2014年3月30日

コートを脱いで昼食を 29

「ハーイ、マゾッコナオチャン。ワタシ、セクシーデスカ?」
 シーナさまったら、シルヴィアさんになんていう日本語を教えているんだか。
 桜子さまのお道具が置いてあるテーブルのすぐそばまでやって来たシルヴィアさんは、ピルエットぽく、その場でクルッと綺麗に一回転されました。
 ドレスの裾がフワッと舞い上がり、深いスリットが大きく割れて、白くて張りのある両太腿の大部分が露になりました。

 間近で見ると本当に肌が綺麗。
 大きく開いたホルターネックから零れ落ちそうに覗いている真っ白な胸元のふくらみに淡く青い血管が浮いていて、眩暈しそうなほどに艶かしい。
 光沢のあるブルーの生地はずいぶん薄いらしく、シルヴィアさんの豊満なバストの先っちょが2つ、クッキリと浮き上がっています。
 キュッとくびれたウエストに手をあててポーズをとるシルヴィアさんの全身からほとばしるセクシーフェロモンにクラクラしながら、
「と、とてもステキです・・・」
 美しいお顔を見上げて、そう答えるのが精一杯でした。

 そうしているあいだに、再び試着室前から賑やかな嬌声が聞こえてきました。
 エレナさんも着替えを終えて、シーナさまとおふたりで盛り上がっているご様子。
 試着室のカーテン前でポーズを取るエレナさんは、真っ赤なチャイナ風のミニドレス姿でした。
 おふたりでひとしきり騒いだ後、エレナさんもシルヴィアさんと同じように、気取ったモデルウォークで嬉しそうに近づいてきました。

 からだの線がバッチリ分かるボディコンシャスなドレスは、胸元のところが大胆にハート型にくり抜かれていて、バストの谷間の大部分がクッキリ丸見え。
 バストトップもこれ見よがしにポチポチ。
 ハートの形の一番下からドレスの裾へとジッパーが一直線につづいているフロントジップアップなので、もしもそのジッパーを一気に下ろされちゃったら・・・
 チャイナドレス風ですから、首周りや袖部分はしっかり覆われているまま、バストから下全部が無防備な状態になっちゃうはず。
 そんな姿を想像をしたら、ゾクッとアソコが震えちゃいました。
 
 クルッと廻ると背中もⅤ字に大きく空いています。
 膝上20センチ以上ありそうな超ミニなのに、ご丁寧に脇にスリットも入っています。
 下着が見えないからノーパン?
 スラッと伸びた細い脚がすっごく綺麗。
 シルヴィアさんほどグラマラスではないエレナさんですが、スレンダーなからだつきにドレスのシルエットが見事にフィットしていて、色っぽさではまったく負けていません。
 コケティッシュ、って、こういう人を形容する言葉なんだろうなあ、なんて考えていました。

「うわーっ!なんだかうちのお店の中、ずいぶんナマメカシクなっちゃたわねえ!」
 試着のお客様のお会計を終えて戻ってきた純さまが、苦笑いを浮かべつつ、大きな声で冗談ぽくおっしゃいました。

 試着のお客様もショッパーを肩に、純さまと一緒に戻ってきました。
 セクシードレスのシルヴィアさんとエレナさん、そして私をまっすぐに見つめてくるそのまなざしが、好奇心で爛々と輝いています。
 なぜだかこんなところでほぼ素ッ裸になっている同年代くらいのヘンタイ女と、陽気なセクシー外国人さんおふたりとのなりゆきに興味津々なご様子で、驚嘆と軽蔑が入り混じったような、マゾの私にとってはすっごくズキンと来る、絶妙な笑顔を浮かべていました。

「こういうキャバドレスって、夜のお店の中でなら気にならないけれど、昼間の明るい光の中で見ると非日常感が強過ぎて、露骨にインビな感じよね?」
 エレナさんを追って戻ってきたシーナさまが、ニヤニヤ笑いで純さまに問いかけました。
「まあ、シルヴィアたちみたいな洋風の美形が着れば、それなりにサマにはなるけれど、でもやっぱりちょっと、スケベな刺激が強すぎるって言うか、着ていないのと同じって言うか・・・」
 純さまも笑いながら同意しています。
「でも、それよりももっと破廉恥な格好をした子も、なぜだかここにいるけれどね」
 シーナさまが私を見て、それから試着のお客様に同意を求めるように微笑みかけました。

 試着のお客様は、薄い笑いを口許に浮かべつつ無遠慮に私を眺め、小さくコクコクうなずきました。
 シルヴィアさんとエレナさんは、座っている私の両脇に立ち、BGMのヒップホップに軽くからだを揺らしながら、妖艶な笑みを浮かべて私を見下ろしています。
 私はと言えば、あまりの恥ずかしさで消え入りそう。

「あら?スキンアート、終わったのね。ステキじゃない!イイ感じ。桜子さん、さすがだわ」
 シーナさまが、今気がついた、という感じで少しワザとらしくおっしゃり、愉しそうに私に近づいてきて、腰を屈めて私のおっぱいを覗き込みました。
「ずいぶんオシャレに仕上がるのね。ほんと、アートって感じだわ」
「はい。ワタシ的にも満足出来る出来栄えですね」
 桜子さまもしばし私のおっぱいをじっと見つめ、それから私の顔に視線を移しました。
 私が伏目がちに見つめ返すと、桜子さまがニッと笑い返してから、シーナさまに向き直りました。

「それで、染料が乾くのを待つ間、サービスで蝶々のシールを貼ってあげる、ってナオに言ったんです。そしたら彼女たちが出てきて騒がしくなっちゃって・・・」
 桜子さまがシルヴィアさんたちに愛想よく微笑みかけてサムアップすると、おふたりはキャーキャー喜びました。
「そうなの?それならお言葉に甘えて、やってもらいなさいよ、直子。シールは、どこに貼るのがいいかしら?」
「やっぱり下半身じゃないですか?バランス的に。下着で隠れる場所に、っていうご指定でしたし」
「そうね。お花のあるところに蝶々はつきものだし」
「それでさっきナオに、前か後ろかどっちがいい?って聞いたところです」

 桜子さまのお言葉にシーナさまと純さま、そして試着のお客様の3人が一瞬、互いにすばやく目配せと言うか、アイコンタクトをされたように見えました。
 お3人のお顔が、面白くなってきたぞ、って書いてあるみたいに、みるみる愉しそうにほころび、じっと私のからだを見つめてきます。
「そうだったの。それで直子は、どっちにしてもらいたいの?」
 シーナさまが、私に注がれている好奇の視線の意味を、その場を代表するようにお言葉にされました。

 前、と言うと、アソコの周辺、土手のあたりに貼られることになるでしょう。
 そこに貼るためには、私のアソコ周辺に桜子さまが目一杯お顔を近づけてくることになります。
 そしてソコを、指でスリスリ愛撫されることになるでしょう。
 考えただけでゾクゾクします。
 すごくやって欲しいけれど、すっごく恥ずかしい・・・
 みなさまが見ている前で、いやらしい声が出ちゃったら、身悶えしちゃったらどうしよう・・・
 それに、桜子さまのお顔が近づけば、すでにお役目を果たしていないタンポンから溢れちゃった蜜の匂いまで嗅がれてしまうかも・・・

 後ろ、と答えれば、お尻。
 それなら私は桜子さまに背を向けることになります。
 桜子さまのお顔も見えないから、さほど恥ずかしくないし、お尻への愛撫なら声もガマン出来そう・・・
 お尻のほうが気が楽みたいかな・・・

「えっと、それではお尻に・・・」
 桜子さまにそう告げると、桜子さまのお顔が一瞬ほころび、すぐに、ふーん、てイジワルそうな笑顔に変わりました。

「本当にお尻でいいの?」
「えっ?あ、はい」
「ほんとにほんとにいいのね?」
「えっと・・・はい」
「後悔しない?」
「えっと・・・」
 桜子さまったら、何をおっしゃりたいのだろう?
 何か企みがあるのかな?
 お顔がとっても嬉しそう。

「ナオのお尻にシールを貼るなら、ナオには立ち上がってもらわなきゃならないわよね?」
「あ、はい・・・」
「それで、ナオにこの場で後ろ向きになってもらうことになるわよね?」
「・・・はい」
「その椅子の背もたれの向こうがどうなっているのか、わかっていて言っているのよね?」
「えっ?」
 したり顔な桜子さまのお言葉に、シーナさまたちも私の背後を見据えて、一斉にニヤッと笑いました。

「直子、そのままの姿勢でちょっと後ろ、振り向いてごらんなさい?」
 シーナさまに言われ、首だけ後ろに捻じ曲げて、籐椅子の背もたれの陰から顔を出してみます。
「あっ!」
 そうでした。
 この背もたれの背後は、全面透明ガラスの大きなショーウインドウになっていたのでした。
 椅子から窓までは約1メートルちょっと。
 今ちょこっと顔を覗かせてみただけでも、お外の通りを行き交う人たちの姿がハッキリと見えました。
 そして、ガラス窓に薄く映った、唖然としているおかっぱウイッグの女の顔。

「何を今更気がついたようなフリしているの?知っていたクセに」
 シーナさま、めちゃくちゃ嬉しそう。
「直子が立ち上がってわたしたちにお尻を向けたら、外からは直子の正面が丸見えになるのよね?」
「それも自らシャツをたくし上げて、見せつけるようにおっぱい丸出しにしたヘンタイ女丸出しの姿で」
 シーナさまの瞳がエス色に爛々と輝きます。
「それをしたかったのでしょう?だからお尻を選んだのよね?」
「そんなに誰彼かまわず見せたかったんだ、そのいやらしいおっぱいを。直子がそこまでヘンタイだとは、さすがのわたしも思わなかったわ」
 白々しいシーナさまの科白。

 確かに私がこの場で立ち上がれば、ショーウインドウ越しに外から丸見えとなります。
 シールを貼るだけなら1分くらいで済みそうですが、そのあいだ私はずっと、自分の手でTシャツをたくし上げておっぱいを露出したまま、お外に向いて立っていなければならないのです。
 幸い、籐椅子の背もたれが高いので、椅子を前にして立てば下半身は隠せそうですが、上半身と顔はハッキリ見えちゃうはず。
 
 そのあいだ、何人くらいの人が通り過ぎるだろう?
 裸の私に気がついちゃう人もきっといるはず・・・
 下半身がビクンビクンときて、チャレンジしてみたい気持ちもありました。
 でも、もしも知っている人が通りがかったら、知らない人だとしても写真とか撮られてネットに晒されちゃったら・・・
 なんて考えると、恐怖心のほうが何倍も勝りました。

「ご、ごめんなさい・・・許してください・・・やっぱり前にしてください」
 シーナさまと桜子さまを交互に見て、すがるようにお願いしました。
「ワタシは別にどっちでもいけれど。そういうのは本当のご主人様に決めてもらえば?」
 桜子さまが冷たく言い放ちます。
「呆れた子ね。自分でお尻がいいって言ったクセに、もう心変わり?なんだかわたしたち、バカにされているみたいよね?ねえあなた、どう思う?」
 シーナさまが不意に、試着のお客様にお話をフリました。

「えっ!?あ、そうですね・・・」
 急にお話をフラれて少し面食らった気味の彼女でしたが、すぐに薄い笑みを浮かべ、睨むように私を見つめてきました。
「最初にご自分でおっしゃったのだから、やっぱりご自分の発言には責任を持つべきだと思いますね」
 試着のお客様のお声は冷たく、私をいたぶることを愉しんでいるように聞こえました。
 同年代だからわかる、女子が本気で同性を苛めようとしているときの口調でした。

「よくわかりませんが、この人は・・・」
 と、試着のお客様が右手をまっすぐに伸ばし、私を指さしました。
「この人は、変わったご趣味の持ち主みたいですし、見せたいならどんどん見せればいいのに、取り繕おうとするところが逆にイヤラシイですよね」
 侮蔑100パーセントの口調で投げつけられました。

「なるほど。わかったわ。今のあなたの意見で決まったわ」
 シーナさまが試着のお客様に微笑みかけてから私に向き直りました。
「直子は、このお客様を不愉快な気持ちにさせちゃったのだから、相応の罰が必要よね」
「だから、みなさんの見ている前で両方にシールを貼ってもらいましょう。つまり、前も後ろも」
「シール代はちゃんと払うから、お願い出来る?桜子さん」
「あ、それは別にかまいませんよ。シールの一枚や二枚。喜んで両方やりますよ」
「ありがとう。それじゃああとは桜子さんに任せるわね。絶対服従よ、いいわね?直子!」

 カランカラン
 ドアベルが鳴って、純さまがレジのほうへ駆け出しました。
 シーナさまは、何語か分からない言葉でシルヴィアさんたちとお話されています。
 きっと彼女たちに今の状況をご説明されているのでしょう。
 試着のお客様はその傍らで、薄笑いのまま私を見ています。

「それじゃあサクッとすませちゃいましょう。ナオ、立ってくれる?」
 桜子さまがアーティストのお顔に戻っておっしゃいました。


コートを脱いで昼食を 30


2014年2月2日

コートを脱いで昼食を 28

 ブラシのか細い毛先がチロチロと、上気した肌をじれったく愛撫してきます。
 視線を落とすと、真紅の薔薇が濃い緑色の葉っぱを二枚従えて、右乳首の左斜め下に鮮やかに咲いていました。
 お花の大きさは、普通よりやや広めな私の乳暈とだいたい同じくらい。
 桜子さまのブラシが繊細に踊り、棘を散らした茎が乳房の上部分へ伸びるように描き加えられていきます。
 桜子さまのお顔は私のおっぱい目前まで迫り、掌がときどき肌を擦ります。

 その感触に集中してしまうと、どんどん高まるムラムラにいてもたってもいられなくなってしまいそうなので、気を逸らすために顔を上げました。
 試着室のほうを横目で窺がうと、どうやら普通に試着が始まったようでした。
 ぴったりと閉ざされたカーテンの前で、シーナさまがうつむいてケータイを弄っていました。

 カランカラン・・・ありがとうございましたー。
 カランカラン・・・いらっしゃいませー。
 新規のお客様がお店に出入りする音が、頻繁と言うほどではない間隔で聞こえていました。
 そのたびにドキッとはするけれど、そのドキッは、さっきまでのような不安なドキッではなくなっていました。
 試着のお客様に視られたときに感じた、もっと視て欲しい、という自分のマゾ性丸出しのはしたない高まり。
 それをもう一度味わいたくて仕方なくなっている私。
 また誰かこっちに来ればいいのに、というふしだらな期待のドキドキに変わっていたのでした。

 見ず知らずの人に剥き出しのおっぱいを視られてしまうのは、それはもちろんすっごく恥ずかしいことです。
 でも、さっき試着のお客様からの視線を受けたとき、その恥ずかしさ以上の、なんて表現したらいいのか、息苦しいのに甘酸っぱいような、えもいわれぬ快感を感じていたのは事実でした。
 ありえない場所でありえない姿を晒している自分に対する自虐の昂ぶり。
 信じられない・・・正気なの?・・・露出狂?・・・ヘンタイ?・・・
 そんな視線の陵辱をからだの隅々にまで浴びてみたい。
 頭の中で渦巻く願望が抑えきれなくなっていました。

 根っから臆病な私がそれほど大胆な気持ちになれたのは、紛れもなく純さまと桜子さま、そしてシーナさまのおかげでした。
 私をからかい虐めながらも、同時に、社会的にヘンなことにならないようにいろいろ気を配ってくださっているのも感じていました。
 このかたたちがそばにいてくだされば、こんな場所でこんな姿をしていても、さほど大変なことにはなったりしないだろう、という甘えた安心感が私を大胆にさせていたのだと思います。
 ひとりアソビでは絶対に出来ない、不特定多数の人たちへの露出行為。
 シーナさまたちが整えてくださったそのシチュエーションに、私はどっぷり、ハマっていました。

「うん。サイズもバッチリですね。お客様、お顔が小さくて細身だから、シルエットもクールでぐうお似合いですよ!」
 試着室のほうが騒がしくなり、シーナさまと着替え終えたお客様が試着室の中の鏡を見ながら、ニコニコ顔でお話されています。
 お客様もお洋服を気に入ったらしく、お買い上げを決めたご様子。
 お洒落なワンピースを着たそのお客様は、薄い笑みを浮かべて鏡の中の私を一瞥してから、再び試着室のカーテンを閉じました。

 カランカラン・・・いらっしゃいませー。
「ハーイ、シルヴィア。ハーイ、エレナ。おひさしぶりー!」
「ハロー!ニュードレス、サガシニキマシタ」
 入口のほうからカタコトの日本語が聞こえてきました。
 どうやら外国人のお客様がいらっしゃったみたい。
 途端に店内が賑やかになりました。
 カタコト日本語と英語っぽい外国語によるハイテンションな会話が響き渡り、入口との目隠しのために移動したハンガーラックがユサユサ揺れ始めました。
 そのハンガーラックには、純さまおっしゃるところの、セクシードレス、がたくさん吊るされています。

「ワオ!ソゥセクスゥイー!」
「イッツキュート!」
「コレモカワイイ!」
「コッチモイイネー」
 ラックの向こう側でドレスを選んでいるのでしょう、楽しそうに弾んだお声が聞こえてきます。
 これって、ひょっとしたら・・・
 私のドキドキが一段と高まりました。

「キャナアイトライディスオン?」
「シュア。バットウェイトフォアラホワイル、ビコーズアナザカスタマー・・・」
 純さまが流暢な発音で応対されているのを聞いて、私のドキドキは最高潮。
 外国人さんたちが試着でこちらにやって来るみたい。

「はい。お疲れ様でしたー。こちらとこちら、両方お買い上げでよろしいですね?ありがとうございます」
 試着室のほうからもお声が聞こえてきました。
 試着室のカーテンが開け放されて、中の鏡に再び横向きな私の裸が映し出されています。
「純ちゃーん、お客様お買い上げでーす。フィッティングルームも空いたのでどうぞーっ!」
 シーナさまが大きなお声をあげながら、お客様と一緒に私のほうへと近づいてきました。

「はーい!オッケー、プリーズフォロウーミー・・・」
 純さまの元気の良いお声に導かれ、外国人さんたちがハンガーラックの陰から現われました。

 おふたりとも西洋系の整ったお顔立ち。
 白くて小さなお顔にパッチリな瞳、スッと通った鼻筋にアヒル口、誰が見ても、あ、美人さんだ、と思わざるをえない美形さんたちでした。
 ボリューミーなブロンドヘアーの人のほうが背が高く胸も豊かそうで、絵に描いたようなゴージャス系西洋美人さん。
 もうおひとかたは、栗色がかったブルネットのセミロングで、やや小柄で機敏そうな感じの小悪魔的な美人さん。
 おふたりともシンプルなブルゾンにジーンズと言うラフなファッションでしたが、そんな格好でも、夜のお仕事で培ったのであろう色っぽいオーラが全身から滲み出ていました。

 そんな彼女たちも私の姿をみつけると、試着のお客様と同じようにまず一瞬、息を呑んでその場に立ち止まりました。
 でもやっぱり外国人のかたはオープンなのでしょう。
 唖然としたお顔が瞬く間に興味津々のお顔に切り替わり、私のほうに駆け寄ってきました。

「ワオ!ワッツゴーイノオン?・・・タトゥ?」
「ナイスブーブス!イズディスジャパニーズボディペインティン?・・・」
 おふたりが私の傍らに来て、私の剥き出しのおっぱいを指さしながら口々に何かおっしゃっています。
 
 試着を終えたシーナさまたちもちょうど通りがかったところで、試着のお客様も今度は私の目前で足を止めました。
 そのお客様の目が、驚きでみるみる見開かれます。
 私が下半身も裸だということに気づかれたみたいです。
 伏目がちにお客様の視線を追うと、私の無毛な下半身を凝視して、それから私の顔を見て、おっぱいに移動してからもう一度私の顔に戻りました。
 そのときお互いの目と目が合ってしまいました。
 試着のお客様の瞳には、ありありと侮蔑の色が浮かんでいました。

 シーナさま、純さま、外国人の彼女たち、そして試着のお客様と、今や5人の女性がほぼ全裸の私を取り囲んでいました。
 そんな中でも黙々と作業をつづける桜子さま。
 外国人の彼女たちは、いつしか英語ではない、私にはわからないお言葉で声高々にお話されていました。
 シーナさまがそんな彼女たちの会話のお相手をされ、何やらご説明されています。
 試着のお客様は純さまと、私をチラチラ視ながらコソコソクスクス密談中。
 ああん、恥ずかしい・・・でも、もっと視て・・・
 桜子さまのブラシの愛撫を右おっぱいに受けながら、みなさまの不躾な視線を全身に浴びて、私はすぐにでもイっちゃいそうなくらいの昂ぶりを感じていました。

「ハズカシイデスカ?」
 桜子さまのブラシが交換のためか私の肌を離れたとき、ブルネットのほうの外国人さんが好奇心を抑えきれないご様子で、話しかけてきました。
 その瞳は遠慮無く、私の全身を舐めまわしています。
「ほら、直子さん?答えてあげなさい」
 シーナさまがニヤニヤしながらおっしゃいます。
「あ、はい・・・恥ずかしい・・・です・・・」
 私のすぐそばで腰を屈めている美形な外国人さんにお答えした途端に、股間がウルッとぬるみました。

「彼女たちはね、東欧から来ているんだって。ブロンドのほうがミス・シルヴィア。栗毛がミス・エレナ」
「ハジメマシテ」
 おふたり揃って、ペコリとお辞儀されました。
 再びブラシをかまえかけていた桜子さまは、作業に戻るタイミングを逸したようで、テーブルにブラシを戻し、ちょっと休憩ね、とつぶやいてニヤニヤしています。

「なぜこんなところで裸なんだ?日本ではこういうことが許されるのか?彼女は恥ずかしくないのか?とかいろいろ聞かれたから、丁寧に説明しておいてあげたわよ」
 シーナさまがイジワルそうに笑います。

「直子さんのバストに描かれている単語を見て納得したみたいね。ノーティだとかキンキーだとか、やっぱりニッポンジンはクールだけれどヘンタイばかりだ、とかいろいろ言っていたけれど」
 そうおっしゃってからシーナさまが彼女たちを振り向いてニッと笑いました。
 それを受けて妖艶に微笑み返すおふたり。
 私のおっぱいに描かれた単語は、Masochist と、まだ途中だけれど Exhibitionist。
 英語がわかる人なら、それだけで私のヘンタイ性癖はバレバレです。

「アナタノハダカ、トテモキレイデス。ソゥキュート」
 ブロンドのシルヴィアさんが私の目をじっと見ながら話しかけてきました。
「ダカラ、ミセタイキモチ、ワカリマス」
「ワタシモソウデスカラ。セクシーナドレス、ダイスキネ」
 私は何も言えず、魅入られたようにシルヴィアさんのお顔に見蕩れていました。
「ダカラ、コノドレスキテ、アナタニミセマス。ワタシモセクシーデスヨ?」
 シルヴィアさんがいたずらっぽく微笑みました。
「ダケドワタシハ、マゾヒストジャナイデスケド」
 そうおっしゃってパチンとウインクしました。
 私のからだ中がカーッと熱くなりました。

 シルヴィアさんとエレナさんが試着室に向かい、シーナさまがお手伝い。
 純さまとお客様は、お会計のためにレジのほうへ消えました。
 再びふたりきりになって桜子さまがブラシを手にされ、作業が再開しました。
 横目で窺がう試着室では、まずシルヴィアさんが中に入ったよう。
 カーテンの前でシーナさまとエレナさんが私のほうを向いたまま、何かおしゃべりされています。
 自分の胸元に視線を落とすと、そろそろ完成間近。
 薔薇の茎のようなグリーンの装飾字体が右乳首の下半分を囲むように弧を描き、逆から綴られてきたスペルの最初の E の字の装飾に取り掛かっていました。

 試着室のほうが騒がしくなり、また横目で窺がうと、シルヴィアさんが着替え終えて出て来たところでした。
「ワーオゥ!」
 エレナさんもシーナさまも大はしゃぎです。

 シルヴィアさんが試着したのは、光沢のあるブルーでテラテラな生地のホルターなノースリーブロングドレス。
 胸元のV字が大胆におへそのあたりまで割れ開いていて、横乳丸見え。
クルッと一回転すると背中もお尻の割れ始めあたりまで大きく開いていて、腿のスリットも腰まで切れ込んでいました。
 それなのに上も下も下着がまるで見えないっていうことは、全部脱いでから着たのかしら?
 大胆だなー。
 他人事ながらドキドキしてしまいました。

 交代にエレナさんが試着室へ入り、シルヴィアさんとシーナさんが何語かわからない言葉でキャーキャーおしゃべりしています。

「よーしっ!完成!」
 試着室に気を取られていた私は、あわてて桜子さまに視線を戻しました。
「フゥーーッ、フゥーーッ」
 桜子さまが私の右おっぱいに目一杯お顔を近づけ、尖らせた唇で完成したての作品に息を吹きかけてきます。
 火照った肌にこそばゆい感触。
「はぅぁ・・」
 思わず小さく吐息が漏れてしまいました。

「我ながらいい出来映えだわ。Exhibitionist はスペルが長いから、乳首の円周で収めるのが大変だったけれど」
「あ、出来たと言ってもまだ染料が乾いていないから、ナオはしばらくシャツ下げちゃだめよ?」
 イジワルくおっしゃる桜子さまも、心なしかお顔が紅潮されて、なんだか高揚されているみたい。
 前屈みだった姿勢を直されて、座ったまま私のからだ全体を、今更のようにしげとしげと無遠慮に眺めてきます。

 そんな桜子さまの視線が、ふっと私から逸れて右側に動きました。
 つられて私もそちらに視線を動かします。
 セクシーなブルーのドレスに身を包んだシルヴィアさんが妖艶な笑みを浮かべつつ、ファッションモデルさんのウォーキングみたいな優雅な足取りで私たちのほうに近づいて来るところでした。
 うわー、カッコイイ!
 桜子さまのお顔は、シルヴィアさんと私を見比べるように交互に動いています。

「そうだ!」
 桜子さまが不意にお声をあげました。
「染料が乾くまでただ座って待っているのもつまらないから、ナオにサービスしちゃうわ」
「そこに」
 おっしゃりながら座っている私の下半身を指さします。
「えっ?」
 おっしゃっている意味がわからずドギマギする私。

「シールをひとつ、貼ってあげるわよ。せっかく綺麗な花が2つも咲いたのに、蝶々がいないのはバランスが悪いもの」
「特別にサービスでやってあげる。時間的に模様は描けないけれどね。シールならすぐ終わるし」
 桜子さま、なんだか嬉しそう。
 それに気のせいか、目つきもいやらしくなっているような・・・

「それでナオ?どっちにして欲しい?お尻?それとも前?」


コートを脱いで昼食を 29

2014年1月13日

コートを脱いで昼食を 27

 籐椅子に腰掛けた私の真正面に、桜子さまが座っています。
 ふたりのあいだにテーブルはありません。
 両内腿をピッタリ合わせて揃えている私の両膝を、黒いスリムジーンズな桜子さまの両膝が左右から挟みこむくらいの至近距離。
 背筋を伸ばし、胸を張るように指示された私と、前のめりな桜子さま。
 自分でたくしあげているTシャツの裾から零れた私の左おっぱいのすぐ前に、桜子さまのお顔があります。

 桜子さまがそのおっぱいの表面を、ウエットティッシュみたいなもので丁寧に拭い始めました。
「んっ・・・」
 ひんやりとした感触に思わずからだがヒクっと震えてしまいます。
「ずいぶん火照っているのねえ?直じゃなくても指先に体温が伝わってくるわよ?」
 上目遣いに私を見つつ、桜子さまがフフンて笑いました。
 乳首を中心として満遍なく、おっぱいが撫ぜ回されます。
「ぷにぷに。やわらかいのね」
「んんっ!」
 桜子さまの手首の辺りが、尖った乳首に引っかかりました。
 私は口を真一文字に結んで、悦びの声を必死に堪えます。

「ナオの乳首、本当にカチンコチンね?よくもまあこんな長い間、尖らせっぱなしに出来るものだわ」
 そんなイジワルをおっしゃりながらも、桜子さまはテキパキと両手を動かしています。
 3~4センチ四方くらいの百合のお花のシールが乳首の右上に貼られ、軽くポンポンと叩かれてから、ゆっくり台紙が剥がされました。
 白地に黄色い筋と赤い斑点の入った綺麗な山百合が一輪、私のおっぱいの乳首脇に咲きました。

「うん。いい感じね」
 満足そうにうなずいた桜子さまが、パフでシールの上をポンポンと叩きます。
 私の左おっぱい全体がプルンプルンと弾みました。
「ナオのおっぱいの揺れ方って、なんて言うか、ぽってり重そうで、すごくいやらしい」
 薄い笑みを浮かべた桜子さまがそうおっしゃってから、傍らに置いたデスク上のお道具に右手を伸ばしました。

 細いブラシを手にした桜子さまのお顔が、再び私のおっぱいにグイッと近づいてきました。
 そして、肌を這う微かな感触。
 アイラインブラシくらいのか細い筆先で、百合のお花に茎部分が緑色で描き加えられていきます。
 そのコショコショとしたもどかしい愛撫。
「ふぅぅん・・・」
 思わず鼻息が洩れてしまい、恥ずかしさに目をつぶってしまいます。

 まるで、すっごく小さな虫に乳首の周りを這いずりまわられているような、じれったい愛撫がしばらくつづきました。
 その虫は、少し動いては止まり、また少し動いては止まり。
 虫の愛撫とは別に、ブラシを持つ桜子さまの人肌の掌も、ときどき乳首周辺の肌に触れたり触れなかったり。
 目をつぶっていると、どうしてもその感触に全神経が集中してしまい、からだがモヤモヤ疼いてきてしまいます。
 あまりにももどかしくて、あまりにもじれったくて、このままだとヘンになっちゃう。
 気を散らさなきゃ。
 そっと目を開けると、至近距離に桜子さまの真剣な目つき。
 私のおっぱいに絶え間なくブラシを走らせ、ときどき、ご自身の指で肌の染料を伸ばしたりもされています。

 お道具を変えるのか、ブラシが肌から離れ、桜子さまが傍らのデスクに手を伸ばしたとき、お店のドアチャイムが突然鳴りました。
 カランカラン・・・いらっしゃいませー。
 ドッキーン!
 上半身がビクンと跳ねて、反射的に入口ドアのほうへ振り向く私。
「動かないの!」
 桜子さまの鋭いお声。

「何をそんなにビクビクしているの?ナオは、みんなに裸を視られたくて、そんな格好してきたんでしょう?そういうのが好きなんでしょう?」
「だったら視てもらえばいいじゃない?ワタシもお金をもらう以上、中途半端な仕事はしたくないの」
「お客様が来るたびにビクビク動かれたら作業が進まないわよ?平気な顔していれば、お客様も、そういうものかな、って思うから、終わるまで何があってもじっとしていなさい」
 桜子さまのお顔に薄ら笑いはもはや無く、ご自分の作品に没頭している精悍なアーティストの面持ちでした。
 カッコイイ。
「は、はい。わかりました・・・ごめんなさい」
 またまた見蕩れてしまう私。
 桜子さまのお顔が私の左おっぱいに覆いかぶさるように前のめりになり、再びブラシが肌を撫ぜ始めました。

「あ、それはね、今週入ってきた新柄なの。色違いもありますよ」
 純さまが接客されるお声が聞こえてきます。
 そう言えばシーナさまは?
 顔は動かさず、視線だけで周りを見渡してみましたが、私の視界内にシーナさまの姿はありませんでした。
 私の背後で、桜子さまの作業を見ていらっしゃるのかな?
 なんて考えているとまた、カランカラン・・・いらっしゃいませー。

 やっぱりけっこう、お客様いらっしゃるんだ。
 思った途端に体温が上がり始めました。
 こんな調子なら、いつか絶対、誰かに視られちゃう・・・
 こっちの売り場まで、誰も来ませんように・・・
 両脚の付け根がヌルッってきたのを感じて、内股にギュッといっそう力が入ってしまいました。

「なんだかまた肌が上気してきたわね?他のお客様が来たから興奮しているの?」
 桜子さまがブラシを動かす手は止めず、くぐもったお声で尋ねてきます。
「あともう少しだから、がまんしてじっとしててね。ナオが動いて失敗したら、ワタシ、あーあ、って大きな声出して、ナオのことみんなに注目させちゃうからね」
「は、はい・・・」
 心を落ち着けるために再び目を閉じて、ひたすら終わりを待つことにしました。

 カランカラン・・・ありがとうございましたー。
 カランカラン・・・いらっしゃいませー。
 カランカラン・・・いらっしゃいませー。
 カランカラン・・・ありがとうございましたー。
 カランカラン・・・いらっしゃいませー。

 頻繁にお客様が訪れては帰られているようです。
「今日は何をお探しですか?ゆっくり見ていってくださいねー」
 店内に響く桜子さまの快活な接客のお声を聞きつつ、店内を歩き回る複数の足音にも真剣に耳を澄ませていました。
 幸い今のところ、こちらのほうへ近づいて来る足音はありません。
 でも心臓は、爆発しちゃいそうなくらいハラハラドキドキ。

「おっけー。こっち側は完成よ。我ながらなかなかの出来栄えだわ!」
 少し大きめな桜子さまのお声に、反射的に目を開けました。
 私の左おっぱいからお顔を離した桜子さまが、対面からじーっと私の左おっぱいを凝視していました。
「へー。いいじゃない。さすがだわ、桜子さん」
 いつの間にかシーナさまも桜子さまの傍らに立ち、私の左おっぱいを見つめています。

 視線を自分の左胸に落としました。
 左乳房の乳首右斜め上に、乳暈よりひと回り大きいくらいの綺麗な山百合の花が一輪、咲いていました。
 そのお花の下から緑色の茎が、乳暈の円周を廻りこむように左側へ流れています。
 茎は途中から英語の筆記体になっていて、小さな葉っぱをちりばめた草のような装飾書体で、Masochist Naoko、と読めました。
 文字は、乳暈の円周に沿って乳首を囲むように描かれていて、Naoko の最後の o の字がちょうど乳首の左側まで来ていました。

 確かにデザイン的には、とってもシャレていて格調高いアートな感じでした。
 山百合の白と黄色と赤、茎と葉の緑と薄茶、そして乳首と乳暈の濃いめなピンク。
 それらがまあるいおっぱいの肌色の上で、鮮やかなコントラストを描いていました。
 だけど、描いてある文字の意味は、私のアブノーマルな性癖のこと。
 マゾヒスト直子。
 これからしばらくのあいだ、私はおっぱいにこんなことを描かれたまま、暮らさなくてはいけないんだ・・・
 そんなふうに思うとたちまち、股間がキュンキュン盛大にざわめいてしまいました。

「ふぅーーっ。染料が乾くまで2、3分、休憩させてね。次は薔薇だったわよね?」
「んーーーっ!」
 桜子さまが座ったまま、両手を思い切り上にあげて伸びをされました。
「よかったじゃない直子。すっごくステキに仕上がって。今日、純ちゃんのお店に来た甲斐があったわね」
 シーナさまがケータイを向けてカシャッと写真を撮りつつ、嬉しそうに笑いました。

「あ、ご試着ですか?でしたらこちらへどうぞー」
 小休止で緊張が少し緩まったのも束の間、緊急非常事態発生みたい。
「そのデザインなら絶対、お客さまにお似合いですよ。もしサイズが合わなかったら同じお色で他のサイズもありますから・・・」
 純さまのお声が近づいてきたと思ったら、私から見て右奥のハンガーラックの陰から、何かお洋服を手にした純さまが現われました。
 純さまはそのまま、スタスタと桜子さまの背後を歩いていかれます。
 つづいて現われたのは見知らぬお客様。
 私の視界に入ったと同時に、そのお客様も私の姿に気づいたようでした。
 そのお客様は私を見て、ギョッとしたように一瞬立ち止まってから、うつむいて小走りで、私のほうを見ないようにしながら純さまに追いすがりました。

 純さまが現われたとき、私もドキッとしつつその方向を凝視していましたから、つづいて現われたそのお客様ともバッチリ視線が合って、しばし見つめ合う形になりました。
 驚きでまんまるに見開かれたそのお客さまのふたつの瞳。
 たぶん同い年くらいの学生さんぽい、可愛らしい感じのスレンダーな女性でした。
 あまりの恥ずかしさに、からだ中の血液が闇雲にグルグル駆け巡りました。
 しかしながら、今さっき染料で描かれて乾ききっていない作品を、Tシャツをずり下げて覆い隠すわけにはいきません。
 剥き出しのおっぱいを見せつけるように自分でTシャツをめくりあげたまま、全身が羞恥に染まるに任せるしかありませんでした。

「ああ、あれはスキンアートのサービスなんです。スキンアートってほら、タトゥシールとかペイントタトゥとかの・・・」
 おそらく、そのお客様が純さまに尋ねたのでしょう、純さまがご説明されるお声が、今度は左側から聞こえてきました。
 って、え?試着室って、そこなの!?

 私が腰掛けている籐椅子の左横、3メートルくらい向こうの壁際。
 そこには濃い緑色のカーテンがかかっているだけで、お洋服類は何もディスプレイされていませんでした。
 最初ここに座ったとき、左側を見て、その周辺だけ妙に片付いているな、とは思ったのですが、お店の一番奥だし、まったく気にしていませんでした。
 今は、そのカーテンの前で純さまとお客様が、私のほうをチラチラ見ながらお話されています。
 間の空間を遮るものは桜子さまの低めなデスクひとつきりなので、横向きな私の姿が余裕で丸見えのはずです。

「バストにして欲しい、っておっしゃるので、ああいう格好なの。ほら、ウチはほとんど女性のお客様しか来ないから、お客様がよろしいのならかまいませんよ、って」
 そのお客様が何か答えたようでしたが、お声が小さくて聞こえませんでした。
「そうですね。大胆て言えば大胆だけれど、人それぞれ、いろんなご趣味があるから・・・」
 その後、純さまもヒソヒソ声になって、おふたりでクスクス笑っているようです。
 ああん、なんていう恥ずかしさ。
 私は真っ赤になってうつむきます。
 だけどやっぱり気になって、上目遣いに周囲を見回します。
 桜子さまとシーナさまは立ったまま私を見下ろし、お顔を見合わせてニヤニヤ笑い。

 シャーッ!
 桜子さまが試着室のカーテンを開いたようです。
 その音につられて左側を見ると・・・
「あっ!」
 試着室の奥一面の大きな鏡に、横向きな私の姿がクッキリと映っていました。
 自らTシャツをまくりあげておっぱいを丸出しにしているショートボブな女の横顔。
 それはまぎれもなく私でした。
 籐椅子のアームレストで下半身こそ見えませんが、お腹から上、まあるい乳房とツンと尖った乳首は鮮明に丸見えでした。
 私に背を向けていたそのお客様が鏡の中の私に気づいたのでしょう、その華奢な両肩がビクンと震えました。

 鏡によって客観的に自分の姿をつきつけられると、今更ながら我がことながら、その格好と状況があまりにアブノーマルだと実感させられます。
 カラフルなお洋服や雑貨に囲まれた営業中のお洒落なブティック店内で、ファッショナブルに着飾った人たちの中、ひとりだけおっぱい丸出しの私。
 私の数メートル向こうにいる試着のお客様は、まるっきり見ず知らずの女性。
 賑わう店内のハンガーラックの向こうには、あと数人、見知らぬお客様がいらっしゃるのです。
 そんな中で、ひとりだけ、ほぼ全裸な私・・・

 そう言えば、あの試着のお客様が桜子さまの背後を通ったとき、私の下半身まで見えちゃったのかしら?
 たぶん、桜子さまやシーナさまの背中で隠れていたとは思うけれど・・・いいえ、そう思いたい・・・
 おっぱいだけじゃなくて、お尻もアソコも実は丸出しだなんて知られちゃったら・・・
 異常過ぎ、破廉恥過ぎ、ヘンタイ過ぎ・・・

 その試着のお客さまは、今は、鏡の中の私をジーッと視ているご様子。
 私の中の被虐願望がグングン燃え上がり、奥がグジュグジュ騒ぎ始めていました。
 ああん、そんなに視ないで・・・だけどもっと視てぇ・・・
 今すぐ立ち上がって、下半身まですべてを視せてしまいたい・・・
 ハンガーラックの向こうのお客様に、こっちに来て私を視てください、ってお願いしたい・・・
 そんなアブナイ衝動をなんとか抑えつけながらも、今、自分が感じている羞恥と恥辱がもたらす甘美な興奮にたまらず、ウットリと目を閉じました。

「あら純ちゃん、ご試着のお客様?それならわたしがお手伝いしよっか。あちらには他にもお客様がいらっしゃっているのでしょう?」
 シーナさまのお声で渦巻く妄想が途切れ、我に返りました。
 シーナさまが桜子さまの傍らを離れ、試着室のほうへ歩いていきます。
「あ、ほんと?ありがとう。それじゃあお言葉に甘えてお願いします。こちらのワンピース2種類。もしもサイズが合わなかったら言ってください」
 純さまがお洋服をシーナさまに渡し、スタスタとレジのほうに戻っていきます。
 途中、私の前で立ち止まり、二ッて笑いかけてきました。

「さて、そろそろワタシたちも再開しますね。お客さま、先ほどのようにお顔を上げて胸を張ってください」
 桜子さまの私への口調が、突然、とても丁寧になりました。
 おそらく、普通のお客様が試着のために近くにおられるので、さっきまでみたいなエスエムごっこぽい内輪な接し方はマズイと判断されたのでしょう。
 さすが接客のプロな状況判断。
 そのお声に私も、さっきまでの興奮をなだめるべく、籐椅子の中でシャンと背筋を伸ばしました。
 
 試着室前のシーナさまの動向も気になります。。
 左側に寄り目してそちらをうかがうと、そのお客様はまだ試着室に入らず、シーナさまとなにやらコソコソクスクスとお話されているようです。
 試着のお客様は、今ではすっかりこちらを向いて、遠慮無い視線で生の私を視ながら、ときどきクスッと笑ったり、へーって感心したりしつつ、シーナさまのお話にうなずいています。
 シーナさまったら、そのお客様にどんなお話をされているのかしら?
 たぶん、私を辱めるようなことだとは思うけれど・・・

 そうしているあいだに、桜子さまの手で私の右おっぱいに真紅の薔薇が咲かされ、細いブラシが再び肌を這いまわり始めていました。


コートを脱いで昼食を 28