2014年9月14日

就職祝いは柘榴石 01

 その年の私は、卒業はしたもののお仕事が決まっていない、いわゆる、就職浪人、の身の上でした。
 希望だった幼稚園教諭免許は、なんとか取得出来たのですが、実習の過程でどんどん自信がなくなっていました。
 実習に伺った幼稚園の先生方もみなさまいい人たちでしたし、可愛い子供たちと遊ぶのもとても楽しかったのですが、ひとさまの大事な幼いお子様のお世話をする、というお仕事の責任の重大さに怖気づいてしまったのです。

 両親は、せっかく独り暮らしを始めたのだから、あと1、2年がんばって、自分がやりたいことをみつけてきなさい、と励ましてくれました。
 在学中に図書館司書の資格も取得出来たので、これから公務員試験のお勉強をして、どこかの公立図書館に入れたらな、と考えていました。
 なので、東京に来て3年目の私は、公務員試験の通信教育を受けつつ、何か他の資格、たとえばお料理とか薬剤師とか、にも挑戦してみよう、という、とても中途半端な状態で4月を迎えました。

 でも見方を変えれば、就職出来なかったからこそ、絵美お姉さまと出逢えた、とも言えます。
 もしも幼稚園などに就職が決まっていたら、3月中はその準備でてんてこまいで、絶対に、知らない街のランジェリーショップで破廉恥な冒険をしてみよう、なんていう心境にはならなかったでしょうから。

 絵美お姉さまと初めてのお泊りデートをした日の翌週、お約束通り火曜日にお姉さまからご連絡をいただき、その週末にまた、お姉さまとお逢い出来ることになりました。
 今度は、どんな展開になるのだろう?
 ふしだらな期待にドキドキしながら、指折り数えて当日を待ちました。

 4月の第一週目の金曜日、午後6時40分。
 待ちあわせ場所は、有名高層ビルの名前を冠したショッピングモール内のイタリアンレストランでした。
 
 例によって何を着ていくか迷いましたが、今回も無難に、ブラウス、スカート、ジャケットの学生風にしました。
 前回、最初は普通の格好だったのに、お姉さまのご命令によって、公の場所でどんどんみるみる恥ずかしい格好にさせられてしまった、あのめくるめく恥辱感が忘れられなくなっていました。
 それを再び期待しての選択でした。

 先週お借りしたニットワンピースは、クリーニングに出して、戻ってきたビニール袋ごとバッグに入れ、お姉さまにお返しするつもりです。
 少し早く着いたのでレストランの入口前で待っていると、濃茶のビジネススーツに身を包まれたお姉さまが、大きなバーキンを肩に提げて現われました。

 席に案内され、オーダーを決めてホッと一息。
 このあいだみたく個室ではない、普通にたくさんテーブルが並んだレストランなので、秘密のアソビは出来なそう。
 ウェイターさんが立ち去ると、お姉さまが私を見てニッて笑い、会話の口火を切りました。

「一昨日にね、百合草女史とシーナさんにお会いしてきたのよ」
「えっ?」
 予期せぬ告白になぜだか少し動揺しちゃう私。

「あ、百合草先生のお店に行かれたのですか?」
「ううん。いろいろお聞きしたかったから、水野先輩に頼んで無理言って、お店始まる前に時間作ってもらったの」
 水野先輩というのは、通称ミイコさまのことで、やよい先生とご一緒にお店をやられているパートナーの女性です。
「結局夜まで居て、お店でも軽く呑んできちゃったけれどね」
 お姉さまが小さく笑いました。
 
「でもなぜ急に、百合草先生のところへ・・・?」
「直子とあたしがつきあうことになりました、っていうご報告を一応ちゃんとしておこうと思ってね」
 そのお答えを聞いて、すっごく嬉しい気持ちになりました。
 お姉さま、私とのこと、本当に真面目に考えてくださっているんだな、って。

「ほら、直子にとって百合草女史って、紫のバラのひと、みたいな感じじゃない?シーナさんは、うーんと、月影先生かな?」
 わかるようなわからないようなたとえでしたが、そう言われてみればそんな気もします。
「だから、これからは直子を気安く誘わないでくださいね、っていう軽い威嚇も込めてね」
 冗談めかしておっしゃって、クスッと笑いました。

 そう言えば私が、やよい先生やシーナさまとの過去を告白したとき、お姉さまが、ジェラシー感じちゃう、なんて感想をおっしゃっていたっけ。
 嬉しさがどんどん膨らんじゃう私。

「おふたりともお元気そうでしたか?」
「そうね。ふたりとも直子のこと、とても気にかけているみたいよ。いろいろ褒めていたわ。昔のえっちなアソビのこと、たくさん聞いちゃった」
「ほとんどは、このあいだ直子が話してくれたのと同じだったわね。あたしたちがつきあうって聞いて、シーナさんは少し残念そうだったわ」
 そんなお話をされても、私はどんな顔をすればいいのでしょうか。
「私、百合草先生のお店、一度も伺ったこと無いんです。だから先生には、ずいぶんお会いしていないんです」
「ああ、ぜひ今度ふたりでいらっしゃい、っておっしゃっていたわよ」

 そこでお料理が運ばれてきて、しばらくはそれを美味しくいただきながら、私の昔のえっちなあれこれで、お姉さまからいろいろからかわれました。
 食後のリモンチェッロが運ばれてきたとき、お姉さまが少し真面目なお顔つきになり、私を見つめてきました。

「これを飲む前に、素面なうちに、今日の一番大事な話をしておくわね」
 わー美味しそう、ってグラスに口をつけようと持ち上げていた私は、あわててグラスをテーブルに戻しました。
「あ、はい」

「直子って、今年卒業したけれど、就職していないんだって?」
「はい、そうです・・・」
「あたしてっきり、まだ学生さんだと思っていたのよ。だからそういう発想、無かったのだけれど」
「直子は、今後のビジョンとかあるの?将来こういう仕事につきたい、とか」
「いえ、これといって・・・とりあえず公務員試験を目指そうかな、くらいしか、今のところ・・・」

「だったらさ、うちで働いてみない?」
「うち、ってお姉さまの会社ですか?」
「そう」
「お仕事は、アパレル、でしたよね?」
「そう。デザイン主体だけれど、企画から製作、販売、いろいろやっているわ」
「私、そういう知識無いですし、センスもたぶん・・・」
「ううん、そういうのは関係ないの、あんまり。直子には、あたしの秘書的なお手伝いをして欲しいのよ」
「秘書、ですか?」

 お姉さまの秘書・・・
 秘書というお仕事の、なんとなくなイメージはあるのですが、具体的に何をするのかはぜんぜんわかりません。
 でも、漠然とカッコイイ感じだし、お姉さまといつでも一緒にいれそうだし・・・

「シーナさんが言い出したのよ。あの子、あ、つまり直子のことね、就職決まっていないから雇っちゃえば?って。そしたら女史も先輩も大賛成」
「あの子は、たぶん今までバイトもしたことないし、ああいう子だから就職するにもいろいろややこしいと思うのよね、って」
「男性ばかりの職場は絶対無理だろうし、お金にも困っていないから、放っておくとずっと働かなそうだし、って、これは全部シーナさんの発言だからね」
「だから、あたしが養ってあげるしかない、って、3人からさんざん売り込まれちゃった」
 お姉さまが嬉しそうにクスクス笑いながら、リモンチェッロのグラスに口をつけました。

「あたしのオフィスは、社員はあたしを含めて女性6名、全員男性不用のレズビアン。ペイはあまり出せないけれど、居心地は良いはずよ」
「コンセプトは、簡単に言うと、女性による女性のためのファッションブランド。だから、おつきあいしている会社もほとんど、女性主体なの」
「これがうちの会社概要資料ね。ひとりになってからゆっくり見て、じっくり考えてみて」
 オフィス・ダブルイー、というオシャレなレタリング文字が踊る厚めな白い封筒を手渡されました。

「ダブルイー、っていうのはWEではなくてEEって書いて、エレガントアンドエロティック。偶然あたしのイニシャルでもあるから、あたしが無理矢理社長にされっちゃったというワケ」
「ほんとですか!?」
「嘘みたいだけどほんと」
 お姉さまの色っぽい苦笑い。
「でも、私なんかでいいのですか?」
「私なんか、ってどういう意味?直子だから誘うんじゃない。何言ってるのよ?」
 少し怒ったようなお姉さまのお言葉がハートにズキュン!

「さあ、これで直子への勧誘はいったん終わりね。これからは、スールとしてのデートを楽しみましょう」
 ふたりのグラスをチンとして、私は封筒を自分のバッグにしまいました。
「これ飲んだら、今夜は直子の部屋へ行くからね。百合草女史やシーナさんにいろいろ教えられて、試してみたいことがたくさんあるの。いいわよね?」
 お姉さまのお顔が、えっちぽく笑っています。
「はい。それはもちろん」
 なんとなく予感がして、お部屋は綺麗にお掃除してきました。

「ところでお姉さま?お姉さまのオフィスって、この近くにあるのですよね?」
 お誘いに耳を傾けながら、ずっと気になっていたことを聞いてみました。
「どのあたりなのですか?」
「あれ?まだ教えていなかったけ?」
「はい。聞いていません」
「そうね、ここからだと、一階まで降りて少し歩いてからエレベーターに乗って1分くらいかしら」
「えっ?ひょっとして・・・」
「このビルの高層階、真ん中より少し上」

 うわー、こんな有名なビルのすごーく高いフロアでお仕事が出来るんだ。
 見晴らし良さそう。
「お外見えます?」
「もちろん。夜景とか、すっごく綺麗よ」
 私の中で、お姉さまの会社への就職は、完全に決まりました。

 それからお外へ出て、すっかり陽の落ちた薄暗い道を私が住むマンションへと、おしゃべりしながらぷらぷら歩き始めました。

「お姉さまの会社って、高校のときの服飾部のお友達が集まって作られた、っておっしゃっていましたよね?」
「そうよ。あたしと同学年のあとふたりが主要メンバー。デザイン部門と営業部門」
「それでその服飾部の頃、私みたいな人がいて、その人をよく虐めていたって、このあいだ・・・」
「ああ、アユミのことね。でも虐めていたんじゃないってば。悪ふざけみたいなもの。彼女だってキャッキャ悦んでいたもの」
「どんなことをされていたのですか?すごく知りたいです」

「よくある悪戯よ。授業中にこっそりパンツ脱げ、って命令したり、ノーブラで体育の授業受けさせたり」
「ああ」
「仲間にそういうオモチャが手に入る子がいたから、授業中にリモコンローターで虐めたりね」
「すごいですね」
「あら、直子だって、友達にそういう子がいたって言っていたじゃない?ヌードモデルさせたとか。美術部の子だっけ?」
 私の高校時代のお友達、しーちゃんとクリスさんのことです。
「はい。でもお姉さまたちのほうがもっとすごそう」
「アユミも美術部に貸し出したことあるわよ。ヌードデッサンのモデルとして」

「女子高はね、けっこうそういうの、えげつないよね。休み時間にトイレにこもってイかせ合ったりしていたもの」
「うわー。うちの学校では、そこまではなかったと思いますよ?たぶん」
「そうなの?まあ、あたしたちもノリの良さそうな子としかしなかったけれどね」

「服飾部ならではで言うと、スクール水着の裏地こっそり取っちゃったり、胸と腰周りだけメッシュのワンピース作って着せてみたり」
「服飾部だと、採寸や試着で着たり脱いだりを部室で頻繁にするから、肌を見せることには抵抗が薄れちゃうのよね、まわりみんな同性だし。うちの学校、教師もほとんど女だったし」
「でも、そんな中でひどく恥ずかしがる子がいると、一気に愉しくなっちゃうのよ。いろいろ悪戯考えて」

「一番傑作だったのは、制服のとそっくりな色合いでもっと軽くて薄い布地でスカート作って、風の強い日にアユミに穿かせて街に遊びに出たの」
「一緒に歩いていると、もう面白いくらい、アユミのスカートだけフワフワめくれちゃって、凄かったわよ」
「ちゃんと膝丈で、一見みんな同じスカートなのにね。待ち行く人も呆気にとられていたわ。ずっとついてくる男子とかいたし」
「卒業してから昔話したとき、アユミも、あれが一番恥ずかしかった、って言ってたな」
「でも彼女、そのわりには気に入ったらしくて、その後もよく好んで穿いていたのよ。下にTバックのパンツとか着けて」

「そのアユミさんていうかたは、お姉さまの会社には入らなかったのですか?」
「うん。彼女はその後、モデルになったの。いわゆるグラビアアイドルってやつ?けっこうその世界では有名みたい」
 お名前をお聞きしましたが、聞いたことあるような無いような。
「今でもDVD出してがんばっているわよ。やっぱり視られるのが好きなのよね。うちでたまにコスチュームのデザインもしているから、うちに入れば、そのうち会えると思うわ、アユミに」
「へー。まだおつきあいがあるのですね?」
「もちろん。だからぜんぜんイジメじゃないでしょ?」

「直子にもそのうち、いろいろ恥ずかしい衣装を作ってあげるわ。嬉しいでしょ?」
「・・・はい・・・愉しみです」

 そんなおしゃべりを楽しくしつつ、夜8時ちょっと過ぎに私のマンションに到着しました。


就職祝いは柘榴石 02


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