2010年6月20日

第二次性徴期と私 04

その年5月の連休後半は、6連休でした。

父は珍しく、その初日から三日目までまるまる休めることになりました。
引越してきてから、まともに休める日が数日しかなかったので、新居の中は、母がいろいろと整理してはいたみたいですが、ほとんど手つかずでした。
なので、この連休に家族みんなで片付けてしまうことになりました。

初日は、車で近郊のターミナル駅に行き、家具や調度品、食器、食料品などをたくさん買い込みました。
そのとき私は、その後とても長いおつきあいになる、移動式の大きくて洒落た姿見を買ってもらいました。
その姿見を買うときに母が私に言った言葉は、ある意味、私のその後を暗示していました。
「なおちゃんもこのあいだ大人になったのだから、これからは誰にいつ見られても恥ずかしくないように、お風呂上りとかに、この鏡で自分のからだをチェックなさいね」
「女の人はね、誰かに見てもらうことで、キレイになっていくの。だから最初はね、自分の目で自分をよーく見て、キレイなれるように努力しなくちゃね」

そして、これは私からのおねだりで、私の部屋用に20インチのテレビとDVDレコーダーを買ってもらいました。
そもそも私は、数年前から、ほとんどテレビは見ていませんでした。
テレビを見るなら小説を読んでいたほうが、ずっと楽しかったからです。
母もテレビの放送はめったに見ず、私がいない平日の昼間のことはわかりませんが、テレビがついているときは、ほとんど母が近所のレンタル店で借りてきた映画のDVDが流されていました。

母は、気に入った映画があると一日中、音声を絞って流しっぱなしにしていたようです。
それで夕食後、
「なおちゃん、これ面白かったわよ」
って言われて、私もヒマなときとかには、一緒に見ていました。

母が借りてくるのは、洋画の恋愛ものやコメディが多く、中にはセクシーなシーンが長くつづくようなものもありました。
そういうときは、私のほうがちょっと気恥ずかしくなって、横目でちらっと母のほうを盗み見したりしました。
母はいつも、たぶん昼間に一回は通して見ているでしょうに、真剣に見入っていました。
「ねえ、なおちゃん。この子のおっぱい、きれいよねえ?」
なんて、ときどき言いながら。

そうしているうちに、私の趣味に映画鑑賞も加わりました。
中学生になって、英語を習いはじめた頃でもあったので、英語の台詞の、もちろん真剣に字幕を読まないとストーリーがわからなくなってしまうのですが、映画を見ている自分がなんとなくカッコイイ気もしていました。
あと、母の手前、あまり食い入るように見ることができなかった、セクシーシーンのある映画をこっそり一人でもう一度見てみたい、というもくろみもありました。

パソコンもできれば欲しかったのですが、高校生になってから、という父の意見でおあずけとなりました。

二日目は、届いた家具などのレイアウトやお掃除で一日暮れてしまい、やっと三日目に普通ののんびりした休日がやってきました。
おだやかに晴れた日で、家族3人でお庭をブラブラしたり、おのおのの部屋を見てまわりました。

そのとき、初めて入ったのは、まず、父の部屋。
大きな本棚がしつらえてあって、本がぎっしり詰まっていました。
ただ、それは小説とかではなくて、なにやら難しげな専門書のようでした。
そしてベッドと立派な机。
机の上には大きなモニターのパソコンが置いてありました。

そして、その隣の父と母の寝室。
広々として立派なベッドが奥の窓際にあって、その脇には、母が使うのであろう、細かい装飾が綺麗に施された大きめな木製の折りたたみ式三面鏡台。
入口側には、小さめなホームバーのセットとお酒の瓶とグラスが並ぶサイドボード。
小型のオーディオセットに大きめの籐椅子が二脚。
ベッドサイドにはアクリル製のオールシースルーな移動式テーブル。
そして、どっかで見たことあるような綺麗で大きな裸婦画が壁に一枚。
全体の色合いがシックに統一されていて落ち着いた雰囲気ながら、なにやら複雑な動きができる間接照明とともに、子供の私でも感じるくらい、なんとなく艶かしい空間でした。
もうこれで、休日のケーキのお楽しみはなくなったな、と思うと、ちょっぴり残念な気もしました。

次の日の夕食後、
「この3日間、はりきりすぎて疲れちゃったから、早めに寝るわ」
母は、そう言って、すぐにお風呂に向かいました。
父は今日から出張で4日間帰りません。
私は、食事の後片付けを終えた後、自分の部屋に戻って、休みの間手をつけていなかった英語の宿題を片付けてしまうことにしました。

だんだん解いていって、わからない単語が出てきたとき、英語の辞書を学校に置いてきたままなことに気がつきました。
パタパタと階下に降り、母を探します。

母は、ダイニングの食卓に座り、ネグリジェのままテーブルに頬杖をついて、ぼんやりしていました。
「ねえ。ママ、英語の辞書持ってない?」
「英語の辞書?」
母はしばらくぼんやりと考えているふうでしたが、やがてアクビしながら、
「パパのお部屋にあるんじゃない?」
どうやら、ビールかなんか飲んでたようです。
「入っていい?」
「いいわよん。ママもう眠くなっちゃたから、そろそろ寝るわ。お風呂入ったら、ちゃんと火消してね。あとお部屋の電気もね」
母は、本当に眠たそうに、ふんわりしていて、その目元が上下にあつぼったくなっていて、すごく色っぽくてセクシーでした。
私は、なぜだかそんな顔の母からあわてて視線をそらして、逃げるようにダイニングを出ました。
「わかった。それじゃあ、おやすみなさい」

私は、父と母の寝室の手前にある父の部屋のドアを開けて、電気をつけました。
昨日の昼間にはじめて見た、父の本棚。
今日あらためて見ても、その蔵書の多さは迫力があります。
背表紙の文字もほとんど漢字ばかりで、なんとか概論、とか、なんとか研究っていうタイトルばかりでした。
これ、本当に全部読んだのかしら?
パパって、ああ見えて意外とインテリさんなんだ・・・
なんて思いながら、英和辞典を探します。

えーとえーと。
下の棚から順番に探していくと、三段目の左端が辞書コーナーでした。
広辞林、国語辞典、漢和辞典ときて、次が英和辞典。
あった、あった、と思いながら、視線をまだ右にずらしていくと、和英辞典、フランス語辞典、スペイン語辞典、中国語辞典、韓国語辞典、ロシア語辞典までありました。
英和辞典を抜いたあと、ロシア語の辞書ってどんなんだろうと思って抜いてみたら、その棚の本全体が左斜めに倒れて、右のほうにある本の裏に書店のカバーをかぶせた本が一冊、隠されているのが見えました。

ははーんっ!

あの父でも、やっぱりそういう本を隠し持っているんだなと思うと、なんかニヤニヤしてしまいます。
辞典類をいったん全部外に出して、そのカバー付きの本を取り出しました。
もしここに母が、「あったー?」 とか言いながら顔を出したら、「パパの秘密、みつけちゃったー」 なんて言いながら笑えるのにな、と思いながら、
「さあて。パパはどんなのが好きなの?」
小さな声で言って、わくわくしながら、適当なページをぱっとめくりました。

そこに現われたのは・・・、


第二次性徴期と私 05

0 件のコメント:

コメントを投稿