2010年10月2日

また雨の日にカクレガで 19

次にショーツを取り出します。
来るときに駅のトイレで脱いできたものなので、これは湿っていません。
それを手に持ったまま、また便器に腰掛けます。

「あと、今日お姉さんと遊んだことは、絶対の絶対、誰にもしゃべっちゃだめ。オネーチャンにもママにもパパにもさとしにーちゃんにも、誰にも」
「うん」
「もししゃべったら、なお子お姉さんは、二度とカズキくんに会わないから。さっきのお約束もなし。私、この町にもお友達いるから、しゃべったらすぐわかるんだからねっ!」
ちょっと怖い感じで、カズキくんの目を見つめて釘を刺しときます。
「うん。ボク、ぜったい誰にもしゃべらないよ。だってなお子お姉さんと遊べないの、ぜったいイヤだもんっ!」
カズキくんも真剣な顔で私を見つめます。

でも、私が立ち上がってスルスルとショーツを穿いてしまうと、あからさまにがっかりした顔になりました。
わかりやすいなあ、もう。

「今日帰ったら、オネーチャンやママには、どこへ遊びに行ってたって言うの?」
「うーんとね、うーんとね。きーちゃんちに行ってたって言う。きーちゃんは、こないだ転校してきたばかりだから、ママもおネーチャンもよく知らないから」
「ふーん」
私は、ワンピースを頭からかぶりながら腕時計を見ようとして、カズキくんに渡したままなのに気がつきました。

「カズキくん、今何時?」
カズキくんも時計をしていたことを忘れていたみたいで、一瞬固まってから、自分の左手を見ました。
「えーっとね、6時15分」
言いながら、腕時計をはずそうとしています。
「あっ、いいよ。その腕時計、カズキくんにあげる。今日、私をいっぱい気持ち良くしてくれたお礼」
「でも、それも絶対見つからないところに隠しておいてね。ママとかに見つかったら絶対、これどうしたの?ってことになっちゃうからね」
私が自分のおこずかいで買った、あまり高くはないけど、かわいいキャラクターの絵のついた腕時計でした。
このときは、なぜだかカズキくんに持っていて欲しいと思ったんです。
「えー。本当にいいの?ありがとう。ボク、ずーっと大切にするよ」
カズキくんたら、本当に嬉しそう。
「私に会うときは、いつも持ってきてね。私に会えないときは、その腕時計をなお子お姉さんだと思ってね」
私は、本心からそう思っていました。
カズキくんに私のことを忘れて欲しくない、と思っていました。

トイレの鏡の前で髪を解き、軽くブラッシングしてからまた、今度はさっき使った赤いゴムで髪を後ろにまとめました。
まだ髪は、全体に軽く湿っています。
身繕いをすませてトイレの外に出ると、あたりは一段と暗くなっていましたが、雨は上がっていました。

私とカズキくんは、無言のまま手をつないで、神社をぐるっとまわって鳥居を目指します。
あの軒下には、もう寄りませんでした。
二人で、ゆっくりと石の階段を下りて、車の通る道路まで出ました。

「なお子お姉さんの帰る駅、あっちでしょ?ボクはこっちなんだ」
カズキくんが名残惜しそうに指さします。
「そっか。じゃあ気をつけて帰ってね。お風呂入ったら、ちゃんと、やさいいため、残さないで食べなさい」
「あはは。なお子お姉さん、ママみたい」
二人で、うふふと笑います。
それから急に声をひそめて、
「ねえ、なお子お姉さん?」
「なあに?」
「最後にもう一回だけ、お姉さんのおっぱい、さわらせてくれる?・・・」
「もう、カズキくんは、ほんとにえっちだねえ」
私は、そう言いながらもしゃがみ込んで、カズキくんの腕の高さに私の胸を持ってきます。
小さくてカワイらしい両手が、ワンピースごしに私のおっぱいに置かれて、思いっきり、ぎゅっと掴まれました。
「あぁーんっ!」
小さなため息が漏れてしまいます。
「ボク、なお子お姉さんのその声、カワイクて大好きっ!」
カズキくんが笑いながら私に飛びつきました。
私は、少しの間その小さなからだを両腕に包んで抱いてあげた後、やんわりとからだを引きながら立ち上がります。

「それじゃあまた、その日にね」
「うん。一時半にあのトタン屋根の下ね。ボクすっごく楽しみ」
「私もよ」
「じゃあねー」
カズキくんは、一、二歩、歩き始めてから、ふいに振り向いて言いました。
「ねえ、なお子お姉さん?」
「うん?」
「その日も雨降りだと、いいねえ」
カズキくんは、ニコっと笑ってから、左手を高く上に上げてヒラヒラ振りながら、薄暗い道を駆け出していきました。

私は、その後姿が見えなくなるまで、その場で見送っていました。
カズキくんは、一度も私のほうを振り返りませんでした。

その姿が見えなくなってから、私は、ゆっくりと駅への道を歩き始めます。
頭の中で、今日、こんなに帰宅が遅くなってしまったことの、母への言い訳を考えながら・・・


また雨の日にカクレガで 20

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