2010年11月6日

トラウマと私 17

私は、お部屋のドアのところまで行って、鍵をかけました。
それからベッドのところまで戻り、再び浅く腰掛けました。

やよい先生と、もう一人の美しい女性が仲良くしている場面を想像してみます。
やよい先生のお相手の女性って、どんな感じの人なんだろう?
曽根っちから聞いたお話では、女優さんのように綺麗っていうことですが、抽象的すぎて、うまく想像できません。
仕方ないのでオオヌキさんに出演してもらうことにします。

やよい先生とオオヌキさんが隣り合って、からだをぴったりくっつけてベッドの縁に腰掛けています。
ラブホテルの内部がどんな感じなのかも私は知らないので、なんとなく豪華なお部屋、我が家の父と母の寝室を思い浮かべてみました。
照明を少し落として、薄暗い感じです。

やよい先生は、バレエのレッスンでいつも着ている鮮やかなレモンイエローのレオタード、オオヌキさんは、あの日着ていたキワドイ水着姿です。
二人は、互いに顔だけ横に向けて、じーっと見つめ合っています。

やがてオオヌキさんの手がやよい先生の胸に伸びて、ゆっくりとやさしく愛撫し始めます。
やよい先生は、目をつぶってうっとりとした表情になっています。
私も自分の右手をパジャマ越しに自分のおっぱいに置いて、ゆっくりともみ始めました。
目をつぶってしまうと、思い出したくない場面がフラッシュバックしてくるかもしれないので、自分の右手に視線を落としながら妄想をつづけます。

オオヌキさんは、両手を優雅に滑らせて、やよい先生の上半身、胸や首筋や脇腹や背中をしなやかな指で丁寧に愛撫しています。
私も自分の両手で自分の上半身をまさぐります。
だんだん気持ち良くなってきました。

やよい先生も両手を伸ばし、ほとんど裸に近いオオヌキさんの上半身を愛撫し始めました。
乳首が隠れているだけのおっぱいを下から手のひらで支えるように持ち上げて、プルンと揺らしています。
背中に回した指を背骨に沿って滑らせます。
首筋から顎にかけて、やんわりと撫ぜまわします。
オオヌキさんの眉根にシワができて、ゾクゾクするほど色っぽい表情になっています。

やよい先生とオオヌキさんは、上半身を互いに向け合い、互いの両手を伸ばして相手のからだを抱き寄せるような格好で愛撫をつづけています。
私は、自分の上半身を両手でさわさわと撫ぜまわしながら、いつの間にか両目をつぶって妄想モードに突入していました。
目をつぶってもフラッシュバックは来ないようです。
頭の中は、やよい先生とオオヌキさんの姿で一杯です。

しばらくそうしていて、だんだんと高まってきていたとき、ふいに気がつきました。
私は今まで、妄想オナニーのとき、誰かに自分のからだをさわられることばっかりを想像していたことを。
私が誰かのからだをさわる、誰かを愛撫してあげる、という発想が無かったことを。

私がやよい先生のからだをさわってあげて、気持ち良くさせてあげる・・・
やよい先生をイかせてあげる・・・
やよい先生も私をさわって、私を気持ち良くしてくれる・・・
なんて刺激的な妄想でしょう。
私の頭の中にいたオオヌキさんは、その瞬間、私自身にすり替わっていました。
私とやよい先生が抱き合っていました。

あるアイデアが閃きました。

ベッドから立って再びドアのところまで行き、お部屋の照明のスイッチを2段落として薄暗くしました。
それから、姿見の前に立ちます。
鏡の中に、薄暗いお部屋とパジャマを着た私の全身が映っています。
鏡の外の自分をやよい先生と思って、お互いにからだをまさぐり合う。
自分のいやらしい姿を自分の目で見ながら、オナニーしてみよう。
妄想に入り込んで目をつぶってしまうと、あの悪夢な場面を思い出してしまう確率も上がってしまいそうですが、こうして具体的に見るものがあれば、妄想もしやすいし、行為に集中できそうな気がしました。

パジャマのボタンを上からゆっくりと一つずつはずしていきます。
鏡に映っている、私のパジャマのボタンをはずす指は、私の指ではなく、やよい先生の指です。
すっかりボタンがはずされたパジャマをはだけます。
今夜はノーブラです。
二つの乳首がツンと背伸びして、上を向いています。
私は、鏡に映るそれを見ながら、右手を右のおっぱいに重ねます。
その手は、やよい先生の手です。
「あら森下さん、乳首をこんなに固くしちゃって、もう感じてるの?」
やよい先生の声が聞こえてきました。
バレエのレッスンのときと同じ口調です。

やよい先生の手のひらに包まれた私のおっぱい。
人差し指と中指の間に乳首を逃がして、ときどき、ぎゅーっと挟んできます。
「あーんっ!」
「感じやすいわねえ。えっちな子」
やよい先生は、薄く笑って右手をもみもみ動かします。
「私にも先生のおっぱいをさわらせてください」
左手を左のおっぱいにあてて、同じようにもみもみし始めます。

私は、自分の生身のからだと鏡に映った自分のからだを交互に見ながら、やよい先生との妄想の世界にすっかり入り込んでいました。
私の手は、やよい先生の手。
私のおっぱいは、やよい先生のおっぱい。
二人でさわり合いながら、どんどん気持ち良くなっていく・・・

鏡に映っている私の顔は、だんだんと紅潮してきます。
ときどき眉間にシワを寄せ、ときどきうっとりと目を閉じて、ときどき、うっ、と声が洩れるのをがまんして・・・
両内腿の間も充分すぎるほど潤ってきました。

「あなたは、あたしのことが好きなのよね?」
やよい先生が妄想の中で問いかけてきます。
「はい・・・」
「だったら、あたしの指でイくことができるはずよね?」
「・・・」
「あたしの目の前でイってみなさい」
「・・・はい」
「ほら、その余計なもの、全部脱いじゃいなさい。あたしも脱ぐから」

私は、上半身に羽織っていたパジャマから両腕を抜いて、まず上半身裸になり、鏡の正面に立ち直しました。
それから、パジャマのズボンのゴムに手をかけて、鏡の中の自分の姿を見つめながら、ショーツごとゆっくりとずり下げていきます。
薄い陰毛の生え始めが現れて、やがて両太腿の間まで露になっていきます。
潤っているアソコから少し漏れてしまったえっちなおツユが、ショーツ内側のクロッチ部分を濡らして一筋、私の裸の股間へとツーっと細い糸を引いて、その糸はショーツを下げるごとに伸びていき、膝まで下げたときにプツンと途切れました。

パジャマとショーツを両足首から抜いて、全裸になって、再び姿見の前にまっすぐ立ちます。
両腕を脇に垂らして、気をつけの姿勢です。
頭の中では、一生懸命やよい先生の全裸姿を想像しています。
鏡に映った自分の姿の、顔をやよい先生に修正します。
おっぱいを30パーセントくらい増量します。
下半身をもっとスラっとさせてみます。
やよい先生のアソコの毛、どんな形なんだろう?

「森下さん、ステキなからだよ。でも恥ずかしそうね」
やよい先生がハスキーな声で耳元にささやいてきます。
「さあ、今度は裸で抱き合いましょう・・・」


トラウマと私 18

2010年10月31日

トラウマと私 16

「姉貴もそのとき、すごくびっくりしちゃって、懐かしさもあって思わず声かけそうになったんだけど、こっちは仕事で向こうはプライベートだし、よく考えるとお互い気まずいシチュだしで、なんとか踏みとどまったんだって」
「姉貴は、さっき言ったみたいに髪型変わってて高校生の頃の面影全然無いから、百合草先生にはまったく気づかれなかったみたい」

「それで、その二人のことを仕事しながら露骨にならないように、チラチラと注目してたんだって」
「お相手の女性が本当に綺麗な人で、そのまま今すぐ女優さんになれそうなほど、それも誰が見ても清純派のね」
「その女性がかいがいしく百合草先生にお料理取ってあげたり、フォークで口元まで持っていって食べさせてあげたりしてるんだって」
「姉貴流に言うと、一見その女の人が攻めで百合草先生が受けに見えたけど、あの女の人は誘い受けね、たぶんベッドでは百合草先生が攻め、だって」

「とにかく久しぶりにすごくコーフンした、って姉貴ノリノリだった」
「姉貴も今まで何組かビアンカップル見たことあるけど、あんなにカッコ良くて美しいカップルはいなかったって、例えがヘンだけどタカラヅカみたいだったって」

「とまあそんなワケで、百合草先生はやっぱり名前の通り百合だった、っていうお話でしたー」
曽根っちがおどけてお話を締めくくりました。

「なんて言うか、ビミョーな話よね」
ユッコちゃんが腕を組んで思慮深げな顔になっています。
「百合草先生って、愛子たちにレッスンするときは、どうなの?なんかヘンなこととかするの?」
聞いてきたのは、あべちんです。
「まさかー。普通に熱心に指導してくれてるよ。別にえっちな目付きでもないよねえ?なおちゃん?」
「うん。そんなこと感じたことなかった」
そう答えながらも私は、今の曽根っちのお話に内心すごい衝撃を受けていました。
「そんなに綺麗な大人のカノジョさんがいるんでしょ?ワタシたちみたいな子供は、まったく眼中にないのよ、その先生」
しーちゃんが嬉しそうに言いました。

「ねえ、曽根っち?」
何か考え込むような顔をしていた愛ちゃんが曽根っちのほうに顔を向けました。
「今の話なんだけどさ、その、あんまり広めないようにしてくれるかな?」
「あたしは、百合草先生が女性とおつきあいしていても、今まで通り好きだし尊敬してることに変わりないんだけどさ、そういうのって、やっぱり気にする人もいると思うのよ」
「だから、ウワサになって百合草先生がお仕事し辛くなっちゃったりすると、アレでしょう?だから・・・」
私も愛ちゃんの横で、うんうん、と大きくうなずきます。
私も全面的に愛ちゃんと同じ意見でした。
「うん。わかったよ。じゃあこの話はアタシたちだけの秘密ね。もう誰にもしゃべらないね」
曽根っちがニッコリ笑って約束してくれました。

「ビアンカップルかー。なんか憧れちゃうなー」
しーちゃんは、相変わらず嬉しそうな妄想顔になっています。
「じゃあさ、レズっ子しーちゃんとしては、アタシたちの中だったら誰がいい?」
曽根っちが笑いながらしょーもないことを聞いています。
「うーん・・・この5人となら、誰とでもおっけーだけど・・・」
「この浮気娘!」
あべちんがすかさずツッコミました。
「誰か一人だったら・・・なおちゃんかなっ」
「おおーっ!」
4人の唸るような声を聞いて、なぜだか私の頬が赤くなってしまいます。
「なんで直子も頬染めてるんだよっ!」
ユッコちゃんが私の頭を軽くはたきました。
「残念でしたー。なお姫はわたしのモノよーん」
あべちんが私の背後にまわって、両手をブラウスの上から私のおっぱいに置いて、軽くモミモミしてきます。
「あーーん、いやーん」
私もワザと色っぽい声をあげます。
「キャハハハハ~」
6人の笑い声が誰もいないクラスの教室に響きました。

それから、久しぶりに6人揃って途中まで一緒に帰りました。
夏休み中にみんなで遊んだ、楽しいことをたくさんおしゃべりしながら。

お家に着く頃には、昨日までの憂鬱な気持ちは、ほとんど消えていました。
もちろん、父の実家でのイヤな出来事の記憶まで消えたわけではありませんが、今は、それよりももっとよーく考えてみたいことがありました。

いつもより早めにお風呂に入って、パジャマに着替えてホっとした夜の9時半。
私は、自分のお部屋でベッドに腰掛けて、愛ちゃんたちから聞いたお話について考えをめぐらせました。

ウチダっていう人の一件は、男の人ってやっぱりヘンな人が多いんだなあ、っていう感想で、私の男性に対する苦手意識、マイナスイメージを増幅するだけのものでした。
それに対して、あべちんたちが私にしてくれたことを思うと、やっぱり女の子同士のつながりっていいなあ、お友達っていいなあ、って再認識させてくれました。
そして、百合草先生のこと・・・
私はいつも、やよい先生、と呼んでいるので、ここから先は、そう呼ばせてください。

女性同士で恋人同士・・・
ラブホテルに二人で入っちゃう間柄・・・
レズビアン・・・

曽根っちがやよい先生のお話をしてくれている間中、私は、どきどきどきどきしていました。
やよい先生と女優さんみたいに綺麗な女性が恋人同士。
それはある意味、私が今まで漠然としたイメージで妄想していた理想に、一番近い現実でした。

あらためて考えてみると、私は、父の実家でのあの出来事を体験する前から、性的な妄想をするときのお相手を男性に想定したことがありませんでした。
愛撫されるときも、苛められるときも、痛くされるときも、命令されるときも、いつもお相手は女性でした。
それは、自分に似た声の知らない女性だったり、父の写真集で見たモデルさんだったり、えっちぽい映画で見た女優さんだったり、最近で言えばオオヌキさんだったり、そしてもちろん、やよい先生だったり・・・

私は、やよい先生に憧れています。
バレエを習うために母と訪れたお教室の受付で、初めてやよい先生を見たときから、ずっと憧れています。
今思うと、そういう気持ちをみんなは普通に、恋、と呼ぶのかもしれません。
そのやよい先生には、女性の恋人がいる・・・
単純に考えればショックを受けるはずなのに、私は逆にすごく嬉しく感じました。
だって、たぶんやよい先生も男性がキライなのでしょう。
男性といるより女性といるほうが好きなのでしょう。
私と同じなんです。

私は、やよい先生に、父の実家での出来事でいろいろグダグダ悩んだことや、それ以前の、誰かに裸を見られるのが好きだった子供の頃のこととか、父のSM写真集を見て感じてしまったこと、妄想オナニーがやめられないこと、などなど普段両親やお友達に隠している恥ずかしいこと何もかもすべて、話してしまいたくて仕方なくなっていました。
きっと、やよい先生なら、それらを全部真剣に聞いてくれて、私に一番合った答えを教えてくれるはずです。
何の根拠も無いのですが、私はそう確信していました。

レズビアン・・・

えっちなことをするお相手を女性に限定してしまえば、間違ってもあのグロテスクなモノが出てくることはありません。
だって女性は、最初から持っていないのですから。
お酒を飲んで深く眠り込んでしまっても、縛られてからだが動かせなくても、お相手が女性なら、アレで嬲られる心配は無くなります。

今ならちゃんとオナニー出来る気がしてきました。
やよい先生のことを考えていたら、からだが少しずつ興奮してきていました。


トラウマと私 17

2010年10月30日

トラウマと私 15

「それでね、さっきの昼休み、みんなでウチダのクラスの教室まで怒鳴り込みに行ってきたの」
あべちんが笑いながら教えてくれました。
「兄キとウチダはクラス違うから、兄キに、昼休みウチダのクラスに行って足止めしておくように頼んでさ。最初は兄キも元部員を裏切るみたいでイヤだ、ってごねてたんだけど、なお姫の写真見せたら、やる、ってさ」
「こんなカワイイ子に告られたのが本当だったら、ウチダが断わるわけがない、って笑ってたわ」

「3年生の教室に怒鳴り込むのは勇気要ったけど。みんなと一緒だし、何よりもみんな本気で怒ってたし」
「教室の後ろの窓際にあべちんのお兄さんがいたから、近づいていくと愛ちゃんが、あいつだっ!って大声上げて指さして」
ユッコちゃんもなんだか楽しそうに言います。

「それで、愛ちゃんがウチダの席の前で腰に両手をあてて見おろしながら、あんた自分でラブレター出してフられたクセに、自分がフったなんて言いふらすのは、どういうつもりなのよっ!って大きな声で怒鳴りつけてさあ」
「最初はウチダもヘラヘラしてしらばっくれてたんだけど、そのうち、うるせーなーとかふてくされ始めたんで、愛ちゃんが、あんたの書いたラブレター一字一句まで覚えてるわよ、なんならここでみんなに披露してあげようか?あと、なおちゃんにフられたときの状況も、って凄んだら、今度は震えだしちゃってさあ」

「3年のクラスの人たちも、最初は、なんなんだ?って感じだったんだけど、事情がわかるにつれて、女子の先輩たちから、うわーっ!ウチダ、サイテー、とか、クズだとは思ってたけどクズにもほどがある、とか声が聞こえ始めて、みんなで呆れてた」
「サッカー部の後輩に自慢したときに一緒にいたらしい友達もいて、なんだよおまえ、大嘘なのかよ?って大声上げて」
「あべちんが、わたしたちにきちんとあやまんなさいよっ!て詰め寄ったら、ウチダ、直立不動になって上半身90度曲げて、すいませんでしたーっ、だって」
「その瞬間、教室中、男子も女子も大爆笑だったよねー」
みんなが口々にそのときの状況を教えてくれました。
あの控えめなしーちゃんさえ楽しそうに笑っています。

「そんな感じで仇はとったから、なお姫も早く元気出してね」
あべちんが私の顔を覗き込むように笑いかけてきます。
「・・・ありがとう」
私は、なんだか感動していました。
ウチダっていう人のことは、まあどうでもいいのですが、愛ちゃんたちみんなが私のためにそこまでしてくれたことが、すっごく嬉しくて、ありがたくて涙が出そうでした。
それと同時に、少しだけど前向きな気持ちが戻ってきました。

「でも、ウチダ、あんなに追い込んじゃったから、なおちゃんのこと逆恨みしてストーカーになったりして」
曽根っちが冗談めかして怖いことを言います。
「へーきへーき。あいつにそんな根性ないって。ヘタレそのものって顔だったじゃん。わたしの兄キにもよく言っておくし、わたしたちが絶対に、なお姫守ってあげるよ」
あべちんが頼もしいことを言ってくれます。
「だからなお姫も、なんかあったらスグにわたしたちに相談しな、ね?」
「ありがとう、みんな・・・」
私は、本当に嬉しくて、思わずあべちんの両手を取って、強く握っていました。

「それにしても男子って、なんでそんなすぐバレるような嘘、つくのかねえ?信じられない」
とユッコちゃん。
「見栄をはるベクトルが間違ってるよねー」
と曽根っち。
「ああいうクズ男子見ちゃうとあたしも当分、ボーイフレンドとかいらないなあって思っちゃうよ」
と愛ちゃん。
「でも、男子がみんなウチダみたいなクズってわけではないよ」
と曽根っち。
「どっちにしても中学男子ってやっぱガキっぽいよねえ。わたしは、大人っぽい人がいいなあ。高校生とか」
とあべちん。
「今は、女子だけでワイワイやってるほうが全然楽しいよねー」
とユッコちゃん。
そうだよねー、ってみんなで言い合った後、しーちゃんがポツンと言いました。
「でもワタシ、女の子同士の恋愛でも、いいよ・・・」

「しーちゃんは、レズっぽいマンガもよく読んでるもんねー。でもBLも好きなんでしょ?」
あべちんがすかさずツッコミます。
「うーん、どっちかって言うと百合系のほうが好き、かなー。キレイだし、カワイイし」
しーちゃんがうっとりした感じで言いました。

「そうそう。百合系って言えばこないださあ・・・」
話を引き取ったのは曽根っちでした。

「愛ちゃんとなおちゃんの通ってるバレエスクールに百合草っていう名前の講師の人、いるでしょう?」
「うん。百合草先生は、あたしたちの担当講師だよ」
と愛ちゃん。
「あー、そうなんだ。じゃあこの話、ちょっとマズイかなあ・・・」
曽根っちは、じらすみたいに少しイジワルな言い方をします。
「えっ?なになに?すごく気になるんだけど」
愛ちゃんが曽根っちに食い下がります。
私もまっすぐ曽根っちを見つめます。

「百合草っていう先生、どんな感じの人なの?」
曽根っちが私に問いかけます。
「すっごくキレイで、プロポーションも良くて、しなやかな感じで、踊りももちろんうまくて、性格もさっぱりしていて頼りがいのあるいい先生、だよね?愛ちゃん?」
愛ちゃんも黙って大きくうなずきます。
「ふーん。なおちゃんも愛ちゃんもぞっこん、て感じだね。じゃあ、びっくりしないで聞いてね」

「アタシの姉貴、今、東京の大学に通っていてね、一人暮らししているんだけれど、夏休みに一週間くらい、こっちに帰って来ててね、そのときに聞いた話」
「姉貴も中学から高校2年まであのバレエスクールに通っててね、けっこう真剣にバレリーナ目指してたのね」
「でも今は、なんだかアニメのコスプレとかにはまっちゃってて、髪の毛ベリベリショートのツンツンにしちゃってるけど。そのほうがウイッグかぶりやすいんだって」
しーちゃんが目を輝かせます。
「今の姉貴なら、しーちゃんと話、すっごく合いそうね」
曽根っちもしーちゃんのほうを向いて、ニコっと笑いました。

「それで、もう一年くらい、渋谷にあるおしゃれ系な居酒屋さんでバイトしてるんだって」
「でも、その居酒屋さんって、ホテル街の入口にあるんだって。いわゆるラブホ街ね。だから来るお客さんもそういうカップルさんばっかりなんだって」
「お店に来たお客さん見ると、これからヤルのかヤった後なのか、たいがいわかるって豪語してたわ。あと、シロートなのかショーバイなのかも」
「ショーバイ、って?」
あべちんがおずおずと口をはさみます。
「だからつまり、お金もらってそういうことする女のことね。援交とか。そのお店で待ち合わせてホテルへ、ってパターンに使われてるみたいね」
「お客さんがみんなそんなだから、お金はけっこう使ってくれるみたいなのね。ほら、そういう場になれば男ってみんな見栄はるじゃない?ラブラブだったら終わった後、おしゃれなお店で美味しいものでも食べていくか、みたいになるし」
「高めの値段設定でもお客さん入るからバイト代はいいみたい。こっち来てるとき、アタシも誕生日プレゼントにブランドもののバッグ、買ってもらっちゃったし」
みんな興味シンシンで曽根っちのお話を聞いています。

「それで、8月の始めの頃、その日は姉貴、遅番だったんで夜の7時過ぎに出勤したんだって、ラブホ街抜けてね」
「そしたら、とあるおしゃれっぽいホテルから、女性が二人、寄り添うように出てくるのを見たんだって」
「姉貴はそのときは、後姿しか見なかったんだけど、二人ともスラっとしてて、片方の女性がもう片方の女性の腕に絡みつくみたいにぶら下がってて、ラブラブな感じだったって」
「姉貴は、へー、女性同士でこういうところ使うカップルも本当にいるんだなあ、ってヘンに感心しちゃったって。でもまあ、そんなの人の好きずきだからね。なんだかカッコイイなとも思ったって」

「それからお店に入って、仕事するためにフロアに出たら、どうもその女性カップルらしいお客さんが二人で奥のほうのテーブルに座ってたんだって」
「姉貴は後姿しか見ていないんだけれど、そのカップルのうちの一人の女性がすごく特徴のある柄の白っぽいノースリワンピを着ていたんでわかったんだって。スカートんとこの柄が同じだったって」
「向かい合わせの二人がけの席なのに隣同士で座っちゃって、からだぴったりくっつけてイチャイチャしてるんだって」
「でも、二人ともなんかスラっとしてて、モデルさんみたいでカッコイイから、いやらしい感じや下品な感じは不思議としなかった、って言ってた」
「そのお客さん、二人とも大きなサングラスをかけていたんで、気がつかなかったのだけれど、姉貴がそのテーブルにお料理を運んで行ったら、短い髪のほうの女性がサングラスはずしたんだって」

「それで、その顔見たら・・・間違いなく百合草先生だったんだって」


トラウマと私 16