2010年10月16日

トラウマと私 06

バスタオルと新しい下着とお風呂セットを入れた布袋を持って階段を下り、バスルームに入ろうとしたら、電気が点いていて、誰かが先に使っているみたいでした。
喉も渇いていたので、ダイニングに飲み物を取りに行くことにします。
リビングに通じるドアが開いていて、リビングでは、母とミサコさんだけが並んでソファーに座っていました。
二人とも湯上りのようで、母は黒の、ミサコさんは白のゆったりしたTシャツに、ボトムは二人とも黒のスパッツ。
テレビには、フラを優雅に踊っている外国の女性の映像が映っていて、ハワイアンな音楽が低く流れていました。
たぶんDVDでしょう。

「あら、なおちゃんお風呂入りたいの?今は、タチバナさんたちが入っているから、もう少し待っててね」
母が私を見て言います。
「夕ご飯は、篠原さんがおソーメン茹でていってくれたから、それを適当にね。おツユとか全部冷蔵庫にあるから。あとは、ダイニングのテーブルにあるものをお好きに」
「ともちゃんが、お帰りにおねーちゃんにご挨拶するってきかないから、なおちゃんのお部屋行ったけど、ぐっすり眠ってたから、起こさなかったって言ってたわ」

私は、リンゴジュースを注いだコップを持って、母たちの正面に座りました。
タチバナさんとオオヌキさん、一緒にお風呂入ってるんだ・・・
あ、でも女性同士だしお友達同士だし、何にもおかしくはないか・・・
寝起きのボーっとした頭でそんなことを考えていると、ミサコさんが聞いてきました。

「ねえ、なおちゃん。あなたボーイフレンドとか、いるの?」
「えっ?」
私は、ちょっとあたふたしてしまいました。
「えーと、私は、今は、そういうの、ぜんぜん興味ないって言うか・・・」
「あらあ、そうなの?でもなおちゃん、カワイイからもてるでしょ?アナタも心配よねえ?」
母に話を振っています。
「そうねえ・・・でもまあ、そういうのって、なるようにしかならないから、ね」
母は、のほほんとそう言って、視線をテレビに戻しました。

リビングのドアが開いて、タチバナさんとオオヌキさんが戻ってきました。
「あーさっぱりしたあ」
タチバナさんはピッチリしたブルーのタンクトップにジーンズ地のショートパンツ姿。
胸の先端がポチっとしていて完璧ノーブラです。
でも全然隠す素振りもありません。
オオヌキさんは、バスタオルを胸から巻いたままの姿です。
湯上りのためか、上気したお顔で相変わらず、もじもじと恥じらっています。
脱衣所にお着替えを持って入るの、忘れちゃったのかしら?

「それじゃあなおちゃん、お風呂入っちゃえば?」
母がのんびりと言いました。
「はーい」
私は、コップを戻すために一度ダイニングに戻って、ついでに洗ってシンクに置いてから、今度はリビングを通らず廊下に出て、リビングのドアの前を通ってバスルームに向かいました。

リビングの前を通ったとき、
「今度は、どれを着てもらおうかなあ?」
という、ミサコさんかタチバナさんらしき声が聞こえてきました。
えっ?どういう意味?
やっぱりオオヌキさんって、誰かの言いなりな着せ替えごっこ、させられてるのかなあ?
私は、またドキドキし始めてしまいます。

バスルームに入ると、いつもとあきらかに違う香りが充満していました。
香水というか、シャンプーというか、体臭というか・・・
それらが一体化した、我が家のとは違う、まったく知らない女性たちの香り。
今日のオオヌキさんの一連の行動や、さっき見た夢、今リビングの前で聞いた言葉・・・
それらが頭の中で渦巻いて、ムラムラ感が一気に甦ってきました。
私は、強いシャワーでからだを叩かれた後、バスタブにザブンと飛び込んで、声を殺して、思う存分自分のからだをまさぐってしまいました。

ずいぶん長湯をしてしまいましたが、ムラムラ感もあらかた解消されて、お腹も空いてきました。
夜の8時ちょっと前。
自分の部屋で丁寧に湯上りのお手入れをしてから、パジャマ姿でダイニングに行きました。
リビングへのドアは閉じていましたが、母たちは、どうやらお酒を飲み始めたようで、DVDのBGMの音量とともに話す声のトーンも上がっていました。
誰かの噂話とか、お仕事関係のお話のようでした。
聞くともなく聞きながら、おソーメンをズルズルと食べました。
冷たくて美味しかった。

食べ終えて、お片付けしてから、一応みなさんにご挨拶しておこうとリビングに顔を出しました。
テーブルの上にワインやブランデーの瓶やアイスペール、缶ビールが乱雑に置いてあります。
「あらーなおちゃん、うるさかった?」
ミサコさんがトロンとした目で言います。
「いえ。だいじょうぶです。楽しんでください」
オオヌキさんは、どんな格好をしてるのかなあ、ってワクワクしながら見てみると・・・
昼間のと同じような、乳首がかろうじて隠れるだけなデザインの白い、たぶん今度のは下着で、上にグレイっぽい渋いアロハを羽織っていました。
下半身は、床にぺタっと座り込んでいるので見えません。
私は、ちょっと期待はずれでした。
「直子ちゃん、本当にカワイイわねえー」
私と目が合ったオオヌキさんが黄色い声で言います。
オオヌキさんは、もうけっこう酔っ払っているみたいです。
今は全然恥ずかしそうでもありません。

「ママ、私は明日、愛ちゃんたちと電車で遊園地に遊びに行くから、朝の九時頃には出かけちゃうから・・・」
「あらー?、もしかしてデート?」
タチバナさんが聞いてきます。
「い、いえ、女の子6人で、です」
「へー、それじゃあナンパされちゃうかもしれないわねー」
ミサコさんも嬉しそうに言ってきます。
私は、苦笑いを浮かべてから、
「だ、だから、もしもママたちが起きてなかったら、そのまま行っちゃうからね」
「はーい。了解ー。楽しんでいらっしゃーい」
母も陽気です。
「それでは、みなさんおやすみなさい。ごゆっくりー」
「はーい、おやすみー」
皆が口々に言ってくれます。
私は、自分の部屋に戻りました。

明日、遊園地に着て行く服の準備や、日記を書いていたら10時をまわっていました。
寝る前にトイレに行ったついでに、今日着たレオタードをバスルームの脱衣所にある洗濯カゴに入れに行くと、リビングの灯りは点いているのに、しんとしていました。
覗いてみようかと一瞬思いましたが、やめときました。

さっきお昼寝したから、なかなか寝付けないかなあとも思っていましたが、ベッドに寝転んで、村が発展すると町になるから、ムラムラが強くなるとマチマチだ、って書いてたのは誰の本だっけかなあ、なんてくだらないことを考えていたら、いつの間にか眠っていました。

翌朝、顔を洗うために階下に降りると、しんとしていました。
リビングを覗くと、テーブルの上もすっかり片付けられています。
歯を磨いたり身繕いを整えてから、一応母の部屋を小さくノックしてみました。
返事はありません。
鍵もかかっていなかったので、そーっと開けてみました。
誰もいませんでした。

愛ちゃんたちと待ち合わせている駅に向かいながら、考えました。
母たち4人は、おそらく父と母の広い寝室で一緒に寝たのでしょう。
それはそれで、別におかしなことではありません。

でも、オオヌキさんの存在が私のイケナイ妄想を駆り立てます。
昨日一日、ほとんど裸のような格好で過ごしていたオオヌキさん。
いえ、過ごすことを命じられていた、なのかもしれません。
そんなオオヌキさんとあの寝室に入ったら、少なくともミサコさんとタチバナさんは、大人しく眠るはずがない、と思えて仕方ありませんでした。

オオヌキさんと私は似ている・・・
ということは、今、私が考えているようなことをオオヌキさんも期待していた?

駅の切符売り場の壁にもたれて、そこまで考えたとき、おはよう、って愛ちゃんが声をかけてきました。
私は、あわててその妄想を頭の片隅に追いやり、愛ちゃんにニコっと笑いかけました。


トラウマと私 07

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