2010年10月30日

トラウマと私 15

「それでね、さっきの昼休み、みんなでウチダのクラスの教室まで怒鳴り込みに行ってきたの」
あべちんが笑いながら教えてくれました。
「兄キとウチダはクラス違うから、兄キに、昼休みウチダのクラスに行って足止めしておくように頼んでさ。最初は兄キも元部員を裏切るみたいでイヤだ、ってごねてたんだけど、なお姫の写真見せたら、やる、ってさ」
「こんなカワイイ子に告られたのが本当だったら、ウチダが断わるわけがない、って笑ってたわ」

「3年生の教室に怒鳴り込むのは勇気要ったけど。みんなと一緒だし、何よりもみんな本気で怒ってたし」
「教室の後ろの窓際にあべちんのお兄さんがいたから、近づいていくと愛ちゃんが、あいつだっ!って大声上げて指さして」
ユッコちゃんもなんだか楽しそうに言います。

「それで、愛ちゃんがウチダの席の前で腰に両手をあてて見おろしながら、あんた自分でラブレター出してフられたクセに、自分がフったなんて言いふらすのは、どういうつもりなのよっ!って大きな声で怒鳴りつけてさあ」
「最初はウチダもヘラヘラしてしらばっくれてたんだけど、そのうち、うるせーなーとかふてくされ始めたんで、愛ちゃんが、あんたの書いたラブレター一字一句まで覚えてるわよ、なんならここでみんなに披露してあげようか?あと、なおちゃんにフられたときの状況も、って凄んだら、今度は震えだしちゃってさあ」

「3年のクラスの人たちも、最初は、なんなんだ?って感じだったんだけど、事情がわかるにつれて、女子の先輩たちから、うわーっ!ウチダ、サイテー、とか、クズだとは思ってたけどクズにもほどがある、とか声が聞こえ始めて、みんなで呆れてた」
「サッカー部の後輩に自慢したときに一緒にいたらしい友達もいて、なんだよおまえ、大嘘なのかよ?って大声上げて」
「あべちんが、わたしたちにきちんとあやまんなさいよっ!て詰め寄ったら、ウチダ、直立不動になって上半身90度曲げて、すいませんでしたーっ、だって」
「その瞬間、教室中、男子も女子も大爆笑だったよねー」
みんなが口々にそのときの状況を教えてくれました。
あの控えめなしーちゃんさえ楽しそうに笑っています。

「そんな感じで仇はとったから、なお姫も早く元気出してね」
あべちんが私の顔を覗き込むように笑いかけてきます。
「・・・ありがとう」
私は、なんだか感動していました。
ウチダっていう人のことは、まあどうでもいいのですが、愛ちゃんたちみんなが私のためにそこまでしてくれたことが、すっごく嬉しくて、ありがたくて涙が出そうでした。
それと同時に、少しだけど前向きな気持ちが戻ってきました。

「でも、ウチダ、あんなに追い込んじゃったから、なおちゃんのこと逆恨みしてストーカーになったりして」
曽根っちが冗談めかして怖いことを言います。
「へーきへーき。あいつにそんな根性ないって。ヘタレそのものって顔だったじゃん。わたしの兄キにもよく言っておくし、わたしたちが絶対に、なお姫守ってあげるよ」
あべちんが頼もしいことを言ってくれます。
「だからなお姫も、なんかあったらスグにわたしたちに相談しな、ね?」
「ありがとう、みんな・・・」
私は、本当に嬉しくて、思わずあべちんの両手を取って、強く握っていました。

「それにしても男子って、なんでそんなすぐバレるような嘘、つくのかねえ?信じられない」
とユッコちゃん。
「見栄をはるベクトルが間違ってるよねー」
と曽根っち。
「ああいうクズ男子見ちゃうとあたしも当分、ボーイフレンドとかいらないなあって思っちゃうよ」
と愛ちゃん。
「でも、男子がみんなウチダみたいなクズってわけではないよ」
と曽根っち。
「どっちにしても中学男子ってやっぱガキっぽいよねえ。わたしは、大人っぽい人がいいなあ。高校生とか」
とあべちん。
「今は、女子だけでワイワイやってるほうが全然楽しいよねー」
とユッコちゃん。
そうだよねー、ってみんなで言い合った後、しーちゃんがポツンと言いました。
「でもワタシ、女の子同士の恋愛でも、いいよ・・・」

「しーちゃんは、レズっぽいマンガもよく読んでるもんねー。でもBLも好きなんでしょ?」
あべちんがすかさずツッコミます。
「うーん、どっちかって言うと百合系のほうが好き、かなー。キレイだし、カワイイし」
しーちゃんがうっとりした感じで言いました。

「そうそう。百合系って言えばこないださあ・・・」
話を引き取ったのは曽根っちでした。

「愛ちゃんとなおちゃんの通ってるバレエスクールに百合草っていう名前の講師の人、いるでしょう?」
「うん。百合草先生は、あたしたちの担当講師だよ」
と愛ちゃん。
「あー、そうなんだ。じゃあこの話、ちょっとマズイかなあ・・・」
曽根っちは、じらすみたいに少しイジワルな言い方をします。
「えっ?なになに?すごく気になるんだけど」
愛ちゃんが曽根っちに食い下がります。
私もまっすぐ曽根っちを見つめます。

「百合草っていう先生、どんな感じの人なの?」
曽根っちが私に問いかけます。
「すっごくキレイで、プロポーションも良くて、しなやかな感じで、踊りももちろんうまくて、性格もさっぱりしていて頼りがいのあるいい先生、だよね?愛ちゃん?」
愛ちゃんも黙って大きくうなずきます。
「ふーん。なおちゃんも愛ちゃんもぞっこん、て感じだね。じゃあ、びっくりしないで聞いてね」

「アタシの姉貴、今、東京の大学に通っていてね、一人暮らししているんだけれど、夏休みに一週間くらい、こっちに帰って来ててね、そのときに聞いた話」
「姉貴も中学から高校2年まであのバレエスクールに通っててね、けっこう真剣にバレリーナ目指してたのね」
「でも今は、なんだかアニメのコスプレとかにはまっちゃってて、髪の毛ベリベリショートのツンツンにしちゃってるけど。そのほうがウイッグかぶりやすいんだって」
しーちゃんが目を輝かせます。
「今の姉貴なら、しーちゃんと話、すっごく合いそうね」
曽根っちもしーちゃんのほうを向いて、ニコっと笑いました。

「それで、もう一年くらい、渋谷にあるおしゃれ系な居酒屋さんでバイトしてるんだって」
「でも、その居酒屋さんって、ホテル街の入口にあるんだって。いわゆるラブホ街ね。だから来るお客さんもそういうカップルさんばっかりなんだって」
「お店に来たお客さん見ると、これからヤルのかヤった後なのか、たいがいわかるって豪語してたわ。あと、シロートなのかショーバイなのかも」
「ショーバイ、って?」
あべちんがおずおずと口をはさみます。
「だからつまり、お金もらってそういうことする女のことね。援交とか。そのお店で待ち合わせてホテルへ、ってパターンに使われてるみたいね」
「お客さんがみんなそんなだから、お金はけっこう使ってくれるみたいなのね。ほら、そういう場になれば男ってみんな見栄はるじゃない?ラブラブだったら終わった後、おしゃれなお店で美味しいものでも食べていくか、みたいになるし」
「高めの値段設定でもお客さん入るからバイト代はいいみたい。こっち来てるとき、アタシも誕生日プレゼントにブランドもののバッグ、買ってもらっちゃったし」
みんな興味シンシンで曽根っちのお話を聞いています。

「それで、8月の始めの頃、その日は姉貴、遅番だったんで夜の7時過ぎに出勤したんだって、ラブホ街抜けてね」
「そしたら、とあるおしゃれっぽいホテルから、女性が二人、寄り添うように出てくるのを見たんだって」
「姉貴はそのときは、後姿しか見なかったんだけど、二人ともスラっとしてて、片方の女性がもう片方の女性の腕に絡みつくみたいにぶら下がってて、ラブラブな感じだったって」
「姉貴は、へー、女性同士でこういうところ使うカップルも本当にいるんだなあ、ってヘンに感心しちゃったって。でもまあ、そんなの人の好きずきだからね。なんだかカッコイイなとも思ったって」

「それからお店に入って、仕事するためにフロアに出たら、どうもその女性カップルらしいお客さんが二人で奥のほうのテーブルに座ってたんだって」
「姉貴は後姿しか見ていないんだけれど、そのカップルのうちの一人の女性がすごく特徴のある柄の白っぽいノースリワンピを着ていたんでわかったんだって。スカートんとこの柄が同じだったって」
「向かい合わせの二人がけの席なのに隣同士で座っちゃって、からだぴったりくっつけてイチャイチャしてるんだって」
「でも、二人ともなんかスラっとしてて、モデルさんみたいでカッコイイから、いやらしい感じや下品な感じは不思議としなかった、って言ってた」
「そのお客さん、二人とも大きなサングラスをかけていたんで、気がつかなかったのだけれど、姉貴がそのテーブルにお料理を運んで行ったら、短い髪のほうの女性がサングラスはずしたんだって」

「それで、その顔見たら・・・間違いなく百合草先生だったんだって」


トラウマと私 16

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