2015年9月13日

オートクチュールのはずなのに 19

「どこかでビニール傘でも買って、一応の準備はしておいたほうがよさそうね」
 私の手を引いて、のんびり歩き始めるお姉さま。
 幹線道路ぽい幅広い車道沿いの歩道には、休日ファッションに身を包んだ老若男女が行き交い、そのほとんどが繁華街らしき方向へと楽しげに進んでいきます。
 首輪に感じる視線の数もグンと増えていました。

「傘ならいつも何本か車のトランクに入っているのだけれど、今日はうっかり、持って出るの忘れちゃった」
「一応そのバッグの中に、レインコートは入れてあるの。でも、もしも小雨くらいだったら、わざわざ出すのもめんどくさいでしょう?」
 
 ふたり並んで手をつないで、人混みに紛れます。
 お姉さまの爪先も繁華街のほうへ向いているようです。

「この通りならコンビニとかあるから、ビニール傘くらい買えるでしょう」
 お洒落っぽいお店が立ち並ぶ華やかな通りは、かなりの人通り。
「ずいぶん人が多いですね?」
 さっきから盛んに首や胸元を通り過ぎていく視線にドキドキしながら、お姉さまに尋ねました。
「ここをまっすぐ行けば赤坂だからね。休日だもの、それなりには賑わうわよ」
 そんなのあたりまえ、とでもおっしゃりたげな、お姉さまの突っ慳貪なお声。

「あ!そうそう、トランクの中と言えばね、あたし、この連休中に信州にも出かけたでしょう?そのとき乗馬をしたのよ」
 話題が思いもよらない方向へ跳びました。
「乗馬・・・ですか?」
「うん。お得意先の社長さんの招待で、2時間くらい遊ばせていただいたの」

「お姉さま、ご経験がおありなのですか?」
「学生の頃、何度か乗ったことはある。今回はかなり久々だったけれど、ああいうのも水泳とかと同じで、一度覚えちゃえば忘れないみたい。なんとか無事に楽しめたわ」
 ゆっくり歩きながらおしゃべりをつづけるお姉さま。

「それで、その後、その社長さんと食事したときに出た話題なのだけれど、彼女の趣味が、乗馬鞭のコレクションだったの」
「彼女の乗馬歴はずいぶん長くて、それはもう奇麗に乗りこなすの。でもまあ、それはそれとして、彼女にも、あたしにとっての直子みたいなパートナーがいるんだって」

「だから、そのコレクションは彼女のパートナーのためでもあるのね。そんな話題で盛り上がっていたら、彼女がね、そのコレクションのうちの一本を譲ってくれる、っていうことになったのよ」
「それが、車のトランクの中に入れっ放しになっているのを今、思い出したの。直子専用の乗馬鞭」
 お姉さまが立ち止まり、薄く微笑んで私の顔を覗き込みました。

「エルメスの乗馬鞭よ。嬉しいでしょ?」
「エルメスって、あのバッグやスカーフとかの、エルメスですか?」
「もともとが19世紀の馬具職人の工房だったらしいから、乗馬鞭を作っていても何の不思議も無いのよ」

「グリップとベロのところが鮮やかな赤で可愛いの。エルメスの鞭の中ではそんなに珍しいものではないらしいけれど、それなりの御礼で譲っていただいたの。もちろん未使用の新品よ」
「帰ったら早速、直子に使おうって思っていたのに、たまほのを空港まで送ったりいろいろあったからすっかり忘れていたわ。車に戻ったら見せてあげる」
「はい・・・」
 私のためにお姉さまが鞭をご用意してくださった、それもなんだかとても高級そうなものを。
 甘酸っぱくて気持ちいい疼きに、下半身全体がじんわり包み込まれました。

「あ。あそこに出ている。あそこで買っていきましょう」
 お姉さまが指さされたのは、お店の前に雑多に品物が並んでいる、量販店ぽいお店の店頭でした。
 曇り空にいち早く反応したらしく、色とりどりのたくさんの傘が店先に並べられていました。

「とりあえず大きめのを一本でいいわよね?降るか降らないかわからないし」
 駅を出たときに比べると、少しお空が明るくなっていました。
 降りそうな雰囲気は充分なのですが、意外とこのまま保っちゃうかもしれません。
 並んだ傘の群れの中から、透明ビニールの傘を無造作に一本抜いたお姉さまは、そのままお店の入口ドアのほうへ進みました。

「あら、ここってドラッグストアなんだ」
 自動ドアが左右にスーッと開き、店内を見渡したお姉さまが独り言みたいにおっしゃいました。
 店内は奥行きがあって意外に広く、お買物カゴを提げたお客様がけっこういました。
「ちょうどよかったじゃない?昨日直子が、家にもあとひとつしかない、って言っていたアレも、ついでに買っていきましょうよ」
 お姉さまはレジとは反対方向の商品棚のほうへ進み、棚を順番に探し始めました。

 お姉さまがおっしゃったお言葉だけで、アレ、が何を指すのか、私にはわかっていました。
「ああいうのはどこのコーナーにあるのかしら?自分で買ったことないから、見当もつかないわ」
 カテゴリー分けされた商品棚の川をあちこちさまよい見て回るお姉さま。
 私は大体わかっているので、誘導しようと思った矢先、お姉さまがおっしゃいました。

「これ以上探すのめんどくさいから、あそこの店員さんに聞いてみましょう」
 私たちが見ている川の一番端で商品を整理されていた20代位っぽい女性店員さんを指さすお姉さま。
「は、はい・・・」
 おそらくそうなるであろうと予測していた私は、覚悟は出来ていたものの、ものすごく恥ずかしいことに変わりはありません。
 ふたりでその女性店員さんに近づきました。

「ほら、直子?」
 お姉さまに右肩をこずかれ、促されました。
「あのう・・・」
 背後から突然声をかけられた女性店員さんの肩がピクッと震え、こちらへ振り向きました。
 目元がくりっとした、すごく可愛らしい感じの女性でした。

「あ、はいっ!何か・・・」
 お声もすごく可愛い。
「あのう、えっと、あの、お、お通じのお薬は、どのへんに置いてあるのでしょうか?」
 大きな瞳に見つめられてドギマギしながら、小さな声で何とか言えました。

「あ、はい・・・お習字?ですか?」
 女性店員さんの視線が私の顔から首輪に移り、そのまま下がって胸元に貼りつきました。
「はい・・・」
 私から目を逸らした女性店員さんの思案気なお顔。
「ちゃんとはっきり言わないと、店員さんだってわからないのじゃない?」
 横からお姉さまが、愉しげなお声でイジワルなアドバイス。

「あの、えっと、つまり、お、お浣腸のお薬・・・です・・・」
 さっきより小さな声で、コソコソ告げました。
「ああ、お通じですね・・・」
 女性店員さんの視線は、お姉さまのお顔を見て、それからまた私の首輪に移り、更に私が提げているバッグの表面に釘付けになってから、何か納得されたような、でもまだ少し困っているような、フクザツな表情に変わりました。

「それでしたら、こちらですね」
 努めて平静を装った女性店員さんの私へのご返答に、蔑みのニュアンスが混ざっていることを、私のマゾ性は聞き逃しませんでした。
 お浣腸薬のコーナーまで誘導してくださった女性店員さんは、すぐに私たちから離れましたが、その後も近くの棚でお仕事をされながら、私たちの様子をチラチラ窺がっているのが視界の端にわかりました。

「へー、けっこういろんな種類があるんだ。子供用とか。知らなかった」
 お姉さまが興味深げに、並んだお薬を眺めています。
 私は、いつも買っているふたつ入りの青い箱に手を伸ばしました。

「ああ、それがいつも直子が使っているやつね。一度にいくつくらい買うの?」
「あの、えっと2つ入りですから2箱か3箱くらい・・・」
 私は、早くお買い物を済ませて、この場を立ち去りたくてたまりません。

「でも、こっちに10個入りっていうのがあるじゃない。こっちのほうが断然お得じゃない?」
 お姉さまが一際大きな青い箱をお手に取り、しげしげと眺めました。
「使用期限もずいぶん長いから、直子なら余裕で使いきれるわよ。あ、でもこっちのほうが容量も多くて、もっとお得ぽい」
 青い箱を元の場所に戻し、今度はその横の紫色の大きな箱をお手に取りました。

「ノズルが長くて使いやすいんですって。長いっていうことは奥まで入るっていうことでしょ?バッチリ直子向きじゃない。こっちにしなさい。あたしが買ってあげるから」
 お姉さまの独断で、その紫色の大きな箱を手渡されました。
「ちょっとバッグ貸して」
 お姉さまにビニールトートを渡すと、その中からお財布を出し、お札を数枚渡されました。
「バッグはあたしが持っていてあげるから、直子はレジに並んでお会計済ませてきて。はい、これ」
 バッグの代わりにビニール傘を渡されました。

 左手にビニール傘、右手にお浣腸薬の箱を剥き出しで持ち、レジへ向かいました。
 レジは3箇所でフォーク並び。
 行列にはすでに6人並んでいて、私は7番目。
 なるべく文字が見えないように、手を大きく広げた不自然な形で箱を持ち、順番を待ちました。
 
 お姉さまは薄い微笑を浮かべて出入口近くに立ち、私を眺めていらっしゃいます。
 もちろん、肩に提げたビニールトートの表側には私のヌード写真。
 行列に並んでいるあいだ中、晒し者にされている気分でした。

 レジの場所がお店の出入り口付近だったため、たくさんのお客様が私の近くを通り過ぎました。
 首輪に気づき、そのふしだらな服装に驚き、手に持っているものを見て、私が何を買おうとしているのかまでわかった人も、何人かいたことでしょう。
 先ほどの女性店員さんが私のほうを見て、他の店員さんと何やらヒソヒソしているのも見えました。
 なかなか進まない列にジリジリしながら、それでも一生懸命普通の顔を作って、順番を待ちました。

「お待たせいたしましたー」
 やっと私の番。
 レジ係さんは、若奥様風の派手めな女性でした。

 私がビニール傘とお浣腸薬の箱をレジカウンターに置くと、その女性は一瞬うつむいたまま固まったように見えました。
 取り繕うみたいにすぐに箱に手を伸ばし、ピピッとしてからお顔を上げ、私にニッコリ笑いかけてきました。
 かなり奇麗めのお顔でしたが、その舐めるような視線は、私の首からバストにかけてを何度も行き来し、何かを値踏みしているような感じでした。
 つづいて傘を、同じようにピピッ。

「今すぐお使いになりますか?」
 不意にそう尋ねられ、意味が掴めずポカンとしてしまう私。
「えっ?」
「えっ?」
 レジ係さんも一瞬呆気にとられ、傘とお浣腸薬の箱を見比べた後、すぐに、なんともいえないイジワルな笑みをニヤッと浮かべました。

「傘ですよ?」
「あ。はいっ!」
 お答えすると同時に、いてもたってもいられないほどの恥ずかしさがドッと押し寄せました。

 レジ係さんは、ビニール傘を覆っていたセロファンを外してくださり、値札も取ってくださいました。
 お浣腸薬は小さな黒いレジ袋に入れられました。
 お金を払いお釣りをもらいました。
 そうしているあいだ中、レジ係さんのお口元にはニヤニヤ笑いが浮かんでいて、明らかに軽蔑されていることがわかりました。

「ありがとうございましたー。またご利用くださーい」
 レジ係さんのからかうような軽いご挨拶に送られ、お姉さまの元に戻ったときには、このドラッグストア内にいるすべての人たちから後ろ指をさされているような、いたたまれない恥辱感に泣き出しちゃいたいような気分でした。

「ずいぶん注目されていたわね。お店にいた人のほとんどが、直子のことチラチラ見ていたわよ」
 お店を出たお姉さまの嬉しそうな第一声。
「直子も必死に普通にしようとしていたでしょう?その顔がいじらしくってさ、ローター震えさせたくて仕方なかったけれど、これ以上はヤバイと思ってどうにか我慢したの」
 来た道を戻りながら、お姉さまが私にビニールトートを差し出してきました。
 私が受け取り、今貰った黒いレジ袋も中に入れようとすると、お姉さまが立ち止まりました。

「それじゃあ直子らしくないでしょう?袋から出して剥き出しのまま入れなくちゃ」
「あ、はい・・・」
 レジ袋から箱を取り出し、ビニールトートのお道具が見えるほうの側に押し込みました。
 麻縄や鎖に混じってお浣腸薬のパッケージも、みなさまに見ていただけるようになりました。
 今度はそちら側を表に出して左肩に提げ、ビニール傘はお姉さまに渡し、再び歩き始めました。

「これで準備も整ったし、そろそろあまり人目の無いほうへ移動しましょう」
 お姉さまが私の右手をグイッと引っ張りました。
 人目の無いほうへ、ということは、すなわちそこで私は裸にされるのでしょう。
 ついに都会の街中で全裸になるときが近づいてきたようです。
 ドキドキとビクビクが心の中で綱引きを始めました。
 やがてさっきの幹線道路が見えてきました。

 幹線道路を渡るため、大きな交差点で信号待ち。
 目の前を車がビュンビュン走り去り、人もどんどん周りに溜まってきました。
 赤い首輪に視線が集まっているのがわかります。
 ビニールトートをじっと見ている人もいるようです。
 私はまっすぐ前を向き、どこにも焦点を合わせず宙を見据えたまま、信号が青になるのをジリジリと待ちました。

「ここを渡って向こう側行くと、かなり人が減るはずよ」
 信号が変わって歩き始めると、お姉さまが教えてくださいました。
「この先にあるのは、外国の大使館とか、国会議員の公邸とか大きな建物ばかりだから、その周辺の人通りは少ないの」
 交差点を渡り切り、そのまま路地へと入っていきます。
 確かに人通りはグンと減り、目の前に凄く長い上り坂。

「この辺りって、坂道ばかりなのですね?」
「それは、赤坂っていうぐらいだからね。この坂を上りきったところに有名な高校があるのだけれど、そこの生徒はこの坂のことを、遅刻坂って呼んでいるらしいわよ」
 ビニール傘を杖みたいにして坂道を行くお姉さまが、少しバテ気味のお声でおっしゃいました。
「でも、確かに歩いている人がぜんぜんいませんね?」
 自分が裸になるときが刻一刻近づいている気がして、坂道の辛さにその興奮も加わって、ドキドキが何倍にも増幅している私。

「そうね。でもあまり油断は出来ないの。この辺りには公的な建物が多いから、要所要所にオマワリサンが警備で見張っているから」
 ようやく坂を上りきり、かなり息が上がって一休み。
 石の壁と緑に囲まれた落ち着いた雰囲気の一画でした。

「だからとりあえずここで、直子は胸のボタンをひとつ外しなさい」
 お姉さまが突然、脈絡の無いことをおっしゃいました。
 思わず、えっ!?と聞き返しそうになり、あわてて飲み込みました。

「い、いいのですか?さっきオマワリサンが見張っている、っておっしゃいましたけれど・・・」
「大丈夫よ。別に全裸になるわけでもないし、スカート短かいけれど、ちゃんとパンティだって穿いているじゃない?」
「ボタンひとつ外して、おっぱいチラチラしているくらいなら、たぶん何も言われないわ。ただの胸元緩い服を着た隙だらけの女、っていう感じで、公然ワイセツまでにはあたらないはずよ」
 ようやく息が整ったらしいお姉さまが私を、エスのまなざしでまっすぐ見つめてきました。

 ハーフカップのブラジャーを下にずらし、おっぱい全体を持ち上げている今の状態で三番目のボタンを外したら、かなりキワドイ状態になるのは間違いありません。
 四番目のボタンはみぞおちの下辺りですから、バスト部分を覆い隠すべき布を留めるボタンはひとつもなくなり、ちょっとしたことでもたやすく左右に割れ、Vゾーンがグンと広がってしまうのですから。
 その上、ブラジャー左右のストラップで中央にも寄せられているので、乳首の位置も中央に寄り、よりポロリしやすくなるはず。
 お姉さまったら、そこまで計算されて、私にこんなブラジャーの仕方をさせたのかしら?

「わ、わかりました」
 いずれにしても私に、お姉さまのご命令を拒む権利はないのです。
 左手で三番目のボタンを外すと案の定、胸元が急にラクになり、前立てがフワリと浮いて割れました。
 
 まっすぐ立っている分には大丈夫そうですが、少し身を屈めると、浮いた布地の隙間から尖った両乳首が、うつむいた自分の視界の中に丸見えでした。
 この感じだと、たぶん脇からもチラチラ見え隠れしていることでしょう。
 正面から風が吹いたらきっと、ひとたまりもありません。
 絶望的な気分になりました。

「うん。セクシー。いい感じね。そのまましばらく歩きましょう」
 お姉さまが右手を握ってきました。
「歩いているあいだ、どんなに胸がはだけても、あたしがいいと言うまでは、絶対直してはだめよ?わかった?」
「はい・・・・わかりました、お姉さま」

 私たちが歩き始めるとすぐに、前方からカップルさんらしき男女が腕を組んで歩いてきました。


オートクチュールのはずなのに 20


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