄が生きているみたいに艶めかしい感じ。手触りもしなやか」
 倉島さまのご感想。

 里美さまが後を引き取ってつづけました。
「そうね。このテラテラどす黒い艶光りは、今までマゾ子ちゃんが自分でとか、お姉さまとかに緊縛された、その苦痛と快楽の証拠が蓄積されているんだよね。ほら、ここなんか赤い蠟が点々と滲みついてる」
 ワザととしか思えないあからさまに恥辱的なご指摘に、私のマゾ感度がグングン上昇しちゃいます。

 今日持ってきたロープは、やよい先生から高二の頃プレゼントしていただいて以来ずっと愛用してきたものでした。
 このロープでやよい先生に縛られ、シーナさまにいたぶられ、お姉さまに辱められ、もちろんそのあいだ数えきれないくらい自縛しました。
 私の汗とよだれと淫らな愛液がたっぷり滲み込んだロープ。
 そんなロープを同い年くらいのかたがたに、じっくりと見られている恥ずかしさと言ったら・・・

「さあ、それではマゾ子ちゃんご愛用の麻縄での熟練のロープ捌きを、じっくり見せていただきましょうか」
 ロープを返してくださった里美さまがからかうようにおっしゃり、ご自分の膝の上のハンディなビデオカメラを手に取られました。
 椅子に乗せたお尻を浮かし、一斉にグイッと身を乗り出してくるお三かた。

「あのう、ちょっとその前に、あそこの窓のカーテン、閉めませんか?」
 ずっと気になっていたことを、おずおずと懇願する私。
「えっ?ああ、あの窓?大丈夫よ。向かいのビルの窓、開いたことないもの。ここは2階だし。せっかく日当たりいいのにカーテン閉めたら暗くなって、お待ちかねの実演が見にくくなっちゃうじゃない?」
 にべもなく却下される里美さま。

 期待していなかった分、失望もありませんでした。
 私は言いなりの身。
 カーテンを閉じて欲しいなんて要求すること自体が分不相応なのです。
 窓から誰に視られてしまおうが、不服を言える立場ではないのです。
 被虐が極まって覚悟が決まりました。

「それではこれから、ご要望いただいた、菱縄縛り、の自縛の方法をご説明します」
 正面を向いてみなさまに告げました。
 それから、ロープを椅子の上に一旦置いて一呼吸ついて、つづけました。

「縄の走り具合がみなさまによくわかるように、失礼してここでお洋服を脱がさせていただきますね」
 考えていた科白がスラスラっと口をつきました。
 自分を追い詰め、逃げ道を塞ぐために自から口に出した自虐的な科白に、自分でキュンキュン感じてしまっています。

 私が人前で裸になるときは、ルールがありました。。
 イベント明けの次の日、多汗症のドSで男嫌いな裏生徒会副会長、のコスプレをされたミサさまが、キャラと同じ口調なのであろう、ドS全開でおっしゃったお言葉。

「視られて一番恥ずかしい部分を最初にさらけ出すのがマゾ女の作法ってものだろう?」
「今後貴様はいついかなるときでも、裸になれと言われたら真っ先に下半身から脱いで、貴様が言うところの、剥き出しマゾマンコ、をまっ先に世間様に露出するのだ」
「これは絶対服従の命令だ。わかったな?」

 そう、私が誰かに裸をお見せするためにお洋服を脱ぐときは、必ず下半身から露出しなければならないのでした。
 あの日以来私は、お家でひとり、お風呂に入るときでさえ、このルールを守っていました。
 理不尽なご命令を守り従うことが、マゾ的にとても気持ち良いのです。
 今は、お姉さまの会社から派遣されたマゾペットとしてのお勤め中ですから、当然、このご命令を守らなければいけません。

 みなさまに深々とお辞儀を一回してから、おもむろに両手をウエストへ持っていきました。
 里美さまも含めて、おやっ?というお顔になるみなさま。

 ミニスカートのホックを外し、ジッパーをジジジっと下げます。
 ストンと足元に落ちたグレイの布片。
 黒の小さなショーツが丸出しとなりました。

 つづいて上半身を屈め、両手をショーツの両サイドにかけます。
 チラッと上目遣いにみなさまを窺うと、揃って、えっ!?っていう驚いたお顔。
 被虐度フルの陶酔感と共に、一気にショーツをずり下ろしました。

「えーっ!?下着も?」
「なんで下から先に?」
「あっ、毛が無い」
「キレイなパイパン・・・」
「濡れてる・・・」
「もう濡れてる・・・」
「信じられない・・・」

 至近距離から聞こえてくるヒソヒソ声に辱められ、粘膜がキュンキュン疼くのがわかりました。
 マゾマンコからか細い糸を引いてしとどに汚れたクロッチを見せるショーツが、両足首のあいだで、一文字に伸びきっています。
 ゆっくりと両足首からショーツを抜き、濡れたクロッチ部分を表側にして折りたたみ、椅子の上に置きました。
 もう一度ゆっくり屈んでミニスカートを拾い上げてから、休め、の姿勢でまっすぐみなさまのほうを向きました。

 視線の束が私の恥丘に集中しています。
 里美さまのビデオカメラもそこに向いています。

 みなさまに向いたまま、今度はベストの袖から両腕を抜きます。
 首からベストを抜いた後、今度は右手をブラウスの胸元へ。
 上から順番にひとつづつ、ボタンを外していきます。
 きついブラウスの圧迫が緩み、押し潰されていたおっぱいがプルンと息を吹き返します。

 私、今、同い年くらいの女子大生のかたたちの前で、ストリップをしているんだ・・・
 全裸になったら、自分を縛り付けて淫らに身悶える様を、こんな至近距離から彼女たちに視られてしまうんだ・・・
 内腿を雫が滑り落ちる感触がありました。

 ブラウスを取ると、残ったのは黒いハーフカップブラジャーだけ。
 カップの内側で乳首が痛いほど背伸びしているのがわかりました。
 食い入るような視線のシャワーを浴びながら、背中のホックを外しました。

「乳首、すごく勃ってる・・・」
「やっぱりおっぱい大きい・・・」
「ちょっと垂れ気味・・・」
「全部脱いじゃうんだ・・・」
「水着とかレオタじゃなくて裸で縛るんだ・・・」
「まさか全裸になるなんて、思ってもいなかった・・・」

 驚嘆なのか愚弄なのか、ご遠慮の無いヒソヒソ声を浴びながら全裸で立ち尽くす私。
 右横の窓からかなり傾いた陽射しが、ちょうど私のおっぱいから太腿までを明るく照らしています。
 私、今日初めて訪れた他人様のお店で、今日初めて知り合った人たちの前で全裸になっている・・・
 正確に言うと、白い三つ折りソックスとスリッパだけは履いていましたが、ここにいる五人の女性の中、ひとりだけ裸の私。

「どう?マゾ子ちゃんのからだ、えっちでしょう?」
 呆然とされている風のお三かたをからかうみたいに、里美さまがお声をかけました。
「あ、はい。あんな見事なパイパン、見たことないっす。ひょっとして生まれつき?」
 ヨーコさまが上ずったお声でおっしゃいました。

「ううん。マゾ子ちゃんはマゾだから、オマンコを隠すものは必要ないの。スジもヒダヒダも中のピンク色まで全部、隅々までみんなに視てもらいたくて永久脱毛したそうよ」
「うへー。本当にドエムの露出狂さんなんですねえ。そんなのAVかエロマンガの中だけかと思ったら現実ににいるんだー!」
 ヨーコさまのお声に、好奇からくる嗜虐が混ざってきている感じがしました。

「こんな普通に日常的な公共の場で生身の裸を見せられちゃうと、見ているこっちのほうがなんだか照れちゃいますね」
 倉島さまがお言葉とは裏腹に、私のバスト付近をじっと凝視しながらおっしゃいました。

「マゾ子ちゃんはね、恥ずかしいのが快感なのよ。今日だって、下着姿とかレオタード着て縛ってもいいのよ、って言ったのに、自発的に全裸になっちゃったのだもの」
「見て分かる通り濡れてるわよね?乳首もビンビン。マゾ子ちゃんは、自分を辱めたいタイプのマゾなのよ」

「こんなところで裸になっていること、あなたたちに視られていること、これから自分で自分を縛ること、の全部に感じちゃって、発情しているのでしょうね」
 里美さまが、舌舐めずりまで聞こえてきそうなほどのワクワクなお声で、私を見つめつつおっしゃいました。

「ほら、あのエロく火照ったマゾ顔を見てごらんなさいな。あんな蕩けるような顔していたら、誰だって思わず、もっと虐めてあげたくなっちゃうでしょう?」


非日常の王国で 11