2016年3月20日

オートクチュールのはずなのに 42

「せっかく直子のために手に入れたのに、ずっと使いそびれていたのよ」
 
 お姉さまが魔法少女の変身シーンみたいに、魔法のステッキならぬ乗馬鞭を軽やかに振り回すと、ヒュンヒュンッ!と空気が切り裂かれる煽情的な悲鳴が私の鼓膜を揺らしました。
 私はもうそれだけで、全身鳥肌立つほどゾックゾクッ!

「あら、それって老舗のブランドもの、それもレアものじゃなくて?」
「うん。そうらしい。エイトライツの竹ノ宮さんから譲っていただいたの」
「ああ。あのかた、乗馬がご趣味だったわね」
 お姉さまから乗馬鞭を手渡された早乙女部長さまも、物珍しげにその場でヒュンヒュンさせています。

「彼女、乗馬に興味を持つ人が増えるのが、嬉しくて仕方ないみたい。あたしも鞭を一本、手元に置いておこうかな、って何気に言ったら、喜々としてこれを譲ってくださったのよ」
「まさか、馬じゃなくて人間の躾で使う、なんて思ってもいないのでしょうね」
 おっしゃってから、クスクス笑うお姉さま。

「でもまあ、これからお客様の前に出るモデルのお尻を、真っ赤に腫れ上がらせちゃうのもどうかと思うから、今日もちゃんと本格的には、使えないけれどね」
「あら、少しくらいなら、アクセントになっていいのではなくて?何て言うか、デカダンスなムードが出るかも」
 部長さまが、鞭の先のベロの部分を指先でプルプルさせながら、真面目なお顔でおっしゃいました。

「以前どこだったかで、そういう写真を見たことがあるのよ。真っ白なお尻のアップに一か所だけ、鞭のこのフラップの形の赤い痕がクッキリと残っている写真」
「形のいい綺麗なお尻の割れスジ付近に一か所だけポツンて。それはそれは耽美で退廃的で、ゾクッとするくらいエロティックだったわ」
 
 そのお写真を思い出しておられるのでしょう。
 両目を瞑って夢見るようなお顔つきで、部長さまがおっしゃいました。

 すぐに目を開けて、冷えた視線に戻られた部長さま。
「少なくとも、そのウエストにある忌々しいパンストのゴム跡とか、背中のブラのストラップ跡とかよりは、数倍マシだわ」
 視線と同じく冷えた口調で、そうおっしゃいました。

 確かに自分でも気になっていました。
 慣れないパンストを久しぶりに穿いたせいなのか、締め付けられていたゴムの跡が、薄っすらしつこくお腹に赤く残っていました。
 下乳には、ブラのカップ跡もクッキリあるし。

「うん、わかってるって。それはこの後、シャワーでも浴びさせて消すわ。それに、これから本番まで、直子には一切、下着も服を着せないつもりだから」

 お姉さまが冷静なお声で助け舟を出してくださいました。
 だけど、その後半部分にドッキン。
 えーーっ!?お姉さま、そんなおつもりなの!?
 私、裸のままで、イベント会場まで移動することになるのかしら・・・

「それはそれとして、今は直子のアヌスの話だったわよね?」
 早乙女部長さまから乗馬鞭を返してもらったお姉さまが、乗馬鞭の先を私のほうへと伸ばしてきました。
 おふたりに背を向けたまま、顔だけひねって会話に聞き耳を立てていた私は、またもやドッキン。

「ほら、その机のほうへ前屈みになって、お尻をこちらへ突き出しなさい」
 ご命令と同時に、鞭の先のベロが私の左の尻たぶを、スススッと撫でました。
「あはぁっ・・・」
 瞬間、総毛立つほどゾクゾク感じてしまい、思わず淫らな声が漏れてしまいました。

「脚はもっともっと開いて、もっと前屈みになって、お尻を高く突き上げるのっ」
「は、はい・・・」
 
 鞭の先が私の両脚のあいだに入り込んで左右に揺れ、両方の内腿を軽くペチペチ叩いてきます。
 それにつれてどんどん広がる私の両足の幅。

 最初はデスクの上に突いていた両手もデスクを離れ、今は床に着くほどの前屈姿勢。
 両足幅も1メートル近く広がり、腰高の四つん這い、と言ってもよい姿勢になっていました。

 お姉さまが操る鞭の先端ベロは、絶えず私のお尻周辺を這い回っていました。
 お尻の割れスジに沿った、と思ったら尻たぶへ。
 そこから内腿へと滑り、だんだんと左右が交わる地点へと。

 早乙女部長さまもいらっしゃるのだから・・・
 しきりに声帯を震わせたがる淫らな昂ぶりを、唇を真一文字に結んで一生懸命がまんしました。
 今は優しく撫で回すだけのベロが、いつ牙を剥いてお尻にキツイ一発がバチンとくるか、気が気ではなく怯えていました。

「ほら。これがお待ちかねの直子のアヌス」
 ベロの感触が消えた、と思ったら、お姉さまのお声。

「へー、アヌスと性器のあいだにも、まったくヘアが生えていないのねえ。毛穴さえわからないくらいツルツル」
 部長さまの弾んだお声がすぐに追いかけてきました。

「それに森下さん、絵理奈より上付き気味なのね。アヌスも少し後ろめで、穴と穴のあいだ、会陰が広いわ」
 私のお尻に微かに息がかかっているような気がするのは、部長さまがそれだけ、お顔をお近づけになっているのでしょう。

「ふふふ。それにしても、こんな午前中の明るいオフィスで、うちの社員の裸のお尻をこんなに近くで覗き込んでいるなんて、何だかキマリ悪くて照れちゃうわね」

 それは、覗き込まれている私のほうのセリフです、部長さま。
 大開脚状態ですからスジも割れ、濡れそぼった肉襞まで全部見えてしまっているはず。
 私の顔が真っ赤に火照っているのは、窮屈な前屈姿勢のせいだけではありませんでした。

「ちょっと触ってみてもいいかしら?」
 私にではなくお姉さまにお伺いを立てる部長さま。

「どうぞどうぞ、もちろん。ちょっとと言わず、いくらでも、お好きなだけ」
 半分笑っているような、お姉さまのお声が聞こえました。

 お尻に何か触れた、と思ったらいきなり割れスジが左右に割られ、肛門が押し拡げられたのがわかりました。
「ああんっ、いやんっ」

「あら、可愛らしい声だこと。驚いちゃった?」
 私の返事は期待されていないらしく、すぐにお言葉がつづきました。

「見た感じ、穴がこのくらいまで広がるなら大丈夫そうね。柔らかいし、皺の放射も慎ましくて美しいわよ、森下さんのアヌス」
 穴は押し拡げられたまま、前と後ろの穴と穴のあいだを、何かでツツツツと撫ぜられました。
 たぶん指の爪の先。

「ひゃんっ!」
 思わず膝がガクンと落ちるほど感じてしまい、悲鳴に近い声まであげてしまいました。

「あらあら。姿勢が崩れちゃったわね?ここは誰でも弱いものね?いい鳴き声を聞かせてもらったわ」
 部長さまのからかうようなお声で、あわてて元の姿勢に戻ろうとすると、部長さまに手で制せられました。
「ううん、お尻はもういいから。もう一度わたくしのほうを向いてくださる?」

 絵理奈さまとの秘め事を盗聴したときは、オフィスでのお仕事ぶりがらは想像できないほど、完全に絵理奈さまの言いなりエムだったのに、今日の早乙女部長さまは打って変わって見事なエスっぷりでした。
 部長さまって、お相手次第でエムにもエスにもなれる人なんだ・・・
 おずおずと振り向くと、同じ種類の妖しい光を湛えたお姉さまと部長さまの瞳が待ち構えていました。

「最初は両脚揃えて、気をつけ、の姿勢ね。はい、気をつけっ!」
 学校の朝礼での先生みたいなきっぱりとした部長さまの号令に、あわてて直立不動になりました。
 その瞳はずっと一点、私の両腿の付け根が交わる部分、を凝視しています。

「はい、やすめっ!」
 反射的に両足を軽く開き、両手は背後へ。
 部長さまの瞳は、定位置で不動。

「最後に、その机の上にお尻乗っけて座ってみてくれる?」
「あ、はい・・・」
 振り向かずに後ずさりして、手探りでデスクにぶつかり、縁に両手を掛けてお尻を持ち上げました。

「座ったら、両足も机の上に引き上げて」
「はい・・・」
 両脚を出来るだけ閉じたまま膝を曲げ、デスクの上に体育座りするような格好になりました。

「ふふん。さすがに長年バレエをやっていただけあって、からだが柔らかいのねえ。脚閉じたまま机の上に上げられちゃうんだ」
 なぜだか愉快そうな部長さまのお声。
 だけどその瞳には、嗜虐の炎がユラユラゆらめいていました。

「だけどそれではダメなの。両脚は思い切り開きなさい」
 部長さまの、開きなさい、のお言葉が終わるか終らないかのときに、部長さまの横で成り行きを見守っていたお姉さまが、ヒュンと乗馬鞭を素振りされました。
 
 鞭は宙空を切り裂いただけでしたが、私は盛大にドッキーン!
 あわてて両腿をガバッと、盛大に開きました。
 同時にお姉さまのほうを見ると、すっごく愉しそうに笑っていました。

「もうちょっとわたくしに性器を突き出すみたいに後ろにのけぞって、アヌスまで見えるようにね」
「膝が閉じないように、両手で自分の太腿をそれぞれ、押さえておくといいわ」
 
 部長さまのご命令通りにすると、なんとも破廉恥なM字大股開脚姿になりました。
 それも、自分の両手で左右の膝を押し拡げ、大きく開いた内腿の中心に楕円の粘膜を見せて息づくマゾマンコを、自らすすんで見せつけているような。

「あたしが知っている直子に、これ以上無いくらい、お似合いな格好になっているわよ」
 お姉さまが鞭をヒュンヒュン素振りしながら、嬉しそうにおっしゃいました。

「今、直子が言いたいこと、あたしにはわかるわよ?部長さま、あ、違うな、アヤネさま、か。アヤネさま、どうぞ直子のいやらしいマゾマンコを、じっくりご覧ください、でしょ?」

 でしょ?と問われてうなずく訳にもいきませんが、まさに心の中でつぶやいていたことでした。
 お姉さまは、その先は何もおっしゃらず、薄い笑みを浮かべて私の顔をジーッと見つめていました。
 部長さまと同じ種類の炎にゆらめくその瞳が、ほら、早く言っちゃって、ラクになっちゃいなさい、とそそのかしていました。

「・・・ア、アヤネさま・・・」
 
 いつしか私の思いは声帯をか細く震わせ、唇が言葉を紡ぎ始めでいました。

「アヤネさま、ど、どうぞ、どうか直子の・・・直子のいやらしい・・・いやらしいマゾ、マゾマンコを・・・」
 
 さすがに最初は驚いたご様子だった部長さまのお顔が、私の言葉が進むうちにどんどん、嬉しそうなお顔へと変わっていきました。

「・・・マゾマンコをじっくり、じっくりとご覧になられて、く、くださいませ・・・」
 
 言い終えた途端に左の内腿をドロリと、溢れ出た愛液が滑り落ちたのがわかりました。
 部長さまのふたつの瞳は、その一部始終を、まるで脳内で録画でもされているかのように、じっと凝視されていました。

「森下さんて、本当に凄い子だったのねえ。何て言うか、ここまで性的に貪欲な子だったなんて・・・」
 
 私の恥部からやっと視線を外され、少し呆然とされたような部長さまのお声。
 だけど私にはまだ、お赦しのご命令が下されないので、自ら両内腿を押し拡げている姿勢のままです。

「絵美がさっき言っていた、部長さまじゃなくてアヤネさま、っていう呼び方の違いって、何なの?」
 部長さまがお姉さまにお尋ねられました。

「ああ、それはね、見ての通り直子はドマゾなのだけれど、肩書にかしずくのではなくて、人にかしずいて、その人のドレイになるの。そういう志の高いマゾなの」
 お姉さまが茶化すみたいに、薄い笑顔でおっしゃいました。

「よくわからないのだけれど、今さっき、森下さんはわたくしにかしずいてくれたのかしら?」
「そう。さっきはっきり直子は、アヤネさま、って言ったのだから、ダブルイーの早乙女企画開発部長にではなくて、早乙女綾音っていう個人のマゾドレイになることを宣言したのよ」

「ふーん」
 今一ご納得されていないご様子の部長さま。
 矢面の私でさえ、何が何やら・・・

「だから、アヤもいつまでも森下さんなんて他人行儀に呼んでいないで、直子!って呼び捨てにしちゃいなさい。今日からあなたのドレイでもあるのだから。そうよね?直子?」
「えっ?あっ、はいっ!」
 突然私に振られ、条件反射で肯定しちゃいました。

「絵美がそう言うのなら、そうするけれど・・・森下、あ、いえ、ナオコもそれでいいのね?」
「あ、は、はい・・・お願いします」
 部長さまのお見事な虐めっぷりに、私があがらえるはずがありません。

「直子はアヤのこと、これからは、綾音さま、と呼びなさい。今日一日直子はイベントのモデルとしての別人で、うちの社員でもないのだから。他のスタッフについては、来たら後でまた考えるから」
 お姉さまがキッパリとおっしゃり、部長さま、いえ綾音さまも、うなずかれました。

「ところで絵美?わたくし、ずっと観察して思ったのだけれど、森下、いえ、ナオコって、つくづく今日のイベントモデル、いえ、今後のうちの開発モデルとしても、まさにピッタリな人材だと思うの」
 綾音さまが姿勢解除のお赦しを出してくださらないので、私はまだデスクの上で大股開き状態。

「ナオコって性器が上付き気味で、真正面からだと割れ始めが少し表に出るじゃない?まず、そこが妙にエロティック」
「この通り、ハイジーニーナも毛穴さえわからないくらい会陰まで完璧、ツルツルスベスベでしょう?恥丘も綺麗だし、清潔感だって申し分無し」

「大陰唇はぷっくりしていてラビアの外へのはみ出しが皆無だから、見た目がとてもシンプルで、ヘンに目を引く余分なアクセントが無いの」
「それにどういう意味があるかと言うと、隠しやすいのよ。幅が8ミリくらいの紐があれば、あ、パールのロザリーとかでもいいわね、そんなのがあれば、スジからアヌスまでキレイに隠せちゃう」

「こういう品のいいヴァジャイナを、オシャレに、綺麗に見せるアイテムを作って発表したら、それを見た人も、自分の性器周辺の身だしなみに、気を遣い始めると思うのよね」

 綾音さまが突如として、私の恥ずかしい箇所に関して、お姉さまに熱く語り始めました。
 服飾デザイナーをされていると、普通の人とは違うフェティシズムが生まれるのかもしれません。
 
 いまだに大開脚の体勢で見せつけている部分へ、それを指さしながらの論評でした。
 それは当然、ものすごく恥ずかしいことだったのですが、基本的には褒められているようなので、不思議と悪い気分はせず、こそばゆい感じもしていました。

「ほら、これ見てよ。この子のラビアって、アジア系にしては色素沈着が少なくて、少しも黒ずんでいないのよ。膣内が綺麗なピンクの薔薇みたいでしょ?それが柏餅みたいにぷっくりした大陰唇に包まれているの」

「だからワレメがこそっと割れたとき、中の襞のピンクが眩しいくらいで、凄くエロティックなの。初めて見たとき、驚いちゃったもの。ワザと膣内を見せちゃうのもアリだな、なんて思っちゃう」
 私がさらけ出しているマゾマンコを前に、綾音さまの熱弁がつづきました。

「ナオコの裸視ていたら、エロティックなアイテムのデザインがいくつも浮かんできたわ。来年は、もっと凄いのが作れそう」
「わたくしが知る限り、この裸と同じくらいエロティックなのって、絵理奈くらいのものね」
 最後の最後に、綾音さまがノロケられました。

「でも今回は、そのステキな絵理奈ちゃんがドジ踏んだのを、マゾドレイの直子に助けられるのよね、ダブルイーの早乙女部長さんは?」
 お姉さまにしては珍しく、わざとらしいくらい憎たらしい感じでからかうように、綾音さまを冷やかしました。
 私もハッとしたくらいですから、綾音さまもムッとされたお顔でお姉さまを睨みつけられました。

「ふんっ!来年は、ナオコを素材にどんどん凄いアイテムをデザインして、絵理奈に着せるわよ。見ていなさい。ショーでは絵理奈が完璧に着こなしてくれるはずよっ!」
 綾音さまがたたきつけるようにおっしゃり、しばらくお姉さまの涼しげなお顔を睨みつけていらっしゃいました。
 やがて、ふっと眉間の皺を緩められた綾音さま。

「でも絵美?わたくし、ひとつだけ、とても心配なことがあるのだけれど・・・」
 真顔に戻られた綾音さまが、お姉さまと私を交互に見ながらおっしゃいました。

「ナオコって、ちょっと敏感過ぎやしない?」
「正真正銘のマゾって、こういうものなの?さっきからずっと、乳首もクリットも腫らしっ放しじゃない」
 
 綾音さまの視線は、私が押し拡げている楕円形の襞の頂点で、萼をすっかり脱ぎ捨ててツヤツヤ輝いている小豆大の突起を見つめていました。

「それに、この愛液。机の上まで溢れ出しちゃって。感じちゃっているから濡らしているのでしょう?」
「ナオコはつまり、今わたくしたちに裸を視られて、まあ、こんな恥ずかしい格好もさせられて、それで感じちゃって、興奮しちゃってこうなっているのよね?そういう種類のマゾなのよね?」
「今でさえこうなのに、うちのアイテム身に着けて、たくさんのお客様の前に出たとき、この子、正気でいられるのかしら?興奮しすぎちゃって、何か大変なことになったりしないかしら?」

「うん。それはあたしも一抹の不安があるのだけれど・・・」
 お姉さまが少し動揺されたように私を見ました。
 でもすぐに、無理矢理な明るいお声で、こうつづけました。

「でもきっと大丈夫。これから直子を部室に連れて行って、あたしなりに対策も取るからさ」
「今回のアイテムに関してのアヤのお墨付きももらえたし、直子をモデルにして行けるところまで行きましょう。何か起きたらその都度の現場主義でいいじゃない?」
「本番は待ってくれないから、どうなるかわからないことで悩んでいるよりも、とにかく動きましょう」
 
 お姉さまが私に右手を差し伸べてくださり、私のマゾマンコさらけ出しタイムがようやく終わりました。

「絵理奈さん担当のヘアメイクさんは、手伝ってくれるのだったわね?」
「ええ。呼べば30分以内に駆けつけてくれるはずよ」
「じゃあ、すぐ電話して直接部室にきてもらって。黒髪のウイッグを何種類かお願いね」
「わかったわ」

「これからあたしは、直子と部室にふたりきりでこもるから、他のスタッフが来ても、こちらからいいと言うまで部室には来させないで、ここで待機していて。メイクさんだけ寄越して」
「わかったわ。うちのスタッフには経緯を、わたくしから説明しておくわ」

「あたしがアヤに教えたことは、全部言っちゃっていいから。直子がどんな女なのかも含めてね。それで、対外的には、直子は本日、急な家庭の事情で欠勤ね。里美たちやスタンディングキャットの連中にも、そう伝えて」
「シーナさんにはバレちゃいそうだから、頃合い見てあたしから言うわ」
「それも了解。これ、持っていくといいわ。今日、絵理奈に使うはずだったものだけれど」
 
 綾音さまが小さめのショッパーをお姉さまに手渡されました。
 お姉さまは中身も見ずに、それをショッパーごと、ご自分のバッグに詰め込みました。

「アヤもちゃんとお召かししなさいよ?ヘアサロンは残念だったけれど、ドレスは持ってきているのでしょう?」
「ええ。わかっているわよ。絵美もね」

 急にあわただしく時間が動き始めました。
 時計を見ると午前11時を5分ほど過ぎたところでした。
 でも、お姉さまと綾音さまの会話をお聞きするだけで、全裸の私は何も出来ません。

「おっけー、直子?それじゃあ、部室に行こうか」
「えっ!?」
 
 私の右手を握って引っ張って、強引に一歩ドアへと向かいかけ、不意にお姉さまが振り向いて私をまじまじと見てきました。
 全裸の私をオフィスの外へ連れ出そうとしていることに、今更ながら気づかれたようでした。


オートクチュールのはずなのに 43


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