2011年6月6日

しーちゃんのこと 09

毎週金曜日は、しーちゃんは美術部で勉強会の日、私は文芸部図書室受付当番の日だったので、部活が終わった後、クラスのお教室に戻って待ち合わせて、一緒に下校していました。
しーちゃんはその日、いつもより15分くらい遅れてクラスのお教室に現われました。

電車に乗って地元の駅に着くまでは、いつもの他愛も無いおしゃべりをしていたのですが、駅を出たとき、
「ちょっとお茶していこうヨ?」
って、意味あり気にしーちゃんに誘われて、駅ビルの地下の喫茶室に入りました。

「昨日サ、なおちゃんバレエだったから放課後ツマンナイし、部活に顔を出したのネ」
ウエイトレスさんが二人分の紅茶を置いて立ち去ったのを見届けてから、しーちゃんが話したくってしょうがなかった、っていうお顔で、内緒話をするみたいなヒソヒソ声で切り出しました。

「昨日は自由参加の日だから、美術室には二年の先輩3人と三年の先輩2人だけがいて、ワタシはコンピューターグラフィックを練習しようと思っていたのネ」
「先輩たちは、その日は絵とかは描いてなくて、ソファーや椅子に座って、ただおしゃべりしてたみたいだったの」
「その一週間くらい前にコンピューターを教えてくれた二年生の先輩、ニノミヤ先輩っていうんだけど、その先輩もいたからラッキーって思って、その先輩の隣に座ったのネ」
「でも、みんなまったりおしゃべりしてるから、コンピューター起動するのもKYかなと思って、しばらく一緒におしゃべりしていたのネ」
しーちゃんは、ずーっと声をひそめたまま、思わせぶりにつづけます。

「おしゃべりが一段落したとき、三年生の先輩の一人が、今日はしのぶちゃんも来たから、あ、ワタシ先輩たちからしのぶちゃんって呼ばれてるのネ」
しーちゃんが少し照れたお顔をしました。
「今日はしのぶちゃんも来たから、久しぶりにクロッキー、やろうか?って言い出したのネ」
「クロッキーっていうのは、人とか人形とかモデルを見ながら、スケッチを短時間でやるやつ。線画みたいな感じで単色で、濃淡で質感出したり、っていうスケッチ」
「ちなみに、時間かけてやるのは、デッサン、ネ」
「そう言ったとき、その三年の先輩がニノミヤ先輩のほうを見て、ニッって笑ったような気がしたの。ワタシの隣のニノミヤ先輩もなんだかモジモジし始めて」
しーちゃんがティカップに唇をつけて、またソーサーに戻しました。

「先輩たちが座っていたソファーから立って、そのソファーをフロアの中央に運んだり、ドアの鍵を閉めたりカーテン引いたりし始めたのネ。ワタシ、何が始まるのか、と思ったヨ」
「しのぶちゃん、スケッチブック持ってきた?って聞かれたから、いえ、今日はCGやろうかと思っていたんで・・・って言いながらニノミヤ先輩のほう向いたら、ニノミヤ先輩は席を立って、ソファーのほうに行ってた」
「二年の先輩が、じゃあこれあげる。入部記念に特別よ。ってロッカーから真新しいクロッキー帳を出してきて、笑顔で手渡してくれた。あとエンピツも」
「ロッカーのほうに行ってたワタシがそれらをもらって、元の場所のほうへ戻ろうと振り返ったら・・・」
そこでしーちゃんが言葉を止め、私の顔をまじまじと見つめてきました。
私もしーちゃんを見つめ返します。

「振り返ったら、ソファーの前でニノミヤ先輩がスルスルって、制服、脱ぎ始めてたの」
「えーーっ!」
私は、思わず大きめの声を出しながら前屈みになっていた背中を起こしてしまい、あわてて口を手で押さえ、また背中を丸めてテーブル越しにしーちゃんと見つめ合います。

「ベスト取って、ネクタイ抜いて、ブラウス脱いで、ブラジャー取って、上履き脱いで、ソックスも脱いで、スカート脱いで、パンツも脱いで、一糸まとわぬオールヌード・・・蛍光灯全開ですんごーく明るい夕方の美術室でだヨ」
「ニノミヤ先輩、けっこうサバサバ脱いでるようだったんだけど、顔を見るとやっぱりすごーく恥ずかしそうなのネ。頬が薄っすら赤くなっちゃって、でも脱いだ服を裸のまま丁寧にたたんだりして、余裕があるような、やっぱり恥ずかしがっているような・・・」

「ニノミヤ先輩が脱いでいる間、他の先輩たちは腕組みとかしてじーーーっとそれを見てるの。服を脱いでいくのを」
「こっちにお尻を向けて服をたたんでたニノミヤ先輩がたたみ終わったらしくこっちを向いて、ポーズをつけるみたいに私たちの前にスクッと立ったの。右手でバストを隠して、左手をアソコの前に置いて・・・ほら、ヴィーナスの誕生、みたいなポーズ」

「それが、すごーーーーーっくキレイなの!」
「ニノミヤ先輩、スタイルすんごくいいの。バストはそんな大きくないけど形が良くって、ウエストはキュッってくびれてて、キレイな髪が裸の肩にフワリと垂れて・・・」
「肌も滑らかそうな、白いとかそういうんじゃなくて、本当の肌色って言うか、薄桃色みたいな感じで、ツヤがあって」
しーちゃんが私を見つめてきます。

「三年の先輩が大きなクッションを2つ持ってきて、今日はしのぶちゃん初めてだから、基本っていうことでマヤで行こうか、なんて言いながらクッションをソファーの上と下に置いたのネ」
「そしたらニノミヤ先輩、裸のままソファーの下のクッションにお尻ついて、背中をもう一個のクッションの上に乗せて、両腕を枕にするように上にあげて、両腋の下全開で・・・」
「なおちゃん、裸のマヤっていう絵知ってるでしょ?スペイン語読みだとマハだったっけかナ。ググッたらすぐ出てくるヨ。その絵のポーズでソファーにもたれたの」

「しのぶちゃんは、このへんで描いてって、椅子を置かれたのがニノミヤ先輩の下半身の前あたりでサ。2メートルくらいの距離があるんだけど、ニノミヤ先輩、頬や首筋がピンク色に上気して、目も少し潤んでるみたいで・・・」
「じゃあ、15分ね。あの時計で4時25分まで。クロッキー、スタート!って三年の先輩が言って、みんな真剣に描き始めたの」
「ワタシも描き始めたヨ。昔、絵画教室でクロッキーやってたから慣れてたし」

「でもネ・・・」
しーちゃんがまた、ティーカップに手を伸ばしました。
私は、お話に引き込まれてしまい、動くこともできません。

「ワタシの位置からだと、ニノミヤ先輩のアソコが至近距離でモロ、なのネ。ニノミヤ先輩の毛、アソコのネ、も薄くてチョロチョロなの。左膝を少し曲げ気味にしてたから。あの、なんて言うか、スジまで丸見えなのネ」
「ニノミヤ先輩の頬はさっきより上気しているし、恥ずかしいんだろうナーって思ったら、ワタシも恥ずかしくなってきて・・・」
お話している、しーちゃんの頬もピンクに上気していました。

「描きながらずーっとドキドキしっぱなしで、思うようにエンピツが動かなくて・・・」
「それで、ときどきニノミヤ先輩がワタシのほうにかすかな目線をくれるのネ。それで目が合うと、本当にかすかに、笑いかけてくれてるような気がして、それでドキドキがゾクゾクッていう感じになっちゃって・・・」
「それで結局、15分で輪郭くらいしか描けなかったヨ」
しーちゃんが、ここまででお話一段落、みたいな感じで背中を起こしました。
私もつられて背中を起こします。

しばらく無言で見つめ合ってから、またしーちゃんが身を乗り出しました。
すかさず私もつづきます。

「先輩たちがワタシのクロッキー帳取り上げてサ、なーんだ、まだぜんぜん描けてないじゃなーい、なんて、からかうように言ってくるのネ。たぶん本当にワタシ、からかわれているんだと思うんだけどネ」
「それで、その輪にニノミヤ先輩も裸のまんま加わってるの。笑顔浮かべて、ワタシの背後でキレイなバスト、プルプル揺らして・・・」
「三年の先輩が、しのぶちゃんのがぜんぜん未完成だから、今度またこの6人が集まったら、つづきをやりまーす。って宣言して、そのクロッキー大会は終わったんだけどネ」

「それでネ、みんなでソファーとか片付け始めたんだけど、ニノミヤ先輩ったら、なかなか服着ないの。裸のまんまソファー運んだリ、他の先輩とおしゃべりしたり」
「ワタシのところにも来て、CGはまた今度、教えてあげるわね、なんて恥ずかしそうな笑顔で言われて」
「ワタシ、思わず言っちゃった。先輩のハダカ、すごーくキレイですね、って。だって本当にキレイだと思ったから」
「そしたら、アリガト、次が楽しみね、だって。なんだかとっても嬉し恥ずかし、って感じだった・・・」

「・・・ねえ、なおちゃん、どう思う?」

どう思う、って聞かれても・・・
私の頭の中は、しーちゃんのショーゲキの報告に大混乱していました。

まず、まだ普通に生徒たちがいる学校の一室で、正当な理由で全裸になって、みんなに裸を見てもらえる部活動がある、っていうのがショーゲキでした。
美術部ならば確かに、裸婦画っていうのは一つの芸術のジャンルですから、そのモデルを一生徒がやっても問題は無いのかもしれません。
でも、鍵をかけているところをみると、やっぱり先生たちには内緒のアソビなのかしら?
その裸を他の人たちがちゃんと真剣にスケッチしている、っていうのも、芸術家としては当然なのでしょうが、事情を知らない人から見ると、なかなかにシュールでエロい光景に思えます。
写真部とかでも、やってたりして・・・

女子校だから、っていうも大きいのかな、とも思いました。
私たちのクラスでも、6月になってムシ暑くなってきたので、授業中にネクタイを緩めて、胸元のボタンも3つくらい開けて、ブラをチラチラ見せながらアチーーとか言っている豪快なクラスメイトが何人かいました。
先生もそれに関して、とくに注意とかしないんです。
休み時間にスカートをバサバサやって涼を取り、可愛いショーツを見せびらかせている、たぶん本人にそんなつもりはないのでしょうが、人がいたり、体育の着替えのとき、あっけらかんとおっぱい丸出しで普通のブラからスポーツブラに着替える人がいたり。

男性の目が無い、女性同士なら別に下着を見られようが裸を見られようが恥ずかしくない、っていう油断と安心感は、やっぱり女子校だと強いんだと思います。

でも、今しーちゃんから聞いたニノミヤ先輩のお話は、それだけでは説明できないショーゲキでした。
絶対、ニノミヤ先輩は、みんなの前で裸になることを楽しんでいるはずです。
すっごく恥ずかしいのに、楽しんでいるはずです。
そして私はそれを、心底うらやましいと思っていました。

「どう、って言われても・・・」
私は、慎重に言葉を選んで答えようとしましたが、うまく言葉がみつかりません。
仕方が無いので、ごまかすようにしーちゃんに聞きました。
「そのニノミヤ先輩っていう人は、どんな感じの人なの?」
「うんとネー、オトナっぽい感じで、背が高くて、髪は肩くらいまでのサラサラで顔が小さくて、プロポーション抜群で・・・」
「そうだっ!前に言わなかったっけ?憶えてない?春になおちゃんと部活見学行ったとき、ワタシが、なおちゃんにどことなく雰囲気が似てる人がいたネー、って言ったでしょ?あの人だヨ」


しーちゃんのこと 10

2011年6月5日

しーちゃんのこと 08

「ねえねえ、なおちゃん、中川さん。もう部活決めた?」
入学式から二週間ほどたったある日のお昼休み、しーちゃんが私の席まで来て、聞いてきました。
私は、お隣の席の中川ありささんとおしゃべりをしていました。

中川さんとは、すでにすっかり仲良しになっていました。
背は小さめだけど元気一杯で、いつもニコニコしている人なつっこい中川さんは、お話しているだけでこちらにも元気がもらえるようなポジティブまっすぐな女の子でした。
「あたしは、演劇部に決めたんだ」
中川さんがしーちゃんに答えます。
しーちゃんと中川さんもすでに仲良しさんになっていました。

「わたしは、軽音部に入ってバンド組むつもり」
しーちゃんの後ろからこちらへやって来たのは、しーちゃんのお隣の席の友田有希さん。
背が高くてストレートのロングヘアーでからだの発育もいい、なんだかカッコイイ感じの女の子です。
しーちゃんとアニソンのお話で盛り上がり、たちまち意気投合したんだそうです。
そして、ステキな偶然もあるもので、中川さんと友田さんは、同じ中学出身なお友達同士でした。

「アタシもまだ決めてないんだよねー」
会話に混ざってきたのは、私の後ろの席の山科洋子さん。
なんだか色っぽい感じのウルフカットでスレンダーな美人さん。
私とは違うバレエ教室に通っているそうで、もちろんバレエのお話がきっかけでお友達になれました。

私たちのクラスには、派手に髪を染めていたり、極端に短かいスカートを穿いてくるような、いわゆるギャルっぽい人は一人もいなくて、なんだかみんないい人っぽい、おだやかな感じの女の子ばかりでした。
この学校の制服のデザインだと、短かいスカートは絶対合わないのは誰の目にも明らかなので、そうい人は最初からこの学校に来ないのでしょうけど。
さすが、まわりからお嬢様学校、と思われているだけあって、なんとなくお上品というか、マイペースな感じの人ばかりみたい。
私には、とても居心地のいい雰囲気でした。

そんなクラスで早くもお友達になれた3人としーちゃんとで、しばらく部活のことについておしゃべりしました。
「ワタシ、美術部にするかマンガ研究会にするか、迷ってるんだよネー」
しーちゃんが言うには、マン研は、すでに部員がいっぱいいて活気がある感じなんだけれど、なんだかみんな理屈っぽそうな雰囲気がしたんだそうです。
それに較べて美術部は、先輩がたがみんな落ち着いた感じで、人数も少なくて、逆に言うとちょっと暗い感じ。
「お姉ちゃんに聞いたら、私には美術部のほうが合っている、ってニヤニヤしながら言うんだよネー。どういう意味なんだろう?」
しーちゃんのお姉さんは、三年生に進級して、生徒会会長になっていました。
BL大好きな、フジョシな生徒会長さん、です。

「森下さんは、バレエ習ってるんだから、新体操部とかダンス部とか、いいんじゃない?」
山科さんが聞いてきます。
「うーん・・・そう言う山科さんは、そういうところへ入るつもりなの?」
「アタシは、体育会系はパスかなあ・・・バレエ教室で充分て言うか・・・部活になっちゃうとしんどそうだし、教えてくれる先生によって指導も違いそうだし」
「そうでしょ?私も同じ気持ちなの。だから文芸部に入ろうかなあって思ってる」
「うちは全員、何かしら部活に入らなきゃいけない決まりだからねえ。アタシも演劇部にでも入ろうかなあ・・・」
「あ、それいいよ。あたしと一緒に演劇やろう。山科さんなら舞台栄えしそー。男装の麗人とか」
「何それ?アタシのおっぱいが男子並、って言いたいの?」
「いやいやいや、そーじゃなくてー」
中川さんが嬉しそうに山科さんの手を引っぱりました。

「なおちゃんは、中学のとき、ずーっと図書委員だったんだヨ。すっごくたくさん本読んでるの」
しーちゃんがみんなに説明しています。
しーちゃんも、一対一じゃなくても普通にみんなの会話に混ざるように努力しているようでした。

この高校には、図書委員っていう制度は無くて、図書室の運営や管理をしているのは文芸部なのだそうです。
入学した次の日に訪れた図書室はとても立派で、まだ読んでいない本がたくさんあったので、高校でもまた図書委員に立候補しようと思っていたのですが、そのことを聞いたので、文芸部しか考えられなくなっていました。
部活見学で再度訪れて説明を聞いたら、読むだけではなく、小説やエッセイを執筆して機関誌の発行とかもするようで、小学校の頃から一応日記みたいなものを書いていた私は、ますます興味を惹かれました。
ちゃんとした文章の作法とかも勉強できそうだし。

「なおちゃんがエッセイ書いたら、ワタシがイラスト付けてあげるヨ」
しーちゃんがニッって笑いかけてくれます。
そんな感じでお昼休みの間中、ガヤガヤとおしゃべりしました。

「ねえ、なおちゃん。ワタシ、もう一回美術部見学に行くから、なおちゃん、つきあってくれない?」
その日の放課後、しーちゃんと一緒に帰ろうとしたとき、しーちゃんが言いました。
「いいよ」
私は、軽い気持ちで引き受けて、二人で3階の美術室を訪れました。

3階校舎のはずれにある美術室は、普段並んでいる椅子や机がきれいに片付けられ、広いフロアにイーゼルが7台、みんな思い思いの方向に向けられて立っていて、その前で7人の部員さんたちが、真剣な面持ちでキャンバスに絵筆を滑らせていました。
「あっ、いらっしゃい。えーっと確か藤原さん、だったっけ?どう?決心はついた?」
先輩らしき一人がキャンバスから顔を上げて、こちらに声をかけてきました。
髪の長い、落ち着いた感じのオトナっぽいキレイな人でした。
「あっ、はいっ。まあだいたいは・・・」
しーちゃんが緊張した声で答えています。
「そちらは?」
「あっ、彼女はワタシのお友達で、彼女は文芸部に入る予定なので、付き添いです」
「そう。ゆっくりしていってね」
その人が私を見つめて、ニッコリ笑ってくれました。
「今日は、自由参加の日だから、今描いているのはみんな好き好きの自由な個人作品なの。部全体での課題勉強会は水曜日と金曜日だけ。その他の日は来ても来なくてもいいし、自由参加の日は、こうして自分の作品を描いててもいいし、そこのソファーでおしゃべりしててもいいわ。結構ラクな部活よ」
しーちゃんのほうを向いてそれだけ言うと、その人はまた顔をキャンバスに向けて、自分の作品に戻りました。

私としーちゃんは、なるべく迷惑にならないようにそーっと歩いて、それぞれの絵を描いている先輩がたの背後に回り、それぞれの作品を見せていただきました。
私たちが近寄っていくと、みんなお顔をこちらに向けて、ニコっと会釈してくれます。
私には、絵の上手下手はまったくわかりませんが、みなさん上手いように思えました。

木目の綺麗な壁で囲まれたシックな感じの美術室には、油絵の具の香りがただよい、レースのカーテンがひかれた西側の窓から春の夕方の陽射しがやわらかく射し込み、しんと静まりかえった中に時折サラサラと絵筆が滑る音・・・
みんな耳にイヤフォンをしているということは、思い思いに好きな音楽を聴きながら、絵を描いているのでしょう。
7人の先輩がたは、みんな真剣で、オトナな感じで、カッコイイと思いました。

「コンピューターでの絵の描き方も教えてくれるって言うし、美術部に決めちゃおうかナ」
見学を終えて、しーちゃんと帰宅する道すがら、しーちゃんがウキウキした感じで言いました。
しーちゃんも高校進学のお祝いにパソコンを買ってもらったそうです。
「先輩たちみんな、カッコイイ感じだったね。決めちゃえば?」
「中に一人、すごーく雰囲気のある、オトナっぽい感じの人、いたでしょ?」
「えーっと、みんなオトナっぽく見えたけど・・・」
「一番背が高くて、抽象画を描いていた人。あのひと雰囲気がどことなくなおちゃんに似てたヨ」
「へー。どの人だろう?」
私は、全然覚えていませんでした。

結局、私は文芸部、しーちゃんは美術部、中川さんと山科さんは演劇部、友田さんは軽音部に入部しました。

部活とバレエ教室以外の日は早めに帰宅してパソコンのお勉強をし、そうしている間に初めての中間試験を迎え、という具合に4月と5月があわただしく過ぎていきました。

5月の連休までには、パソコンのだいたいの操作を覚えた私は、連休初日にいよいよインターネットのえっちサイトデビューを果たしました。
最初に訪れたのは、相原さんのお家で見せてもらったえっちな告白サイト。
サイトの名前を覚えていたので、検索エンジンで検索するとすぐ見つかり、貪るように思う存分読み耽りました。
その後は、画像探しの旅です。
いろいろ検索して、いきなり無修正の男の人のアレ画像が出てきて、あわててパソコンの電源コード抜いちゃうようなこともありましたが、夜な夜なのえっちなネットサーフィンは、私の妄想オナニーの頼もしいオカズ元になっていました。

そんなこんなで迎えた6月初旬の金曜日。
しーちゃんと二人で帰宅する途中に立ち寄った喫茶店で、しーちゃんからスゴイお話を聞かされました。


しーちゃんのこと 09

2011年6月4日

しーちゃんのこと 07

高校へ進むのを機会に、心に決めていたことがありました。
念願だった女子校にも進めたことだし、今までの自分の性格を少し意識して変えてみよう、と。
なるべく明るくふるまうようにして、積極的に知らない人とも接するようにして、たくさんお友達を作って、たくさん楽しいことが出来るといいな、と。

もちろん中学での三年間でも、楽しいことはたくさんありました。
でも、入学時にこの地域に転居してきた関係で、知っている人がクラスに一人もいなかったこともあり、なんとなく人間関係全般で受け身な立場に慣れてしまい、愛ちゃんたちと仲良くなった後でも、なんだかいつも、みんなに引っぱってもらっているような感じをずーっとひきずっていました。
それに加えて、中二の夏休みに受けたトラウマ・・・
自分の内向きがちな性格とも相まって、中学での三年間は、自分から何かをする、ということがほとんど無かった気がしていました。
それを変えたいと思ったんです。

今度進む高校は、いろんな地域から生徒が集まりますから、みんな最初は知らない同士です。
今までの私を知っている人は、たぶんしーちゃんだけ。
それまでの人間関係が一度リセットされる進学は、自分の内向きがちなキャラを変える絶好のチャンスだと思ったんです。

卒業式の後で私はしーちゃんに、そんな自分の決意を告げました。
「それ、わかる気がする。ワタシもなおちゃんと同じようなことを考えてたヨ。ワタシももう少し社交的にならなきゃナー、って」
しーちゃんがニッコリ賛同してくれました。
「それに、新しい学校でまったくみんな知らない人ばっかだったら、やっぱりちょっと身構えちゃうけど、なおちゃんも一緒だしネ。もしも同じクラスになれなくても、同じ学内ならいつでも会えるし」
「ワタシもいろいろと、高校デビューしちゃうつもりだヨ」
しーちゃんも、まだ見ぬ女子高生活にすっごくワクワクしているようでした。
「でもやっぱり、なおちゃんと一緒のクラスになれるといいナー」
それは、私も同じ気持ちでした。

私が住んでいる町の最寄りの駅からターミナル駅を超えて5つめの駅に、その女子高校はありました。
初めての電車通学です。
入学式の朝、車で送ると言ってくれる母の申し出を断って、しーちゃんと駅で待ち合わせ、一緒に学校に向かいました。
朝の電車は混むし、痴漢とかのことも聞いていたので、女性専用車両に乗り込みました。
想像していたより全然、電車内は混んでいなくて、これなら別に無理して女性専用車両に乗らなくてもいいみたい。

私としーちゃんは、もちろん同じデザインの制服を着ています。
濃いめのグレーのブレザーに同じ色の膝丈スカート。
ブレザーの下には、ブレザーと同じ色で、ショルダーラインの幅が広く、両脇が大きく開いた、ちょうど和服の裃みたいなデザインのベスト。
その下には、白のブラウスに紺色のネクタイ。
全体的に直線の多いシャープなデザインで、なんだかオトナっぽくって、私は一目でこの制服をすっごく気に入っていました。
この制服が着たかった、っていうのもこの学校を選んだ大きな要因でした。
ショートヘアのしーちゃんが着ると、西洋の美少年お坊ちゃまみたいで、それはそれですっごく似合っていました。

校舎は、駅を出てから商店街、住宅街を10分くらい歩いて、周囲に田園風景が広がり始めるのどかな一角にありました。
昭和の戦争のずっと前からあったというその女子高は、さすがに時代を感じさせる厳かな雰囲気の校門とクラシカルながら立派な校舎。
受験のときは、ちらほらと雪が舞っていた畑沿いの道も、今日は、両脇に植えてある何本もの桜の木に、キレイなピンクの花びらが満開でした。

校門をくぐり、クラス分けが載っているプリントを受付でもらいました。
「やったヨー、なおちゃん!おんなじクラスだヨ!」
しーちゃんが大きな声をあげて私に飛びついてきました。
「よかったー。しーちゃん、また一年、よろしくねー」
私もすっごく嬉しくて、しーちゃんと抱き合って喜びました。

一年A組。
入学式を終え、クラスのお教室に入ると、私たちはとりあえず出席番号順に並んで着席させられました。
一クラス32名、全員女子。
なんだかホッとしてしまいます。

順番に短かく自己紹介をしていきました。
もしも知っている顔が誰もいない一人ぼっちの状態でしたらドキドキの瞬間ですが、私の3つ前の席にしーちゃんがいると思うと、ずいぶん気がラクになって、スラスラと自己紹介できました。
イイ感じです。
この調子でお隣の人にも声をかけてみようか・・・
担任となった30代くらいの女性の先生のお話が終わって解散になったとき、そう考えて右隣に顔を向けたら、
「森下直子さん、だったっけ?あたし、ナカガワアリサ、よろしくね?」
その人のほうから声をかけてきました。
肩くらいまでの髪を真ん中で分けて、左右を短くおさげにした人なつっこそうなカワイイお顔がニコニコ私を見つめていました。
「あ、はいっ。こちらこそよろしくですっ!」
私も精一杯明るい笑顔でごあいさつしました。
ナカガワさんは、なおいっそうやさしげな笑みになって、右手を小さく左右に振りながら、ご自分のお友達らしい人のところへゆっくりと歩いていきました。

早速お友達が出来そうです。
しーちゃんとも一緒のクラスになれたし、今のところ最高な滑り出し。
そんなふうに、私の高校生活が始まりました。

高校進学と前後して、我が家にも大きな変化がいくつかありました。

一つは、ハウスキーパーの篠原さん親娘が、我が家の二階で同居することになったこと。
それまで篠原さんが住んでいたマンションが更新になるのを機に、いっそのこと住み込みで働いたら?、という父の提案でした。
これ以上ご迷惑はかけられない、と篠原さんはずいぶんご遠慮されたそうですが、篠原さんのことをすっごく気に入っている母がモーレツに説得したようです。
家賃がもったいないし、我が家の二階には使っていないお部屋がいくつもあるし、私の受験も終わるし、ともちゃんも大きくなったし・・・
それまで、篠原さんが来られない日には、日中をずっと一人で過ごしていて、大いにヒマをもてあましていたらしい母の熱心な説得に篠原さんも恐縮しつつもうなずいてくれて、四月の中旬にお引越ししてきました。

もちろん私も大歓迎です。
篠原さんは、優しくて優雅でキレイで大好きですし、小学校二年生になったともちゃんは、私にとても懐いてくれていて、ちっちゃいからだでニコニコしてて本当に可愛らしくて、ずっと長い間、妹が欲しかった私は大喜び。
これからいつでも、お家に帰るとともちゃんがいて、一緒に遊んだり、お風呂に入ったりできるんだ、と思うと知らず知らず、顔がほころんでしまいます。

我が家の二階の改装は、私の受験が終わった2月下旬から始まっていました。
一階に、篠原さん宅専用の玄関を設けて、我が家の玄関を通らなくても篠原さん宅に入れるようにして、二階のお部屋も、篠原さんのほうからは、棟つづきの私のお部屋のほうには来れないようにすることになっていました。
「親しき仲にも礼儀あり、でしょ?篠原さんたちが気兼ねなくくつろげるように、お仕事以外のプライベートでは、お互いのプライバシーが完全に守れるようにしましょう」
という母の提案でした。
そのため、二階にもお風呂場やキッチンを増設したり、篠原さん宅用玄関からつづく階段を新たに加えたり、と大々的な改装工事となって、完成が予定より一週間ほど遅れてしまいました。

私がちょっぴり不安だったのは、お部屋でオナニーするときの声・・・
今までは、二階には誰もいなかったけれど、これからは篠原さん親娘がお部屋一つと壁を挟んだ向こう側にいつもいることになります。
もちろん今までも声はなるべく押し殺すようにしていたので、あまり気にすることもないとは思うのですが・・・

もう一つの変化は、パソコン一式と携帯電話を買ってもらったこと。
とくにパソコンは、中三のとき、相原さんのお家でさわらせてもらって以来、欲しいなあ、と思っていたものなので、すっごく嬉しかった。

高校の入学式が迫った日曜日の昼下がり。
めずらしく父と二人で、車でおでかけしました。
画面が大きめのノートタイプのパソコンとプリンター、その他を父が選んでくれて、お家に戻ると、設置も全部父がやってくれました。
「ほれ。これで一応インターネットの接続もプリンターも全部動くから。あとはこの本をよく読んで、自分で覚えなさい。なあに、直子ならすぐに使いこなせるようになるさ」
言いながら父は、分厚い本を3冊、私に手渡してくれました。
「タイピングの基本とワープロと表計算、それくらいをまず覚えればいいから」
父はなんだか嬉しそうに笑うと、私の肩を軽くポンッて叩いてお部屋から出て行きました。

パソコンを使いこなせるようになれば、あの日相原さんのお部屋で見たえっちなホームページとかも自由に見ることができる・・・
私は、早速その夜から、熱心にパソコン操作のお勉強を始めました。


しーちゃんのこと 08